原 著 〔三女麟,。第繍、、撰言〕
糖尿病患者における尿中微量アルブミンおよび
NAG濃度測定の有用性
東京女子医大糖尿病センター オダギリ レイ コ ヒラ タ ユキ マサ小田桐玲子・平田幸正
東京女子医大,ラジオアッセイ科 ノムラ タケノリ ァカシ ヒロコ デムラ ヒロシ野村 武則・明石 弘子・出村 博
(受付 昭和60年11月19日)Clinical Usefullless of Measuring Urinary Albumin and N−Acety1・β・ D・glucosaminidase in Diabetic Patients
Reiko ODAGIRI and Yukimasa田RATA
Department of Diabetes Center, Tokyo Women’s Medical College
Takenori NOMURA and Hiroshi DEMURA
Department of Radioimmunoassay, Tokyo Women’s Medical College
The purpose of this study was to evaluate the clinical usefulness of measuring urinary albumin and
N−Acetyl一β一D−glucosaminidase (NAG)in random urine specimens from diabetic patients without
proteinuria. Urinary albumin was measured by radio−immunoassay’s methods. The results were ex− pressed as the albumine/creatinine(mg/g. Cr)and NAG activity/creatinine(U/g. Cr)ratio as albumin
index and NAG index, respectively.
1)The values(Mean±S.E.)for albumin index in normal control subjects and diabetic patients were
4.8±2.6,13.1±12.0;for NAG index 3.1±2.1,9.4±4.8, respectively. The differences between the two
groups were all significant(p<0.001).
2)Both index were higher in diabetics with intermittent proteinuria or hypertension and lower in
patients without proteinuria(p<0.05, p〈0.001).
3)There was statistically significant correlation between HbAI and urinary NAG, albumin index
(p<0.005,p<0,01).
This study suggests that urinary albumin, NAG index in diabetics without proteinutia wi11 be a usefuI
tool in screening for ealy renal changes in diabetics.
はじめに 糖尿病性腎障害の診断は臨床的に持続性蛋白尿 の発現によりなされている.しかし,糖尿病患者 の管理において尿蛋白陽性となる以前の時期にお ける腎病変の状態をチェックすることは重要なこ とであり,このために各種尿中臨幸蛋白や酵素の 測定が行なわれている. 糖尿病患者では,尿蛋白陰性であっても健常者 と比較して尿中アルブミン,低分子蛋白や酵素の 排活量が有意に増加していることが明らかとな り1)動これらの尿中微量物質を測定することは早 期の腎病変を検討する有用な方法と考えられてい る.従来,これらの尿中物質ことに徴量アルブミ ンの測定は,その操作,手技が繁雑かつ24時間畜 尿という不便さのため広く臨床に用いられていな い.私共は,簡単かつ多数の検体の処理が可能な
尿中徴量アルブミンのRIA法を確立し報告し
た10).今回この尿中微量アルブミンRIA法を用いて外来通院中の糖尿病患者で紙誌紙法にて陰性を 呈した者の随時尿中のアルブミン濃度(mg/1:以 下HUAと略す).クレアチニン濃度(g/1)を測定 しその比を求めアルブミン指数として表わした.
また尿中酵素のうち近位尿細管曲部上皮の
1ysosomeに生来する1つの酵素としてN−
Acetyle−B−D−glucosamidase(以下NAGと略す) を測定し,クレアチニン比(NAG指数)として表 現し,アルブミン指数と共に臨床所見との比較検 討した. 対 象 定期的に糖尿病センター外来に通院中の糖尿病 患者につき受診時の随時尿検査にて試験紙法(ラ ブステックS.G.ウロラブステックスIII,マイルス 三共)による尿蛋白陰性であったインスリン非依 存性糖尿病患者154名の尿につき尿中アルブミン, クレアチニン濃度,NAG活性を測定.154気中過 去6ヵ月∼1年間5回以上検査し,蛋白尿が常に 陰性であったもの(1群)120名,検査当日尿蛋白 陰性であったが過去1∼2回偽陽性を示したもの (II群)20名,高血圧を合併し降圧剤を服用してい るが尿蛋白陰性のもの(III群)5名,高血圧と間 歓的尿蛋白偽陽性であったもの(IV群)9名につ き臨床像と対比した.平均年齢49.5歳であった. 健常対照群は腎疾患,高血圧,糖尿病,肥満のな い25名,平均年齢28.8歳であった.各回とも血清 クレアチニンは0.8∼1.4mg/dl(平均1.02±0.1), 方 法 1.尿中アルブミン濃度の測定 私共の開発した尿中アルブミンRIA法を用い た10).すなわち,原尿または標準液を0.1mlに Division Mils Laboratorisの抗ヒトアルブミン 家兎血清(×4000)0.2mlと1251一ヒトアルブミン (同社のヒトアルブミン結晶:Fraction Vを用い たクロラミンT法によりヨード化を行なった) 0.2ml,抗家兎第2抗体0.2mlとincubation 4℃ overnight後4℃,3000rpm 30分遠心し,沈澱物 をr一カウンターにて計測した.2.尿中NAG活性測定
人工基質Sodio−m−cresolsulfon phthaleinyl N− Acetyl一β一D−glucosamimidaseを用いたNAGシ オノギキヅトで測定した. 3.尿中クレアチニン濃度 クレアチニン試薬:栄研を用いて測定した. 4.HbA1測定 HPLC法(Auto Al,京都第1科学)により測 定した. 有意差検定は,studentのt一検定を用いた. 結 果 1.健常者と糖尿病老における随時尿と24時間 尿中アルブミン,NAG指数の比較. a)随時尿について 健常者25名の尿中アルブミン濃度は1.8∼12.O mg/1でその平均6.9±5。!(M±SE)mg/1であり, 同時に測定したクレアチニン濃度との比,即ちア ルブミン指数は4.8±2.6mg/g・Crとなった.また NAGについてみると平均NAG活性は3.1±2.1 U/1,NAG指数は3.1±2.1U/g・Cr(M±SE)で あった.糖尿病患者154名の平均アルブミン濃度は 9.2±8.2mg/1,アルブミン指数は13,1±12.Omg/ g・CrとなりNAG活性値は14.5±10.4U/1, NAG 指数9.4±4.8U/g・Cr(M±SE)であった. b)24時間尿について 健常者(20名)の24時間尿中アルブミン濃度の 平均値は5.7±2.6mg/1,アルブミン指数4.6±2.4 mg/gCr(M±SE),この時のNAG活性は3.1± 2.1U/1, NAG指数2.5±1.2U/gCr(M±SE)で あり,糖尿病患者(30名)のアルブミン濃度は9.4± 8.4mg/1,アルブミン指数は13.1±10.8mg/gCr となりNAG活性値は15.4±9.4U/1, NAG指数 は9.85±3.2U/gCrとなった. 随時尿,24時間尿中アルブミン濃度と指数, NAG活性値と指数は健常者に比し糖尿病患者で 有意に高値となった(p<0.001).しかし,健常者, 糖尿病患者ともに随時尿と24時間尿との間には有 意な差がみとめられないことより,以下,随時尿 につき検討した.また随時尿を用いるため各濃度 を測定し,クレアチニンで除した値すなわち指数 で表現した. 2.糖尿病患者の尿中NAG指数とアルブミン 指数(Fig.1) 試験紙法による随時尿中の蛋白尿陰性であった15 言 響 斎 超 ,≡ 10 署
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25 N 120 20 5 9 numberIII III配 NIII m Wgroup
Fig.1Urinary NAGindex Albumin index in Diabetus(M±SE).
糖尿病患者154名につき,過去6ヵ月∼1年間5回 以上測定した尿蛋白が全て陰性であった1群,こ のうち1∼2回偽陽性を示したII群,高血圧を合 併し蛋白尿陰性のものIII群,高血圧と間歓的蛋白 尿をみるものIV群として分類し, NAG指数.求め ると,糖尿病患者の各群ともに健常者に比較して 有意な高値を示し,かつ1群とII群, III群, IV群
との間にも明らかな差異を認めた.(p〈0.001)ま た,アルブミン指数についても糖尿病患者各群は 健常者に比し明らかに高値となった(p<0.001). 蛋白尿陰性1,II群に比較して間歓的偽陽性を呈 したII, IV群では明らかに高値であった.(p< 0.005)これらの事柄より蛋白尿陰性者とは今回1 群(120名)として検討した. 3.年齢別にみた尿中NAG指数とアルブミン 指数(Fig,2) 蛋白尿陰性のもの120名を各年代別に分類し比 較してみると,NAG指数は加齢による差異は認 められなかったが,アルブミン指数は加齢にとも 20 君 砦 葱L5 ヨ 累 三 乱 智’〔’ 葱 遷 ’1 差, 0 τ:M±sE めロ ぬ ノ レ/
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ない順次高値となり,ことに20歳代と60歳以上,
30歳代と60歳以上とは明らかな差異を認めた
(各々p<0.05). 上記1,2の結果より1群で,かつ年齢60歳以 上を除いた100名につき以下の検討を行った.4.HbA1と尿中NAG指数とアルブミン指数
(Fig.3) 採尿と同時に採血測定したHbA1濃渡(%)を 8,6,10.6,12.6%未満と12.6%以上に分類し各群患者につきNAG指数とアルブミン指数をみる
と,NAG指数はHbAl濃度が高くなるにしたが
い有意に高値となった(p<0。005).一方アルブミ ン指数はHbA1濃:度が高くなるとわずかに高値傾 向となるものの明らかな差は認められなかった.5.治療法別にみた尿中NAG指数とアルブミ
ン指数(Fig.4) 食事療法単独群32名,食事療法と経口血糖降下 剤の併用群25名,インスリン使用群32名につき尿 中NAG指数をみると経口血糖降下剤併用のもの が食事療法単独群,インスリン使用群に比し有意 に高値となった.アルブミン指数は健常者に比し 糖尿病患者では治療法別に関係なく著しい高値で あった(p〈0.001).しかし,治療法別にみると, インスリン使用群では経口血糖降下剤併用群より 三値であった(p〈0.01).NAG指数,アルブミン 指数ともに経口血糖降下剤併用群で明らかに高い ため,各群の年齢とHbA、を求めた所,食事療法単 独群の平均年齢,HbAl(M±SD)は,48,5±8.6 歳:9.31±1.7%,内服剤併用群では52.7±7,7 歳:10.64±1.9%,インスリン使用群は40.9± 13.4歳:11.13±2.1%であり年齢の影響も否定出 来ないようであった. 6.糖尿病性網膜症と尿中NAG指数,アルブミ ン指数(Fig.5) 検眼鏡的検査により糖尿病性網膜症の程度(Scott分類を用いた)を0, I a∼II, III a, III b
以上の4群に区分しNAGとアルブミン指数をみ るとNAG指数は健常者,糖尿病性網膜症の重症 度の間には一定の関連がみとめられない.アルブ ミン指数は健常者に比し糖尿病患者で明らかに高 値であった(p<0.001)が糖尿病性網膜症の程度 との間には明らかな差はみられなかった.また糖 尿病の推定罹病年数と尿中NAG,アルブミン指 数との間にも関運がみられなかった. 考 察 臨床的に糖尿病性腎症は一般的に蛋白尿の出現 をもって診断される,しかし,蛋白尿が陽性を呈 するかなり以前より腎糸球体病変が存在すること が知られ,より早期の腎病変が把握されれぽ,そ の進展予防は糖尿病患者を管理してゆく上に重要 なことである.最近,尿中蛋白を分析することに より,腎病変の存在部位や病変の障害程度も推定 することが可能となり,腎痴二時の蛋白尿は腎糸 球体障害で生ずる蛋白尿(アルブミンを中心とす る分子量5万以上の蛋白)と尿細管障害で生ずる
蛋白尿(分子量4万以下の低分子蛋白として
β2一マイクログロブリン,α1一マイクログロブリ ン等)に分類されている11).その他,近位尿細管上 皮細胞に存在する酵素(NAG, GTP, LDH, Al−p 等)が知られその測定が有用視されている.今回, 私共は試験紙法により尿蛋白陰性であった糖尿病 患者の随時尿につき,糸球体蛋白であるアルブミP〈0.01 伊 興 属 彗
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琵 15 10 5 0NAG
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Fig.4 Treatments and Urinary Albumin・NAG index.
ンと尿細管障害時に逸脱するlysosonal enzyme の1つであるNAGをとりあげて臨床所見と対比 した.受診時の随時尿が試験紙法尿蛋白定性検査 で陰性を示しても過去6ヵ月∼1年前に5回以上 測定した尿蛋白が1∼2回偽陽性であった間歓的 蛋白尿(II群)と高血圧を有しているが尿蛋白陰 性のIII群のNAG指数,アルブミン指数は尿蛋白 陰性の1群に比較して有意な高値であった(p< 0.001).また,尿蛋白陰性であった1群につき年 齢別に分類した所NAG指数においては,加齢に よる差異は認めがたいが,アルブミン指数は60歳 代より著しく高値となり,20歳代,30歳代に比し 有意な高値を示し(共にp〈0.05),加齢による変 化が観察された.飯村ら9)は健常者につきNAG指 数と総蛋白指数(比沈法)を検討し,NAG指数の みに加齢による上昇を認めたと報告した.私共は 糖尿病患者でのみに年齢別相異をみたものである ためか,彼らと異った結果が得られた.これらの ことより以下の検討には,1群のみとした.即ち, 過去6ヵ月∼1年間で5回以上測定した尿蛋白が 全て陰性であり,年齢60歳以下に限定した. 健常者では,アルブミンは糸球体より少量炉過 されるが,大部分尿細管より再吸収され尿中へは 極微量しか排泄されない.糸球体の障害にともな い尿中排泄量の増加がみられるようになる.Mor− gensenら13)は,尿中微量アルブミンを測定し,異 常高値を示した人を7∼14年間経過をみた所,ア ルブミン排泄量の多い群より腎症の発症が高頻度 に出現することを指摘し,尿中微量アルブミンは 腎症の早期診断に有用であると結論している.今 回私共の検討では,健常者に比し糖尿病患者の尿 中アルブミン指数は有意に高値であった(p<
P〈0.001 曾 智 浜 選 δ 琵 15 10 5 mormal contro1 15 10 君 盤 ε 茗 ,三 ・舞 三 く 5 0
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Fig.5 Diabetie retinopathy and Urinary Albumin・NAG index
占・M・ 0.001).この高値であったもののうちから腎症が 発生してくるか否かはより長期観察を要するもの と思われるが糖尿病患者における尿中アルブミン 排泄:量の増減は,血糖コントロール状況を反映す るHbA、と良く相関すると報告され4)9)今回の検討 では尿中アルブミン指数は,HbA1が高くなるに したがいわずかに高値となるが,明らかな相関々 係はみとめられなかった.このことは,HbAlは過 去一定期間内の血糖値の平均値を示すものであ り,尿中アルブミン指数は,ある時点のみをみた ために有意差が認めにくかったと思われた.一方
NAG指数はHbA1とよく相関し,諸家の報告さ
れたインスリン非依存型糖尿病患者の成績と一致 した5)∼9).また,インスリン依存型糖尿病患老においてもHbA、cと尿中NAG指数は相関々係を認
めたことをすでに報告した12).尿蛋白陰性を示し た糖尿病患者(タイプ別にみたとしても)では, 健常者に比し明らかに尿中アルブミン,NAG指 数ともに高値であったことは,一糸球体基底膜の 蛋白透過性の充進や近位尿細管の細胞障害が推測 されるが,糖尿病性網膜症の重症度別,推定罹病 期間との間に明らかな関係がみとめられないこと から,測定時の糖尿病の代謝状態の関与が大きい ものと推定されよう.NAG指数についてEllis ら6)は,HbAlcの改善にともない, NAG指数は低 下してゆくと報告していることから,今回随時尿 でNAG指数が高値であったものを完全に代謝状 態を改善させ,より長期間良好なコントロールを 維持させることに努力することが腎症の発症を阻 止されうるものと思われるが,今后さらに経過を 追って観察すべき問題であろう. 糖尿病の治療法別には,一般には,インスリン 使用者のNAG指数,アルブミン指数は高値であ るとの報告が多いが7》∼9)私共の今回の成績では, 経口血糖降下剤併用群が食事,インスリン使用群 に比し明らかに両指数とも高く,HbA1からみた代謝状態より年齢を60歳以下に限定して検討して も経口血糖降下剤併用群の年齢が高かったことも 一因と思われる. ま とめ 試験紙法による随時尿検査で陰性を示したもの でも,過去6∼12ヵ月1∼2回以上偽陽性を認め たもの(II群),高血圧を有するもの(III, IV群), 年齢60歳以上のものでは,全くこれらのないもの に比し,尿中NAG指数,アルブミン指数は有意に 高値となった.過去において,全く尿蛋白陰性で あった1群でも健常者に比し尿中NAG,アルブ ミン指数共に有意に高値であり,HbA1とよく相 関したことは,糖尿病患者においては,その代謝 状況に影響されるものと思われた. 文 献
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