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理工ジャーナル 23‐2☆/2.松田

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はじめに

昨今の科学・技術の発展により、情報デバイスは 現代の社会生活において必要不可欠なものとなって いる.1897 年のブラウン管の発明,1926 年の高柳 健次郎博士による世界初の映像の送受信,また 1937 年の世界初のテレビ放送開始(イギリス)以降,デ ィスプレイ技術は発展を遂げてきた[1].図 1 に示さ れるような薄型大画面テレビ,ノート型パソコン (PC),タブレット型コンピュータ,スマートフォ ン,電子書籍リーダーなどのディスプレイは液晶デ ィスプレイや,プラズマディスプレイのような大型 ディスプレイ,主に中小型のディスプレイに使われ る有機 EL ディスプレイ,電子書籍端末に使われる 電子ペーパー等,用途やコストに応じて使い分けら れている[2].本稿では, 1)液晶ディスプレイに関する技術 2)液晶駆動用薄膜トランジスタ(TFT)に関す る研究開発状況 3)薄膜形成技術 5)電子ペーパーに関する技術 6)フレキシブルデバイスへの応用 について,各表示デバイスの作製に関する研究・開 発の現状を述べる.

2

液晶ディスプレイ

液晶ディスプレイ,プラズマディスプレイ,有機 EL ディスプレイ,電子ペーパーなどの表示デバイ スは,基本的に画素を基板上に並べた構造をしてお り,各画素は表示部分と,そのスイッチング部分と からなる. 図 2 に示されるように,液晶ディスプレイは,バ

解説

次世代ディスプレイの研究・開発の現状と,今後の

フレキシブルデバイス化へ向けた展開について

松 田 時 宜

Tokiyoshi MATSUDA

理工学部電子情報学科 助教

Assistant Professor, Department of Electronics and Informatics

図 1 情報デバイスの例 ― 15 ―

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ックライトによる白色光を各画素に形成された TFTによってスイッチングされた液晶によって透 過光を制御し,赤,緑,青(RGB)3 色のカラーフ ィルターによって映像を表示している[3] 各画素や画面を構成する要素技術に関して開発が 進んでいるが,今回は,特に昨今注目を浴びている TFTについて詳しく紹介する. ディスプレイ駆動用 TFT は通常無アルカリガラ スなどの基板上に形成されており,表 1 のように, 各デバイスに即した特性・性能を持つ素子が採用さ れている.図 3 に,TFT 素子の一例を示す.TFT は,ゲート電極,ゲート絶縁膜,半導体(活性層), 保護膜,電極などより形成される.各レイヤーは数 10 nm∼数 100 nm の膜厚で成膜され,フォトレジ スト塗布・フォトマスクによるパターン露光・フォ トリソグラフィによるレジストパターン形成・エッ チングによるパターン形成・レジスト剥離を一つの サイクルとして,形成する[4−7] 各材料パターンの形成・エッチングなどはその材 料の特性や,積層された膜とのエッチング選択比な どの相性によって形成プロセスが設計され,目的と する TFT 素子を形成する. 薄膜トランジスタの活性層は TFT 素子の最も重 要な材料であると言ってよい.材料としては,表 1 に示されるようにいくつかの種類がある.アモルフ ァスシリコンは大面積基板に均一な薄膜を形成する 技術がほぼ確立されているため,現行の大型ディス プレイの TFT 素子に採用されている.しかし,TFT 活性層としての性能の指標である,電界効果移動度 が 0.5 cm2 /V・s 程度と低いため,図 4 に示されるよ うな,3 D 映像やスーパーハイビジョンへ向けて今 後必要とされる,高い画面書き換え周波数(フレー ムレート),高解像度化に対して課題が指摘されて いる[8] 一方,多結晶シリコンは,TFT 電界効果移動度 に関しては 100 cm2 /V・s と高いため,今後のディス プレイの高性能化には対応できるが,大面積に均一 図 2 液晶テレビの断面構造 (フジフィルムホームページより) 図 3 TFT の断面構造 図 4 Samsungにより発表された,アモルファ ス Si TFT 駆動液晶ディスプレイの限界 (出展:日経マイクロデバイス,2008. 5. 5 号) 表 1 提案されている絶縁膜成膜方法とその特性 材料 項目 アモルファ スシリコン ポリシリコン 酸化物 半導体 電界効果移動度 (cm2 /V・s) 0.5 100 10∼ 代表的な 成膜方法 P-CVD P-CVD レーザーアニール スパッタ リング法 大面積性 容易 困難 容易 高精細化 △ 可能 可能 低温プロセス (200 度以下) 困難 困難 容易 ― 16 ―

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な素子を作製することに課題があるとされている. それは,多結晶シリコンはアモルファスシリコンを レーザーで結晶化することによって作製されるた め,レーザーのパワーに不足が生じるためである. そのため,次世代ディスプレイ向け TFT の活性層 として,新しい材料が待ち望まれている.その中 で,近年注目を浴びているのが,酸化物半導体材料 である.酸化物半導体は,10 cm2 /V・s の高電界効果 移動度とスパッタリング法という比較的容易に大面 積に成膜可能であるため,期待が大きく,現在活発 に研究・開発が行われている. 2. 1 ZnO系酸化物半導体 酸化物半導体の一種である ZnO TFT に関しては 1968年に最初の報告がある[9].2001 年に Ohya, et.

al.により発表された ZnO TFT によると,ZnO は Si

ウェハ上に溶液法によって塗布され,600 度∼900 度程度の高温で焼成することで形成されている[10] その後 2004 年に国内外の研究機関より ZnO につい て,現在主流のアモルファスシリコン TFT の数倍 以上の電界効果移動度での TFT 特性が実証され た[11−15] Hoffmanによる報告においては,ZnO 薄膜はマ グネトロンスパッタリング法によって形成されてお り,Si ウェハ上に ZnO TFT を形成することに成功 している.この報告によると,ZnO 薄膜の電界効 果移動度は,ゲート電圧に依存して大きく変化す る.これらの報告をはじめ,酸化物 TFT の詳細な 特性などに関する研究報告が増加している[13, 14] また,ZnO 薄膜については,低温で多結晶性の 薄膜が得られることが多数報告されている.その特 徴を活かすために,PLD 法及び分子線エピタキシ 法による高結晶性 ZnO 薄膜を用いた高移動度 ZnO TFT が 東 北 大 学 の グ ル ー プ よ り 報 告 さ れ て い る[16−19] その後,図 5 に示すように,研究室レベルのデバ イス形成が中心であった 2005 年当時,高知工科大 学とカシオ計算機(株)による ZnO TFT による液 晶ディスプレイの実証を契機としてディスプレイデ バ イ ス 応 用 に 向 け た 研 究 開 発 が 活 発 化 し て い る[20].当時,世界最大のディスプレイ関係の国際

学会(Society for Information Displays)での酸化物 半導体 TFT の発表はわずかであったが,表 2 に示 されるように,2007 年には酸化物半導体セッショ ンが創設され,現在では TFT 技術の中核テーマと して活発な議論が行われており,毎年多数の論文が 発表されている[21−33] 2. 2 非晶質酸化物半導体 2003∼2004 年に東京工業大学のグループによっ て,酸化物半導体(InGaZnO4(IGZO))を用いた薄 膜トランジスタに関する報告がなされた[27−28].本 報告以降,非晶質酸化物に関する研究が活発化して いる.現状では IGZO の電界効果移動度は 8 cm2 /V・ s以上とされており,現在大型液晶ディスプレイの 駆動に用いられているアモルファスシリコンを凌駕 する性能が確かめられており,研究・開発による実 図 5 ZnO TFT素子の概念図と ZnO TFT 駆動 液晶ディスプレイ(Hirao, et al.,(2006)) ― 17 ―

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用化及び今後の応用展開の広がりが注目を浴びてい る. 酸化物 TFT による液晶ディスプレイや有機 EL ディスプレイといった実用化を目指した研究開発は 韓国をはじめ,各国で進められている.2010 年に アメリカで行われた SID 2010 では,台湾の AU Op-tics社が 32 インチの IGZO 駆動液晶ディスプレイ を[34],SONY が 11.7 インチの IGZO 駆動有機 EL ディスプレイを[35],また韓国の Samsung は 19 イ ンチの有機 EL ディス プ レ イ を そ れ ぞ れ 発 表 し た[36].現在の主な研究・開発課題は TFT 特性の安 定性,プロセスの安定性,光応答特性などの,実用 化への基礎的な裏づけとなるテーマや,素子のセン サー応用へ向けたものが増加している[37].また, 2011年 4 月にはシャープ株式会社が,中・小型 IGZO TFTディスプレイの量産を発表した[38] 2. 3 有機薄膜トランジスタ TFT 技術のフレキシブルデバイス応用技術の候 補として,TFT の活性層として有機材料を用いる, 有機薄膜トランジスタも提案されている.これまで の研究・開発ではペンタセン,アントラセン,ルブ レンなどを活性層とした薄膜トランジスタが提案, 発表されている.当初は p 型の有機半導体材料が 提案されていたが,材料探索が進み,n 型の有機半 導体材料も報告がなされている.TFT 特性として は電界効果移動度が 0.1∼40 cm2 /V・s 程度であり, 今後の特性向上が注目されている[39−42].SONY は 2010年に巻き取り可能な有機半導体駆動有機 EL ディスプレイを発表している[43] 前述のように,TFT 素子は複数の薄膜によって 形成されているが,透明電極・絶縁膜などの要素技 術に関しても,研究・開発が推進されている.透明 電極は,現行では In2O3: Sn(ITO)が用いられてい 表 2 次世代酸化物半導体層の開発経緯 Year 活性層材料 TFT 文献(Ref) 材料 成膜方法 成膜温度 構造 基板 ゲート 絶縁膜 μ On/off 比

1968 ZnO Bulk −−− Coplanar ZnO SiO2 [9]Proc. of the IEEE(1968)2094 1997 SnO2: Sb PLD −−− Bottom SrTiO3PbZr0.2Ti0.8O3 7×10

3

[25]Appl. Phys. Lett. 70(1997)458 2001 ZnO Solution 900 Bottom Si Th-SiO2 10

3

[10]Jpn. J. Appl. Phys., 40,(2001)297

2003

ZnO Sputtering RT Bottom Si Th-SiO2 2 >10 6

[12]Appl. Phys. Lett. 82(2003)1117 ZnO IB sputtering RTA Bottom Glass ATO 2.5 107

[13]Appl. Phys. Lett. 82(2003)733 ZnO PLD 300 Bottom CaHfO/SiN 7 >106

[16]Jpn. J. Appl. Phys. 42(2003)L 347 InGaO(ZnO)3 5 PLD 1400 Top YSZ HfO2 80 10

6

[27]Science 300(2003)1269

2004

ZnO Sputtering RT Bottom Glass SiOxNy 70 5×10 5

[23]J. Non-cryst. Solids 338−340(2004)806 Zn0.9Mg0.1O : P0.02 PLD 400 Top Glass HfO2 5 [24]Appl. Phys. Lett. 84(2004)2685

a-IGZO PLD RT Top PET Y2O3 9 10 3

[28]Nature 432(2004)490

2005

a-ZnSnO Sputtering 600 Bottom Glass ATO 50 107

[29]Appl. Phys. Lett. 86(2005)013503 a-ZnInO Sputtering 300 Bottom Glass ATO 30 106

[30]J. Appl. Phys. 97(2005)064505 ITO Sputtering 300 Bottom Si BLT 9.1 >104

[31]Appl. Phys. Lett. 86(2005)162902 2006 a-IZO Sputtering. RT Bottom Glass ATO 40 >107

[32]J. Non-cryst. Solids 352(2006)1749 2007 In2O3 Evap. 300 Bottom Si Th-SiO2 27 10

4

[33]Appl. Phys. Lett. 91(2007)132111 2008 SID 2008 Oxide TFT 1 session : 15 presentations in 550 total

2009 SID 2009 Oxide TFT 2 sessions : 11 presentation in 444 total 2010 SID 2010 Oxide TFT 2 sessions : 21 presentations in 520 total 2011 SID 2011 Oxide TFT 2 sessions : 34 presentations in 465 total

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るが,昨今のレアメタルの偏在及びそれに起因する 価格高騰の影響を受けて次世代材料が研究・開発さ れている.特に,酸化亜鉛系の ZnO : Ga や ZnO : Alのような,透明導電膜が開発され,対向電極と しての試作品が発表されている[44−50] また,液晶パネルの低価格化競争により,ゲート 絶縁膜の低コスト成膜方法や,半導体活性層との界 面形成及び制御に関する研究開発は非常に重要な研 究テーマである.したがって,複数の薄膜材料によ って形成される TFT 素子は,各薄膜に関する研究 ・開発が重要であると同時に,各材料の薄膜界面の 研究・開発も非常に重要な研究・開発内容であ る[51−52]

3

プラズマディスプレイ

図 6 に示されるプラズマディスプレイは各画素内 に封入された Xe ガスを励起し,それによって放出 される紫外線で RGB 3 色の蛍光体を発光させるこ とによって画面を描画している.プラズマにさらさ れる MgO 薄膜の特性や,その形成技術も非常に重 要である[53]

4

有機 EL ディスプレイ

図 7 に示される有機 EL ディスプレイの各画素 は,電流駆動素子であり,スイッチングを行う TFT 素子と駆動 TFT 素子の,2 個の TFT 素子を各画素 に含んでいる.そのため,各素子の高性能化が必要 とされている[54]

5

液晶ディスプレイなどに用いられている

真空プロセス例

前述のように,各薄膜は一般的に真空装置を用い たプラズマ技術によって形成される.表 3 のような プラズマ技術は電力技術や真空技術の発達に伴って 照明,半導体などの薄膜形成,プラズマディスプレ イのような映像技術,表面のコーティングや処理技 術など,広範囲な領域で用いられており,現代の社 会 生 活 に と っ て 必 要 不 可 欠 な 技 術 と な っ て い る[55−57] 以下に,現在,量産技術に使われている代表的な 薄膜形成方法及び研究・開発が推進されている成膜 技術などについてまとめる. 5. 1 マグネトロンスパッタリング法 図 8 に示されるマグネトロンスパッタリング法 は,液晶ディスプレイ製造プロセスにおいて用いら れており,大型基板に適応可能な成膜手法である. 真空チャンバー内に Ar や O2のようなガスを導入 し,出発物質を焼結したターゲットに対してマッチ ングボックスを介して 13.56 MHz の電力を投入す ることでプラズマを生成する.それによって,ヒー ターで温度制御された基板に対して薄膜を形成す る.DC 電力を投入する方法もある. 図 6 プラズマディスプレイ発光原理と蛍光体 の例 図 7 有機 EL の構造の例(SONY ホームページより) ― 19 ―

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5. 2 プラズマ化学気相成長法(Plasma chemical va-por deposition(P-CVD)) 図 9 に示される P-CVD 法は,真空チャンバーに 材料ガスを導入し,設置された平行平板電極の一方 に基板を設置し,もう一方に RF 電力を印加するこ とでプラズマを形成し,化学反応をおこさせて基板 に成膜を行う方法である.本方法は大面積基板に適 用可能な方法であり,TFT 用絶縁膜である,SiNx, SiO2,活性層であるアモルファスシリコン薄膜の形 成に広く用いられている.ただし,プラズマ密度が 低いため,基板温度の低下とともに膜質が著しく劣 化するため,低耐熱性基材には適応しにくいという 課題がある. 5. 2. 1 誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma(ICP)) 図 10 に示される ICP-CVD 法は磁界の時間変化 で電界を誘導し放電を維持するタイプのプラズマを 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ ( Inductively Coupled Plasma :

ICP)と呼ぶ[58, 59].磁界はコイルなどによって誘起 され,誘電体窓などを介して真空チャンバーへと導 入され,プラズマ密度が 1012 ∼1018 cm−3 と高いこと が特徴である.しかし,大口径化が難しく,メート 図 8 RF マグネトロンスパッタリング法の概念図 図 9 プラズマ CVD 法の概念図 表 3 提案されている絶縁膜成膜方法とその特性 成膜方法 大面積化 最高成膜速度(nm/min.) プラズマ密度(cm−3 ) 備考 RFマグネトロンスパッタ ○ 5 ∼1010 低成膜速度で高性能膜 基板へのダメージ大 平行平板プラズマ CVD ○ 100 107 ∼108 大面積基板適用可能 低温化に課題 ICP-CVD △ 35 1012 ∼1013 基板パルスバイアス ALD × 2 LSI・研究用途・膜質良好 ECRスパッタ・CVD × 5 1012 ∼1013 高密度プラズマ PLD × 2 − 研究用途・膜質良好 Cat-CVD ○ 180 − 研究開発が行われている マイクロ波プラズマ × − 1010 ∼1011 研究開発が行われている 図 10 ICP-CVD 法の概念図 ― 20 ―

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ルサイズの均一な ICP は実現できていないのが実 情である.また,基板側にバイアス電力を印加する ことによって反応性を制御し,膜質の劣化を防ぎな がら成膜レートを向上する方法が高知工科大学の研 究グループによって提案されている[60] 5. 2. 2 電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ法 図 11 に示される ECR 法は,投入するマイクロ 波の周波数と電子サイクロトロン周波数が等しくな る磁場を印加し,電子サイクロトロン共鳴吸収 (Electron Cyclotron Resonance : ECR)過程によって 電子を選択的に加速することで高密度なプラズマを 発生する手法である.これにより,真空チャンバ中 の材料ガスを反応させ,基板へと成膜する.しかし ECR共鳴を起こす磁場を大面積にわたり均一生成 することが困難なため,大面積化には課題を有す る[61, 62]

5. 2. 3 パルスレーザー堆積法(Pulsed laser

deposi-tion(PLD)) 図 12 に示される PLD 法は,真空チャンバー中 に設置された出発材料を,パルス状のエキシマレー ザーによって叩き出し,基板に成膜を行う方法であ る.本方法は出発材料に対して形成された薄膜の組 成ずれが少ない方法である.出発材料が非常に精度 よく薄膜として形成できるため,研究分野で活用さ れている.ただし,本方法は大面積基板への適用は 困難であるとされている[16, 61] 5. 2. 4 触媒化学気相成長(Cat-CVD)法 図 13 に示される CAT-CVD 法は,真空チャンバ ー中に材料ガスを導入し,真空内部に設置された高 温の触媒によって化学反応を促進し,基板へと成膜 を行う方法である.本方法は,北陸先端科学技術大 学院大学にて提案された方法であり,現在研究開発 が活発に行われている方法である[64, 65]

5. 2. 5 原子層堆積法(Atomic layer deposition (ALD)) 図 14 に示される原子層堆積法は,図に示すよう に,目標とする元素を含む材料を順に基板に供給, 排気を繰り返し,一層ずつの分子膜を形成していく 方法である.本方法により,超格子などの極めて精 密に制御された薄膜を形成することができる.その ため,研究・開発ともに広い範囲で推進されてい る[66] 半導体デバイス技術の発達や低コスト化,高性能 化の要請から高品質な薄膜を大面積に速く低コスト 図 11 ECR-CVD 法の概念図 図 12 PLD 法の概念図 図 13 Cat-CVD 法の概念図 ― 21 ―

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で形成する技術が望まれている.従来実用化されて いる成膜用プラズマ装置としては,高付加価値な電 子デバイス製品などに向けた薄膜形成装置であった ため,大掛かりで初期投資の大きい真空チャンバ, 真空用排気装置,成膜ガス供給装置,プラズマ形成 用電源などから成っている.しかし,技術の発達, 拡散,それによる価格や機能の競争が激しくなり, 製品の低コスト化・高効率化が国際的に必要となっ てきている.そのため,企業,大学,研究機関より 各方面へ向けた応用を目指したプラズマ源の提案が 行われている. 各成膜方法には全て一長一短があり,大面積に低 コストで薄膜を合成する技術に関しては未だ有効な 解決方法は存在していない.そのため,今後も研究 開発競争が激化していくと考えられる. また,これら薄膜形成用プラズマ技術は,ガラス 基板のように数百度以上の熱処理に対して安定な基 板に対して薄膜を形成することを目的としている. そのため,今後必要とされる低耐熱性基材への薄膜 形成については,広い範囲での技術開発が必要とさ れている.

6

電子書籍端末の現状

これまではディスプレイ技術として,表示してい る間絶えずに電力を消費するものを紹介してきた. それに対して,電子ペーパーは画像を書き換えると きにのみ電源を消費し,バックライトを必要としな い,超低消費電力表示デバイスである.電子ペーパ ーは,ノートパソコン,携帯電話,また新聞等の現 存する情報端末と比べ,携帯性,可搬性,軽量性な どに優れている.そのため,用途として,動画表示 の性能が必要とされない個人情報端末や車内・公共 交通等の広告,行先表示(デジタル・サイネージ), 電子新聞等情報端末として莫大な市場が期待されて いる. そのため,電子書籍や,電子辞書のような個人用 の情報端末は 20 年以上前より開発が行われている. 電子辞書はその利便性から一般に普及しているのに 対し,電子書籍は多数の商品が開発されたが,この 2, 3年前まで一般に普及するような製品はなかった.

近年 SONY の Librie や Amazon の Kindle シリー ズなどが商品として提案されている.特に 2008 年 に米 Amazon 社から発表されたマイクロカプセル 方式電子ペーパーを採用した電子書籍端末「Kin-dle」は,その性能・デザイン・コンテンツから大 人気となった.これを契機に電子書籍市場は爆発的 な広がりをみせており,Google 社などが参入して いる. 現状では電子ペーパーの表示デバイスは,ガラス 基板に対して白黒のマイクロカプセル方式モジュー ルを採用した凸版印刷(株)と米 E Ink 社の独占状 態にある.本 E Ink は電子ペーパーとしては世界で 圧倒的なシェアを誇る表示技術である.本技術はア メリカのマサチューセッツ工科大学の研究所に所属 していた 20 歳代の若者が提案し,その後 4 人でベ ンチャー企業 E Ink 社を設立し,広がってきたと言 われている.わが国でも,このような世界中にイン パクトを与えるような技術が若い世代から生まれる に違いないと考えている[67−70].現行の電子ペーパ ーは全て白黒であり,カラー電子ペーパーを実用化 することができれば,大きな展開を見せることは明 白である.そのため,表 4 に示すように各社がカラ ー電子ペーパー技術を提案している.米 SiPix Imag-ing社はマイクロカップ内で粒子を移動させ,液体 の色を表示させる方式を,またブリヂストン社は着 色した電子粉粒体をピクセル内で移動させることで 色を表示させる方式を提案している.本方式による 図 14 ALD 法の概念図 ― 22 ―

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方式 粒子移動型

開発メーカー 米E Ink 米SiPix Imaging社 ブリヂストン 富士通

原理と 基本構造 マイクロカプセル内の 粒子を電界で上下させる。 マイクロカップ内の 粒子で液体の色を表示 電子粉粒体の 移動で階調を 表示 RGB3色の光を反射する 液晶を積層。 製品像 SONY Reader PRS-700BC Amazon Kindle 6インチ A3サイズ物 棚札等 8型最大26万色 試作段階 ボタン 代替 6型 コレステリック液晶 カラー電子ペーパーは A 3 サイズの棚札をテスト 販売するレベルまできている.また,富士通は RGB 三色の光を反射するコレステリック液晶を積層する ことでカラー表示を行う方式を提案している. 2010年 7 月には電子書籍の業界団体が発足し, 同年 12 月には凸版印刷株式会社が,有機トランジ スタをフレキシブル基板上に形成することに成功し ており,今後カラー化も含めて大きな進展を見せる ことが期待される[67−71]

7

フレキシブルディスプレイへ向けて

従来の薄型ディスプレイ技術の発達により,情報 端末用ディスプレイは液晶ディスプレイに代表とさ れるように,軽量化,低価格化が極めて急速に進ん でいる.それとともに,ガラス基板ではなく,有機 材料を中心とした軽量でフレキシブルな基板を用い たディスプレイの開発が進んでいる.一般に,フレ キシブル基板と言った場合は,可塑性のある部分を 持つプリント基板(Flexible printed circuits(FPC)) のことを示すことが多いが,本稿では,FPC では なく,基板自体が可塑性を持つ基板材料を示す. 例として,酸化物半導体 TFT が PET などの可塑 性のある,プラスチック基板上に形成されたよう に,半導体デバイスをフレキシブル基板上に形成す る技術が提案されている. 本技術によって,フレキシブルデバイスが実現さ れる可能性も出てきた.しかし前述のように,半導 体デバイスは複数の薄膜で形成されており,その実 現のためには,各材料に関して技術の進展が必要と される.特に,基板そのものがフレキシブルになる ため,その上でのデバイス形成は非常に困難が予想 される. これらの技術の発達に際して必要不可欠な材料 が,当然のことながらガラス基板に替わるフレキシ ブル基板である.それに必要とされる特性は, 1)曲げても壊れないこと 2)軽いこと 3)熱安定性が高いこと(寸法安定性,機械強度) 4)透明であること 5)化学的に安定であること 6)従来の薄膜形成技術と親和性が高いこと があげられる.そのための候補となるデバイス用フ レキシブル基板材料を以下に紹介する. 7. 1 ステンレス基板 フレキシブルデバイス形成のアプローチとして, 基材が低耐熱性である必要は全くない.そのため, 従来の TFT 形成温度に対して耐熱性のある基板を 用いる方法も提案されている.2010 年にはフレキ シブルなステンレス基板を用いた電子ペーパーの実 用化が報じられた.本デバイスは,ガラス基板をフ レキシブルステンレス基板に置き換えたアモルファ 表 4 電子ペーパーの表示形式 ― 23 ―

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材料名称 化学式 ガラス転移温度℃ PEN ポリエチレン 2,6ナフタレート PES ポリエーテル サルフォン COS シクロオレフィン ポリマー PC ポリカーボネ―ト PET ポリエチレン テレフタレート 170~200 180~225 123~139 155 80~100 スシリコン TFT によって E Ink 社の電子ペーパー を駆動したデバイスであるとされている[70, 72] 7. 2 フレキシブル基板の種類 フレキシブル基板としては,有機材料が一般的に 取り上げられる.フィルムとしては極めて多数の材 料が見出されており,その用途はスーパーマーケッ トの買い物袋のような一般的な包装から,光学的な 機能をもたせたものや,映画のフィルムのようなデ ータ記録用フィルム,高温でも安定なポリイミドテ ープ,テフロンのような化学的に極めて安定かつ絶 縁性が高い材料,また,電池のセパレータや,撥水 性を持ちながら水蒸気は透過するような多機能な膜 などまで,その機能,コスト,目的に合わせた材料 が各方面で実用化されている. 本報告ではガラス基板に変わる透明な有機フレキ シブル基板として,PEN, PES, COS, PC, PET の化

学式とガラス転移温度を表 5 にまとめた[73−75].各 材料はその特性に応じて 2 軸延伸形成などによって 強度を制御したり,バリア性を上げるための表面処 理をしたりするなどの方法が取られる.フレキシブ ル基板の開発は多方面で進められており,今後も高 品質な基材が発表されることが見込まれる. 7. 3 フレキシブルディスプレイ これらの基板を使ったフレキシブルデバイスの試 作は今世紀に入ってから活発化している.デバイス の内容としては,フレキシブル基板上に形成した TFTを用いた液晶ディスプレイや有機 EL デバイ ス,電子ペーパーなどが上げられる.フレキシブル デバイス用 TFT 素子としては,従来のシリコン系 材料を用いたものや,ZnO や IGZO などの酸化物 TFTを用いた材料,また有機材料を TFT の活性層 としたデバイスが開発されている.その論文数は各 分野においてこの数年で爆発的に増加している.現 状では低温形成トランジスタの研究・開発の焦点 は,その特性の継続動作に対する安定性に関する評 価・そのメカニズム解析・安定性向上のための新規 材料開発などへと移ってきている. 図 15,16 のように,フレキシブルなディスプレ 表 5 フレキシブル基材の例 図 15 SONY 社による巻き取り可能な有機 EL ディスプレイ[43] 図 16 アリゾナ大学によるフレキシブルディス プレイ[76] ― 24 ―

(11)

イとして,有機材料によるディスプレイなどの試作 が各所で行われている[43] 7. 4 フレキシブルデバイスへ向けたその他の要素 技術 フレキシブルデバイス形成のためには,曲がりや すい基材への成膜,パターン形成のための露光,エ ッチング,基材の洗浄など,すべてのデバイス形成 プロセスを開発する必要がある.したがって,フィ ルムへの成膜関連技術,フレキシブル基材用露光装 置,フレキシブル基材用スパッタ装置,パターン転 写技術などが活発に開発されている[56]

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むすび

昨今の酸化物半導体を用いた薄膜デバイスや,そ の応用に関する研究・開発の進展は目覚ましいもの があり,その波及効果は多方面にわたり,国際的な ものとなっている.本稿で述べたように,研究テー マは材料や,その形成プロセス,素子の形成技術, そのデバイス応用技術,各デバイスの他分野への展 開など,多岐にわたっており,今後も研究・開発は 広範囲で行われるであろう. 参考文献 [ 1 ] ガラス産業連合会 GIC ガラスミュージアム http : //www.gic.jp/museum/tv_tale/. [ 2 ] 日経エレクトロニクス 2009 年 6 月 29 日号(2009) 33. [ 3 ] フジフィルムホームページ http : //www.fujifilm.jp/. [ 4 ] 薄膜材料デバイス研究会,“薄膜トランジスタ”,コ ロナ社(2008).

[ 5 ] C. R. Kagan, P. Andry, “ THIN-FILM TRANSIS-TORS”, MARCEL DEKKER, Inc., New York, USA (2003).

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図 1 情報デバイスの例

参照

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