年金改革のルール化―逃げ水年金からの脱却を目指 して―
著者 中嶋 邦夫
学位授与大学 東洋大学
取得学位 博士
学位の分野 経済学
報告番号 甲第176号
学位授与年月日 2007‑04‑05
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00003967/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
平成18年度
年金改革のルール化
一逃げ水年金からの脱却を目指して一
東洋大学大学院経済学研究科経済学専攻 博士後期課程4210040001番
中嶋邦夫
目次
第1部 問題の整理…・………・・……・………・…・・………・…・………・……・…・…・…………・…1
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点・・………・・………・・…………・…………・・3
1問題意識…………・・………・…・・………・一・…・…………一・……・令…………・………3
2公的年金の意義………・…・・………・………・………・…・・………・…・………・4
3公的年金の失敗……・・…………・……・………・…・…………・・……・………・…tt・………・………6
4日本の公的年金制度の概要と本論文の分析対象…・………・…・・…………・……・・…………・………7
4.1口本の公的年金制度の概要…・…一・・……・・…・………・………・・…一…………8
4.2本論文の分析対象………・…・……・・…………・………・………・………・…………9
4.3厚生年金財政の構造………一……・………・……一・………・…………・……・・………12
5本論文の構成………・……・……・………・…・………・・…・…………・……・・…・…・…………・…・15
第II部 分析1:なぜ逃げ水年金になったのか……・……・……・…一…・………・・……・…………・…17
第2章年金財政予測の問題………・………・・………・・………・……19
1 艮日題意識・・・・・・・・・… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・L・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・一一・一・・・・・・・・・… p・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 19 2財政再計算の意義とその仕組み……・……・………一・………・一・……・・…一…・……19
2.1財政再計算の意義一一………・…一一……… ……… … …… …… ………19
2.2財政再計算の仕組み…………一……・…・………・……・・……・…・・……・・…・………・……・……20
3先行研究の蓄積と本章の位置づけ………一一・・…………・……・………22
4前提条件の乖離………・・…………・……・…・…………・・……・………・・…・…・…………23
4.1将来人口推計………・・…・………・…………・・……・………・………・・…………・…23
4.2経済鳶f∫提・・・・・・・・… 一一一・… 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一一一・一・・・・・・・・… 一一・… 一・一・・・・・・・・・・・… 一・・・・・・・・・・… 24 4.3被保険者数、被保険者比率………・…・………・……・…・・………・一……・・……・…一…26 4.4受給者数、受給者比率・…・一……・……・………・………・………・・…・一一27 4.5扶養比率一…・…………・……・…・………・………・…・……・…………・一…・一…・…………・…28
4.6まとめ…・………・・…・……・……・……・……・…・………・・…・………・・…………・……・……29
5予測差異の要因分析………・・……・………・・………・………・・…・…………30
6 汀認唆i・・・・・・… t・一一・・・・・・… 一一一一・・一一・・・・… σ・・・・・・・・・・・・… 一・t・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ・… 一一一一・・一一一・・・… 一一・・・・・・・・・・・・… 34
⁚11
第3章政策パラメータの問題………・………・…・・……・…………・…39
1問題意識…・…………・・………・……… ・・……・・……・…・………・・………・…・・………・ ………39
2政策パラメータの影響……・……・……・……・…・………・………・・…・……・…・………・………39
3過去の制度改正における政策パラメータの設定…………・・……・…・………・・………41
3.1平準保険料による制度創設から、戦後の暫定保険料へ(制度創設〜1948年改正)………41
3。2段階保険料方式の導入と、乗率引き.t げによる既裁定年金の賃金スライド・……・…………・−42
3.3再評価制度と賃金スライドによる給付水準の維持…一………・………・・…・…・……・一…44 3.4段階的な給付削減(1985年改正〜)……・…・……・…・…………・…・………・・…47
4年金改革が繰り返された要因…・……・………・…………一……・………・………・・50
4.ユ給付拡充局面で生じた3つの問題……・…………・・………一一…・・…………一…・・………・50
4.2給付削減局面における段階的な給付削減・………・………・…一一………・………・・………・・53
5示唆・………・・…・一・・………・………一一………・………一……… 一・………・…・…………54
第4章決定過程の問題…・・………・…・…………・…・……・………・………・…………57
1問題意識・………・………・……・…・…………・・……・・………・・…・………・……・……・57
2年金改革の政治的な背景…・・…・・……・・……・………・・…・…・…………・…………一……・……57
2.1戦時下の創設から戦後の暫定措置(制度創設〜1948年改正)…………・…一…………・……57
2.21954年の全面改1[とその後の給付改善一………・…………一・…・…一・…………・−58
2.31973年の大幅な給付引き上げとその後の給付水準の維持………・一・一・……一・…・…60 2.41985年改正以降の給付削減…………・・………一……一…………・…・………・……・…61
2.52004年改正:保険料水準固定方式への転換・…………・……・一………・・………・………65
3決定過程における「逃げ水年金」の要因…………・……・・……・…………・・……・・…………・……66
3.1段階的な給付抑制・一…………・…………・・……・……一………・・………・…・・…………66
3.2保険料率引きftげの度重なる延長………一一…・……・……・……・…・…………・…・………・67
4示唆・……・…………・……・一一一……・…・…・………・・…・……・………・…………・・……・…………69
5補論1:2004年改正の経過一・………・…・………・……・……… ・…・・一………・−71
6補論2:2004年改正後に設置された両院合同会議…・………・・………・・…・………73
第5章年金改革が家計の消費貯蓄計画に与えた影響………・・…・………・……・…・…・…………79
1問題意識………・………・………・………・…………・…・………・・…………・………79
1.1本章の目的…・…一………・・…一…………・…・……・………・・…………−79
1◆2年金改革の概要・………・…・………一…・一………・……・………・・…・…………80
L3関連する先行研究と本章の貢献…・…………・…・・…・・……・・……・・…………一…・…一……82
2モデルとデータ……・……・………・……・・…………・………・…・・………83 2◆1ライフサイクル・モデル・…………・…・…・………・……・…・…・…………・一一…………・一・…83
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2.2データ………・・……・・………
3分析結果一
3、1年金の拠出と給付のバランス 3.2消費貯蓄計画と効用水準…・
4フJ㌔麦・・… ・ ・一・…一・・…一…一
・84
・85
・・W5
・88
・90
第III部 分析2:逃げ水年金は解消されたのか・………・……・…………・・………93
第6章2004年改正の定性的な分析と確率論的年金財政モデルの解説…………・……・………95
12004年改正の解説と定性的な評価……一……一・………・・……・………・………一・…・・………95 L12004年改正のポイント……・・一・…・…・……・………一・………・………一…………・・…95 1.22004年改正の定性的な評価…・…・・………・・………・……・・・・…一………・…一……・・101 2確率論的年金財政モデルー………・………・…一………・一……一……・……・………一……・・105 2.1なぜ、確率論による分析か……・…・・…・・…・・………一・・……・・………・………一・105 2、2米国における確率論的分析…・………・……・一一・………・…・一一…一……一・・……・・…・・…106 2.3モデルの概要・…・・…………・・…………・…一・……・…・………・………・………・………107 2 4モデルの内容・…・………・・…・・…・…………一・…………・……・…………・・108 2.5利用したデータ………・…・・……・・………・・…一…・・…一…・・……一………・・………・114 2.6当モデルの貢献…・一………・・………・…………・一………・……・………・………・一一一……・・118第7章2004年改正のリスク・……・…………・…………・・………・一……… ・…125 1問題意識一………一一…・………・………・………tt−………・……一………125 2分析手法………一…一・・………・・一…………・…………・…・……・………・……一…・…・…−126 2.1使用する年金財政モデル…………・…・・…・・………・………一・一…一…………一・・126 2.2分析する指標………・・………・………・………・・…………一…・・…一・…・・126 3分析結果…・……・・…・・………一……・……・…………・・…………一…・・…・・………・………127 3.1給付水準(モデル所得代替率)………・・…一・…・………・……・……一………t・…………一…127 3.2マクロ経済スライド終了年……・一・一・…・…・…………・…t……一………・・………・・…129 3.3積立度合………一…………・………・…・………・ ………・一…………・…・…・………・130
4砲ζルεこ∬度ク〉禿斤一一一・・・・・…一・・・・・・・・・…一一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…一一・・一一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ・・一一・…−132
4.1経済要素の変化……・……・…・一…………一……・・一…・……・・…一・………・……・…・・…132 4.2人1−1要素の影響……・…………・・………・・………・…一……一…・一・………・・……−135
4.3運♪目禾り匡可り(ノ)影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・・… 一一・・・・… 一一・・・・・・・・・・・・・・・… 一・・一一・・・・・・・・・・・… 一一137
5バランスシートによる財政状態の確認・………・……・ ・………・………一……一…・・140 5.1バランスシートを使う意味・…………・……・………・ ・………一………・・…・・……・…・・…140
iv
5.2バランスシートの定義…・…………・……
5.3分析結果………・……・…・・…………_
6示唆………・………・…………
第8章最低給付水準の保証に必要なコスト・・…
1問題意識…・・…………・・……・…………・・…・
2分析手法・・………・・……・・…………・…・
2.1使用する年金財政モデル……・………・
2。2分析する指標…・…………・………
3結果…・………・・…………・……・・……・・
3.1標準的な前提に基づく結果………
3.2感応度分析の結果………・………・
4政策パラメータを変更した場合の影響・・…
5示唆・……・………・………・・…・…・・……
第9章公的年金ガバナンスのあり方…・…・……
1問題意識……・………・…
2年金不信の現状と先行研究における本章の
3公的年金ガバナンスの整理………・・4アンケート分析・………・…・…………・・
4◆1分析方法………・・…・・………
4.2分析結果………・・…・………・
5考察………・………・………・・………・………
6補論……・……・……・…・………・……・……・・
6.1調査の概要…・………・……・…………・
6.2調査票の抜粋……・………・…・……・…
第W部 結論…・・………・・…………・……・・
第10章ルール化の完成に向けて…………・…
1本論文の分析結果………・・
2本論文の示唆・………・
3今後の研究課題………・……・………
・…@一・一・・… 一・・・・・・・… 一一・・… 一一・・・・・・・・・・・・… 一・一一・・・・… 140
… … … 丙… … … … 台 … ・・ ・ ・… @142
....,.._.....、..........、._・・・・・・・… @ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… −143
・・・・・…@一・・・・・・・・・・・… 一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 147
−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…@一・・・・… 一・一・・・・・・・・・… 一・・・・・・・・・・… 147
.._..、....,.._一一.............一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @148
・…@一一・一・・・・… 一一・・・・・・・・・・… 一… 一・・・… 一… 一・・・・・・・・・… 148
..............__.............一・・・・・・・・・・・・・・・… @一・・・・・・・・・… 148
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @一・・・・・・・… 一・・・・・・… 一・・・・・… 148
............._.................・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…@一・・・・・・… 148
◆ …… 一一 …一 ・ ◆・・・・…
@151
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @一… 一・・・・… 一・… 一一・・・・… 一… 154
・・…@一・・… 一・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・… 一・・・・・・・・・・・・・… 一・・・… 156
… 一・・一・・一・・・・・・・… 一一・一・・… 一一一一一一一… 一・・一一… 一・・・… 159
… ◆・・・・… 一・… 一・・・・・… 一一・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・… 一一・… 159
:置づ}す ・・… 一・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・・・・・・・・・・・… 一一・・… 159
… … ‥ …・・…@162
・・・一一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @一・・・・・・・・・… 一・・・… 165
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.................._........・一一・一一・… @一・・・… 一一・・・・・・… 一一・一一166
・・・・・…@一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 173
・・一・・・・・・・・・・・…@一・一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・・・… 一… 177
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… ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一・一・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・・・… 178
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @183
………・・…・………・………・・
P85
・…@一・・… ・・・・・・・・・… 一一・・・・・・・・・・・・・・・… 一・… 一一・・・・・・… 185
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 190
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @一・一・・ ・・・・・・… ◆・・・・・・・… 一一… 193
V
初出一覧
本論文は、筆者がこれまでに発表した論文に依存している。学位請求論文としてま とめるにあたり、大幅に加筆、修正、再構成したが、次の各章は主に下記の論文を基 礎にしている。当論文への使用を許可して頂いた共著者各位、有益なアドバイスを頂 いた書籍の編者各位や投稿時の査読者各位に心から御礼申し上げる。
第2章 中嶋邦夫・永井攻治・駒村康平(2004),「これまでの年金改革の検証:年金 財政再計算(政府予測)からのアプローチ」,日本財政学会第61回大会報
告(2004.10.30).
第3章 中嶋邦夫・駒村康平・永井攻治(2005),「厚生年金改革の数理:パラメータ 設定の視点から」,城戸喜子・駒村康平編,『社会保障の新たな制度設計:
セーフティ・ネットからスプリング・ボードへ』,慶雁義塾大学出版会,
pp.199−221.
第4章 駒村康平・永井攻治・中嶋邦夫(2005),「年金改革の決定過程:近視眼的な 政治による持続可能性の喪失」,城戸喜子・駒村康平編,『社会保障の新た な制度設計:セーフティ・ネソトからスプリング・ボードへ』,慶磨義塾
大学出版会,pp.171−198.
第5章 中嶋邦夫・上村敏之(2006),「1973年から2004年までの年金改革が家計の消
費貯蓄計画に与えた影響」, 『生活経済学研究』,第24巻,pp.15−24.
第7章 北村智紀・中嶋邦夫(2004), 「2004年厚生年金改革案のリスク分析」,『ニ ッセイ基礎研所報』,Vo1.32, pp.1 30.
北村智紀・中嶋邦夫(2004), 「2004年厚生年金改革案のリスク分析」,日本
証券経済学会第61回大会報告(2004.6.12).
第8章 中嶋邦夫・北村智紀・臼杵政治(2006),「厚生年金の最低給付水準保証に必 要なコストの推計」, 『日本保険・年金リスク学会論文誌』,第2巻,第1
号,pp.75−92.
第9章 中嶋邦夫(2006),「公的年金ガバナンス1国民はどこに注目しているか」『社 会保障制度における個人のオーナーシップ強化に関する研究(1)報告書』,
総合研究開発機構(近刊予定).
1
第1部 問題の整理
2
3
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点
1問題意識
公的年金に対する国民の不信や不満は大きく、年金改革に注目が集まっている。特 に、1985年改正以降の給付削減の連続は「逃げ水年金」とも呼ばれ、年金不信の大き
な原因となってきた。
公的年金は、後述するように市場や個人の失敗を回避するために必要な制度である。
しかし、公的年金自体にも失敗が存在するため、上記のような制度改正の繰り返しと いう事態が発生する。この失敗の要因は、次のような政府や政治、有権者の誤りだと
考えられる。
(1)政府の年金財政予測における誤り
(2)政府の政策パラメータ設定における誤り (3)政治的な決定過程における誤り
2004年改正は、これらの政府や政治、有権者の誤りに対して保険料水準固定方式や マクロ経済スライドといったルールを導入し、逃げ水年金からの脱却を試みた改革で
あった。
公的年金改革に関する研究はこれまでも存在するが、そのほとんどが研究された時 点の制度や改革案に対する分析にとどまっており、過去の改革をまとめて振り返った 研究はほとんど存在しない1。また、今後の公的年金を分析する基礎となる2004年改 正については、新たに導入されたルールに関する検証が十分ではない。
そこで本論文では、これまでの改革を振り返って上記の誤りを明らかにした上で、
2004年改正後の制度がそれらの問題をどの程度解決しているかを検証し、今後の公的 年金制度が持続可能性を維持し、逃げ水年金から脱却するための課題を明らかにする。
本論文は、先行研究に残された課題に取り組み、今後の政策的な課題を明らかにして いる点で、学術的、政策的な貢献がある。
以下、本章では、本論文の導入部分として次の点を述べる。まず第2節では、公的 年金の意義を再確認する。第3節では上記の3つの誤りと持続可能性の関係について 述べる。最後に第4節では日本の公的年金制度の概要を述べた上で本論文の分析対象 を限定し、以降の各章で議論の対象となる厚生年金財政の構造について解説する。最
数少ない例として牛丸(1996)があげられる。 t丸は1973年改正から1994年改iEまでを分析しているが、改革ご との論点を時系列順に追っている部分が大きい。これに対して本論文は、特定の論点ごとに過去の改革をまと めて分析している。改革ごとか論点ごとかという点で両者は異なる。
4第1部問題の整理
後に第5節で、次章以降の本論文の構成を述べる。
2公的年金の意義
今日、公的年金は大きな社会問題であり、国民の関心が高い。国民の関心が高い理 由は、既に公的年金が普及し、成熟し、人々の生活において大きな位置を占めている からであろう。例えば高齢者について見れば、2004年の国民生活基礎調査では、高齢 者世帯の所得のうち71.9%が公的年金や恩給によるものである。また、総所得に占め る公的年金や恩給の割合が100%の世帯は高齢者世帯の64.2%にのぼり、同割合が80
〜100%の世帯も10.4%にのぼる(表1−1)
表1−1高齢者世帯における1世帯平均所得と公的年金・恩給が占める割合
1世帝 たり平均所得金額
公的年金・恩給
公的年金・恩給が総所得に占める割合別に
@ みた高齢者世帯数の構成割合
総所得 割合
60%未満 〜80%未満〜100%未・ 100%1994年
305.0万円 184.6万円 61% 24.6% 10.3% 11.0% 54」%1995年
316.9万円 198.8万円 63% 22.9% 10.4% 12.5% 54.2%1996年
316.0万円 197.4万円 62% 21.8% 9.2% 13.0% 56.0%1997年
323.1万円 205.5万円 64% 21.3% 9.9% 10.8% 58.0%1998年
335.5万円 216.2万円 64% 2t4% 9.5% 刊.9% 57.2%1999年 3289万円
203.3万円 62% 20.2% 8.9% 9.5% 6t4%2000年
319.5万円 209.8万円 66% 18.8% 9.4% 12.3% 59.5%2001年
304.6万円 212,6万円 70% 19.8% 9.3% 1t4% 59.5%2002年
304.6万円 204.1万円 67% 19.3% 92% 10.3% 61.2%2003年
290.9万円 209.3万円 72% 15.8% 9.6% 10.4% 64.2%資料:国民生活基礎調査(2004年)
また、高齢者だけでなく、現役世代にとっても公的年金は大きな意味を持つ。その 理由の1つは、彼らも将来、受給者となるためである。現役世代は、自らの老後生活
を考慮して現時点の貯蓄と消費の配分を決定しているが、公的年金制度はその計画の 前提となっている。もう1つの理由は、保険料負担である。例えば前述の国民生活基 礎調査では、現役世代で所得税が総所得に占める割合が平均で4.2〜5.1%であるのに 対し、年金保険料が総所得に占める割合は平均で5.6〜6.0%であり、年金保険料の負 担が所得税よりも大きくなっている2(表1−2)。
2厳密には、国民年金と厚生年金で保険料体系が異なるため所得税との単純な比較はできないが、ここでは全体 の傾向を示した。
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点5
表1−2総所得に占める所得税と年金保険料の割合の比較
1世帯当たり平均所得税額、 社会保険料のある世帯の1世 社会保険料額が総所得に占 帯当たり平均社会保険料額が める割合 総所得に占める割合 世帯主の
N齢階級
所得税
社会
ロ険料
世帯主の
N齢階級
社会
ロ険料
年金
ロ険料
29歳以下
4.6% 13.0%29歳以下
10.4% 6.0%30〜39歳
4.2% 10.3%30〜39歳
10.0% 5.7%40〜49歳
4.6% 10.3%40〜49歳
10.2% 5.6%50〜59歳
5」% 10.2%50〜59歳
10.2% 5.6%注1:左右の表で集計対象が異なるため、社会保険料が占める割合が異なる。
{eホ・} : [日民イ豊三『舌戊歪礎撒肩査 2004イ† 片反.
このように既に個人のライフサイクルにとって大きな存在となった公的年金だが、
その存在理由を改めて考えると、次のような市場や個人の失敗の回避だと考えられる。
(1)終身年金における逆選択の回避
(2)モラルハザードによる引退後の生活保護受給の回避 (3)近視眼的な個人による老後準備不足の回避
(1)の終身年金における逆選択の回避とは次の意味である。個人の健康状態や遺伝 など寿命を左右する情報は私的情報である。そのため終身年金の保険者は、客観的な
平均的な余命をもとに保険料を設定するしかない。この状況では、自分が長生きをす るという情報を持っている個人にとっては、終身年金は割安である。逆に、自分が長 生きをしないという情報を持っている個人にとっては、終身年金は割高である。その ため、終身年金への加入が任意ならば、自分が長生きをするという情報を持っている 個人が多く加入するため、加入者群団の余命は母集団の平均的な余命よりも長くなる。
そうなると保険者は、収支相当の原則を満たすために保険料を引き上げざるを得ない。
保険料を引き上げると、今度は引き上げられた保険料を割安と感じる、より長生きす るという情報を持つ個人が多く加入することになる。この現象が無限に連鎖すれば、
最終的に市場は消滅する。このように終身年金では逆選択の問題が発生するため、任 意加入という市場に任せた形態では終身年金は過小供給になってしまう。そのため、
公的介入によって加入を強制する必要がある3。
では、なぜ終身年金が供給される必要があるのだろうか4。それは、(2)に挙げたよ うに、生活保護制度が存在する社会では、終身年金に加入しないことがモラルハザー ドになりうるからである。終身年金が供給されない場合、人々は貯蓄して自ら取り崩
3強制加入の徹底によって逆選択の問題は解決できる。しかし、個人が私的情報を持つ限り、低リスク者(自分 が長生きをしないという情報を持っている個人)には強制加人から逃れたいという意識が発生する。
4終身年金に対する需要は、余命の不確実性(いわゆる長寿リスク)と個人の危険回避から説明される。例えば、
ヒルマン(2006)第5章を参照。
6第1部問題の整理
すか期間が決まった年金に加入するだろう。しかし、これらの方法で不確実な余命に 完全に対処するのは難しい。確定年金の期間が終了したり貯蓄が枯渇した場合には、
結果として生活保護に頼ることになる。平均余命まで受け取れる確定年金に加入しな がら平均余命を上回って生きることは、十分にありうることである。平均余命までの 確定年金に加入する人々は、暗に生活保護制度に期待している可能性がある。さらに 中には、意図して現役時代に多く消費して十分な老後資金を貯蓄しなかったり、期間 が短い確定年金に加入したり、老後資金を初めから多く取り崩して消費する人が出て くるかもしれない。彼らは、確定年金が終了したり、老後資金が枯渇した際には生活 保護に頼ることを前提に、このような行動を取る。以上のように、生活保護制度があ
りかつ終身年金が供給されない社会では、生活保護制度に対するモラルハザードが発 生しうる。そのため終身年金が供給される必要があり、先に述べた逆選択の問題から 強制加入にする必要がある。また、強制加入により、終身年金が供給されながらも終 身年金の購入を拒否して、将来は生活保護に頼ろうというモラルハザードも回避でき
る。
前述した個人の貯蓄不足などの行動は、モラルハザード以外の要因、すなわち人々 の近視眼性によっても発生しうる。例えば、実験経済学の知見によれば、人々には近 視眼的な傾向が見られる。人々が近視眼的だと、老後の効用についてあまりウエイト をおかずに消費や貯蓄の計画を立ててしまい、その結果、老後のための貯蓄が過少に なる5。この行動は個人の合理的な判断に基づいて行われているが、近視眼性がある ために、人々は過少な貯蓄しかせず、老後になって貯蓄が少なく消費できる水準が少 ないことを後悔する。この状況を回避する方策として、強制的な老後貯蓄である公的
年金が必要になる。(3)として挙げたこの考え方は、パターナリズムと呼ばれる。
このように、公的年金は市場や個人の失敗を回避するために必要な制度であり、そ の機能は長期間にわたって持続させる必要がある。
3公的年金の失敗
このように、公的年金は市場や個人の失敗を回避するために必要な制度であるが、
公的年金自体にも失敗が存在する。具体的には次のような政府や政治、有権者の失敗 が発生し、持続可能性が脅かされてきている。
(1)年金財政予測における誤り
(2)政策パラメータ設定における誤り
5 例えばDiamond(1977)参照。筆者は、中嶋・臼杵・北村(2005)におけるアンクート実験を通じて、この傾向の原 因となる双曲線的な時間選好率の存在を確認している。
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点7
(3)政治的な決定過程における誤り
公的年金制度を将来にわたって持続させるためには、その財政状態について長期的 に計画を立てる必要がある。長期的な計画には、公的年金制度をとりまく社会情勢に っいて様々な予測を立てる必要があるが、政府がこの予測を誤る可能性がある。例え ば、実質賃金上昇率や運用利回り、出生率を過大に予測したり、死亡率の改善すなわ
ち高齢化を過小に予測することである。
また、政府は財政状態の改善や給付内容の改善のために制度改正を実施する。具体 的には、保険料の引き上げ計画の変更や、給付乗率の変更などによる給付水準の変更、
支給開始年齢の変更などの政策パラメータの変更である。制度改正の原案は政府(厚
生(労働)省6)が策定するが、この過程で誤った判断が行われることがある。例えば、
当面の給付水準の改善のみに注意を払って、その制度設計が将来もたらすであろう過
大な給付を考慮しないなどである。
さらに、政府の立案を受けて政策決定する政治の場面でも、誤りが発生する。例え ば、給付水準を過度に引き上げたり、当面の保険料の上昇を低く抑えたり、財政健全 化のための給付削減を先延ばしにすることなどである。これらは、近視眼的に選挙で の当選を優先的に考える政治家の問題でもあるし、短期的な対処を希望する有権者の
問題でもある。
これらの誤りは、結果として年金財政に悪影響を及ぼし、持続可能性を低下させる。
例えば、出生率を過大に予測すれば、将来の実際の年金財政は予測よりも厳しい状況 になる。当面の保険料引き上げ幅の抑制や給付削減の先延ばしは、問題の先送りによ って将来の年金財政をより厳しいものにする。より厳しい財政状況はさらなる制度改 正の必要性を増し、「逃げ水年金」と呼ばれる給付削減の繰り返しの要因となる。さ らに、度重なる改正は人々の長期的な消費貯蓄計画の変更を余儀なくし、年金不信の 原因にもつながる。年金不信の増大は、年金改革に対する嫌悪感や期待の低下をもた
らし、必要な改革の実現が困難になる。その結果、公的年金の持続可能性は棄損され、
市場や個人の失敗の回避という目的を果たせなくなる。
4日本の公的年金制度の概要と本論文の分析対象
本節では、日本の公的年金制度の概要を解説し、本論文が厚生年金制度を分析対象 とする理由を述べる。また、次章以降で分析の対象となる厚生年金財政の構造を予め
解説しておく。
6公的年金制度の大部分を占める厚生年金と国民年金の所管は、従来、厚生省であったが、2001年1月の省庁再 編により厚生労働省の所管となった。本論文では、旧厚生省と現厚生労働省の両方を指す場合に、厚生(労働)
省と記述する。
8第1部問題の整理
4.1日本の公的年金制度の概要
現在の日本の公的年金制度は、20歳以上の国民が必ず加入する皆年金制度となって いる。対象者はすべて国民年金(基礎年金)の加入者となり、そのうち自営業者など は国民年金(基礎年金)の第1号被保険者7に、民間会社員や公務員などの被用者は 国民年金(基礎年金)の第2号被保険者に、第2号被保険者の被扶養配偶者は国民年 金(基礎年金)の第3号被保険者に区分される(図1−1)。
図1−1日本の公的年金制度の構成
第1号被保険者
(自営業者等)
厚生年金
(民間会社員)
共済年金
(公務員等)
第2号被保険者
(民間会社員・公務員等)
第3号被保険者
(第2号の被扶養配偶者)
第1号被保険者は、定額の国民年金保険料を納付し、保険料納付期間に応じた年金
(基礎年金)を受給する8。第2号被保険者は、基礎年金に加え、被用者年金制度に 加入する。被用者年金制度では、賃金9に比例した保険料を納め、受給時には基礎年 金に加えて加入期間の総賃金に応じた年金(報酬比例部分)も受け取る。被用者年金 制度は職域に応じて区分され、民間会社員は厚生年金、国家公務員は国家公務員共済、
地方公務員は地方公務員共済、私学の教職員は私学共済に加入する1°。第3号被保険 者は、直接には保険料を納付せず、配偶者が加入する被用者年金制度から間接的に保 険料を支払い、加入期間に応じた年金を受給する。このように就業状態によって加入 する制度が異なっているため、転職や退職、婚姻などの異動に応じて加入する制度を 切り換える必要がある。また受給時は、各制度への加入実績に応じて、各制度の規定
7第1号被保険者は、基礎年金制度導入以前の旧国民年金の対象者に相当する。以下、本論文で「国民年金加入 者」と記述した場合は、第1号被保険者を指す。
低所得者には、全額免除制度や半額免除制度が用意されている。
厳密には、賃金を一定の基準で換算した金額(民間会社員が加入する厚生年金の場合には標準報酬)が、保険 料や給付の基準となる。また年金額の算定時には、過去の賃金を現在価値に換算する。
lo 痩ニ公務員共済、地方公務員共済、私学共済を総称して共済(制度)と呼ばれる。
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点9
に基づいて年金を受給できる11。
公的年金から受給できる年金は、支給要件によって3種類に分類できる。1っは老 齢年金で、所定の年齢に到達した場合に受給できる。2つ目は障害年金で、所定の障 害状態になった場合に受給できる。3つ目は遺族年金で、扶養家族がいる状態で死亡 した場合に受給できる。このように、公的年金は3つのリスクに対する所得保障保険
となっている。
4.2本論文の分析対象
以上のように日本の公的年金制度は複数の制度と複数の給付内容に分かれるが、本 論文では分析の対象を厚生年金財政および老齢厚生年金に限定する12。その理由は次
の通りである。
(1)規模が大きいこと
(2)共済年金も基本的に厚生年金と同じ仕組みであること (3)共済年金が厚生年金に編入される予定であること
(4)諸外国では自営業者も所得比例型の年金制度となっていること (5)厚生年金の情報は他の制度と比較して豊富に公開されていること
(1)については、被保険者数を見ると厚生年金が全体の約半数を占めている(図1
−2)。また収入や支出、積立金残高などの財政規模で見ても、厚生年金がもっとも 規模が大きい(図1−3〜5)。(2)については、前述したように国民年金が定額保 険料で加入期間比例の給付なのに対し、厚生年金と共済年金は報酬比例保険料で報酬 比例部分を持つ点で共通している。さらに(3)に示したように、2006年4月の閣議決定 にしたがって、厚生年金と共済年金は将来、概ね厚生年金の仕組みに一本化される予
定になっている。
以上の理由から、本論文で行う厚生年金の分析は、日本の公的年金の分析において
大きな意味を持つと考えられる。
11 スだし、老齢年金(後述)の場合には、各制度を通算して25年以上加入する9・要がある。
ユ2 N金財政シミュレーションでは障害年金や遺族年金も含めて試算するが、老齢年金とくらべて簡易な推計に止 まる(第6章を参照)。
10第1部問題の整理
図1−2公的年金被保険者数の推移
80
70 60 50 40
30 20 10
百万人
/蝋蛭・国語・第祠
0
1975 1980 1985
1990
年度末
1995 2000
資料:厚生労働省年金財政ホームページ
図1−3公的年金保険料収入の推移
25兆円
20
15
10
5
_卓_.。.→一←〔一▲
0 − 一 ← 一一一←一→一一一一 iVv£ 一 vt −th…be…一一一w{ }一一一DK 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 E≡亘至匡蚕一亘蓑亘一二倉班異済三F一塾連誕涛→←圏昼奎童]
注1:国共済と地共済は、下記資料の掛金(本人負担)の2倍を表示した。
資料:社会保障審議会年金数理部会(2005),pp.166−178,
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点11
図1−4公的年金給付費の推移
20兆円
18 16 14 12 10 8 6
1___一一一一一一・一一ピ鎗一 ←→
0
一2 ・
1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 |995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
1』≡i甦蚕垂i塾選葺=堪塞≡私叉塞董玉藪垂金一;基藤年麺
注1:被用者年金および国民年金(国民年金勘定)は、各制度の給付費から基礎年金交付金を控除した値を示し ている。
注2:基礎年金は、基礎年金勘定の給付費に基礎年金交付金を加算した値を示している。
資料:社会保障審議会年金数理部会(2005),pp.166−178,
図1−5公的年金積立金の推移
兆円160 ・
140
120
100
80
60
4°
@ 一__一一…一}ヤ→
20 g.,一.、r−一…ervde
0 − ・ 一一 ・一一一 一一一 ^一k−
1986 |987 1988 1989 1990 1991 1992
一←】一十一一一一一一一Atr−→一一一一N← 一一一魔?│一一一) 一一一一m−y
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 200| 2002 2003
E≡厚生至董口二国共房三三塾共房=『学担済三≡国星彗i董
注1:実践は簿価べ一ス、点線は時価べ一ス。
注2:日本鉄道、日本電信電話および日本たばこ産業の各共済組合は平成9年4月に厚生年金に統合された。農林 漁業団体職員共済組合は、平成14年4月に厚生年金に統合された。
注3:厚生年金の積立金には厚生年金基金が代行している部分の積立金は含まれていない。
注4:厚生年金、国民年金の平成13年度末以降の時価ベースの積立金は旧年金福祉事業団からの承継資産に係る 損益を含めて、年金資金運用基金における市場運用分の運用実績を時価べ一スで評価されたものである。
承継資産に係る損益分の厚生年金・国民年金への按分は、厚生年金・国民年金の積立金の元本平均残高の 比率により按分することにより行われている。
資料:社会保障審議会年金数理部会(2005),p.163.
12第1部問題の整理
4.3厚生年金財政の構造 4.3.1年金財政の大枠
厚生年金財政は、保険料や国庫負担、積立金の運用収入を収入とし、給付費を支出 とする形で運営されている(図1−6、表1−3)。収入や支出は、法令で規定され る政策パラメータと、経済や人口などの変数によって決定される。
図1−6年金財政の仕組み(概要)
収入=保険料収入+国庫負担+積立金の運用収入 支出=年金給付費+基礎年金拠出金
積立金残高=前年度末の積立金残高+当年度の収支残
表1−3厚生年金財政の推移(主な内訳)
億円 年度 収入 保険料
茁
国庫負担 運用収入 支出 年金
虚t費
基礎年金
衷o金
収支 積立金
c高
1965 3,815 2,974 57 784 398 376 一 3,417 14,4{4
1970 10,264 7,479 278 2,496 田606 1,545 一 8,658 44,202
1975 31,161 22,020 1,589 7,510 9,711 9,537 一
2L450
122β69 1980 70,393 47β07 5,466 17,846 34ρ75 32,515 一 36,3田 279β38 1985 117,599 75,053 9㌦35 33,294 64,615 62,274 一 52,984 507,828 1990 238,458 130,507 21,442 42,152 172,030 105,031 20,524 66,428 768,605 1995 355,019 186,933 28,295 55,268 282,260 150,413 44,465 72,760 1,118㌦112000 287,415 200,512 37,209 43,067 266,636 191,544 71,698 20,779 1β68,804 2001 282,320 199,360 38,164 38,607 277,252 196,228 77,482 5,067 1,373,934 資料:厚生労働省年金局数理課(2005).
年金財政の設計方法は2つある。1つは給付建て方式であり、給付の政策パラメー タを先に決め、それに応じて長期的に財政均衡するように拠出(負担)の政策パラメ ータ(保険料率など)を決める。もう1つは拠出建て方式であり、拠出(負担)の政 策パラメータを先に決め、その負担でまかなえるように給付の政策パラメータを決め
る。厚生年金は、形式的には2000年改正まで給付建て方式が採られてきた13。しかし、
1985年改正から給付削減が実施され、負担を意識した給付パラメータの設定となって いる。この点から、1985年から緩やかに拠出建ての側面が出てきたといえる。そして 2004年改正では保険料水準固定方式が導入され、形式的にも拠出建ての制度となった。
このように、年金財政の推移を見る際は、どのように給付が設計され、それに見合っ
13 Q004年改正では、将来の保険料率を法定する保険料水準固定方式が導人された。2004年改dlについては、第6 章を参照されたい。
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点13
た保険料率が設定されてきたかに注目する必要がある。
4.3.2年金給付費の仕組み
年金財政の支出にあたる給付費は、概ね誰が年金を受給できるかという受給者の範 囲と、各個人の年金額を決める給付算定式によって決まる(図1−7)。給付費の大 部分を占める老齢年金給付の場合、受給者の範囲は一定年齢(支給開始年齢)以上と
いう形で規定されている。そのため、支給開始年齢は政策パラメータとなる。一方、
その支給開始年齢までどの程度の人が生き延びるかや、受給開始後にどの程度生きる かは死亡率に依存する。死亡率は変数であり、制度改正時には一定の前提がおかれる。
厚生年金の給付算定式は、定額部分と報酬比例部分からなる。定額部分は、加入期 間(現役時代)の報酬(収入)に関係なく支給される部分で、加入した期間に応じて 決定される。したがって、加入1カ月あたりの年金額(定額部分の単価)が政策パラ
メータとなる14。
報酬比例部分は、現役時代の報酬に応じて支給される部分で、下の式から明らかな ように給付乗率が政策パラメータとなる。1973年改正からは、過去の報酬の平均(平 均標準報酬)を計算する際に、過去の報酬の名目額(支払われた時点の額面)をその
まま使わず、給付時点の賃金水準に洗い替える再評価制度が導入された。そのため、
再評価の基準に何を用いるか(賃金上昇率にするか物価上昇率にするか等)も政策パ ラメータとなった。それと同時に、再評価の基準となる指標(賃金上昇率や物価上昇
率)は変数であり、制度改正時には一定の前提がおかれる。そのため1973年改正から、
制度改正時に前提とした値と実績とがどのように乖離するかが問題になるようにな
った。
図1−7給付費の仕組み(概要)
受給者=一定年齢以上に到達した過去の加入者(被保険者)
個人の年金額=定額部分+報酬比例部分
定額部分==単価×加入月数
報酬比例部分=過去の収入の平均(平均標準報酬)×給付乗率×加入.月数
1985年改正では基礎年金が導入され、定額部分は段階的に基礎年金に一元化される こととなった。そのため、基礎年金の財源となる基礎年金拠出金も、年金財政の支出
の一部になった。
:4 P985年改正では基礎年金が導入され、定額部分は段階的に基礎年金に一元化されることとなった。基礎年金拠 出金は基礎年金財源の一部にすぎないが、その構造は定額部分とほぼ同じである。
14第1部問題の整理
4.3.3保険料収入の仕組み
収入の大部分を占める保険料収入は、保険料を納める対象者(被保険者)の範囲と 保険料率によって決まる(図1−8)。被保険者の範囲は、上限の年齢および対象と
なる事業所(適用対象事業所)の範囲によって規定される15。各個人の保険料額は、
個人の収入(標準報酬16)に保険料率を掛けて算出される。したがって、保険料率が
政策パラメータとなる。
図1−8保険料収入の仕組み(概要)
被保険者=適用対象事業所に務める一定年齢未満の従業員 個人の保険料額;収入(標準報酬)×保険料率(労使折半)
保険料率は、一定水準に達するまで段階的に引き上げる段階保険料方式が採られて いる。通常の保険数理では平準保険料方式が採られ、将来の給付を一定の保険料率で まかなうように設定される。このため、平準保険料方式では、制度開始当初から将来 を見越した高い保険料が徴収されることとなる(図1−9)。しかし、厚生年金が全 面改正された1954年は戦後の混乱が続いており、高い保険料率を適用することが困難 だった。そのため、平準保険料方式に代わって段階保険料方式が導入された。段階保 険料方式では、その時点の保険料率に加えて、将来の引き上げ幅や引き上げ期間、最 終保険料率の設定も政策パラメータとなる。
15 ただし、被保険者範囲の変更は、長期的には年金財政に大きな影響を与えない。確かに短期的には、被保険者 数の変動を通じて保険料収入に影響する。しかし、被保険者範囲の変更に伴って将来の受給者数が変わるため、
長期的には影響が少ない。
16 収入そのものではなく、収入の段階に応じて決められる保険料の基準額。2005年4月現在、月収は92,000円〜
620,000円の30段階に分かれている(賞与には別び)区分が適用される)。
第1章公的年金制度の意義と実施上の問題点15
図1−9平準保険料方式と段階保険料方式のイメv−・一ジ
保険料率
段階保険 \ 料方式
平準保険 料方式
年
5本論文の構成
「第1部 問題の整理」では、本論文の問題意識を提示し、取り扱う範囲を整理し、
分析対象となる公的年金制度や公的年金財政の構造にっいて解説した。
「第II部 分析1:なぜ逃げ水年金になったのか」では、これまでの年金改革をい くつかの視点から分析し、公的年金の持続可能性を低下させ、逃げ水年金を発生させ た要因を検証する。これまでも年金改革に関する分析は存在したが、改革ごとの分析 がほとんどであり、過去の複数の改革を同一の視点で分析した研究はほとんど存在し ない。そこで本論文では、(1)年金財政予測における誤り(第2章)、(2)制度改正 における政策パラメータの問題(第3章)、(3)パラメータを決定した政治過程の問 題(第4章)を分析し、最後にこれらの改革が家計に与えた影響をライフサイクル・
モデルを使って分析する(第5章)。
「第m部 分析2:逃げ水年金は解消されたのか」では、第II部で明らかになった これまでの改革が持つ問題に対して、2004年改正で導入されたルールがどのように対 処しているか、その対処が十分であるかを検証する。まず第6章では、2004年改正で 導入されたルールを定性的に分析し、第7章と第8章で用いる筆者らが開発した確率 論的な年金財政モデルを解説する。第7章では、今後の人口や経済の変化に対して 2004年改正後の年金制度がどのような影響を受けうるかというリスクを分析する。第 8章では、2004年改正の政治的な決定過程で盛り込まれた最低給付水準を保証する仕 組みに着目し、決定過程で議論されなかった保証コストを推計する。第9章では、政 府や政策決定の誤りを解消し、年金不信する改善する方策として、ガバナンスについ
て考察する。
「第IV部 結論」では、以上の分析を総括して、これまで年金改革で発生した逃げ 水年金の要因をまとめ、2004年改正の効果を踏まえた今後の課題を整理する。
16第1部問題の整理
参考文献
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社会保障審議i会年金数理部会(2005),『公的年金財政状況報告:平成15年度』.
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効果的な情報提供のあり方」,『個人レベルの公的年金の給付と負担等に関する情 報を各人に提供する仕組みに関する研究平成16年度総括研究報告書(厚生労働科学研究費政策科学推進事業)』,pp.55−75.
ヒルマン,A. L (2006),『入門財政・公共政策:政府の責任と限界』,勤草書房,(井
堀利宏監訳).17
第II部 分析1:なぜ逃げ水年金になったのか
18
19
第2章年金財政予測の問題
1問題意識
第1章で述べたように、年金改革が繰り返されてきた理由には次の3点が考
えられる。
(1)年金財政予測における誤り
(2)政策パラメータ設定における誤り (3)政治的な決定過程における誤り
本章では上記3点のうち、政府の年金財政運営に関する予測能力に注目し、
過去の財政再計算で行われた財政予測が今から振り返ってどのような要因で実 績と乖離し、それが持続可能性を低下させて度重なる年金改革が必要となる要 因となったのかを検証する。特に本章では、先行研究にみられる定性的な指摘 にとどまらず、定量的な分析によって要因分解を試みる。
本章の構成は次のとおりである。まず次節で、財政再計算の意義について確 認する。第3節では先行研究を概観し、本章の位置づけを確認する。第4節で 財政再計算で用いられる各種前提条件の予測と実績との乖離を確認し、第5節 でそれらが財政再計算に与えた影響を定量的に分析する。さらに最終節で、予 測誤差を考慮した財政再計算のあり方を検討する。
2財政再計算の意義とその仕組み
2.1財政再計算の意義
財政再計算とは、年金制度の財政状態の予測を再度行うことである。厚生年 金の財政再計算は1954年の法改正で初めて盛り込まれ、1959年の第1回以降、
ほぼ5年おきに行われている。年金制度の財政予測には、人口や経済に関する 様々な前提条件が必要となるため、想定した前提条件と実績が乖離すれば、予 定された財政バランスを保つことができない。よって、ある程度の間隔で、直 近の状況を反映させながら前提条件を入れ換えてチェックを行う必要がある。
これが財政再計算の第1の意義である(図2−1の右側)。
さらに、チェックの結果、年金財政のバランスが保てなくなることが予想さ れれば、制度を改定する必要がでてくる。また、社会情勢の変化に対応して制
20第II部分析1:なぜ逃げ水年金になったのか
度設計を変更することもありうる。このような制度改正が行われる場合には、
財政予測を行いながら制度改正を検討する必要がある。これが財政再計算の第 2の意義である(図2−1の左側)。
図2−1制度改正と財政再計算の構図
制度改正
給付の見直し
制度窪行
保険料の算定
i財政(再)計算)
仮定を更新した 上で、保険料を 再見積もり
(財政再計算)
2.2財政再計算の仕組み
財政再計算は厚生労働省(旧厚生省)年金局数理課によって行われてきた。
現在入手可能な財政再計算に関する資料は、 「年金数理シリーズ」として初め
て公開された1973年以降のものである(厚生団(1988),pp.308−309)。1973年
改正では、再評価やスライド制の導入に伴ってプロジェクション方式が取り入 れられた。この方式では、人口や経済に関する様々な前提条件を設定する必要 があるため、仮定(予測)と現実の乖離が大きな問題となる。財政再計算の手 法の大枠はほぼ同じであるものの回を重ねるごとに精緻化され、また資料の面 でも詳細に解説されるようになってきている。1999年のものをべ一スに、財政 再計算の主な流れを示すと図2−2のとおりである。プロジェクション方式による財政再計算は、将来の年金財政の収支見通しを 作成し、長期的に年金財政が安定するかどうかを確認しながら、保険料率や給 付水準を決定するプロセスである。将来見通しの策定にあたっては、出生率や 死亡率などの人口関連の要素のほか、再評価やスライドを考慮するための経済 要素、さらには人口に対する被保険者の比率などの見通しを作成し、仮定する
必要がある。
第2章年金財政予測の問題21
図2−2財政再計算の仕組み
人口,死亡率 出生数の前提
1辮」
llXS。}・見通・将来の被保険者数 保険料収入の推計
物価上昇率,賃 金上昇率の前提
基礎年金受給者 基礎年金単価の推計
基礎年金拠出金 国i負担額の権計
1灘}・見通・
支給開始年齢 の引き上げ等 の制度変更
将来の受給者数 年金支給額の椎計
注1:2000年改IEでの厚生年金にっいて示した,
資料:厚生省年金局数理課(2000)
厚生年金財政の収入は、保険料収入、運用収入、国庫負担からなる。大きな 柱となる保険料収入は、個人の報酬に保険料率をかけたものの合計であるから、
被保険者数、1人あたりの報酬額の見通し、および保険料の計画が必要となる。
被保険者数は、大まかには1、対象となる人口に被保険者となる比率をかけるこ とで予測できる。人口の将来予測については、国立社会保障・人口問題研究所 の将来推計人口が利用できる。一方、ユ人あたりの報酬額は、足元の実績をべ 一スに、将来の賃金上昇率を設定することで算出できる2。運用収入は積立金残 高に運用利回りをかけることで算出でき、国庫負担は基礎年金拠出金の一定割
合として算出できる。
一方、支出は、年金給付費と基礎年金拠出金からなる。年金給付費は、1人 あたりの年金額に受給者数をかけて算出できる。大まかには3、1人あたりの年
1実際の財政再計算では、時点、性別、年齢、加人期間ごとに推計しているが、以下では簡単化のために 時点別に解説・分析する。
2実際の財政再計算では、性・年齢別の昇給指数も考慮している。
3実際の財政再計算では、老齢・遺族などの年金の種別ごとに、時点・性・年齢別に推計している。以下 では簡単化のために、時点別の老齢年金について解説・分析する。