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セグロアシナガバチの観察

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Academic year: 2021

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(1)

セグロアシナガバチの観察

他巣への合流(2)ワーカー、新女王、オス

-井上治彦

伊丹市昆虫館友の会

Observation on the Japanese Paper Wasp Polistes jokahamae

Radoszkowski (Hymenoptera: Vespidae)

Joining (2) Workers, Gynes, Males

-Haruhiko I

noue

Itakon Friend Club

(2019 年 3 月 1 日受理) はじめに    アシナガバチ属の創設初期の巣における創設メスの合 流については Reeve (1991) や Seppä ら (2012) の報告 がみられるが、さらに営巣が進んだ繁殖期におけるワー カー等の合流についてはあまり報告がみられなかった。  本報ではセグロアシナガバチの営巣の繁殖期に自身の 巣を失ったワーカー、新女王(交尾して来春に創設メス となる個体)およびオスが、いずれも同種の他の巣に合 流して新しい巣でもその巣の個体と共に活動することを 観察したので報告する。   材料と方法    兵庫県伊丹市春日丘の住宅の庭に面した南側の壁面に 置かれた小鳥の巣箱内に 2014 年 4 月 9 日創設されたセ グロアシナガバチの巣を、巣箱の天板とともに取り外し て観察用のケースにつり下げたもの(巣 A、図1)を今 回の合流の調査の基本の巣とした。なお巣 A の個体には 女王にだけ白のマークをつけておいた(図 2)。 問い合わせ先 〒 664 − 0015 伊丹市昆陽池 3-1 伊丹市昆虫館 e-mail : [email protected]      [ 実験Ⅰ ] 同じ住宅の南側壁面の巣 A から約4m斜め下 の縁側下面に、ほぼ同時期に作られていた巣 B を、 2014 年 7 月 20 日にこの巣とともにすべての個体(メス 25 頭)を捕獲し、中胸背板にピンクのペイントでマークを つけて巣 A の近くに放した。そして、巣 A への合流を 確認した巣 B の個体を確認順に P1、P2 とした。P1 と P2 は同じピンクマークであるのでマークの形状により 個体の識別を行った(図3)。 図 1.巣 A

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[ 実験Ⅱ ] 伊丹市内の、同住宅から南東に約 1.2km 離れ た地点で見つけた巣 C を巣とともに殆どの個体(メス 19 頭、オス 11 頭)を捕獲して持ち帰り、すべての個体 の中胸背板に赤のマークをつけて、8 月 30 日午前 10 時 ごろ巣 A の近くに放した。実験Ⅰと同様に合流の確認順 に R1、R2、R3・・・とし、個体識別も赤マークの形状 によって区別した。なお、マーキングは巣 C から捕獲し た個体をまとめて捕虫網に入れて押さえ、網の上からペ イントを付けたのでマークが不揃いになったが、個体識 別のためにはかえってそれが役に立った。  実験Ⅰ、実験Ⅱを行った際の個体マークの一覧を図4 に、実験Ⅰ、Ⅱで巣 A に合流した個体の消長を図8に示 す。巣 A においては2∼3日に一度合流個体のチェック を行った。ある調査日に確認できなかった個体でもその 前後に確認できていれば続けて巣にいたものと見なし た。  また、直接観察と同時に写真撮影も行い、それによる 補正も行った。その結果、同じマーク個体を重複してカ ウントしたため欠番が生じたり、合流確認の順序が逆転 したものもあったがすべてそのままにしておいた。 図 4.個体マークの一覧 図 3.P1 と P2 図 2.巣 A の女王(白マーク)

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観察結果 [ 実験Ⅰ ] 巣 B の回収後、巣があったところにはシート をかぶせておいたが、ほとんどの個体は元の巣の付近に 戻って飛び回った。それでも 25 頭中 2 頭が巣 A に合流 した。その状況は以下の通りであった。 7 月 24 日午後 5 時 50 分ごろ ピンクマークの個体 (P1) が巣 A に飛び込み激しい攻撃に会って追い出されるとこ ろを観察することができた(図5)。攻撃しているのは マークのない個体なのでワーカーと考えられる。 7月 28 日にはピンクマークの別の個体(P2)がすでに 巣に入り込んでおり、先に追い出された P1 も 7 月 30 日には入り込むことに成功していた。 P1 はその後頻繁に巣から出入りし花蜜を集めて別の個 体や幼虫に与えるなどワーカーとして活動し、 9 月 1 日 まで巣に留まった。一方、P2 は何もせず、10 月まで巣 でじっとしていた。 [ 実験Ⅱ ] 巣 C のハチを放した 8 月 30 日の午前 11 時 35 分 観察巣箱の底面にいた赤マークの個体(R1)が、 そこから巣 A に飛び込むのが観察された。この個体は 激しい攻撃を受けたが全く抵抗せずじっとしていた(図 6)。そのうちに攻撃もおさまってそのまま巣に留まる ことができるようになった。その間、攻撃は 12 分続いた。 ここで興味深いことは、前の実験Ⅰで合流した P1 もこ の攻撃に加わっていたことで(図6)、完全にこの巣の ワーカーになりきっているように見えた。 その後 9 月 1 日までに 6 頭、 9 月 4 日までに 3 頭、 9 月 7 日、9 月 12 日、9 月 14 日に各 1 頭と合計 13 頭が合 流した。この中で盛んに巣を出入りしたのは R1 のみで 9 月 16 日には肉団子も持ち帰った(図7)。他の合流個 体は全て巣内でじっとしていた。 図 7.肉団子を持ち帰る R1 図 6.攻撃される R1 図 5.攻撃される P1

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考 察  図8は実験Ⅰ、Ⅱの合流個体をカーストごとに分けて 配列したものである。 巣 A の女王は 4 月 9 日の創設か ら 9 月 10 日まで巣に留まった。合流個体 15 頭のうち ワーカーは P1 と R1 の 2 頭と考えられ、P1 は 7 月 30 日から 9 月 1 日まで、R1 は 8 月 30 日から 10 月 5 日 まで活動した。オスは R5、R10、R13 の 3 頭であった。 その他の 10 頭は新女王と考えられ、そのうち R4 は 9 月 17 日に、P2 は 10 月 16 日にいなくなった。P2、R4 以外の新女王 8 頭とオス 3 頭は巣 A のほとんどの新女 王、オスと共に 10 月 21 日に巣を離れた。  実験Ⅰ、Ⅱから、 (1) 営巣繁殖期に自分の巣を失ったセグロアシナガバチ の個体は、ワーカー、新女王、オスともに同種の他の巣 に合流して其の巣の個体とともにそれぞれの活動を続け ることが確認された。 (2) 侵入者に対しては激しい攻撃が加えられるが、抵抗 せずにじっとしているとやがて攻撃はなくなりそのまま 巣に留まることができるようになる。また、一度追い出 図 8.合流個体の離巣まで 11 ワーカー 新女王 オス R13 R4 R6 R7 R9 R10 R14 P2 R1 R2 R3 Ⅱ 巣Cの個体 30頭(Redマーク)を放す 巣Bからの 合流個体 10月 P1 R5 R11 R12 巣Cからの 合流個体 8月 9月 7月 16 21日 30 30 1 10 5 Ⅰ 巣Bの個体 25頭(Pinkマーク)を放す 巣Aの女王 20 24 28 されても再挑戦することで合流できるようである。 (3) 侵入者を攻撃するのは専らその巣のワーカーで女王 や新女王、オスは関与しないようである。 (4) 前報の創設メスの場合と異なり、本報のケースでは、 ワーカー、新女王、オスともに合流した新しい巣におい ても元の巣でのカーストの行動を全うしたものと考えら れる。特に、合流ワーカーの R1 は、9 月 16 日ごろの観 察では、ワーカーはこれ1頭で最後のワーカーとなった。 繁殖後期のワーカーが減少した時期に合流ワーカーは貴 重な戦力となり、かなり成長していても餌不足で蛹化ま で至っていない幼虫を救済することによって、巣の大き さは同じでも生産する繁殖個体数の増加に貢献したもの と思われる。 (5) 巣 A と B は距離が近いため女王が姉妹の可能性が高 いが、A と C はその可能性は極めて低いと考えられる。  セイヨウミツバチでは、並べて置かれた巣箱の一つで、 個体マークをつけて行動観察を行っていると、マーク個 体が他の巣箱に入り込んでその巣の個体と同様に活動し ているケースが見られるようである(大谷 私信)。

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 今回、セグロアシナガバチにおいて、自身の巣を失っ たワーカー、新女王、オスが同種の他の巣へ合流するこ とを、人為的な方法ではあるが観察することができたが、 このことは自然の状態でも十分起こりうるものと考えら れる。 謝 辞  本稿をまとめるにあたりご指導ご助言をいただいた大 阪市立自然史博物館学芸員の松本吏樹郎氏、伊丹市昆虫 館学芸員の田中良尚氏に感謝申し上げる。 引用文献

Reeve,H.K.,(1991) Polistes In Ross, K.J. and R.W.Mathews (eds.) The social biology of wasps. p.106-118. Cornell University Press, Itaka, New York.

Seppä,P., D.C. Queller and J.E. Strassmann,(2012). Why wasp foundresses change nests: Relatedness, dominance, and quality. Pros one, 7(9), e45386.

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