The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49─59, 2008
看護師におけるメンタリングと
キャリア結果の関連
Relationship between Mentoring and Career Outcomes of Nurses
今堀陽子
1)作田裕美
2)坂口桃子
3)Yoko Imahori Hiromi Sakuda Momoko Sakaguchi Key words : mentoring, mentor, mentorship, career development, career outcome
キーワード:メンタリング,メンター,メンターシップ,キャリア発達,キャリア結果
Abstract
The present study investigated the relationship between mentoring and the career outcomes of nurses with respect to mentor job positions. A questionnaire survey was administered to 780 non-management level nurses with nursing experience of 10 years or more using a mentoring scale consisting of subcategories career function, acceptance/approval function, manager s behavioral function, and emotional function, as well as a career outcome questionnaire con-sisting of subcategories job satisfaction, internal motivation, and achievements. It was found that slightly less than 60% of subjects had a mentor. Subjects whose mentors were non-management level nurse, chief nurse/assistant head nurse, and head nurse, were categorized into 3 groups, and the relationship between mentoring and career outcome in these groups was analyzed. For subjects whose mentor was non-management level nurse, a relatively weak posi-tive correlation was observed between 3 subcategories, except for emotional function, in the mentoring scale, and all subcategories in the career outcome survey. In the group whose mentor was chief nurse or assistant head nurse, although a relatively weak positive correlation was ob-served between career function and job satisfaction, no correlation was obob-served between any other subcategories. In the group whose mentor was head nurse, a relatively strong positive correlation was observed between all subcategories except for between emotional function and job satisfaction. Significantly, Pearson product-moment correlation coefficients between man-ager s behavioral function and achievements, and manman-ager s behavioral function and job satisfaction were both above 0.5. Therefore, it was suggested that the mentoring function of head nurse were effective in advancing the career development of individual nurses.
要 旨 本研究の目的は,看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連をメンターの職位別に 探求することである.看護経験年数10年以上の非管理職看護師780名を対象に,〈キャリア機 能〉,〈受容・承認機能〉,〈管理者的行動機能〉,〈情緒的機能〉を下位次元とするメンタリング 尺度と,〈仕事自体への満足〉,〈内発的モチベーション〉,〈業績〉から構成されるキャリア結果 質問票を用いた質問紙調査を行った.メンターを有していると回答した者は6割近くであった. 受付日:2007年8月3日 受理日:2008年3月28日
1) 和歌山県立医科大学保健看護学部 Wakayama Medical University School of Health and Nursing Science
2) 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 Human Health Science, Graduate School of Medicine, School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Kyoto University
3) 滋賀医科大学医学部看護学科 Faculty of Nursing, Shiga University of Medical Science
Ⅰ.緒言
近年の看護系大学院の増設や専門看護師・認定 看護師等のスペシャリスト養成は,独自な専門職 性を追求しようとする看護師に多様なキャリアの 選択肢を提供している.看護界におけるキャリア 発達に関する研究は,草刈(1996)がライフコース の観点で看護管理職のキャリア発達・形成過程を 見出したのに端を発し,看護師の組織内キャリア 発達の詳細を明らかにしようとする動きが現れ始 めた(坂口,1999,2000).その後,看護師のキャ リア発達過程に及ぼす影響因子を抽出した研究 (水野,三上,2000),キャリア発達の構造モデル を作成した研究(グレッグら,2003)も報告されて おり,看護師のキャリア発達に関する研究は蓄積 されつつある. 経営界では,企業を取り巻く外部環境変化を受 け,日本的経営の見直しを迫られ,成果主義,業 績主義が導入される傾向にある.能力開発の責任 が企業から個人へと移されてきたことから,人材 管理における「支援」の概念が注目され始め(山下, 2000),メンタリングやコーチングをはじめとす る自己啓発の支援が現実化されてきた(片岡, 2004). メンタリングは,個人のキャリア発達における 支援機能であり(Kram, 1988),その機能を果たす 人をメンターという.メンターという言葉は,ギ リシャ神話に出てくる勇将オデュッセウスが出陣 に際しわが子の教育を託した,名教師の名前であ るメントル(Mentor)に由来するとされている(合 谷,2002;小野,2003).経営組織を舞台にした メンタリング研究は,1970年代後半から米国を 中心に開始された(久村,1997).わが国の看護界 にメンタリングが紹介されるようになったのは 2000年以降であり,背景に専門性を1つの軸にし たキャリアの発達の促進(小野,2003)が注目され るようになったことがあげられる. 看護師のメンタリングに関する研究は希少であ るが,最重要メンターが提供するメンタリング は,機能によってメンターの職位等が異なること (小野,1999)が明らかにされている.菊地(2001) は,看護師のメンタリングは直属の上司,入職時 の上司,その上の上司,そして先輩の影響も大き いと指摘し,小野の先行研究(1999)と一致した研 究結果を報告している.このように,メンターの 職位に着目したメンタリングの研究はすでにある が,メンタリングのアウトカムに関する研究はい まだなされていない.看護の専門職性の深化に伴 い,看護師のキャリア発達が注目されるなか,そ れを支援する概念であるメンタリングに関する研 究の充実が,今後の看護管理分野における大きな 課題であると考える.Ⅱ.目的
本研究の目的は,看護師におけるメンタリング とキャリア結果の関連について,メンターの職位 別に明らかにすることである. 当時のメンターの職位が「非管理職看護師」,「主任・副看護師長」,「看護師長」であった3群に おいて,メンタリングとキャリア結果の相関分析を行った.メンターが非管理職看護師の場合, メンタリングの〈情緒的機能〉を除く3つの下位次元と,キャリア結果のすべての下位次元との 間に,やや弱い正の相関がみられた.メンターが主任・副看護師長の場合は,〈キャリア機能〉 と〈仕事自体への満足〉との間にやや弱い正の相関が認められたものの,その他の下位次元同士 では相関がみられなかった.メンターが看護師長の場合は,〈情緒的機能〉と〈仕事自体への満 足〉との間のみ相関は認められなかったが,その他の下位次元同士では,比較的強い正の相関 がみられた.なかでも,〈管理者的行動機能〉と〈業績〉,〈管理者的行動機能〉と〈仕事自体への 満足〉の相関分析では,Pearsonの積率相関係数が0.5を超えており,看護師長がメンタリング 機能を発揮することは,個人のキャリア発達を促進するうえで有効であることが示唆された.Ⅲ.用語の定義
メンタリング:年長の経験や知識のある人が, それらをもたない人々の個人の成長やキャリア形 成を促進するために,個人的に援助すること. メンター:経験や知識をもたない人々の個人の 成長やキャリア形成を促進するために,個人的に 援助し,その人が主要な人生の目標に到達するた めに影響力のある人.公式に支援機能を果たすプ リセプターや教育担当者等に限らず,あくまでも 支援の受け手が「この人のおかげで成長できた」, 「現在の職業人生があるのはこの人の支援があっ たからだ」などと認知している存在を指す. メンターシップ:メンタリングの授受関係. キャリア発達:自律した個人がライフステージ との関連でとらえた職業生涯において,自らの欲 求と期待とを最適に実現していくプロセスであ り,組織内でのキャリアの選択と決定に自己責任 をもつもの. キャリア結果:職業生涯において,メンタリン グを受けてキャリア発達が促された結果生じる, 主観的・客観的アウトカム.いわば,メンタリン グの成果を明確にしたもの.Ⅳ.対象
全国の500床以上の総合病院に勤務する,臨床 経験年数10年以上の非管理職看護師780名.組織 内キャリア発達の視点から,臨床経験は現在所属 している施設での臨床経験とし,部署での経験年 数は問わないこととした.Ⅴ.方法
1. 対象者のリクルート 全国から無作為に抽出した病床数500以上の総 合病院95施設に対し,研究協力を依頼した.74 施設から回答があり,そのうち,39施設から研 究協力の了承が得られた. 2. データ収集方法 質問紙法を用いた.質問紙は調査対象施設の看 護管理者宛てに一括郵送し,無記名で回答後,看 護部にて取りまとめのうえ,一括返送してもらう 方法を選択した. 3. 測定用具の選定 1)メンタリング尺度 対象者がキャリア発達途上で最重要メンターか ら受けたメンタリングを測定するために,小野 (2005)の「メンタリング尺度」を用いた.この尺度 は,ソーシャル・サポートおよびキャリア発達と その支援に関する尺度や先行研究をもとに作成さ れた質問項目を,労働者全体,流通業界の社員, 情報関連企業の社員,看護師を対象とした4つの 調査研究を通して尺度化したものに,モデリング に関する項目を加えた54項目からなる.また, キャリア機能,管理者的行動機能,情緒的機能, 受容・承認機能のサブカテゴリーが存在し,高い 信頼性を備えている.しかし,妥当性は安定して おらず,標準化はされていない. 回答は「そうでない」から「そうである」の5段階 評定とした.得点が高いほどメンタリングを強く 受けたことを意味する.後述のフェイスシートで メンターがいると回答した者だけに回答を依頼し た. 2)キャリア結果 メンターと深く関わっていた当時のキャリア結 果を測定するために,坂口(2002)が先行研究で使 用しているキャリア結果についての質問項目を用 いた.職務満足に関する5項目,仕事に対する意 欲に関する3項目,所属部署の目標達成に関する 4項目の合計12項目で構成されており,信頼性は 確保されている.坂口は,内発的モチベーション, 仕事自体への満足という次元に関しては,それぞ れ田尾(1987),坂下(1985)の研究にて使用された インディケータを参考に作成している. 回答は5段階評定で行い,得点が高いほど,高 いキャリア結果を受けていたということを示して いる.3)デモグラフィック・データ 専門職的自律性に関連する個人要因,組織要因 の観点から対象者の特性を把握するための,年 齢,性別,看護経験年数,所属部署,教育背景, 専門資格に関する項目,また,女性が大多数を占 める看護師の特性を考慮し,女性のライフイベン トに関連した配偶関係,子どもに関する項目,さ らに,メンターの有無,メンターと出会ったとき の回答者の年齢・看護経験年数,メンターの当時 の職位に関する項目からなるフェイスシートを作 成した.メンターが複数いる場合は,回答者の キャリア発達に最も影響を与えたメンターを1人 だけ思い浮かべてもらい,回答を依頼した. 4. 質問調査票の作成 本研究対象者に十分に理解され,かつ,信頼性 のある質問調査票を作成する目的で,本調査に先 立って,プレテストを2回実施した. 先述の測定用具を使用して仮の質問調査票を作 成し,1回目のプレテストを行った.看護系大学 院修士課程の学生18名の協力を得,質問項目へ の回答,回答時間・疑問点・不明点・感想等の記 入を依頼した.その結果を踏まえ,看護系大学教 員,および看護管理を専攻している大学院生と十 数回ディスカッションを行い,既存の尺度の意味 内容を変えないように注意しながら,尺度開発者 の使用条件下で文章表現を修正した.メンタリン グ尺度については,否定的な意味をもつ質問項目 がなかったため,黙従反応の影響を除去するため に,5つの質問項目(質問項目番号:5,7,21, 25,52)について筆者が独自に否定的表現に変更 した. 2回目のプレテストは,病床数500床以上の一 総合病院で10年以上勤務している臨床看護師48 名を対象とし,修正した質問調査票への回答を依 頼した.2回目のプレテスト後,尺度の信頼性を 検証するために,統計解析パッケージソフト SPSS 11.0J for Windowsを用い,Cronbachのα係 数を求めた(表1).その結果,キャリア結果の〈内 発的モチベーション〉に関する項目のα係数の み .4470と著しく低い結果となった.しかし, キャリア結果全体のα係数は .8778と高値を示し た.〈内発的モチベーション〉に関する項目をサブ スケールとして扱うかどうかは,本調査結果にお いてα係数を求めたうえで決定することとし,質 問項目はそのまま用いることとした. 5. 研究参加者への倫理的配慮 対象者ならびに調査協力施設に,個人情報の匿 名化,データの保管・処理方法,任意での研究参 加と中止の自由,滋賀医科大学倫理委員会での承 認について文書にて説明し,自由意志下での協力 承諾を得た. 尺度使用においては,開発者に承諾を得た.ま た,開発者が提示した条件下での質問項目修正に ついて許可を得た. 質問調査票回収時には,質問調査票が厳封でき るように,テープつき封筒も併せて配布した. 6. 調査期間 調査期間は,2006年6月1日∼7月31日を設定 し,留め置き期間は1か月とした. 7. 分析方法 統計処理には,統計解析パッケージソフト SPSS 11.0J for Windowsを用いた. まず,本研究で使用した諸変数の平均値と標準 偏差を算出し,単純集計を行った後,メンターの 表1 プレテストにおける尺度の信頼性 n=40 概念 次元 α メンタリング 第1因子:キャリア機能 第2因子:管理者的行動機能 第3因子:情緒的機能 第4因子:受容・承認機能 全体 .9215 .8544 .8428 .8639 .9505 キャリア結果 仕事自体への満足 内発的モチベーション 業績 全体 .8906 .4470 .8384 .8778
職位別にメンタリングとキャリア結果の関係を検 討するために相関分析を行い,Pearsonの積率相 関係数を求めた.有意水準は5%とした.
Ⅵ.結果
対象は39施設780名であり,回収数は661,回 収率は84.7%であった.データ精製後,最終的に 610の有効回答が得られた.有効回答率は78.2% であった. 1. 対象者の属性 本研究対象者の属性を表2,表3に示す.平均 年 齢 は39( ±6.2)歳 で あ っ た. ま た,607名 (99.5%)が女性であり,未婚者より既婚者のほう が上回っていた.しかし,子どもなしの者が子ど もありの者をわずかに上回っていた.子どもの人 数は平均2(±0.8)名であり,幼児期から学童期 の末子をもつ者が約7割を占めていた. 看護師としての平均経験年数は16.7(±5.73) 年,現在の所属部署での平均経験年数は4.5(± 3.92)年であった.対象者が現在所属する部署に ついては,病床数にほぼ比例した形で度数が散ら ばりを見せている.教育背景は圧倒的に高等学校 を卒業後に専門学校を卒業した者が多く,529名 (86.7%)であった. メンターがいると回答した者は362名(59.3%) で,当時のメンターの職位は「非管理職看護師(ス タッフ)」が166名(45.9%),次いで「看護師長」が 108名(29.8 %),「 主 任, 副 看 護 師 長 」が65名 (18.0%)であった.メンターと出会ったときの平 均看護経験年数は5(±4.8)年であった. 2. 尺度の構成概念妥当性の検証 メンタリング尺度について,主因子法,バリ マックス回転による因子分析を行い,因子負荷量 0.35以上を基準とし,因子を抽出した(表4).4 個の因子が抽出され,小野の尺度と比較しても, 因子に寄与する項目に大きな相違はみられなかっ たため,小野のメンタリング尺度の因子名を援用 表2 対象者の属性① 平均年齢(n=600) 39 (SD6.2) 性別(n=610) 人数(%) 男性 女性 3 607 (0.5) (99.5) 配偶関係(n=610) 人数(%) 未婚 既婚 既婚離死別 (無回答) 250 328 29 3 (40.9) (53.7) (4.8) (0.5) 子どもの有無(n=610) 人数(%) あり なし (無回答) 291 304 15 (47.6) (49.8) (2.5) 子どもの平均人数(n=291) 2 (SD0.8) 末子の平均年齢(n=286) 10 (SD6.9) 平均看護経験年数(n=605) 17 (SD5.7) 現在の所属部署での平均経験年数(n=606) 5 (SD3.9) 現在の所属部署(n=610) 人数(%) 内科系病棟 外科系病棟 小児科病棟 産婦人科病棟 精神科病棟 手術室救急・ICU・CCU・NICU
中央材料室 透析室 外来 その他 複数回答 (無回答) 131 144 29 28 15 22 74 1 13 22 32 97 2 (21.4) (23.6) (4.8) (4.6) (2.5) (3.6) (12.1) (0.2) (2.1) (3.6) (5.2) (15.9) (0.3) 一般学歴(n=610) 人数(%) 高等学校卒 短期大学卒 大学卒 大学院修士課程卒 その他 (無回答) 504 43 21 3 7 32 (82.6) (7.0) (3.4) (0.5) (1.2) (5.2) 専門学歴(n=610) 人数(%) 専門学校卒 短期大学卒 大学卒 大学院修士課程卒 その他 (無回答) 529 46 4 4 5 22 (86.7) (7.5) (0.7) (0.7) (0.8) (3.6) 医療・看護関連の専門資格(n=610) 人数(%) 保健師 助産師 専門看護師 認定看護師 救命救急士 ファーストレベル セカンドレベル ケアマネジャー その他 複数回答 (無回答) 5 9 2 5 5 36 1 25 25 19 478 (0.8) (1.5) (0.3) (0.8) (0.8) (5.9) (0.2) (4.1) (4.1) (3.1) (78.4)
し,第1因子から順に,〈キャリア機能〉,〈受容・ 承認機能〉,〈管理者的行動機能〉,〈情緒的機能〉 とした.どの因子にも寄与しない2つの項目であ る「私は,メンターの患者への接し方を真似よう と思った」,「私は,メンターのとおりにやれば専 門性を高めることができると思えた」は除外した. 3. 尺度の信頼性の検証 各尺度の信頼性を検証する目的で,Cronbach のα係数を求めた(表5).ほぼ0.7∼0.9台を示し, 内的整合性は確保できたといえる. キャリア結果の〈内発的モチベーション〉に関す る項目については,プレテストではα=.4470と 低値であったが,本研究対象者においてはα =.6612であったため,サブスケールとして使用 した. 4. メンターの職位別に見た,諸変数のスコアの 平均値と標準偏差 メンターがいると回答した標本を当時のメン ターの職位別に分割すると,母集団とみなせる度 数n > 60を満たすのは,当時のメンターの職位 が「非管理職看護師(スタッフ)」,「主任・副看護 師長」,「看護師長」である3つの標本に限定され た.したがって,分析に使用する標本はこの3つ とし,メンタリング・キャリア結果について,メ ンターの職位別の諸変数のスコアの平均値と標準 偏差を表6に示した. どの職位にも共通して,メンタリングについて の下位次元では,〈管理者的行動機能〉のスコア平 均値が最も高く,〈受容・承認機能〉,〈情緒的機能〉 と続き,〈キャリア機能〉は最も低い結果となった. キャリア結果の下位次元のスコアの平均値は,高 い順に〈内発的モチベーション〉,〈仕事自体への 満足〉,〈業績〉であった. メンターの職位別では,メンターが非管理職看 護師であった群が,メンタリングでは〈キャリア 機能〉,キャリア結果では〈業績〉を除いて,最も 高い平均値を示していた. 5. メンターの職位別にみた,メンタリングとキャ リア結果の相関 メンタリングとキャリア結果の相関分析結果 を,メンターの職位別に表7に示す. メンターが非管理職看護師の場合,メンタリン グの〈情緒的機能〉を除く3つの下位次元と,キャ リア結果のすべての下位次元との間に,やや弱い 正の相関がみられた. 一方,メンターが主任・副看護師長の場合は, 〈キャリア機能〉と〈仕事自体への満足〉との間にや や弱い正の相関が認められたものの,その他の下 位次元同士では相関がみられなかった. メンターが看護師長の場合は,〈情緒的機能〉と 〈仕事自体への満足〉との間のみ相関は認められな かったが,その他の下位次元同士では,比較的強 い正の相関がみられた.中でも,〈管理者的行動 機能〉と〈業績〉の積率相関係数は .538,〈管理者 的行動機能〉と〈内発的モチベーション〉では .512 を示した. また,3つの職位を通して,〈情緒的機能〉と〈仕 事自体への満足〉との間には,ほとんど相関が認 められなかった. 表3 対象者の属性② メンターの有無(n=610) 人数(%) あり なし (無回答) 362 237 11 (59.3) (38.8) (1.8) メンターと出会ったときの平均年齢 (n=362) 26 (SD5.7) メンターと出会ったときの平均看護 経験年数(n=359) 5 (SD4.8) メンターの当時の職位(n=362) 人数(%) スタッフ 主任・副看護師長 看護師長 副看護部長 看護部長 その他 複数回答 166 65 108 3 2 14 4 (45.9) (18.0) (29.8) (0.8) (0.6) (3.9) (1.1)
表4 メンターについての因子分析 質問番号および内容 第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 キャリア機能 49 会議でアイディアの発表機会提供 0.695 0.118 0.028 0.085 16 影響力で異動・昇進を有利に 0.649 0.018 −0.028 −0.085 47 査定のために有利な評価 0.643 0.049 −0.076 0.081 12 昇進・昇格のための人脈づくり機会提供 0.618 −0.020 0.096 0.032 19 昇進・昇格のために習得機会提供 0.613 −0.021 0.196 0.040 33 院内で承認される方法を教示 0.604 0.125 0.041 0.232 48 仕事関係の情報を収集・伝達 0.600 0.068 0.031 0.185 28 昇進・昇格のための情報提供 0.589 0.036 0.068 0.241 50 上司・先輩の不在時,仕事を部分的に委任 0.585 0.173 0.125 −0.017 40 院内の新しい計画・方針を伝達 0.573 0.071 0.005 0.215 31 キャリアアップのための方法を教示 0.566 0.063 0.093 0.180 36 希望の仕事を積極的に割り当て 0.557 0.202 0.185 0.080 24 アイディア・計画の説明機会提供 0.555 0.213 0.169 0.199 8 注目を集める仕事の割り当て 0.545 −0.091 0.160 −0.043 35 仕事ができる人として周囲にアピール 0.539 0.443 −0.069 0.016 14 代表としての発表機会提供 0.524 0.115 0.229 −0.122 53 影響力を使って,査定を有利に 0.519 −0.237 −0.175 0.109 44 異動・高度な仕事のための習得機会提供 0.479 0.155 0.102 0.110 3 希望の仕事への異動を援助 0.456 0.069 0.128 −0.075 13 周囲を理解できるまで間に立って調整 0.386 0.154 0.299 0.143 受容・承認機能 39 何でも相談できるような態度 0.019 0.676 0.252 0.276 45 挨拶・微笑で精神的な支え −0.005 0.668 0.261 0.281 38 仕事ぶりや行動をほめる 0.250 0.598 −0.069 0.137 41 能力を高く評価 0.376 0.578 0.025 −0.103 9 対等の個人として尊重 0.076 0.576 0.080 0.223 32 いつも励まし 0.103 0.576 0.266 0.272 46 心から信頼 0.070 0.569 0.267 0.180 15 悩み事を心配 0.155 0.559 0.233 0.339 10 エキスパートとして承認 0.261 0.476 0.024 −0.148 2 トラブル時,賛成・共感 0.120 0.467 0.302 0.073 51 一緒にいると安心 0.109 0.435 −0.002 0.229 34 人生観や生き方に大きな影響 0.030 0.434 0.394 0.166 7 考え・行動を尊重してくれない 0.022 0.430 0.187 −0.014 52 仕事の結果を正当に評価してくれない −0.042 0.417 0.182 0.015 5 家族・友人について相談できない 0.014 0.413 0.204 0.388 43 仕事で困っているとき,声かけ 0.114 0.408 0.334 0.361 21 一緒に話をすることは少ない −0.029 0.377 0.256 0.323 管理者的行動機能 4 新しい知識・技術が必要な仕事を提供 0.266 0.069 0.567 −0.056 1 レベルを上げて指示や説明 0.173 0.065 0.543 0.079 11 知識・技術の習得方法を見習う 0.009 0.124 0.543 0.178 18 今の仕事のために習得機会提供 0.320 0.100 0.532 −0.002 54 看護師を続けていくうえでの手本 −0.038 0.467 0.489 0.056 29 トラブルについて的確なアドバイス 0.176 0.313 0.462 0.154 22 仕事の結果について指摘 −0.001 0.196 0.445 0.140 25 仕事の進め方を教えてくれない 0.027 0.176 0.435 0.118 20 能力発見のため,さまざまな配慮 0.308 0.302 0.368 −0.028 42 メンターを模倣すれば専門性向上 0.273 0.224 0.329 0.024 6 患者への接し方を真似る −0.106 0.266 0.290 0.095 情緒的機能 26 食事や酒・趣味の活動に誘い 0.145 0.182 0.127 0.770 17 トラブル時,気分転換に誘い 0.118 0.170 0.129 0.737 23 仕事の後,2人で過ごす 0.211 0.202 0.070 0.527 37 子どもか弟や妹のように気にかける 0.162 0.404 0.222 0.489 30 人間関係形成のため,人に紹介 0.405 0.131 0.062 0.422 27 今後の進路についてアドバイス 0.352 0.152 0.335 0.361 因子の寄与率(%) 14.45 11.88 6.62 6.35 累積寄与率(%) 14.45 26.33 32.94 39.29
Ⅶ.考察
1. 対象者の背景 本研究対象者の配偶関係,子どもの有無,子ど もの平均人数,末子の平均年齢,平均看護経験年 数,現在の所属部署での平均経験年数より,対象 者は結婚,出産,育児というライフイベントと就 業を両立しながら,異動も数回経験している中期 キャリアの時期にあるといえる.対象者が現在所 属する部署については,病床数にほぼ比例した形 で度数が散らばりを見せている.教育背景は圧倒 的に高等学校卒後専門学校卒が多く,近年の看護 系大学の急激な増加以前の時期に看護基礎教育課 程を修了しているという背景を反映している. 表5 本調査における尺度の信頼性 n=362 概念 次元 α メンタリング 第1因子:キャリア機能 第2因子:受容・承認機能 第3因子:管理者的行動機能 第4因子:情緒的機能 全体 .9097 .8928 .7894 .8181 .9344 キャリア結果 仕事自体への満足 内発的モチベーション 業績 全体 .8496 .6612 .7940 .8404 表6 メンターの職位別に見た,諸変数のスコアの平均値・標準偏差 A:非管理職看護師(n=166) B:主任・副看護師長(n=65) C:看護師長(n=108) 概念 次元 Mean(SD) A B C メンタリング キャリア機能 受容・承認機能 管理者的行動機能 情緒的機能 全体 2.77(0.62) 3.92(0.55) 4.16(0.48) 3.20(0.79) 3.43(0.46) 2.82(0.62) 3.83(0.59) 4.10(0.45) 3.09(0.85) 3.41(0.46) 2.82(0.62) 3.83(0.59) 4.11(0.45) 3.09(0.85) 3.41(0.46) キャリア結果 仕事自体への満足 内発的モチベーション 業績 全体 3.37(0.55) 3.65(0.65) 3.20(0.59) 3.39(0.46) 3.36(0.49) 3.52(0.69) 3.30(0.57) 3.37(0.44) 3.36(0.49) 3.53(0.69) 3.30(0.57) 3.37(0.44) 表7 メンターの職位別に見た,メンタリングとキャリア結果の相関 A:非管理職看護師(n=166) B:主任・副看護師長(n=65) C:看護師長(n=108) キャリア結果 仕事自体への満足 内発的モチベーション 業績 A B C A B C A B C メンタ リング キャリア機能 受容・承認機能 管理者的行動機能 情緒的機能 .198* .309** .293** .081 .255* −.101 .098 −.197 .354** .419** .434** .187 .207** .207** .279** .129 .118 .018 .098 .073 .285** .335** .512** .282** .237** .240** .276** .059 .071 −.016 .083 .071 .409** .328** .538** .278** **p<.01 *p<.05ファーストレベルの受講経験やケアマネジャーの 資格を有している者の存在が,臨床経験年数10 年以上を対象とした本研究の特徴であるといえ る. 2. 提供されたメンタリングおよびキャリア結果 とメンターの存在 メンタリングの下位次元のスコアの平均値は, 〈管理者的行動機能〉が最も高く,〈キャリア機能〉 が最も低かった.これは,小野のメンタリング尺 度 を 用 い て い る 先 行 研 究( 小 野,1999; 菊 池, 2001)と同様の結果であった. 小野は,〈管理者的行動機能〉を「管理者が日常 業務の遂行を通して部下を指導・育成する」機能, 〈キャリア機能〉を「キャリアの発達をさまざまな 形で直接的に支援する」機能であると述べている. したがって,管理職である看護師長,あるいは主 任・副看護師長にとっては,日常業務そのものが 〈管理者的行動機能〉の遂行であるといえる.一 方,プリセプターシップが継続することによって メンターシップに発展することもある(Yoder, 1990)との見方もあることから,非管理職看護師 がメンターである場合は,当時の臨床現場に浸透 しつつあったプリセプターシップ(永井,1999)が 〈管理者的行動機能〉を遂行するきっかけとなって いたことが考えられる.しかし,本研究対象者が メンターと出会った時期は1980年代後半∼1990 年代前半であり,大学での看護基礎教育や専門・ 認定看護師制度が確立する以前という時代背景か ら,長期的視座でのキャリア支援は,現在ほど看 護界に浸透していなかったと考えられる.した がって,〈キャリア機能〉のスコアの平均値が最も 低く表れたと考える. キャリア結果の下位次元のスコアの平均値から は,〈業績〉のように客観的評価がなされるキャリ ア結果よりも,〈内発的モチベーション〉のような, 直接目に見えない内面に表れるキャリア結果にメ ンターの存在が寄与している傾向があるといえ る. 3. メンタリングとキャリア結果の関連 本研究では,メンタリングのアウトカムを 「キャリア結果」とし,調査を行った.当時のメン ターが非管理職看護師,あるいは看護師長である 場合は,メンタリングとキャリア結果の各下位次 元の間にほぼ相関が認められたが,メンターが主 任・副看護師長の場合は,ほとんど相関が認めら れず,主任・副看護師長によるメンタリングは, 本研究で設定したキャリア結果にはアウトカムと して表れなかった. 本研究の対象者が初期キャリアの時期にメン ターと出会っているということから,先述のとお り,メンターシップ構築のきっかけは,組織内で フォーマルに定められた人材育成役割の遂行が主 に考えられる.しかし,主任・副看護師長は,看 護単位,あるいは組織単位における人材育成の最 高責任者ではなく,プリセプターのような第一線 での教育的役割も担ってはいない.加えて,本研 究対象者がメンタリングを受けていた時期である 1990年代前半の主任・副看護師長は,看護師長 の補佐・代行,業務整理,看護実践者としてのモ デル,チーム看護におけるリーダーシップが役割 と し て 期 待 さ れ て お り( 木 村,1991; 鈴 木, 1991;三浦,1993),個人よりも集団を対象とし た内容が色濃く出ている.組織内でのフォーマル な役割の遂行がメンタリングに反映するとすれ ば,主任・副看護師長の役割は,個人のキャリア 発達の支援機能であるというメンタリングの特性 とは合致しにくく,メンタリングとしての側面は 狭小傾向であったと考えられる. また,メンターの3つの職位を通して,〈情緒 的機能〉と〈仕事自体への満足〉との間には,ほと んど相関が認められなかったことも注目に値す る.〈情緒的機能〉の質問内容は,仕事以外の場面 でのメンタリング機能を表している反面,〈仕事 自体への満足〉の質問内容は,仕事の場面での キャリア結果を表しており,さらに,仕事全般を 捉えた,非常に広範な次元での満足感を尋ねてい る.そのため,アウトカムには反映しにくかった ものと考えられる.
〈情緒的機能〉は他のキャリア結果の下位次元と も相関はほとんどなかった.しかし,メンターが 看護師長である場合のみ,〈内発的モチベーショ ン〉,および〈業績〉において,弱くではあるが正 の相関が認められた.メンターが看護師長である 場合は,メンタリングとキャリア結果の間に安定 して相関が認められており,特に,〈管理者的行 動機能〉と〈業績〉,および〈管理者的行動機能〉と 〈内発的モチベーション〉の相関分析では,積率相 関係数が0.5を超えており,他に比べて相関の強 さが著明であった.したがって,看護師長がメン タリング機能を発揮することは,個人のキャリア 発達を促進するうえで,非常に有効であることが 示唆された.
Ⅷ.結語
メンタリングとキャリア結果の関連について, メンターの職位別に明らかにすることを目的に, 看護経験年数10年以上の非管理職看護師780名を 対象に質問紙調査を行った.その結果,以下のこ とが明らかになった. 1.メンターがいると回答した者全体に提供され たメンタリングの平均得点は〈管理者的行動機 能〉が最も高く,〈キャリア機能〉が最も低かっ た. 2.メンターがいると回答した者全体のキャリア 結果の下位次元の平均得点は,高い順に「内発 的モチベーション」,「仕事自体への満足」,「業 績」であった. 3.メンターが非管理職看護師の場合,メンタリ ングの〈情緒的機能〉を除く3つの下位次元と, キャリア結果のすべての下位次元との間に,や や弱い正の相関がみられた. 4.メンターが主任・副看護師長の場合は,〈キャ リア機能〉と〈仕事自体への満足〉との間にやや 弱い正の相関が認められたものの,その他の下 位次元同士では相関がみられなかった. 5.メンターが看護師長の場合は,〈情緒的機能〉 と〈仕事自体への満足〉との間のみ相関は認めら れなかったが,その他の下位次元同士では,比 較的強い正の相関がみられた.中でも,〈管理 者的行動機能〉と〈業績〉,〈管理者的行動機能〉 と〈内発的モチベーション〉の相関分析では,積 率相関係数が0.5を超えていた. 6.また,3つの職位を通して,〈情緒的機能〉と〈仕 事自体への満足〉との間には,ほとんど相関が 認められなかった. 謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力くださいま した多くの調査協力施設の看護管理者の皆様,看護 師の皆様に深謝いたします.また,質問調査票作成 にあたり,尺度の使用を許可して下さいました亜細 亜大学の小野公一教授に深く感謝致します. なお,本研究は,平成18年度滋賀医科大学大学院 医学系研究科看護学専攻修士課程に提出した修士論 文の一部に加筆修正したものである. 引用文献 合谷美江(2002)斉藤毅憲,ISS研究会(監修)女性のキャリ ア開発とメンタリング─行政組織を事例にして─:2, 文眞堂,東京. グレッグ美鈴,池邉敏子,池西悦子,他(2003)臨床看護師 のキャリア発達の構造:岐阜県立看護大学紀要,3 (1),1─8. 片岡信之(2004)現代企業社会における個人の自律性─組織 と個人の共利共生に向けて─:文眞堂,東京. 菊地佳代(2001)看護師のキャリア発達におけるメンタリン グの一考察─メンタリングとキャリア目標意識との関 係を中心として─:北海道大学医療技術短期大学部紀 要,14,7─15. 木村チヅ子(1991)自らの主任・婦長の経験から考える主任 の役割,業務:看護展望,16(3),29─33. Kram, K.E.(1988)/渡辺直登,伊藤知子訳(2003)メンタリ ング─会社の中の発達支援関係─:白桃書房,東京. 久村恵子(1997)メンタリングの概念と効果に関する考察─ 文献レビューを通じて─:経営行動科学,11(2), 81─100. 草刈淳子(1996)看護管理者のライフコースとキャリア発達 に関する実証的研究:看護研究,29(2),123─138. 三浦規(1993)主任の位置づけ,役割,期待するもの:看護 実践の科学,18(10),25─30. 水野暢子,三上れつ(2000)臨床看護婦のキャリア発達過程 に関する研究:日本看護管理学会誌,4(1),13─22. 永井則子(1999)プリセプターシップの理解と実践─新人 ナースの教育法─:日本看護協会出版会,東京. 小野公一(1999)看護婦におけるメンタリングとキャリア発達:日本労務学会第29回大会発表論文集,93─98. 小野公一(2003)キャリア発達におけるメンターの役割─看 護師のキャリア発達を中心に─:白桃書房,東京. 小野公一(2005)キャリア発達がもたらす生きがい感に関す る研究─看護師のメンター調査を用いたモデルの検証 ─:亜細亜大学『経営論集』,41(1). 坂口桃子(1999)看護職のキャリア・ディベロップメントに 関する実証的研究─キャリア志向のタイプと形成時期 ─:日本看護管理学会誌,3(2),52─59. 坂口桃子(2000)看護職におけるキャリア志向の形成と職務 特性:和歌山県立医科大学看護短期大学部紀要,3, 11─19. 坂口桃子(2002)看護職の組織内キャリア発達─組織と個人 の適合過程─:国際医療福祉大学紀要,7,1─29. 坂下昭宣(1985)組織行動研究:白桃書房,東京. 鈴木ミワ(1991)大きな期待がかけられているからこそ求め られていることも大きい:看護展望,16(3),41─46. 田尾雅夫(1987)仕事の革新:白桃書房,東京. 山下洋史(2000)日本企業の組織特性と「支援」概念,支援基 礎論研究会(編):支援学─管理社会をこえて:138─ 161,東方出版,大阪.
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