個人情報の取扱いに関する利用規約上の定めに関する考察
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(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-EIP-62 No.4 2013/11/21. もっとも, 「明示」の場合は文字通り「明示」であって,. 信事業分野におけるプライバシー情報に関する懇談会(第. 利用規約に定めても,一方的に事業者が示しても,さしも. 11 回会合)」(平成 16 年 5 月 26 日)の議事要旨には,「個. 違いが現れてくるわけではない.問題は,主として,個人. 人情報保護法では,利用目的の範囲を超えて個人情報を利. 情報保護法上の「同意」を利用規約上取得しようとする場. 用する場合,主務大臣は勧告又は命令を発出することがで. 合であり,次節ではこれを想定したガイドラインの内容を. きるが,改正事業法施行後も総務省において契約約款の内. 検討する.. 容を把握できるのか.」「改正事業法は約款規制を原則廃止 しているため,事前に約款の内容を把握することは困難.. 2.2 ガイドライン等での定め 総務省が公表している「「電気通信事業における個人情報 保護に関するガイドライン」(平成 16 年総務省告示第 695. 意見申出や苦情を受けて報告を求め,利用者利益が阻害さ れている場合は業務改善命令により是正する.」[4]とのや り取りが記載されている.. 号,最終改正平成 25 年総務省告示第 340 号)の解説」では,. つまり,少なくとも総務省は,約款規制の存在しない約. 第三者提供の同意(個人情報保護法 23 条 1 項柱書)の解説. 款(これは,状況としてはインターネット上のサービスに. の中で,約款による同意取得について詳細に規定している. おける利用規約と同様である)において,個人情報保護法. (傍線筆者,以下同様).曰く,. 上の同意を得ることは可能であり,しかも,その有効無効. 「『本人の同意』については,個別の同意がある場合だけで. は,当該約款の私法上の有効無効に連動する,という見解. なく,電気通信サービスの提供に関する契約約款において,. を採用しているといえる.. 個人情報の第三者提供に関する規定が定められており,当 該契約約款に基づき電気通信サービス提供契約を締結して. 2.3 個人情報の取扱いに関する利用規約上の定めについ. いる場合,当該規定が私法上有効であるときも, 『本人の同. ての実態. 意』がある場合と解される.. 個人情報の取扱いについて,利用規約上定めるという方. この理は,契約約款が変更される場合も変わりはないの. 法については,これを自覚的に行う事業者も存在する.例. で,契約約款の変更により個人情報の第三者提供に関する. えば,ヤフー株式会社は,内閣府消費者委員会「第 4 回 個. 規定が設けられた場合であっても,当該変更が私法上有効. 人情報保護専門調査会」 (平成 23 年 1 月 11 日)のヒアリン. であり変更前に契約締結を行った当事者にも変更後の規定. グにおいて, 「プライバシーポリシーですけれども,個人情. が効力を有すると判断される場合には, 『本人の同意』があ. 報保護指針よりも,イコールの意味ではありますけれども,. る場合と解される.. 私どもとしては,個人情報保護指針として公表するという. なお,同意は有効なものでなければならないので,民法. 形ではなくて,これを利用規約の中に入れ込んでしまいま. (明示 29 年法律第 89 号)第 90 条の公序良俗に反する場合. す.つまり,約款の一部に,私どもはプライバシーポリシ. や同法第 95 条の要素の錯誤がある場合,消費者契約法(平. ーをしてあります.ご存知だと思いますけれども,アメリ. 成 12 年法律第 61 号)第 10 条の消費者の利益を一方的に害. カでプライバシーポリシー,FTC が推奨して入れておりま. するものとされる場合など同意が私法上無効とされる場合. すけれども,あのアメリカの場合のプライバシーポリシー. は,有効な同意があるとは言えないので,同意がある場合. は,契約ではないけれども,プロビスになっておりまして,. とは言えないことは当然である.. そのプロビス違反は FTC の方が,いろいろな行政上の措置. また,無制限に第三者提供を認める規定等契約約款の規. を作動できるトリガーになっています.そういう意味でい. 定が,利用者の利益を阻害していると認められるときは,. うと,単なる表示以上の意味を持っていて,日本的に言う. 電気通信事業法上の業務改善命令の対象となりうる.」. と,契約的な性格に近いのではないうかというところもあ. (ガイドライン第 15 条関係,24 頁.). って,私どもとしては,プライバシーポリシーに関しては,. ここでは,「私法上」の有効無効が同意の有効無効と直. そこまで踏み込んでみようということで,こういう位置づ. 結するという説が採用されている.しかしながら,個人情. けをしております.」[5]と回答しており,個人情報保護法. 報保護法における個人情報の目的外利用や個人データの第. 上の明示義務,公表義務等を利用規約に定めることによっ. 三者提供についての同意は,あくまで公法上のものであっ. て,あえて債務不履行のリスクを取るということを「踏み. て,私法上の有効無効が直ちに公法上の有効無効に連動す. 込んで」定めている.他方,利用規約上,無自覚に, 「個人. るというのは,必ずしも自明なことではない(この点は,. 情報の取扱いについてはプライバシーポリシーに従う.」な. 後述する).. どと記載することによって,プライバシーポリシーに記載. しかも,電気通信事業ガイドラインの想定している約款 は,許認可等の約款規制が存在する約款ではない.この点, 上記ガイドラインの該当箇所が議論された総務省「電気通. された内容が利用規約に取り込まれている場合も散見され る. これらの定め方は,2.1 で紹介した金融庁ガイドライン にあるような,明示義務や公表義務につき利用規約への記. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 2.
(3) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-EIP-62 No.4 2013/11/21. 載をもって果たした(その結果,契約法上の拘束力や債務. 議論が存在する.もちろん,前者は民法のうち債権法を改. 不履行に基づく損害賠償請求が観念しやすくなった)とい. 正することを目的とした議論であり,後者は消費者契約法. うものであって,本人の意思に反したり,本人に不利益に. を改正することを目的とした議論であるので,個人情報の. なったりするということは通常ない.. 取扱いについての規定を念頭に置いて議論が進められてい. 一方,利用規約に本人の同意や共同利用を記載すること によって,第三者提供(個人情報保護法 23 条)を潜脱する という手法が確認されている. 鈴木正朝教授は,「共同利用の実態がなく,またその範. るわけではなく,筆者の知る限り,議論の中で個人情報の 取扱いについて検討されているとも見られない. しかしながら,民法(債権法)・消費者契約法の規律に 従うとしても,これらを参考にして,更に個人情報の取扱. 囲の外延が本人から見て明らかではない状態で,共同利用. いに関する民事的な規律を設けることを企図するにしても,. 者の範囲に記載される事業者名を自由に増減し個人データ. 現時点での議論状況を把握しておくことは重要である.. を提供できるよう約款で定める濫用的手法」として,ポイ ントカード加盟者を事業者が自由に増減させたいがために,. 3.1 債権法改正における議論. 利用規約上に個人情報の取扱い(この場合は「共同利用」. 債権法改正の議論の現状を表している文書として,法務. との定め方)を記載する手法を批判し, 「…共同利用の実態. 省法制審議会「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」. がないにも関わらず,単に約款及びホームページへの法定. (平成 25 年 2 月 26 日決定)及び,法務省民事局参事官室. 事項の掲載をもって,共同利用の外形を粉飾しているにす. 「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」. ぎず,それは本人同意とオプトアウト手続を回避する潜脱. (平成 25 年 4 月)が存在する.民法(債権法)改正の議論. 的手段を講じていることにほかならない.」としている[6].. 項目は膨大であるが(大項目で「第 46」まで存在する),. これは,2.2 で紹介した電気通信事業ガイドラインの想定. 約款に関する議論がなされているのは「第 30」である.. する範囲を超えた利用法,はっきりいえば違法な利用規約 での定めである.筆者も,同様の事案に対して, 「規約での. 以下,内容を確認した上で,個人情報の取扱いを規定し た利用規約に当てはめた場合の問題点を概観する.. 同意も個人情報保護法や刑法上まったく許されないわけで はないが,契約としての有効性が問題になる.…行政法規. 民法(債権法)の改正に関する中間試案(抜粋). (個人情報保護法)違反の内容を含んでおり,規約に同意. 第 30 約款. の文言があるからといって,直ちに問題ないということに. 1 約款の定義. はならない.」とコメントした([7]65 頁).. 約款とは,多数の相手方との契約の締結を予定してあら. このような利用規約における個人情報の取扱いに関す. かじめ準備される契約条項の総体であって,それらの契約. る定めに問題があることは直感的に理解されるが,どのよ. の内容を画一的に定めることを目的として使用するものを. うに問題なのか,については幾つかの段階を経て考察され. いうものとする.. なければならない.次章では,そもそも,利用規約におけ. (注)約款に関する規律を設けないという考え方がある.. る定めが「私法上」 (電気通信事業ガイドラインにおける総 務省見解では決定的に重要である)どのように扱われるか についての,現在の議論をみることとする.. 2 約款の組入要件の内容 契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し, かつ,その約款を準備した者(以下「約款使用者」という.). 3. 個人情報の取扱いについて利用規約で扱う ことに関連する議論. によって,契約締結時までに,相手方が合理的な行動を取 れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている 場合には,約款は,その契約の内容となるものとする.. 利用規約又は約款の私法的な効力については,学説・判 例上は議論されてきたものの,いまだ法令では定められて いない.実務的には,経済産業省が公表している「電子商. (注)約款使用者が相手方に対して,契約締結時までに約款を明 示的に提示することを原則的な要件として定めた上で,開示が困 難な場合に例外を設けるとする考え方がある.. 取引及び情報財取引等に関する準則」[8]の中で電子商取引 の実務を踏まえてある程度まとまった整理がなされており (「I-2-1 ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有 効性」)参考になるが,あくまで参考になる資料というだけ であって,規範ではない. 実際に規範化することを目されてなされている議論とし て,法務省法制審議会民法(債権法)部会における債権法 改正の議論と,消費者委員会における消費者契約法改正の. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 3 不意打ち条項 約款に含まれている契約条項であって,他の契約条項の 内容,約款使用者の説明,相手方の知識及び経験その他の 当該契約に関する一切の事情に照らし,相手方が約款に含 まれていることを合理的に予測することができないもの は,上記 2 によっては契約の内容とはならないものとする.. 3.
(4) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-EIP-62 No.4 2013/11/21. たとされることは稀であるように思われる. 4 約款の変更 約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうか. 不意打ち条項(3)には問題がある.「相手方が約款に含 まれていることを合理的に予測することができない」とい. について,引き続き検討する.. う点については,直接的に問題となる.つまり,約款,利. (1). 約款が前記2によって契約内容となっている場合に. 用規約において,本人が予測もしなかったような第三者へ. おいて,次のいずれにも該当するときは,約款使用者. の提供や共同利用を定めたとしても,それは「契約の内容. は,当該約款を変更することにより,相手方の同意を. とならない」.私法上,その部分は契約不成立として扱われ. 得ることなく契約内容の変更をすることができるもの. るということになる.法務省民事局参事官室は, 「ある商品. とする.. についての売買契約の約款について,商品の購入後,継続. ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性. 的にその商品の付属品の購入をしたり,メンテナンスなど. があること.. のサービスを受けたりしなければならないという条項が含. イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相. まれていた場合には,交渉の経緯や他の契約書面などから. 手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著し. 予測できないようなものであれば,価格が適正であっても. く困難であること.. 不意打ち条項には当たり得る」 ([9]372 頁)としており,と. ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合. もすると一部で見られる利用規約に書いておきさえすれば. 理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであ. 良いという慣行は一蹴されている.. ること.. 約款の変更(4)については,利用規約にあってはしば. エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである. しば行われる.場合によっては,変更期日,変更履歴すら. 場合にあっては,その不利益の程度に応じて適切な措置が. 残さずに変更されているように見受けられる.また,事業. 講じられていること.. 者による一方的変更条項も一般的にみられ,事業者として. (2). 上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を. はこれに基づいて利用規約を変更しているものと考えられ. 使用した契約の相手方に,約款を変更する旨及び変更. る.(1)ア・イについては認められることが多いものと思わ. 後の約款の内容を合理的な方法により周知することに. れるが,ウ・エの条件を満たすかどうかは,争われること. より,効力を生ずるものとする.. もあろう.なお,エにおける「適切な措置」は,個人情報 の取扱いにおいては,単なる金銭的な解決(場合によって. 5 不当条項規制 前記 2 によって契約の内容となった契約条項は,当該条. はポイント付与等)で満たされると単純に解するのは,相 当でないように思われる.. 項が存在しない場合に比し,約款使用者の相手方の権利を. 不当条項規制(5)は消費者契約法上の一方的不利益条. 制限し,又は相手方の義務を加重するものであって,その. 項(消費者契約法 10 条)に類似する.不意打ち条項に該当. 制限又は加重の内容,契約内容の全体,契約締結時の状況. しないような場合であっても,サービス内容に比して過度. その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与え. な個人情報を提供させられるような場合には,不当条項と. る場合には,無効とする.. して無効になる場合もあると考えられる.. (注)このような規定を設けないという考え方がある.. 3.2 消費者契約法改正における議論 約款の定義(1)については,利用規約も原則として含. 消費者契約法改正の議論の現状を示す文書として,消費. まれるという理解でよいであろう.法務省民事局参事官室. 者委員会「『消費者契約法に関する調査作業チーム』論点整. は, 「交渉による修正を予定しているか否か」を一つのメル. 理の報告」(平成 25 年 8 月)が公表されている.改正の議. クマールと捉えているが([9]367-368 頁),一般的にクリッ. 論とは言うものの,債権法改正についての諮問を受けて議. クによる同意が求められる利用規約においては,修正どこ. 論している法制審議会とは異なり,消費者委員会における. ろか,交渉の機会が与えられることもない.. 消費者契約法に関する調査作業は,必ずしも,正式な改正. 約款の組入要件(2)については,「契約締結時までに,. 作業の中で行われているものではない.とはいえ,将来的. 相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることがで. な消費者契約法改正が見据えられていることは疑いがなく. きる機会が確保されている場合」かどうかが問題となるが,. [b],その内容は十分に吟味されるべきである.. 利用規約がウェブサイト上に掲載されており,会員登録等 に伴って個人情報を提供する際に利用規約について同意す るような通常のフローにおいて, 「合理的な行動を取れば約 款の内容を知ることができる機会」が確保されていなかっ. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. [b] 消費者契約法に関する調査作業チームのウェブページにおいて,「消費 者委員会では 2011 年 8 月 26 日に『消費者契約法の改正に向けた検討につ いての提言』を行い,民法(債権関係)改正の議論と連携しつつ,消費者 庁に対して早急に消費者契約法の改正の検討作業に着手するよう求めまし た.今後,消費者庁での検討作業が進展することが期待されますが,消費 者委員会としても本法の消費者行政における重要性に鑑み,消費者庁にお ける検討作業の進展に合わせて委員会で本格的な調査審議を行いうる体制. 4.
(5) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 報告書の「第 3 章. Vol.2013-EIP-62 No.4 2013/11/21. 約款規制」は,沖野眞巳教授によっ. らない.従業員等のインハウス情報の場合は明らかに消費. て執筆されている.以下では,特に「論点」と「提案の趣. 者としての立場ではないし,また,個人事業主の情報を取. 旨」を抜粋し,個人情報の取扱いを規定した利用規約に当. り扱う場合は,個人情報ではあるが,消費者として取得さ. てはめた場合の問題点を概観する.. れているわけではなく,やはり事業者-消費者関係に当ては まらない.とはいえ,典型的に想定される,サービス等の. <論点> ① 約款が契約内容となるためのいわゆる組入れの要件お よび効果を定める規定を設けることを検討してはどうか. ② 「不意打ち条項」については,契約内容として効力を 有しないとする規定を設けることを検討してはどうか. ③ 約款中の条項や実質交渉を経ていない条項の解釈準則 について,消費者の合理的な期待や理解の扱いを定める規 定を設けることを検討してはどうか. ④ 契約条項の定め方について,消費者契約法 3 条 1 項を 改め,努力義務ではなく義務とする規定を設けることを検 討してはどうか.. 利用者としての本人の場合には,事業者-消費者の枠組みで 処理される(=消費者契約法の適用がある)ことが大多数 であると思われる. 提案の趣旨①ないし②については,債権法改正中間試案 の内容と実質的に同一である. 提案の趣旨③については,消費者の合理的な理解に即し た解釈や内容未確定の場合には消費者に有利に解釈すると いう解釈準則を提案するものであるが,不意打ち条項の適 用を容易にするものと考えられる.もっとも,個人情報の 提供については,商品取引と比して,本人の理解度の幅も 広いとみられ, 「合理的な理解」をどこに据えるかは,必ず しも容易ではないと思われる.. <提案の趣旨> ① 消費者契約において約款が用いられる場合,基本的に, 用いられる約款が特定されそれを認識する機会が用意さ れたうえで,それを契約内容とすることに消費者が同意し た場合に限り契約内容となる旨のいわゆる約款の組入れ の規定の新設の検討を提唱する.. 提案の趣旨④は透明性原則と呼ばれるものであるが,個 人情報の取扱いについては,どのように「明確かつ平易な ものになるよう」定めるかは大いに問題になる.欧州議会 の委員会を通過した欧州一般データ保護規則提案[10]が, 表示義務としてアイコンによる表示を定めようとしている (Article13a 及び Annex 1)点は参考になる.. ② ①の規定を設ける場合には,消費者契約において約款 が用いられる場合,約款の組入要件を充たした場合にあっ ても,消費者にとって約款中に含まれるものと合理的に期 待することができない条項については,個別の了解がない 限り,契約内容とならない,または契約条項としての効力 を有しないとする「不意打ち条項」の規定の新設,および, 約款の定義に該当しない場合にあっても,消費者にとって その存在を合理的に期待することができない条項につい ては契約内容から排除され,もしくは効力を有しないとす る規定の新設の検討を提唱する. ③ 消費者契約における約款中の条項や実質交渉を経てい ない条項の解釈準則を新設し,消費者の合理的な理解に即 して解釈されるべきことや,内容を確定できない場合には 消費者に有利な解釈がとられるべきことを定めることの 検討を提唱する. ④ 消費者契約法 3 条 1 項を改め,消費者契約中の条項に ついてその内容が消費者にとって明確かつ平易なものに なるよう定めることを努力義務ではなく義務とする規定 とすることの検討を提唱する.. 4. 個人情報の取扱いについて利用規約で定め ることに伴って生じる問題点 以上のとおり,個人情報の取扱いについて利用規約で定 める場合に,債権法や消費者契約法改正によって導入され ることが想定される規律のもとでは,同意取得や共同利用 の仕組みを潜脱しようとする条項は,本人の合理的な予測 を超えればそもそも契約の内容に含まれないことになり, 仮に含まれたとしても,本人に過大な不利益を与えるもの は,無効となる.しかし,それは既に留保したとおり,私 法上の問題であって,個人情報保護法(公法)上も有効か どうかは,また別の問題である. この点を含め,残された論点について問題提起を行う. 4.1 公法上の意思表示と私法上の意思表示 総務省は,約款の私法上の有効無効が,個人情報保護法 上の有効無効と連動するという見解であったが,果たして これは正しいといえるか.私法上の有効無効は,当然の事 ながら,民法の意思表示の規定等に従って判断される.公 法上の意思表示の有効無効も,一般論としては民法の意思. そもそも,個人情報保護法における個人情報取扱事業者-. 表示の規定が適用されるといわれてはいる[11]が, 「行政法. 本人の関係は,必ずしも,事業者-消費者の関係に当てはま. 関係においては,当該関係を規律している法律の仕組みに. が整うまでの間,事前の準備作業として,論点の整理や選択肢の検討等を 行うための調査作業チームを運営することとしました.」との設置趣旨が掲 載されている.. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 即して事案を処理していく必要が」あるとされ,個人情報 保護法における具体的な適用の可否は曖昧である.利用規. 5.
(6) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2013-EIP-62 No.4 2013/11/21. 約上の「同意」に関する契約はあくまで私法上の意思表示. 十分な保護水準の中では,本人の権利性や紛争解決の仕組. であって,意思表示は一つしかないが,これが公法上の意. みが求められる.十分性認定を目安の一つとするのであれ. 思表示として評価されると考えるのか,私法上の意思表示. ば,今後,個人情報保護法の改正が議論される際には,個. と公法上の意思表示が二つあると考えるのか,分析は容易. 人情報の取扱いを巡る私法関係について,正面から議論す. ではないが,総務省の見解には特段の論証はなく,検討さ. る必要がある.. れねばならない点だと思われる. 4.2 プライバシー権(人格権)の不行使特約,開示の求め 等の具体的権利性についてのオーバーライド. 6. 今後の課題 紙幅の関係もあり,本稿で提示した論点について,現時. これまでの議論では,同意及び共同利用についての定め. 点では問題提起に留まる.今後,債権法改正の議論,消費. が主に念頭に置かれていたが,開示等の求めに相当するよ. 者契約法改正の議論の動向を図りつつ,利用規約に関する. うな内容について利用規約で定められる場合もある.仮に,. FTC 法 5 条的な行政規制との関係,同意取得の適正化に向. 利用停止の求めにつき,これも個人情報保護法の規律通り,. けた試みとの関係などにも配慮した上で,議論を展開する. 違法行為を行っている場合に限定するような条項にした場. 必要がある.いずれも,今後の課題としたい.. 合,プライバシー権(人格権)の行使としての削除請求権 を一定程度契約で制限している可能性が生じる.これは,. 謝辞. 人格権の不行使特約の一種といえ(著作権の領域では,著. 究「情報法学・マネジメント論と侵入防止技術の融合によ. 作者人格権の不行使特約はしばしば論じられる.例えば. る超セキュア情報システム」の成果である.. [12]),無制限に認められるものではないと考えられる. 一方で,開示の求めについて,東京地裁の裁判例(東京 地判平成 19 年 6 月 27 日判時 1978 号 27 頁)では,具体的 権利性が認められていない([6]269 頁注 18).利用規約上 開示請求権を定めた場合に,それでもなお,具体的権利性 がないとの規範が適用されるのか,その点はオーバーライ ドできるのか,なお検討が必要である. 4.3 個人情報保護法上違法な定め 以上は,主として,利用規約上の定めが私法上無効な場 合に,個人情報保護法上有効か,という議論であったが, 逆に,個人情報保護法上違法な定めを利用規約上行った場 合に,私法上の効力が存するか,という問題も生じる.強 行法規違反の場合の契約は公序良俗(民法 90 条)に反して 無効であるというのが基本的なルールであるが,公序良俗 違反とまではいえない場合に,私法上でのみ効果が残存す るという状況についても,なお検討が必要である.. 5. 今後の法改正の議論にむけて これまで見てきたとおり,個人情報の取扱いに関する利 用規約上の定めについては,議論は混迷の極みにある.そ れにもかかわらず,無数のインターネット上のサービスに おける利用規約には,個人情報の取扱いに関する定めが記 載されてしまっている.この問題の根本には,要するに,. 本研究の一部は,セコム科学技術振興財団. 助成研. 参考文献 [1] 石井夏生利「プライバシー・個人情報の『財産権論』-ライフ ログをめぐる問題状況を踏まえて-」情報通信政策レビュー第 4 号. [2] 夏井高人監修『IT ビジネス法入門 デジタルネットワーク社 会の法と制度』(TAC 出版,2010 年)328 頁. [3] 夏井高人,町村泰貴,森亮二「クラウド・コンピューティング の法的課題」情報ネットワーク・ローレビュー第 10 巻 254 頁. [4] 総務省「電気通信事業分野におけるプライバシー情報に関する 懇談会(第 11 回会合)」(平成 16 年 5 月 26 日)議事要旨, http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286922/www.soumu.go.jp/main_sos iki/joho_tsusin/d_syohi/040526_1.html,(2013 年 10 月 24 日閲覧) [5] 消費者委員会「第 4 回 個人情報保護専門調査会」(平成 23 年 1 月 11 日)議事録, http://www.cao.go.jp/consumer/history/01/kabusoshiki/kojin/004/gijirok u/index.html,(2013 年 10 月 24 日閲覧) [6] 松本恒雄,齋藤雅弘,町村泰貴編『電子商取引法』 (勁草書房, 2013 年)263 頁以下(鈴木正朝執筆). [7] 「ポイントの落とし穴 あなたの個人情報大丈夫?」週刊東洋 経済 2013 年 9 月 7 日号 64 頁. [8] 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平 成 25 年 9 月), http://www.meti.go.jp/press/2013/09/20130906006/20130906006-3.pdf , (2013 年 10 月 24 日閲覧) [9] 法務省民事局参事官室「民法(債権関係)の改正に関する中間 試案の補足説明」(平成 25 年 4 月) [10] INOFFICIAL CONSOLIDATED VERSION AFTER LIBE COMMITTEE VOTE PROVIDED BY THE RAPPORTEUR, 22 October 2013,REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data (General Data Protection Regulation) [11] 塩野宏『行政法Ⅰ[第五版]』(有斐閣,2009 年)370 頁. [12] 中山信弘『著作権法』(有斐閣,2007 年)362 頁.. 個人情報の取扱いの基本は本人-個人情報取扱事業者間の 関係の規律であるはずなのに,行政機関-個人情報取扱事業 者の関係を持って規律するという,個人情報保護法の構造 にある.私法関係を持って規律されるべき点はきちんと私 法関係として,整理されるべきではないか.欧州が求める. ⓒ2013 Information Processing Society of Japan. 6.
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