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平成 24 年度 卒業論文

Thick-GEMの温度依存性と

ガス流量依存性の測定

信州大学 理学部物理科学科

高エネルギー物理学研究室

09S2030A 南山 仁美

平成25年3月

(2)

目次      

目次

1章 序論...3

    1.1 研究の目的...3     1.2 MPGD...4    1.3 MPGD の応用...6

2 章 GEM(Gas Electron Multiplier)...7

    2.1 GEM とは...7 2.2 加工方法...8 2.3 GEM の増幅過程...10     2.4 光子と物質との相互作用...12       2.4.1 光電効果...13 2.4.2 コンプトン散乱...14 2.4.3 電子対創世...16

3 章 GEM の基本性能...17

     3.1 測定装置...17     3.2 セットアップ...18     3.3 読み出し原理...19     3.4 GEM からの信号... 19       3.5 増幅率の測定...20 3.6 各領域での依存性の測定...22      3.6.1

ΔV

GEM

ΔV

T −GEM に対する依存性...22 3.6.2

E

Drift に対する依存性...24 3.6.3

E

Transfer に対する依存性...24      3.6.4

E

Induction に対する依存性...25

4 章 GEM の温度,ガス流量依存

...26     4.1 実験の説明...26     4.2 温度依存性の測定...26      4.2.1 温度変化を伴う場合の増幅率の測定...26      4.2.2 温度一定の場合での増幅率の測定...28     4.3 ガス流量依存性の測定...29

(3)

目次       

5 章 考察

...31 5.1 基本性能の測定の考察...31 5.2 温度、ガス流量依存性の測定の考察...31

6 章 まとめと今後の課題...35

参考文献...

...36

謝辞

...37

(4)

1 章 序論       

1章 序論

 現在、高エネルギー実験でのガス放射線測定器はワイヤーを用いたものが主流である。しかし近年

では、ワイヤーを使わない MPGD (Micro Pattern Gas Detector) の研究が盛んに行われるようになっ た。MPGD の利点は、ワイヤーチェンバーに比べ位置分解性能が優れていることや、高頻度な信号に 耐えられるということである。また、MPGD の応用として、ILC (International Linear Collider) の飛 跡検出器での利用や、X 線や中性子の二次元読み出しに利用等が考えられている。 MPGD にはいくつ かの種類があるが、本研究では MPGD の一種である GEM (Gas Electron Multiplier) を扱い、実験を 行った。

1.1 研究の目的

 本研究では、GEM の中でも絶縁体が厚いものを用いて、増幅率(1個の電子からガス増幅によって 何個の電子ができるかをいう)の測定を様々な条件で行い結果を比較、考察をした。この通常より厚 い GEM のことを Thick-GEM といい、本研究では一般的な GEM(100μm)と Thick-GEM   (400μm)を多層化させ、実験を行った。

 まずは GEM の基本特性の実験を行った。GEM の各パラメータと増幅率の関係性についてを調べ、 基本特性を確認し、以降の実験での電圧を決定した。ここで GEM のパラメータとして挙げられるのは、

GEM の両面にかける電位差:

ΔV

GEM 、Thick-GEM の両面にかける電位差:

ΔV

T −GEM 、 Drift

領域の電場の強さ:

E

Drift 、Induction 領域の電場の強さ:

E

Induction 、Transfer 領域の電場の強

さ:

E

Transfer である。  次に、温度やガスの流量を変化させた場合の増幅率の実験を行った。温度に関しては、実験中に温 度の変化が伴う場合と、一定の温度の場合での測定を行い、ガスに関しては、測定前にチェンバー内 に送るガスの流量を変化させ、増幅率の測定を行った。  Thick-GEM には時間依存性があり、安定するまでにある程度の時間が必要であることは分かってい たが、詳しいことは分かっていない。そこで今回の研究では、これらの実験の結果を比較、考察して、 時間による増幅率が変化や、その要因を明らかにすることを目的とする。

(5)

1 章 序論       

1.2 MPGD

 高エネルギー実験では、ワイヤーを用いたガス検出器(MWPC-Multi Wire Proportional Chamber) が主に用いられ、粒子の飛跡検出などで貢献してきた。

 しかし最近の高エネルギー物理学実験では、位置分解能の向上や高頻度入射に対する信号の安定性 などよりよい性能が求められるようになり、この要求を満たすために、微細加工技術を用いた MPGD(Micro Pattern GasDetector) の開発が進められるようになった。

 MPGD と MWPC との違いは、陽イオンからガス分子の変換効率がいいことである。ガスの電離に よってできた陽イオンは、電場によってカソードから電子を受け取りガス分子へと戻る。MPGD はワ イヤーと比べイオンの移動距離が短いため、陽イオンがガス分子に変わる効率が良い。そのため高頻 度の信号にも安定して動作するという利点をもつ。また、ワイヤーの代わりに金属のストリップを 使っていることから、ワイヤーが断線することもない。  MPGD には以下のような数種類があり、本研究ではGEMを用いての実験を行う。

• GEM(Gas Electron Muliplier)

 図1.1にGEMの構造を示す。GEMは1997年にCERNのF.Sauliらによって発案されたガス増幅器であ る[1]。詳しくは2章で述べる。

(6)

1 章 序論       

• MSGC(Micro Strip Gas Chamber)

 図1.2にMSGCの構造を示す。比例計数管の限界を越えるため1988年にOedにより提案された[2]。 ワイヤーの代わりに幅10μmほどの陽極のストリップを基板上に配置し、その間に陰極 (Cathode Strip)のストリップを配置した構造をしている。長所として挙げられるのは、電極間が狭いため、時間 分解能・位置分解能が優れていることや、1枚の基板でできているので単純な構造を持つことである。 しかし、放電が起きやすいなどの短所も多い。 図1.2 MSGC

• μ-PIC(Micro Pixel Chamber)

 図1.3にμ-PICの構造を示す。μ-PICはマイクロパターンのピクセルの基盤を用いた検出器である

[3]。ピクセル状のアノードの回りをカソードが取り囲む形をしていて、アノードにはプラス電圧、カ ソードにはマイナスの電圧を印加し、その間の電場により電子雪崩を起こさせ信号を絶縁体の裏面に あるストリップから読み出す。単体で高いガス増幅率を得ることができる利点をもつ。

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1 章 序論         

• MicroMEGAS(Micromesh Gaseous Detector)

 図 1.4 に MicroMEGAS の構造を示す。MicroMEGAS は 1996 年に Giomataris らが考案したもので ある[4]。 読み出し基板の間に狭い空間を空けて目の細かい金属メッシュ (~50μm ピッチ)が平行に張られた構 造をしている。金属メッシュと読み出し基板の間に高電場を形成し、そこで電子の増幅を行う。非常 に高頻度な信号にも対応できるが、大面積のものを安定して動作させることは難しいといえる。 図 1.4 MicroMEGAS

1.3 MPGD の応用

 MPGD の代表的な応用利用のひとつとして、ILC(International Linear Collider) 計画[5]に用いられ る TPC(Time Projection Chamber) が挙げられる。

 ILC とは、世界史上最大最高の高エネルギー電子陽電子衝突型線形加速器のことであり、ヒッグス粒 子の詳しい性質を調べることや新たな物理の発見のために計画されているものである。また、TPC と は飛跡検出器の一種で、荷電粒子の通過によってできる電子をドリフトさせ、2 次元平面で通過粒子 の位置を検出し、同時にセンサー部分までの電子の到達時間を測定し、通過粒子の 3 次元飛跡を得る 測定器である。TPC では一定方向に磁場をかけることにより、通過粒子の曲率半径を測定し、そこか ら粒子の運動量を求めることができる。MPGD は、TPC 内でガス増幅を行うセンサー部分に採用予定 である。また、従来のワイヤーチェンバーよりも電荷の拡がりを抑えることができ、必要な位置分解 能を達成することを可能とする。さらに、高頻度な荷電粒子の測定でも安定して動作する。  また、MPGD はほかにも、Γ線カメラ、医療診断などに用いられるX線・中性子線画像検出器、プ ラズマ診断・新粒子探索などに用いられる粒子線飛跡検出器など、幅広い応用が期待されている。

(8)

2 章  GEM(Gas Electron Multiplier)        

2章 GEM(Gas Electron Multiplier)

 この章ではGEMの詳細を説明する。

2.1 GEMとは

 GEM とは、MPGD の一種であり、1996 年にCERN のF.Sauli によって発案された電子増幅器のこと である。GEM は、薄い絶縁体の両面に薄い銅箔が貼り付けられており、そこには無数の細かな孔が開 けられている。典型的なGEM の絶縁体の厚さは50μm で、その両面には5μm 厚の銅箔が貼られてお り、これらの間に300~400V 程度の電位差を与えることにより孔の内部に高電場を形成し、電子を増 幅させる。GEM の両面に電圧をかけることで、孔の内部に高電場をつくり電子が孔を通過するときの み電子増幅が起こる。  GEM は増幅部分のみでできているので、読み出し部分とは別に設計をすることができる。GEM を2 段や3段に重ねることで、より高い増幅率を得ることが可能となる。

 図2.1 はCERN 製GEMの全体写真で、図2.2 はCERN 製GEMの拡大写真である。

図2.1 CERN 製 GEMの全体写真         図2.2 CERN 製 GEMの拡大写真

 また、GEMの中でも、絶縁体の厚さが数100μmあり厚いものを、Thick-GEMと呼ぶ。Thick-GEM は、通常のGEMよりも増幅領域が大きく、1枚で高い増幅率と安定性が得られる。また、電圧をかけ る際に、強い張力をかける必要がないという利点も持つ。50μm、100μmのような一般的なGEMは 十分に研究が行われその特性などが知られているのに対し、Thick-GEMは開発の余地があり、今後の 活躍が期待される。

(9)

2 章  GEM(Gas Electron Multiplier)

2.2 加工方法

 GEMの加工方法にはいくつかある。現在、主な加工方法は以下の3つである。 ①ケミカルエッチング ②プラズマエッチング ③レーザーエッチング ①ケミカルエッチング  ケミカルエッチングとは、薬品(塩酸溶液)によって銅と絶縁体を片面づつ溶かすことで孔を作る方法 である。薬品が絶縁体の内部にまで浸透しないため、孔の形状は円錐をくっつけたようなつつみの形 状になる。この方法はCERNで用いられている方法である。この方法では50μm~70μm程度の孔を 100μm~150μmのピッチで開けることができる。  図 2.2にウェットエッチングで作成したGEMの断面図を示す。GEMの断面 絶縁体の中央部分は 55μmと孔の縁の部分よりも狭くなっている。 図2.2 ウェットエッチング

(10)

2 章  GEM(Gas Electoron Multiplier) ②プラズマエッチング  プラズマエッチングでは、銅の部分は同様薬品を使って溶かし、絶縁体の部分はアルゴンのプラズ マを当てる事によって削る。短所は、プラズマの拡散によって絶縁体の側面を削りすぎてしまうこと があり、放電の要因になってしまうことである。 孔の大きさはケミカルエッチングと同程度である。 穴の形状は円筒に近い。図 2.3にプラズマエッチングにより作成したGEMの断面図を示す。 図2.3 プラズマエッチング ③レーザーエッチング  レーザーエッチングでは、まずケミカルエッチングで銅に孔を開け、次に片面ずつ炭酸ガスレー ザーで孔を開ける。拡散の小さいレーザーを使うことで、プラズマエッチングの際に絶縁体を削 りすぎる問題を解決している。しかし、レーザー光を絶縁体が吸収することにより、絶縁体の温度が 上昇してしまい、絶縁体が変形し、表面が波打った状態になることもある。  この方法では非常に微細な加工が可能であり、30μmの孔を50μmピッチでエッチングすることも 可能である。この方法では上の2つの方法に比べて精度がよいが、高価である欠点を持つ。 図 2.4にレーザーエッチングにより作成したGEMの断面図を示す。 図2.4 レーザーエッチング

(11)

2 章  GEM(Gas Electron Multiplier )

2.3 GEMの増幅過程

  GEMのチェンバー内での、粒子の増幅過程を説明する。入射粒子が検出器内を通過したとき、検出 器内のガス分子は電離され、入射粒子の飛跡に沿っ て電子と陽イオンの組ができる。これを一次電離 という。ガス中の電場を強くしたとき、電離によってで きた電子は加速され、高い運動エネルギーを 持つ。この運動エネルギーがガス分子の電離 エネルギーよりも大きいと、さらにガス分子を電離させ、 イオン対ができる 。これを二次電離という。  二次電離で生成された電子も高電場により加速されることで、ガス分子は電離を起こし、これ以 降 同様にイオン対の生成が三次、四次と連鎖的に続いていく。このように雪崩的に電子を 増幅させてい くことをアバランシェ増幅またはガス増幅と呼ぶ。  このとき、イオンが増幅に寄与することはない。イオンは自身の 移動度が小さいため、次の衝突ま でにガス分子を電離させるエネルギーを得ることができ ないからである。  また、ガス増幅が起こる電場の強さには閾値がある。一次電離によってできた電子は、電場の強さ に比例したエネルギーを持つことになるので、その後二次電離を起こすために電子は電離エネルギー よりも高いエネルギーを持つ必要があるので、ガス増幅を起こすための条件として、十分な強さの電 場が必要である。その閾値の大きさは、 1気圧の通常ガスの場合およそ 10kV/cm である。  ガス増幅において、単位長さあたりに電子が増幅する割合は式 (2.1) で表される。

dN

N

=

αdx

(2.1)

 ここで α はガスに対する第1タウンセンド係数 (first Townsend coefficient) と呼ばれており、電場 の強さに依存する量である。この値は閾値以下の電場に対してはゼロであり、電場を大きくするとと もに増加していく。もし、電場が一定であれば第1タウンセンド係数も一定である。この条件の下で式 (2.1) を積分すると、

N (x )=N

0

e

αx (2.2) が得られる。  ここで

N

0 は一次電子の数であり、

N (x )

は、距離 x の間に動いた一次電子によってで きた二 次電子(場合によっては三次電子や四次電子など)の数を表している。したがって式 (2.2) からガス増幅 を起こす閾値以上の電場の強さで、さらにその値が一定である場所という条件の下で、電子の移動距 離 x に対して電子の数

N (x )

が指数関数的に増加することがわかる。  図 2.5は、GEMによって形成される電気力線の様子を表したものである。GEMの孔の内部は高電場

(12)

2 章  GEM(Gas Electron Multiplier) が形成されていることが分かる。ここで閾値を超える電場が形成されるのでガ ス増幅が起こる。また GEMの電極間の電位差を大きくしていくと、形成される電場が強くなるので増幅率は上がる。 図2.5 GEMによって形成される電気力線の様子  ガス検出器では一般的に以下の図 2.6のような電場の変化によるイオン収集数の関係がみられる。  図2.6のIの領域はイオン再結合領域と呼ばれ、電場が低い領域である。ここでは荷電粒子によって できたイオンと電 子は電極方向に動き始めるが、電場が低すぎるため他ガス分子と衝突、再結合、拡 散をするためほとんど電極に集まることができない。  図2.6のIIの領域は電離領域と呼ばれる。電離領域では、電極に1次電離で生成した電子とイオンがほ ぼすべて集められているが、増幅は起こっていない。  図2.6中のIIIの領域は、電場が小さい方が比例計数領域、電場が大きい方が限定比例領域と呼ばれる。  それぞれの領域では電離によって生じた電子が高電場領域で増幅を起こす。比例計数領域で は、1 次電離による電子イオン対の数と増幅後の電子イオン対の数が比例する。限定比例領域では増幅率は 大きくなるが、増幅過程で生じる紫外線による中性ガス分子の電離の効果が無視できなくなるため、 比例関係は崩れてくる。  図2.6中のIVの範囲の、さらに電場が大きい領域は、ガイガーミュラー動作領域と呼ばれる。この領 域では増幅過程で生じる紫外線がチェンバー全体に広がり、ほぼ一定の信号を出すようになる。ガイ ガーミュラー計数管を動作させるのはこの領域である。  ガイガーミュラー動作領域よりも電場を大きくすると連続放電領域となり、放電が止まらなくなっ てしまう。

(13)

2 章  GEM(Gas Electron Multiplier)                図 2.6 印加電圧に対するイオン収集数の変化 下の曲線はβ線が入射した場合、上の曲線はα線が入射した場合のイオン収集数を表す。

2.4 光子と物質との相互作用

 GEM は、入射放射性粒子とガスが相互作用を起こし、生じた電子を増幅することによって信号を得 る検出器である。ここでは、入射放射性粒子と物質との相互作用について述べる。

 

光(γ 線、X 線)と物質との相互作用は主に光電効果、コンプトン散乱、電子対創生の 3 つである。 これらの過程は光子のエネルギーを一部またはすべて電子のエネルギーに変換するものである。光子 のエネルギーによりそれぞれの効果の寄与が異なる。また、γ 線、X 線の透過量は指数関数的に減少 し、厚さ

d

cm の吸収物質に

I

0 個の γ 線もしくは X 線が入射したとすると、透過した量は次式 (2.3)であらわされる。

I =I

0

e

−μd (2.3)  ここでμは線吸収係数と呼ばれ、光電効果、コンプトン散乱、電子対創生、それぞれの吸収係数、

μ

1

μ

2

μ

3 の和になっている。

(14)

2

章 GEM(Gas Electron Multiplier)              

    

μ= μ

1

+

μ

2

+

μ

3 (2.4)  γ線、X 線の吸収物質内での平均飛程はその透過量が1/e に減少する距離と定義できる。この距離は (2.3)式から、1/μとなる。  図 2.7 は鉛の場合の線吸収係数を示したものである。 図 2.7 鉛に対するγ線の線吸収係数 それぞれの効果が表れるエネルギー領域が限られてくる。

2.4.1 光電効果

 図 2.8 に光電効果の模式図を示す。光電効果では原子内部に束縛されている電子と相互作用を起こ し、光子がエネルギーをすべて電子に与える現象である。原子から放出される光電子はその束縛エネ ルギーと光子のエネルギーの差だけ運動エネルギーを得ることになる。光子は原子の中でもっとも強 く束縛されている電子すなわち K 殻電子を光電子として放出する可能性が大きい。また、光電効果は 光子のエネルギーが束縛エネルギーより少し上でもっとも起こりやすく、光子のエネルギーが増すと

(15)

2

章 GEM(Gas Electron Multiplier)              

     

急激に減少する。電子の飛び出した原子は励起状態にあるので、基底状態に戻る際に特性 X 線を放出 する。この X 線は原子の外に飛び出すこともある。また、特性 X 線の代わりにオージェ電子を放出し て原子の励起エネルギーが失われることもある。 光電効果は比較的低エネルギー光子の相互作用の過 程で重要なものである。鉛では 500keV 以下、アルミニウムでは 50keV 以下で大きい効果を示す。 こ の過程は原子番号Z が大きな吸収物質で顕著になる。近似的な式として、ガンマ線のエネルギー

0 を用いると(2.5)式のようにかける。

μ

1

NZ

5

(

0

)

7 2 (2.5)  ここでN は単位体積当たりに含まれる原子の数である。 図 2.8 光電効果 光子が電子にエネルギーをすべて与え、光電子として電子は原子外に飛び出す。

2.4.2 コンプトン散乱

 

図 2.9 にコンプトン散乱の模式図を示す。コンプトン散乱はひとつの入射光子と吸収物質中の電子 との間で起こる相互作用である。入射光子の一部のエネルギーを電子に与え、光子は入射方向から で散乱される。エネルギー保存則と運動量保存則を適用すると入射した光子のエネルギー

0 とし て、散乱された光子のエネルギー

が求められる。

hν=

0

1+(1+cosθ )

02 (2.6)

(16)

2

章 GEM(Gas Electron Multiplier)            

     

 ここで

mc

2 は電子の静止質量(0.511MeV)である。また反跳電子のエネルギーE は以下のように 表すことができる。

E=hν

0

hν=

0

1+

mc

2

0

(1−cosθ )

(2.7)  コンプトン散乱が重要なエネルギー領域は鉛では 0.6~5MeV、アルミニウムでは 0.05~ 15MeV で ある。近似式としては原子番号Z、単位体積当たりに含まれる原子の数N を用いて、(2.8)式のように かける。

μ

2

NZ

0

(log

2hμ

0

mc

2

+

1

2

)

(2.8) 図 2.9 コンプトン散乱 光子はエネルギーの一部を電子に与え、光電子とエネルギーの低い光子が出ていく。

(17)

2

章 GEM(Gas Electron Multiplier)            

     

2.4.3 電子対創生

 図 2.10 に電子対創生の模式図を示す。電子対創生は γ 線が原子核近傍で消滅して、陽電子と電子 の対が創生される過程である。この過程では γ 線のエネルギーが電子対の静止質量よりも大きくなけ ればならない。つまり

0

2mc

2

=1.02MeV

が必要条件である。そのため、高エネルギーの γ 線 に限られる。また、γ 線のエネルギーが 1.02MeV より大きい場合には、1.02MeV を超えた分のエネ ルギーが電子対の運動エネルギーとなる。  鉛では 5MeV 以上、アルミニウムでは 15MeV 以上の領域で重要な役割を演じている。この近似式 は(2.9)式のようにかける。

μ

3

NZ

2

(

0

2mc

2

)≃

NZ

2

log hν

0

0

≥2mc

2

(

~1MeV)

,

0

≫2mc

2 (2.9)  ここで原子番号を Z、単位体積あたりに含まれる原子の数を N とおいた。 図 2.10 電子対創生 原子核の近傍で電子と陽電子が作られる。光子のエネルギーが電子、陽電子の質量よりも大きなエネ ルギーを持っていないと許されない。

(18)

3章  GEM の基本性能      

3 章 GEM の基本性能

 この章では GEM の実験装置や読み出し原理などの説明と、基本性能の実験結果を示す。

3.1 測定装置

 本研究で用いた測定装置の概略図を以下の図 3.1 に示す。 図 3.1 測定装置の概略図  チェンバー内は、図 3.1 のように、上から、カソード、GEM(絶縁体の厚さが 100μ mのもの)、 Thick-GEM(絶縁体の厚さが 400μ mのもの)、読み出しパッドの順でセットする。チェンバー上部の カソードから GEM までの領域を Drift 領域、GEM の下面から Thick-GEM の上面までの領域を Transfer 領域、Thick-GEM の下面から読み出しパッドまでの領域を Induction 領域と呼ぶ。

 Drift 領域で荷電粒子によって電離された電子は、電気力線に沿ってドリフトし、GEM の孔に到達す る。電子は GEM の孔の内部でガス増幅を起こし、増幅された電子群は Induction 領域を通って、読み 出しパッドから電気信号として読み出される。  測定に用いたチェンバーは(図 3.2)厚さ 5.0 mm のアルミ板で囲まれており、容積は 21 cm × 19 cm × 4 cm である。チェンバー上部の 10 cm × 10 cm の薄いアルミ製の入射窓より放射線を入射す る。線源は 55

Fe

を使用した。

(19)

3章  GEM の基本性能         チェンバー内には、P10 ガスを充満させた状態で実験を行った。P10 ガスとは Ar と CH4 の体積比 率が 90 %と 10 %の混合ガスのことで、ワイヤーチェンバーに主に利用されているガスである。  また、今回用いたチェンバーの底は二重になっており、アンプを内蔵することによってノイズを最 小限に抑えることができる。      図 3.2 チェンバー

3.2 セットアップ

 以下の図 3.3 は、本実験のセットアップ図である。

このセットアップに従い、GEM の裏側からの信号を Inverter で反転させ、Discriminator によりデジ タル信号に変換した後、Gate Generator により、Gate 信号へと変換して出力する。Discriminator で 閾値を設定しておけば、閾値を超えるような 信号が来たときだけゲートが開くようになる。このよう にして GEM の裏の信号をゲートトリガーとして使用する。ADC については次節 3.5 で説明する。なお、 セットアップの構成上、Gate 信号が読み出しパッドからの信号よりも遅れてしまうので、読み出し パッドからの信号に Delay をかけて遅らせることにより、ゲートが開いている間に信号が来るように する。 図 3.3 セットアップ図 Thick-GEM 下面電極

(20)

3章  GEM の基本性能       

3.3 読み出し原理

 GEM で増幅された電子は、Induction 領域から読み出しパッドへ到達するが、パッドに落ちた電子 が直接検出されているわけではない。ここでは信号の読み出し原理について説明する。  まず、GEM で増幅された電子群が読み出しパッドへ移動する際、パッドには正の電荷が 誘起される。 電流は電子の移動と逆方向に流れるので、この場合アンプ側からパッドに向 かって電流が流れること になる。よって読み出される信号は負となる。また、パッドに正の電荷が誘起されることにより、ア ンプ側に負の電荷が誘起されるので結果として負の信号が検出されるとも解釈できる。したがって、 実際に読み出される信号がパッドに落ちた電子を読み出しているわけではなく、実際はパッドに 誘起 された電荷を利用して、アンプ側の誘起電荷を読み出しているということである。

3.4 GEM からの信号

 以下の図 3.4 は、実際に GEM からの信号の様子をオシロスコープを用いて確認したときの様子であ る。2 つの信号を読み出しており、ひとつは読み出しパッドからの信号で、前節 3.3 で説明したように、 負の信号を見ることができる。もうひとつの信号は GEM の裏側からの正の信号である。電子群はパッ ドに向かって移動しているので、GEM の裏側の電極 には負の電荷が誘起される。したがって、アンプ 側には正の電荷が誘起されているので、 GEM の裏側からの信号は正の信号として確認することができ る。この信号を今後 はトリガーとして使用する。        図 3.4 GEM からの信号

GEM の裏側

からの信号

読み出しパッド

からの信号

200mV

200nS

(21)

3章  GEM の基本性能       

3.5 増幅率の測定

 増幅率の測定には ADC(Analog to Digital Converter)を用いて、積分電荷量分布のヒストグラムから 決定する。ADC で Gate 信号とパッドからの信号を入力し、Gate 信号と同時に入力されたときに積分 を行う。図 3.5 に ADC の概略図を示す。図中の色のついた部分の電荷量が結果として出力される。

図 3.5 ADC の概略図

 また、図中の pedestal と呼ばれる部分だけ分布は大きい値となるので、信号の電荷量を決定する場 合には、元の値から pedestal を引く必要がある。pedestal の値を求めるためには、Gate 信号をランダ ムにすれば良い。

 実際の測定での信号は、図 3.6 のように見られる。

図 3.6 パッドからの信号と Gate 信号

約 300mV

(22)

3章  GEM の基本性能         得られた積分電荷量分布のヒストグラムを ADC 分布と呼び、これによって増幅率を算出する。図 3.7 は実際の ADC 分布である。  このグラフには 2 つのピークを確認することができる。右側の大きいピークは光電吸収ピークと呼 ばれるもので、光電 効果とオージェ効果による。左の小さいピークは、エスケープピークと呼ばれ、 オー ジェ効果が起こらず特性 X 線が外へ逃げていったものである。 今回の測定で使用したのは右側の 光電吸収ピークである。このピークをガウス関数でフィッティングし、その頂点の値 (mean 値と呼ぶ) を増幅率の測定に使用する。 図 3.7 ADC 分布  増幅率を求めるには、ガス増幅前と増幅後の電荷量がそれぞれわかればよい。       (増幅前の電荷量) × (アンプの増幅率) × (増幅率 G) = (増幅後の電荷量)        (3.1)  まず、増幅前の電荷量を計算する。Ar の W 値(1 つの分子を電離させるのに必要なエネルギーの 値)は 26eV である。オージェ効果に よって 55

Fe

による X 線のエネルギー 5.9keV が全て電離に使 われる場合、生成される電 子・イオン対の総数(プライマリーイオン数)は、

(23)

3章  GEM の基本性能                 

5.9× 10

3

÷ 26≈2.3× 10

2 [個] (3.2) である。よって 55

Fe

によって生成される総電荷は、        

1.60 ×10

−19

× 2.3 ×10

2

3.6 ×10

−5 [pC]          (3.3) となる。これが増幅前の電荷量である。  測定で求める増幅後の電荷量は、アンプによって増幅されているので、増幅前の 電荷量もアンプに よって増幅された値を使わなければならない。 求める増幅率は式 (3.1) より、

   G =   ADC(mean 値 - pedestal 値 ) × (1ADC カウント当たりの電荷量 )  

      e × (プライマリーイオン数) × (アンプの増幅率) (3.4) となる。1ADC カウント当りの電荷量は 0.25pC である。また、アンプの増幅率は測定した結果 715.75(倍)であったので、その数値を用いる。

3.6 各領域での依存性の測定

 以下は、GEM 間、Thick-GEM 間、Drift 領域、Transfer 領域、Induction 領域の 5 つ領域において、 増幅率の、電位差依存性を実験した結果である。

 実験前に、チェンバー内に 100cc/min のガスを約 30 分ほど充満させた後、電圧を印加して 5 時間 程度経過させ、測定器が安定してから、10000 イベントのデータを取った。

3.6.1 ΔV

GEM

、 ΔV

T −GEM

に対する依存性

(a)

ΔV

GEM

 電圧を、

E

Drift を 0.055kV/mm、

ΔV

T −GEM を 1100V、

E

Transfer を 0.15kV/mm、

E

Induction を 0.027kV/mm となるように印加し、これらは固定し

ΔV

GEM のみを 5V ずつ変化させ、

測定した。図 3.8 は

ΔV

GEM の依存性グラフで、横軸は GEM の上下にかける電位差、縦軸は増幅率

(24)

3章  GEM の基本性能       

図 3.8

ΔV

GEM の依存性グラフ

(b)

ΔV

T−GEM

 (a)と同様の方法で、

E

Drift を 0.055kV/mm、

ΔV

GEM を 420V、

E

Transfer を 0.15kV/mm、

E

Induction を 0.027kV/mm として固定し、

ΔV

T−GEM のみを 5V ずつ変化させた。図 3.9 は

ΔV

T −GEM の依存性グラフで、横軸は Thick-GEM の上下にかける電位差、縦軸は増幅率である。

ΔV

GEM と同様に依存性を確認することができた。 380 385 390 395 400 405 410 415 420 425 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 1.0E+04 1.2E+04 1.4E+04 1.6E+04

ΔV GEM の依存性

ΔV GEM[V] G a in 1065 1075 1085 1095 1105 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 1.0E+04 1.2E+04 1.4E+04

ΔV T-GEM の依存性

ΔV T-GEM[V] G a in

(25)

3章  GEM の基本性能       

3.6.2

E

Drift

に対する依存性

 

図 3.10 は

E

Drift の依存性グラフである。初めに、

ΔV

GEM を 420V、

ΔV

T −GEM を 1100V、

E

Transfer を 0.15kV/mm、

E

Induction を 0.027kV/mm として固定し、

E

Drift を 5V ずつ変化させ

た。図 3.10 は

E

Drift の依存性グラフで、横軸は Drift 領域の電場の強さ、縦軸は増幅率を示す。電

場を強くすると増幅率も上昇していくが、電場が 0.055kV/mm のところで増幅率は低下し、放電が起 こってしまった。

図 3.10

E

Drift の依存性グラフ

3.6.3

E

Transfer

に対する依存性

初めに

E

Drift を 0.15kV/mm、

ΔV

GEM を 425V、

ΔV

T −GEM を 0.14V、

E

Induction

0.27kV/mm と固定し、

E

Transfer のみを 5V ずつ変化させていった。図 3.11 は

E

Transfer の依存性グ ラフで、横軸は Transfer 領域の電場の強さ、縦軸は増幅率を示す。電場の強さが 0.2kV/mm を越えた あたりから、増幅率は安定し大きな増減はしなくなる。 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 1.0E+04 1.2E+04 1.4E+04 1.6E+04

E Drift の依存性

E Drift [kV/mm] G a in

(26)

3章  GEM の基本性能       

図 3.11

E

Transfer の依存性グラフ

3.6.4

E

Induction

に対する依存性

 初めに

E

Drift を 0.15kV/mm、

ΔV

GEM を 425V、

ΔV

T −GEM を 0.14V、

E

Transfer

0.18kV/mm と固定し、

E

Induction を 5V ずつ変化させていった。図 3.12 は

E

Induction の依存性グラ フで、横軸は Induction 領域の電場の強さ、縦軸は増幅率を示す。他の領域での実験よりも、増幅率が 急激に増加していく様子が分かる。 図 3.12

E

Induction の依存性グラフ 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.0E+00 5.0E+03 1.0E+04 1.5E+04 2.0E+04 2.5E+04 3.0E+04 3.5E+04

E Induction の依存性

E Induction[kV/mm] G a in 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 1.0E+04 1.2E+04 1.4E+04 1.6E+04

E Transfer の依存性

E Transfer[kV/mm] G a in

(27)

4 章  GEM の温度、ガス流量依存      

4 章 GEM の温度、ガス流量依存

  この章では、色々な条件下での時間依存の実験について説明する。

4.1 実験の説明

 3章の実験で電圧の決定を行ったあとは、GEM の時間依存について詳しく調べた。GEM は、電圧を 印加してから約 200 分~300 分ほど経過すると増幅率がほぼ安定することは知られていたが、安定後 の値や、安定までの時間、増幅率の増減する様子などが測定ごとに異なっていた。そのため、印加電 圧以外の条件を変化または一定にすることで、増幅率にどう影響を与えているのかを実験した。  本研究では、温度依存性と、ガス流量依存性についての実験を行った。

4.2 温度依存性の測定

 温度依存性の測定では、温度と増幅率の関係性について調べた。温度計をチェンバーの入射窓の上 に置き、温度、気圧、湿度を測定しながら実験を行った。温度センサーとチェンバーは直接触れてい ないので、チェンバーから約5 mm 上部の温度などを測っていることになる。気圧、湿度については 増幅率との関連性が見られなかったので、ここでは温度についての実験結果を示す。

4.2.1 温度変化を伴う場合の増幅率の測定

 温度変化を伴う実験では、エアコンや測定の時間帯などを調整して温度変化を与え、温度と増幅率 の関係を調べた。測定開始前にガスを 100cc/min で 90 分流してから電圧を印加し、30 分毎に測定し た。以下が実験結果で、横軸は測定開始からの時間、縦軸は青が増幅率、赤が温度を示す。図 4.1〜図 4.3 に実験結果を示す。 3.0E+03 3.5E+03 4.0E+03 4.5E+03 5.0E+03 5.5E+03 6.0E+03 6.5E+03 7.0E+03 14 16 18 20 22 24 G a in 温 度 [ ] ℃ Gain 温度

(28)

4 章  GEM の温度、ガス流量依存       _ 図 4.2 温度変化を伴う場合の増幅率(2) 図 4.3 温度変化を伴う場合の増幅率(3) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 4.00E+03 4.50E+03 5.00E+03 5.50E+03 6.00E+03 6.50E+03 7.00E+03 7.50E+03 8.00E+03 16 17 18 19 20 21 22 23 Gain 温度 時間[min] G a in 温 度 [ ] ℃ 0 200 400 600 800 1000 5.0E+03 5.5E+03 6.0E+03 6.5E+03 7.0E+03 7.5E+03 8.0E+03 8.5E+03 9.0E+03 9.5E+03 1.0E+04 20 22 24 26 28 30 Gain 温度

時間

[min]

G

a

in

[

]

(29)

4 章  GEM の温度、ガス流量依存        実験結果を見ると、どの実験でも温度変化とともに増幅率が変化していくことが分かる。

4.2.2 温度一定の場合での増幅率の測定

 GEM のチェンバーを恒温槽に入れて、チェンバー内にガスを送るチューブの長さを長くし、約10 m にした(図 4.4)。チューブの長さを長くしたのは、ガスが冷えていることも考えられるので、10m の チューブを恒温槽内に入れておくことで、チェンバー内に送られるガスの温度も一定に保つためであ る。   図 4.4 恒温槽に入れたチェンバー  恒温槽で温度を設定し(20℃、25℃、30℃)、温度一定の場合での温度と増幅率の関係を調べた。 測定前にガスを 100cc/min で 90 分間流したあと電圧を印加し、30 分毎に 500 分間測定を行った。実 験結果のグラフ(図 4.5)は、横軸が測定開始からの時間、縦軸は増幅率を示す。

(30)

4 章  GEM の温度、ガス流量依存       図 4.5 温度一定の場合での増幅率

 

図 4.5 の実験結果を見ると、温度が高いほど高い増幅率を得られることが分かる。増幅率は、20℃ では約 6000、25℃では約 8500、30℃では約 10000 で安定している。  また、安定までの時間にも温度によって違いが見られる。20℃では約 250 分後、25℃では約 200 分後、30℃では約 100 分後で増幅率が安定していることから、温度が高いほど、安定までの時間が短 いという結果が得られた。

4.3 ガス流量依存性の測定

 次に、測定前にチェンバー内に流すガスの流量を変えて実験を行った。ガスは100cc/min で、これ を電圧を印加する測定前に何分流すかを変化させた。  チェンバーの体積を考えると19(cm)×21(cm)×4(cm) = 1596(

cm

3 ) であるので、ガスを約15 分流すと、 100(cc/min) × 15(min) = 1500( cc ) となりチェンバー内の P-10ガスを1回置換すると仮 定した。 0 100 200 300 400 500 0.0E+00 2.0E+03 4.0E+03 6.0E+03 8.0E+03 1.0E+04 1.2E+04 20℃ 25℃ 30℃

時間

[min]

G

a

in

(31)

4 章  GEM の温度、ガス流量依存        以下の図4.6が実験結果で、横軸が測定開始からの時間で、縦軸が増幅率である。この実験では温度 は25℃で保った状態で行い、測定は30分毎に600分行った。回数というのは、測定前にガスがチェン バー内を置換されたとする回数である。青が1回(15分)、緑が2回(30分)、赤が6回(90分)、紫 が10回(150分)を示す。 図4.6 ガス流量依存性のグラフ  図4.6の結果のグラフを見ると、まず、ガスがチェンバーを置換した回数が6回、10回のときは測定 開始から終了時までほぼ同じ値をとっている。また、置換した回数が1回のとき、最初の一点(測定開 始直後)ではピークが小さすぎてガウスフィットできなかったため増幅率の算出ができなかったが、 かなり低い増幅率であることは確かである。  この結果から分かることは、測定開始前のガスの流量が少ないと、安定するまでの増幅率が小さい ことである。しかし、安定までの時間(約250分後)や、安定後の増幅率の値はほとんど変わらないの で、ガスの量による影響はないと考えられる。 0 100 200 300 400 500 600 700 0.0E+00 1.0E+03 2.0E+03 3.0E+03 4.0E+03 5.0E+03 6.0E+03 7.0E+03 1 回 2 回 6 回 10 回

時間

[ 分 ]

G

a

in

(32)

5章 考察      

5 章 考察

 この章では各実験の考察を述べる。

5.1 基本性能の測定の考察

 それぞれの領域で、電場の強さに対する増幅率の依存性を確認できた。  Drift 領域の電場を強くしていくと、増幅率が低下し放電が起こってしまうようになる。これは、電 極表面に入る電気力線が増えていくと、それに沿って電子が電極に移動し吸収され、増幅に使われな くなるためであると考えられる。  Induction 領域の依存性の実験では、増幅率の上昇が他の領域よりも急激であった。電場を大きくす ると、増幅された電子が読み出しパッドにいく数も増えていき、増幅率は上がる。さらに電場を大き くすると、チェンバー全体に増幅された電子が行き渡り、Indction 領域での増幅が盛んに行われ、増 幅率が急激に上昇していったものと考えられる。  

5.2 温度、ガス流量依存性の測定の考察

 

 まずは温度依存性について考察する。4.1 節での温度依存の測定では、増幅率が温度に依存し、高い 温度であるほど高い増幅率が得られることがわかった。チェンバー内ではガス増幅が行われており、 電界によって加速された電子がガス分子と衝突してガス分子を電離させ、電子が雪崩的に増えていく (2.3 節参照)。温度が高い場合、電子の加速やガス分子の動きが熱によって活発になって、よりガス 増幅が起こるため、増幅率が高くなったと考えられる。    温度係数について考える。図 4.1 の温度変化を伴う場合の増幅率(1)について、横軸を温度、縦軸 を増幅率として、温度係数を算出したものが以下である(図 5.1)。

(33)

5章 考察       図5.1 温度と増幅率  図5.1を見ると温度による依存関係が見られ、温度1℃あたり傾きである約346だけ、増幅率が増加 するものと考えられる。また、この値をもとに、図4.1を温度補正したものが以下の図5.2である。 0 100 200 300 400 500 600 0.0E+00 1.0E+03 2.0E+03 3.0E+03 4.0E+03 5.0E+03 6.0E+03 7.0E+03 8.0E+03 9.0E+03 時間[ 分後 ] G a in 18 19 20 21 22 23 24 0.0E+00 1.0E+03 2.0E+03 3.0E+03 4.0E+03 5.0E+03 6.0E+03 7.0E+03 f(x) = 346.01x - 1656.01 温度[ ]℃ G a in

(34)

5章 考察        温度補正後のグラフは、安定までに250分ほどかかっている。これはGEMの時間依存性で、測定器 が安定するまでに必要な時間であると考えられる。4.2.1の温度変化を伴う実験で、同じように温度係 数を算出したが、実験によりばらつきが見られた。  4.2.2の温度一定の場合での実験でも温度係数を算出してみる。20℃と30℃のときの安定後の値(そ れぞれ約6000、10000)を考え、また安定後も

±

200程度の増減が見られるのを考慮したとき、温 度係数は

(1000 ± 200−6000 ± 200)/10=(4.0 ± 0.3)×10

2

/

k

(5.1) 程度であることが分かる。温度変化を伴う場合の実験では、温度が変化してから増幅率に影響が出る までの時間などを考慮し、また、測定器の安定後のみの値を用いるべきなので、より正確な温度係数 の算出には、式(5.1)のように温度一定の実験のものを考えた方が良いと思われる。  温度依存について、増幅率の時間変化を考察する。温度一定での増幅率の実験では、温度によって 安定までの時間が異なるという結果が得られた。図5.3は、図4.5 の温度一定の増幅率のグラフから、 微分係数を算出しその時間変化を見たものである。 図5.3 微分係数での時間変化  このグラフを見ても、30℃のときに増幅率が100分ほどで急激に上昇することや、逆に20℃では時 間によって大きな変化をしないことが分かる。 0 100 200 300 400 500 600 -10 0 10 20 30 40 50 60 20℃ 25℃ 30℃ 時間[min] 時 間 変 化

(35)

5章 考察        次に、ガス流量依存性について考察する。4.3節の実験で、電圧印加前のガスの量を変化させて増幅 率の測定を行った結果、ガスの量が少ない場合、安定までの増幅率が低いことが分かった。これは チェンバー内のガスの圧力や、電荷の溜まり具合が関係していると予想されるが、具体的なことはわ からない。ガスの置換回数が6回と10回のときでほぼ同じ数値を示したのは、これは測定前のガスが 少ないときのみ影響がでるのであって、ある程度の量を流してからの実験の場合、チェンバー内のガ スの成分は安定するためであると思われる。  図4.6のガス流量依存性のグラフから、微分係数を算出し時間変化を見たものが以下の図4.5である。 図4.5 微分係数での時間変化2  ガスの置換回数が1回、2回など少ないとき、安定する約250分後までの増幅率の上昇は大きいが、 安定後は回数によって大きな変化は見られない。 0 100 200 300 400 500 600 700 -10 0 10 20 30 40 50 1 回 2 回 6 回 10 回

時間

[min]

G

ai

n

(36)

6章 まとめと課題      

6章 まとめと課題

 基本性能の測定では、GEMの性能を確認し、電圧の決定をすることができた。この実験によって、 以降の実験での印加電圧を決定し、 ・GEM の上下にかける電位差

ΔV

GEM ………425V ・Thick-GEM の上下にかける電位差

ΔV

T −GEM ……1050V ・Drift 領域の電場の強さ

E

Drift ………0.146kV/mm ・Trnsfer 領域の電場の強さ

E

Transfer ………0.18kV/mm ・Induction 領域の電場の強さ

E

Induction ………0.27kV/mm とした。  温度と増幅率の実験では、増幅率が温度に依存し、温度が高いほど高い増幅率が得られることが分 かった。ばらつきはあるが、温度係数は

(4.0 ± 0.3)×10

2

/

k

程度であると考えられる。  また、温度が高いほど、安定するまでの時間が短いことが分かった。しかしこれに関しては原因が わからないため、影響を与える要因を明らかにする必要がある。  ガス流量依存の実験では、測定前にチェンバー内に流すガスの流量が少ないと、最初の増幅率も小 さくなるということが分かった。しかし、この流量の変化によって、安定後の増幅率の値や安定まで の時間は変わらないので、測定前にガスを流す時間は、チェンバーの体積に対して最小限の量で良い ことが分かった。  この原因を調べるには、チェンバー内のガスの成分や、GEMでの電荷の溜まり具合を調べる実験を 行う必要がある。特に、実験を始める時点で、チェンバー内には前回の実験のガスが残っているはず なので、その点を考慮し条件をより統一にする工夫をしなければならない。  本研究ではGEMの時間依存について、変化を与える要因について実験を行ったが、どのような条件 でも、安定までに少なくとも100分程度の時間は必要だと考えられる。この要因は何なのか、より短く するためにはどうしたら良いのか、明らかにする必要がある。  また、本研究で用いたGEM測定器は、チェンバーの蓋をネジやセロテープで留めていたが、ガス漏 れを起こす恐れがあるため、確実に密封し、より簡単に開閉できる構造を考えるべきである。

(37)

参考文献       

参考文献

黒石将弘 「大孔GEMの制作と動作確認」 信州大学 2008 若林 潤 「TGEM の作成と基本測定」 信州大学 2009 野中淳平 「Thick-GEM の基礎特性の測定と シミュレーションによる性能評価」 信州大学 2010 藤原拓也「Thick-GEMの硬X線画像検出器への応用に向けての研究」 信州大学 2011

[1] F.Sauli “GEM: A new concept for electron amplification in gas detectors” Nucl. Instr. and Meth. A 386 (1997) 531-534

[2] Glenn F.Knoll 「放射線計測ハンドブック」 日刊工業新聞社 2001

[3] 小野健一 「ピクセル読み出し型¹-PIC を用いたX 線変更検出器の開発」 京都大学 修士学位論文

(2006)

[4] 岡村淳一 「SLHCに向けた高頻度粒子線検出器MicroMEGASの試作」 神戸大学 2008 [5] ILC Project “http://www.linear-collider.org/”

(38)

謝辞

 本研究を進めるにあたり、ご指導いただきました指導教員の竹下徹教授に深く感謝いたします。熱 心なご指導本当にありがとうございました。  また、GEMについてたくさんのことを教えていただいた長谷川庸司准教授に感謝いたします。実験 がうまくいかなかったときなどの助言は大変助かりました。ありがとうございました。  報告会などでお世話になった研究員の小寺克茂氏にも深く感謝いたします。丁寧なご指導ありがと うございました。  また、物理科やサークルの仲間、家族みんなにも支えられ、楽しい4年間を送ることができました。 深く感謝いたします。ありがとうございました。 2013年 3月 南山仁美

図 3.6 パッドからの信号と Gate 信号
図 3.8  ΔV GEM の依存性グラフ
図 3.10   E Drift の依存性グラフ
図 3.11   E Transfer の依存性グラフ

参照

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