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青森県で栽培した西洋系,東洋系および中間型ニンジン品種における
香気成分をはじめとする品質および生育の比較
髙橋啓太
1・前田智雄
1*・池浦博美
2・倉内 佑
3・
Wambraw Daniel Zadrak
1・小山内祥代
1・本多和茂
11弘前大学農学生命科学部 036-8561 青森県弘前市文京町 2島根大学生物資源科学部 690-8504 島根県松江市西川津町 3青森県りんごジュース株式会社 036-0516 青森県黒石市相野
Comparison of Qualities Commencing with Volatile Compounds and Growth between Western,
Oriental and Intermediate Carrot Cultivars Grown in Aomori Prefecture
Keita Takahashi
1, Tomoo Maeda
1*, Hiromi Ikeura
2, Tasuku Kurauchi
3,
Wambraw Daniel Zadrak
1, Sachiyo Osanai
1and Kazushige Honda
1 1Faculty of Agriculture and Life Science, Hirosaki University, Bunkyouchou, Hirosaki, Aomori 036-8561 2Faculty of Life and Environmental Science, Shimane University, Nishikawatsuchou, Mastue, Shimane 690-85043Aomoriken Ringo Juice Co., Ltd., Aino, Kuroishi, Aomori 036-0516
Abstract
In Japan, carrot cultivars are generally classified into western and oriental varieties. Recently, new intermediate cultivars were obtained by crossbreeding between these two types of cultivars. In the present study, the growth of these cultivars was also investigated to evaluate their suitability for cultivation in Aomori Prefecture, a cold region of Japan. We also determined the levels of sugars, as indicators of the eating quality, and carotenoids, as functional components, and volatile compounds, in west-ern carrot (cv. Oranje), oriental (cv. Shinbeni-kintoki), and intermediate (cv. Kyoukurenai) cultivars. As a result, there was no significant difference in the growth of aerial parts in the three cultivars. However, the root shape in ‘Kyoukurenai’ was inter-mediate between western and oriental cultivars. There was no significant difference in the total content of sugars among these cultivars. However, ‘Shinbeni-kintoki’ had a smaller content of fructose but larger content of sucrose. The levels of carotenoids were significantly lower in ‘Kyoukurenai’ than in the other cultivars. In terms of the carotenoid composition, 93.4% of total carotenoids was occupied by β- and α-carotene in ‘Orange’ and 80.9% by lycopene in ‘Shinbeni-kintoki’; however, the ratio of
β- and α-carotene/lycopene was almost even in ‘Kyoukurenai’. We found that the types of volatile compounds present in these
cultivars were almost the same; however, the level of each compound was different. The compounds considered strongly related to the carrot-specific flavor were found to be high in ‘Shinbeni-kintoki’ and low in ‘Kyoukurenai’. On the contrary, ‘Orange’ was found to have high levels, hence a strong flavor, of sabinene and p-cymene, which are considered as “fresh green”. Based on these results, we could confirm the levels of sugars and carotenoids, as well as cultivar growth in cold regions, and could also advance knowledge on the aroma components contained in the three selected varieties.
Key Words:carotenoids, GC-MS, HPLC, Porapak Q column, sugars
キーワード:GC-MS,HPLC,カロテノイド,ポラパック Q カラム,糖
緒 言
ニンジン(Daucus carota L.)は指定野菜であり,日本人 の食生活に欠かせない重要な野菜の一つである.ニンジ ン品種は西洋系品種と東洋系品種に大別され,これらの 特 性 は 大 き く 異 な っ て い る(熊 木, 1956; 渡辺ら, 1988; Yamaguchi・Sugiyama, 1960; 矢野ら, 1981).西洋系品種は 短根でカロテン由来の橙色を示す.また,晩抽性であるた め日本全国で栽培されている.一方,東洋系品種は長根で リコピン由来の紅色を示す.低温に敏感で抽苔しやすいた め,栽培地は温暖な西日本に限られる.2013 年にタキイ 種苗(株)が発表した‘京くれない’は東洋系と西洋系の交 配品種であり,双方の特性を併せ持つ中間型品種と分類さ れる.また,‘京くれない’は東洋系品種よりも晩抽性で 青森県のような冷涼地でも栽培できるといわれているが, 寒冷地の生育についての詳しいデータはない. ニンジンはカロテンやリコピンといったカロテノイドを 豊富に含んでいる健康機能の高い野菜であるが,その独特 2020 年 1 月 24 日 受付.2020 年 5 月 22 日 受理. 本研究の一部は園芸学会平成31 年度春季大会で発表した. * Corresponding author. E-mail: [email protected]な香りを苦手にしている人も多い.香りは味と並んで食味 に深くかかわっている.ニンジンの主な香気成分であるテ ルペン類が多いと,糖が多く含まれていても甘さを感じに くいと報告された例がある(Simon ら, 1980).従って,食 味を評価するうえで香気成分について理解することは不可 欠である.ニンジンの香気成分に関する研究は1960 年代 後半に始まった(Buttery ら, 1968).その後,抽出法や分 析機器であるガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)の 開発または性能向上とともに,研究が進んできた(Buttery ら, 1979; Güler ら, 2015; Rosenfeld ら, 2002; Varming ら, 2004; Yoo ら, 1997).ニンジンの香気成分は栽培条件や貯 蔵および流通条件によっても変化するが,最も大きな影響 を与える要素は品種であるとされる(Varming ら, 2004). 日本では西洋系品種,東洋系品種ともに発展してきたた め,ニンジン品種の遺伝的多様性が高いと言われている (Baranski ら, 2012b; Kubo ら, 2019).従って,それらに含 まれる香気成分も異なると考えられる. 香気成分分析の結果は,抽出法によって異なる場合が多 い(Gamero ら, 2013; Richter・Schellenberg, 2007).食品香 気成分分析が始まったころは主に減圧蒸留法が用いられ ており,ニンジンも同様であった (Butteryら, 1968).これ はサンプルと水を減圧下で加熱し,有機溶媒に溶かして抽 出する方法である.この方法の問題点は,加熱する工程で 香気成分が変化することである.その後,食品に漂う香気 成分を直接注入するヘッドスペース法が開発され,利用さ れるようになった(Alasalvarら, 1999).ヘッドスペース法 は香気成分が変化することはないが,濃縮が困難である. また,沸点の低い,いわゆるトップノートは回収できる が,中・高沸点のバックノートの回収には不向きである (筬島, 1989).本試験で利用するポラパックQカラム濃縮 法は,全工程を常温で行えるため,低沸点化合物を回収で きる (坂本ら, 1993).また,有機溶媒に溶かしたのち濃縮 することができるため,微量に含まれる成分の検出が可能 である.このほかにも様々な抽出法があり(Demeestere ら, 2007),分析結果に影響を及ぼしている.以上のことから, 食品の香気を明らかにするためには,複数の抽出法を用い て幅広いデータを得る必要がある. 日本におけるニンジンの香気成分分析に関しては,減圧 蒸留法が用いられたもの(石原ら,2005)やヘッドスペー ス法を応用したスターバー抽出(SBSE)法(Fukuda ら, 2013a),ヘッドスペース収着抽出(HSSE)法(Fukuda ら, 2013b)が用いられたものがある.しかし,日本で独自に 育種されてきたニンジン品種の香気成分に関する知見は 十分とはいえない.加えて,近年の国民の健康意識の向上 により,野菜の食味だけでなく機能性にも注目が集まって いる. そこで,本研究では西洋系,東洋系,中間型品種の3 種 のニンジンを用いて,ポラパックQ カラム濃縮法と GC- MS を用いた香気成分分析,高速液体クロマトグラフィー (HPLC)を用いた糖およびカロテノイド分析,寒冷地にお ける生育調査を行い,品種比較をした.
材料および方法
1.栽培品種および生育調査 供試材料として弘前大学千年圃場(青森県弘前市大字 原ヶ平山中)で栽培した西洋系品種の‘オランジェ’(タキ イ種苗(株)),東洋系品種の‘真紅金時’(丸種(株)),中 間型品種の‘京くれない’(タキイ種苗(株))を用いた. 2018 年 7 月 6 日に播種,同年 11 月 26 日に収穫した. 栽植様式はうね幅15 cm × 株間約 10 cm の 4 うねを 1 ベッ ドとし,ベッドの間隔は25 cm とした.ベッド長は約 14 m とし,各品種1 ベッドずつ栽植した.施肥量は N : P : K = 15-15-15 kg・10 a–1とした.収穫時の葉長, 葉重, 葉数, 根 長,根径,根重を調査した.平均的な生育のものを各品種 10 個体選び測定した.葉と主根の生育調査は収穫直後に 行った.生育調査後,冷凍および凍結乾燥処理を行った. これをミルで粉砕し,糖およびカロテノイド分析に用い た.香気成分分析では,消費者段階での香りの違いを解析 することを目的として,約2°C の冷蔵庫でおよそ 1 か月保 存した生鮮ニンジンを用いた. 2.糖分析 乾燥試料20 mg を 1.5 mL チューブに秤量した.95°C で 20 分間湯浴により,酵素を失活させた後,95°C の熱水 1 mL を加えた.再び 95°C で 1 時間湯浴し,糖を抽出した. これを16.2 × g で 15 分遠心分離して上清を得た.この上清 を純水で3 倍希釈し,HPLC の分析試料とした.標品は sucrose(ナカライテスク(株)),D-(–)-fructose(関東化学 (株)),D-(+)-glucose(富士フイルム和光純薬(株))を純 水に溶かして作成し,検量線を求めた. HPLC は LC-10 ((株)島津製作所),検出器は Model 300S ELSD(エ ム エ ス 機 器(株)), カ ラ ム は Shodex Asahipak NH2P-50 4E, 4.7 × 250 mm (昭和電工(株)) を用いた.溶離 液 は ア セ ト ニ ト リ ル: 純 水 = 78 : 22 (v/v) を用い,流速 1.0 mL・min–1でアイソクラティック分析を行った.カラ ム温度は35°C, 分析時間は 15 分とした.以上の分析は 1 サンプル当たり3 反復行った. 3.カロテノイド分析 乾燥試料150 mg を 10 mL 蓋つき試験管に秤量した.tert-メチルブチルエーテル(以下MTBE)と MeOH の混合液 (9 : 1) を 10 mL 加えた.ローテータを用い暗所で約 18 時 間振とう抽出した.これをシリンジフィルター(0.45 μm, STARLAB 社) に通したのち,HPLC分析試料とした.標 品はβ-Carotene, lycopene (いずれもシグマアルドリッチ ジャパン(同))をMTBE と MeOH の混合液に溶かして作 成し,検量線を求めた.なお,α-carotene は β-carotene の 検量線を用い,当量を算出した.本研究ではα-carotene と β-carotene の和をカロテンと表した. HPLC 分析条件は既報を参考にした (Pacheco ら, 2014).HPLC は LC-20AT((株)島津製作所),検出器は SPD-20AV ((株)島 津 製 作 所), カラムは Wakopak Navi C30-5, 4.7 ×
250 mm(富士フイルム和光純薬(株))を用いた.溶離液 はMTBE と MeOH を用いた.分析開始時は MTBE を 20% とし,15.00 分に 85%となるように制御し,15.05 分から 16.50 分は 90%で保持したのち,28.00 分に 20%へ戻るよ う,流速は0.8 mL・min–1でグラジェント分析を行った. 検出波長は450 nm, カラム温度は 33°C, 分析時間は 28 分 とした.以上の分析は1 サンプルについて 3 反復行った. 4.香気成分分析 香気成分の抽出およびGC-MS 分析条件は,ポラパック Q カラム濃縮法を用いてイチゴの香気成分分析を行ってい る論文を参考にした(Li ら, 2009).無作為に選択したニ ンジン3 本をそれぞれ根の上部,中部,下部に 3 分割し, さらに断面を4 分割した.それらから部位の偏りが生じな いよう計100 g 採取し,脱イオン水 130 mL とともにホモ ジナイズ(AHG160-A, アズワン(株)) した.これを 50 mL ファルコンチューブに移し,16.2 × g, 4°C で 20 分間遠心 分離した.その後ガラスろ紙(GA-100,東洋濾紙(株)) を用いて吸引ろ過を行った.得られた上清に内部標準物 質として0.1%シクロヘキサノール(シグマアルドリッチ ジャパン(同))水溶液を100 μL 加えたものを試料とした. 次に,フィルター付きガラス管にPorapak Q 50-80(日本 ウォーターズ(株))20 mL を充填し,調整のため,メタ ノール (以下 MeOH), 脱イオン水, 1% NaOH, 1% HCl, 脱 イオン水,MeOH, ジエチルエーテル,MeOH の順に各々 約50 mL ずつ通過させた後,最後に脱イオン水約 100 mL で洗浄した.その後,試料を全量カラムに通し,香気成分 を吸着させた.脱イオン水100 mL で水溶性の夾雑物質を 除去したのち,ジエチルエーテル100 mL で香気成分の抽 出を行った.抽出液に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水 した.これを,窒素ガスを用いて約150 μL まで濃縮し, GC-MS 分析に供した.抽出に用いたポラパック Q カラム は, ジエチルエーテル, MeOH, 脱イオン水を順に約 50 mL 通過させる方法で洗浄し,再利用した.繰り返し抽出を行 う際は再び調整から行った. GC は 7890GC(日本電子(株)) を用い, カラムは DB- WAX 30 m × 0.25 mm i.d. × 0.25 μm Film(アジレントテクノ ロジー(株))を使用した.注入口の温度は230°C とした. カラム温度は40°C で 5 分保持し,5°C・min–1で220°C ま で,その後30°C・min–1で245°C まで昇温し,15 分保持し た.分析時間は56.83 分とし,キャリアーガスはヘリウム を用い,流速は1.38 mL・min–1で,スプリット比は1 : 5 と した.MS は MS-Q1500(日本電子(株))を用いた.イオン 化電圧70 eV, イオン源温度 200°C, インターフェース温度 230°C とした.得られたピークの同定は GC-MS のライブ ラリサーチおよび既報の論文(Fukuda ら, 2013a; Kjedsen ら, 2003)に基づいて行った.香気成分の定量はシクロヘ キサノールの面積から相対的に算出し,生鮮ニンジン1 g 当たりの含量 (μg) を求めた.以上の分析は 1 サンプルに ついて3 反復行った. 5.調査方法 本研究の統計処理はすべてエクセル統計((有)オーエム エス出版)のTukey-Kramer の多重比較検定を用いた.
結果および考察
1.生育 収穫時における3 品種の生育状況について調査した. 葉長,葉数,葉重といった地上部の生育については,‘オ ランジェ’ で葉長 43.7 ± 5.9 cm(平均値 ± SE, 以下同じ), 葉 数5.7 ± 1.5 枚, 葉 重 18.0 ± 7.1 g, ‘真 紅 金 時’で 葉 長 42.7 ± 1.3 cm, 葉 数 5.6 ± 0.5 枚, 葉 重 16.3 ± 2.1 g お よ び ‘京くれない’ で葉長 46.0 ± 1.6 cm, 葉数 6.0 ± 0.5 枚, 葉重 25.6 ± 4.1 g で,いずれの項目においても有意差はなかっ た.抽苔については ‘オランジェ’ では見られなかったが, ‘真紅金時’には一部の個体で認められた.‘京くれない’ については抽苔個体は見られず,青森においても問題なく 栽培できることがわかった.地下部については各品種の特 徴がみられた(第1 図).根重は‘オランジェ’が 169.3 g, 根長は‘真紅金時’が24.7 cm とそれぞれ有意に大きかっ た(第2 図).根径は ‘オランジェ’ が 44.2 mm, ‘真紅金時’ が31.9 mm,‘京くれない’が 38.5 mm であった.これらの 結果から‘京くれない’の主根が東洋系品種と西洋系品種 の中間の形状をしていることが確認できた(ただし,‘真 紅金時’において一部抽苔した個体がみられたことから, これは青森県における試験結果であることに留意しなけ ればならない). 2.糖 糖含量は‘オランジェ’が472.5 mg・gDW–1,‘真紅金時’ が461.9 mg・gDW–1, ‘京くれない’ が 496.0 mg・gDW–1で あった(第3 図).3 品種間において糖含量の差はみられな かった.北海道で行われた研究では西洋系ニンジン20 品 種の糖含量を調査した結果,392.5~796.1 mg・gDW–1(平 均値594.6 mg・gDW–1)であり(古館,2004),本試験結果 よりやや多かった.糖組成に関してはスクロースが55~ 70%を占め,その残りをフルクトースとグルコースで二分 する結果となった(第4 図).東洋系品種の ‘真紅金時’ は 西洋系品種より単糖が少なく,二糖が多い傾向にあった. この傾向は先行研究の結果と一致した(矢野ら, 1981). ‘京くれない’ の糖組成は ‘オランジェ’ と似ていた. 3.カロテノイド カロテノイド含量は ‘オランジェ’ が 1.59 mg・gDW–1, ‘真紅金時’が1.49 mg・gDW–1,‘京くれない’ が 1.15 mg・ gDW–1であった(第5 図).‘京くれない’が他 2 品種と比 較して有意に少ない結果となった.先行研究によるとカ ロテノイド含量は西洋系品種で7.70 mg・100 gFW–1,東洋 系品種で13.6 mg・100 gFW–1であった(Aizawa・Inakuma, 2007).また,西洋系品種の主な系統である五寸系は第4 図 ニンジンの品種ごとに含まれる糖の組成 Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 3)により異符号間 で5%水準で有意差あり,n.s. は有意差なし 図中の縦棒は標準誤差 第5 図 ニンジンの品種毎の組成カロテノイドとその含量 カロテンはα- カロテンと β- カロテンの総量 Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 3)により異符号間 で1%水準で有意差あり 第1 図 ‘オランジェ’,‘真紅金時’,‘京くれない’の地下部 第2 図 品種毎の主根の重量,根長および根茎 Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 10)により異符号間 で5%水準で有意差あり 図中の縦棒は標準誤差 第3 図 ニンジンの品種毎の糖含量 n.s.:Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 3)により有意 差なし 図中の縦棒は標準誤差
8.77 mg・100 gFW–1,東洋系品種の主な系統である金時系 は13.2 mg・100 gFW–1で あ っ た(Baranski ら,2012a).い ずれも東洋系品種のほうがカロテノイドを多く含んでお り,本試験結果とは一致しなかった.ニンジンの乾物率は 10~12%とされている(古舘,2004).これを用いて比較 した場合, ‘真紅金時’ のカロテノイド含量は Aizawa・ Inakuma(2007)と Baranski ら(2012a)が報告した東洋系 品種の含量と大差なかった.従って‘オランジェ’は西洋 系品種のなかではカロテノイドを多く含んでいるといえ る.‘京くれない’ のカロテノイド含量も一般的な西洋系 品種より多い結果となった.カロテノイド組成に関して は,‘オランジェ’はカロテンが93.4%,‘真紅金時’はリ コピンが80.9%を占めており,この傾向は既報と一致した (渡辺ら, 1988; Yamaguchi・Sugiyama, 1960).カロテノイド 組成の特徴は根の色に表れ,‘オランジェ’は橙色,‘真紅 金時’ は紅色であった.一方, ‘京くれない’ はカロテンを 55.6%, リコピンを 44.4%ずつ含んでいた.このカロテン とリコピンをほぼ同量ずつ含むという形質は,これまでの ニンジン品種にはなかった特性である.‘京くれない’ の 根の色はどちらかというと, リコピンが示す紅色であった. 4.香気成分 ニンジン3 品種‘オランジェ’,‘真紅金時’および‘京 くれない’ において,GC-MS を用いて 21 の香気成分を 検出した(第1 表).各香気成分の香りの強さ(閾値)お よび香りの表現は,先行研究の結果(Fukuda ら, 2013a, b; Kjeldsen ら, 2003) またはデータベース (Flavor net; the good scent company)から引用した(第 2 表). 3 品種を比較すると,香気成分の種類に大きな違いはみ られなかったが,含有量は異なっていた.ニンジンの香気 成分は主にテルペン類からなっているとされ(Buttery ら, 1968),本試験の結果も同様であった.すなわち,テルペ ン類のなかでも生鮮ニンジン特有の香りに強く関係すると 報 告 さ れ て い る 香 気 成 分 はα-pinene, β-pinene, sabinene, γ-terpinene, β-bisabolene, caryophyllene, cuparene である
(Kreutzmannら, 2008b).本研究ではcupareneは検出されな かった.この中で特に “不快な香り”, “ニンジン臭” と強 く関わっているのはsabineneとβ-myrceneとされる (Fukuda ら, 2013a, b). ‘オランジェ’ は上述の香気成分は全体的に少ない傾 向にあったが,sabinene が 0.067 μg・gFW–1,γ-terpinene が 0.086 μg・gFW–1, β-bisaboleneが0.020 μg・gFW–1, caryophyllene 第1 表 生鮮ニンジンの香気成分含量における品種間差 保持時間 (分) 香気成分 ニンジン1 g 当たりの含量(μg・gFW–1) 有意性z オランジェ 真紅金時 京くれない 4.26 Decane 0.008 aby 0.022 a 0.001 b * 4.71 α-Pinene 0.040 b 0.122 a 0.036 b * 7.08 β-Pinene 0.035 b 0.101 a 0.051 b * 7.66 Sabinene 0.067 a 0.004 b 0.005 b ** 9.35 β-Myrcene 0.026 b 0.077 a 0.041 b * 10.31 D-Limonene 0.026 ab 0.031 a 0.019 b * 11.86 γ-Terpinene 0.086 a 0.016 b 0.013 b ** 12.60 p-Cymene 0.050 a 0.009 b 0.013 b ** 13.02 α-Terpinolene 0.337 ab 0.410 a 0.228 b ** 16.71 Cyclohexanolx 1.000 1.000 1.000 17.92 Acetic acid 0.002 b 0.007 a 0.002 b ** 19.94 2-Nonenal, (E)- 0.031 a 0.014 b 0.025 ab * 21.39 Caryophyllene 0.210 ab 0.265 a 0.098 b ** 23.08 Humulene 0.021 ab 0.040 a 0.009 b * 24.50 β-Bisabolene 0.020 a n.d.w b 0.016 a * 24.53 (Z)-γ-Bisabolene 0.001 0.033 n.d. n.s. 25.14 (E)-γ-Bisabolene 0.337 a 0.001 b 0.292 a ** 29.81 Caryophyllene oxide 0.032 0.032 0.020 n.s. 30.49 Methyleugenol 0.028 b 0.097 b 0.801 a ** 33.35 Eugenol 0.024 a 0.014 b 0.019 ab * 34.69 Elemicine 14.926 a 10.805 b 3.846 c * 35.16 Mrysticine 7.641 b 3.430 c 16.504 a * z Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 3)により ** は 1%水準で,* は 5%水準で有意差あり,n.s. は有 意差なし y Tukey-Kramer の多重比較検定(n = 3)により異符号間で有意差あり x Cyclohexanol は内部標準物質 w n.d. は不検出
が0.210 μg・gFW–1と多く含まれているものもあった.ま た,sabineneと同様に,閾値が低く“ニンジン葉様”ある いは“新緑”と表現されるp-cymene も 0.050 μg・gFW–1と 多く含まれていた.また,“スパイシー”と表現される elemicine を 14.926 μg・gFW–1と多く含んでいたが,沸点 が約152°C と高いため,生鮮ニンジンの食味にどの程度影 響を与えるかは不明である. ‘真紅金時’ では α-pinene が 0.122 μg・gFW–1, β-pinene が 0.101 μg・gFW–1,caryophyllene が 0.265 μg・gFW–1と多く含 まれていた.一方, sabineneが0.004 μg・gFW–1, γ-terpinene が0.016 μg・gFW–1と 少 な く,β-bisabolene は検出されな か っ た. そ の 他 に は“青 臭 い”と 表 現 さ れ るβ-myrcene が0.077 μg・gFW–1,“甘い” と表現される D-limonene と α- terpinolene がそれぞれ 0.031 μg・gFW–1, 0.410 μg・gFW–1と 多かった.含量が少なかったものはp-cymene が 0.009 μg・ gFW–1,(E)-2-nonenal は 0.014 μg・gFW–1で あ っ た. (E)-2-nonenal はキュウリの主要香気成分のひとつで,“新緑”, “獣脂臭”と表現される(Schieberle ら, 1990). ‘京 く れ な い’ の ニ ン ジ ン 特 有 の 香 気 成 分 は,β- bisabolene を除いて他 2 品種より少なかった.β-bisabolene は0.016 μg・gFW–1含まれており,“甘い”と表現されるた め,食味には良い影響を与えると考えられる.一方,官 能において好ましくないとされるsabinene と β-myrcene の 含量はそれぞれ0.005 μg・gFW–1,0.041 μg・gFW–1と少な かった.これらのことから ‘京くれない’はニンジン独特 の 香 り が 弱 い と 推 測 さ れ る. 特 徴 的 な 成 分 と し て methyleugenol が 0.801 μg・gFW–1,mrysticine が 16.504 μg・ gFW–1と多く含まれていた.しかし,これらはいずれも elemicine と同様に食味に及ぼす影響は明らかでない.以 上のことから ‘オランジェ’ と ‘真紅金時’ は様々な香気成 分が複雑に関わっており, ‘京くれない’ は全体的に香りが 弱いと推測される.このように品種系統によって含まれる 香気成分の種類ではなく,含量が異なることが明らかと なった. 本試験ではニンジンの食味に関わる要素として糖と香気 成分について調査したが,この他にアミノ酸や苦味物質 (Kleemann・Florkowski, 2003; Kreutzmann ら, 2008a), 食感 などが複雑に関わっている.そのため本試験結果のみか ら,ヒトがどのように感じるのかを評価することは難し い.しかし,今回調査した各品種系統における香気成分の 特徴は,食味の評価を裏付ける一つの要素として活用でき るだろう. 第2 表 生鮮ニンジンに含まれる香気成分の香りの強さおよび表現 香気成分 香りの強さ 香りの表現 zスコア (0~5)y閾値 (ppb) xGC-O wデータベース Decane アルカン(油っぽい) a) α-Pinene 0.75 1000 パイン,ニンジン葉様 アルカン(油っぽい) a) β-Pinene 0.25 140 ニンジン葉様,新緑の Sabinene 1.75 75 ニンジンの,新緑の β-Myrcene 4.25 13 青臭い,テルペン様 D-Limonene 1.00 甘い,シトラス,フルーティー γ-Terpinene 0.50 ハーブ,シトラス,フルーティー p-Cymene 1.25 13 ニンジン葉様,新緑の α-Terpinolene 3.25 200 甘い,シトラス,フルーティー Cyclohexanol
Acetic acid 酸っぱい a)
2-Nonenal, (E)- 3.25 キュウリ,新緑の,油っぽい a)
Caryophyllene 1.50 160 テルペン様,スパイシー,樹木様 Humulene 0.25 樹木様 β-Bisabolene 0.25 甘い (Z)-γ-Bisabolene 0.25 油っぽい,樹木様 (E)-γ-Bisabolene 0.75 石鹸様,スパイシー Caryophyllene oxide シトラス Methyleugenol スパイシー,シナモン b) Eugenol 香りなし 丁香,ハチミツ様 a) Elemicine 香りなし スパイシー,シナモン a) Mrysticine 25 スパイシー z 官能試験により 5 点満点で評価(Fukuda ら, 2013a) y 成分を水で薄め香りが感じられなくなる濃度を求めた(Kjedsen ら, 2003) x GC-O 分析を行った結果を引用(Fukuda ら, 2013b)
5.結論 青森県でニンジン3 品種を試験栽培した結果,西洋系, 東洋系および中間型品種の特性について知見を深めること ができた.地上部の生育には差がなかったが,根では‘オ ランジェ’は短根で太く,‘真紅金時’は長根で細く, ‘京 くれない’はこれら2品種の中間のような形状をしていた. また,‘真紅金時’では抽苔が確認されたが,‘京くれない’ ではみられなかったことから,寒冷地でも栽培が可能であ ると考えられる. 今回調査した各品種系統における香気成分の特徴は,食 味の評価を裏付ける一つの要素として活用できるだろう. カロテノイド組成は‘オランジェ’はカロテンが,‘真紅 金時’はリコピンが8 割以上を占めていた.一方,‘京く れない’にはリコピンとカロテンがほぼ同量ずつ含まれて いた.香気成分含量は品種間で異なっており,いわゆる “ニンジン臭”に寄与するとされる成分は‘真紅金時’に 多く,‘京くれない’に少なく, ‘オランジェ’ は“新緑”と 表現される成分が多かった. 高付加価値の農作物が求められる現在において,その機 能性成分や香りに関わる情報はより重要になると思われ る.特に,香り,つまり香気成分分析は手法によって結果 が大きく変わる可能性があるため,今後も継続的な研究が 必要だろう.
摘 要
日本で利用されているニンジンは西洋系品種と東洋系品 種に大別される.最近,新たにそれらを交配し中間型品種 がつくられた.本研究では,これら3 品種の寒冷地適性を 評価するために青森県での生育状況を調査し,食味に関わ る糖,機能性成分としてカロテノイド,そして香気成分を 分析し,比較を行った.西洋系品種は ‘オランジェ’,東 洋系品種は ‘真紅金時’,中間型品種は ‘京くれない’ を用 いた.その結果,地上部の生育は3 品種間で差はなかった. 一方,根の調査結果から ‘京くれない’ の根が西洋系品種 と東洋系品種の中間の形状であることが確認された.糖含 量は3 品種間で差はなかった.組成に関しては,‘真紅金 時’がスクロースが多く,フルクトースが少ない傾向で あった.カロテノイド含量は ‘京くれない’ が他 2 品種よ り少なかった.組成に関しては,‘オランジェ’ はカロテン が,‘真紅金時’ はリコピンが 8 割以上を占めるのに対し, ‘京くれない’ はほぼ同量ずつ含んでいた.各品種に含ま れる香気成分の種類に大きな違いはみられなかったが,含 量は異なっていた.ニンジン特有の香りと強く関係してい るとされる成分は ‘真紅金時’ に多く,‘京くれない’ に少 なかった.‘オランジェ’ には “新緑” と表現され,香りが 強いとされるsabinene と p-cymene が多く含まれていた. 以上,ニンジン3 品種の寒冷地における生育について確認 することができ,その糖およびカロテノイド,含まれる香 気成分について知見を深めることができた. 謝 辞 貴重なご意見をいただいた三栄源エフ・エフ・ アイ株式会社岩渕久克氏,村上裕介氏に厚く御礼申し上げ ます.引用文献
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