臨床報告
嗜女医蕪,器63巻平謙層言〕
膝蓋骨腫瘍を疑った痛風結節の1例
東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター
トヨダ タカシ イノウエ カズピコ チパ ジユンジ サイトウ セイジ豊田 敬・井上 和彦・千葉 純司・斉藤 聖二
(受付平成5年1月22日)
Gouty Tophus Suspected to be a Primary Tumor in the Patel藍a:ACase Report
Takashi TOYODA, Kaz瓢11iko INOUE, Junji CHIBA and Seiji SAITO
Institute of Rheumatology, Tokyo Women’s Medical College Arare case with gouty tophus, suspected to be a primary tumor in the patella, is reported. A59・yearっ1d male with a history of untreated gout for 17 years had developed right knee pa三n on walking five years prior to admission. On physical examination, no tumorous mass was palpable on the anterior aspect of the patella, but a knee jo孟nt effusion was present. There were multiple gouty tophi in the bilateral f隻rst metatarsophalangeal joint, olecranon and hee1. Radiograms and MRI showed amultilocular destructive「 撃?唐奄盾氏@in the anterior half of the right patella. Serum uric acid was 10.1 mg/d1. As the patellar destruction was severe and a primary tulnor was suspected, arthroscopy and biopsy of the patella were scheuduled. At surgery, a white chalky mass,15 mm in depth, was found to be invading the anterior central aspect of the patella and was resected. There was no tumorous tissue in the patella. Arthroscopy revealed numerous white chaiky crystals in the synovium, articular cartilage and menisci. H玉stological examination of the synovium showed crystalline deposits surrounded by an inflammatory cellular童nfiltration w量th foreign body giant cells. Postoperatively, the patient was treated with a regimen of allopurinol to control serum uric acid, and thereafter knee pain has been subsided. Only 8 similar cases, with severe destruction of the patella secondary to gout, have previously been reported in the literature. In our case, it was suggested that the primary intraosseous formation of gouty tophus just beneath the anterior cortex had led to the severe patellar destruction.緒 言
痛風は高尿酸血症を基礎とし,第1趾の中足趾
節関節(以下MP関節)の関節炎発作を主徴とす
るが,種々の部位にも発症する.疾患に対する認
識が高まり,優れた痛風治療薬による治療法が確
立された現在,痛風に高度な骨破壊を伴うことは
稀である.膝蓋骨に骨破壊をきたし,X線上骨腫
瘍を疑った痛風結節の1例を経験したので報告す
る.症 例』
患者:59歳男性,食品販売業.
主訴:右膝関節痛.
既往歴:1955年頃高血圧を指摘されたが放置し
ていた.現病歴:1975年左第1趾MP関節に痔痛発作
が出現し,他医にて痛風と診断された.以後17年
間,両側第1趾,両肘,両三部などに痛風発作を
繰り遅したが,痛みのあるときのみ消炎鎮痛剤を.
.内服し,痛風に対する系統的な治療はまったく受
けなかった.その後徐々に両側第1趾,両肘,両
踵部に腫瘤が発凹し,1987年より右膝関節の歩行
時痛,ひっかかり感をおぼえるようになった.1992
年3月より右膝関節が腫脹し,歩行時の痛みが増
強したため,4.月2日当科を受診.した.
アキレス腱付着部には弾性軟で可動性に乏しい母
指頭大の腫瘤を認め,圧痛は軽度であり,これら
の腫瘤は痛風結節であると考えられた.右膝関節
の単純X線像では,膝蓋骨の前部中央に辺縁整で
周囲に骨硬化を伴う楕円形の多房性骨透梁像を認
める.また内側関節包および後外側部に辺縁不整
でスリガラス状の石灰沈着様陰影を認める(図
1).足部の単純X線型では,両側第1趾MP関
節内側の軟部組織の膨隆と,中足骨頭を中心とし
た周囲に骨硬化を伴う骨破壊を認める.肘関節お
よび踵部の単純X線像では,両側の内外側上関と
肘頭の上腕三頭筋腱付着部および踵骨のアキレス
腱付着部に一致して骨棘形成を認める.右膝関節
のMRIでは, Tl強調像で膝蓋骨の前部中央が半
層にわたり中等度の輝度のほぼ均質なmassで置
換されている(図2).血液および尿検査では,血
図1 初診時単純X線像
膝蓋骨の前部中央に楕円形の多房性骨透梁像を認め る.また内側関節包および後外側部に辺縁不整でスリ ガラス状の石灰沈着様陰影を認める.清尿酸値が10.1mg/d1と高値を示す以外は正常
であり,腎機能障害も認めなかった.
以上の所見より,多発性結節を伴う痛風と診断
したが,膝蓋骨前面に明らかな痛風結節を認めな
いにもかかわらず膝蓋骨の骨破壊が高度で,良性
骨腫瘍も疑われたため,診断目的を兼ねて1992年
7月22日手術を施行した.
手術時所見:膝蓋骨部の展開に先立ち膝関節内
の鏡視を行った.滑膜は全般に増殖肥大し,毛細
血管網の充血も見られ,白色の結晶沈着が多数観
図2 初診時MRI像
膝蓋骨の前部中央が半層にわたり中等度の輝度のほぼ均質なmassで置換されてい る.図3 術中所見
膝蓋骨前部中央に白色チョーク様の結晶からなる結節 が形成されていた.これを掻爬すると,膝蓋骨は深さ 15mmまで侵食されていた.察された.大腿骨穎部,脛骨穎部,膝蓋骨それぞ
れの関節軟骨表面と,内外側半.月板の表面には,
結節状に白色チョーク様の結晶が沈着していた.
また外側半月板には変性性断裂を認めたため,可
及的な滑膜切除と,結晶の除去および外側半月板
部分切除を行った.
続いて横切開にて膝蓋骨前面を展開した.膝蓋
前滑液包,膝蓋支帯には明らかな異常を認めな
かった.膝蓋支帯を切開すると膝蓋骨前面中央は
一部骨皮質が欠損し,同部に白色チョーク様の結
晶からなる結節が腫瘤状に形成されていた.この
結節を掻爬すると,膝蓋骨は深さ15mmまで侵食
されており,底部の骨は硬化していた.結節内部
や周囲の骨に,肉芽組織の増殖や腫瘍組織はまっ
たく認めなかった(図3).結晶の同定は行えな
かったが,沈着物質が白色チョーク様でX線透過
性であること,長期にわたり痛風が放置され他の
部位にも多発性に痛風結節を生じていることよ
図4 滑膜の病理組織像
結晶沈着像と周囲の組織球性反応および異物巨細胞が 認められる.HE染色, X200.り,この結晶は尿酸塩であると考えられた.
組織学的所見:滑膜の病理組織では,多数の結
晶沈着像と,周囲の組織球性反応および異物巨細
胞が認められ,典型的な痛風結節の所見であった
(図4).術後経過:術後,年齢および痛風結節の存在を
考慮し,尿酸合成阻害剤を投与した.術後3ヵ月
を経過した現在,血清尿酸値は正常域にコント
ロールされ,足趾,肘の痛風結節も縮小している.
右膝関節の歩行平押は軽減し可動域制限も認めな
いが,運動時の軋礫音は残存している.単純X線
像では術前透写像の見られた膝蓋骨の骨梁が増加
している.考 察
痛風結節は皮下組織,関節包,骨,軟骨などに
生じ,日本人では手足,肘,耳介などが好発部位
と言われている1).第1趾MP関節周囲を除き,骨
内に痛風結節が生じることは稀とされており,中
でも膝蓋骨に発生した結節の報告は,我々が渉猟
し得た限りでは17例2)∼18)のみであった.このうち分裂膝蓋骨部に発生したもの以外で,高度な骨破
壊をきたしたものは8例のみであり,非常に稀な
病態と言える(表).痛風における骨破壊の機序としては,Resnick
ら19)によれぽ関節軟骨や滑膜に結晶が沈着し関節
炎として波及する場合と,軟骨下骨内や腱付着部
に結節が生じる場合が考えられている.本症例で
10
62 M
分裂膝蓋i骨部(Saupe m型) 遠藤俊哉 1988 1125 M
上外側部 本藤寛之 1988 1242 M
分裂膝蓋骨部(Saupe HI型) 崔 東田 1988 1339 M
分裂膝蓋骨部(Saupe II型?) 引野二二 1989 1420 M
外側部 杉本茂之 1989 1553 M
外側部 Walot I 1989 1625 M
分裂膝蓋骨部(Saupe HI型) 腰野克己 1991 1734 M
分裂膝蓋骨部(Saupe III型) 戸田克広 1991は膝蓋骨前面に腫瘤形成が無く,膝蓋前滑液包や
膝蓋支帯に異常を認めなかったことより,膝蓋骨
前面の皮質骨付近に直接痛風結節が生じ,これを
起点として骨破壊が進行したものと推察される.
いかなる機序で膝蓋骨内に痛風結節が生じたのか
は血行性であると考えられること以外不明である
が,17年もの長期にわたり系統的な痛風の治療を
せず血清尿酸の過飽和の状態が持続し,局所の尿
酸濃度が上昇すると共に,何らかの機械的因子が
関与した可能性20)があると考えられる.
痛風結節は1年以上の尿酸コントロールにより
縮小消失するものであり,尿酸コソトロ」ノレが可
能であれぽ手術適応はない.しかし腱内に痛風結
節が生じ腱断裂の危険性がある場合,手根管など
に生じ末梢神経麻痺を合併した場合,関節機能が
破綻した場合,骨内に存在して骨折の危惧のある
場合などは手術適応となる.本症例では痛風結節
の確定診断をし得ず,骨破壊も高度であり良性骨
腫瘍も疑われ,進行すれば骨折の危惧もあるため
手術適応となった.
結 語
膝蓋骨に高度な骨破壊をきたし,骨腫瘍を疑っ
た痛風結節の1例を報告した.
本論文の要旨は,第19回関東膝を語る会において発
表した.文 献
1)斎藤輝信:痛風と高尿酸血症一初診の診かたと注 意点.治療 71:2257−2262,1989 2)Cohn BT, Ibarra JA, Jackson DW:Erosion of the patella secondary to gout. A case report, Am J Sports Med 16:421−423,1988 3)遠藤俊哉,樋口 理,山中健輔ほか:膝蓋骨に発 症した痛風結節の1症例.整外と災外37二898, 1988 4)Greenberg CS: Pathological fracture of the patella secondary to gout. J Bone Joint Surg 68・A:1286−1288,1986 5)引野二二,安田和則:診断に難渋した分裂膝蓋骨 痛風結節.膝 15:76−79,1989 6)本藤寛之,本田隆仁,斉藤 修ほか:膝蓋骨腫瘍を思わせた痛風の1例.別冊整形外科 14:
197−199, 1988 7)腰野克己,山野内忠雄,宮崎麻男ほか:分裂膝蓋 骨に発生した痛風結節の1例.Joint 6:9,1991 8)Lyford J, Shapiro D: Gout as a cause of isolated circumscribed cyst of the patella. N Engl J Med 253:380−382,1956 9)中田好則,斉藤 隆,宜保晴彦ほか:分裂膝蓋骨.部に発生した痛風の1例.関東整災誌 14:
564−567, 1983 10)Peloquin LU, Graham JH:Gout of the patel・ la, Report of a case. N Engl J Med 253:979−980, 1955 11)崔 東換,速水泰彦,行岡正雄ほか:痛風が原因