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淡 水 産 二 枚 貝 の 生 理 化 学 的 研 究 一IV
セ タ シ ジ ミ外 套 膜 に お け る ア ル カ リ性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ
お よ び 多 糖 類 の 分 布 に つ い て
東
怜
Physiological Chemistry of the Fresh・Water Bivalves-IV
The工ocalization of Alkaline Phosphatase and Polysaccharides in the Ma皿tie E己ge of Corbicula sandai
Satoru Higashi
The 1㏄alization of alkaline phosphatase and polysaccharides in the mantle ' edge of Corbiご 〃a sanda`has been studied by the histochemical method.
Phosphatase was distributed in the epithelium of the shell fold of the mantle edge, but no activity of this enzyme was found in the inner fold and the middle fold(Fig. B, Fig. C).
Polysaccharides were detected in the epithelium of the inner and the shell surface a皿d in the connective tissue of the mantle(Fig. D).
貝 類 の 外 套 膜 は,貝 殻 の 内 面 に 沿 っ て 体 の 全 体 を お お っ て い る 組 織 で,貝 殻 お よ び 真 珠 形 成 の 上 か ら最 も 重 要 な 部 分 と 考 え ら れ る た あ,各 方 面 か ら研 究 さ れ て い る が,海 産 の 貝 類 に く ら べ る と,淡 水 産 の 貝 類 に つ い て は ,未 だ 不 明の 点 が 多 い1)・2)・3)・4)。 貝 類 め 貝 殻 や 真 珠 は,塩 基 性 蛋 白 と 多 糖 類 か ら 出 来 て い る が5),外 套 膜 粘 液 も 複 合 蛋 白 が 主 成 分 で あ って,コ ン ドロ イ チ ン硫 酸 が 分 離 さ れ て い る4)。 し た が っ て,外 套 膜 の 表 皮 細 胞 や 真 珠 袋 の 表 皮 細 胞 に は,こ れ ら の 物 質 を 分 泌 す る 能 力 が あ る と 解 さ れ る。 蛋 白 合 成 に 重 要 な 役 割 を 果 し て い る フ オ ス フ .ア 歩 一 ゼ に つ い て は,Bevelanderが ドブ ガ イ Anodonta grandisに つ い て2),小 島 ・生 長 は イ ,ケ チ ヨ ウ ガ イ に つ い て3),そ の 外 套 膜 で 研 究 し た が,彼 ら の 観 察 は 組 織 学 的 に 矛 盾 が あ り,再 検 討 の 必 要 が あ る 。 こ の 研 究 は,,1957年 に 著 者 と 林 正 博(現 在 啓
林 館 勤 務)が 行 った も の で あ る。 研 究 に 当 って,
林 一 正 教 授 よ り御 教 示 を頂 いた 。 深 く感 謝 す る。
材 料 お よ び 実 験 方 法 1957年4月 よ り8月 に か け て,瀬 田 川 で 採 集 した 殻 長5mmか ら15mm迄 の セ タ シ ジ ミ を,現 場 で 直 ち に 開 毀 して,そ の 外 套 膜 をIcm 角 に 切 り,80%ア ル コ ー ル で 固 定 し て,常 法 に よ り パ ラ フ ィ ン 切 片 と し た 。 ア ル カ リ性 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ(Alk-P-ase と 略 す)の 検 出 に はGomori法6),多 糖 類 の 検 出 に はMcManus・ Lillie・の 過 ヨ ー ド酸 一Schiff反 応7)を 利 用 し た 。実 験 結 果
1,外
套 膜 の 組 織
貝 類 の外 套 膜 は 構 造 上,3部
に大 別 され る8)。
す なわ ち,(1階 色 して い る遊 離 縁 で あ る外 套 膜
縁 ② そ の 内方 に続 く縁 辺 の外 套 縁膜 お よ び ㈲
その 他 の 背 方 に続 く外 套 腟 部 で あ る。 外 套 膜 縁
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滋 大 紀 要
第 12 号 1962は さ ら に,殻 側IN shell fold,中 央M middle
fold,お よ び 内 側 摺inner fold・ の3つ の 摺 に
分 か れ て い る 。 そ の 外 面 は 表 皮 細 胞 で お う わ れ て い て,そ の 中 は 筋 繊 維 と結 締 組 織 な ど に よ っ て 満 さ れ て い る 。 内 側 の 表 皮 細 胞 に は 繊 毛 が 密 生 し て い る 。 中 央 摺,殻 側 摺 お よ び 外 套 膜 の 貝 殻 に 面 し た 側 の 表 皮 細 胞 に は,粘 液 細 胞 が 多 数 分 布 し て い る が,内 側 摺 に は 存 在 しな い 。 切 片 に して み る と,こ の 部 分 に は 相 当 量 の 分 泌 液 が み と め ら れ る が,こ れ が コ ン キ オ リン の 先 駆 を な す も の と 考 え ら れ る(Fig. A参 照)。 2,ア ル カ リ 性 フ ォス フ ァ タ ー ゼ の 分 布 Alk-P-aseは,外 套 膜 縁 の 殻 側 摺 の 表 皮 細 胞 お よ び 殻 側 面 の 表 皮 に 認 め ら れ る が,内 摺 お よ び 中 沼 に は 存 在 し な い 。 ま た 内 側 表 皮 や 結 締 組 織 に も見 ら れ な い(Fig. B, Fig. C参 照)。 3,多 糖 類 の 分 布 過 ヨ ー ド酸 一Schiff反 応 は,外 套 膜 の 先 端 の 3つ の 摺 に 平 均 し て 検 出 さ れ る。 ま た 外 套 膜 の 殻 側 表 皮,内 側 表 皮 の 繊 毛 お よ び 結 締 組 織 に 著 し い(Fig. D参 照)。 こ れ ら は 唾 液 消 化 試 験 に よ って 変 化 し な い 。 考 察 Bevelanderに よ る と,ド ブ ガ イ の 外 套 に お け るAlk-P-aseは,外 套 膜 内 側 面 に 分 布 し て い る と 云 う2)。 ま た 小 島 ・生 長 も イ ケ チ ョ ウ ガ イ の そ れ は,外 套 膜 縁 の3つ の 摺 の 中 の 内 側 摺 と そ の 背 方 に 続 く 内 側 表 皮 細 胞 に 分 布 して い る と 云 っ て い る3)。 し か し,こ れ ら は 殻 側 摺 お よ び 殻 側 面 の 誤 ま りで あ る こ と が 明 に さ れ た9)。 海 産 の 貝 類 で あ る カ キ お よ び ア サ リに 於 て も,外 套 膜 の 殻 側 と 環 境 水 に 接 触 す る 摺 の 表 皮 細 胞 に Alk・P-aseが 存 在 し て い る10)。 こ の よ う に,淡 ・水 ・海 水 を と わ ず,貝 類 のAlk-P・aseは,殻 側 摺 と そ の 表 皮 細 胞 に 分 布 して い る こ と は,こ の 酵 素 が 蛋 白 合 成 に お い て 大 き な 役 割 を 果 し て い る た め か も し れ な い11)。 ま た,外 套 膜 に は 過 ヨー ド酸 一Schiffの 多 糖 類 反 応 が 強 く あ ら わ れ る 。 し た が っ て,外 套 膜 』に は 多 量 の 多 糖 類 が 含 ま れ て い る こ と が 推 定 出 来 る 。 多 糖 類 反 応 陽 性 物 質 と し て は 次 の も の が .考え ら れ る 。 1 ワ 一 〇 り 4 一CHOI{一CHOH一 の 反 応 基 を も つ 高 分 子 炭 水 化 物 一CHOH-CHNH2一 の 基 の あ る 蛋 白 グ リ コ ー ゲ ン 糖 脂 質,粘 液 多 糖 類,粘 液 蛋 白,糖 蛋 白 こ の 中,グ リ コ ー ゲ ン は,唾 液 消 化 試 験 で 消 失 す る の で 確 認 出 来 る が,外 套 膜 に こ の 試 験 を して も 変 化 し な い の で,グ リ コ ー ゲ ン は 少 な い 。 粘 液 蛋 白 や 粘 液 多 糖 類 が 大 部 分 で あ ら う 。 多 糖 類 は,硫 酸 基 と結 合 し て い る 間 は 代 謝 に 与 ら な い が,sulfataseの 分 解 に よ っ て 硫 酸 基 を 放 つ. と 利 用 さ れ る よ う に な る12)。 従 っ て,外 套 膜 に お い て は,複 合 蛋 白 と の 結 合 あ る い は 誘 導 に よ って 分 泌 さ れ たCaを 含 む 燐 酸 塩,硫 酸 塩 エ ス テ ル な ど が,phosphataseやsulfataseそ の 他 の 酵 素 に よ っ て 分 解 さ れ,放 出 さ れ たCaが carbonic anhydraseの 作 用 を 通 し て,貝 体 代 謝 に よ るCO2と 結 合 し,最 後 にCaCO3と して 有 機 皮 膜 に 沈 着 す る も の と考 え ら れ る 。
要 約
セ タ シ ジ ミの 外 套 膜 縁 の アル カ リ性 フ ォス フ
ァ ター ゼ と多 糖 類 の 分 布 を 組 織 化 学 的 に し らべ
た。 そ の結 果,次
の こ とが 判 明 した。
1. セ タ シジ ミの外 套 膜 縁 の ア ル カ リ性 フ ォ
ヌ フ ァ ター ゼ は,海 産 の貝 類 と同 じよ うに,外
套 膜 縁 の 殻 側 摺 の 表 皮 細 胞 お よ び殻 側 表 皮 にみ
とあ られ るが,内 側 摺 お よ び 中 央 摺 に は み られ
な い 。 内側 表 皮,結 締 組 織 や 筋 肉 には 存 在 しな
い。
2. 多 糖 類 反応 は外 套 膜 の 内側 表 皮 の 繊 毛,
殻 側 表 皮 お よ び結 締 組 織 にみ とあ られ る。 唾 液
消 化 試 験 の結 果 よ り粘 液 蛋 白 と粘 液 多 糖 類 で あ
る と考 え られ る。
) ) ) ) ) 噌ー ワ 臼 ∩δ ﹂4 5文 献
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60
滋 大 紀 要
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Fig. D: Distribution of polysaccharides in the mantle. ×560
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Abbreviations used in Figures
1:inner fo-d. 2:middle fold. 3:shell fold. 4:inner surface. 5:shell surface. 6:connective tissue. 7:muscle. 11=alkaline P-ase. /2:polysaccharides
