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文部科学省

初等中等教育分野等の協力強化のための『拠点システム』構築事業

途上国の教員を対象にした環境教育研修と

その国際教育協力

物 語 集

2004 年 3 月

東京学芸大学環境教育実践施設

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途上国の教員を対象とした環境教育研修とその国際教育協力

物語集

近い将来予想される環境教育の教師教育に関わる国際教育協力の要請に前もって備えて おくために、日本国内の環境教育関連組織・機関が「途上国教員を対象とした環境教育研 修の国際教育協力」というテーマに関連して蓄積されたさまざまな経験と、そこから導き 出された事業実施上の配慮すべきことを「物語集」として編集した。 ここでは、2004 年 8 月 19-20 日および 12 月 8-9 日、東京学芸大学環境教育実践施設に おいて開催された「途上国の教員を対象とした環境教育研修とその国際教育協力」ワーク ショップへ参加いただいた11 の機関・団体によって書かれた物語・留意点からなる 「Part A 物語・留意点集」、ワークショップ参加機関・団体のなかで途上国の教員もしく は指導者への環境教育研修を実施している機関・団体に対する聞き取りの結果をまとめた 「Part B 事例研究」の二部構成となっている。 また「Part A 物語・留意点集」では書かれた物語の内容から、具体的に教員もしくは指 導者に対する環境教育研修およびそれを包括するような内容の研修・教材開発の物語 (Ⅰ.指導者(教員)養成・研修)、環境保全に関わる国際協力プロジェクトにおいて一つ の構成要素として位置づけられた環境教育の物語(Ⅱ.国際協力(環境教育)プロジェク ト)、大学という高等教育機関を介して行われる環境教育を主要なテーマとした国際連携の 物語(Ⅲ.大学を介した国際連携)、と三つに分類され、その分類に沿って物語が配列され ている。 この物語集は、書き手によって登場する機関・団体で起きた出来事が構成され、秩序づ けられ、経験として組織され、意味づけられた「物語」として、読み手であるみなさんに よって受けとめられ、解釈されることを通して「共有」されることを目指している。そし て、そこから「途上国教員を対象とした環境教育研修の国際教育協力」という共通の物語 が生成されてゆく一助となれば幸いである。 東京学芸大学環境教育実践施設

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目次

Part A 物語・留意点集

Ⅰ.指導者(教員)養成・研修

1章 (特活)アフリカ地域開発市民の会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 アフリカ地域開発市民の会(CanDo)の経験 −小学校を基点とした実践的環境活動− 2章 滋賀大学環境教育湖沼実習センター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 途上国の教員を対象とした環境教育研修とその国際協力 −JICA「水環境を主題とした環境教育コース」− 3章 ホールアース自然学校/NPO 法人 ホールアース研究所 ・・・・・・・・・・17 日本における自然体験を通した環境教育トレーニング 4章 (財)日本自然保護協会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 自然観察からはじまる自然保護 −地域に根ざした環境教育実践者の誕生から現在まで− 5章 (財)地球環境戦略研究機関・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 アジア太平洋地域における環境教育の国際教育協力と キャパシティ・ビルディング 6章 (財)ユネスコ・アジア文化センター・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 アジア向け環境教育教材の共同制作と普及について −ACCU 教材開発を通じて考える−

Ⅱ.国際協力(環境教育)プロジェクト

7章 ラムサールセンター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 ラムサールセンターの経験から 8章 独立行政法人 国際協力機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 マレーシア国サバ州における生物多様性保全のための環境教育 9章 (社)日本環境教育フォーラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 環境教育のフィールドワーク −インドネシアの農村から−

Ⅲ.大学を介した国際連携

10章 宮城教育大学環境教育実践研究センター・・・・・・・・・・・・・・・・・70 まだ浅い経験の中で考えていること̶国際教育支援で相手国を理解する一手法̶ 11章 東京学芸大学環境教育実践施設・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 東京学芸大学における環境教育・環境学習の現在 −タイとの環境教育協力を事例として−

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Part B 事例研究

12章 「水環境を主題とする環境教育コース」の経験から学ぶ・・・・・・・・・・・・83 13章 アフリカ地域開発市民の会(CanDo)から学ぶ視点 ・・・・・・・・・・・・・・87

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特定非営利活動法人 アフリカ地域開発市民の会

アフリカ地域開発市民の会(CanDo)の経験

−小学校を基点とした実践的環境活動−

國枝 信宏

組織のプロフィール アフリカ地域開発市民の会(CanDo)は、地球規模の開発の波から取り残されてき たと言われるアフリカにおいて、地域の人々が、当会と共に開発活動に参加すること によって、自らの力で、自ら規定する「豊かさ」を実現できるよう協力することをめ ざす、市民による開発協力団体である。当会は 1997 年 9 月よりケニア共和国におい て準備活動を開始し、1998 年 1 月に日本で任意団体として正式に設立し、1999 年 11 月に特定非営利活動法人として法人格を取得した。 アフリカは、地球規模の開発の波から取り残されてきた、と言われている。一方、 近年その深刻さを増す地球環境問題は、日本を含む「先進工業国」やその軌跡を追う アジアの「新興工業国」が実現してきた工業化による経済開発が、限界に達してしまっ たことを如実に表している。また、開発から取り残されたアフリカも、働き盛りの人 たちの村落地域からの流出、都市への人口集中によるスラムの形成やストリートチル ドレンの増加、環境の劣化など、世界の経済開発の波からの負の影響は深刻となって いる。 ケニア共和国は、アフリカ諸国のなかで経済的には比較的優位な立場にあるが、そ れだけ世界の経済開発からの負の影響も深刻だと言えるようだ。首都ナイロビの中心 には最先端の情報機器が並ぶ一方、周辺には電気や水道さえ備わっていないスラムが 広がっている。衛生面をはじめ、スラムでの生活は厳しく、仕事の機会も少ないが、 村落部からの働き盛りの人々の流入は止まらない。そこには首都人口の半数とも、100 万人規模とも言われる人々が暮らしている。 この都市スラムの貧困の背景には、さらに厳しい村落部の生活がある。CanDo の主 な活動地である東部州ムインギ県は、降雨量が少なく、かつ降雨の不安定な半乾燥地 域に位置し、住民の大部分が牛やヤギによる牧畜とメイズ・ソルガム・ミレット・豆 類などの天水農業に生計を依存している。社会基盤の開発から取り残され、さらに、 たびたび深刻な干ばつにみまわれ、緊急食糧援助の対象となる貧困地域である。 地域住民がこうした厳しい生活状況を改善し、自らが規定するより「豊かな」社会 を実現していけるようにという CanDo の基本理念を実現するには、その地域住民が 「健康」である必要がある。また、質の高い「環境」がなければ、住民が生存を依拠 する農業や牧畜も成り立たない。更に、将来的・継続的に住民が社会改善のために活 動していくには、将来のケニア社会を担う地域の人材を育てていくための「教育」が 重要である。そこでCanDo は、地域住民のエンパワメント(自ら問題を発見し、解決 するために必要な知識・技能・意識を高めること)の達成を目指し、教育・保健・環 境の3 分野を中心とした総合的な開発協力を進めている。

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はじめに CanDo は、2000 年 2 月よりムインギ県ヌー郡において、小学校を基点とする環境 活動・教育事業を実施してきた。当会は当初、学校での環境教育という枠にはとらわ れず、地域住民が主体的に環境保全に取り組むよう協力を行なうことを検討していた が、後述のような背景から方針を修正し、準備段階として地域住民の中で環境意識を 形成することが優先であるとの結論に至った。想定される経路は、小学校への環境活 動・教育の導入によって、子どもと教員から保護者を経て、地域社会へと環境意識が 波及し、定着するというものであった。 環境活動・教育事業の実施における筆者の役割は、国内事務所を拠点に事業運営や 資金協力団体との連絡調整を担当する傍ら、年に 1 度、2 ヶ月程度の現地出張を行な い、現地駐在スタッフやケニア人環境専門家と協力して事業の調整を行なうというも のであった。また、事業開始後 4 年目の 2003 年には、同事業の中間評価に調査員と して参加し、開始から3 年半が経過した事業の成果を調査した。 協力に至った背景 ムインギ県ヌー郡は、降雨量が例年 500mm 前後でかつ年により降雨にばらつきが 大きいため、天水のみに頼る農耕では生計を立てることが困難な、いわゆる農耕限界 地である。1992 年以降の頻繁な干ばつや降雨量の減少傾向、また東方部での盗賊行為 を逃れての人口集中は、焼畑による伝統的な土地利用手法とあいまって、植生の破壊 や表土流出など環境問題の深刻化を加速させている。このことは、牧畜および天水に 頼る農業、そして生活燃料である薪に強く依存している地域住民の家計基盤を脆弱に し、貧困化を進行させる一因となっている。 こうした状況から、行政側はこれまで住民に対して植生復興活動への参加や改良か まどの普及を働きかけてきたが、住民側は積極的に反応しようとはしていない。これ には、これまで国際援助機関や NGO が当該地域で環境保全事業を実施する際に、ほ とんどの場合フード・フォー・ワーク(労働力の対価として住民に食糧を供与する事業 実施手法)が用いられてきたことが大きく影響している。つまり、現状では食糧獲得 という短期的な目的が環境保全活動に参加する動機として住民の間で定着しているた め、食糧獲得が期待できない環境保全活動には関心を持てない状況となっており、こ のままでは持続性のある住民参加型の環境保全活動は成り立たないことを意味してい る。 一方、当会は、設立初年度の 1998 年度よりヌー郡内の全小学校を対象とした教材 配布や教室建設・補修事業を実施してきたが、この過程で、住民が自らの資金と労働 力を継続的に提供しながら、教室建設など教育環境改善に熱心に取り組んでいること が確認された。その動機をある小学校の保護者に尋ねたところ、「教室は子どもたちの 未来を創るという利益がある」とのことであった。こうした意識は、小学校に環境活 動・教育を根づかせ、この小学校を基点とした環境事業に保護者の参加を図ることに よって、地域社会のなかに長期的視野にたった環境保全への理解を促し、持続性のあ る住民参加型の環境保全活動が形成できる可能性を示していると当会は考えた。

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事業の経緯 このような背景から、当会は 2000 年 2 月より、小学校における環境活動・教育の 導入に協力している。小学校において、苗木育成、植樹、菜園、木材や植物繊維の加 工、養蜂、気象観測などの環境活動を開始し、子どもたちによる活動の実践と教科教 育との関連付けを図ることによって、子どもたちの環境理解と保全意識の向上、教科 の理解の促進、教員の教授意欲の向上を目指している。波及効果としては、子どもた ちから保護者や地域社会全般に環境意識が浸透すること、さらには保護者が学校教育 への関心を強め、保護者と教員の双方が教員の意欲向上や環境活動の実施において保 護者が果たし得る役割を認識・評価した結果、保護者が教育環境改善に継続的に関わ るようになることを期待している。 最初の年となる 2000 年は、小学校での環境活動への協力を開始するにあたり、ま ずは各小学校の教員代表が参加する教員ワークショップを開催した。目的は、教授意 欲が低くなっている教員の意欲を高めること、そして環境への理解を深める基礎とな る教科教育(特に理科、農業、商業教育、家庭科、図画工作)をどのように環境活動 と関連づけていくことができるのかを議論し、各校での環境活動の実施を促すことで あった。出席した教員は非常に積極的に参加し、今後は小学校における環境活動につ いて実践的に学習する機会を提供して欲しい、との要望が多く出されるほど反応は良 好であった。 その後、環境モデル事業を実施する小学校を郡内28 校から 6 校選び、各事業に必要 な資材や道具の供与、および地域の気候風土や生活文化に精通したケニア人環境専門 家による技術面の助言を通じた協力を開始した。より具体的には、3 校で菜園と苗木 育成・植樹、1 校で苗木育成・植樹、1 校で木材加工と手工芸、そして 1 校で養蜂を行 なうことが各校と当会の間で合意された。対象校と事業内容の決定は、担当の教員が 環境活動に対して強い関心を持ち、かつ実施内容や方法について具体性と実施可能性 の高い計画を持っているかどうかを、我々スタッフによる面接と学校側から提出され た申請書を基に審査するという過程を経て行なわれた。 モデル事業の開始当初、集中的な学校訪問を通じて何度も教員と連絡を取り合い、 慎重に事業を進めることを心がけた。資金制約の中で車両レンタルの費用を節約する ために、炎天下、往復 30km 以上の未舗装道路を自転車で移動することもたびたび経 験した。国際機関などでの業務経験の豊富なケニア人専門家に「日本の NGO はこん なに貧しいのか」と呆れられもした。その甲斐もあって、いくつかの学校ではモデル 事業が順調に滑り出し、開始から 1 ヶ月後には、モデル事業実施校の教員による理解 を深めると同時に周辺他校への活動普及にもつなげていくことを目的とする実践型教 員ワークショップを、他校教員も招待して開催するまでに至った。「水不足の場合にど うやって菜園を維持すれば良いか?」「なぜ堆肥に灰を混ぜるのか?」という他校教員 の質問に対し、担当教員から「庭地を小さく設定し、保水効果の高い構造を導入する ことで対応可能」「害虫を防ぐため」との回答が行なわれるなど、環境活動という活き た教材を前に活発なやり取りを行なう教員たちの充実した様子が印象的であった。 一部のケースでは、モデル事業開始後に学校と地域住民の間で摩擦が発生した。半 乾燥地における水という稀少資源を学校の菜園や苗畑などに使用したことが直接の原 因であった。村の水道水は農業用水としての使用を禁止されているのに、学校なら許

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されるのか。そこで、各校の学校運営委員会や地域の水管理委員会などを通じて、菜 園や苗畑などの環境活動が教育面の効果に焦点を当てていること、そして野菜や苗木 など生産物の販売により学校が収入を得ることは副次的な効果に過ぎないことへの理 解を求め、保護者を含む地域住民の協力を確保した。 2 年目の 2001 年は、モデル事業と教科教育(特に理科)との関連付けを強化し、環 境活動が質的に充実するよう協力を進めた。特にモデル事業を活用した実践的理科教 育の成果を生徒が発表する場として、郡レベルの研究発表会(Exhibition Day)を開 催した。発表のテーマは、植物の科学、土壌流失・保全、気象、仕事を簡単に/リサ イクル、人体の仕組み、と多岐にわたった。郡内各校から集まった300 人を超える生 徒と教員を前に堂々と発表する生徒、その発表の内容を必死にメモする生徒、クイズ 大会で我先にと手を挙げる生徒、「ケニアの初等教育ではおそらく前例のない画期的 な企画」と絶賛した主賓のムインギ県教育局長、そして毎年継続していきたいと意気 込む地域の教員と行政官。第1 回の研究発表会は成功裏に終わった。 その他、モデル事業の担当教員及び保護者代表を対象とし、隣接するキツイ県で JICA の協力により実施されているケニア半乾燥地社会林業普及モデル開発計画 (SOFEM)への研修旅行を実施した。気候風土の似通った地域での植林や有機農業な どについて知識を深めたり、発芽を促す種子処理や接ぎ木の実習により技能を修得し たり、各校における環境活動を充実させるための機会とした。 3 年目の 2002 年は、ヌー郡内の教員が教育に関する情報や経験を相互に共有できる 場の確立をめざして、郡内各校の理科教員から構成される理科教員フォーラムの設立 に協力した。そして、2001 年に当会主導で実施した研究発表会を、地域の教員や関係 者が自立的に企画運営できるように、理科教員フォーラムの内部に研究発表会運営委 員会を組織し、当会と協働して研究発表会の企画運営を行なった。運営委員会発足か ら研究発表会本番までの半年弱の間に、実に10 回を超える会議や共同作業が行なわれ たが、管理職経験のない教員たちが事業を運営していくという作業は我々の想像以上 に難航し、焦りを感じることもしばしばであった。しかし、教員としての通常業務だ けでも忙しく、かつ公共交通が未整備の地域であるにも関わらず、中には郡の中心部 から 20km 以上も離れた小学校から毎回自転車で通う教員もいて、我々スタッフも勇 気付けられた。こうした教員の奮闘が実り、前年度を大幅に超える500 人以上の生徒 と教員が見守る中、6 校の生徒代表による展示発表が実現した。 その他、モデル事業の質的向上と教科教育との関連づけ、そして保護者の関与など を強化する協力を行ない、さらに、モデル事業実施校の教員が、他校教員へ環境活動 と教科教育の関連づけの経験を発表して普及を目指す教員間トレーニングを開催した。 開始 4 年目の現在 ヌー郡で環境活動・教育事業を開始してから 3 年後の 2003 年は、同事業にとって 大きな節目となった。それまで資金面で協力していただいた団体が、2002 年度をもっ て 3 年間の継続助成を予定通り終了した。環境活動の実施校では、環境活動の実践に 必要となる様々な知識や技能の蓄積が進んだが、その蓄積を基に他校へ活動を普及す るための仕組みづくりは課題として残っていた。より具体的には、活動実施校の理科 教員が自らの知識や技能を発表し、環境活動の実践に関心を持っている他校教員へ伝

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えるための「拠点校での教員研修(CBTD: Center-Based Training Day)」を通じて、 教員から教員への研修、つまりCanDo など外部者の協力を直接必要としない教員間研 修を定着させること。そして、環境活動を活用した理科教育の成果をそれぞれの活動 実施校の生徒が展示発表し、郡内各校から観衆として参加する他校教員や生徒が自ら の学校で環境活動を開始できるような機会を提供する研究発表会が、地域の理科教員 フォーラムによって企画・運営されるような体制を整えることが想定される課題で あった。 そこで、その後も事業の継続が必要と考え、他の資金協力団体への助成金交付申請 を行なっていたが、残念ながら採択されなかった。資金調達の担当者としては非常に 悔しい思いをしたが、無理に事業を進めて組織自体を財政危機に陥れるわけにはいか なかった。そのため、2003 年 4 月以降は環境活動・教育事業への協力をひとまず休止 することにし、その間、CanDo は協力再開に向けた事業の軌道修正と資金の確保を進 める一方、ヌー郡の小学校が自立的に環境活動を実施することができるかどうかを当 面見守ることにした。 その後、協力休止から約半年が経過した 2003 年 9 月、CanDo が 2003 年度に実施 している教育協力事業の評価調査の一環で、環境活動・教育事業に焦点を当てた調査 を実施した。3 年間の環境事業を通じて、教員のやる気は高まったのだろうか、高まっ たとすれば、それがどのような成果に結びついたのだろうか。当会の協力休止の結果、 各校での活動も休止してしまったのではないか。こうした疑問に答えるべく、私自身 も調査団の一員として参加し、教員や保護者からの聞き取りや活動視察を行なった。 2003 年 11 月現在、調査結果の分析・評価を進めているが、現時点での全般的な印 象としては、少なくとも、環境事業において中心的役割を担っている理科教員の教授 意欲は高まってきたと言えそうである。理科や環境活動への関心と理解が深まった結 果、CanDo による協力休止以降も、現地調達可能な材料を活用した苗木育成・植樹や 気象観測機器の製作などを行なったり、校内で理科と環境活動の研究発表会を実施し たりというケースがいくつかの小学校で見られ、環境活動が定着しつつある状況が確 認された。生徒についても、理科や環境活動への関心と理解が深まり、結果として生 徒が授業中の発言や発表に自信が持てるようになったことや理科の成績が向上してい ることに、地域の教員たちは確かな手応えを感じているようだ。そして何よりも、多 くの教員が今回の聞き取り調査に自信をもって対応してくれたこと自体が、3 年間の 環境事業の成果の一つとも言えるだろう。 しかし、CanDo の関与を減らす形での継続を検討していた郡レベルの研究発表会が 2003 年度は実現しなかった。主な原因は、2002 年 9 月から 1 ヶ月間にわたる全国教 員ストライキの結果、理科教員フォーラムが2002 年度評価と次年度計画策定を行なう 機会を逸したこと、さらには2002 年度の成果を確認したヌー郡教育事務所長が、研究 発表会の主導権の獲得を企て、実施主体である理科教員フォーラムと協力者である当 会を郡教育事務所の2003 年度計画から除外したことと思われる。残念ではあるが、一 方で、一部の小学校では独自に校内研究発表会が開催され、研究発表会の意義自体は 郡内の教員に浸透していると考えられる。また、郡レベルの大規模な行事に費やす関 係者の労力や機会費用などを考えると、年次化には固執しない、あるいは郡内の各地 域レベルで小規模に開催するなど柔軟な対応を検討していく必要がありそうだ。

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保護者と学校の関係について、当会は当初から、例えば特定の樹種の種子や幼木の 採集・育成や植物繊維を利用した手工芸など、保護者の持つ伝統的な知識や技能は環 境活動においても活用でき、そうした関係づくりが保護者による継続的な教育環境改 善に向けた基礎になると考えてきた。2003 年 2 月には、理科と環境活動を関連づける 小学校内での学習発表会の開催に協力し、保護者が子どもの発表を参観するという ヌー郡の小学校には従来存在しなかった機会を提供し、保護者の教育への参加を促す 努力を続けている。当会の中間評価の結果を見ても、依然として保護者の参加は労働 力や資金の提供に限られている小学校がほとんどだが、こうした関係が事業の実施過 程で改善されることを期待している。

「留意点」(配慮すべきこと)

(1) 環境活動と教科学習の関連づけ 事業対象地域の教員や教育行政官にとって、小学校最終学年(第 8 学年)の生徒が 受験するケニア初等教育統一試験(KCPE)の成績は特に重要な関心事である。一方、 環境教育は指導要領に含まれていない。そのため、環境活動・教育が地域の小学校で 受け入れられるためには、それが教科教育の理解の向上に大きく貢献し、KCPE の成 績上昇につながることが不可欠となる。そこで、当会事業では、特に環境活動に密接 に関係している試験対象教科である理科に重点を置いて関連づけを進めている。現在 のところ、地域の関係者は当会の協力を通じて各校や郡レベルで実際に理科の成績が 向上していると評価している。 (2) 教員の意欲向上 対象地域において教育協力事業を進める過程で、教育行政官や教員との間で教員の低 意欲が問題意識として共有された。環境活動・教育事業においても、教員の意欲向上 を目的の一つとして掲げている。当会は、意欲向上の要因の一つは待遇や賞罰など「外 因による動機づけ」で、もう一つは本人の目的意識や楽しみといった「内在化された 動機づけ」であると捉えている。当会の協力自体は「外因による動機づけ」でしかな いが、教科学習と関連づけられた実践的な環境活動が教員や子どもの知的刺激となる ことで、教員が「内在化された動機づけ」を形成し、外因に頼らない、持続的な意欲 向上につながるよう目指している。事業開始後 4 年目の中間評価によれば、教員の意 欲向上は進み、結果としていくつかの小学校では当会による協力休止中でも環境活動 の継続や展開が行なわれている。 (3) 一般教員と校長の関係 一般教員の相互学習や協働の機会提供という趣旨から当会が設立に協力したヌー郡理 科教員フォーラムは、発足当初は、管理職経験のない一般教員が影響力の強い校長に よる干渉のない中で知識や経験を蓄積できるよう、意図的に校長を対象外とした。そ のため、フォーラムによる2002 年度研究発表会の準備には相当な時間と労力が費やさ

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れたが、おかげで参加教員の能力強化は進んだと言えそうだ。ただ、上司である校長 と本人の関係がフォーラムへの参加度に負の影響を与えていると思われるケースも見 られた。フォーラムが適切に機能していくためには、今後は一般教員の能力強化のみ ならず、意思決定権を持つ校長の理解と協力を十分に確保することが必要である。 (4) 事業実施における保護者の役割 保護者を含む地域住民が環境活動・教育に多面的に参加することは、円滑かつ継続的 な活動実施にとって重要だが、現状では教員も保護者自身も、保護者参加の方法は労 働力や資金の提供であると限定的な捉え方をしている場合がほとんどである。例えば 特定の樹種の種子や幼木の採集・育成や植物繊維を利用した手工芸など、保護者の持 つ伝統的な知識・技能の提供、そして一部の小学校で生じた水の使用をめぐる地域住 民との摩擦から浮き彫りになった、地域の資源利用を含む活動運営への保護者の理解 と協力は、保護者が学校に従属する従来の関係を改善するきっかけとなり、環境活動 のみならず、全般的な教育環境改善や学校運営の持続性確保につながることが期待さ れる。

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滋賀大学環境教育湖沼実習センター

途上国の教員を対象とした環境教育研修とその国際協力

−JICA「水環境を主題とした環境教育コース」−

川嶋 宗継

1.滋賀大学教育学部附属環境教育湖沼実習センター 環境教育湖沼実習センターは,1995 年 4 月 1 日に,教育学部附属湖沼実習施設と学内 措置で設置されていた自然教育研究農場(林)が統合・整備され誕生した。湖沼実習施 設や農場(林)で行われてきた研究・事業を継続しながら,総合的・学際的に環境教育 研究を進め,豊富な実体験で培われた理論と知識を基礎としたこれからの環境教育を担 っていく実践力のある指導者を養成することを第1 の目的に掲げている。前身である附 属湖沼実習施設は,1952 年に設立された学内施設の湖沼研究室(1955 年に湖沼研究所 と改称)を母胎にして,1976 年に省令化された。センターに改組されるまで,40 年以 上にわたって,自然科学,社会科学,生活科学の多分野にわたる研究者が共同して学際 的・総合的にびわ湖/集水域を研究および教育を行い,多くの成果を地域社会に還元し てきた。また,自然教育研究農場(林)は,植物の栽培や自然環境を教育・研究する場 を提供してきただけでなく,授業(学芸科目,専門科目)や附属学校園によって活用さ れてきた。 一方,びわ湖/集水域の環境悪化,地球環境問題が深刻化する中で,国内外を問わず 環境教育の充実・発展に対する期待が高まってきた。教員をはじめとして優れた社会人 を送り出す責務のある教育学部においても,環境教育の充実を目指して,旧来の施設の 研究組織・施設の拡充が急務になり,全構成員の実現に向けての積極的な気持ち・働き かけによって,環境教育湖沼実習センターが発足した。専任教官は 3 名で,環境教育に 関する研究・教育を行うことはもちろんであるが,全学部に開かれた専門科目を開講し ている。 センターは研究員・客員研究員制度を設けており,学内外を問わず広く多くの人とと もに,環境教育に関する研究や指導者の養成を進めている。センターニュース「集水域」 やセンター研究発表会等を通して成果を報告し,情報交換を密に行っている。1996 年に 客員研究員を中心とした「湖沼環境教育しがプロジェクト」を発足した。このプロジェ クトは,学校教育・生涯学習における環境教育を支援していこうという趣旨でできたが, 研究会を開くと共に,参加型プログラム「みんなでつくろう水環境マップ」を毎年8 月 に行っている。身近な水環境をいろいろな視点から観察・調査し,地域環境をもっとよ く知り,環境学習に活かしていこうというねらいである。参加者数の増加,環境学習へ の意欲の高まり等にみられるように,参加型プログラムの有用性・重要性を確信してい る。さらに,滋賀県にある国際機関等とも連携を保ちながら,国内のみならず海外にお ける環境教育の指導者養成の支援も設立当初から掲げられた役割の 1 つである。これま でのところ,科学研究費,国際湖沼環境委員会,地球環境基金等の支援を得て,積極的 に開発途上国における環境教育の支援に関わっている。

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2004 年 4 月に,大学改組によって,教育学部附属環境教育湖沼実習センターはその使 命を終えることになった。新たに,滋賀大学附属環境総合研究センターが設立される。 新センターでは,環境に関する研究を総合的に進めるが,5部門の1つに環境教育部門 が置かれるが,これまで行ってきた環境教育湖沼実習センターの事業は,教育学部ある いは新センターに引き継がれることになっている。 2.水環境を主題とする環境教育コース 1)コースが実現するまでの背景 財団法人「国際湖沼環境委員会」(ILEC)は,滋賀県で開催された第1回世界湖沼会議 の提言を受けて,世界の湖沼の環境保全とその資源の持続的利用をはかるための合理的 な管理の普及・促進を目的として,1986 年に設立され,1987 年に財団法人化された。会 議・研究会・研修コースの開催,世界湖沼会議の開催企画,湖沼環境データの収集・出 版,湖沼管理ガイドラインブックの刊行などさまざまな事業を行っているが,1989 年か ら,環境教育の重要性が ILEC の科学委員会総会で議論され,環境教育プロジェクトが デンマーク・ブラジル・日本の 3 カ国でスタートした。筆者が,日本の代表を務めるこ とになったが,このときが環境教育に関して途上国と関わりを持った最初である。その 後,1991 年に,日本の環境庁(現環境省)の支援を得て,アルゼンチン・ガーナ・タイ を加えた 6 カ国,5 年計画の国際共同プロジェクトに発展した。文化・社会・経済状況 が違う各地域で,それぞれに適した環境教育の進め方を見いだし,国際協力と比較研究 によって基本的な理念と方法を明らかにしていこうとするのがねらいであった。この間, 筆者は,日本の事業をまとめるだけでなく,タイ,ガーナ,ブラジル,デンマークを訪 問し,各地域の教員と直に接することにより多くの示唆を得ることができ,特に,環境 教育の方法論の開発,指導者養成の重要性を強く感じた。本プロジェクトは,1995 年 3 月に終結したが,得た多くの経験や作成したプログラム・教材,提言は,ILEC 発行の S.E. Jφrgensen, M. Kawashima, T. Kira 編著「A Focus on Lakes/Rivers in Environmental Education」(1998)にまとめられている。また,ILEC が JICA の委託を受け,1990 年よ り毎年開催している「水質保全コース」にも,1日だけであるが環境教育に関する講義, 学校視察を採り入れている。 筆者は,得た知見を引き続き活かしたいと考え,経済発展の著しいタイをフィールド として研究の続行を計画した。幸いにして,1995∼1997 年度の 3 年間,科学研究費「国 際学術研究(共同研究)」が採択され,調査・研究に加えて,教員のための環境教育ワー クショップをタイで 5 回開催したが後に詳述する。 2)コースの経緯 こういった途上国における視察・共同研究・ワークショップ等のさまざまな経験を通 して,環境教育の指導者養成の必要性を強く感じるようになった。特に途上国では,地 球規模の環境問題に加え,森林破壊,水質汚染,廃棄物問題など特に深刻な環境問題を 長期的な視野に立って解決していく必要に迫られている。そのための手段として,環境 技術の利用や行政的手段がとられてきてはいるが十分でない場合が多く,社会全体での

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取り組みの強化および長期的な効果の確保のためには,環境教育が必要かつ重要である と思った。しかし,これらの国においては環境教育の指導者は十分に確保されておらず, 指導者育成に携わる大学教員や NGO は質量ともに十分でない。そういった背景において, 指導者育成の支援を行うことが環境教育の裾野拡大につながり,環境問題の解決,生活 水準の向上に寄与する一助になると考え,途上国における現職教員を対象とした環境教 育研修を構想した。当初,タイ等での経験から,地域素材を活かすことができ,かつ, 環境問題を共有している現地の教員のためにワークショップを開催することが有効であ ると考え,ILEC と相談の上,国際協力機構(当時,国際協力事業団,JICA)の大阪セン ターに相談を持ちかけた。1996∼97 年頃である。JICA にその重要性は理解していただい たものの,JICA が通常行っている研修コースとは異なっており,また,現職教員を対象 とした研修は文部省の管轄であり,JICA の事業としてはなじまないとの返事であった。 その後,何度か JICA を訪問し,環境教育の指導者養成の重要性を説明するとともに,実 施できる形を探っていった。JICA の担当者には大変好意的に対応していただいた。その 間,政府開発援助のあり方の中で人材育成が強調されるようになり実現に大きく傾いて いった。その結果,2000 年に,高等教育に携わる若手の教員・研究者・NGO の指導者を 対象として,ILEC(研修運営担当)と滋賀大学教育学部附属環境教育湖沼実習センター (研修指導担当)の共同研修事業「水環境を主題とする環境教育コース」が実現した。 準備段階では,筆者の個人的な想いから種々交渉に当たってきたが,実現する段階で環 境教育湖沼実習センター運営委員会によって快く承認され,センター事業の1つとして 本コースは実施されている。 3)コースの内容 いよいよ 2000 年度からコースが始まることになり,1999 年度の後半には,途上国に コースの概要を知らせる GI(General Information)の作成がはじまった。JICA と相談の 上,受け入れ研修生を 8 名,年齢は大学卒業後 5∼10 年の教育経験があることが望まし いと考え 26∼35 歳とした。また,初年度は,対象国をアジア各国に絞り,とりあえず経 験を積むことにした。研修生の割り当て国は,他の研修等との兼ね合いから JICA によっ て決定され,筆者らの希望は聞いてもらえないことになっている。ただ,例外的に,筆 者がタイと共同研究を進めていることから,毎年,タイからは 1 名の研修生を受け入れ ることは了承された。構想段階である程度,研修期間,実施場所,講師陣,内容の構想 を持っていたが,実際にプログラムを作成する段階では,多くの時間を要した。大まか な流れを環境教育概論,環境問題基礎,水環境に焦点を当てた内容論・方法論,トピッ クス,ファイナルレポート作成・発表とし,その間に適時演習・実習,現地視察を取り 入れて,多くの先生方に講師をお願いしつつ,約 40 日間のプログラムを作成した。依頼 した先生方のほとんどからコースに対する理解が得られ,講師就任を快く引き受けてく ださった。ただ,先生方には当然本務があり,日程調整に手間取り,構想したとおりの 順にプログラムを組めない日もあった。いよいよ GI によって応募のあった申込者の選考 経て,2000 年 9 月 15 日に第 1 回のコースが始まった。応募は,JICA による割り当て国 (8 名を受け入れるが,9 カ国が割り当てられる)内での選考を経て 1 名に絞られてくる 場合が多いが,複数の推薦がある場合があり,この時に選考が必要である。 2 年目には,アジアに加えて,南米とアフリカから研修生を迎え入れたが,2 回目であ

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り若干楽に準備を進めることができた。これまでの 4 回のコースに迎え入れた研修生の 出身国をまとめて表1に示す。評価会,研修生のレポートをふまえてプログラムは毎年 若 干 変 更 し て き た が , 例 と し て 第 4 回 の 日 程 を 表 2 に 示 す 。 英 文 の コ ー ス 名 は 「Environmental Education Course Focused on Aquatic Environment」でスタートしたが,淡 水環境を中心にすえていることと,高等教育機関の若い教育者・研究者が対象であるこ とを周知徹底するために,コース名を「Environmental Education Course Focused on Fresh Water Environment∼For Tertiary Level Teaching Staff∼」と変更した。表 2 からも読み取れ るように,水環境だけを扱うコースではなく,広く環境教育に関わる内容を盛り込んで いる。 現在,滋賀大学教育学部・経済学部,東京学芸大学,岐阜大学,地球環境戦略研究機 構,国際湖沼環境委員会,滋賀県立大学,国連大学,ラムサールセンター,エココミュ ニケーションセンター,琵琶湖博物館,琵琶湖研究所,滋賀県,草津市から環境問題や 環境教育の専門家の協力を得ているが,評価会や研修生のレポートを通して,充実した 内容であるとの高い評価を得ている。ただ,日本に招聘しての研修コースであり,貧困 といったような途上国における深刻な問題,地域固有の環境問題になかなか踏み込めな いのも事実である。研修生間の情報交換の場を設けて,こういった問題にも対処してい るが不十分であろう。途上国で教育・研究の経験のある講師を増やしたいと考えている。 さらに,研修生から学校教育現場の視察を増やしてほしいとか,NGO と一緒に活動に参 加したいとの要望がある。できるだけ,要望に応えていきたいと思い,研修期間を5日 間程度のばすことを検討している。 表1 研修期間および研修生の出身国 回 研 修 年 月 日 研修生の出身国 1 2000 年 9 月 25 日∼11 月 7 日 スリランカ,タイ,中国,パキスタン, フィリピン,マレーシア,モンゴル,ラオス 2 2001 年 9 月 24 日∼11 月 21 日 インドネシア,ガーナ,カンボジア,コロンビア, バングラディッシュ,フィリピン(2),ラオス 3 2002 年 9 月 2 日∼10 月 27 日 ガーナ,カンボジア,コロンビア,タイ,パナマ, フィリピン,ラオス(2) 4 2003 年 9 月 8 日∼10 月 16 日 インドネシア,ケニア,セネガル,タイ,チリ, ニカラグア,パキスタン,ミクロネシア *(2):1国から 2 名の参加 **上記の期間の他に,JICA 大阪センターで 10 日間程度の一般的な研修がある。 4)コースの今後 本コースは来年(2004 年)で 5 年目を迎え,節目として JICA の評価を受けることに なっている。JICA にとっても,教育に関する途上国を対象とした研修コースの経験は乏 しいので,評価は難しいと思われるが,高い評価が得られると確信している。口頭では あるが,2005 年度からさらに 5 年間続けてほしいとの要望も聞いている。また,現地に おける研修の重要性・必要性を絶えず訴えてきたが,そのことを実現するために,本コ

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ースのフォローアップ事業の検討を行っている。また,毎年,研修生に,ファイナルレ ポートの内容として,自国において環境教育を進める上での行動計画あるいはプログラ ム・教材の作成を課している。優れた計画を作成する研修生も多くあり,その実現にフ ォローアップ事業を通して支援ができればとの想いも強い。フォローアップ事業が実現 すると,講師を務めていただいている先生方に研修生のフィールドに赴いていただくこ とになるが,途上国における現状の理解に寄与するであろう。 また,本コースの受け入れ機関であった環境教育湖沼実習センターが改組されること から,2004 年度以降は,滋賀大学教育学部が受け入れ機関になる。より大きな組織で対 応することになるが,これを機に,一層組織的な対応体制を作っていきたいと考えてい る。本コースは他機関の先生方の協力なしには運営することができないので,引き続き お願いするのはもちろんであるが,これまで以上に密に連絡を取り合ってよりよいコー スに発展させていきたい。 タイにおける環境教育ワークショップ 1995 年から 3 年間,科学研究費(国際学術研究,研究課題名:タイ国および日本にお ける環境教育のあり方及び推進に関する共同研究)によって,深刻な環境問題が多いタ イの学校教育で活用するための環境教育(科学教育)教材を開発し,環境教育の促進を 図る方法論を研究することを目的として研究を行った。タイでは,教員や地域住民の環 境問題に対する意識は低いように思われること,また環境教育に関心があっても体験学 習をベースとした教育経験が乏しいという実態が顕著であったので,現職教員に対する 体験型環境教育の重要性の啓発を中心に研究を進めた。その過程において,研究対象地 域の一つであるタイ北部のチェンマイにおいて,チェンマイ大学教育学部の共同研究チ ームと合同で 1996∼98 年に 3 回,現職教員のための環境教育ワークショップ(3 日間) を開催した。97 年と 98 年には,プリンスオブソンクラ大学教育学部と合同で,タイ南 部のパッタニでワークショップを 2 回開催した。これらのワークショップでは講義だけ でなく,体験学習を取り入れた環境学習プログラムや教材を開発するために,自然環境 の視察や環境問題の調査に重点をおいた。特に,河川の水質,ゴミ問題,大気汚染,森 林生態の破壊に焦点をあてたが,こういった現地におけるワークショップの開催の有効 性が確かめられたことは大きな成果であった。また,タイの教員のための環境教育指導 ハンドブック(タイ語)を作成することができたが,現在も有効に活用されている。こ ういった成果や経験を基にして,2001 年から 3 カ年計画で,科学研究費補助金[基盤研 究(B)(2),研究課題名:タイ北部・ピン川流域の水・気候・経済・生活環境調査−環境政 策提言と環境教育の展開]による研究が,センター専任教官・研究員とチェンマイ大学 の教官が中心となってスタートした。先進国の経験や技術を単に伝えるだけでなく,地 域に適した環境保全対策,環境教育教材を共同で開発していくことが重要であり,その プロセスが環境教育の進展につながっている。こういった研究がベースになり,2003 年 11 月に,チェンマイで,滋賀大学とチェンマイ大学は国際シンポジウム「2003 International Symposium on Environmental Management: Policy, Research, Education」を開催することがで きた。成果を報告し,議論できただけでなく,今後の教育研究活動計画の作成に着手で きたことが大きな成果になった。

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留意点

1.内容・プログラムについて これまでに環境教育に関する研究や学習が十分でない研修生が多いことを配慮して, 講義・演習・実習を通して,環境問題基礎,環境教育の理念・歴史・方法論・実践論に ついて講義・演習・実習・視察・ホームステイを配置している。研修生から一定の評価 を得ているが,私たちが住んでいる工業先進国と研修生の開発途上国の環境は大きく異 なっており,彼らの国・地域を理解することが難しい場合も多い。参加者は世界中の途 上国が対象で,名前しか知らない国からの参加者もある。そのため,適切な支援をする ためには,絶えず研修生と話をするように努めたり,研修生間で情報交換や議論ができ たりする時間を確保することが大切である。研修生や彼らの国・地域をどれだけ理解で きるかが,研修がうまくいったかどうかの鍵になるかも知れない。また,研修生からは, 研修期間をもう少し長くして,学校訪問や NGO 活動に参加する時間を増やして実践的 な経験を多く積みたいとの要望がある。日時の調整で難しいができるだけ要望に応える ようにしたいと思っている。 2.生活面のケアについて 生活環境や宗教の異なる国からの参加者が長期にわたり共同生活を送る点にも十分に 配慮したい。幸い,筆者らのコースでは,JICA(JICE)からのコーディネータに恵ま れ,また経験豊富な ILEC との共同事業であるので,これまで大きな問題は起こってい ないが,研修生の声を絶えず聞くことが大切である。 3.研修後のケアについて 研修の最後に,研修生にファイナルレポートとして,自国において環境教育を進める 上での行動計画あるいはプログラム・教材の作成を課している。研修の最も大切なこと は,研修後に彼らが自国で環境教育の指導者として活動してくれことであるので,その 支援ができる体制を作っておきたい。日本で行われている多くの研修が,そのときだけ の研修に終わっており,フォローアップが十分でない場合が多い。特に,予算が絡む場 合が多いので,研修コースを開く場合,JICA や文部科学省等と協議をして,研修後も支 援を続けることができるようにしておきたい。

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川 ) 樋 表2 2003年度 第4回水環境を主題とする環境教育コース 日程 月日 曜 午前: 9:30 – 12:30 講師等 午後: 13:30 – 16:30 講師等 場所 9/7 日 ILECチェックイン、草津市内案内 宿泊施設説明、事前オリエンテーション ILEC 9/8 月 オリエンテーション、開講式、コース説明 川嶋、市川 環境教育序論 市川 ILEC 9/9 火 世界の環境教育 スリニバス 世界の環境教育 スリニバス ILEC 9/10 水 環境問題基礎(琵琶湖の水質保全の歴史) 中村 環境問題基礎(大気汚染) 石川 ILEC 9/11 木 琵琶湖博物館(見学) 楠岡 琵琶湖博物館(講義) 楠岡 琵 琶 湖 博 物 9/12 金 環境問題基礎(生態) 吉良 上水処理(北山田浄水場):草津市 ILEC ILEC他 9/13 土 ホームステイ(KIFA) 9/14 日 ホームステイ(KIFA) 9/15 月 カントリーレポート(CR)発表 川嶋・市川 CR発表、ディスカッション(院生・学生) 川嶋他 滋賀大 9/16 火 環境問題基礎(水問題) 小谷 下水処理(湖南中部浄化センター):滋賀県 ILEC ILEC他 9/17 水 普及啓発のノウハウ サンティアゴ 普及啓発のノウハウ サンティアゴ ILEC 9/18 木 環境問題基礎(化学汚染物質) 水上 環境問題基礎(経済) 只友 滋賀大 9/19 金 環境NGOの運動 近藤 環境教育方法論1 木全 滋賀大 9/20 土 環境教育基礎 市川 酸性雨と環境教育教材 川嶋 滋賀大 9/21 日 9/22 月 環境教育方法論2/レポート課題 市川 農林業と環境教育(演習) 木島 滋賀大 9/23 火 湖沼環境実習 遠藤 湖沼環境教育教材 川嶋 滋賀大 9/24 水 気象と環境教育教材(演習) 遠藤 食文化と環境教育(演習) 堀越 滋賀大 9/25 木 地域環境実習 佐野 住生活と環境教育(演習) 山崎 近江八幡 9/26 金 衣食生活と環境教育(演習) 與倉 ディスカッション・中間評価会(滋大教官) 川 嶋 ・ 市 他 滋賀大 9/27 土 9/28 日 9/29 月 東京へ移動 都庁見学 東京 9/30 火 谷津干潟(湿地)現地研修 ラムサール(中村) ラムサール条約と環境教育 ラムサール(中村) 千葉 10/1 水 地球環境保全戦略と環境教育 IGES, バレット 環境教育事例研究 IGES( 佐 藤 東京 10/2 木 環境教育特論1 東学大(樋口) 環境教育特論2 他東 学 大 ( 口 東学大 10/3 金 環境教育と住民参加システム ECOM(森)他 環境教育と住民参加システム ECOM(森)他 埼玉) 10/4 土 滋賀へ移動 10/5 日 10/6 月 プログラム・教材作成実習 川嶋、市川 ファイナルレポート(FR)作成 滋賀大 10/7 火 授業視察・交流(中学校) 川嶋他 授業視察・交流(中学校) 川嶋他 滋 賀 大 附 属 中 10/8 水 環境教育演習 今村 研修生間情報交換 川嶋 滋賀大 10/9 木 環境問題(ごみ分別/処理):草津市 FR作成 草津・ILEC 10/10 金 FR個別議論・評価 川嶋・市川 FR個別議論・評価 川嶋・市川 滋賀大 10/11 土 10/12 日 10/13 月 10/14 火 FR発表準備 FR発表準備 ILEC 10/15 水 FR発表 川嶋・市川他 FR発表・総合討論・評価会・閉講式 川嶋・市川他 滋賀大 10/16 木 FR完成 FR完成 ILEC 10/17 金 県庁表敬訪問・JICAへ移動 JICA閉講式 大阪 (敬称略) 滋賀大:滋賀大学教育学部附属環境教育湖沼実習センター KIFA:草津市国際交流協会 ラムサール:ラムサールセンター

IGES:Institute for Global Environmental Strategies((財)地球環境戦略研究機関) 東学大:東京学芸大学

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ホールアース自然学校/NPO 法人 ホールアース研究所

日本における自然体験を通した環境教育トレーニング

新谷 雅徳

組織 プロフィール 1.活動の目的 こどもから大人まですべての人を対象に、良質で適切な自然体験活動の提供やそれに関 わる調査研究、人材育成などの事業を行うことを通じて、持続可能な社会作りに寄与する ことを目的としています。 2.経緯 1982 年 環境教育事務所『ホールアース自然学校』設立。家畜動物の飼育体験、自然の実 体験と自然観の回復をテーマにして教育活動を開始。 1983 年 学校向け自然体験教室、および遊牧民キャンプ(こども自然キャンプ)を開始。 1995 年 沖縄県でエコツーリズム導入に向けた自主調査を開始 2003 年 • 年間 6 万人のプログラム参加者、専門性を持った常勤職員 30 名の国内最大の自然学校 • 学校団体(小、中、高校の修学旅行など)向け自然教室、年間 400 校、4 万数千人参加 • 沖縄がじゅまる校、国設の田貫湖ふれあい自然塾などで常設分校、苗場、箱根、熱海 で季節校 • 沖縄校にて環境負担金通算400 万円(1999 年以来)を地元に寄付 3.年間スケジュール(主要な事業のみ) • 自然体験教室:(小、中、高校の修学旅行など)学校団体等の受け入れ(通年、ピ ークは4∼11 月) • こども自然キャンプ(遊牧民キャンプ 37 回、富士山冒険学校 12 回):夏休み、秋、 冬休み、春休み • 自治体等からの受託事業(地域資源調査、自然学校整備の計画、エコツーリズム の仕組みづくりフィールド利用のガイドライン作成、人材育成、ネットワーク形 成支援、自然体験活動の指導者養成、環境教育普及に関わる事業など):通年 4.活動の対象者と場所 ・対象者 自然体験教室:個人(子どもから大人)および学校団体・一般団体 指導者養成研修:地域で活動する自然体験活動の指導者、エコツアーのガイド等 5.活動の概要と規模 自然体験教室の開催(年間6万人)、自然体験型環境教育の指導者育成(ホールアー ス実習所=プロ養成通算60人・養成講座=アマチュア養成 1,350 人)、自然系施設 計画(国立 2、民間 3 件) 運営計画(約 20 件)、地域資源を活かしたエコツーリズムの仕組みづくり(全国の 自治体 25 件)国際協力(JICA 研修等 13 カ国、開発支援 1 ヶ国)等を行っています。

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6.活動を通じた成果 ・富士山北麓地域における経済効果:ホールアース自然学校による学校団体向けの自 然体験教室を中心にした活動は、富士山北麓地域の観光産業(宿、食、土産、交通) に対して年間8∼9億円の経済効果をもたらしています((財)日本交通公社試算)。 ・沖縄県におけるエコツーリズムの牽引役:沖縄県から委託された事業を通じて、ホ ールアース自然学校は、エコツアーガイドの育成やエコツーリズムの仕組みづくり に取り組んできました。その結果、エコツアーは沖縄県の主要産業の1つに育ち、 現役のプロガイドの大半が講習修了生でもあって、地域振興や都市との対流に欠か せない役割を果たしています。 7.課題:自然フィールドの過剰利用と事業者間の対立 自然体験活動の重要性が社会的に認識されるにともない、私たちと同じフィールドで活 動を始める団体が急速に増えてきました。過剰利用が懸念される地域も生じており、ホ ールアース自然学校が独自に実施していた「総量規制」ガイドラインを共有する必要が 出ています。しかし、利害に関わる問題に直結するだけに、事業者間はライバル意識が強 くて対立する傾向が強いため、ネットワークを構築することが困難でした。 8.課題への取り組み:地域内の新しいネットワーク構築による取り組み 先にあげた課題に取り組むためには、関係諸団体の協力関係を構築することが欠かせな いとの認識から、地域で活動する事業者や指導者に呼びかけを行い(1997 年∼)、地域ネ ットワークを構築し、共通するルール作りによって、地域の産業振興と持続可能な社会 形成に向けた取り組みを行っています。 具体的には、富士山地域では他団体と協力しながら、平成12年(2000 年)年に富士山 自然体験活動推進協議会(F−CONE)を設立。平成15年4月にNPO法人化して います。また沖縄県や静岡県では、県からの事業受託により、指導者協会の設置による 共通のルール作りや指導者の研修等を始めとした地域の仕組みづくりに取り組んでいま す。 9.今後の展開方向 ① 小学校単位でPTA型の自然学校を設置し、すべての子どもが良質の自然体験が出来 る環境を作るための仕組みづくりに取り組んで行きます。ふるさとの自然や生活文化 を学ぶことが、こどもだけでなく大人たちにとっても、地域に対する誇りを育むこと につながります。 ② 都市と農山漁村の共生・対流を進め、地域の振興を図るために、田舎の NPO と都市の NPO とをつなぐ仕組みとなるつなぎ役の NPO を、全国単位、ブロック単位、県単位で作 ることに尽力する計画です。

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JICA 集団研修 『初等・中等教育における環境教育開発トレーニング∼自然体験型環境教育∼』 深刻化する環境問題への取り組みは、国の枠組みを超えて人類共通の課題だ。その課題 への気づきと、課題解決の行動に移すための教育が「環境教育」であり、今、世界中でそ の推進が重点政策に位置付けられている。環境問題の解決には、持続可能な発展を促す技 術革新と、人々のライフスタイル変革を実現するための環境教育との二つの車輪がある。 なかでも、日本が先進的に開発している「自然学校活動」「自然体験活動」は、環境教育の効 果的な入口活動として評価されている。 2003 年10月15日から約 40 日間にわたり、JICA(国際協力機構)『初等・中等教育に おける環境教育開発トレーニング∼自然体験型環境教育∼』集団研修が、ホールアース自 然学校で実施された。 今回を皮切りに、研修は 5 年間継続される予定であり、研修員はアジア(バングラディ シュ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド)、アフリカ(タンザニア、エチ オピア)、南米(ブラジル、チリ)の 9 カ国から 12 名であった。参加者はすでに環境教育 を実施している各国の文部省、林業省、環境省、学校、博物館、環境 NGO などの職員や、 今後実施を計画している学校長や教師などであり、様々な立場の方々が集まった。 今回の参加者は、今後、各国で環境教育のコーディネーターやリーダーとして中心的存 在となる方々である。この研修では、日本の環境教育及び他の参加国の取り組みからお互 いに学び、シェアしあうことが真の目的である。自国のリソースを活用した自然体験型環 境教育のプログラムをデザインし、帰国後に実践するノウハウを身に付けることが、40 日 間の到達目標であった。 JICA は今秋、『国際協力事業団』から『独立行政法人国際協力機構』に組織名称を代え、 同時に、これまでの技術移転や施設建設などの技術協力から、持続可能な開発のための ODA(政府開発援助)のあり方について検討を行っている。その課題の一つが環境教育を担 える人材の育成である。 これからの日本の ODA は、ネイティブアメリカンのことわざにあるように『魚をくれる のはありがたいが、魚の釣り方を教えてもらうのはもっとありがたい』といった協力のあ り方を軸に、人材養成・ノウハウ移転など、息の長いプロジェクトに投資されて、持続可 能な地球未来を築く基盤をつくっていく必要がある。 そういう意味では、今回の研修は時代の趨勢にあった研修であり、その成果に大きな期 待がかかった研修であった。 研修の流れ: 1. ジョブレポート発表: 研修講師および各研修員同士が現状理解を深めるため、自 国の環境教育の実情や課題について発表し、共有する。 2. 日本における自然体験型環境教育の現状把握とその展望:静岡県や環境省、日本の 小中学校が取り組む環境教育を視察し、具体的な施策を学ぶ。 3. 講義、体験実習、ワークショップ実施:この分野で国内のトップレベルの講師陣を

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配置し、ワークショップやフィールドワークなどの体験学習法によって、効果的に 学びを深める講習を行う。 4. 総括・アクションプラン発表:研修を通しての学びの成果を、帰国後に自らの組織 や業務において適用・応用するために行動計画を作成し、実現可能な自然体験型環 境教育のプログラムをデザインする。 5. 今後のフォローアップ:研修終了後も、自国に戻った研修員に対して、継続的に助 言を行い、ネットワークを広げる。 個人的な体験談(物語): 今回の研修で、私はプログラム担当のコーディネーターを行った。JICA専門家とし てインドネシア生物多様性プロジェクトのエコツーリズム短期専門家としてグヌンハリ ムン国立公園にて指導者養成を行ってきたこともあり抜擢された。実際、アメリカで 6 年 間生活し、大学院で環境資源マネージメントを学び、修了後ハワイ島の米国企業にてエコ ツーリズム開発を行っていた。この研修に関しても何とかやっていけるのではないかとい う自信は正直あった。 しかしながら、彼らと初顔あわせをしたとき、何をしたら良いのか分からなくなった。 いきなり、彼らの行動はばらばらになり、好き勝手なことを言い出す。「ここはどこだ? 俺はどこに連れてこられているのか?」「何を食べたらよいのか」「電話をしたいのだがど こにあるのか?」挙句の果てには、「車を買いたいのだがどうしたらいいのか?」などな ど、いきなりアッパーカットを食らったようなものだった。それもそのはず、今回の研修 では、研修員が東京到着後、日本について十分な情報を受けないまま、私たち静岡県富士 郡芝川町の里山にあるホールアース自然学校に来校したからである。参加者の一人は、空 港に到着して、そのまま現地入りしたそうである。後から、聞いたのだが、あるアフリカ からの研修員は日本人のほとんどが私たち自然学校の職員のような生活をしていると 1 週 間ほど思っていたようである。 =ストーリーを持った企画にする= 参加者には研修の初めごろ、不信感やストレスを相当与えていたかもしれない。やはり、 研修は順を追って進めていかなければならないと感じた。「日本の文化、歴史、自然など の背景」⇒「日本での環境問題」⇒「日本型環境教育」というような一連の流れを持たせ て研修を進めていかなければならないだろう。まったく生活背景の異なる、日本に対する 情報がほとんどない人たちに、いきなり日本の環境教育の話をしても理解させることはで きない。言葉の壁だけではなく、「分からない」という心の壁が存在していたと感じた。 こればすべての講義にも当てはめられる。例えば、小・中学校訪問をした際、事前に日本 の学校教育のシステムや子どもたちがおかれている生活環境について、研修生に十分伝え ることができなかったため、国際交流の場としては評価できただろうが、環境教育の研修 としては、決して効果があったとはいえない。研修では、多くのことを伝えるより、ひと つの事物に焦点をあて、事前情報をしっかり提供した上で、十分に討議をするほうが効果 的な研修になるのではないかと私は考えている。

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=ファシリテーションが大切= 研修を続けていくにつれ、それぞれの研修員の性格が見えてくる。お国柄もあれば、そ の人が持っている性格もある。できるだけ、すべての人たちのニーズに合わせようと研修 を進めていくと、私たちの方向を見失う恐れがあり、すべての人に合わせることは不可能 に近い。全員に問いかけると、アジア系やアフリカ系より発言に慣れている南米勢の意見 が通りやすくなる。あるとき、研修員の 1 人が、「発言をしないからと言って、意見がな いのではない」とみんなに訴えた。研修を行う側も、受ける側も、この意見を念頭におい て、今後は議論を進めていく必要がある。このような研修ではやはりファシリテーション 能力が必要であり、今後の私たちの課題である。 =みんなで考える= 研修が半分を過ぎようとしたとき、軌道修正の必要が出てきた。また、研修員、私たち も何か形にして研修を閉めなければ、というあせりが出てきた。どの方向に進むかを悩ん でいると、ある研修員の女性から「自分だけで考えずに、研修員の中でキーパーソンを集 めて話し合ってみたら?」と教えられた。その後、これまでの研修期間中に的確な意見を 述べてくれた研修員と話し合い、今後の方向性や効果的な手法など事前に決定し、その後、 全員にシェアする形を取った。それが吉と出て、その後は研修もスムーズに進み、最終的 な到達点も見えてきた。この方法は今後も行っていくつもりである。 =自国の枠で考えない= ワークショップの中で、「開発」について討議する機会を設けた。たとえ、何らかの形 で環境教育に携わっている人たちであっても、経済的な途上国における「開発」は、「持 続可能な開発」という概念を知っていながらも、一般的に考えられている道路整備などの 都市化から離れられないことは否めない。彼らの中には理想と現実のギャップがあり、今 の私たちの生活環境からは考えられないギャップがある。昨年、1年間環境教育を学ぶた めにホールアース自然学校来校していたJICA研修生の彼女の話を思い出す。「日本で は人間性の豊かさが求められ、ペルーでは経済的な豊かさが求められる。」「貧困は敵であ る。」これはインドネシア派遣時にも感じたことであるが、いくら子どもたちを森の中に 案内して、木の大切さを伝えたとしても子どもたちが家に帰ると、食事のために木を切り にいかなければならない。このような話は研修中何度も取り上げられ、環境教育だけでは なく経済を両立しなければ、持続可能な社会は現実的なものとはならないのである。私が 専門として行っているエコツーリズムはECOLOGYとECONOMYの両立があり、 エコツアーがアルタナティブとして重要な視点となる。アクションプランをアクションに 移すためにも、アルタナティブ的な考えを常に取り入れる必要がある。彼らの置かれてい る現状、立場の把握が、経済的な途上国における環境教育を成功させるための第1歩であ る。 =ローカリゼーションとグローバリゼーションのバランス= 研修中ショッキングな出来事があった。それは、エチオピアの参加者からの言葉である。 ホールアースでは「火起し」を自然体験プログラムとして実施している。普段のように子

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