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5 章 考察

 この章では各実験の考察を述べる。

5.1 基本性能の測定の考察

 それぞれの領域で、電場の強さに対する増幅率の依存性を確認できた。

 Drift 領域の電場を強くしていくと、増幅率が低下し放電が起こってしまうようになる。これは、電 極表面に入る電気力線が増えていくと、それに沿って電子が電極に移動し吸収され、増幅に使われな くなるためであると考えられる。

 Induction 領域の依存性の実験では、増幅率の上昇が他の領域よりも急激であった。電場を大きくす ると、増幅された電子が読み出しパッドにいく数も増えていき、増幅率は上がる。さらに電場を大き くすると、チェンバー全体に増幅された電子が行き渡り、Indction 領域での増幅が盛んに行われ、増 幅率が急激に上昇していったものと考えられる。

 

5.2 温度、ガス流量依存性の測定の考察  

 まずは温度依存性について考察する。4.1節での温度依存の測定では、増幅率が温度に依存し、高い 温度であるほど高い増幅率が得られることがわかった。チェンバー内ではガス増幅が行われており、

電界によって加速された電子がガス分子と衝突してガス分子を電離させ、電子が雪崩的に増えていく

(2.3節参照)。温度が高い場合、電子の加速やガス分子の動きが熱によって活発になって、よりガス 増幅が起こるため、増幅率が高くなったと考えられる。

 

 温度係数について考える。図4.1 の温度変化を伴う場合の増幅率(1)について、横軸を温度、縦軸 を増幅率として、温度係数を算出したものが以下である(図5.1)。

5章 考察      

図5.1 温度と増幅率

 図5.1を見ると温度による依存関係が見られ、温度1℃あたり傾きである約346だけ、増幅率が増加 するものと考えられる。また、この値をもとに、図4.1を温度補正したものが以下の図5.2である。

0 100 200 300 400 500 600

0.0E+00 1.0E+03 2.0E+03 3.0E+03 4.0E+03 5.0E+03 6.0E+03 7.0E+03 8.0E+03 9.0E+03

時間[分後]

Gain

18 19 20 21 22 23 24

0.0E+00 1.0E+03 2.0E+03 3.0E+03 4.0E+03 5.0E+03 6.0E+03 7.0E+03

f(x) = 346.01x - 1656.01

温度[ ]℃

Gain

5章 考察      

 温度補正後のグラフは、安定までに250分ほどかかっている。これはGEMの時間依存性で、測定器 が安定するまでに必要な時間であると考えられる。4.2.1の温度変化を伴う実験で、同じように温度係 数を算出したが、実験によりばらつきが見られた。

 4.2.2の温度一定の場合での実験でも温度係数を算出してみる。20℃と30℃のときの安定後の値(そ れぞれ約6000、10000)を考え、また安定後も

±

200程度の増減が見られるのを考慮したとき、温 度係数は

(1000 ± 200−6000 ± 200 )/10=(4.0 ± 0.3) × 10

2

/ k

(5.1)

程度であることが分かる。温度変化を伴う場合の実験では、温度が変化してから増幅率に影響が出る までの時間などを考慮し、また、測定器の安定後のみの値を用いるべきなので、より正確な温度係数 の算出には、式(5.1)のように温度一定の実験のものを考えた方が良いと思われる。

 温度依存について、増幅率の時間変化を考察する。温度一定での増幅率の実験では、温度によって 安定までの時間が異なるという結果が得られた。図5.3は、図4.5 の温度一定の増幅率のグラフから、

微分係数を算出しその時間変化を見たものである。

図5.3 微分係数での時間変化

 このグラフを見ても、30℃のときに増幅率が100分ほどで急激に上昇することや、逆に20℃では時 間によって大きな変化をしないことが分かる。

0 100 200 300 400 500 600

-10 0 10 20 30 40 50 60

20℃

25 ℃ 30℃

時間[min]

5章 考察      

 次に、ガス流量依存性について考察する。4.3節の実験で、電圧印加前のガスの量を変化させて増幅 率の測定を行った結果、ガスの量が少ない場合、安定までの増幅率が低いことが分かった。これは チェンバー内のガスの圧力や、電荷の溜まり具合が関係していると予想されるが、具体的なことはわ からない。ガスの置換回数が6回と10回のときでほぼ同じ数値を示したのは、これは測定前のガスが 少ないときのみ影響がでるのであって、ある程度の量を流してからの実験の場合、チェンバー内のガ スの成分は安定するためであると思われる。

 図4.6のガス流量依存性のグラフから、微分係数を算出し時間変化を見たものが以下の図4.5である。

図4.5 微分係数での時間変化2

 ガスの置換回数が1回、2回など少ないとき、安定する約250分後までの増幅率の上昇は大きいが、

安定後は回数によって大きな変化は見られない。

0 100 200 300 400 500 600 700 -10

0 10 20 30 40 50

1

2

6

10

時間

[min]

G ai n

の時間変化

6章 まとめと課題      

6章 まとめと課題

 基本性能の測定では、GEMの性能を確認し、電圧の決定をすることができた。この実験によって、

以降の実験での印加電圧を決定し、

・GEM の上下にかける電位差

ΔV

GEM ………425V

・Thick-GEM の上下にかける電位差

ΔV

T−GEM ……1050V

・Drift 領域の電場の強さ

E

Drift ………0.146kV/mm

・Trnsfer 領域の電場の強さ

E

Transfer ………0.18kV/mm

・Induction 領域の電場の強さ

E

Induction ………0.27kV/mm とした。

 温度と増幅率の実験では、増幅率が温度に依存し、温度が高いほど高い増幅率が得られることが分 かった。ばらつきはあるが、温度係数は

(4.0 ± 0.3)× 10

2

/ k

程度であると考えられる。

 また、温度が高いほど、安定するまでの時間が短いことが分かった。しかしこれに関しては原因が わからないため、影響を与える要因を明らかにする必要がある。

 ガス流量依存の実験では、測定前にチェンバー内に流すガスの流量が少ないと、最初の増幅率も小 さくなるということが分かった。しかし、この流量の変化によって、安定後の増幅率の値や安定まで の時間は変わらないので、測定前にガスを流す時間は、チェンバーの体積に対して最小限の量で良い ことが分かった。

 この原因を調べるには、チェンバー内のガスの成分や、GEMでの電荷の溜まり具合を調べる実験を 行う必要がある。特に、実験を始める時点で、チェンバー内には前回の実験のガスが残っているはず なので、その点を考慮し条件をより統一にする工夫をしなければならない。

 本研究ではGEMの時間依存について、変化を与える要因について実験を行ったが、どのような条件 でも、安定までに少なくとも100分程度の時間は必要だと考えられる。この要因は何なのか、より短く するためにはどうしたら良いのか、明らかにする必要がある。

 また、本研究で用いたGEM測定器は、チェンバーの蓋をネジやセロテープで留めていたが、ガス漏 れを起こす恐れがあるため、確実に密封し、より簡単に開閉できる構造を考えるべきである。

参考文献       

参考文献

黒石将弘 「大孔GEMの制作と動作確認」 信州大学 2008 若林 潤 「TGEM の作成と基本測定」 信州大学 2009

野中淳平 「Thick-GEM の基礎特性の測定と シミュレーションによる性能評価」 信州大学 2010 藤原拓也「Thick-GEMの硬X線画像検出器への応用に向けての研究」 信州大学 2011

[1] F.Sauli “GEM: A new concept for electron amplification in gas detectors” Nucl. Instr. and Meth. A 386 (1997) 531-534

[2] Glenn F.Knoll 「放射線計測ハンドブック」 日刊工業新聞社 2001

[3] 小野健一 「ピクセル読み出し型

¹

-PIC を用いたX 線変更検出器の開発」 京都大学 修士学位論文 (2006)

[4] 岡村淳一 「SLHCに向けた高頻度粒子線検出器MicroMEGASの試作」 神戸大学 2008 [5] ILC Project “http://www.linear-collider.org/”

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