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混合研究法による助産師の心的外傷体験の実態:PTSD,レジリエンス,心的外傷後成長との関連

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混合研究法による助産師の心的外傷体験の実態:

PTSD,レジリエンス,心的外傷後成長との関連

A mixed methods study of traumatic stress in midwives:

Relationships among PTSD, resilience and post-traumatic growth

杏 奈(Anna FUMOTO)

*1

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*2

抄  録 目 的

喜ばしい体験と同時に不測の急変に直面することのある助産師の心的外傷体験の実態を明らかにし, その心的外傷体験後の心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder:PTSD)発症リスクやレ ジリエンス,外傷後成長(Posttraumatic Growth:PTG)との関連を探索することである。 対象と方法 全国の周産期関連施設と教育機関から,層別化無作為割り付け法で抽出した308施設1,198名の就業助産 師に質問紙を郵送した。有効回答者681名(56.8%)のデータから混合研究法を用いて,量的データは統計 学的分析を,質的データは自由記載の内容分析を行い,得られたカテゴリと各変数との関連を検討した。 結 果 心的外傷体験を記述した者は575名(84.4%)で,その内容は【分娩に関連した母子の不測な状態】【助産 師の辛労を引き起こした状況】【対象者の悲しみとその光景】【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環 境】の4つに分類された。【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】という直接外傷体験をした助産 師の,日本語版改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale-Revised:IES-R)平均値が最も高く, またPTG平均値が最も低かった。さらに86名(15.0%)がその心的外傷体験を機に退職を検討していた。 また,PTSD と就業継続意思(r=−.229),サポートと就業継続意思(r=−.181),PTSD とサポート得点 (r=−.143),PTGとサポート(r=.148),PTGとレジリエンス(r=.314)は有意な関連を認めた(p<.001)。 結 論 直接外傷体験をした就業助産師はPTSD発症リスクが高かった。心的外傷体験をした助産師が職場内 のサポートを得ることは,PTSD発症のリスクの低減,離職予防,さらにその助産師を成長させるポジ ティブな要素として働くことが示唆された。 キーワード:助産師,心的外傷体験,心的外傷後ストレス障害(PTSD),レジリエンス,外傷後成長 (PTG) 2016年6月8日受付 2016年12月12日採用 *1聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School, Doctoral Course)

*2聖路加国際大学(St. Luke's International University)

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Abstract Purpose

To identify the traumatic experiences of midwives and explore the relationships among post-traumatic stress disorder (PTSD), resilience, and post-traumatic growth (PTG) after the traumatic experience.

Methods

This study was performed using a survey questionnaire with a target sample of 1,198 midwives from 308 hos-pitals, clinics, birth centers, universities, and vocational schools in Japan. The total sample evaluated was 681 midwives (56.8%). Using a mixed methods study, quantitative data were analyzed statistically and qualitative data were analyzed using content analysis. The association between categories and each variable was analyzed.

Results

There were 575 midwives (84.4%) who described their traumatic experience. The contents were classified into four categories:“Unexpected state of the mother and child in delivery”, “absurd situations that lead to struggle”, “sadness and witnessing trauma”, and “hostile remarks from supervisors, physicians, patients and families and harsh environment”. Among the four categories of experiences, the average Impact of Event Scale-Revised (IES-R) score of “hostile remarks and harsh environment” was the highest and the PTG level was the lowest. Moreover, of the 575 midwives, 86 (15.0%) responded that they had considered moving to another facility or opting for attrition. In addition, PTSD and job retention (r=−.229), support and job retention (r=−.181), PTSD and support (r=−.143), PTG and support (r=.148), and PTG and resilience (r=.314) showed a significant correlation (p<.001).

Conclusion

Midwives who have experienced direct trauma were at a higher risk of PTSD. These findings suggest that when a midwife who has experienced traumatic stress is able to find adequate support in the workplace, this can serve to lower her risk of PTSD and prevent attrition, as well as contribute to her professional development.

Key words: midwives, emotional trauma, post-traumatic stress disorder (PTSD), resilience, post-traumatic growth (PTG)

I.緒   言

大きなやりがいにつながる分娩介助に魅了される助 産師は多い一方で,「お産が怖い」と発言する助産師が 存在する。研究者は,弛緩出血,子癇発作,産科 ショック,死産といった産科的ハイリスク状況に 陥った時に,産婦に寄り添い共感的に関わることで, 眠れない夜を過ごしたり,その出来事が頭から離れな くなるなど,ひどく心が傷つく心的外傷体験を経験し た助産師と実際に遭遇した。 心的外傷とは心の傷を意味し,トラウマと同義語で 扱われることが多い。トラウマとは字義的には,身 体,心理を問わず,生命の危機を伴う予期せぬ破 局的体験による傷つきを指す(加藤・神庭・中谷 他,2011,p.774)。心的外傷後ストレス障害(Post-traumatic Stress Disorder:PTSD)とは WHO の国際疾 病分類 ICD-10(1993/2005, pp.158-159)によると,「ほ とんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような,例外 的に著しく脅威的な,あるいは破局的な性質をもっ た,ストレスの多い出来事」に曝された後,通常 6か 月以内に a)フラッシュバック,悪夢などによるスト レス因となった出来事の再体験(再体験症状),b)ス トレス因と関連した刺激の回避および精神的反応の麻 痺(回避・精神麻痺症状),c)心理的な感受性と覚醒 の亢進(過覚醒症状),などの症状が出現することで ある。そのPTSDの研究から派生した概念が二次的外 傷性ストレスである。Figley(1995)によれば,PTSD を含む心的外傷体験を持った対象者と関わる支援者 が,心的外傷体験を経験していないにも関わらず,対 象者と共感的な関係を持つことで対象者と同じような ストレス反応を体験することが明らかとなっており, これを二次的外傷性ストレスと定義し,その症状は PTSDとほぼ同一の症状とされている。

助産師に関する心的外傷の調査では,Beck & Gable (2012)が,464名の分娩室に勤務する看護職を対象に 二次的外傷性ストレスの有病率とその重症度を調査し た。その結果,35%の分娩室勤務の看護職が少なくと も中程度の二次的外傷性ストレスを抱えていると報告 している。更に自由記述からフラッシュバックや悪 夢,回避症状などの苦悩や,二次的外傷性ストレスか ら分娩室勤務の退職を考えた者の存在を報告してい る。本邦における研究では,新山・小濱(2005)が助

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産師の心的外傷体験の経験率を調査した結果「胎児・ ベビーの死」「医師からの暴言」が最も多かったと報告 している。さらに助産師の職場における心的外傷体験 となった出来事を調査した結果,「妊婦の急変」や「患 者の悲惨な状態」などは心的外傷反応を測定する日本 語 版 改 訂 出 来 事 イ ン パ ク ト 尺 度(Impact of Event Scale-Revised:IES-R)のカットオフ値である 25 点よ り高く,PTSDと診断される出来事であったことを報 告している(新山・小濱,2006)。 一 方, 1980 年 か ら 外 傷 後 成 長(Posttraumatic Growth:PTG)という研究が心理・医療・看護・社会 福祉などの領域において盛んになってきた。PTG と は「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき ・闘いの結果生ずる,ポジティブな心理的変容の体 験」(宅,2010)と定義され,心的外傷,つまり危機的 な体験およびそれに引き続く苦痛から,精神的な成長 が体験されることを示している。その PTG の関連因 子の1つとしてレジリエンスが挙げられ,レジリエン スは心的外傷となるような極度のストレスに対して人 間が発揮する関連因子としても注目を集めるように なっている。レジリエンスとは,19世紀の西欧で「弾 力」や「反発力」を意味する物理学用語として用いら れ,「跳ね返り,とび返し,弾力,弾性,元気の回復 力」という意味をもつ。そのレジリエンスによって は PTSD 発症率や PTG の示し方に差が生じることが 報告されている(Seidmahmoodi, Rahimi & Mohamadi, 2011;津野・大島・森他,2013)が,助産師を対象と した研究は認められず,助産師にとって心的外傷体験 が及ぼす影響や,助産師のレジリエンスがその心的外 傷体験に与える影響は明らかにされていない。 以上のことから 1. 二次的外傷性ストレス体験また はそうではない心的外傷体験など,心的外傷体験別に よって心的外傷の程度の差が生じるかどうか,そして 2. 助産師が経験した心的外傷体験がその後に及ぼす 影響や,心的外傷体験と PTG やレジリエンスとの関 連を探索することを本研究の目的とした。

II.研 究 方 法

1.研究デザイン 助産師の心的外傷体験の実態を把握するために,尺 度を用いた量的データのみならず,言語化された助産 師の心的外傷体験の記述が必要であるため,無記名自 己記入式質問紙を用いた混合研究法を用いた。 2.研究対象 1)対象施設 全国で研究の趣旨に同意が得られた施設(病院,診 療所,助産所,助産教育機関)とした。助産教育機関 は,先行研究(Halperin, Goldblatt, et al., 2011)で心的 外傷体験から臨床現場を離れて教育機関へ転職したこ とが挙げられていたため,今回は対象施設に含めた。 2)研究対象者 対象は研究対象施設において就業し,就業経験年数 は限定せず研究の趣旨に同意が得られた助産師とし た。また,現在心的外傷体験の渦中にいる助産師は除 外した。 3)質問紙配布 所属施設長へ研究依頼を行い,同意の得られた施設 の施設長あてに質問紙を郵送し,該当となる助産師へ の配布を依頼した(調査期間:2014 年 7 月 1 日-10 月 31日)。 3.測定用具とデータ収集内容 1)PTSD 群を検出するスクリーニングで用いられる 尺度:日本語版IES-R

Asukai, Kato, Kawamura, et al.(2002)によって信頼 性・妥当性が検証され,国際的に使用されているIES-Rの日本語版を用いた。IES-Rは米国のDSMの診断基 準に合わせて開発された心的外傷性ストレス症状を測 定する自記式質問紙であり,再体験症状7項目,回避 症状8項目,過覚醒症状7項目,計22項目で構成され, 過去1週間の症状の強度を5段階で評価する。PTSD群 を検出するスクリーニングの目安として,25点以上を PTSDハイリスク群としたカットオフポイントとされ ている(Asukai, Kato, Kawamura, et al., 2002)。尚,本 研究でのα係数は.94であった。 2)心的外傷体験の出来事 助産師として就業上経験した心的外傷体験につい て,その体験はいつの出来事か,また最も印象に 残った体験の内容を自由記述として求めた。 3)レジリエンスを測定する尺度:日本語版CD-RISC 伊藤・中島・白井他(2010)によって信頼性・妥当 性が検証された日本語版 The Connor-Davidson Resil-ience Scale(以 下 CD-RISC)を 用 い た。 CD-RISC は, 逆境からの心理的回復力が高い“resilient”な人々の特 徴を抽出するために作成された尺度である。25 項目 の質問項目に対して過去5年の自分にどの程度あては まると思われるかについて 5 段階で評定し,合計 100

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点満点でレジリエンスのレベルを測定する。尚,本研 究でのα係数は.94であった。

4)PTGを測定する尺度:PTGI-J-SF

Taku, Calhoun, Tedeschi, et al.(2007)によって信頼 性 ・ 妥 当 性 が 検 証 さ れ た Posttraumatic Growth In-ventory – Short Form の日本語版(以下 PTGI-J-SF)を 用いた。PTGI-J-SF の基となる PTGI は,外傷的な人 生経験の後のポジティブな変化を測定するために開発 された自己記入式尺度である。PTGIの5因子から2項 目ずつ抜粋した 10項目5 因子構造から成るPTGI-J-SF は,出来事の結果,どの程度各質問項目に示される心 理的成長が生じたかについて6段階で評定し,高得点 であればあるほど,成長のレベルや自覚が高いことを 示す。5つの下位尺度「他者との関係」「新たな可能性」 「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生に対する感 謝」を持つ。尚,本研究でのα係数は.86であった。 5)デモグラフィックデータ 年齢,看護職としての就業経験年数,分娩直接介助 件数,助産師教育背景,現在の勤務先とした。 6)就業継続意思 心的外傷体験後の就業継続意思として,以下の選択 肢の内1つを選択するよう求めた。「就業意欲に変化は なかった」「当時,助産師として働くことに迷いを感 じた」「当時,所属していた部署からの配置転換を考 えた」「当時,勤務していた施設からの退職を考え た」。また,「就業意思に変化はなかった」を 1 とし, 「当時,勤務していた施設からの退職を考えた」を4と 設定し点数が高いほど就業意欲が低いとした。 7)サポート体制 小牧・田中(1993)の職場用ソーシャル・サポート 尺度を参考に,回答者の負担を考慮して助産学領域の 専門家と相談し15項目から3項目を抜粋し,5件法で 得点化し,3–15 点の得点範囲で,高得点ほどサポー トを受けたとした。また各項目に対して,誰からのサ ポートを受けたかを問う設問を設けた。尚,本研究で のα係数は.92であった。 4.分析方法

Creswell & Plano Clark(2011)の convergent parallel designを参考とし,量的データは Pearson の積率相関 係数,t検定,一元配置分散分析を行い有意水準は5% で両側検定と設定し,データ分析には SPSS Statistics Version21.0 for Windowsを用いた。質的データである 心的外傷体験の自由記述は,KJ 法(川喜田,1986)を 参考にした。まず,自由記述内容から意味内容を損な わないよう簡潔に「心的外傷体験」を抜き出した。質 問紙では最も印象に残る体験の記述を求めたが,回答 の中には 2 つ以上の出来事を記載した者もいたため, その場合は最初に書かれた体験だけを抜き出し,1人 につき一つの体験として抽出した。その後,その体験 内容を何度も読み返し,類似性・相違性に基づき集約 し心的外傷体験の概要として分類した。さらに,その 概要から抽象度を上げてサブカテゴリ,カテゴリと分 類し,得られたカテゴリを変数として各関連をみた。 本研究ではカテゴリを【 】,サブカテゴリを< >, 心的外傷体験の概要を[ ],研究対象者の記述を「斜 体」で示す。尚,研究過程を通してデータ分析は,助 産学領域の専門家および統計学の専門家のスーパーバ イズを受けた。 5.倫理的配慮 質問紙は助産師の心的外傷体験に関する内容であ り,心的外傷体験を想起することで精神健康状態に影 響を及ぼす危険性があると考え,現在心的外傷体験の 渦中にいる助産師への質問紙配布を忌避するよう施設 長に依頼した。また,対象者が心理的サポートを希望 した場合,早期に専門家と連絡・カウンセリングが行 えるようにし,質問紙の表紙にその旨を記載した。専 門家は聖路加国際大学客員研究員であり,次の資格を 保有する者(社会福祉士,精神保健福祉士,生殖心理 カウンセラー)に依頼した。聖路加国際大学研究倫理 審査委員会の承認を得てから実施した(承認番号: 14-013)。

III.結   果

全国 47 都道府県 308 施設へ研究協力を依頼し,41 都 道 府 県 140 施 設 で 協 力 が 得 ら れ た(施 設 協 力 率 45.5%)。140施設の内訳は,総合周産期医療センター 22施設,地域周産期医療センター 11 施設,一般病院 29施設,診療所 48施設,助産所 17施設,助産師教育 機関13施設である。調査協力の得られた140施設にお いて,1,198名に調査を依頼し,682名から回答を得た (回収率 56.9%)。有効回答者は 681 名(有効回収率 56.8%)であった。 1.回答者の属性 年齢は 22–91 歳の範囲で平均値 39.7(SD=10.4),看

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護職としての就業年数は平均値15.6(SD=10.0),分娩 直接介助件数は中央値 250(範囲 0–6000)であった。 レジリエンスは8–92点の範囲で,平均値は57.4(SD= 15.2)であった。 2.質的データ 助産師として就業上最も印象に残る心的外傷体験の 問いに対して記述した者(以下,記述有とする)は575 名(84.4%)と,8割以上の者が心的外傷体験を表出し た。体験時期は,1 年以上 5 年未満が 190 名(33.0%), 次いで5年以上10年未満が120名(20.9%)であった。 1人につき1つの心的外傷体験を抽出した結果,4カ テゴリが抽出された。 1)【分娩に関連した母子の不測な状態】207名(36.0%) このカテゴリは 4 つのサブカテゴリから構成され, 妊産褥婦や胎児,新生児の急変や死,そして急変にと もなう壮絶な出産現場を目撃することで自分の心が傷 つく体験であり,二次的外傷性ストレスに分類できる カテゴリであり,4つのカテゴリの中で最も多くの助 産師が記述した。尚,研究対象者の記述の該当する [概要]は※で表す。 <子どもの死>92名 内訳は,[新生児死亡55名][子宮内胎児死亡を目の 当たりにしたこと24 名][死産の直接介助という経験 13名※]であった。 「IUFDの分娩に立ち会った際,涙が止まらなかっ 表1 対象者の属性 総数 心的外傷体験の記述者 (n=681) (n=575) 項目 n % n % 年齢 平均値 39.7(SD=10.4) 39.3(SD=10.3) 20歳代 124 18.2 110 19.1 30歳代 221 32.5 198 34.4 40歳代 204 30.0 159 27.7 50歳代 98 14.4 83 14.4 60歳以上 19 2.8 15 2.6 無回答 15 2.2 10 1.7 看護職としての就業年数 平均値 15.6(SD=10.0) 15.2(SD=9.8) 5年未満 93 13.7 81 14.1 5年以上10年未満 114 16.7 103 17.9 10年以上20年未満 235 34.5 203 35.3 20年以上30年未満 166 24.4 131 22.8 30年以上 62 9.1 51 8.9 無回答 11 1.6 6 1.0 分娩直接介助件数 平均値 431.0(SD=648.4) 429.4(SD=655.7) 中央値(範囲) 250(0–6000) 250(0–6000) 50件未満 62 9.1 49 8.5 50件以上100件未満 73 10.7 63 11.0 100件以上250件未満 167 24.5 147 21.6 250件以上500件未満 162 23.8 141 24.5 500件以上1000件未満 114 16.7 94 16.3 1000件以上 67 9.8 57 9.9 無回答 36 5.3 24 4.2 助産師教育背景 助産師養成所 378 55.5 320 55.7 短期大学 105 15.4 89 15.5 大学 96 14.1 86 15.0 大学専攻科・別科 82 12.0 69 12.0 大学院 11 1.6 7 1.2 無回答 9 1.3 4 0.7 現在の勤務先 周産期医療センター 222 32.6 193 33.6 病院 236 34.7 201 35.0 診療所 141 20.7 114 19.8 助産所 31 4.6 23 4.0 教育機関・その他 43 6.3 39 6.8 無回答 8 1.2 5 0.9 レジリエンス 平均値 57.4(SD=15.1) 57.2(SD=15.0)

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た。自分の気持ちの持ちようが,つらかった」 <分娩時の緊迫した状況>46名 内訳は,[壮絶な出産現場27名][いつどうなるかわ からない出産現場 14 名 ※1][損傷の激しい胎児の目 撃3名][どうにもならない現実2名※2]であった。 ※1「生まれたベビーが仮死状態だった。私は1年 目で,その状況に驚き,ショックを受けました。 お産はいつどうなるか分からない恐ろしさもある ということを初めて実感しました」 ※2「(略)分娩したら(新生児が)呼吸せず,(略) 誰も挿管できず。(略)やっと小児科の上の先生が 到着挿管し,こども病院へ」 <子どもの急変に伴う生命の危機状態の継続>42名 内訳は,[重症新生児仮死やその後の新生児搬送 20 名][子どもの成長発達が見込めない状態 7 名][新生 児の急変6名][児がNICUでの治療を必要とする事態 を招いてしまったこと5名][児が脳性麻痺になってし まったこと4名※]であった。 「急速に分娩が進行し,経腟分娩したがAp1分後1 点,5分後3点。児は脳性マヒになってしまった」 <予期せぬ喪失>27名 内訳は,[予期せぬ母体死亡21名※][母と子の二人 の死4名][分娩に引き続く子宮全摘出という妊孕性の 喪失2名]であった。 「急激なHELLP発症でじょく婦死亡。信じられな いと思った。」 2)【助産師の辛労を引き起こした状況】185名(32.2%) このカテゴリは 2 つのサブカテゴリから構成され た。1つ目は,妊産褥婦が体験する急変などの場に居 合わせた時に,自分のとった行動が不適切ではな かったかという思いをめぐらす体験である。2 つ目 は,子どもの命をめぐる状況下で,助産師自身が倫理 観や職能を改めて問われる体験であった。このカテゴ リも対象となる妊産褥婦が体験した出来事から自分の 心が傷付く,二次的外傷性ストレスに分類できるカテ ゴリであった。 <自分が思う助産師としての責務を果たせない出来 事>125名 内訳は,[緊急事態に何もできず無力感を抱き,自 分に失望したこと 73 名 ※1][自分が引き起こしてし まった母親のネガティブな感情 16 名 ※2][行ったケ アへの迷いと不安14 名][自分が引き起こしてしまっ た IV 度裂傷や子宮内反 8 名 ※3][自分が起こしてし まったインシデント 8 名][救命できなかったこと 6 名]であり,最も多くの助産師が記述した。 ※1「(産婦が)意識消失し,失禁している方が病 院へ搬送されましたが約1か月後亡くなった。助 産師として一番『何もできなかった』悲しみがあ ります」 ※2「(略)洋式トイレに墜落出産させてしまった ことがあります。産婦さんのショックは大きく, 結局退院まで笑顔は見られませんでした。(略)ど う接したらいいかわからず,最後まで逃げて顔を 合わせることができませんでした」 ※3「子宮内反の症例にあたったとき,自分の介 助のせいでなってしまったと感じた」 <生命の誕生に寄り添う助産師として納得できない 出来事>60名 内訳は,[子どもの命が家族や医師から軽視された こと23名][人の命を奪ってしまう中期中絶の介助14 名][納得できない治療方針 8 名][対象者の理解でき ない発言や考え7名※1][同僚の対応に不信感を抱く 5名][ずさんな管理3名※2]であった。 ※1「胎児異常の告知が行われた妊婦さんに,帝 王切開前日の入院日に来院を断られた」 ※2「人工妊娠中絶後の女性が搬送されてきたが, 子宮内には胎児の一部が残っており,娩出された 児は出血などとともにほとんど形が残っていな かった。他院での中絶の方法も信じられなかった し,ひどいと思った」 3)【対象者の悲しみとその光景】,57名(9.9%) このカテゴリは 3 つのサブカテゴリから構成され, 妊 産 褥 婦 や 同 僚 が 心 的 外 傷 体 験 後, 悲 し む 姿 や ショックを受けている様子,またその心的外傷体験を 機に退職に追い込まれた出来事など目撃することで自 分の心が傷つく体験であり,二次的外傷性ストレスに 分類できるカテゴリであった。 <距離感が近い対象者の心が痛む出来事>41名 内訳は,[母親が傷つきショックを受けている姿 22 名][自分のプライマリーや身内,同僚である妊産褥 婦の急変や死産11 名][同僚の分娩に関する心労や退 職5名][強姦された同世代の女性との関わり2名][指 導した助産学生が新生児死亡という結果に心を痛めて いたこと1名※]であった。 「緊急帝切には私自身が立ち会い,学生さんには 緊急のため立ち会いを控えてもらったが,搬送後 の新生児が亡くなったことを伝え,学生さんもか なり心をいためていた。これから助産師を目指し

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て学ぼうとしている学生の未来を奪ってしまった ようないたたまれない気持ちでしばらく分娩介助 が怖くなった。」 <残された家族の悲しむ姿>13名 内訳は,[わが子を失った両親の涙する姿やその表 情5名][母親を亡くした家族の悲しむ姿5名][残され た父親の泣き崩れる姿3名※]であった。 「妊娠 7ヶ月の妊婦が血液がんで 1w 以内に陣発, 経膣分娩となり,私が分娩介助を行った。2日後 にお母さんの様子を伺うと亡くなっていた。そし て,NICU でもお母さんより数時間前に赤ちゃん が亡くなっていた。お父さんは,同時に2人の命 を見送り,泣き崩れていた。私はかける言葉もな く,何もしてあげられなかった。すごく辛い体験 だった。」 <悲惨な光景>4名 この概要は[自殺や事件の悲惨な光景 4 名]のみで あった。 「褥婦が精神疾患を患い,新生児とともに病室窓 より飛び降りてしまった」 4)【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】 126名(21.9%) 妊産褥婦といった対象者の心的外傷体験を見たり聞 くことで自分自身の心が傷つく二次的外傷性ストレス 体験とは異なり,自分に矛先が直接向いた体験(以 下,直接外傷体験)で,2 つのサブカテゴリから構成 された。 <医師の威圧的な態度,看護職(同僚)の関係性と 孤独感>71名 内訳は,[医師からの理不尽な叱責や態度 35 名 ※] [同僚や先輩,上司からの嫌がらせや不当な扱い 19 名][サポートが受けられない12名][職場環境との不 適合4名][ライフラインが不十分な中精一杯仕事した のに色々言われたこと1名]であった。 「(医師より)『なんで怒責をかけさせるんだ!』と 大声でしかられました。助産師の存在意味が感じ られず,自分は今まで何を学んできたのかと,悲 しくなった場面」 <母親,家族からの不本意な発言や態度>54名 内訳は,[母親から言われた不本意な発言 29 名 ※] [家族からの不当な態度やクレーム25名]であった。 「自分が取り上げた赤ちゃんが呼吸状態が悪く, 肺高血圧症や他の心臓疾患もあり亡くなった。お 母さんに『もっと早く転院させてくれればよ かったのに』『人殺し』と言われた」 3.量的データ 1)心的外傷体験後の変化(表2) (1)PTSD 記述有 575 名の IES-R 得点の平均値は 12.3(SD= 13.3)であった。 心的外傷体験の 4カテゴリ別に IES-R 得点の平均値 に有意差が認められた(F=4.40,p=.005)。IES-R 得 点の平均値で最も高かったのは【自分に向けられた不 本意な発言や苛酷な環境】14.7,次いで【助産師の辛 労を引き起こした状況】13.8,【分娩に関連した母子の 不測な状態】10.4 で,【対象者の悲しみとその光景】は 8.9と比較的低かった。 (2)PTG PTGI-J-SFの平均値は 16.4(SD=9.8,範囲 0-47)で あり,5下位尺度得点の平均値では,「人生に対する感 謝」が 5.0(SD=2.9)と圧倒的に高く,「精神性的変容」 が1.9(SD=2.2)と最も低かった。 心的外傷体験の 4 カテゴリ別に PTGI-J-SF の平均値 に有意差が認められた(F=5.27,p=.001)。平均値が 最も高かったのは【対象者の悲しみとその光景】18.7 で,次いで【分娩に関連した母子の不測な状態】17.6, 【助産師の辛労を引き起こした状況】15.8 で,最も低 かったのは【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な 環境】14.0であった。 (3)就業継続意思 心的外傷体験後に86名(15.0%)が「当時,勤務して いた施設からの退職を考えた」と回答した。また,所 属していた部署からの配置転換を考えた者が 8 名 (1.4%),そして237名(41.2%)が助産師として働くこ とに迷いを感じていた。つまり約6割は,心的外傷体 表2 心的外傷体験と各変数関連 (n=575) カテゴリ n % PTSD PTG 就業継続意思 【周産期特有の子どもや母親の危機的な状況】 207 36.0 10.4 17.9 3.3 【助産師としての葛藤やもがき】 185 32.2 13.8 15.8 3.1 【対象者の悲しみとその光景】 57 9.9 8.9 18.7 3.3 【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】 126 21.9 14.7 14.0 2.7

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験後に何らかの就業継続意思に変化が生じていた。 心的外傷体験の4カテゴリ別に就業継続意思の平均 値に有意差が認められた (F=10.90,p=.000)。就業 継続意思の平均値が最も低かったのは【自分に向けら れた不本意な発言や苛酷な環境】2.70であった。 2)PTSDハイリスク群の特徴(表3) IES-R得点 25 点以上の PTSD ハイリスク群(以下, ハイリスク群)は 79 名(13.7%),PTSD ローリスク群 (以下,ローリスク群)は449名(78.1%)であった。 ハイリスク群はローリスク群に比べて,年齢,就業 年数,分娩直接介助件数が有意に多かった(p=.039, p=.007,p=.046)。また,PTG も高かった(p=.018)。 一方,ローリスク群に比べて有意に低かったのは, レジリエンス,サポート,就業継続意思であった (p=.042,p=.022,p=.000)。 3)各変数間相関(表4) 就業継続意思の項目とPTSD発症リスクとの関連を み た と こ ろ, 有 意 な 負 の 相 関 が 認 め ら れ た(r= −.229,p=.000)。つまり,PTSD 発症リスクが高けれ ば高いほど,就業継続意思が減退することが明らかと なった。 その他,IES-R得点と有意な弱い負の相関が認めら れた因子は,サポート(r=−.143,p=.001),レジリエ ンス(r=−.106,p=.015)であった。 一方,有意な正の相関が認められた因子は,PTG とサポート(r=.148,p=.001),PTG とレジリエンス (r=.314 , p=.000), サ ポ ー ト と 就 業 継 続 意 思(r= .181,p=.000),サポートとレジリエンス(r=.103, p=.016)である。

IV.考   察

1.助産師の心的外傷体験の実態とPTSD発症リスク 8割以上の助産師が就業上において心的外傷体験を 経験していることが本結果より示された。Sheen, Slade & Spiby(2013)が助産師,医師,看護師,救急 隊員などの医療者における,二次的外傷性ストレスに ついて 42 の論文を統合した結果,医療者は侵入・回 避・過覚醒症状を呈すると言われ,特に二次的外傷性 ストレスに関連する要素は,共感性が高いことや就業 上のストレスであると報告している。 助産師が経験した心的外傷体験で最も多かった体験 は,子どもの死や予期せぬ母親の急変などを目撃した 【分娩に関連した母子の不測な状態】に関する記述で あった。助産師の職場では多くの場合,新しい生命の 誕生の瞬間に立ち会うことで,産婦やその家族の笑顔 と喜びを共有できる,希望と幸福に満ちた現場である が,時に胎児・子どもの急変や産婦の急変で大切な家 族をも失う悲しみに包まれる現場となりえる。その大 きな落差を伴うことが特徴である臨床現場で働く助産 師にとって,【分娩に関連した母子の不測な状態】とい う体験は,印象が強く残るのではないかと考える。 また,【自分に向けられた不本意な発言や苛酷な環 境】というカテゴリは,体験の矛先が直接自分に向け られた体験であり,他の3つのカテゴリとは大別しう るカテゴリであり,IES-R得点が高かった。新山・小 濱(2006)は,助産師の職場において,直接外傷体験 の中では「仕事上のミス」「患者からの暴言」が IES-R 得点 25 点以上の体験であったと報告している。また 三木・黒田・田代(2013)は,職場内のいじめ,職員 からの暴言・暴力・セクハラは有意にPTSDハイリス ク者と報告している。つまり,直接外傷体験は二次的 外傷性ストレス体験より,PTSD発症リスクが高いこ とが示された。 2.心的外傷体験とPTGやレジリエンスとの関連 1)PTGとの関連 【対象者の悲しみとその光景】,次いで【分娩に関連 表3 PTSDハイリスク群とローリスク群の平均値の対比 (n=528) ハイリスク群 (n=79) ローリスク群(n=449) 項目 M SD M SD t p 年齢 41.9(11.8) 39.09.7) −2.392 .039 就業年数 18.0(11.3) 14.8(9.3) −2.170 .007 分娩直接介助件数 556.2(688.9) 401.7(611.7) −2.000 .046 PTG 18.9(10.6) 16.0(14.5) 2.371 .018 レジリエンス 54.2(15.5) 57.9(14.9) 2.039 .042 サポート 9.8(14.5) 10.8(12.5) −2.379 .022 就業継続意思 2.7(1.0) 3.2(1.0) 4.338 .000 表4 各変数間相関 (n=528) PTSD PTG 就業継続意思 レジリエンス サポート PTSD 1.000 0.119 ** −0.229 ** −0.106 * −0.143 ** PTG 1.000 0.044 0.314 ** 0.148 ** 就業継続意思 1.000 −0.046 0.181 ** レジリエンス 1.000 0.103 * サポート 1.000 **p<.01, *p<.05

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した母子の不測な状態】における PTG 得点が最も高 かった。母親が傷付きショックを受けている姿や,母 親をなくした家族の悲しむ姿を目撃することで心的外 傷体験となる一方で,その後の助産師の成長要素にな ることが示唆された。また,下位尺度でみると「人生 に対する感謝」が圧倒的に高かった。これは,産科特 有の「生」が常態化した中で起こりうる,「死」という 相反する体験をすることで,距離感の近い対象者の悲 しみや,残された家族の存在は,生命の大切さという メッセージを与えてくれる体験として印象に残り,そ れがその後の助産師としてのアイデンティティを確立 し,成長を遂げたと感じ,人生に対する感謝をもたら したと考える。 また,サポート得点と PTG には正の関連が認めら れ,特に自分の思いを表出できる存在があると実感し ている助産師は,PTG が高い結果が示された。Taku (2014)も, 家 族 の サ ポ ー ト を 得 ら れ る 医 師 ほ ど, PTGが高いと報告している。心的外傷体験をした助 産師がサポートを得ることは,成長できるポジティブ な要素として働くことが示された。 2)レジリエンスとの関連 看護学生や一般成人を対象とした研究において,レ ジリエンスが高いほどPTGは高いと報告され(Li, Cao & Liu, 2014;Min, Lee & Hwang, 2014),本結果もこ れと同様であった。助産師にとっても,就業上心的外 傷体験をしたとしても,レジリエンスが高ければその 体験は成長体験へと変化できるのではないかと推察さ れる。 本研究で心的外傷体験当時にサポートを得た助産師 ほど,レジリエンスが高いことが示された。メカニズ ムは多様であるが,自己開示を行うことやソーシャル ・サポートを受けることは,レジリエンスに繋がると 述べられている(Lepore & Revenson, 2006/2014)。さ らに,十分なソーシャル・サポートが得られること, そしてより多くの資源や人々にアクセスできること は逆境に直面する人々にレジリエンスをもたらすと 報告されている(Saegert, Thompson & Warren, 2001/ 2014)。

Calvert(2014)は,助産師が専門家からの指導や助 言を受けるプログラムを取り入れることは,職場満足 度の向上,職場環境の改善,そして離職率の低下や母 親や子どもへのケアの改善を意味すると述べている。 また,Foureur, Besley, Burton, et al.(2013)が,レジ リエンスを高めるために助産師と看護師に対してマイ

ンドフルネスを基本としたプログラムのランダム化比 較試験を行った結果,レジリエンスを高める効果が あった。そして看護教育においてレジリエンスを高め るような教育を組み入れるべきだと提案されている (Li, Cao & Liu, 2014; McDonald, Jackson, Wilkes, et al., 2012;谷口,2012)。本邦においても,助産師の 良好なメンタルヘルスを維持し就業継続意思を損なわ ぬよう,外的にレジリエンスを高められる教育や,現 任教育プログラムの開発などを今後検討していくべき である。 3.心的外傷体験後の就業継続意思 心的外傷体験をした後86名(15.0%)が「勤務してい た施設からの退職を考えた」と回答した。そして, PTSD発症リスクと就業継続意思の項目は負の関連が 認められた。Beck & Gable (2012)も同様に,二次的 外傷性ストレスに曝された陣痛室・分娩室に勤務する 看護職が退職を検討していたこと,そして他の助産師 の離職予防のために管理職についたという経験や,教 育機関へ転職した助産師の語りを報告している。

また,PTSD発症リスクが高いほどサポート得点が 低いという結果であった。Brewin, Andrews & Valen-tine(2000)による 77 研究のメタアナリシスの結果で は,PTSD発症リスク要因として推定効果サイズが最 大だったのは,社会的サポートの欠如であると述べて いる。また,Johnson & Hall(1988)の「Job Demand-control-support Model」では,職場での同僚や上司か らのサポートが少ない場合,ストレス反応が強まると いう理論を提唱しており,本研究結果が支持された。 質的データを見ると,【自分に向けられた不本意な 発言や苛酷な環境】は就業継続意思の平均値が最も低 く,そしてPTSD発症のリスクがもっとも高く,PTG 得点はもっとも低かった。一方,産婦の死産の体験や 急変といった二次的外傷性ストレスは,PTG 得点が 高かった。心的外傷体験をしたとしても,必ずしも PTSDになるのではなく,PTGを遂げる体験になる場 合もあるが,【自分に向けられた不本意な発言や苛酷 な環境】のように,自分に直接向けられた体験は,心 の傷も深く,成長要素も見いだせず,そして就業継続 意思の阻害につながることが明らかとなった。本結果 から,人間関係を基盤とした職場環境の改善の重要 性,さらに心的外傷体験を経験した助産師の施設内の サポートが重要であることが示唆された。

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4.本研究の限界 心的外傷体験を,一人につき1つの体験を抽出した が,1 つに分類しにくい複合的な体験なども少数あ り,今後の研究課題として,デルファイ法などを用い て内容の洗練を図る必要がある。 今後のさらなる研究として,助産師にとって就業上 避けられない心的外傷体験の心の傷の深さを左右する のは,度重なる頻度なのか,またはその体験の印象の 違いなのかを検討していく必要がある。

V.結   論

1. 575名(84.4%)の助産師が心的外傷体験を記述し, その内容は【分娩に関連した母子の不測な状態】 207名(36.0%),【助産師の辛労を引き起こした状 況】185 名(32.2%),【対象者の悲しみとその光景】 57名(9.9%)の二次的外傷性ストレス体験と,【自 分に向けられた不本意な発言や苛酷な環境】126名 (21.9%)の直接外傷体験の4つに分類された。 2. PTSD発症リスクが最も高かった体験は【自分に向 けられた不本意な発言や苛酷な環境】であり,同 時に PTG が最も低かった。一方,PTG が最も高 かった体験は【対象者の悲しみとその光景】で あった。 3. PTSDハイリスク群に分類された助産師は 79 名 (13.7%)で,その特徴はレジリエンスが低く,サ ポートが得られていなかった。 4. 心的外傷体験を記述した 575 名のうち,「勤務して い た 施 設 か ら の 退 職 を 考 え た」助 産 師 は 86 名 (15.0%)であった。 5. 心的外傷体験をした助産師が同じ環境で働きその 体験を共有してもらえる職場内のサポートを得る ことは,PTSD 発症のリスクの低減,離職予防, さらにその助産師を成長させるポジティブな要素 として働くことが示唆された。 謝 辞 本研究にご協力してくださった助産師の皆様に心よ り感謝申し上げます。 本研究は,2014 年度聖路加国際大学大学院看護学 研究科修士論文の一部を加筆修正したものであり,平 成 26 年度聖路加国際大学青木奨学金の援助と岡村育 英会奨学金を受けて実施いたしました。 文 献

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