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ノコギリガザミ属の種名と和名の対応の変遷

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Carcinological Society

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ノコギリガザミ属の種名と和名の対応の変遷

Chronological change ofthe corresponding on species name and Japanese name in the genus

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阪地英男

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・伏屋玲子

2 Hideo Sak句iand Reiko Fuseya

ノコギリガザミ属Scyllaは熱帯を中心とするイン ド一太平洋区に広く分布し,現在では4種に分類さ れている (Keenanet al., 1998). 大型のカニである ため,インドネシア等の東南アジアでは重要な水産 資源となっている(古川ら, 2014).我が国では漁 獲量は少ないものの,沖縄県・高知県・静岡県等で は地域特産種として重要な水産資源となっている (大城ら, 1983;山川・ 鈴木, 1985;大河, 2012). また,マングローブや干潟といった人間活動の影響 を強く受ける場所に生息することから,絶滅危倶種 に移行する要素を有することが指摘されている(藤 田, 2012). 我が国には3種のノコギリガザミ属,アカテノコ ギリガザミS.olivacea, トゲノコギリガザミS.para -mamosam,アミメノコギリガザミS.serrateが生息 している(大城・今井, 2003). 過去に種の分類に 混乱があったこともあり,この和名と種名の対応が 用いられ始めたのは2000年代に入ってからである. それ以前に用いられていたノコギリガザミ属の種名 1 国立研究開発法人水産総合研究センタ一瀬戸内海区 水産研究所 干739-0452 広島県廿日市市丸石2-17-5 National Research Insituteof Fisheries and Environment ofInlandSea, FisheriesResearchAgency, 2-17-5 Maru -ishi, Hatsukaichi, Hiroshima739-0452, Japan E-mail: [email protected] 2国立研究開発法人水産総合研究センター水産工学研 究所 干314-0408 茨城県神栖市波崎7620ー7 NationalResearchInstitute of Fisheries Engineering, FisheriesResearchAgency, 7620-7 Hasaki, Kamisu, Ibarak.i314-0408, Japan と和名の対応を整理することは,これから文献を調 べる者にとって有益であろう.ここでは,ノコギリ ガザミ属の種名と和名を記した文献を分類学的な検 討と合わせて整理し,現在一般的に使用されている ものに至った経緯を記す. ノ コ ギ リ ガ ザ ミ 類 は,Cancer serratus Forskal, 1755と し て 初 め て 記 載 さ れ た 後 , C.olivaceus Herbst, 1796, PortunustranquebaricusFabricius, 1798, Lupa lobifrons MilineEdwards, H., 1834等 が 記 載 さ れ,属名はScyllade Haan, 1833とされた (Stephen -son & Campbell, 1960). Estampador (1949) は,フィ リピン産の標本をもとにノコギリガザミ属を再検討 し , S.oceanica, S.serrata, S.tranquebarica, S.serrata var.paramamosamの3種 l型を認めた.ここでは形 態についての記述は少なく,色彩について詳しく記 述されていた(表1).Serrene (1952) も,ベトナム 産の標本を用いて同様の見解を示した.その後, Stephenson& Campbell (1960) はオーストラリア産 の標本を検討し, Estampador (1949) の3種l型 は すべてぷ serraωのシノニムであり,それらの形態 の違いは環境の違いによるものであるとした. しか し , Ong (1964) は マ レ ー シ ア 産 の 標 本 を 検 討 し Estampador(1949) を支持した.Ho1thuis(1978) は ノコギリガザミ属をS.serraωただ1種とした上で, Estampador(1949) とSerrene(1952) の「種」がそ れぞれの原記載を参照したものではないことを指摘 した.Joe1 & R勾 (1983) はインド産の標本を用い てS.serrataとS.tranquebaricaを認めた.このよう に,ノコギリガザミ属の分類学的な混乱は続いた. 我 が 国 で は,Stephenson& Campbell(1960) に

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表1. Estunpador(1949)によるノ コギリガザミ属Scylla3穫l型の形態と色彩の違い. 鉛脚 種または型 前額突起 外側 掌部 色彩 の練 外側の練 さびた茶 色 紫 茶 色 S.serrala 鈍く, 4歯とも同大 l練, 時に2赫 時に退行的で,大型 明るい褐灰色,網目模様 個体では痕跡的 はない S. oceanica 緑 灰緑色,歩脚全てに 網目模様 オリ ーブグリ ーン 明 S. Iranquebarica るい褐灰色,第5歩脚に 大きな網目模様 内似IJの糠より小さ S. serralavar 中央の2糠は両側 く,退行的でも歯状 褐灰色,第5歩

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闘に小さ paramamosam の2林より尖る でもないが目立ち, な網目模様 大きな雄では痕跡的 表2.大城ら (1984)による日本産ノコギリガザミ属Scyl/a3種の学名と形態・色彩の違い. 和名 学名 前額突起 紺脚腕節外側 紺脚の色彩 先端の練 ノコギリガザミ S. Iranquebarica 最も尖る アミメノコギリガザミ

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oceαnicα 中間 アカテノコギリ、カザミ S.serrala 幅広で鈍い 従ってノ コギリガザミ S.serralaただl種としていた が (例えば,武田,1975;酒井, 1976;山川, 1978; 三宅,1983;平 井,1987;武田, 1999),形態や色彩 の異なる3タイプのノコギリガザミが生息している ことも知られていた.大 城 ら (1984)はEstampador (1949)を引用して,日本本土まで広く分布するノ コ ギリガザミにS.tranquebaricaを,沖縄県に最も多い アミメノコギリガザミにS.oceanicaを,アカテノ コ ギリガザミにS.serralaをそれぞれあてた.ここで は,それぞれの種の形態と色彩の特徴が記載されて いるが(表2),これらは必ずしもEstampador(1949) の記載に一致せず, 1"学名についてはなお検討され なければならない面もある」と記述されている.山 川・鈴木 (1985)は,浜名湖には三タイプのノコギ リガザミが生息し, ドウマンノコギリガザミが圧倒 的に多く,アミメノ コギリガザミは少数,アカテノ

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痕跡程度 上面は緑褐色で網目模 明確で変異大 様,爪の先端から下面は 燈色がかる 明確 上 面は濃緑褐色で網目 模様,爪の一部が赤 無い 上部は緑褐色,爪の先か ら下面は赤 黄色 コギリガザミは希であるとした.しかし,分類学的 にはこれ ら を 同 種 と す るStephenson

&

Campbell (1960)に 従 っ て,学 名 をS.serralaとした.大城 ( 1988)は,大 城 ら (1984)でノ コギリガザミと し たS.tranquebaricaの和名を 卜ゲ ノ コ ギ リガザミと し,沖 縄 県 で は95%がアミメ,数%がアカテ, ト ゲは偶産する程度であるとした.その後,多くの著 者 が 大 城 (1988)と同じ和名と学名の対応を用いた (例えば,伏 屋・渡 迭,1995, 1999;渡 逃・伏屋, 1997).また,和名を付さない場合でもEstampador (1949)に 従 っ ていた (例えば, Fuseya & Watanabe,

1996;伏屋・渡逃,1999; Fushimi & Watanabe, 2000). Keenanel al.(1995)は,形態学的および遺伝的 手法によりノ コギリガザミ属の再検討を行い,

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olivaceous, S. serrala, S. Iranquebaricaの3種 と し た.

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ノ コ ギ リ ガ ザ ミ 嵐 の 種 名 と 和 名 の 対 応 の 変 遷 表3. Keenan elal.(1998)によるノコギリガザミ属Scylla4種の形態の違い. 種 前額突起 鉛脚の糠(突起) 腕節外側 S. serrala 高く,先端は 明瞭な2赫 S.tranquebarica 中間的な高さで 明瞭な2練 鈍い S.paramamosain 高く, 三角 中央に鈍い突起 S.oliv,αceα , 低く,丸い 中央に鈍い突起 掌部前端 明瞭な2練 明瞭な2赫 明瞭な2練 鈍い2突 起 色 彩 主甘脚と歩脚の全てに網目模様,紫 緑 黒褐色 網 目 模 篠 は 後2本の歩脚で強い, 紫 緑 黒褐色 鉛脚と歩脚の網目模様は弱い,紫 緑 黒褐色 鉛脚と歩脚には網目模様はない, 赤 茶 黒褐色 表4. Keenan elal. (1998)によるノコギリガザミ属Scylla4種の主なシノニム,および大城・今井 (2003)と今井 (2006)による和名. 著者 種ー

Keenanetal. (1998) S.olivacea S.par,αmαmosαin S.serra/a S.Irαn, quebαnca

Cancer o/ivaceous S.serrala var Cancerserratus Porlunus 原記載 Herbst, 1796 paramamosam Forskal, 1775 tranquebaricus, Estampador, 1949 Fabricius, 1798 Estampador(1949) S.serrala S. serrala var S.oceanica S.tranquebarica paramamosam Serrene(1952) S.serrata S.oceanica S.serralavar. S. tranquebarica paramamosam Joe1 & R句(1983) S.serrala S.Irαn, quebαrica 大 城・今 井 (2003), アカテノコ トゲノコギリ アミメノコギ ミナミノコギ 今 井 (2006) ギリガザミ ガザミ リガザミ リカ、ザミ

テ ン 語 文 法 と し て 誤 り で あ っ た S .olivaceousを 修 う(表3).lmai& Numachi (2002) もKeenanel al. 正), S. paramamosain, S.serrala,丘tranquebaricaの4 種 と し た . そ れ ぞ れ の 種 の 完 模 式 標 本 が 失 わ れ て い た の で , 彼 ら は 新 模 式 標 本 と 後 模 式 標 本 を 参 照 し た.Keenan elal.(1998)による4種 の 形 態 の 違 い を 表3に , 主 な シ ノ ニ ム を 表4に示す. 大 城 (1996)は 大 城 (1988)と 同 じ 学 名 と 和 名 の 対応を用いたが, IKeenan elal.(1995)に従うと, アミメノコギリガザミはS.serraleに , ア カ テ ノ コ ギ リ ガ ザ ミ はS.olivaceousに相当する」 と 言 及 し た. Hamasaki (2002)はKeenanelal.(1998)を 引 用 し, トゲノコギリガザミS.paramamosainを用いた. ト ゲノコギリガ、ザミにS.Iranquebaricaで は な く

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paramamosamをあてたのは, Estampador (1949)に 記 述 さ れ て い な か っ た 前 額 突 起 や 鉛 脚 の 糠 の 形 態 が Keenan el al.(1998)で 明 ら か と な っ た か ら で あ ろ (1998)を引用して,和名を付さずにS.olivacea, S. serrala, S. paramamosainを用いた.Imaielal.(2002) は, Keenan etal.(1998)を 引 用 せ ず に 卜 ゲ ノ コ ギ リガザミS.paramamosainを 用 い たが ( 和 文 要 旨 ), Estampador (1949)に 従 え ば 卜 ゲ ノ コ ギ リ ガ ザ ミ は S.tranquebaricaとなるため, Keenan etal.(1998)に 従 っ た こ と は 明 白 で あ る .Hamasaki (2003)は和名 を 付 さ ず にS.serrataを 用 い た が , Keenan elal. (1998)を 引 用 し て い る こ と か ら , そ れ は ア ミ メ ノ コ ギ リ ガ ザミに間違いない . 日 本 産 の ノ コ ギ リ ガ ザ ミ属3種 を 同 時 に と り あ げ , ア カ テ ノ コ ギ リ ガ ザ ミ S.olivacea, トゲノコギリガザミS.paramamosai爪 ア ミ メ ノ コ ギ リ ガ ザ ミ S .serrateと記述したのは, 大 城・今 井 (2003)が 初 め て で は な い か と 思 わ れ る そ の 後 , こ の 和 名 と 学 名 の 組 み 合 わ せ が 一 般 的

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阪地英男・伏屋玲子 に使用されている(例えば,今井, 2006;伏屋ら, 2007;三 浦・実政, 2010;藤田, 201と 古 川 ら , 2014). なお,今井 (2006)は, 日本に産しないS Iranquebaricaにミナミノコギリガザミの和名を与え た. ノコギリガザミ属は異なる種で交雑が起こること もある.和歌山県で採集されたl個体が,雌のアカ テノコギリガザミと雄のアミメノコギリガザミの交 雑によるものであることが遺伝的手法により確認さ れた(Jmai& Takeda, 2005). また,石川県沖で採集 されたトゲノコギリガザミも,形態からアミメノコ ギリガザミとの交雑の可能性が考えられるが,確認 はできていない(本尾・長津, 2007). ノコギリガ ザミ属の同定に際しては,このような交雑個体の存 在やトゲノコギリガザミの錯脚腕節の東京の形態に個 体差が大きいこと(大城ら, 1984)に注意する必要 がある. 本論ではノコギリガザミ類について和名と学名を 記した全ての文献を網羅できたわけではないが,ノ コギリガザミ属の和名と種名の対応について以下の ようにまとめた.我が国に生息するノコギリガザミ 属については,ノコギリガザミをl種とする考え方 が主流な時代であっても,形態と色彩から卜ゲノコ ギリガザミ(ノコギリガザミ ・ドウマンノコギリガ ザミ),アミメノコギリガザミ,アカテノコギリガ、 ザミに区別されてきた.それらと学名の対応は,近 年 で はKeenanetal.(1998), 大 城・今 井 (2003), 今井 (2006)に従い,アカテノコギリガザミs.o/i -νacea, トゲノコギリガザミS.paramamosain, アミ メノコギリガザミS.serrataとし,日本に産しない もう l種をミナミノコギリガザミS.tranquebaricaと している.ノコギリガザミ S.serrataとしている場 合 は / コ ギ リ ガ ザ ミ 属 をl種とするStephenson& Campbell (1960)に従ったものである. 卜ゲノコギ リガザミS.tranquebarica, アミメノコギリガザミs. oceamca,アカテノコギリガザミS.serrataとしてい る場合は, Estampador (1949) と 大 城 (1984)に 従ったものである.和名が付されていない場合に は, S. serrataとS.tranquebaricaがどの種をさしてし、 るのか,注意が必要である.S. serrataはノコギリガ ザミ属をl種としているかもしれないし,アカテノ コギリガザミまたはアミメノコギリガザミのどちら

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24 (2015) かを指しているのかもしれない.S. tranquebaricaは 日本産の標本ではトゲノコギリガザミを指している と思われるが,海外産の標本ではミナミノコギリガ ザミかもしれない.これらの場合,記載内容と引用 文献をよく吟味して,それらがどの種を指している のか推定する必要があろう.

圃謝

本報告を取りまとめるにあたり,原稿の御校聞を 賜った東京海洋大学名誉教授渡遺精一博士に深謝い たします.

E

Estampador E. P., 1949. Studies on Scylla(Crustac巴a:Por -tunidae), I.Revisionofthe genus. PhilippineJournalof Science, 78:95ー108 藤田喜久, 2012.アカテノコギリガザミ, トゲノコギ リガザミ.干潟の絶滅危倶動物図鑑ー海岸ベント スのレッドデータブック(日本ベントス学会編). 東海大学出版会,秦野,pp.194. 古川文美子・岩田明久・小林繁男, 2014.インドネシ アにおけるノコギリガザミ漁業の現状と資源保 全;南スラウェシ州とマルク州のノコギリガザミ 漁を事例に.東南アジア研究, 52・22-5卜 伏屋玲子・渡溢精一,1995.ノコギリガザミの分類に 関する問題点.Cancer, 4: 5-8 Fuseya, R., & Watanabe, S., 1996. Genetic variability in themud crabScylla(Brachyura: Portunidae). Fisheries Science, 62(5): 705-709. 伏屋玲子・渡溢精一,1999.ノコギリガザミ属とワタ リガニ科4種 と の 遺 伝 的 類 縁 関 係.水産増殖, 47(2):191-199 伏屋玲子・横田賢史・渡遺精一,2007. 日本のノコギ リガザミ属3種における鉛脚の色彩変異による判 矧

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