原 著
*
大分県立看護科学大学(Oita University of Nursing and Health Sciences)
2005年6月2日受付 2006年3月31日採用
断乳時の桶谷式乳房マッサージによる主観的不快症状,
乳房緊満および乳房表面皮膚温度の変化
The change of subjective indisposition, engorgement,
and mammary surface skin temperature by the Oketani style
breast massage in the child weaning period
吉 留 厚 子(Atsuko YOSHIDOME)
*小 西 清 美(Kiyomi KONISHI)
* 抄 録 目 的 研究の目的は断乳時における乳房マッサージの刺激による影響を,母親が感じる主観的不快症状,乳 房緊満および乳房表面皮膚温度の変化から明らかにする。 対象者および方法 対象者は桶谷式マッサージを受けた産後12ヵ月から2年1ヵ月までの母親10名であった。主観的不快 症状は対象者よりVAS(0-10)で,乳房緊満は助産師がVAS(0-10)にて測定した。乳房表面皮膚温度の測 定は,赤外放射温度計サーモトレーサ(TH5104,NEC三栄)で,乳房マッサージ施行前と施行後1分・ 3分・5分とした。分析は熱画像処理プログラム(TH51-701)を用いて,最高温度・平均温度を求めた。 結 果 憂鬱な気分は断乳3日,10日目のマッサージ前には顕著に訴え,マッサージ後には改善された。乳房 マッサージにより,乳房緊満は軽減された。断乳3日目では,乳房表面皮膚温度は8名中7名がマッサー ジ後に上昇していた。断乳10日目の乳房表面皮膚温度はマッサージ後に6名中2名上昇し4名は下降した。 結 論 桶谷式乳房マッサージは血液循環を良好にし,不快症状を緩和しながら適切な断乳を行うための効果 的な方法であると考えられる。 キーワード:断乳,桶谷式乳房マッサージ,乳房表面皮膚温度,不快症状 Abstract PurposeThis study attempted to clarify how effectively breast massages change subjective indisposition of gloom, en-gorgement, and mammary surface skin temperature by utilizing the Oketani style breast massage during the child weaning period.
断乳時の桶谷式乳房マッサージによる主観的不快症状,乳房緊満および乳房表面皮膚温度の変化 Method
Subjects were 10 women who received the Oketani style breast massage from 1 year to 2 years and a month after birth. A midwife measured engorgement, and the mothers measured subjective indisposition of the mammae before and just after the massage using the visual analog scale. Mammary surface skin temperature was measured with the Thermo Tracer (TH5100, NEC) device. Data were gathered before the first breast massage and then just after, at intervals of 1, 3, and 5 minutes. The maximum and mean mammary surface skin temperature were mea-sured by the Thermal image treatment program (TH51-701).
Result
The subjects clearly complained of gloominess, but their gloom was improved after massage on the 3rd and 10th weaning days. The engorgement of mammae was reduced by the mammary massage. The mammary surface skin temperature of 7 out of 8 subjects rose after the massage on the 3rd weaning day. The mammary surface skin temperature of 2 out of 6 subjects rose, and the other 4 subjects' temperatures fell after the massage on the 10th weaning day.
Conclusion
Over all, the use of the Oketani style breast massage in the child weaning period proved to be more effective for improving blood circulation of the whole mammae and is an effective way to reduce a mother's mammary dis-comforts.
Key Words : wean, Oketani breast massage, mammary surface skin temperature, indisposition, engorgement
Ⅰ
.緒 言
わが国では,乳汁分泌促進のため多くの産科施設 で乳房マッサージが行われている。乳汁分泌促進のた めの乳房マッサージは乳房全体の血液循環を促し,乳 頭・乳輪部に関しては外的な刺激への慣れを作り,乳 汁産生・泌乳,哺乳行為をスムーズに行わせる。また, マッサージを受けた母親から「おっぱいが軽くなった」 とよく聞くことがあるが,乳房が軽くなったとは, 1. 乳房基底部の可動性が増し,増加している乳房圧に より胸壁を圧迫していた状態の除去,2. 乳房体積の減 少,重量の減少,3. 乳房緊満感と疼痛の解除された(根 津, 1997)ことを意味する。桶谷式乳房マッサージは, 哺乳行為をスムーズに行なわせるだけでなく,哺乳を 止める際に助産師によっても行われる。これを桶谷式 断乳と呼び,母親の意志により児に乳房を吸啜させな いようにし,助産師の管理の下で定期的なマッサージ を行ないながら実施することをいう。断乳の方法には いくつかあり,桶谷式乳房管理法に基づいた乳房ケア では,乳房内に乳汁を残したままで放置しておくと次 回の妊娠・授乳に悪影響を及ぼす可能性があるので, 助産師によるケアが必要である(喜多, 1995)。しかし, 断乳時における乳房マッサージの科学的効果に関する 研究は行われていない。 授乳婦の乳房緊満については,武井が自作機器を使 用し乳房緊満を測定し,同時に助産師とのVAS(Visual Analog Scale)による主観的な評価を検討した結果, 両方法間に有意な相関が得られ(1998),助産師による 主観的な乳房緊満の評価は信頼性が認められた。また, 痛みの評価についても,VASは信頼性が証明されてい る(Carlsson, 1983)。不安や憂鬱についてもVASによ り評価され(日高他, 2004)(後山他, 2003),肩こりに 関しても坂口等がVASにより評価している(2005)。 母乳を与えている母親に対しての乳房表面皮膚温度 についての先行研究では,母乳分泌不足の女性35人 と哺乳を止めた女性43人を対象に,セラミックスの 遠赤外線放射により乳房を温め乳房表面皮膚温度を検 討した結果,血管拡張を促して乳汁分泌を活発にする (Ogita et al, 1990)とした報告がある。乳房マッサージ による乳房表面皮膚温度の変化についての先行研究で は,根津は産褥早期に乳房うっ積がみられる症例につ いて,マッサージ前後に乳房を撮影した画像結果より, マッサージ実施後には乳房皮膚温は下降していたと報 告している。乳房のうっ血により皮静脈への血流が増 加し乳房表面皮膚温度は上昇するため,乳房マッサー ジにより基底部並びに乳腺体の血液循環が改善され, 皮静脈への血流が減少する結果,乳房表面皮膚温度は 下降する(1997)と考えられた。しかし,この報告で は対象者の人数・産褥時期,乳房うっ積の程度,マッ サージ方法などが記載されていない。また,マッサー ジ後の撮影は直後だけであるので,その後の温度変化 については不明である。分娩後6日から40日の母乳哺 育中の女性を対象にした桶谷式乳房マッサージ前後の 乳房表面皮膚温度を測定した報告は,マッサージ前の上昇して,それ以後15分後までその温度を持続して いた(野口, 1992)。この報告に関してはマッサージ後 5分より測定しているが5分後から実施する根拠の記 載はない。 乳房マッサージ刺激による乳房表面皮膚温度の変化 は,産褥早期で乳房うっ積を生じた際にマッサージを 行うと一時的に温度を下降させる。しかし,母乳哺育 中の乳房に対するマッサージ刺激では乳房表面皮膚温 を上昇させる効果がある。断乳時の乳房の状態は,乳 腺内に乳汁がうっ滞し,産褥早期に生じる乳房うっ積 と同様に乳房内圧が高まり皮静脈に血液量が増加して いる(根津, 1997)と考えられるので,仮説としてマッ サージ後に一時的に温度が下降する。また,主観的不 快症状および乳房緊満はマッサージ後には改善される と思われる。 研究の目的は断乳時における乳房マッサージの刺激 により,母親が感じる主観的不快症状や乳房緊満の改 善を検討し,乳房表面皮膚温度の変化を明らかにする ことである。 用語の定義 桶谷式断乳:母親の意志により児に乳房を吸啜させな いようにし,助産師の管理の下で定期的なマッサージ を行ないながら実施することをいう うつ乳:うつ乳とは何らかの原因により,乳腺内に乳 汁がうっ滞した状態で,自発痛,圧痛を伴う硬結を形 成し,細菌感染を伴わないもの 乳房うっ積:産後主として3∼4日目を中心に起こっ ている血液循環障害状態 乳房基底部:乳腺体の後面(浅胸膜)と胸筋膜との境 界部
Ⅱ
.方 法
1.対象者 A市内のB産婦人科医院で断乳の乳房マッサージを 受けた産後12ヵ月から2年1ヵ月までの母親10名で,1 回あるいは継続的に測定し,のべ測定数は15人であっ た。乳房マッサージを受けた母親の平均年齢は29.3歳 で,最高年齢35歳,最低年齢23歳であった。初産婦5 名,経産婦5名であった。 3.実施期間 平成15年7月19日から9月17日で,実施時間帯は午 前10頃から12時30分,午後は14時から17時であった。 4.対象に行われる断乳ケア B産婦人科医院に勤務し桶谷式乳房マッサージを 行っている助産師により断乳時の乳房マッサージが実 施された。マッサージを行う助産師は30年間の助産 師歴で,月平均360名に乳房マッサージを行っている。 なお,対象への乳房マッサージはすべて1人の助産師 が行うことで,マッサージ技術に差が出ないよう配慮 した。断乳ケアは通常3回の乳房マッサージを行って いる。1回目は授乳をやめて3日目,2回目は1回目から 1週間後(断乳10日目),3回目は2回目から2週間後(断 乳24日目)に乳房マッサージを行う。1回目・2回目の マッサージ時間は1時間で,最終の3回目は約30分で ある。 5.主観的不快症状の測定 研究前に助産師および実際に桶谷式マッサージ手技 により断乳をしている母親2名より,断乳の際の特質 した症状について聞き取りを行い,①憂鬱な気分,② 肩こり,③頭痛,④寒気,⑤吐き気,⑥指先の冷感 が認められた。そこで全症例に6種類についてVisual Analog Scale(VAS:0から100mmのスケール)を用い て測定した。0を「全くなし」,100mmを「非常に強く ある」として,乳房マッサージの前後で状態にあては まる目盛りを対象者に記入していただいた。 6.乳房緊満の測定 乳房マッサージを実施した助産師が乳房緊満の度合 いを,主観的にVASを用いて,0を「全く張っていない」, 100mmを「非常に張っている」として測定した。 7.乳房表面皮膚温度の測定方法 1 )乳房表面皮膚温度の測定時間 桶谷式マッサージでは温タオルを用いるので,調査 前に温タオルの乳房表面皮膚温度に与える影響を検討 した。20代で妊娠を否定され他に重篤な疾患を有しな い健康な女性5名に,調査施設で使用する湯温55℃で 絞った温タオルで30分間の内に3回タオルを交換して断乳時の桶谷式乳房マッサージによる主観的不快症状,乳房緊満および乳房表面皮膚温度の変化 乳房を温めた。実施前および実施直後,1分後,2分後, 3分後で乳房表面皮膚温度を測定した結果,実施直後 の温度は上昇したが,終了後1分で実施前の温度に戻 りその後変化はなかった。調査の測定は乳房マッサー ジ施行前と施行後1分・3分・5分とした。 2 )測定環境の設定 対象は,環境に慣れるために測定する前に室内で 10分程度安静にした。サーモトレーサを対象から約 90cm離れた所に設置し,対象者がマッサージの前後 で常に一定の位置に座れるようベッドにテープで印 をつけた。また,対象者には深く腰掛けて背筋を伸ば してもらうことで,マッサージの前後で撮影される範 囲を一定にした。測定範囲を決めるために乳房上縁に 金属定規を当て撮影した。室温は25 1℃,湿度60 10%であり,直射日光やエアコンの風が対象者に当た らないことを確認した。 3 )赤外放射温度計サーモトレーサの検定 赤外放射温度計サーモトレーサ(TH5104,NEC三 栄)の測定値の正確さを検討するために,コップに 37℃の湯を入れ,使用手順に従って,レディーランプ が点灯後5秒,10秒,20秒,30秒,1分の5回撮影した。 その後反復測定を行い3回測定した。温度を分析した 結果,5秒後より1分後の測定期間中は安定していた。 実際の撮影に際しては5秒後より実行した。 8.統計解析 乳房表面皮膚温度変化の統計解析は対象者それぞれ の乳房の下縁と撮影時に用いた金属定規とで囲まれた 部位を範囲指定し,熱画像処理プログラム(TH51-701) を用いて,指定範囲の最高温度・平均温度を求めた。 統計解析ソフトSPSS ver.12を使用し一元配置の分散 分析,Bonferroniの多重比較を行なった。主観的症状, 乳房緊満については,Wilcoxonの検定を行った。 9.倫理的配慮 研究目的,研究方法と研究の参加は自由意思であり 研究に協力していただけなくても不利益が生じないこ と,研究の成果を発表する際には施設名,個人名は記 載せずに調査データは全て匿名化し個人を特定できな いようにすること,調査データは研究目的以外に使用 しないことを明記した依頼書を対象者に見せて研究者 が口頭で説明し,同意が得られた参加者からは研究同 意書に署名を得た。本研究は大分県立看護科学大学研 究倫理・安全委員会より研究の承認を得た。
Ⅲ
.結 果
1.主観的不快症状の変化 図1に断乳3日目,断乳10日目のマッサージ前後に おける主観的症状の変化をVASで示した。断乳3日目 では,「憂鬱な気分」をマッサージ前には8人全てが訴 えていた。マッサージ後には8人全ての症状が軽減し た。VASの平均値はマッサージ前7.3 SD2.4であり, マッサージ後は1.5 1.8で有意に減少した(p<0.05)。 8人中6人の母親がマッサージ前に「肩こりがある」と 回答した。マッサージ後6人中4人に肩こりの症状が 軽減した。VASの平均値はマッサージ前3.6 3.1であ り,マッサージ後は2.1 1.8であった。「頭痛」はマッ サージ前に8人中3人,「寒気」は2人,「吐き気」は1人, 「指先のしびれ」も1人であり,マッサージ後に症状が ほとんど改善した。 断乳10日目では全員が「憂鬱な気分」を訴え,マッ サージ後には症状が軽減した。VAS平均値はマッサー ジ前3.0 1.7であり,マッサージ後は1.3 1.5であった。 肩こりについては6人中5人に自覚症状があり,マッ サージ後は5人中4人に改善がみられた。VAS平均値 はマッサージ前2.7 1.8であり,マッサージ後は1.8 1.5 であった。頭痛,寒気,吐き気,指先のしびれは認め られなかった。断乳24日目では,断乳10日目まで顕 著にみられた「憂鬱な気分」は全くなく,その他の不 快症状の訴えもみられなかった。 2.乳房緊満の変化 図2に断乳3日目,10日目のマッサージ前後におけ る乳房緊満の変化を示す。断乳3日目におけるVASの マッサージ前 マッサージ後 *p<0.05 * 憂鬱な気分 肩こり 憂鬱な気分 肩こり 3日目(n=8) 10日目(n=6) VA S 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 −1 図1 離乳3日目・10日目における主観的症状の変化平均値は,右乳房でマッサージ前は6.3 2.1,マッサー ジ後は2.3 1.3であり,左乳房ではマッサージ前が6.1 2.5,後は2.0 1.1で有意に減少した(p <0.05)。断 乳10日目でのVASの平均値は,右乳房でマッサージ 前は2.3 1.0,マッサージ後は0.8 1.0であり,左乳房 ではマッサージ前が2.3 1.0,後は0.7 1.0で有意に減 少した(p<0.05)。断乳24日目においては,左右乳房 ともマッサージ前から緊満は0であった。断乳期間が 長くなる程,マッサージ前の乳房緊満は緩和された。 3.乳房表面皮膚温度の変化 図3,4,5に断乳3日目,10日目,24日目の乳房マッ サージ前後の個別乳房表面皮膚温度変化を示す。断 乳3日目では,8名中7名がマッサージ前に比べてマッ サージ後の乳房表面皮膚温度は上昇していた。また, 上昇がみられた7名中6名はマッサージ後1分より,3 分・5分の方が乳房表面皮膚温度は高く,類似した温 度変化の経過をたどった。図6に断乳3日目の全母親 の乳房表面温度の平均値を示す。測定範囲内の最高温 度の平均値は乳房マッサージ前34.5 0.5℃,マッサー ジ後1分で35.1 0.7℃,3分後35.5 0.5℃,5分後は35.6 0.5℃であった。前後差は1分で0.6 0.9℃,3分後で0.9 1.0℃(p<0.05),5分後で1.1 1.1℃(p<0.01)であっ た。マッサージ施行後,乳房表面皮膚温度は有意に上 昇していた。断乳10日目では,マッサージ後6名中2 名の乳房表面皮膚温度が上昇し4名は下降した。最高 温度の平均値はマッサージ前35.0 0.5℃,1分後35.0 0.3℃,3分後35.1 0.4℃,5分後35.3 0.5℃であった。 断乳24日目では,マッサージ後,乳房表面皮膚温度 は上昇していた。 4.断乳後10日目の乳房緊満と乳房表面皮膚温度 乳房緊満は,実施前6人とも自覚がありVAS値の平 均は左右乳房共に2.3であり,実施後に4人は消失した。 高温度が一番低い34.7℃の人は実施後に温度は上昇し, 乳房緊満は前後とも変化せず3であった。残りの1人 は妊娠中の断乳であり,乳房緊満は前後とも変化せず 自覚していた。乳房表面皮膚温度の実施前の最高温度 は35.8℃と最も高く,実施後に下降しその後上昇した。
Ⅳ
.考 察
うつ乳については「乳汁の排出不全が原因で乳房が 腫脹・硬結を形成し自発痛および圧痛を伴うが,乳汁 のうっ滞を除去することでこれらの症状が消失するも の」(高田, 1991),また「何らかの原因により乳腺内に 乳汁がうっ滞した状態で,自発痛や圧痛をともなう硬 結を形成し,細菌感染を伴わないもの」(根津, 1997) である。断乳時の授乳を停止した乳房は,乳汁がうっ 滞した状態であり乳房マッサージによる排乳で不快症 状が軽減するため,硬結の形成はないがうつ乳に近い 状態と考えられる。 対象者の主観的症状変化については,断乳ケア最終 日の断乳24日目の対象者を除いた全対象者がマッサー ジ前には「憂鬱な気分」を訴えており,断乳によるう つ乳状態は,憂鬱な気分を伴うことが明らかにされた。 断乳3日目での「憂鬱な気分」は10日目と比較すると 強く出現し,24日目では消失していることより,「憂 鬱な気分」は授乳を停止してからの期間が短いほど強 いことが明らかになった。「肩こり」についても同様に 断乳3日目が10日目・24日目より強く症状を訴えてい た。授乳を停止した直後はまだ乳汁が産生されている ため,断乳によりうつ乳に近い状態となり,不快症状 を出現させていると思われる。授乳停止後,乳腺房圧 の高まりにより徐々に乳腺組織が萎縮し乳房への血流 量が減少する。また,うつ乳状態の継続は血中プロラ クチン濃度を低下させ,乳汁産生・分泌は減少し停止 する。母乳を与えない非授乳の母親では,血中プロラ クチン濃度は,ほぼ産褥1週間位で非妊時の値に近く なり(根津, 1997),断乳24日目頃になると乳汁の産生 が停止されつつあるため,乳房緊満がなく不快症状も ないと考えられる。乳房マッサージにより血液循環が 改善し,乳房緊満が軽減されることが,「憂鬱な気分」 の解消につながると考えられる。東田(1992)は,断 乳療法の原理として,授乳を停止することにより腺胞 が拡張し,基底部が圧迫され,乳房組織は圧搾された 図2 離乳3日目・10日目における乳房緊満の変化 * * *p<0.05 7 6 5 4 3 2 1 0 −1 VA S 右乳房 左乳房 右乳房 左乳房 3日目(n=8) 10日目(n=6)断乳時の桶谷式乳房マッサージによる主観的不快症状,乳房緊満および乳房表面皮膚温度の変化 図3 離乳3日目における個別乳房表面温度変化 1 2 3 4 5 6 7 8 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 37 36 35 34 33 32 31 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 37 36 35 34 33 32 31 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 37 36 35 34 33 32 31 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度
図4 離乳10日目における個別乳房表面温度変化 図5 離乳24日目の乳房表面皮膚温度変化 図6 離乳3日目の平均乳房表面皮膚温度変化 11 12 13 14 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 37 36 35 34 33 32 31 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 温 度 ︵ ℃ ︶ 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 施行前 1分後 3分後 5分後 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 最高温度 平均温度 37 36 35 34 33 32 31 温 度 ︵ ℃ ︶ 施行前 1分後 3分後 5分後 最高温度 平均温度 37 36 35 34 33 32 31 温 度 ︵ ℃ ︶ 施行前 1分後 3分後 5分後 最高温度 最低温度 *p<0.05 **<0.01 n=8 ** * * *
断乳時の桶谷式乳房マッサージによる主観的不快症状,乳房緊満および乳房表面皮膚温度の変化 状態となるが,このような状態で,適度な搾乳,冷湿 布で,拡張による苦痛を緩和し,排乳障害を予防しな がら,間隔をおいて治療手技を行うことにより泌乳機 能が低下していくと報告している。断乳時における不 快症状の出現は,うつ乳により乳房圧が高められ血液 循環の悪化を招くことが原因と考えられる。乳房マッ サージにより不快症状は軽減されることから母親の苦 痛緩和に有効であると思われる。 同一助産師による産褥3∼5日目の乳房うっ積が生 じる時期のマッサージ前のVASの乳房緊満値は,4.1 ∼4.8(長谷川, 2002)3.7∼4.2(濱砂, 2003)であり,断 乳3日目では産褥早期の乳房緊満の値より高く,断乳 10日目では低かった。乳房緊満の変化は,断乳10日 目では3日目よりかなり軽く,24日目では緊満が全く 認められなかったことから,3日目では乳汁が産生さ れたにも関わらず排乳がされないため,うつ乳状態か ら乳房緊満を引き起こし,産褥早期の乳汁分泌を積極 的に行う時期よりも程度が強くなったと推測される。 断乳10日目・24日目と断乳期間が経過するにしたが い,乳汁産生が抑制され減少したため緊満も軽減した と考えられる。マッサージ前の乳房緊満のVASの値 に比べ,マッサージ後は有意に減少しており,乳房マッ サージにより排乳が行われ,うつ乳状態が緩和され乳 房緊満は軽減されたと考えられる。また,適切な排乳 を行うことで乳腺炎などのトラブルを回避しながら乳 汁分泌を徐々に低下させていくため,断乳を行う母親 への援助として断乳時の乳房マッサージは効果的であ ると思われる。しかし,助産師の指導のもとで実施す るので,我慢できない上記の不快症状が出現した際に は,母親自身で自己管理できないことが問題として残 るかもしれない。 断乳時は乳汁がうっ滞した状態であるために乳房圧 が高まり皮静脈への血流が促進され,マッサージ後の 乳房表面皮膚温度は乳房うっ積時と同様に温度が下降 するのではないかと予測したが,断乳3日目では,1人 を除いて類似した温度上昇の経過であった。母乳哺 育を停止した直後であるので,うつ乳状態が各対象者 共に同程度に強いために血液循環への影響が類似した 結果,一律の温度変化を示したと考えられる。乳房表 面皮膚温度がマッサージ後に上昇したのは,乳房マッ サージにより血管,リンパに富んだ組織である乳房基 底部を遊離させることにより乳房内に流入・還流する 血液量を増加させ,乳房全体の血液量が増し(松原, 2004),さらにマッサージによる刺激によりオキシト シンが分泌される(Yokoyama, 1994)。これより,射乳, 排乳が促されることによりさらに乳房内に流入する 血液量が増加し,乳房表面皮膚温度が上昇したと思わ れる。唯一,温度下降を示した1人は,乳房の緊満や 母親の主観的症状において他と大きな差はなく,マッ サージ前の乳房表面皮膚温度が高いこと以外に相違点 はみられなかった。断乳後10日目では乳房表面皮膚 温度の下降・上昇はさまざまであった。乳房表面皮膚 温度が低い場合はマッサージ実施後の温度は上昇し, 乳房緊満はマッサージ前後変化しなかった。平均温度 が35℃の場合は,乳房緊満は実施後にはほとんど消 失していた。しかし,いずれの場合も乳房緊満が軽度 であるので,離乳10日目になると授乳停止後の期間 が長くなり,離乳3日目以降の乳汁分泌量,授乳中の 哺乳量,授乳回数の相違などさまざまな要因が絡み, 対象者によってうつ乳の程度が違い,マッサージ後の 表面皮膚温度が上昇したり,下降したりと色々な温度 変化を示したと考えられる。 断乳の際の乳房表面皮膚温度の変化は乳房うっ積 時の乳房マッサージは乳房表面皮膚温度を下降させる (根津,1997)という結果とは異なった。さらに,血液 循環障害を生じている乳腺炎の場合ではマッサージ後 には乳房表面皮膚温度下降が認められた(吉留, 2004) ことより,断乳時のうつ乳はうっ積や乳腺炎の際に生 じる著しい血液循環障害は生じていないと推察される。 全対象者の温度変化をみると,マッサージ前に皮膚 温が高い場合,後の皮膚温は下降する傾向がみられた。 うつ乳により皮静脈への血流が増加していた状態から マッサージによる血液循環の改善で,皮静脈への血流 が減少した状態に変化したためと考えられる。 以上より,乳房表面皮膚温度変化の視点から断乳時 における乳房の血液循環は,乳腺炎あるいは乳房うっ 積ほどの循環障害はない状態であり,乳房マッサージ により乳房全体の血液循環は改善され,効果的である と思われる。さらに,適切な排乳によりうつ乳状態が 軽減されることで,乳房緊満が緩和し憂鬱や肩こり等 の不快症状の解消につながると推察される。断乳の方 法にはいくつかあるが(桶谷, 1999:根津, 1997),断 乳時におけるうつ乳に近い状態から乳房トラブルを引 き起こさないために,母親個人が適切に乳房管理を行 うことは時には困難であり,乳房にしこりを残す結果 を招く場合もある。母親によっては助産師による乳房 マッサージで断乳をすすめるのは有効であると思われ る。
断乳の時期・方法など実態を調査したもの(柴田ら, 1999)などが報告されているが,断乳時に助産師が行 う手技の効果に関する報告は少ないのが現状である。 母乳哺育継続の奨励とともに,母乳哺育の終了である 断乳についてのマッサージの効果を科学的に明らかに し,適切でスムーズな断乳が促進されるための研究が 必要である。 本研究の限界は,助産師による乳房マッサージ手技 による乳房表面皮膚温度,不快症状,乳房緊満のマッ サージ前後の比較は明らかにされたが,コントロール として母親自身が断乳を行なったケースとの比較がで きなかったので,助産師特有の技術の効果とは断言で きないことである。今後の課題として,自己で断乳を 行なっている母親を対象に同様な研究が必要であると 考える。 文 献 安達由美子(1982).母乳栄養に関連する諸要因の検討, 助産婦雑誌, 36(7), 550-567.
Anna Maria Carlsson (1983). Assessment of Chronic Pain. I. Aspects of the Reliability and Validity of the Visual Ana-logue Scale, Pain, 16, 87-101.
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