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公民的分野における経済概念の説明の実態

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Academic year: 2021

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要旨  筆者は,中学校の社会科・公民的分野における経済概念に関して,2014 年度にアンケート調査を行った。 全国から 400 の中学校が無作為抽出され,社会科教員 158 人の回答を得た。調査結果から,金融政策より財 政政策が詳しく教えられている実態がわかった。たとえば,拡張的金融政策については,金利の低下に言及 せずに景気を改善させることを説明している場合もある。それは貨幣市場に関わる金融政策がなぜ財市場の 増産につながるのかを説明していないことを意味する。また,現行課程の新項目の一つ「預金通貨の創造」 について,その用語が記載された教科書を使用する教員の過半数が説明していないことも判明した。 キーワード:中学校,公民的分野,経済概念,アンケート調査

Ⅰ.はじめに

 本稿は,2014 年度に中学校の社会科・公民的分野 担当の教員に対して実施したアンケート調査(有効回 答数 158)に関して,その集計結果とともに中学校に おける経済概念の説明の実態を考察するものである。 具体的にいくつかの用語や政策の効果を挙げ,教えて いるか否か,教えている場合にはどのように説明して いるかなどを明らかにすることが目的である。また, 中学校では 2012 年度から改訂された学習指導要領に 基づいた教科書が使用されているが,教科書によって 記載の差異があり,新出の項目も含まれており,これ らの教育現場での対応を探っていく。  筆者は,旧課程時代の 2011 年度にも,中学校の社 会科教員へアンケート調査を実施している(有効回答 数 199)。その際は,公民的分野の経済領域を主に 10 の項目に分け,教えやすさ・教えにくさについて調査 を行った。そこでは,「金融,日本銀行,金融政策」 「外国為替市場,貿易収支,貿易摩擦」「GDP,国民 経済計算,景気循環」が教えにくい三項目となった1)  先行研究では,それ以前の課程の時代の調査もある。 宮原(1995)は,経済分野をおよそ 30 の概念に分類 し,小学校(107 名),中学校(41 名),高等学校(47 名)の各教員に共通で教えやすさ・教えにくさについ て三段階で調査した結果が考察されている。中学校で の教えにくい上位 3 概念は,「国民所得と三面等価の 原則」,「機会費用とトレード・オフ」,「絶対優位と比 較優位」であり2),国民経済計算や国際経済に関する 概念が含まれている。  これらを受け,本稿では,教えにくいとされる項目 を中心にいくつかの用語や政策の効果を挙げ,どのよ うに説明されているか確認した。財政政策より金融政 策が教えにくいとされる要因がどこにあるのかについ ても検討する。また,説明しているか否かについて, 教職歴や使用教科書との関連があるかについても調査 した。  本稿の構成は以下の通りである。第Ⅱ節ではアン ケート調査の概要を説明する。第Ⅲ節では,教科書に 記載の多い 6 つの用語を挙げ,説明する際にどのよう に教えているかについて考察する。第Ⅳ節では,経済 政策の効果に関する内容について,帰結・傾向のみが 説明されているか,それともそのような効果が達成さ れるプロセスまで説明されているか確認する。第Ⅴ節

Survey Report

The Journal of

Economic Education No.36, September, 2017

調査報告

公民的分野における

経済概念の説明の実態

-中学校の社会科教員への

アンケート調査からの考察-

Actual Conditions about Explanation of Economic Concepts in Civics: Consideration Based on a Questionnaire Survey for Social Studies Teachers at Junior High School

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では,教科書に記載がない用語も含めどの程度教えら れているか明らかにする。

Ⅱ.アンケート調査の概要

 アンケート調査は,全国各都道府県の中学校から 400 校を無作為に抽出し,質問紙を郵送して実施した (2014 年 12 月~ 2015 年 2 月)。当時の学校基本調査に よれば 10,557 校あったため,3.8% を抽出している3) アンケートの設問は,選択式回答が 25 問と自由記述 回答が 1 問で構成された。回答は,学習指導要領改訂 後の 2012 年度から 2014 年度までに,社会科の公民的 分野を担当した社会科教員に依頼した。担当教員が複 数いる場合はすべての教員からの回答を依頼し,158 の回答を得た。本稿では,選択式回答の集計結果をも とに教育実態について考察する。  回答者を地域別に集計すると表 1 のようになり,各 地域から回答を得られた。回答者の勤務校の設置形態 は,私立 3.2%,国立 0.6%,都道府県立 3.2%,区立・ 市町村立校 93.0% となった。なお,紙幅の関係で,す べての設問,回答,集計表を本稿で示すことはできな いので,詳細は筆者作成のウェブサイト4)で確認され たい。後述の各質問の設問番号(カタカナ)は,その 質問紙の番号と合致する。  回答者の出身学部の分布は,「大学での出身学部を お教えください。ただし学部名称が多様化しているた め「系」と入れています。客観的基準がないため各自 のご判断に委ねます。(設問㋒)」として尋ねたところ, 表 2 のようになった。①教育系学部が 36.9% でもっと も多く,次に⑥人文系学部が 21.7% と続く(2011 年度 の 調 査 で も, 教 育 系 学 部 が 34.7%, 人 文 系 学 部 が 23.6% で同様の傾向であった)。公民的分野の内容を 専門とする②法学系学部と③政治系学部の合計は 16.5%,④経済系学部と⑤経営学・商学系学部の合計 は 14.0% である。  使用している教科書については,「直近で担当した 年度の「中学公民」の教科書について,お教えくださ い。(設問㋗)」と尋ねたところ,表 3 のような集計結 果となった。①東京書籍が 65.0% と過半数を超え,そ のほかで 5% 以上の割合となったのは,②教育出版が 14.6% ⑤日本文教出版が 8.9%,④帝国書院が 6.4% で あった。⑥自由社の使用者はいなかった。なお,今回 の調査は 2012-2014 年度のうち一度でも公民を担当し た教員を対象としている。教科書は,2016 年度の再 改訂以前の,2012 年度の学習指導要領改訂の初版で ある。  回答者の教職歴と公民的分野の担当歴も尋ねた。教 職歴が長い場合,公民的分野の正確な担当年数は覚え ていない可能性もあるため,その場合は教職歴のうち およそ何割担当しているか尋ね,概算で算出した。分 布は表 4 のようであるが,5 年以内が 32.7%,6-10 年 が 26.9% と,教職歴の短い教員の回答が多くなってい る。もっとも公民担当歴の長い回答者は 30 年であっ た。 表 1 回答者の勤務校の地域分布(百分率,有効回答数 158) 地域 北海道・東北 関東 中部 近畿 中国・四国 九州・沖縄 百分率 17.7 24.1 17.1 10.1 16.5 14.6 表 2 回答者の出身学部(百分率,有効回答数 157) 学部 ①教育系学部 ②法学系学部 ③政治系学部 ④経済系学部⑤経営学・商学系学部 ⑥人文系学部⑦その他の文系学部 ⑧理系学部 ⑨その他(文理融合学部, 複数学部卒) 百分率 36.9 14.6 1.9 12.1 1.9 21.7 9.6 0.0 1.3 表 3 回答者の使用教科書(百分率,有効回答数 157) 出版社 ①東京書籍 ②教育出版 ③清水書院 ④帝国書院 ⑤日本文教 ⑥自由社 ⑦育鵬社 ⑧その他 百分率 65.0 14.6 1.3 6.4 8.9 0.0 3.8 0.0 表 4 回答者の公民的分野の担当教職歴(百分率,有効回答数 157) 職歴 5 年以内 6-10 年 11-15 年 16-20 年 21-25 年 26-30 年 百分率 32.7 26.9 21.8 14.1 2.6 1.9

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Ⅲ.記載の多い用語の説明の実態

 まず,教科書に記載されていることが多い基礎的な 用語を 6 つ選定し,それぞれ具体的にどう教えている かという実態を探った。6 つの用語は,「GDP(国内総 生産)」,「貿易収支」「消費者物価指数」「年金保険」 「国債」「株(式)」である。他にも「需要・供給」や 「円高・円安」などすべての教科書に記載される基礎 的な用語はあるが,これらはどの教科書にも類似の図 解が描かれており,説明に関して相違が生じる可能性 は低い。本調査では,過去の調査で教えにくいとされ た項目の中で,教科書によって解説に差異がみられる 用語を中心に選んだ。また,それらの項目が,現行の 学習指導要領「2 内容(2)私たちと経済,イ国民の 生活と政府の役割」に関わっており,マクロ経済学に 関連する用語が多いが,学習指導要領ではマクロ経済 学を明示して説明しているわけではない点に注意され たい。  6 つの用語は中学生が日本の経済事情や政策を理解 し,長期的な問題や国際情勢を考察する上で,欠かせ ない用語である。近年の金融政策では目標に際して消 費者物価指数の上昇が言及される。また,長期的な財 政問題や個人の資産運用を考える上で,年金保険,国 債,株に関する知識は必要不可欠である。GDP は景 気変動の理解に必要な基本概念であり,国際的な課題 を考察するには貿易収支を理解しなければいけない。  なお,「消費者物価指数」と「貿易収支」は,すべ ての教科書に記載されているわけではない。ただし, 前者については,明示されていない場合でも,金融政 策の項目で必ず物価に言及され,学習しなければなら ない。貿易収支の用語が明示されない教科書であって も,赤字・黒字の概念,輸出・輸入,貿易摩擦のいず れかについて必ず言及される。結局は貿易収支の理解 が必要になる。  質問文は,「以下の設問㋙~設問㋞に関する内容は, 出版社によっては記載されていない学習項目や学習指 導要領に明記されていない項目も含まれております。 これらの内容が,実際に教えられているか否か,教え られている場合にはどのように説明されているかにつ いてお尋ねするものです。特に教えている場合には, あてはまるものすべてを選択する複数回答となりま す。」とした。それぞれの選択肢において,説明の際 に典型的に用いられると想定される 4 つの選択肢を設 けつつ,「教えていない」と「その他」も加えた。単 純集計の結果は,表5~表10の通りであるが,どの組 み合わせで教える割合が高かったかについても以下で 述べたい(②から⑥の組み合わせで最大 31 通りとな るが,紙幅の関係で表の掲示は割愛する)。  「GDP(国内総生産)」は,すべての教科書で記載さ れているが,簡単な定義の説明にとどまることが多い。 しかしながら,なんらかの経済指標を GDP 比で検討 することも多く,種々の概念を学ぶ上で重要な用語で ある。「①教えていない」の割合は 5.8% で,94.2%が 教えている状況である。特に,「②一年間に国内で生 産された財・サービスの(付加)価値であることを説 明している」が 81.4% で,簡単な定義を説明している 割合がもっとも多かった。「③最終生産物(売上高) から中間投入費用を差し引いた付加価値から計算され ることを説明している」は 9.6% であった。一部の教 科書ではここまで説明されているが,実際に説明して いる割合は 10% 弱であった5)。むしろ,日本の具体的 なデータの推移や外国との比較を用いて説明している 割合が高いことがわかる。  実際にどのように組み合わせて説明しているかも含 めて集計したところ,②のみが 38.5% でもっとも多 かった。次に,②④⑤を合わせて説明している割合が 14.1%,②④を合わせて説明している割合が 13.5% で あった。定義のみを説明するか,データとともに説明 するケースが多い。  「貿易収支」については,学習指導要領では明記さ れていない概念であり,教科書の記載も一社のみであ る6)。しかしながら,先述のようにどの教科書でも貿 易収支に関連する概念が必ず示され,教えているケー スが多いと推測し調査した。実際,説明していないの は 10.8%の教員だけであり,69.4% の教員は「②財貨 などの貿易に関して,輸出額から輸入額を差し引いた 額であることを説明している」を選択し,定義をきち んと教えている。また,「③(あくまで一般理論とし て)円安になると輸出額が増加しやすいことを説明し ている」も半数近くが回答している。「④近年の日本 の具体的なデータ(数値)の推移について説明してい る」も 31.8% であった。これは,日本が長年続いた貿 易黒字国から赤字国へ転換した 2011 年度の直後の調 査で,教科書説明の改訂がまだ追い付かなかったこと から,説明しているケースも多かったと思われる。  組み合わせも含めて集計したところ,②③の組み合 わせが 22.8% でもっとも多かった。また,②のみが 19.0% で続き,③のみ,および②④の組み合わせが 10.8% であった。貿易収支の定義はなくとも,円高・ 円安の為替の関係を記載する教科書が多いこともあり, あわせて③を説明する割合が高くなっている。

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表 5 GDP(国内総生産)に関する説明方法(百分率、有効回答数 156) 選択肢 百分率 ①教えていない 5.8 ②一年間に国内で生産された財・サービスの(付加)価値であることを説明している 81.4 ③最終生産物(売上高)から中間投入費用を差し引いた付加価値から計算されることを説明している 9.6 ④近年の日本の具体的なデータ(数値)の推移について説明している 37.8 ⑤(一国以上の)外国の具体的なデータ(数値)を示し比較しながら説明している 29.5 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 3.2 表 6 貿易収支に関する説明方法(百分率,有効回答数 158) 選択肢 百分率 ①教えていない 10.8 ②財貨などの貿易に関して,輸出額から輸入額を差し引いた額であることを説明している 69.4 ③(あくまで一般理論として)円安になると輸出額が増加しやすいことを説明している 47.8 ④近年の日本の具体的なデータ(数値)の推移について説明している 31.8 ⑤(一国以上の)外国の具体的なデータ(数値)を示し比較しながら教えている 12.1 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 2.5 表 7 消費者物価指数に関する説明方法(百分率,有効回答数 158) 選択肢 百分率 ①教えていない 26.8 ②主に消費者が購入する財・サービスの物価の指数であることを説明している 63.1 ③(2 財・2 年のケースでの比較など)簡単な算出方法も含め説明している 3.2 ④近年の日本の具体的なデータ(数値)の推移について説明している 35.0 ⑤(一国以上の)外国の具体的なデータ(数値)を示し比較しながら教えている 0.6 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 2.5 表 8 年金保険に関する説明方法(百分率,有効回答数 158) 選択肢 百分率 ①教えていない 1.3 ②国民皆保険であることを説明している 84.8 ③国民年金・厚生年金・共済年金の 3 つの制度があることを説明している 53.2 ④ 2 階建て(あるいは 3 階建て)の構造について説明している 14.6 ⑤賦課方式と積立方式(世代間扶養方式)の相違について説明している 18.4 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 12.7 表 9 国債に関する説明方法(百分率,有効回答数 157) 選択肢 百分率 ①教えていない 0.6 ②国の借金であること(満期時に償還が必要になること)を説明している 96.2 ③満期時までに利払いの負担が年々生じることを説明している 52.6 ④累積債務残高について日本の GDP と比較して説明している 17.3 ⑤累積債務残高について日本の金融資産総額と比較して説明している 16.7 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 11.5 表 10 株(式)に関する説明方法(百分率,有効回答数 158) 選択肢 百分率 ①教えていない 0.0 ②発行する企業側からの仕組みについて説明している 96.2 ③購入する消費者側からのリスクについて説明している 79.1 ④直接金融と間接金融の相違について説明している 42.4 ⑤(社債など)債券との相違について説明している 6.3 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは上記以外の内容もあわせて説明している) 12.7

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 「消費者物価指数」については,3 社の教科書で定 義されている。他の教科書でも,暗にそれを「物価」 と一般的に表現しているケースがある。「①教えてい ない」が 26.8%で 6 用語の中でもっとも高い結果と なった。説明しているケースでは,「②主に消費者が 購入する財・サービスの物価の指数であることを説明 している」が 63.1% で,次に「④近年の日本の具体的 なデータ(数値)の推移について説明している」が 35.0% で多かった。   組み合わせも含めた集計では,②のみが 34.8% で もっとも高かった。次に,②④の組み合わせが 24.7%, ④のみが 7.6% と続いた。厳密に定義は説明しなくと も,物価の推移を学習するケースがあることがわかる。  「年金保険」は日本の長期的な課題であり,若年層 への負担の意味でも学習の意義が大きく,制度として 中学段階でどこまで説明しているかを確認しようとし た。「②国民皆保険であることを説明している」は もっとも多く,84.8% である。また「③国民年金・厚 生年金・共済年金の 3 つの制度があることを説明して いる」も53.2%と多い。ただし,「④2階建て(あるい は 3 階建て)の構造について説明している」は 14.6%, 「⑤積立方式と賦課方式(世代間扶養方式)の相違に ついて説明している」7)は 18.4% と,制度の詳細まで は説明していない割合が高いことが分かる。  組み合わせも含めた集計としては,②のみが 31.6% ともっとも高く,次に②③の組み合わせが 24.7% で続 き,②③④の組み合わせと②③④⑤の組み合わせが 6.3% となった。他の用語に比べ,複数の観点から説 明している割合が高かった。  「国債」も若年世代に長期的な負担となりうる財政 問題に関わってくる。ただし,国債費などの詳細につ いては,国家予算の歳出内に記載されるものの,具体 的な説明が書かれないケースが多い。国債の負担の理 解には,元金の返済のみならず利払いまで理解する必 要があり,どのように説明されているかを調査した。 「①教えていない」は1件で0.6%であった。「②国の借 金であること(満期時に償還が必要になること)を説 明している」が 96.2% でほとんどの教員が定義を教え ているが,「③満期時までに利払いの負担が年々生じ ることを説明している」のは 52.6% と低くなる。また, 「⑤累積債務残高について日本の金融資産総額と比較 して説明している」は 16.7% であり,巨額の債務残高 がどのように充当されているかまでは説明されていな い割合が高い8)  組み合わせも含めた集計では,②のみが 32.7% で もっとも高かった。また,②③の組み合わせが 27.6%, ②③④の組み合わせが 8.3% と続いた。為替相場の説 明と合わせて,③を説明していることが予想される。  「株(式)」は,教科書では資金を必要とする発行側 からの説明が多い。日本では個人の資産運用が活発に なり,出資する消費者側からリスクも踏まえた説明も 行っているか確認しようとした。まず,6 つの用語の 中で,全回答者が説明している唯一の用語であった。 また,「②発行する企業側からの仕組みについて説明 している」が 96.2% で高いが,「③購入する消費者側 からのリスクについて説明している」も 79.1% の回答 者が選択している。ただし,「④直接金融と間接金融 の相違について説明している」は 42.4%,「⑤(社債 など)債券との相違について説明している」は 6.3% と低く,債券や預貯金と比較しながらの説明は半数以 下となっている。  組み合わせも含めた集計としては,②③が 34.8% で もっとも高かった。次に,②③④の組み合わせが 27.2%,②のみが 12.0% と続く。発行する企業側のみ の説明にとどまらないケースが多いことがわかる。

Ⅳ.財政・金融政策の説明の実態

1.政策の効果に関する説明  財政政策・金融政策に関わる経済概念については, 中学校時点でどのように説明しているかを把握するた め,通貨量の増加,政府支出の増加,減税の拡張的政 策の効果をとりあげ調査した。中学公民の教科書では 簡単な記述がなされるが,なぜそうなるかの詳細な説 明や図解が少ない教科書もある。また,筆者のこれま での経験で,大学生は受験勉強を通じて政策の効果に ついて一般的な帰結は理解しているものの,なぜその ような効果が生じるかのプロセスまで説明できない ケースが多いと感じていた。これらの理由から,政策 の効果が生じるまでのプロセスがどのように教えられ ているかを確認することを目的とした。  質問文は,「以下の設問㋟~設問㋣に関する内容は, 経済政策の効果に関する帰結・傾向(あくまで一般理 論としてですが)について,どのように教えているか お尋ねするものです(これらの帰結・傾向に関する説 明は,出版社により異なります)。共通で下記の 4 択 になります。説明している場合には,あてはまるもの すべてを選択する複数回答となります。」とした。4 つの選択肢は以下のようである。

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①その帰結・傾向自体について説明していない  ②その帰結・傾向自体について説明している ③なぜそのような帰結・傾向になるかについて言葉 で説明している ④なぜそのような帰結・傾向になるかについて図解 を用いて説明している  教えている場合には,その帰結・傾向が生じるプロ セスまで説明しているか否かを識別できるようにした。 帰結・傾向自体を教えているだけであれば②のみが選 択され,なぜそのようになるかまで説明している場合 には,③や④も選択されるように意図していた。ただ し,後述のように,③のみや④のみを回答している ケースもあった。③や④を説明している際は,実際に は②についても説明していることになる。  金融政策に関する設問は,通貨量の増大(拡張的政 策)が経済(財・サービス市場)にどのような効果を もたらすかについて,プロセスを踏まえて説明されて いるかを確認することも目的であり,3 つの設問が関 連している。簡略化して言えば,通貨量の増大からの プロセスは,まず金融市場での金利の低下をもたらし, それにより財市場で投資が活性化され景気が改善し, 所得の増大から消費の活性化につながり,物価が上昇 するという流れになる9)。途中の説明がないと,拡張 的金融政策は景気を改善するといった効果だけを理解 するようになる。  まず,「『通貨量(貨幣供給量)が増加すると,(あ くまで一般理論としてですが)金融市場における金利 が低下しやすい』という帰結・傾向について,どのよ うに教えていますか。(設問㋟)」と尋ねた。その後, 「『通貨量(貨幣供給量)が増加すると,(あくまで一 般理論としてですが)景気が改善しやすい』という帰 結・傾向について,どのように教えていますか。(設 問㋠)」,「『通貨量(貨幣供給量)が増加すると,(あ くまで一般理論としてですが)財・サービス市場にお ける物価水準が上昇しやすい』という帰結・傾向につ いて,どのように教えていますか。(設問㋡)」と設問 が続く。以下,これら三つの設問を,「金融・金利」 「金融・景気」「金融・物価」と略記する。  この 3 つの設問の単純な集計結果に関しては,組み 合わせも考慮すると,表 11 のようになった。しかし, 先述のように,③や④を説明すれば,事実上,②も説 明していることになる。よって,この後は「③のみの 回答」は「②③の回答」と読み替える。同様に,「④ のみの回答」は「②④の回答」,「③④の回答」は「② ③④の回答」として読み替える。読み替えた後のデー タは,表 12 で表される。  金融政策の 3 つの設問ともおよそ類似の傾向となっ た。もっとも詳しく説明する「②③④の回答」は 10% 台前半である。なぜそうなるかを言葉で説明する「② ③の回答」は 3 割台でもっとも多く,なぜそうなるか を図解で説明する「②④の回答」は 10% 台後半であ る。帰結・傾向のみの②は 2 割台である。  ただし,「①説明していない」の割合については差 が生じ,「金融・金利」がもっとも高く,17.8% で他 よりも 10 ポイント高い状況であった。これは,前述 のプロセスにおいて,金利の低下から投資が活性化さ れることを説明する割合が低い実態を意味する。  財政政策に関しては,政府支出の増加や減税が,景 気を改善する帰結・傾向をどのように教えているか確 認した。三面等価の式「国内総生産=消費+投資+政 表 11 財政・金融政策の説明方法(百分率,有効回答数 157) ① ②のみ ③のみ ②③ ④のみ ②④ ③④ ②③④ 金融・金利 17.8 21.7 13.4 17.8 9.6 7.0 1.3 11.5 金融・景気 5.1 22.3 16.6 22.3 10.2 8.9 1.3 13.4 金融・物価 7.6 26.8 14.6 21.0 10.2 6.4 1.9 11.5 財政・政府支出 0.6 21.0 19.7 28.7 8.9 7.6 1.9 11.5 財政・減税 1.9 21.7 18.5 28.7 11.5 7.6 1.9 8.3 表 12 読み替えた後の財政・金融政策の説明方法(百分率,有効回答数 157) ① ②のみ ②③(③のみ含む)②④(④のみ含む)②③④(③④含む) 金融・金利 17.8 21.7 31.2 16.6 12.7 金融・景気 5.1 22.3 38.9 19.1 14.6 金融・物価 7.6 26.8 35.7 16.6 13.4 財政・政府支出 0.6 21.0 48.4 16.6 13.4 財政・減税 1.9 21.7 47.1 19.1 10.2

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府支出+輸出-輸入」を用いて厳密に考えると,前者 は直接的に左辺の GDP を増加させることがわかるが, 後者は減税が可処分所得の増加を通じて間接的に消費 を増加させることになり,やや複雑になる。中学公民 では三面等価の式は学習しないので,そのような効果 がなぜ生じるのかまで説明しているか,明らかにしよ うとした。  設問は 2 つで,「『政府支出(公共投資)を増加させ ると,(あくまで一般理論としてですが)景気が改善 しやすい』という帰結・傾向について,どのように教 えていますか。(設問㋢)」と「『減税すると,(あくま で一般理論としてですが)景気が改善しやすい』とい う帰結・傾向について,どのように教えていますか (設問㋣)。」であった。以下,前者を「財政・政府支 出」,後者を「財政・減税」と略す。  いずれの回答でも,まず「①説明しない」の割合が いずれも 2% 以下で,金融分野の回答結果に比べて低 いことがわかる。また,半数近い教員が,「②③」と 回答し,なぜそのような帰結・傾向になるかについて 言葉で説明している。 2.財政政策と金融政策の説明手法の比較  これらの設問は,筆者の 2011 年度の調査において, 財政分野よりも金融分野が教えにくいという結果が あったことから調査している10)。また,財政政策は, 財市場にどういう影響が生じるか短いプロセスで教え やすいが,金融政策は,貨幣市場から財市場にどうい う影響が生じるかも説明する必要があり,教えるべき プロセスが長くなることも原因であるかもしれない。 本調査でも,金融分野に比べて財政分野のほうが説明 している割合が高く,また帰結のみならずなぜそうな るかまで説明している割合も高い傾向にあることがわ かる。  ここで,実際に財政政策のほうが詳しく教えられて いる傾向にあるか,統計的に確認した。まず,説明し ていると選択した項目数を,教える際の詳細さとみな して集計した。具体的には,「①説明していない」の 場合は0となり,「②のみ」を選択している場合は1と する。「②③」あるいは「②④」を選択している場合 は2とし,「②③④」を選択した場合は3で最大となる。 先述の通り,③または④と回答している場合には,② も説明していることになるため,そのように集計して いる。ここでは,便宜上読み替えた後の個数とし,0 から 3 で計測している。また,なぜそのような帰結・ 傾向になるかについて,「言葉で説明しているケース」 と「図解で説明しているケース」とで,同じ評価とし ている点にも注意が必要である。  この数値化による平均値を計算したところ,「金 融・金利」が 1.56 ともっとも低かった。「金融・景気」 は 1.82,「金融・物価」は 1.71 である。一方,財政政 策については,「財政・政府支出」が 1.91,「財政・減 税」が 1.85 と高い。また,金融政策の 3 つは,いずれ も財政政策の平均値よりも低いことがわかる。  この平均値をもとに統計的に有意な差があるかどう か確認した。同じ教員がそれぞれの設問で回答してい ることから,一般線形モデルの反復測定を用いた。そ の結果の概要は表 13 に示されている。紙幅の関係で 対称的になる数値の差は割愛している。たとえば, 「金融・景気」から見た「金融・金利」との差は明示 されていないが,対称性により +0.256 となる。  まず,「金融・金利」であるが,他の 4 つの選択肢 のすべてと比べて有意な差があり,詳細な説明がなさ 表 13 財政政策と金融政策の説明方法の差異 (I) (J) 平均値の差(I−J) 標準誤差 有意確率b 金融・金利 1.56 金融・景気 1.82 -0.256 * 0.062 0.000 金融・物価 1.71 -0.147 * 0.073 0.046 財政・政府支出 1.91 -0.346 * 0.065 0.000 財政・減税 1.85 -0.282 * 0.070 0.000 金融・景気 1.82 金融・物価 1.71 0.109 0.059 0.065 財政・政府支出 1.91 -0.090 0.046 0.052 財政・減税 1.85 -0.026 0.052 0.624 金融・物価 1.71 財政・政府支出 1.91 -0.199 * 0.052 0.000 財政・減税 1.85 -0.135 * 0.052 0.011 財政・政府支出 1.91 財政・減税 1.85 0.064 * 0.030 0.033 推定周辺平均に基づいた *.平均値の差は 0.05 水準で有意 b.多重比較の調整:最小有意差(調整無しに等しい)

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れていない傾向にあることがわかる。また,財政政策 の「財政・政府支出」は,設問「金融・金利」と設問 「金融・物価」に比べ有意に高い傾向にある。「財政・ 減税」も同様に高い傾向にある。  これらのことより,財政政策のほうが,金融政策よ りも詳細に説明される傾向にあることがわかる。2011 年度の筆者の調査で,財政政策より金融政策のほうが 教えにくい項目とされていたが,金融政策のほうが詳 細に説明されていないことも裏付ける結果である。た だし,金融政策の中で,「金融・景気」は他の 2 つの 設問よりは高い。拡張的政策により景気が改善するこ と自体は教えやすいが,金利の低下・投資の活性化に より景気が改善するという説明まで踏み込みにくい実 態があることが理解できる。

Ⅴ.記載の少ない用語の説明の実態

1.説明の有無の比較  財政・金融分野に関しては,高校の公民では学習す るが,中学であまり教えられていない経済概念も多い。 教科書での記載の有無もしばしば変化し,出版社によ る差異も生じている。これらの内容について 4 つの用 語を選び,どの程度教えられているか確認した。「基 準貸付利率および基準割引率(旧来の公定歩合)」「預 金準備(率)」「預金通貨の創造」「プライマリー・バ ランス(基礎的財政収支)」の 4 つである。  これらの概念を記載していない教科書が多いため, どのように説明しているかではなく,説明しているか 否かを確認しようとした。説明していない場合には教 える必要があると感じるか否かを,また説明している 場合には教えやすさ・教えにくさについてどう感じて いるか,調べた。説明している教員は,教えやすいと 感じている傾向にあるのかを確認しようとした。質問 文は以下のようである。  「以下の設問㋤~設問㋧は,各設問で示される用語 や仕組みに関して, ・実際に中学公民の授業で説明しているか否か ・授業で説明していない場合は,中学校で教える必 要があると感じているか否か ・授業で説明している場合は,教えにくさ(教えや すさ)についてどう感じているか お尋ねするもので,共通で下記の 7 択になります(個 人的に説明する必要があると感じていても,学習指導 要領で言及されないため特に説明していないケースも あるかと思われます)。当該用語の教科書上での記載 の有無は出版社により異なります。 ①授業で説明していない(個人的には説明する必要 があると感じない) ②授業で説明していない(個人的には説明する必要 があると感じる) ③授業で説明していて,とても教えにくいと感じる ④授業で説明していて,やや教えにくいと感じる ⑤授業で説明していて,教えやすいとも教えにくい とも感じない ⑥授業で説明していて,やや教えやすいと感じる ⑦授業で説明していて,とても教えやすいと感じる 択一回答になります。」結果は,表 14 の通りである。  「基準貸付利率および基準割引率(旧来の公定歩 合)」は,3 社の教科書で記載されている概念である。 それでも,57.8% の教員が説明していることがわかる。 説明しているケースでは,「とても教えにくい・教え にくい」の割合が過半数を超えている。また,16.6% の教員が,説明していないものの説明する必要はある と感じている。近年では,主な金融政策は公開市場操 作であるとして学ぶことが多く,教科書の記載も少な くなっている。以前は公定歩合として教えられていた が,名称変更とともにその意味合いが変化したことも, 表 14 記載の少ない用語の説明の有無 ①授業で説 明していな い(個人的 には説明す る必要があ ると感じな い) ②授業で説 明していな い(個人的 には説明す る必要があ ると感じ る) ③授業で説 明していて, とても教え にくいと感 じる ④授業で説 明していて, やや教えに くいと感じ る ⑤授業で説 明していて, 教えやすい とも教えに くいとも感 じない ⑥授業で説 明していて, やや教えや すいと感じ る ⑦授業で説 明していて, とても教え やすいと感 じる 基準貸付利率および基準割引率 25.5 16.6 10.8 24.8 19.1 2.5 0.6 預金準備(率) 39.9 12.7 13.3 22.2 10.1 1.3 0.6 預金通貨の創造 57.7 11.5 10.9 13.5 5.8 0.6 0.0 プライマリー・バランス 55.1 17.7 7.0 8.9 8.9 1.9 0.6

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教えにくい要因になっている。  「預金準備(率)」は,いずれの教科書にも記載がな い。日本では近年政策的意味合いが薄れているが,基 準貸付利率が一部の教科書に記載されていること,ま た預金通貨の創造を記載するようになった教科書もあ ることから調査した。実際には,47.5% と半数近い教 員が教えていることが分かった。  調査当時の教科書では,「預金通貨の創造」が新出 項目として 1 社の教科書で記載されていた11)。預金通 貨の創造は,説明している割合が 30.8% と低いことが わかった。本調査で,記載のあった教科書を使用して いる回答者が 65.0% いることと比較しても,非常に低 いことがわかる。  「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)」は, いずれの教科書でも記載がない。しかしながら,中学 公民では財政分野で歳出・歳入といった概念が説明さ れ,また国債の累積債務残高の問題も説明されており, 財政赤字が何を意味するかを理解するのに必要な概念 であることから調査を行った。この用語は,説明して いる割合が 27.3% であり,もっとも低かった。国債に 関する質問では,国の借金であることを 96.2% の回答 者が説明していたが,なぜ赤字になっているのかの説 明は十分なされていない実態にあることがわかる。 2.公民担当教職歴や使用教科書との関係  全体的に「とても教えやすい・やや教えやすい」と 感じている割合の合計が低く,教えやすいから説明し ているわけではない状況である。そこで,教えている か否かが,公民担当の教職歴の多寡によって差異が生 じるか確認した。回答者がほぼ同等になるように 3 分 割 し,「5 年 以 内(51 人 )」「6 年 以 上 12 年 以 内(51 人)」「13 年以上(54 人)」のカテゴリーとした。職歴 が 13 年以上であれば教育手法も豊富にあり,複数の 学習指導要領のもとでの教職経験もあることから,現 行の教科書に記載されていない内容を教える機会も多 くなるのではないかと推察した。  カイ二乗検定を行うべく,クロス表を確認した。有 意な差が確認されたのは,4 つの用語のうち「預金準 備(率)」だけである。ただし,説明している割合が 高いのは「職歴 5 年以内」の回答者であり,想定とは 逆の結果になった(表 15 参照)。調整済み残差は +2.0 (厳密には +1.985)で,5% の有意水準の境界値 1.96 を 超えていた。職歴 5 年以内の教員は大学を卒業して数 年以内であることが多く,自身が高校の「政治・経 済」や大学の経済学を受講した際の知識が鮮明にあり, 積極的に教えている可能性が考えられる。なお,職歴 による三つの各区分において,「経済系学部,経営 学・商学系学部」出身者の割合を算出すると,職歴の 短い区分から,11.8%,13.8%,14.8% であった。大差 はないものの,職歴の短い教員のほうがその割合は低 い状況にあり,出身学部に影響されているわけでもな い。  筆者の予想のように,「13 年以上」のグループが他 のグループより教えている割合が高いのは,「基準貸 付利率」だけであった。紙幅の関係で表は付記しない が,調整済み残差は 1.587 であり,有意な差はないこ とになる(有意水準 5%)。  これらのことから,職歴が長い教員のほうが説明す る割合が高いとは言えないことがわかる。もちろん, 職歴の長い教員のほうが説明の手法がないと結論付け ることはできない。時間の関係ですべてを説明してい ない,教科書に記載がないのであえて説明しないなど の事情も考えられる。  本設問においては,教科書により記載の差がある項 表 15 公民担当教職歴と説明の有無の関係(預金準備,有効回答数 156) 預金準備(率) 説明していない 説明している 合計 公民担当 教職歴 5 年以内 度数 21 30 51 期待度数 26.8 24.2 51.0 調整済み残差 -2.0 2.0 6 年以上 度数 31 20 51 12 年以内 期待度数 26.8 24.2 51.0 調整済み残差 1.4 -1.4 13 年以上 度数 30 24 54 期待度数 28.4 25.6 54.0 調整済み残差 0.5 -0.5 合計 度数 82 74 156 期待度数 82.0 74.0 156.0

(10)

目も含まれるので,それらにより説明の有無が影響さ れるかについても調査した。「預金通貨の創造」は, 調査当時に唯一掲載のあったのが東京書籍であり,当 該教科書を利用する回答者のほうが説明する割合が高 いか,確認した(表 16 参照)。説明している割合は, 記載のある教科書を使用する回答者のほうが 42.6% と 高い。記載のない教科書を使用する回答者に比べ 33.3 ポイント高く,有意な差があることが確認された。調 整済み残差は +4.3(厳密には +4.274)であった。  「預金通貨の創造」は新出項目12)であるため,過去 の指導要領下で教えていた経験がある教員はおらず, 教科書上の記載の差がそのまま説明の有無につながっ たと考えられる。ただし,教科書に記載されている項 目であっても,半数以上の教員が説明していないとい うことも注視すべき事実である。

Ⅵ.結び

 本稿では,社会科教員へのアンケート調査をもとに, 中学の公民的分野において,経済概念がどのように説 明されているかの実態について考察した。また,説明 しているか否かに影響を与えている要因を探求した。  まず,用語の説明においては,いずれにおいても定 義を説明する割合がもっとも高かった。その他,それ を取り巻く環境も説明したり,日本の具体的なデータ を併用したりするケースもあるが,教員によってまち まちであり,経済の循環を生徒が理解するまでには 至ってないことも想定される。また,教科書によって 記載の有無に差がある「貿易収支」と「消費者物価指 数」は 1 割以上の教員が教えていないが,日本経済に ついて考える際に重要な概念であり,説明される割合 が高まるような工夫が必要であると感じる。  また,財政・金融政策の効果については,いずれに おいても拡張的政策が景気を改善する傾向にあること は説明される割合が高いことがわかった。ただし,な ぜそのような効果が生じるかについてまで,全員が十 分に説明しているわけではなかった。以前の調査では 金融政策のほうが教えにくいという結果が出ていたが, 本調査でも財政政策のほうが詳細に説明されている傾 向にあった。特に,拡張的金融政策が一般に金融市場 で金利の低下をもたらす傾向については説明される割 合が低く,投資を通じて財市場を活性化させ景気が改 善するプロセスが教えられていない点は注意を要する。 この金融市場から財市場への影響の波及は教科書でも 図示されないことが多く,この点を改善する説明手法 を考案することで,教えにくさの解消につながると考 えられる。  すべての教科書に記載があるわけではない用語につ いても,いくつかの傾向があった。今般の改訂での新 出項目である「預金通貨の創造」は,記載された教科 書を使用しているケースでも過半数の教員が説明して いない状況にあった。その他の用語についても,公民 担当の教職歴が長いほどより説明する傾向にあるわけ ではなく,むしろ「預金準備(率)」については教職 歴の短い教員のほうが説明している傾向にあった。職 歴の三区分における「経済系学部,経営学・商学系学 部」出身者の割合に大差がなかったことから,この差 が生じた要因が何であるかを検討することも今後必要 であろう。  本調査では,教科書に記載がない用語もある程度説 明されていることがわかったが,これらは副教材も活 用していると思われる13)。今回の調査は教科書の記載 の有無から検討したが,今後は副教材なども含めた記 載の有無との関係性を調べる必要がある。また,出身 学部別などのクロス集計も行ったが,期待度数が 5 以 下になることが多く,統計的に有意な差があるか確認 表 16 使用教科書と説明の有無の関係(預金通貨の創造,有効回答数 155) 預金通貨の創造 説明していない 説明している 合計 使用教科書 東書以外 度数 49 5 54 百分率 90.7 9.3 期待度数 37.3 16.7 54.0 調整済み残差 4.3 -4.3 東書 度数 58 43 101 百分率 57.4 42.6 期待度数 69.7 31.3 101.0 調整済み残差 -4.3 4.3 合計 度数 107 48 155 期待度数 107.0 48.0 155.0

(11)

できないケースが多かった。今後は,より大きなサン プルが得られるようにアンケート調査を実施する予定 である。その他,生徒にとって理解しにくい概念を調 べ14),教員にとって教えにくい概念と関連があるかを 確認することも有用である。本調査での課題も踏まえ, 教えにくいとされる用語や重要でも説明される割合の 低い経済概念について,どのように教えたらよいか検 討していきたい。 謝辞:本稿は,科学研究費補助金・基盤 C(研究代表 者 : 金 子 浩 一,2015 年 度 ~ 2017 年 度, 課 題 番 号 15K04455)の助成を受けた成果の一部である。記し て謝意を表したい。また,匿名の査読者からの有益な コメントにも感謝したい。ただし,本稿にありうる誤 謬はすべて筆者の責任に帰するものである。 註 1) 金子(2014)の p.6 参照 2) 宮原(1995)の p.45,表(5)参照。 3) 調査当時は 2014 年度の学校基本調査の確定値が公開前で あったので,前年度の統計値をもとに抽出した。2013 年 度の中学校「都道府県別学校数」を参照した(2017 年 2 月 18 日 確 認 )。http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List. do?bid=000001051637&cycode=0。 4) ウ ェ ブ サ イ ト http://www.myu.ac.jp/~kanehiro/jhs2014. html を参照。 5) 「教出・公民 922」では本文内で次のように定義されてい る(p.152 参照)。「付加価値は,価格とは違います。例え ば,パン 1 個の価格を 300 円として,そのうち 200 円分 が原材料費などの費用だとすると,付加価値は 100 円だ けになります。この付加価値が,家計の所得や企業の利 益になります。付加価値を日本全体で合計したものを国 内総生産(GDP)といい,GDP が大きくなることを経済 成長といいます。」 6) 清水・公民 923 の p.122 では,「輸出と輸入の,国全体の 受け取りと支払いの差額を貿易収支という。日本は輸出 額が輸入額を上回り,1980 年代以降,黒字がつづいてい る。中国との貿易では赤字であるが,とくにアメリカと の貿易における黒字額が大きい。」と説明される。2016 年 度の再改訂では,貿易黒字は 2010 年までつづいたことを 明示している。 7) この選択肢は当時の原文では,「⑤賦課方式と積立方式 (世代間扶養方式)の相違について説明している」と誤っ て記載していた。質問の趣旨としては誤解を与えないた め,回答結果はそのまま記載し分析した。 8) 森田(2016)では,「何に借金をしているのか」「なぜ破 綻しないのか」など問いかけながら,資料の調査学習を 課す単元デザインを提示している。「日本の国債はほとん どを国内の金融機関等が購入しており,国内資金が豊富 なため,国債を発行し続けることができる」という内容 を理解させる手法である。p.83 参照。 9) 「自由社・公民 927」では,これらの内容に近い記述がな されている。「日銀が保有している国債などを銀行に売れ ば,代金が銀行から日銀に支払われるので通貨量が減る。 逆に日銀が銀行から国債を買いもどせば、通貨量は増え る。通貨が増えれば,銀行が一般の企業などに貸し出す ときの利子が下がる。そのため企業などの借金の調達が 容易になり,景気を回復させるはたらきが出てくる。」と ある。p.127 の脚注参照。 10) もっとも教えにくい項目(10 項目中)として選択された 割合で言うと,「金融,日本銀行,金融政策」の 31.0%に 対し「政府,課税,財政政策」が 4.4% であり,「社会福祉, 社会保険,少子高齢社会」の 8.2% を勘案しても大きな差 があった。 11) 2012 年当時に「預金通貨の創造」について記載していた 「東書・公民 921」は,2016 年度の改訂「東書・公民 929」 では当該箇所が削除されていた。一方,「日文・公民 933」 では,2016 年度の教科書から掲載するようになっている。 12) 当該項目は,消費者の預金という行為があることによっ て,世の中に流通する貨幣が増大することを説明してい る。高校公民の信用創造では,預金準備をもとに通貨量 が増大することを説明するので,仕組みは似ていても異 なる概念である。 13) 淺野・山岡・阿部(2014)の,高等学校の公民科目担当 教員に対する 2009 年度のアンケート調査では,教科書以 外に使用している教材を複数回答で調査している。もっ とも多かったのが,「資料集(出版物)」であり,69.1% の 教員が利用している状況であった(p.9,表 6 参照,有効 回答数 1574)。 14) 山岡・淺野・阿部(2013)は,生活経済テストを中学生 対象に実施した際の正答率などを報告しており,参考に することが可能である(p.22,第 3 表参照)。すべてが公 民的分野の内容と合致するわけではないが,正答率が特 に低かった 3 問(50 問中)はいずれも「機会費用」に関 する設問であった(2010-2012 年実施,有効回答数 117)。 その他,同様のテストを高校生,大学生を対象に実施し, 結果の比較検討も行われている。 参考文献 [1] 淺野忠克・山岡道男・阿部信太郎「高等学校公民科教員 の研究:経済教育の視点から〔3〕」,『山村学園短期大学 紀要』,第 25 巻,p.1-20,2014 年 [2] 金子浩一「公民・経済分野における教えにくい内容に関 するアンケート調査からの一考察-中学校・高等学校教 諭の回答に基づく要因分析-」,『公民教育研究』,第 21 巻,p.1-15,2014 年 [3] 篠原正典『教育実践研究の方法 :SPSS と Amos を用いた 統計分析入門』,ミネルヴァ書房,2016 年 [4] 宮原悟「日米関係への一考察(Ⅱ) 小・中・高等学校教 員の経済的資質をめぐって」,『名古屋女子大学紀要 人 文・社会編』,第 41 号,p.37-49,1995 年 [5] 三輪哲・林雄亮編著『SPSS による応用多変量解析』, オーム社,2014 年 [6] 森田史明「価値判断を問う学びから個の学びを深める探 究型の授業」,『社会科教育』,2016 年 12 月号,p.80-83, 2016 年 [7] 山岡道男・淺野忠克・阿部信太郎「パーソナル・ファイ ナンス・リテラシーの測定 : 米国のテスト問題(小学生 版・中学生版・高校生版)を用いて(統一論題) 」,『パー ソナルファイナンス学会年報』13 巻 , p.19-26,2013 年

表 5 GDP(国内総生産)に関する説明方法(百分率、有効回答数 156) 選択肢 百分率 ①教えていない 5.8 ②一年間に国内で生産された財・サービスの(付加)価値であることを説明している 81.4 ③最終生産物(売上高)から中間投入費用を差し引いた付加価値から計算されることを説明している 9.6 ④近年の日本の具体的なデータ(数値)の推移について説明している 37.8 ⑤(一国以上の)外国の具体的なデータ(数値)を示し比較しながら説明している 29.5 ⑥その他(上記以外の内容を説明している,あるいは

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﹁地方議会における請願権﹂と題するこの分野では非常に数の少ない貴重な論文を執筆された吉田善明教授の御教示