日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-65 250
-児童の行動抑制/行動活性傾向が抑うつに及ぼす影響の検討
○小関 俊祐1)、杉山 智風2)、高田 久美子2)、土屋 さとみ2)、尾曲 敏三2)、小野 はるか3)、小関 真 実4) 1 )桜美林大学心理・教育学系、 2 )桜美林大学大学院心理学研究科、 3 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 4 )早稲田 大学人間総合研究センター 問題と目的 抑うつに対する介入手続きに関して, 近年,行動活性化療法が注目されている。行動活性化 療法とは,行動が引き起こされている文脈について有 効であるかどうかの機能分析に基づき,気分に左右さ れずに活動を増やす介入を主たる手続きとしている (Martell, et al., 2011)。行動活性化療法における, 行動抑制,行動活性傾向を測定する指標として,行動 抑制システム(Behavioral Inhibition System:以下 BIS)と行動賦活システム(Behavioral Activation System:以下BAS)からの理解が可能であるとされて いる(Kasch et al., 2002)。しかしながら,わが国 において,児童の抑うつに対してBIS/BASがどのよう な影響性を示すのか,という点についての検討は行わ れていない。これらの影響性が明らかになることに よって,児童を対象とした行動活性化療法実施の際の 操作変数として,BIS/BASを活用することの有効性の 可否や,抑うつ傾向の高い児童の兆候について,BIS/ BASを用いて予測することが可能になることも期待さ れる。以上のことから,まず研究 1 として,児童を対 象として,抑うつとBISおよびBASの関係について明ら かにする。次に,研究 1 で明らかになった抑うつとの 関連が強いBISおよびBASの変容が,抑うつの低減に寄 与するか,研究 2 にて明らかにする。研究 1 :児童の 行動抑制/活性傾向と抑うつの関連 1 .対象者 6 府県 の公立小学校10校に在籍する小学 3 年生から 6 年生の 1,754名のうち,記入漏れや記入ミスのあった回答を 除き, 3 年生(男子122名,女子149名), 4 年生(男 子182名,女子176名), 5 年生(男子193名,女子181 名), 6 年生(男子213名,女子206名)の合計1,422名 を解析対象とした。なお,本研究のデータの一部は, 小関ら(2018)において用いたデータと重複している。 2 .実施尺度 I )日本語版児童用BIS/BAS尺度(以下, BIS/BAS尺度;小関ら,2018)本尺度は,BIS/BAS尺度 (Muris, et al.,2005)を基に作成された尺度で,行 動抑制システム(BIS)や行動賦活システム(BAS)を 測定する指標として使用する。「BIS」「BAS-報酬性反 応」「BAS-駆動」「BAS-刺激追及」の 4 因子20項目に よって構成されており,高い信頼性と妥当性が確認さ れている。 4 件法で実施し,「BIS」の得点が高いほど 行 動 抑 制 の 傾 向 が 高 い こ と を,「BAS-報 酬 性 反 応 」 「BAS-駆動」「BAS-刺激追求」の得点が高いほど行動賦 活の傾向が高いことを示している。II)児童用抑うつ 尺度(以下,抑うつ尺度;村田ら,1996)本尺度は, 児童の抑うつを測定する指標として使用する。 1 因子 18項目によって構成されており,高い信頼性と妥当性 が確認されている。 3 .実施方法と倫理的配慮 調査 は,学級単位で授業時間などを用いて,集団で実施し た。また,調査にあたっては,研究実施者もしくは担 任教師が「学校の成績には全く関係ないこと」「個人 の回答が他人に漏れることはないこと」「答えたくな い質問に対しては答えなくてもよいこと」など,口頭 および書面にて伝えた。また,実施にあたり,学校長 の同意を得るとともに,調査実施の目的と内容につい て紹介した文書を保護者宛に配布した。なお,本研究 の実施にあたり,本研究開始時に第一著者が所属して いた愛知教育大学の研究倫理委員会の承認を得ている (総第4-27号)。結 果行動抑制/活性傾向と抑うつの 相関関係を調べるため,BIS/BAS尺度の 4 下位尺度得 点と抑うつ尺度得点を用いて相関係数を算出した。そ の結果,抑うつと「BIS」の間に有意な正の相関係数 が示された。また,抑うつと「BAS」,「BAS-報酬性反 応」,「BAS-刺激追及」の間に有意な負の相関係数が示 された。抑うつと「BAS-駆動」の間には有意な相関係 数は認められなかった。次に,BIS/BAS尺度の「BIS」, 「BAS-報酬性反応」,「BAS-刺激追及」を説明変数,抑 うつ尺度を目的変数としたステップワイズ法による重 回帰分析を行った。なお,多重共線性に関する指標を 検討したところ,許容度=.70-.90,VIF=1.11-1.51で あり,問題ないと判断された。分析の結果,すべての 下位尺度において有意な決定係数が示された。標準化 偏回帰係数をみると,「BIS」からは有意な正の偏回帰 係数が示され,「BAS-報酬性反応」および「BAS-刺激 追及」からは有意な負の偏回帰係数が示された。考 察 研究 1 の結果から,抑うつに対しては,抑うつと 「BIS」の間に正の関連性が,抑うつと「BAS-報酬性反 応」および「BAS-刺激追及」の間に負の関連性が示さ れた。一方,抑うつと「BAS-駆動」の間には,有意な 関連性は認められなかった。本研究の結果からは,抑 うつの低減を目的とした場合に,特に「BIS」を操作 することが有効である可能性が示唆された。加えて, 「BAS-報酬性反応」および「BAS-刺激追及」も扱うこ とで,「BIS」に比べると影響力は低いものの,抑うつ日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-65 251 -の低減に寄与する可能性が示唆された。研究 2 :児童 の行動抑制/活性傾向の変容が抑うつの低減に及ぼす 効果方 法 1 .対象者研究 1 の対象者とは異なる,公 立小学校 1 校に在籍する 5 年生 2 クラス計63名(男子 30名,女子33名)を対象として, 1 回45分からなる行 動活性化療法に基づく介入を実施した。また,同地域 の異なる公立小学校 1 校に在籍する 5 年生28名(男子 15名,女子13名)を比較群として,質問紙調査のみを 実施した。 2 .実施尺度 すべての調査において,研 究 1 と同じ,BIS/BAS尺度および抑うつ尺度を用いた。 3 .実施方法と倫理的配慮 調査の実施方法は,研究 1 と同じ手続きを用いた。倫理的配慮に関しても,研 究 1 と同様の手続きを行ったことに加え,介入対象の 児童の保護者に対しては,介入の目的と内容について 紹介した文書を配布した。なお,本研究の実施にあた り,第一著者が所属している桜美林大学の研究倫理委 員会の承認を得ている(倫理承認番号:14024)。介入 のねらいは,「BIS」が喚起される状況に気づき, 「BAS-報酬性反応」および「BAS-刺激追及」に置き換えるこ とであった。具体的な手続きは,小関ら(2016)およ びLejuez et al.(2001)を参考に構成した。結 果 まず,介入前後のBIS得点を比較し,介入前に比べて 介入後のBIS得点が低かった28名を有効群,BIS得点に 変化がなかった,あるいは介入前に比べて介入後の BIS得点が高かった15名を無効群とした。次に,BIS/ BAS尺度の下位尺度得点と抑うつ得点を従属変数とし た,二要因分散分析を行った。その結果,「BIS」にお いて交互作用が有意であった(F(4, 122) = 142.676, p<.001)。単純主効果の検定の結果,有効群において 介入前に比べて介入後(p<.001)およびフォローアッ プ(p<.001)の得点が有意に高かった。同様に,無 効群において介入前に比べて介入後(p<.001)およ びフォローアップ(p<.001)の得点が有意に低かっ た。「BAS-報酬性反応」においては,交互作用が有意 傾向であった(F(4, 122) = 2.029, p<.10)。単純主 効果の検定の結果,有効群において介入前に比べて介 入後の得点が有意に高かった(p<.05)。「BAS-駆動」 においては,時期の主効果,群の主効果,交互作用の いずれも有意ではなかった。「BAS-刺激追及」におい ては,交互作用が有意であった(F(4, 122) = 2.702, p<.05)。単純主効果の検定の結果,有効群において 介入前に比べて介入後の得点が有意に高かった(p <.05)。「抑うつ」においては,交互作用が有意であっ た(F(4, 122) = 2.467, p<.05)。単純主効果の検定 の結果,有効群において介入前に比べて介入後の得点 が有意に低かった(p<.05)。考 察 研究 2 の結果 から,介入前に比べて介入後に「BIS」が低減した群 は,「BAS-報酬性反応」と「BAS-刺激追及」の得点が 有意に上昇し,抑うつ得点が有意に低減することが示 された。さらに抑うつの低減効果は,介入から 3 ヶ月 後のフォローアップの時点まで維持していた。「BIS」 の低減によって,抑うつが低減するという知見は,小 学 5 年生と 6 年生を対象に行動活性化療法を実施した 小関ら(2016)と一致していた。総合考察 本研究の 結果を総合すると,抑うつには「BIS」が特に関連が 強く,「BIS」の機能的な変容を促し,「BAS-報酬反応」 および「BAS-刺激追及」の増加を促進することが可能 になれば,抑うつの低減効果が期待されることが示唆 された。BIS/BAS傾向は,神経行動学的システムに位 置づけられ(Gray, 1970),実際には変容が容易では ない気質的な要素であると考えられるが,研究 2 にお いて対象となった児童の場合には,介入の手続きとね らいを合致させることで,一定の効果が得られること が示された。