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運動する骨格筋を培養細胞系で再現する 利用統計を見る

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(1)

運動する骨格筋を培養細胞系で再現する

著者名(日)

根建 拓

雑誌名

工業技術 : 東洋大学工業技術研究所報告

33

ページ

75-77

発行年

2011

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00002089/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

◆◆技術報告◆◆

運動する骨格筋を培養細胞系で再現する

根建 拓*

         1.はじめに

 適度な運動は,筋肉での糖・脂質代謝を充進させ,ま た筋発達を促して体全体の基礎代謝量を上昇させる.ま た,筋肉以外の組織においても,例えば脂肪組織での脂 肪分解促進や,免疫能上昇などを介して体全体に対して 良好な影響を与える.一方,運動が不足すると糖代謝関 連の機能が低下して現在社会的な問題となっているII型 糖尿病をはじめとするメタボリック症候群の発症要因と なりうる.一方で逆に過剰な運動も筋破壊や免疫能の低

下など体に悪影響をもたらすことも明らかとなってい

る.従って,異なる運動強度によって変化する多彩な運

動の生理作用をより細かな分子レベルで解明すること

は,運動効果をより深く理解するためのみならず,運動 の利点をより有効に活用する上で極めて重要である,  このような運動効果については,主に動物個体を使った 研究が主として行われてきた.すなわち,マウスやラット などの実験動物をトレッドミルあるいは強制水泳法などを 用いて,強制的に運動させ,運動効果を調べるなどの方 法である.しかし,このような強制的運動方法では,当 然動物個体に大きなストレスを与えることにもなり,純粋 な運動効果を抽出することは困難であった.このように研 究手法が限定的であったこともあり,運動依存的な生理的 変化を惹起する分子メカニズムについては明らかとなって いないことが多い.また,運動が骨格筋のみならず他組 織にまで影響を与えている事実は,筋肉と他組織・臓器 間に情報伝達ネットワークが存在することを示唆している ものの,運動による筋収縮がどのように他の組織・臓器 に影響を与えるのかについてはほとんど分かっていない.  今回,運動する骨格筋を培養細胞系で再現し,運動効果 の詳細を解析したわれわれの最新の研究成果を紹介したい.

    2.高度発達型培養筋細胞系の開発

 一般的に生体内細胞における特定の生理作用発現メカニ ズムの解明については,均質かつ安定的な培養細胞系が強 力なッールとなる.しかし,既存の培養骨格筋細胞系につ いては,骨格筋の分化指標となる筋管細胞の形成は観察さ れるものの,収縮に必須であるサルコメラ構造の発達が全く 見られず,筋分化すなわち筋芽細胞の融合プロセス以外の ことはほとんど理解されていなかった.われわれは,既存 骨格筋系培養細胞であるマウスC2C12細胞を用いて,サル コメラ構造発達を人為的に制御できないかという課題に取 り組んできた.細胞培養液の栄養状態,酸素分圧,細胞 が接着するプラスティックディッシュ底面の加工処理,ホルモ ン刺激,物理的刺激など数々のパラメータを変更した条件 でC2C12細胞を培養し,サルコメラ構造形成についてコン フォーカル顕微鏡を用いた検討を行った.その結果,高濃 度のアミノ酸を含む培養液で外部より持続的な電気パルス を加えることでC2C12細胞内部にサルコメア構造の発達 を確認することができた.さらに,NIH3T3細胞をフィー ダー細胞として使用することによって,この構造形成がさ らに促進されることも見出した.われわれは,このサルコ メア構造が発達したC2C12細胞を高度発達型培養筋細胞 と命名したが,細胞工学によるこのような細胞作製系の構 築によって,培養細胞を用いた運動効果の研究ができるの ではないかという期待が高まった.     3.In vitro疑似的運動刺激系の開発  生体内での骨格筋の収縮は,運動神経からの情報伝達 によって骨格筋内の筋小胞体内からカルシウムイオンが一過 的にリリースされ,結果的に筋収縮が誘導される.一方で, 単離した生体骨格筋に外部から電気刺激を負荷することに よっても,細胞外部からのカルシウム流入を促進することで 細胞内カルシウムイオン濃度の上昇,筋収縮を引き起こす ことができる.従って,前項で作製した高度発達型培養筋 細胞に外部から電気パルス刺激を添加して細胞応答を観察 した.その結果,予想通り,電気パルス刺激に応答して高 度発達型培養筋細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し, 筋収縮が観察された.さらにわれわれは,電気パルス刺激 による高度発達型培養筋細胞の収縮活動が,見掛け上の変 化のみならず,生体骨格筋で観察されるような代謝変化な ど運動効果を再現しているのかを調べることにした.運動 によって骨格筋で生じていることが明らかとなっている現象 としては,(1)エネルギー消費の促進,(2)細胞外からの糖 取り込み促進,(3)収縮後に副次的に生じる弛緩作用によ るストレス増大などがある.(1)については,細胞内ATP 濃度の減少,エネルギー消費拡大にともなって観察される 細胞内情報伝達すなわちAMPキナーゼ系活性化などが確 認できた.(2)については,運動依存的な糖取り込みのほ とんどすべてを仲介していると考えられている糖輸送単体4 (GLUT4)の膜移行量を測定し,電気パルス刺激によって *生命科学部 応用生物科学科

一75一

工業技術No.33(2011)

(3)

運動する骨格筋を培養細胞系で再現する GLUT4膜移行量が約2倍に増大することを明らかとした. この測定のためにタンパク質工学を駆使した新規系を構築 したが,詳細については参考論文を参照していただきたい. (3)についてもストレス依存的に活性化されるストレス応答 性MAPKの活性化が,電気パルス刺激によって誘導される ことを確認した.まとめると,骨格筋で既知運動効果として 知られていたほとんどの現象が再現できていた(Fig.1.). われわれは,この世界で初めて開発した本系をin vitro擬 似的運動刺激系と名付けた.この系の最大の長所は,物理 刺激系であるため,人為的に収縮頻度・強度を変更,さら に収縮刺激のオン・オフを緻密にコントロールできる点に あり,これによって多様な運動を再現することができる. A   Indgx of Movemgnt   ピ5eeピe< n 10 18 U m S 9 18 U P 31 C d d 16 E B.      .EP ⇒EP

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Fig.1.Effects of EPS on the contractile activity, intracellular signaling cascades, the expression of muscle specific gene, and sarcomere development in

C2C12 myotubes

4.In vitro疑似的運動刺激系を用いた新しい運動

 効果の探索

 このin vitro疑似的運動刺激系のもうひとつの特徴は, 培養細胞系を使っているため他細胞が混じらない系である ことである.もちろん,生体での運動を理解するためには, 複数種の細胞からなる系で相互作用を勘案しながら研究を 進めることも極めて重要ではあるが,一方で複雑すぎる 相互作用のために,骨格筋での運動効果が見出しにくく なっているケースも考えられる.このような理由から,この 系を用いることで既知運動効果のみならず,今まで知られ ていなかった運動効果を発見できるのではないかと考えら れた.われわれは,in vitro疑似的運動刺激系とマイクロ アレイ解析を駆使して,運動に応答して発現が変化する遺 伝子を網羅的に解析した.これまで動物実験によって運動 依存的に筋肉からの分泌が上昇するタンパク質として,い くつかのサイトカイン(IL−6,8,15)が報告されていたが, われわれはこれらのタンパク質に加えて,新たにCXCケモ カインファミリー(CXCL1/KC, CXCL5/LD(など), VEGF ファミリー,Wnt inhibitory factorなど多数の分泌タンパ ク質をコードする遺伝子の発現が運動依存的に上昇するこ とを初めて見出した.特に,ケモカインファミリーについて は,リアルタイムPCRや細胞培養液中に放出されるケモカ イン量の測定でも筋収縮によって上昇することが確認さ れ,また,トレッドミルを用いた動物実験によっても運動 依存的に血中濃度が上昇することを確認した(Fig.2.).  一連の結果は,今回,われわれが新規に同定した骨格 筋の収縮によって産生される分泌タンパク質群(運動因 子と命名)の少なくとも…部は,内分泌的な作用を持っ ていることを示唆していた.すなわち,骨格筋での収縮 活動を他の臓器や組織に情報として伝達する役割を果た しているのではないかと考えられる. 4   ﹁5   2   1   0   自∈、忠︶CΩ冨﹂芒Φ芒OU D巴一雨∈“雨定 0   0   0   0 0   5   0   5 0   7   5   2    =ξ9︶  ‘O肩喝おCΦU‘OU●三 0

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Fig.2. Effects of EPS on chemokine production in C2C12 myotubes and treadmill exercise on serum chemokine concentration in C57BL/6J mice 東洋大学工業技術研究所報告

一76一

(4)

根建 拓

    5.運動因子産生のメカニズム解明

 次に,われわれが同定した運動因子の産生メカニズム について紹介したい.In vitro疑似的運動刺激系は,新 規,既知問わず,運動効果の分子メカニズムを解析する ために適した系である.すなわち,培養細胞を使ってい

るために,遺伝子の過剰発現やsiRNAなどを用いたノ

ックダウンなど分子生物学的手法を容易に用いることが でき,さらに阻害剤などの効果も簡便に検討することが できる.この特長を生かし,新規運動因子がどのように 産生制御されているのかについての検討を行った.まず, 運動によって活性化されることが分かっているシグナル

伝達経路,例えばCa2+依存性シグナル伝達経路やAMP

キナーゼ経路,ストレスによって活性化されるMAPキ

ナーゼ経路やNF一κB経路などについて,阻害剤あるい

はsiRNAを駆使した解析を行った.その結果,新規に

同定したCXCケモカイン群に属する運動因子について

は,電気パルス刺激によって惹起されるストレス応答性

MAPキナーゼのひとつであるJNKとNF一κB活性化が

産生増大に重要な役割を果たしていることが明らかとな った.一方,大変興味深いことに既知運動因子として知 られていたIL−6の産生については, JNKによる制御を受

けず,Ca2+依存的なcalcineurinやNFAT系転写因子の

関与が示唆された.すなわち,骨格筋の収縮によって分 泌されるタンパク質は,われわれが新規同定したものを

含めて,少なくとも10種類以上存在していると考えら

れるが,共通の発現・分泌調節を受けていないことがわ かった.このように,われわれは運動依存的に活性化さ れる複数のシグナル伝達経路は異なる運動因子の産生調 節を担うことを初めて示した(Fig.3.).

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Fig.3. EPS−dependent MAP kinase activation and its impact on CXCL1/KC and CXCL5/LIX production

      6.結び

 以上,紹介してきたように,われわれは世界に先駆けて 運動効果の観察できる培養筋細胞を開発して新しい運動 効果の発見,ならびにその作用機序を明らかにしてきた. さらにこの新規運動因子群が筋分化を正に制御する因子で あること,運動刺激のみならずストレッチ刺激などによって も産生増強されるなどの新規知見を報告している.今後 ともに、このような細胞工学による新規系の構築,さら には生体の更なる理解と応用に鋭意努力していきたい. 参考文献 ・幽Lエ,Hatakeyama H. Kono T, Sato M, Kanzaki M:  Am J Physiol Endocrinol Metab 297(4):E866−878,(2009) ・地hLエ. Fujita H, Kanzaki M:Am J Physio[Endocrinol  Metab 295(5):El191−204,(2008) ・戯垣_エ,Akito Kadotani, Ariga M, Katagiri H, Kanzaki  M:Am J Physiol Endocrinol Metab 294(4):E668−78  (2008) ・Fujita H, Nggagbi_ユニ, Kanzaki M:Exp Cell Res 313:  1853−1865 (2007) ・典包_2.Kanzaki M:Am J Physio1 Endocrinol Metab  291(4):E817−28 (2006) 一77 一 工業技術No.33(2011)

参照

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