外国人観光案内所の実態に関する研究
著者
矢田部 暁
著者別名
YATABE Satoru
雑誌名
東洋大学大学院紀要
巻
52
ページ
39-60
発行年
2015
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008718/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja― 39 ―
目次
第1章 はじめに 1.1 研究の背景 1.2 研究の目的 1.3 先行研究 第2章 外国人観光案内所整備の現状 2.1 外国人観光案内所のあり方に関する検討 2.1.1 外国人観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 2.1.2 国内の観光案内所における外国人観光客の受入実態調査 2.1.3 海外の観光案内所の事例 2.2 新たな外国人観光案内所認定制度の導入 第3章 外国人観光案内所の現場の状況 3.1 成田国際空港外国人観光案内所(成田TIC)の状況 3.2 湘南FUJISAWAコンシェルジュの状況 3.3 東京シティアイの状況 第4章 JR東京駅案内所の案内業務事例の整理および分析 4.1 質問者の案内所来訪主目的 4.2 質問者の訪問先 第5章 おわりに 5.1 考察 5.2 提言 5.3 課題と今後の研究の展開 参考文献外国人観光案内所の実態に関する研究
国際地域学研究科国際観光学専攻博士前期課程修了
矢田部 暁
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図表目次
<図> 図1 観光案内所の訪問目的および満足度 図2 観光案内所運営上の課題事項 図3 成田TIC来訪外国人数(2013年度) 図4 訪日外国人旅行者数(2013年) <表> 表1 観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 概要 表2 観光案内所に対する実態調査 表3 フランスの観光協会・観光案内所で使用されていた格付け 表4 フランスの観光協会・観光案内所のカテゴリー区分 表5 外国人観光案内所認定カテゴリーおよび件数 表6 JR東京駅外国人観光案内所質問者の来所目的 表7 JR東京駅外国人観光案内所質問者の訪問地第1章 はじめに
1.1 研究の背景 2003年1月の小泉総理大臣(当時)の施政方針演説において、観光の振興に国を挙げて取 り組み、2010年までに訪日外国人旅行者数を1,000万人にすることが目標とされた。2002年 の訪日外国人旅行者数は523万人であったことから、7年間でその数を倍増させるという方向 性であった。その後、日本における観光立国の基本的なあり方を検討するために、2003年1 月に「観光立国懇談会」が開催され、その報告書が同年4月に取りまとめられて、観光立国 の実現に向けた本格的な取り組みが開始された。そして、観光立国の実現に関わり外国人旅 行者の訪日を促進するための施策として、国、地方公共団体および民間が共同して行う、国 を挙げての戦略的な訪日促進の取り組みである、ビジット・ジャパン事業(VJ)が2003年4 月より開始され、今日に至っている1)。 2003年以降の訪日外国人旅行者数は、同年の521万人から2004年は614万人、そして2005年 は愛知万博の開催に際して、韓国および台湾からの訪日旅行者に対する短期滞在査証の免 除、中国からの団体訪日旅行者への団体観光査証の発給対象地域の中国全土拡大もあり、 673万人となった。その後も順調に増加し、2008年には835万人に達して、2010年までに1,000 万人の目標に近づいた。しかし、2009年は世界金融危機の影響等もあり679万人に減少し、 2010年は増加に転じたものの861万人にとどまり、2011年は3月11日に発生した東日本大震災 と、それによる福島第一原子力発電所に関わる放射能の懸念等の影響により、2005年と同水― 41 ― 準の679万人へ大きく減少した2)。 しかし、2012年は836万人にまで回復し、2013年はタイおよびマレーシアからの訪日旅行 者に対する短期滞在査証の免除等もあり、当初の目標に掲げた1,000万人を超え、1,036万人 を記録した。更に2014年は円安効果や中国および東南アジアからの訪日旅行者の増加等によ り、1,341万人に達した3)。 このように、2003年のVJ開始時に521万人であった外国人旅行者は、途中で減少した年も あったものの、10年後の2013年には1,000万人を超えて1,036万人と倍増している。そのよう な中で、訪日外国人旅行者のうち、FITと言われる、団体ツアーに参加せず個人で旅行する 人の割合は、観光目的で訪日した旅行者のうち2012年は60.8%、2013年61.6%、2014年66.7% と年々増加している4)5)6)。FITの増加により、外国人旅行者がひとり歩きしやすくするための 体制整備がより重要となってきている状況において、その最前線で対応している観光案内所 の存在も、より重要性を増している。 1.2 研究の目的 FITの増加により、訪日外国人旅行者の受入体制整備がより重要になってきており、その 最前線で対応している観光案内所の重要性も高まってきていると考えられる。そのため、本 研究においては、次の三項目を中心に調査、分析し、考察を行うこととした。 一つ目は、日本における外国人対応の観光案内所の状況とその意義についてである。スマ ートフォン等の普及によりインターネットを通した情報収集を行う旅行者が増えていると考 えられるが、一方でFITが増加している中、交通結節点や主要観光地等において、対面で対 応する観光案内所の存在もより重要になってきていると考えられる。その点について、日本 における政策や案内所利用者からの調査、海外の事例等により、その意義およびあり方につ いて検証し考察する。二つ目は、多くのFITが訪れる観光案内所へもたらされる質問内容の 整理し集計を行い、動向がつかみにくいFITの訪日目的や国内訪問地における行動について 検証を行うとともに、案内所の事例分析を行うことの意義を明らかにする。そして三つ目は、 案内所に寄せられる困りごとや不自由に感じた事柄より、訪日外国人旅行者の受入体制整備 にあたり、必要と考えられる内容は何であるかについて考察を行う。これらを行うにあたっ ては、観光庁やJNTO等の既存資料の整理や、これらとの比較等を行いながら検証を行う。 1.3 先行研究 観光案内所の意義や、その活用等に関する先行研究は少ないが、日本国内において観光案 内所の運営を行う観光協会等が、いかなる形で存在すれば、観光案内所における情報提供等 の体制が整い、効率的、効果的な運営を行うことができるかについて、海外の成功事例の整 理を行った井上(2009)7)の既往研究がある。同論文においては、2007年6月に閣議決定され
― 42 ― た観光立国推進基本計画に基づき、地域観光施策を実現するにあたっての、当該地域の地方 公共団体、観光協会、観光関連団体等との連携のあり方、また、各地域の観光協会および観 光案内所におけるサービスの提供、運営資金等と、それに関わる行政組織のサポート体制に ついて、群馬県を事例として論じている。 当該地域において観光客を迎え入れるにあたっては、当該地域に関する案内が重要であり、 それを行う施設として観光案内所が重要な役割を担い、欧米の都市、観光地の駅周辺や交通 結節点には必ず来訪者に対してきめ細かい観光案内を行う観光案内所が設置されているとし ている。そのため、群馬県においても観光客を受け入れるにあたって、まず整備されるべき は観光案内所であり、群馬県における観光案内所のサービス内容やその運営形態等について 調査を行っている。 一方、欧米の中でも観光案内所システムが先進的であるといわれているオランダにおける 観光協会および観光案内所の状況がまとめられている。全国の観光案内所から情報を集約し、 それらを全国の観光案内所へ共有する役割を果たし、旅行者への直接の案内業務を行ってい ない統括的役割を果たす観光案内所が存在しており、これにより全国どこの観光案内所でも 同質の情報が提供できる体制となっていることが興味深く、この点に関しては、本研究をま とめる上で意義のある内容と考えられる。 また、小松他(2007)8)においては、奈良市における訪日外国人旅行者の旅行背景、意識、 行動の実態について、外国人旅行者へのアンケート調査を行い考察している。同調査の概要 は、質問項目については属性、訪日旅行、奈良訪問、および奈良の受入環境評価の4部門18 質問となっており、調査手順は2006年4月から6月にかけて東大寺の中門前にて、外国人旅行 者への自記入形式によるアンケート調査にて実施、有効回答数は679となっている。回答者 の性別は男性49.9%、女性50.1%と半々であり、年代は10代から60代以上、国籍エリアの構成 比は、欧州43.4%、北米27.1%で全体の7割を占め、アジアは22.8%となっている。 同調査において、より本研究との関連が深いと考えられるのは、受入環境分野に関する部 分である。同分野については、電車、バス、タクシー、道路・歩道、観光案内所、観光施 設、買い物施設、食事施設、および宿泊施設について、それぞれ表示のわかりやすさや係員 の接遇態度、料金等について、1(非常に悪い)から5(非常に良い)までの5段階で評価さ れるようになっており、その平均値が算出されている。これら9つの分野の中で、最も評価 が高かったのが観光案内所と宿泊施設であり、観光案内所に関わる評価項目別では、係員の 接遇態度4.67、案内所の場所の分かりやすさ4.41、外国語表記の資料の数・質4.28といずれ も4を超えており、設置場所や観光情報、スタッフの質が高く評価されていることが示され ている。また、案内所に関する自由記載欄においては、36回答中34回答が、スタッフが親 切・有能等の肯定的な回答をしており、奈良市の観光案内所は、外国人旅行者より高い評価 を得ていることがわかった。
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矢ヶ崎(2014)9)では、旅行・観光に関する評価指標にみる日本のインバウンド観光振興 の課題について、世界経済フォーラム(WEF)が隔年で発表しているThe Travel and Tourism Competitiveness Index (TTCI) 、および米国・ニューヨーク市の世界的なブラン ド・コンサルティング企業であるFuture Brand社が行っているCountry Brand Index (CBI) より分析を行っている。 WEFは、旅行・観光産業に関係する事項について、周到に事前調査を行った上でTTCIの 作成を行っており、TTCIにおける順位の高さと、当該国を訪れる外国人旅行者数とその消 費額はほぼ相関関係にあることが証明されているとしている。同調査は140カ国・地域が対 象となっているが、日本の順位については、最初に発表された2007年の25位から、2008年23 位、2009年25位、2011年22位、2013年14位と徐々に順位を上げてきており、その結果に関わ る詳細について、サブインデックスおよび各サブインデックスを構成しているピラーの順位 をもとに、経年変化や他国との比較により分析を行っている。 サブインデックスはA旅行・観光の規制フレーム、B旅行・観光のビジネス環境とインフ ラ、C旅行・観光の人的、文化的、自然資源の3項目からなっており、観光案内所に関して は、B旅行・観光のビジネス環境とインフラ(24位)における第8ピラーの観光インフラ (53位)に該当するものと考えられるが、同ピラーには国民100人あたりの客室数(20位)、7 大大手レンタカー会社の数(82位)、および国民100万人あたりのVISAカード利用可能な ATM数(59位)の3項目のみが明示されており、日本の観光案内所が世界の中でどの程度整 備されているのかについて、具体的な指標を得ることはできなかった。 CBIについては、世界中の旅行者等が商品の購入や旅行目的地の決定等を行う際に、その 国に関して持ち合わせている情報やイメージに影響されているとのFuture Brand社の考え のもと、それらを測定するために2005年より行っている指標である。世界118カ国が対象と なっており、各国の文化、産業、経済的活量、政策の動向について、関連するデータ、専門 家からの意見聴取、将来予測、報道等を総合的にまとめているもので、その評価項目は価値 体系、生活の質、ビジネス環境、遺産・文化、および観光の5項目となっている。 この5項目のうち、観光については、2011年まで項目に入っていなかったものの、同社に よる世界的な産業の一つとなっているとの認識のもと、同年より項目に加わり、その詳細な 評価項目として、金額に見合う価値、魅力、リゾート・宿泊施設、食事、買い物、ビーチ、 ナイトライフの7項目が設けられた。この観光分野において、日本は2011年1位、2012年は2 位と高い評価を得ている。その要因は、魅力1位、食事3位、買い物5位、金額に見合う価値6 位等が関係しているとしている。 CBIに関しても、観光案内所に関する項目は設けられておらず、その直接的な評価を得る ことはできなかったが、日本の魅力が1位にランクされているなど、側面的に観光案内所に おける接遇等も寄与しての評価とも考えられる。
― 44 ― 岩本(2001)10)においては、インバウンド・ツーリズム政策に関する考察として、1965年 以降、1999年に至るまでの一般歳出に占める日本のインバウンド振興の中核組織である JNTOの予算配分比率が低下していることや、その比率が他の主要国・地域と比較しても低 いこと、また、1997年における日本の人口1人あたりの訪日外国人旅行者数が0.03と、世界 全体での0.11と比較してかなり低い割合であることを挙げている。そして、今後、高齢化、 少子化が一層進むことを考慮すると、日本がより積極的にインバウンド振興を進めることに よる経済的意義も多いに増しているとしている。なお、観光案内所に関する直接的な言及が なされている箇所は見出せなかった。 河村(2003)11)においては、日本のインバウンド・ツーリズムと地方の課題について述べ ており、インバウンドの出発点は国際観光客送り出し国への観光PRであるとしている。一 方で、1997年の外客誘致法の施行と、それに基づいた訪日外国人旅行者を21世紀初頭まで に、1996年の350万人からの倍増を目標とするウェルカムプラン21の内容にも触れて、訪日 外国人旅行者への接遇、外国人観光案内所の機能向上の重要性についても言及している。 本研究においては、観光庁が実施した、日本国内の外国人観光案内所利用者および案内所 設置主体への実態調査、海外の案内所の事例調査、また、日本の主要外国人観光案内所であ る成田国際空港外国人観光案内所、およびJR東京駅外国人観光案内所に関する定量データ および案内業務事例等の整理、分析も行い考察する。
第2章 外国人観光案内所整備の現状
2.1 外国人観光案内所のあり方に関する検討 1983年よりJNTOが主体となり、外国人観光案内所網「i」システムの整備が開始され、 2010年9月に300カ所を達成した12)。そして同年に観光庁において「訪日外国人旅行者の受入 環境整備に関する検討会」が設置され、2011年には、訪日外国人旅行者の受入環境として、 外国人観光案内所が重要な役割を果たしているが、外国語対応や立地等について課題が多い として、同検討会の中に「外国人観光案内所のあり方に関するWG」が設けられた。同WG は2011年9月より12月まで4回に渡り行われ、外国人観光案内所の現状を整理するとともに、 外国人観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査、国内の外国人観光案内 所の実態に関する調査、および海外の事例調査を実施した13)。 2.1.1 外国人観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 観光庁は2011年10月に、国内8カ所の外国人観光案内所等において、来訪した外国人旅行 者に対して、外国人旅行者が観光案内所に期待する情報やサービス等について尋ね、782サ ンプルを得た。回答者の属性について、性別は男性51.9%、女性48.1%と概ね半々となってい る。年齢については20代が34.2%ともっとも多く、20〜40代が約8割を占めている。国籍につ― 45 ― いては、多い順に韓国(16.8%)、米国(13.3%)、台湾(10.7%)となっている。また、日本 への渡航歴については、初訪日48.8%に対しリピーターが51.2%と概ね半々となっている。 観光案内所訪問の目的および満足度については、公共交通機関および観光情報に関する訪 問目的が最も高く、その満足度も高い。よって、来訪者が求める観光情報については、案内 所で概ね対応出来ていると考えられる。次いで無料公衆無線LAN環境情報に関する訪問目 的が高いが、満足度は相対的に低く、またPC利用環境情報の満足度も低いことから、来訪 者が求める通信環境の情報については、提供できる情報自体が少ないこと、案内所で十分な 情報が提供できる体制になっていないことが考えられる。割引チケット・フリー切符の情報、 手配・購入に関しては、不満の割合が高い。これは、案内所スタッフからのヒアリングよ り、各旅行者の旅程や目的、予算等に応じた適切な乗車券・パスの提案を行うことは、経験 や能力が必要とされる面が大きいこと、そして、提案したパスの購入が、必ずしも当該案内 表 1 観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 概要 出所:観光庁 表 2 観光案内所に対する実態調査 出所:観光庁 表 3 フランスの観光協会・観光案内所で使用されていた格付け 出所:観光庁 出所:観光庁資料をもとに 筆者作成 図 1 観光案内所の訪問目的(左)および満足度(右) 図 2 観光案内所運営上の課題事項 出所:観光庁
― 46 ― 所やその周辺において容易に行えるとは限らないことなどが原因となっているものと考えら れる。 2.1.2 国内の観光案内所における外国人観光客の受入実態調査 観光庁は2011年に、「平成22年宿泊旅行統計」の延べ外国人宿泊者数上位50市区町村にお ける地方公共団体の運営、および「ビジット・ジャパン案内所一覧(2011年9月1日現在)」 に記載された観光案内所に対して、観光案内所についての基礎情報や利用状況、外国人旅行 者が利用する設備・備品、提供されているサービス、現在の課題等について、調査票186票 の郵送によるアンケート調査を実施した14)。 観光案内所運営上の課題としては、提供情報の収集・整理が最も高くなっており、背景に は日々変化していく新たな情報への対応の難しさが考えられる。また、予算の確保および外 国語対応可能な職員の確保が問題となっている。この点については、案内所設置主体へのヒ アリングによると、多言語に対応できるスタッフに相応の待遇を行うことの難しさのみなら ず、地域によっては外国語に対応できる人材自体の確保が極めて困難な状況の土地柄もあ 出所:観光庁資料をもとに 筆者作成 図 1 観光案内所の訪問目的(左)および満足度(右) 図 2 観光案内所運営上の課題事項 出所:観光庁 表 1 観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 概要 出所:観光庁 表 2 観光案内所に対する実態調査 出所:観光庁 表 3 フランスの観光協会・観光案内所で使用されていた格付け 出所:観光庁
― 47 ― る。 2.1.3 海外の観光案内所の事例 ①韓国 観光庁の調査によると、韓国国内には観光案内所は437カ所設置されており、うち387カ所 は公的機関が運営主体と、その比率は高く、政府観光局である韓国観光公社(KTO)直営 の案内所が4カ所設置されている。日本では、日本政府観光局(JNTO)直営の観光案内所 は有楽町の1カ所のみであり、2012年より実際の運営は民間業者への委託により行うことと なった。ここの部分は両国間での大きな違いであり、韓国においては、KTO直営の観光案 内所を持つことに重要な意義を見出しているものと推察できる。また、予算・財源について は、政府から自治体向けの案内所新設・改装、表示板関連、案内広報物関連の補助金が約50 億ウォン支出されている。 観光案内所で行っている主なサービスは、観光情報の提供、外国人観光客への通訳、交 通・宿泊・現地ツアー等の予約・販売、休憩所機能、地域特産物の販売、観光客の苦情受付 および処理等である。対応言語については、英語、日本語、中国語の3言語を基本に、地域 の状況に応じて対応している。また特徴的な取り組みとして、政府が2010年に観光案内所の 標準化のため「全国観光案内所運営指針」の策定を行った。この指針に基づき、各自治体は 観光案内所の管理・運営を行う方向となっている。さらに「i-net」と呼ばれる、各案内所 で対応した観光客別の対応内容のデータベース化とその共有を行っており、観光案内所の運 営やサービス等に反映できる体制を整えている15)。 ②フランス フランスについては、各自治体が設置する観光協会(office de tourisme)がおよそ3,600 カ所あり、その数と同数以上の公的な案内所が設置されているものと想定される。民間ボラ ンティア組織(syndicat d’ initiative)が運営している案内所は400カ所程度であり、公的な 案内所の比率がおよそ9割を占めている。2009年に実施された法律改正により観光協会の専 門性が高められ、民間ボランティア組織運営の案内所の高度化を図るため、観光協会に運営 を移行させる動きが出てきている。観光案内所で提供しているサービスは、観光情報の提供、 交通、宿泊、現地ツアーの情報提供および予約・販売、休憩所としてのサービス、地域特産 物の販売となっている。対応言語については、必須言語を決めているわけではないものの、 ドイツ語、イタリア語、スペイン語等複数言語に対応できるスタッフを揃え、英語以外の言 語でも対応できる体制整備を行っている。 また、特徴的な取り組みとして、最近まで案内所を含む観光協会の持つサービスや機能等 により4つ星による格付け制度が採用されていた。しかし近年これを改め、分類を3つに分け
― 48 ― たカテゴリー分けによる制度となった。格付け制度においては、対応言語や開所時間、サー ビス内容、設備等によって詳細に分類されている。また、項目の中には観光案内所として来 訪者に対応する範疇だけに限らず、観光協会の機能として、最上位の星4つについては市町 村の観光マーケティング政策の策定、ジャーナリズム対応やPR活動、ツアーオペレーター への支援など観光協会の業務全般が要件に含まれているところは特徴的である16)。 表 1 観光案内所を訪問する外国人旅行者に対するアンケート調査 概要 出所:観光庁 表 2 観光案内所に対する実態調査 出所:観光庁 表 3 フランスの観光協会・観光案内所で使用されていた格付け 出所:観光庁 表 4 フランスの観光協会・観光案内所のカテゴリー区分 出所:観光庁 表 5 外国人観光案内所認定カテゴリーおよび件数 出所:JNTO ウェブサイト
― 49 ― ③オランダ 同じく欧州地域で観光案内所網が先進的であると言われているオランダについては、2009 年において400以上の「VVV」と呼ばれる観光協会があり、観光案内所機能を有している。 VVVは小規模、中規模、および大規模に分類されているが、実際に対面のカウンターを設 けての案内を行っているのは小規模と中規模のみであり、大規模については中小規模案内所 に対する中央機関的役割を担っている。大規模VVVは各地域の小規模VVVより収集した情 報を、各VVVへ共有する役割を担っており、案内カウンターを設けての旅行者との直接対 応は行わないという体制をとっている。そのため、全国のどの小規模案内所においても、全 国の情報がスムーズに提供することが可能となっている。 また、VVVは、案内所を含めた外国人への受入体制に関する部門以外に、マーケティン グを行う部署も設けられており、VVVの案内所利用者の訪問目的や国籍等をデータベース 化して外客誘致等の分析に活用していることが推察される17)。 2.2 新たな外国人観光案内所認定制度の導入 2.1で行った調査の結果を踏まえて、訪日外国人旅行者の利便性の更なる向上を図るため、 1983年より実施していた外国人観光案内所の認定制度を改めて新たな認定制度を設けること となり、2012年に「外国人観光案内所の設置・運営のあり方指針」がまとめられ、この指針 に基づき、同年より新制度の運用が始まった。 認定制度の主な変更点としては、旧来の制度では一律の基準で認定を行い、認定後は特に 更新制度等はなかったが、新制度においては案内所の立地、実情、機能等による三つのカテ ゴリーおよびパートナーという四つの分類を設け、3年ごとの更新制度とし、また、認定料 を当面無料とした。これらにより、案内所の質の担保と向上を図るとともに、英語スタッフ の体制が十分には整っておらず認定申請に躊躇していた案内所も、外国語の印刷物や説明ツ ール等で外国人に対応できる体制があれば認定され得るなど、全国の観光案内所における外 表 4 フランスの観光協会・観光案内所のカテゴリー区分 出所:観光庁 表 5 外国人観光案内所認定カテゴリーおよび件数 出所:JNTO ウェブサイト
― 50 ― 国人対応の裾野を広げていくことが念頭におかれている。また、認定を行うJNTOが認定案 内所スタッフの研修会の実施、認定案内所専用サイトを構築し、案内所間の情報共有を図 り、外国人旅行者への案内対応をより迅速に行える環境のサポート行っている。2015年3月 末現在で528カ所の案内所が認定されている18)19)。
第3章 外国人観光案内所の現場の状況
本章においては、日本の空の玄関口である成田国際空港に立地する成田国際空港外国人観 光案内所(成田TIC)の来訪者に関わる定量データの分析を行うとともに、それぞれ立地や 規模、運営主体等が異なる湘南FUJISAWAコンシェルジュ、および東京シティアイの各案 内所で実施したヒアリング調査により、外国人観光案内所の現場の状況および来訪者の動向 について整理を行う。 3.1 成田国際空港外国人観光案内所(成田TIC)の状況 成田国際空港の外国人観光案内所(成田TIC)は、1978年5月20日の同空港開港と同時に、 有楽町、京都、羽田に次ぐJNTO運営の外国人対応の案内所として、現在の第1ターミナル にオープンした。その後、1992年12月6日の第2ターミナル運用開始により、同ターミナル内 にもオープン、その後第1ターミナル案内所は1994年3月に閉鎖となり1999年3月に再開し、 現在第1および第2ターミナルの2カ所の案内所について成田国際空港株式会社(NAA)が設 置主体となり、一般財団法人国際観光サービスセンターがその運営を行う体制となってい る。 成田TIC来訪者数は、2010年度は27万8,236人、うち外国人19万1,316人で、外国人比率は 68.8%であったが、東日本大震災後の2011年度は21万2,926人に減少、うち外国人は12万5,805 人で、その比率は59.1%と前年度を大きく下回った。しかし、2012年度には26万6,686人、外 国人は17万5,013人で、その比率は65.6%と、ほぼ2010年度の数値に近づく回復を見せた。そ して、2013年度は32万197万人に達し、うち外国人は23万352人で、その比率は71.9%と上昇 し、成田TICの来訪者数および外国人利用者数は上昇傾向にある。 次に、成田TICの国籍別来訪外国人数(2013年度)の構成比を訪日外国人旅行者数(2013 年)のそれと比較すると、成田TIC来訪外国人数は、1位が米国で3万7,000人(構成比16.4 %)、2位台湾3万3,000人(同14.7%)、3位韓国(同7.5%)、4位中国(同7.1%)となってい る。一方、訪日外国人旅行者数では1位が韓国で246万人(構成比23.7%)、2位台湾221万人 (同21.3%)、3位中国131万人(同12.7%)、4位米国80万人(同7.7%)となっており、両者は 異なっている。特に訪日外国人旅行者数では韓国の約1/3で4位の米国が、成田TIC来訪外国 人数では3位韓国の2倍以上で1位となっていることが特徴的であり、訪日外国人旅行者全体 とFITでは国籍別構成比が異なることが推察できる。観光庁外国人旅行者消費動向調査にお― 51 ― いて、2013年の観光目的での訪日外国人旅行者のFIT率が韓国の68.8%に対して米国は88.0 %と高く、当該国・地域におけるFIT率が成田TIC来訪者数とも関係していることが考えら れる。20)21)22)23)24)25)26)27)28)。 3.2 湘南FUJISAWAコンシェルジュの状況 神奈川県藤沢市の藤沢駅に立地している湘南FUJISAWAコンシェルジュは、藤沢市およ び江ノ電沿線エリアの情報発信拠点として、2014年6月25日にオープンし、毎日9時より19時 まで開所している。 2015年3月22日に湘南FUJISAWAコンシェルジュを訪問し、同所責任者である大嶋晴美主 図 3 成田 TIC 来訪外国人数(2013 年度) 出所:月刊国際観光情報の成田 TIC 統計より筆者作成 N=230,352 その他 29.4% その他 15.3% マレーシア 1.7% カナダ 2.7% シンガポール 3.2% フランス 3.5% 4.1%タイ 豪州 4.9% 6.5%香港 中国 7.1% 韓国 7.5% 台湾 14.7% 米国 16.4%米国 16.4%米国 16.4% N=10,363,904 英国 1.9% シンガポール 1.8% タイ 4.4% 豪州 2.4% 香港 7.2% 中国 12.7%中国 12.7%中国 12.7% 韓国 23.7% 台湾 21.3% 米国 7.7% 出所:JNTO 訪日外客統計より筆者作成 図 4 訪日外国人旅行者数(2013 年) 図 3 成田 TIC 来訪外国人数(2013 年度) 出所:月刊国際観光情報の成田 TIC 統計より筆者作成 N=230,352 その他 29.4% その他 15.3% マレーシア 1.7% カナダ 2.7% シンガポール 3.2% フランス 3.5% 4.1%タイ 豪州 4.9% 6.5%香港 中国 7.1% 韓国 7.5% 台湾 14.7% 米国 16.4%米国 16.4%米国 16.4% N=10,363,904 英国 1.9% シンガポール 1.8% タイ 4.4% 豪州 2.4% 香港 7.2% 中国 12.7%中国 12.7%中国 12.7% 韓国 23.7% 台湾 21.3% 米国 7.7% 出所:JNTO 訪日外客統計より筆者作成 図 4 訪日外国人旅行者数(2013 年)
― 52 ― 任よりヒアリング調査を行った。湘南FUJISAWAコンシェルジュとしてオープンする前は、 バスの定期券の販売業務を中心に行っていたが、隣接のテナントが移転したため、スペース を拡張して観光案内所機能の充実を図ることとなった。そのメインの方向性として掲げてい るのが、名称に使用されているコンシェルジュ機能であり、積極的に観光スポット等の案内 を行う点である。しかし、現状はまだ整然とした形での実施はできておらず、徐々に整備を 進めていく状況である。また、極力インターネットでの検索に頼らずに案内を行うことに努 めており、必要な場合のみ使用するようにしている。そのため、時間があるときはスタッフ 各自の足で様々な観光スポット等へ行き、来訪者に勧めることが出来る場所のレパートリー を増やす努力を行っている。 運営に関しては、江ノ電が藤沢市からの受託にて行っており、江ノ電のグッズ販売等、江 ノ電カラーが強い空間となっている。江ノ電沿線や湘南エリアの案内を満遍なく行うもの の、所内の掲出物等は藤沢市内のものが中心となっており、案内についても藤沢市内に所在 している観光素材等を積極的に案内するようにしている。 また、外国人旅行者への対応を積極的に行うことを方針として掲げており、常時英語およ び中国語での対応が可能な体制となっている。なお、JNTO認定外国人観光案内所には登録 されていない。 3.3 東京シティアイの状況 東京シティアイは、2013年3月21日に、旧東京中央郵便局跡地の再開発によりオープンし たJPタワー・KITTE内に設置された総合インフォメーションセンターであり、インフォメ ーションゾーン、パフォーマンスゾーン、ビジネスゾーン、レストゾーンの4つのエリアを 設けている。 東京駅丸の内のKITTE地下一階に所在する外国人観光案内所「東京シティアイ」の状況 について、2015年4月8日に、同所の山本正裕所長および梶川照子副所長へヒアリング調査を 行った。 観光案内機能であるインフォメーションゾーンは、8時より20時まで年中無休で開所して いる。1日あたりの来訪者数は約3,000人、案内件数は100件で、うち3〜4割程が外国人とな っており、英語、中国語および韓国語で常時対応出来る体制をとっている。 設置主体は日本郵便であり、JTBが受託運営を行っている。運営全般は日本郵便からJTB に任せられており、公的な案内所ではないため、独自の発想やスタイルを盛り込みながら、 案内業務や案内所スペースの空間作りを行っている。また、旅行会社が運営を行っているこ とから、情報提供だけでなく、宿泊施設の手配など、旅行に関わる商品の販売も行っている。
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第4章 JR東京駅案内所の案内業務事例の整理および分析
第3章においては、立地や運営主体の異なる観光案内所の状況をまとめたが、本章におい ては、外国人観光案内所利用者の実態をより詳しく分析するために、JNTO認定案内所の中 で最も高いカテゴリー3に分類され、外国人利用者の多いJR東京駅外国人観光案内所の状況 を整理する。同案内所は、年中無休で7:30から20:30まで開所しており、英語、中国語、およ び韓国語で常時対応できる体制となっている。案内の提供範囲は東京駅の近隣エリアから日 本全国まで行っている。JR東京駅外国人観光案内所の来訪者は年間約5万にのぼり、そのう ち8割ほどの約4万人が外国人である。来訪者からもたらされる質問の件数については、来訪 者数と同数以上にのぼり、質問数の約3〜4%については、時間をかけて対応した特殊案内事 例となっている。2014年1月から12月までの特殊案内事例2,127件の内容について、来訪者の 国籍、性別、年代等の属性、案内所来所主目的等について整理を行い、旅行の訪問先、訪問 目的、および困りごと・トラブルの3項目を中心に分析を行った。 4.1 質問者の案内所来訪主目的 来訪者の来訪目的の詳細および全体を把握するため、『月刊国際観光情報』の「ニッポン 案内コーナー」における分類を参考に、小項目、中項目、大項目に分けて集計を行った。ま ず、観光案内所における主業務である観光情報の提供に関して、大項目における「観光対 象」として、何が観光対象となっているのかについて中項目および小項目の内容も合わせて 分析を試みた。その結果、「観光対象」は944件で質問数全体の44.4%を占めており、約半数 は観光情報を求めて来所していることがわかった。 その内訳をみると、観光地・景観地が603件、28.3%と他のより具体的な目的の項目に比べ てかなり高く、観光地における観光対象が、具体的に寺社仏閣などというよりも、当該観光 地自体に何らかの関心を持ち、その観光地を全般的に観光したいという傾向が強いことがう かがえた。しかしながら、寺社仏閣、祭り・伝統芸能、演劇、芸術、建築物を総合した「伝 統文化・演劇・芸術」は103件、4.8%と「観光地・景観地」に次いで高くなっており、日本 における伝統や文化、芸術的な要素への関心も高いことがわかる。 「観光対象」以外の項目では、「交通機関の乗車券・経路等」が563件、26.5%と全体の1/4 を占めている。交通案内や乗車券等の情報提供については、来訪者の訪問地が決まってお り、そこまでの行き方や割引パス等の状況を尋ねてくるケースであり、観光対象に関する情 報提供とともに案内所における主要な業務となっている。 それに次いで多かったのは、迷子、忘れ物・落し物、体調不良等の「困りごと・トラブル 全般」で、138件、6.5%であり、観光案内所としての主業務以外に、外国人が困った時の対 応全般を行う役割を担っていることがわかった。大項目および中項目の「困りごと・トラブ ル全般」のうち、もっとも多かった小項目である「困りごと・トラブル」、65件、3.1%の内― 54 ― 容としては、その半数が交通機関に関するもので、多くは電車の遅れや不通、およびJRパ スの購入等であり、次いで、コインロッカーが開けられない等の荷物預かりに関わるもので あった。「忘れ物・落し物」についても58件、2.7%あり、その内訳はJRパス18件・31.0%、 バッグ・リュックサック9件・15.5%、携帯電話・スマートフォン9件・15.5%、財布4件・ 6.9%などであった。なお、これらのうち半数近くの27件は、案内所スタッフの対応等により 見つかったことが確認されており、来訪者より案内所スタッフへの感謝の言葉や、日本の治 安の良さに対するイメージが高まったとのコメントも寄せられている。 4.2 質問者の訪問先 来訪者に関わる具体的な訪問地名によって集計を行ったところ、1位は東京駅周辺で242 件、13.7%で、やはり案内所立地エリアへの訪問率がもっとも高くなった。しかしながら、2 位は河口湖で120件、6.8%と東京駅周辺への訪問件数の半数にのぼり、山梨県側の富士山エ リアへの訪問がかなり多いことが明らかとなった。3位には93件、5.3%で京都が入り、案内 所立地から離れているものの、一大観光地として東京から足を運ぶ旅行者が多いことがわか った。そして4位、5位には東京都内の随一の歴史・文化エリアである浅草が68件、3.8%、そ してショッピングの中心地である銀座が65件、3.7%となった。6位および8位には、東京近郊 表 6 JR 東京駅外国人観光案内所質問者の来所目的 出所:筆者ヒアリングによる 表 7 JR 東京駅外国人観光案内所質問者の訪問地 出所:筆者ヒアリングによる
外国人観光案内所の実態に関する研究 ― 55 ― の主要観光地である箱根が61件3.5%、そして鎌倉および日光がともに40件、2.3%となった。 また、湯沢が13位で31件、1.8%と、冬季のスキー・スノーボード等の訪問者が大半であるに もかかわらず上位に入っていることが興味深い。また、軽井沢が14位で30件、1.7%と、大阪 や広島よりも上位となっており、東京からアクセスの良い観光地の一つとして定着してきて いる様子がうかがえる。なお、45位以下で、訪問件数が6件以下の訪問地が合わせて415件、 23.3%にのぼり、訪問先が多岐に渡っていることがわかる。
第5章 おわりに
5.1 考察 訪日外国人旅行者が増加し、団体ツアーを利用せずにひとり歩きするFITも増加している 中、その最前線で対応している外国人観光案内所の存在は今後益々重要になると同時に、案 内所を来訪した外国人からもたらされる質問内容の蓄積や案内所間での共有、およびその分 析を行いFITの動向を整理することは重要であると考えられることから、外国人観光案内所 とそれをとりまく状況の整理、分析を行ったところである。 出所:筆者ヒアリングによる 表 7 JR 東京駅外国人観光案内所質問者の訪問地 出所:筆者ヒアリングによる― 56 ― 1983年に「i」システムの整備として、JNTOにより外国人観光案内所の認定制度による外 国人観光案内所のネットワーク化が開始された。訪日外国人旅行者数がまだ200万人程度で あった30年前の時期において、既に外国人旅行者のひとり歩きに対する全国的な対応システ ムの構築が行われていたことは先進的であると考えられる。そして2010年には外国人観光案 内所の認定数が300カ所となった。 その後は、2011年に「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関する検討会」のなかに「外国 人観光案内所のあり方に関するWG」が設けられ、案内所を利用する外国人旅行者、案内所 設置主体、および海外の案内所の事例に関する調査結果もふまえて、2012年1月に「外国人 観光案内所の設置・運営のあり方指針」が策定された。そして、この指針に基づき外国人観 光案内所認定制度を29年ぶりに改め、案内所の立地や機能等による3つのカテゴリー分けや、 3年ごとの更新制度等を設けて質の担保と向上を図った。さらに、認定案内所から毎月来訪 者数や案内事例をJNTOに報告する義務をもたせるとともに、案内所間で情報交換ができる サイトを設けるなど、情報の収集や共有を図る体制を整えていくことにも努めている。オラ ンダにおいては、案内カウンターを設けずに、各案内所から報告された情報を集約して案内 所間での連携を図ることを目的とした立場の案内所が存在し、それによって全国のどの案内 所においても均質的に全国情報を提供出来る体制が確立されている。また、韓国においては 各案内所来訪者の質問内容をデータベース化して案内所間で共有を図り、マーケティングデ ータとして生かすなど、様々な形で活用している様子もうかがえる。日本においても、その ような仕組みの整備を進めていくことは有効であると考えられる。 また、観光案内所自体の整備とともに重要と考えられるのが、来訪者への情報提供等の業 務にとどまらない観光案内所の活用である。各案内所においては、FITを中心とした外国人 旅行者から様々な質問がもたらされる。本論文においては、JR東京駅外国人観光案内所の 案内業務事例の整理、分析を行ったが、日本の何に興味、関心を持ち、どこを訪れ、そして 何に困ったのか等について具体的な傾向を見出すことができた。それらはJNTOのマーケテ ィング資料等では把握しきれない、FITならではの行動が多く含まれており、観光案内所来 訪者からの質問内容の多角的な分析を行うことは意義があることと考えられる。 5.2 提言 2012年に外国人観光案内所の新たな認定制度が設けられた。カテゴリー分けを行うこと で、英語対応スタッフが常駐していない案内所でも認定されることとなった。外国人旅行者 への対応については、必ずしも十分に外国語ができなくても指差し会話帳などのツール等の 工夫により対応は可能であり、外国人旅行者への対応のハードルを心理的に下げ、受入体制 整備の裾野を広げる意味では一定の効果があるものと考えられる。しかしながら、全国一律 の基準によるカテゴリー分けについては、案内所の立地等によって必要とされる内容が異な
― 57 ― る面もあり、必ずしも上位のカテゴリーを目指すという性格のものでもないことから、その 意義については動向が注目される。今後行われるべき重要な点は、本当の意味での全国の外 国人観光案内所の質の担保と向上であり、その方法の一つとして、新認定制度によって、各 案内所が毎月JNTOへ行っている業務報告の整理、活用をより積極的に行い、全国の観光案 内所に情報の共有を図ることが考えられる。 また、FITが多く訪れる外国人観光案内所来訪者からの質問内容は、動向が掴みにくい FITに関する重要な情報が多く含まれている。今回、JR東京駅観光案内所の案内業務事例よ りそれらの把握に努めたが、訪日外国人旅行者全体の傾向とは異なる面もみられる興味深い 結果もみられた。今後も増加が予想されるFITの動向把握はより重要であると考えられ、そ の方法として、外国人観光案内所全体について、同様の整理・分析を行うことで、より正確 で具体的な動向を見出すことができるものと考えられる。 5.3 課題と今後の研究の展開 本論文においては、外国人観光案内所のあり方および外国人観光案内所来訪者からの質問 内容の分析を中心に行った。外国人観光案内所のあり方に関しては、海外の事例より案内所 の均質化に関わる方策がみられたが、その具体的な内容について十分に把握することができ ず、整理を行うことが困難であった。また、JR東京駅観光案内所における案内業務事例の 整理・分析においては、訪問地や訪問目的などある程度の傾向を見出すことはできたものの、 訪問地と、そこに訪れる目的の関連性や、買い物における購入品の傾向、また年齢や性別を 含めた複数の属性からの多角的な分析などは十分に行うことが出来なかった。 今後は、JR東京駅観光案内所の案内業務事例を、より様々なクロスによって分析を行う とともに、定量化した指標に案内事例の定性的要素を組み合わせて、より立体的にFITの動 向を探っていくことは意義があるものと考えられる。また、外国人観光案内所においては、 観光情報の提供はもとより、多くの困りごとに対して助けを求めに来る外国人が多く、それ らにきめ細かく対応して解決に導いているケースが多い。そのようなことから、観光案内所 はFITのセーフティーネットとなっている側面もみえており、FITが観光案内所で受けた対 応が、日本を旅行する上での安心感につながり、満足度を高める等、日本に対するプラスの イメージ形成や再訪意欲を高めることにも寄与している面があるものと考えられる。さらに、 外国人観光案内所においては、観光情報の提供をスムーズに行うことは当然重要であるが、 来訪者からの質問内容等の情報を収集し、それをマーケティング活動等に生かすことも意義 があることであると考えられる。韓国においては、そのようなことを行っている例がみられ たが、観光案内所をいかに活用していくかということも、FITが増加している中で、その動 向を正確に把握する上で考慮する必要性が高いものと考えられる。これらについては、今後 さらに研究を進めていきたいと考えている。
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参考文献
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The number of foreign tourists to Japan has been increasing recently. In 2014 Japan had over 13 million overseas visitors; and Japanese government aims to have 20 million overseas visitors by year 2020 when Tokyo Olympic and Paralympic games will be held in Japan. Among the foreign tourists, Free Independent Traveler (FIT) who travels without using package tours has been increasing. They often visit foreign tourist information centers to get travel information. Therefore, the role of foreign tourist information centers are becoming more important.
This study aims to examine three thing mainly. The first one is to examine the condition and the significance of the foreign tourist information centers by the tourism policy in Japan, visitor’s data of the foreign tourist information centers, some cases in foreign countries, and so on. The second one is to analyze the questions from the visitors of the foreign tourist information centers; so that, FIT’s purpose of their trips and places of their visits will be revealed. And the third one is to examine the troubles or the uncomfortable things which FIT have in Japan by the questions from the visitors of the foreign tourist information centers.
Keywords : Inbound tourism, visitor reception planning, FIT, foreign tourist information
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