原 著 〔東女医大誌 第64巻 第5号頁389∼398平成6年5月〕
直流電場通電が心筋細胞再分極相に及ぼす効果
一通電電気軸と心筋線維走行の関係一
三京女子医科大学 循環器内科学(主任:細田瑳一教授) ニ キ キヨ コミ 仁 木 清 美 (受付 平成5年11月22B) Effect of Direct Current Field Stimulation on Repolarizing Phase of Card韮ac Ce韮ls: In∬靱ence of Fiber Orientat蓋on Kiyomi NIKI Department of Cardiology(Director:Prof。 Saichi HOSODA), The Heart Institute of Japan, Tokyo Women’s Medical College The effect of direct current field stimulation(FS)on the repolarizing phase of ventricular muscle cells was studied with special refere耳ce to the relationship between the electrical axis and fiber orientation. The right ventricular papillary muscle of guinea pigs was isolated and transmembrane action potentials were recorded. First, FSs, monophasic waveforms(durations of 1,2,5,10 and 20 msec), were applied either parallel(L−FS)or transverse(T−FS)to the muscle fiber orientation and diastolic excitation thresholds were measured. Second, FSs(with a coupling interval of 100∼200 msec and the stimulus strength of 1.2∼7.2 V/cm)were applied after l Hz conditioning pacing, and the action potential duration(APD)was calculated. As a result, the diastolic excitation threshold of LFS was significantly lower than that of T−FS(pく0.01). The APD after FS was prolonged with a strength greater than 2.4 V/cm for both L・FS and T・FS. The APD was longer when the stimulus strength was stronger or the coupling interval was closer to phase 30f the refractory phase. This effect was stronger for LFS than for T・FS and the maximum difference was observed when the stimulus strength was 2.4 V/cm. However, the difference between LFS and T−FS decreased when the stim廿lus strength was larger than 3.6 V/cm. These differences in APD prolongation might produce post defibrillation shock arrhythmias, and they are important to consider the improvement of defibrillation efficacy of implantable defibrillator. 緒 言直流電場通電による除細動はWiggersらが
1940年に報告1)して以来心室細動に対する唯一の 確立した治療法として用いられているが,洞調律 再分極相に直流電場通電を行うと逆に心室頻拍や 心室細動が誘発されることがあり,電場通電によ る心室頻拍,細動の停止,誘発のメカニズムは不 明な点が多い.一方,最近では細胞の線維走向 (丘ber orientation)の違いにより興奮伝導速度や 興奮伝導の安全率が異なること(anisotropic con− duction)が指摘され,心室頻拍や心室細動の成因 に関与していることも論じられているが2)∼4),電 場通電時の電気生理学的効果と飾er Qrientation の関係については明らかにされていない. 本研究の目的は,直流電場通電が心室筋に及ぼ す効果を検討し,さらに通電電気軸と心筋細胞の 線維走向の関係により,細胞内電位がどのように 修飾されるかを実験検討することである. 対象および方法 体重200∼250gのモルモット10頭の心臓より摘 出した,ほぼ均一な線維走向を有する右室乳頭筋 (直径0.3∼0.5mm,長さ3∼4mm)を14mm四方,⑤ ③..,’ ① ④’ ② C③ dゐ④………1……lil… ③’て蟹. ① Transverse shock (T) 図1 電極の配置 毒中の番号はそれぞれ, Longitudinal shock (L} 直流通電用組織浴の構造および刺激電極,記録 1:膜電位記録電極,2: 基本刺激用白金線近接双極電極,3:直流通電用銀 板電極,4:電場強度測定用細胞外ステンレス線電 極,5:張力測定用トランスデューサーを示す.電 場刺激は乳頭筋標本に平行(longitudinal shock), または直角(transverse shock)に与えた.
深さ6.Ommの組織浴の中央に設置し,33℃
Krebs・Ringer液による表面二流を行った.2本の ガラス微小電極(抵抗20∼30MΩ)の一方を細胞内 に刺入し他方を近傍の細胞外に置き膜電位を記録 した(図1).乳頭筋基部に白金線近接双極電極(極 間距離0.2mm)を嗣ぎ,刺激閾値の1.2倍の強さの 1msec基本刺激(S1)を1.OHzで与えた.直流電 場通電伍eld stimulation:FS)は組織浴の四面 に設置した銀板(6×10mm,厚さ0.2mm)より乳 頭筋の長軸方向(線維方向に平行な方向:L方向) および短軸方向(線維方向に垂直な方向:T方 向)に加えた.組織浴中央の標本周囲には3.3mm 間隔で4本のテフロン被覆ステンレス線を正方形 の角に並べ,これらの電極の電位差から通電時の 電場強度を求めた.通電パルスは1∼20msecの単 相矩形波を用いた.通電中はコンピューターを用 いた自作のスイッチング回路により,膜電位記録 アンプの入力が接地状態となるように制御した. 初めに基本刺激(S1)後に連結期350msec,パル ス幅1∼20msecの直流電場通電をL, Tの各方向 で行い,静止期(電気的拡張期)刺激閾値を測定 し,強さ時間曲線を作成した.次いでS1による活 動電位の再分極相(repolarizing phase)に,電場 強度1.2∼7.2V/cm,パルス幅10msecの直流電場 通電を,種々の連結期でL,Tの各方向について 行い膜活動電位を記録し,活動電位持続時間とし て,脱分極開始時より最大振幅の80%再分極まで の時間(APD 80)を測定した.また,電場通電後, 種々の連結期でS1電極から早期刺激(S2)を与 え,S2による活動電位発生の有無を観察し有効不 応期(ERP)を測定した. S2のパルス幅,強さは S1と同一にした. 実験終了後標本は10%ホルマリンにて固定し顕 微鏡標本を作製し心筋線維方向を確認した. 実験より得られたデータはpaired T検定を用 いて有意差を検定し,危険率0.01以下の時,有意 差があるものとした. 結 果 1.乳頭筋標本の線維方向および標本周囲の電 場強度 図2は実験に用いたモルモット二一乳頭筋標本 を長軸方向に薄切し,プレパラート標本を作製し て光学顕微鏡により400倍に拡大したものである. 部分的に血管の走向による線維走向の乱れを認め るが,心筋線維はほぼ乳頭筋長軸方向に走向して 一390一1飾・
一
図2 乳頭筋標本の顕微鏡所見 実験に使用したモルモット日日乳頭筋を実験終了後パ ラフィン固定し,長軸方向に薄切し,マッソン染色に て染色を行った.いる.すなわちL方向電場通電では心室筋細胞の 長軸方向に,T方向電場通電では短軸方向に電場 刺激が行われることが確認された.また,標本に 与えられる電場通電の強さ伍eld intensity:FI [V/cm])は, FI二〇.6×Vs(Vs:通電電圧)とい う関係を得た. 2.直流電場通電の方向と拡張期刺激閾値 パルス幅1,2,5,10,20msecの直流電場通電 による拡張期刺激閾値をL通電,T通電について それぞれに求め,強さ一時間曲線を作成した(図 3).L方向通電による強さ一時間曲線はT方向 通電時より下方に偏位し,刺激閾値はL方向通電 のほうがT方向通電に比していずれも有意に低 く.しとTの比は0.63±0.02(mean±SD)であっ た. 3.直流電場通電による膜電位再分極相修飾効 果 1)心筋活動電位再分極相に直流電場通電を与 ∈2.1 ミ ≧, 診1.5 あ $
起qg
是 U− O,3 0 *寧 *臨欝
ゆ 5 重0 15 Pulse duration(ms) 20 図3 しおよびT方向における直流電場通電時の静 止期刺激閾値の強さ一時間曲線 電場刺激を心室筋活動電位の静止期(拡張期)に与 えた際の刺激閾値(mean±SD)を示す.横軸は刺激 パルス幅(msec)を,縦軸は電場強度で表現した刺 激閾値(Volt/cm)を示す. ○はし方向通電(心筋線維長軸方向),●はT方向 通電(心筋線維短軸方向)を示す.全てのパルス幅 でし方向通電はT方向通電に比し,閾値が有意に低 値であった(**p<0.005,*p<0.01). 25 FS Longitudinal shock 2.4Vlcm 」 Transverse shock FS 24V/cmm
Longitudinal shock FS 7.2Wcmm
Transverse shock FS 7.2Vlcmm
OmV 一50mV ↑ S1 ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑ 零00ms FS 図4 種々の連結期の電場通電(2.4,7.2V/cm,パルス幅10msec)を行った際の活 動電位波形の変化 連結期は100msecから20msecずつ延長して11∼12回の通電を行い,同一紙面に重 ね合わせて記録した.各ショックの際,コンピューター制御により膜電位記録は接 地状態となるため,スイッチングのアーチファクトの直後に膜電位が再び記録され ている(本文参照).S1:基本刺激, FS:直流電場通電.えた時の膜電位変化 実験結果の1例を図4に示す.図は連結期を100 msecから20msecずつ延長して,計11∼12回の直 流電場通電を行い,各々の膜電位波形を重ね合わ t2 V!cm 2.4V/cm 500 450 奮 三⑳0 2 く 350 300 250 L T 80 120160200240280320 S1ギS(ms1 3.6V/cm 500 450 曾 三4。o 建 く 350 500 450 曾 三400 9 く 350 300 250 80 120160200240280 320 S1−FS(ms} 300 250 L T 80 120160 200240280320 S1−FS(ms) 7.2Vlcm 5◎o せて記録した結果である.この標本における電場
通電時の拡張期刺激閾値はL刺激では0.8V/
cm, T刺激では1.2V/cmであった.上段の2.4V/ cm電場通電において, L方向通電では,刺激の与 えられた時相が再分極の後期になるほど活動電位 持続時間は延長する現象が観察された.他方T方 向通電では,同様の再分極延長作用はほとんど認 められず,基本活動電位のERP(280msec)を越 えた300msecで,新しい脱分極反応を認めた.図 4下段は7.2V/cmの電場通電例であるが,電場刺 激強度が3倍になると,上段のようなし,T方向 通電の差は認められず,電場通電の時相に依存し て活動電位持続時間の延長が生じた. 2)通電電気軸による活動電位持続時問の違い 450 曾 三4。0 2 < 350 300 250 L 丁 80 120160200240280320 S1・FS(ms) 図5 種々の強度の電場通電における連結期と活動電 位持続時間(APD)の関係 横軸に連結期(S、・FS),縦i軸に80%再分極時の活動 電位持続時間(APD8。)を示す.通電電位の大きさは 各グラフの左上に明記した.測定値は図4と同一の 実験より得られたものである. ○は線維方向に平行(L方向)に通電時の,●は線維 方向に垂直(T方向)に通電時のAPD8。を示す.静 止期刺激閾値は,L方向ショックでは0.8V/cm, T 方向ショックでは1.2V/cmである. 2.4V/cm 3.6V/cm 7.2V/cm 艸 1.4 舌1.3 島 一ロ1.2 些 窪t1 誉 1.0 0.9 0!1 0.6 0,8 1.O normalized S!・FS 1.4 81.3 隻 で1.2 些 讐1.1 喜 1.0 0.9 0.4 0.6 0.8 1.O normalized Sl−FS 1.4 81.3 瑳 1・2 一 二1.1 § 1.0 o.9 0.4 0.6 0.8 1.O normalized S1・FS * 〈0.01 **〈0.005 Obngitudhal shock ●transverse shock 図6 80%再分極時活動電位持続時間(APD8。)に対する電場通電の効果 L方向通電とT方向通電の反応の差を検討するため,10例の乳頭筋標本に対して,通電量:と連結期 を変えて(通電量:2.4,3.6,7.2V/cm,連結期20∼320msec)各方向に通電(FS:丘eld stimulation) を行い,APD8。を比較した.個々の標本のcontrol APDに差があるため連結期(S1−FS)は個々の 標本のcontrd APDで正規化し(normalized S1−FS),通電後のAPD8Dもcontrol APD8。で正規化 した(normalized APD8。). normarized S1・FSを4群に分け, normalized APD8。の反応を各個に て比較し(mean±SD)有意差を検討した(本文参照). 一392一と通電電圧,連結期の関係 通電電圧と連結期を変えて電場通電を行った場 合の活動電位持続時間(APD8。)を, L方向, T方 向通電の双方で計測した(図5).1.2V/Clnの電場 通電ではし,T方向ともAPD8。(b延長は認めな かった.通電量が2.4V/cmと大きくなると, APD8。は, L方向通電では,連結期が長くなるにつ れて延長を認めたが,T方向通電ではAPD8。の延 長効果は連結期240msecまでは殆ど認められず,
通電方向によりAPDは最大67msecの差を認め
た.刺激の強さが3.6,7.2V/cmと大きくなるにつ れ,APD8。の延長効果はL, T方向とも,連結期に 応じて増大するようになり,L,T間の差は少なく なった.すなわち,電気学によるAPD8。の延長効 果の差は2.4V/cmで最も大きく認められた. 同様の実験を他の乳頭筋を用いて,通電量2.4, 3.6,7.2V/cm,連結期20∼320msecの通電刺激を 行い,通電時相および通電量:とAPD80の延長効果 について検討を行った.個々の乳頭筋のコントロールのAPD80は248msecから325msecと差が
あるために同じ連結期に与えた電場通電であって も標本による再分極相の異なる時相に刺激が加わ ることになり,単純に比較検討ができない.この ため通電刺激を与える連結期(S1−FS)を個々の標 本におけるcontrol APD80に対する比として表し (normalized S1・FS),またAPD8。の延長量も各標 本でのcontrol APD8。で正規化した(normalized APD8。).連結期の変化によるAPD延長量のL, T方向通電の差を比較するためnormalized S1− FSを4群(0.4未満,0.4∼0。59,0.6∼0.79, 0.8∼0.99)に分け,各群におけるnormalized APD80値のmean±SDを求めた(図6).この結果 2.4,3.6V/cm通電においてnormalized S1−FS O.4∼0.99におけるnormalized APD8。は, L方向 通電のほうがT方向通電に比して有意に大きFい ことが判明した.また,通電電圧をさらに大きく すると,L, T間の差は小さくなり7.2V/cmでは 有意差は認められなくなった. 4.直流電場通電による不応期の延長効果 種々の連結期で与えた直流電場通電による相対 不応期(ERP)の変化を測定した実験結果の1例を示す(図7).この標本のS1刺激時のERPは
275msecであった.2。4,3.6,7.2V/cmの電場強 度で直流電場通電を行い,ERPを測定した.いず れの刺激強度の電場通電においてもAPDの結果 と同様に連結;期が長くなるに連れてERPは延長 を示したが,線維方向の差は2.4V/cmで最も大き く認められ,3.6,7.2V/cmと通電量が大きくなる につれ線維方向の差はむしろ小さくなった.図7のERPを測定した標本においてAPD8。と
ERPの関係を検討した(図8).その結果, ERP とAPD8。との関係は 450 400 電 ε 臣350 国 300 250 2.4Vlcm 450 400 盆 ε 臣350 国 300 250 3.6V/cm 450 400 盆 ε 350 臣 四 300 250 7.2V!cm L/ 180 220 260 180 220 、260 180 220 260 S1・FS (ms} S,・FS 〔ms} S1・FS (ms) 図7 種々の連結期で電場通電(FS)を行った際の有効不応期(ERP)の変化 2.4,3.6,7.2V/cmの電場通電を連結期(S1・FS)200∼260msecで行い,通電後に S2刺激を与えて不応期(ERP)を測定した. S2刺激はS1刺激と同一強度である.○ は線維方向に平行(L方向)に通電時の,●は線維方向に垂直(T方向)に通電時 のERPを表している.各dataは同一標本より得られたものである.500 400 窃 ε ♂ 竃 300 200 200 y屋15.8ウ0,96x 300 ERP(ms) 400 500 図8 種々の連結期で行った電場通電時の,有効不応 期と80%再分極時までの活動電位持続時間の関係 横軸に有効不応期(ERP)を,縦軸に80%再分極時 までの興奮持続時間APD8。を示す.両者は相関係数 0.98の良い相関関係を示した. APD80=0.955×ERP十15.8 という直線的な相関があり,相関係数は0.98で あった.即ちAPD8。はERPの変化の指標となる ものと考えられた. 考 察 本実験より明らかになったことは,第一に,心 筋細胞の静止期刺激閾値は,常に短軸方向(T方 向)通電の方が長軸方向(L方向)通電時より高い ことである.第二には,心筋細胞の再分極相(re− polarizing phase)に通電刺激が加わると不応期 の延長をもたらすが,この効果は通電量,連結期, 心筋細胞に対する通電軸により異なることが示さ れた.以下に直流電場通電が心筋に与える電気生 理学的影響を直流電場通電の催不整脈作用との関 連性も含めて考察する. 1.電場通電の効果 1)静止期刺激閾値 静止期(電気的拡張期)にある心筋細胞に電場 通電を行うと細胞興奮が生じるが,本実験におい てこの刺激閾値は常にT方向通電の方が,L方向 通電に比して高値を示した.同様の結果はTung の実験でも認められている5).この理由として,心 筋細胞特性を考える以前に,電場通電によって細 胞にかかる電位が,L, T方向でどのように差があ るのかを検討する必要がある. Kleeらは,細胞を内部に海水と同様の伝導率を 有する液体を含む均一な絶縁膜よりなる回転楕円 体と仮定し,これを同じく海水と同様の伝導率を 有する媒質内に置き外部電界を加えた時に細胞膜 の内外に生ずる電位差(膜電位)を近似計算して いる6).彼らは細胞膜電位を計算するにあたり電 場通電時に生じる細胞内の膜電位変化は細胞外に 比して無視できるほど小さいものであることか ら,細胞膜上の座標(x,y, z)に生じる膜電位(Vm) は Vm(x,y,z)=ΦiIsce1一Φe l scell (1) となると示した.ここで,Φils、ellは回転楕円体表 面の内側での電位を,またΦelS,ellは回転楕円体 の表面の外側での電位を示す.また,座標は,楕 円体の中心を原点にとり,x, y軸を短軸に, z軸 を長軸に一致させている. 原点での電位を0とし,通電時の回転楕円体内 部での電位変化が無視できるほど小さいものであ ることを用いると(1)式は, Vm(x, y, z)=Φi I scelrΦe l scell 毎一ΦeiScell 塞(E。xx十E。yy)A十(E。,z)C と示すことができる.ここで,AおよびCは回転 楕円体の形状により決定される定数であり,E。x, E。y, E。,はそれぞれx軸, y軸, z軸方向に印加さ れている電界の大きさである.X, y, Zは回転楕円 体上の点であるから,回転楕円体の短軸径を2a, 長軸径を2cとして,セル形状をフットボール状の 回転楕円体と仮定すると, 著;+景+蓄一・一・(・〈・) を満足する.このときA,Cは A一o・一,i、(・+1デ21・}…1)}一1 C一o1一,i,(・・(・・一・)一(・一・・)1・1奉1}一1 となる. 主 F( a21− C2)2 一394一
以上のKleeの式を利用して電場通電時の細胞 膜に生じる電位について考察する. 線維方向に平行に通電した場合,外部電界は回 転楕円体の長軸方向成分のみを有するので, E。x=E。y=O E。z≠0 となる.すると,膜に発生する電位差は Vm(x, y, z)二(E。zZ)C と表すことができる.ここで電位差は膜の外側を 基準にしている. そこで,xz平面での回転楕円体断面上の各点で の膜電位を計算するため図9aのように通電軸か ら角度(θ)を定め,xz平面における楕円体表面
一号
θ、司
(x,o,z) (X㌧0,Z「) 上の点の座標を(x,0,z)とおくと, 景+蓄一・X
一=tanθ Z を満たすので Z= {o} a 1 c2−a2 θ≠90。, 270。Z=0
z x 200μm transverse shock (b) COS2θ C2 Iongitudinal shock (a》 θ二90。, 270。 41讐 蓋 司 訓・6 茎 § 奮 § 一50 CALCULATED MEMBRANE POTENTIAL 理論値より算出した電場通電時の細胞膜電位 図9 心筋細胞をフットボール形の回転楕円体とみなし, 均質な電場(4.OV/cm)に置いた場合に生ずる膜電 位を算出した.(a)は長軸方向へ通電時の,〈b)は短 軸方向へ通電時の,xy平面上の座標と通電軸からの 角度θとの関係を示し,矢印(↓)は通電方向を示 す.(c)は計算された膜電位を示す.縦軸は膜電位(細 胞内外の電位差),横軸は細胞膜の位置(θ)を表す (本文参照). T:回転楕円体の短軸方向に電場を加えた場合,L: 回転楕円体の長軸方向に電場を加えた場合. と表わすことが可能となり,xz平面における膜電 位を示すことができる. 同様に,短軸方向に電界を加えた場合は E。y’=E。,’ニO E。x’≠0 となり,膜電位差は, Vm(x’, y’, z’)=(E。x・X’)A 、 となる.x’zノ平面内での回転楕円体上の点(xノ,0, 〆)は図9bのようにθをとると ノ ノ 景+呈・一・ Z’ =7=tanθX
を満たし, z7=C
Z』0
1 c2−a2 。。,・θ+。・ θ≠90。, 270。 θ=90。, 2700 と表すことができる.以上より,直流電場通電時 の膜電位は,θの関数として表すことができる. そこで上記の数式を利用して心筋細胞を30× 200μmの回転楕円体と仮定し,長軸方向と短軸方 向で4.OV/cmの電場通電を与えた時に細胞膜の 内外に発生する電位差を計算した.その結果を図 9cに示す.膜に発生する最:大の電位差はL方向, T方向通電いずれにおいてもθニ0.,180.の時に 生じ,その大きさはし方向通電の方がT方向通電 に比べて約3.6倍大きいことが判明した.この結果 は我々の実験で得られた,興奮閾値がL:方向通電 時の方が低いことと一致しており,L, T方向の効 果の差が,主として心筋細胞の長軸と短軸の長さの違いによるものであることが示唆される.但し, 細胞膜にはコンデンサーとしての受動的な電気特 性に加えて,イオンチャンネルの活性化,不活性 化による能動的な電気特性がある.また,我々が 実験で用いた乳頭筋は多細胞組織であり,個々の 心筋細胞がgap junctionを介して電気的に連結 された構造をしている.この細胞間電気結合は心 筋線維を横切る方向(T)よりも,線維方向に沿っ た方向(L)の方に多く認められ組織抵抗もL方向 の方がT方向より小さい.このように組織構築の 異方向性(anisotropy)により・L方向通電とT方 向通電の電流密度に差が生じている可能性もあ る.これらの要因のため通電時に実際に回心筋細 胞に生ずる膜電位は上記の電場理論から推測され る値とはある程度異なったものになると考えられ る. 2)再分極相(repolarizing phase)に対する電 場通電の効果 再分極相に電場通電を与えることにより不応期 が延長することは,柴田らが電場通電に際し頻脈
性不整脈が誘発される実験より予想していた
が7),さらにSweeneyの実験で実証された8). Sweeneyらは犬の心臓を用いて,電場通電後に S2刺激を与え有効不応期を測定した.本実験にお いては,いままで困難であった通電直後の膜電位 記録をコンピューター制御により電場通電時に一 時的に細胞内電位記録アンプを接地状態にするこ とにより,電場通電による不応期の延長効果を直 接示すことが可能となった. 本実験により,電場通電が再分極相に与える影 響は刺激の強さと通電刺激の与えられた時相によ り異なることが明らかにされた.心筋再分極相に 与えられた通電刺激において,刺激閾値より2倍 程度以下(図5においてL方向ショックでは1,6 V/cm, T方向ショックでは2.4V/cm以下)の電 場強度では不応期は殆ど延長しない(図5).しかし,閾値の3倍程度以上(図5においてL方向
ショックでは2.4V/cm, T方向ショックでは3.6 V/cm以上)の電場強度では不応期の延長が起こ り,この延長の程度は刺激のタイミングが心筋の 再分極相の後期になるほど,また,電場強度が強 くなるほど大きくなった.この結果はウサギの乳 頭筋を用いて行った。Knisleyら9)の実験と定性的 に一致している.K:nisleyらの実験結果では,線維 方向による通電効果の差が4.OV/cmで最大と なっているが,彼らは電場刺激に我々が用いたパ ルス(10msec)よりも短いパルス(2msec)を使 用しており,電場強度の違いはこのパルス幅の差 によるのかもしれない.また,実験動物の種差の 影響もあると思われる. 電場理論より形態的にL方向ショックの方が 通電効率が高いため,静止期相刺激閾値と同様再 分極相における不応期延長効果はL方向ショヅ クの方が大きく認められた.しかし,線維方向に よる延長効果の差は,1.2V/cmでは認めず,2.4 V/cmの時に最:も大きくなり,7.2V/cmでは再び 差が認められなくなるという性質を示し,静止期 刺激閾値の差や電場理論からは説明できず,細胞 や組織の生物学的な特性を考慮する必要がある. 3)電場通電による催不整脈作用 心室頻拍,心室細動発生の機序としてはre− entry, triggered activity, automaticityが考えら れる.電場通電による自発興奮の発生は60V/cm 以上の強い通電時に認められ10>,通常体表面より 行う直流通電の際には出現しないと考えられ,通 常の電場通電の際の心室頻拍,細動の発生機序と してtriggered activityやautomaticityの関与 は少ないものと考えられる.今回の研究により確 認された通電効果,即ち,静止二心筋細胞の興奮 と,再分極相細胞の不応期の延長は新しい興奮前 面の出現と一方向性ブロックを作り,心室頻拍, 細動を発生する可能性がある。 実際に心臓全体に直流電場通電をかけた場合, 心臓の各部における電位の大きさ(電位勾配:V/ cm)は通電電極の接触部が最も大きく,電極より 遠ざかるにしたがい小さくなる1D.この直流通電 による新しい電位勾配の出現は,今回の実験で得 られたように,電位勾配に呼応した静止期細胞の all or none response,再分極相心筋細胞の不応期 延長,再分極相の不均一化を起こす.さらに,心 室内の興奮伝導には,洞調律においても70msec 前後を要し,心室筋細胞が興奮する時相に差が二 一396一められるため,同一通電が異なる連結期で加わる ことになり,不応期の反応はさらに複雑になる. 隣接する細胞間での不応期の差が大きいと興奮伝 導の断絶を作り易く,一方向性プロヅク,緩徐伝 導の原因となり,このような場所が心室内にre− entry発生の素地を造り,電場通電による心室性 頻拍などの催不整脈作用のメカニズムの一因とな ることが推測される. 直流通電により心室細動が誘発される際の心室 マッピングを行うと,同一通電では,通電部より 離れた特定の所に興奮波が生じ旋回が生じる12). この機序について,柴田らは不応期の延長による 一方向性ブロックの出現がre−entryによる旋回 性興奮を引き起こし,心室頻拍,細動となると予 測した.そしてそれまで直流通電による除細動を 行うためにはcritical massの興奮波を消失させ ることが必要と言われていた13)ことに加えて電場 刺激自体が細動を誘発しないことが必要であるこ とを実験データより推測した.Frazierらは,電場 刺激により発生する旋回性興奮について検討を加 え,特定の電場の強さと連結期の刺激があたえら れた部位が旋回の開始点であることを見出し,そ の発生のメカニズムとして,一方向性ブロックの 形成によるre−entryであることを示した14).彼ら は,その機序として通電による一時的な不応期の 延長を予測したが,今回の研究により,この予測 が正しいことが確認された. 2.直流電場通電に対する丘ber orientationの 関与 心筋組織の線維方向による伝導速度,伝導性の 違いは以前より言われており2)3>15),心室頻拍や細 動の原因となることが推測されている.Spachは
L方向とT方向の伝導の安全率の違いが一方向
性ブロックを作り,re−entryによる心室頻拍を起 こすとのべている16).また,児玉らは,L方向の伝 導は,T方向に比して興奮伝導速度は速いが,立 ち上がり速度はT方向に比して遅く興奮伝導の 安全率も低いことを示した4). 本研究の結果,直流電場通電による興奮閾値や 不応期の変化は,細胞線維方向により異なること が示された.これは,上述したように,細長い楕 円型に近い形態が電場から受ける効果に違いがあ ることが要因の一つである.静止期相の細胞はこ の通電効果に伴いall or none responseを示す が,再分極相の細胞の反応は通電量,連結期,線 維方向に応じて不応期が延長する複雑な反応を示 し,線維方向による差は2.4V/cmで最も大きかっ た.前述したように,隣接する細胞の不応期が大 きいほど興奮伝導のブロックを起こしやすいた め,実際に心臓に通電した際,2.4V/cmの通電が 加えられる部位で線維方向が異なる細胞が隣接し ているところは,re−entryが発生する可能性が大 きくなる.実際の心臓においては,心筋線維方向 は複雑であり,通電時の個々の心筋線維での反応 を推測することは困難であるが,線維方向による 反応の差が心室細動の誘発に大きく関与している ことが推測された. また,飾er orientationによる再分極修飾反応 の差は2.4V/cmで最も大ぎく認められたことは, 線維方向に起因する直流通電後の再分極相の不均 一性は,比較的弱い電場強度(閾値の3倍以下) の時大きく認められることを示し,直流電場通電 による心室粗細動の誘発は比較的小さいエネル ギーで起こりやすく,また,誘発できるエネルギー に上限があるという柴田らの研究結果7)との関連 性を示すものと考えられた. 比較的小さいエ・ネルギーによる通電が逆に心室 細動等の不整脈を起こしやすくするということ は,より小さいエネルギーで除細動を行うために は大きな障害となる.さらにこの催不整脈作用に 飾er orientationが関与している可能性があり, より効率の良い除細動を行うためには,fiber ori− entationと直流通電による細動の発生に関する 詳細な研究も必要と考えられた. 結 語 心筋細胞の静止期刺激閾値は,通電方向により 異なり,常に短軸方向(T方向)通電の方が長軸 方向(L方向)通電時より刺激閾値が高いことが明 らかになった.また,心筋細胞の再分極相(re− polarizing phase)に加えられた通電刺激は不応 期の延長をもたらすが,この効果は通電量,・連結 期,通電軸により異なり,通電軸による不応期延長効果は2.4V/cmにおいて最も大きく認められ た.これら直流通電効果の違いは心臓に直流通電 が.加えられた.際,再分極相の不均一.をもたらし, 直流電場通電の催不整脈作用の一因と..なることが 推測された.. 稿を終えるにあたり,本研究に関する御指導,御校 閲を賜りました名古屋大学環境医学研究.所,外山淳治 所長,児玉逸雄教授,東京電気大学理工学部応用電子 工学科,福井康裕教授,佐久間一郎助教授に深謝致し ます.また終始御指.導頂きま.した細田瑳一教授,.柴田 仁太郎博士に御礼申しあげます. 文 献 1)Wiggers CJ, Wegria R:.Ventricular且brilla− tlon due to single, localized induction and con− denser shocks apPlied during the vulnerable phase of ventricular systole. Am J Physiol 128:500−505, 1940 2)Tsuboi N, Kodama I, Toya血a J et al: Anisotropic conduction probert.ies of canine ventricular muscles..Jpn Circ J 49:48㍗498, 1985 3)Wit LA, Dillon MS, Coromilas J: Anisotropic reentry in the epicardial border zone of卑yocardial infarcts. Ann NY Acadミci 591:86−108, 19gQ 4)児玉逸雄:心筋のAnisotropyと興奮伝達. Jpn J EI.ectrocardio110:S2・16−S2−35, 1990 5)Tung L, Sliz N,. Mulligan MR:Influence of electrical axis of simulation on ex.citation of cardiac muscle cells. Circ Res 69:722−730,1991 6)Klee M, Plonsey R: Stilnu童ation of spher・ oidal cells。 The role of cell shape. IEEE Trans Biomed Eng 23:347−354,1976 7)Shibata N, Chen PS, Idecker RE et al: 1赴且uence of shock strength and timing on induction of ventricular arrhythmias in dogs. Am J Physiol 255:H891−H901,1988 8)Sweeney RJ, Gil.l RM, Steinberg MI et al: Ventricular refractory period extension caused by defibrillatiQn shocks. Circulation 82: 965−972, 1990 9)Knisley SB, S置nith WM, Ideker RE:E仔ect o伍eld stimulation on cellular repolarization in rabbit myocardium. Circ Res 70:707−715,1992 10)児玉逸雄,柴田仁太郎.,佐久間一郎ほか:直流高 電圧負荷時の心筋膜電位動態.心臓2.5: 447−455, .1993 11)Cben PS, Wolf PD, Claydon FJ:The poten・ tial gradient field created by epicardial defibri至lation electorodes in dogs. Circulation 74:626−636, 1986 12)Shibata N, Chen PS, Dixon DG et a.1: Epicardial.activation following unsuccessful defibrillation in dogs,.Am J Phys{.ol 255: H902−H909,1988 13.)Zipes DP, Fisher J, K孟ng RM et.al:Termi・ nation of ventricular fibrillation in dogs by depolarizing a critical amout of myocardium. Am J Cardiol 36:34−44,1975 14)Fmzier DW, Wolf PD, Wharton JM et al l Stimulus並duced critical point:Mechanlsm for electricahnitiation of.reentry in normaI canine myocardium. J CIin Invest 83: 1039−1052, 1989 15)Sano T, Takaya瓢a N, Shimamoto T:Direc」 tiona重differrence of conduction velocity in the cardlac ventricular syncytium studied by mi− croelectrodes, Circ Res 7:262−26…7,1959 .16)Spach MS, Mi1霊er WT III, Gese垂owitz DB et a星: The discon亡inuous nature of propagation in normal can.ine cardiac Inuscle. Evidence for recurrent discontinuities of intracellular resis. tance that affect the membrane currents. Circ Res 48:39−54,1981 一398一