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都道府県における特別支援教育政策への首長の影響についての考察

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Academic year: 2021

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Ⅰ 課題 2012 年の中央教育審議会初等中等教育分科会 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育シ ステム構築のための特別支援教育の推進(報告)」 (以下「特特委員会報告」)では,「インクルーシ ブ教育システムにおいては,同じ場で共に学ぶ ことを追求するとともに,個別の教育的ニーズ のある幼児児童生徒に対して,自立と社会参加 を見据えて,その時点で教育的ニーズに最も的 確に応える指導を提供できる,多様で柔軟な仕 組みを整備することが重要である。小・中学校 における通常の学級,通級による指導,特別支 援学級,特別支援学校といった,連続性のある『多 様な学びの場』を用意しておくことが必要であ る」とされている。 障害のある幼児児童生徒が,多様な学びの場 でその教育的ニーズに応じた適切な教育を受け られるように体制整備を進めるということは, それまでの特別支援教育の理念や方向性を踏ま えたものである。同じ場で共に学ぶことを追求 するというインクルーシブ教育の理念から考え たとき,そのような方向性で進むことについて の批判があるが1 ),インクルーシブ教育システム 1 ) 2009 年 12 月に,権利条約締結に必要な国内体制 整備のために内閣府に設置された「障がい者制度 改革推進会議」の構成員であった大谷(2013)は, インクルーシブ教育システムが,当然に共に学ぶ ことが保障されたシステムのことであるというこ とを前提に,教育においては学校教育を中心にし た教育の根幹に関わるところはほとんど改正され なかったとしている。また,清水(2012)は,権 利条約は障害のある子どもとない子どもが同じ場 で共に学ぶことを原則としており,あくまで現行

原著論文

都道府県間における特別支援学校費の

差異の要因についての考察

柴 垣   登

(立命館大学大学院先端総合学術研究科) 日本では,障害のある幼児児童生徒の教育は,特別支援学校,特別支援学級や通級指導教室,通 常の学級など多様な場で行われている。先行研究では,都道府県間で通級指導教室担当教員一人当 たりの児童生徒数や支援員の活用人数について差異が生じていることが明らかにされている。しか し,特別支援学校における都道府県間の差異の状況については明らかにされていない。本稿では, 特別支援学校費における都道府県間の差異の状況と差異が生じる要因を,特別支援学校児童生徒一 人当り経費(「支援学校一人当り経費」)の差異の状況,特別支援学校費の支出の内訳,支援学校一 人当り経費と財政力や教育費に占める特別支援学校費の割合,支援学校 1 校当り児童生徒数との関 連などから検討した。支援学校一人当たり経費は都道府県間で大きな差があるが,それは財政力の 影響よりも,支援学校 1 校当り児童生徒数など学校規模の違いによるものと考えられた。また,学 校規模の違いには地域的な問題などが影響を及ぼしていると考えられた。 キーワード:特別支援教育,特別支援学校費,財政力,差異,学校規模 立命館人間科学研究,No.38,1 14,2019.

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を構築するための方向性として,文部科学省や 教育委員会にとっては現行制度を基盤としたも のであり施策や事業を進めていく上で大幅な変 更や財政負担を求められないという意味で労力 も少なく2 ),学校現場からの改革に対する抵抗も 少ないといえる3 )。同じ場で共に学ぶことを実現 の特別支援教育を推進するという立場で作成され た特特委員会報告の内容では,通常教育も含めた 学校教育全体の改革にはつながらず,インクルー シブ教育は実現できないと批判している。 本来インクルーシブ教育では,権利条約の 24 条 において「他の者との平等を基礎として,自己の 生活する地域において,障害者を包容し」とされ ているように,地域の小中学校において障害の有 無にかかわらず全ての子どもが共に学ぶことが求 められる。そのためには,清水のいうように通常 教育も含めた学校教育全体の改革が求められる。 その意味では,それまでの特別支援教育制度をそ のままにインクルーシブ教育システムを構築する という特特委員会が示した方向性は矛盾している と考えられ,特特委員会での議論は現行制度の継 続ありきの議論であったといわざるを得ない。 2 ) 2010 年 4 月 26 日に開催された「障がい者制度改 革推進会議」第 9 回会議におけるヒアリングにお いて文部科学省は,インクルーシブ教育システム については,理念だけではなく人的・物的条件整 備とセットで検討することが重要であるとして, 特別支援学級に在籍している子どもは全員通常学 級に移動,特別支援学校に在籍する障害が比較的 軽度の子どもはすべて小・中学校に移動し,重度 の子どもは 1/3 が小・中学校を希望した場合, 12 兆 1,485 億円のコストが必要となるとの試算の結 果を参考資料として提出し,全ての子どもが共に 学ぶインクルーシブ教育システムの実現が財政的 に難しいということを暗に示している。 「障がい者制度改革推進会議」第 9 回提出資料(2018 年 3 月 14 日取得 http://www8.cao.go.jp/shougai/ suishin/kaikaku/s_kaigi/k_9/pdf/s2.pdf) 3 ) 障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別 支援教育の在り方について専門的な調査審議を行 うため,初等中等教育分科会に設置された「特別 支援教育の在り方に関する特別委員会」第 1 回会 議(2010 年 7 月 20 日開催)において,全国連合 小学校長会長の向山行雄委員は以下のように発言 し,現場の校長の立場で性急にインクルーシブ教 育システムに移行することに対する懸念を表明し ている。    1 つ目は,全国連合小学校長会はずっと特別 支援教育の委員会をつくっておりまして,経年 的にいろんな調査をかけてきています。全国の 校長の中で現状はどうですかというところで, 一番の学校での問題,いろんな課題を 3 つ選ん でくださいと問うてみましたら,通常の学級に 在籍する発達障害のある子どもさんの指導で大 変苦慮していると。その子どもが原因となって していくというインクルーシブ教育の理念を実 現するために現行の特別支援教育体制のままで よいのかという根本的な問題は残ったままであ るが,子どもたちが必要な支援や教育を受けら れるように,まずは現行の特別支援教育体制の 中で,いかに体制整備を行っていくかが課題と なる。 その点について,特特委員会報告では,日本 の場合,特別な指導を受けている児童生徒の割 合が,特別支援学校,特別支援学級,通級によ る指導を受けている児童生徒を合わせても約 3% に過ぎないことを指摘している。これは,英国 授業に支障が出るというようなことが 62%,あ るいは集団行動ができないで指導ができないが 52%,それから,友だちとのトラブルが絶えな いが 66%というように,大変苦慮する実態があ ります。    あわせて,どういう人が実際に対応して指導 しているのかということでは,担任がほとんど でして,補助員が 15%,別の教員が 5%という 程度で,まだまだ人的な条件整備が進んでいな いという現状があります。    それから,2 点目ですけれども,障害のある お子さんを最大限発達させるというのは,大変 私たちもやっているわけですけれども,障害の あるお子さんの権利保障と同時に健常児の子ど もたちの権利保障もしなければならないと。こ の権利と権利が往々にして,なかなか齟齬をき たすことがあって,そのことでトラブルがある ということがあります。従って,さまざまな条 件整備,それから,現場でのいろんな意識改革 もあります。教員の指導力の向上等々,そういっ たことも総合的にやっていかなければならない と思っています。    最後に 3 点目ですけれども,我々,特別支援 教育を進めるに当たって,わりあい校内の理解, 教職員の理解等々は進むんですけれども,難し いのが保護者の理解,それから,地域の住民の 方々の理解なんですね。この辺は学校を通して いろいろな啓発を行ったりするし,あるいは行 政のほうもやっていただくんですけれども,ま だまだ時間がかかる。ですから,こういった形 でこれから統合教育,インクルーシブ教育のこ とをやっていくためには,やはり相当の時間を かけていろんな方々の御理解を得ていかない と,さまざまな問題でやっぱりトラブルが発生 する。それが現場の校長としては大変懸念をし ているところであります。  「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」 第 1 回会議議事録(2018 年 3 月 14 日取得 http:// www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo3/044/siryo/1297371.htm)

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の約 20%(障害以外の学習困難を含む),米国の 約 10% と比較してかなり低い数字であることか ら,特別な教育支援を必要とする児童生徒の多 くが通常の学級で学んでおり,これらの児童生 徒への対応が早急に求められているとしている。 通常の学級で学ぶ特別な教育支援を必要とす る児童生徒への対応について,現行制度の中で は通級による指導(以下「通級指導」)や特別支 援教育支援員(以下「支援員」)の活用が行われ ている。通級指導とは,小学校又は中学校の通 常の学級に在籍している軽度の障害のある児童 生徒に対して,主として各教科等の指導を通常 の学級で行いながら,障害に応じた特別の指導 を特別の指導の場で行うものである4 )。支援員と は,幼稚園,小・中学校,高等学校において障 害のある幼児児童生徒に対し,食事,排泄,教 室の移動補助等学校における日常生活動作の介 助を行ったり,発達障害の児童生徒に対し学習 活動上のサポートを行ったりするために配置さ れている5 )。通常学級で学ぶ特別な支援を必要と する児童生徒への対応を図っていくためには, 通級指導や支援員の活用を充実させていく必要 がある。しかし,支援員の活用人数において, 都道府県間で格差が生じていることが明らかに されている(山本 2008;柴垣 2017)。 インクルーシブ教育システムでは,障害者の 権利に関する条約(以下「権利条約」)に「障害 者が,他の者との平等を基礎として,自己の生 活する地域社会において,障害者を包容し,質 が高く,かつ,無償の初等教育を享受すること ができること及び中等教育を享受することがで きること」(第 24 条)と規定されているように, 等しく教育機会が保障される必要がある。今後 4 ) 「学校教育法施行規則第 140 条及び同施行規則第 141 条」参照。 5 ) 文部科学省初等中等教育局(2007)「『特別支援教 育支援員』を活用するために」(2017.10.15 取得 h t t p : / / w w w . m e x t . g o . j p / a _ m e n u / s h o t o u / tokubetu/material/002.pdf) の特別支援教育の充実を図っていくためには, 支援員の活用人数だけでなく,特別支援学校や 特別支援学級,通級指導教室の整備状況なども 含めて都道府県間でどのような差異があるのか を明らかにすることが必要である。 その中で特別支援学校に着目するのは,全体 の児童生徒数が減少する中で特別支援学校在籍 児童生徒数が年々増加していることにある6 )。イ ンクルーシブ教育システムにおいては,障害の 有無にかかわらず同じ場で学ぶことを追求する とともに,障害のある幼児児童生徒が,教育的 ニーズに応じて小・中学校における通常の学級, 通級指導,特別支援学級,特別支援学校といっ た多様な場で的確な指導を受けることができる ようにすることが求められる。そのような中で, 年々特別支援学校数と在籍児童生徒数が増加し ていることについては,たとえば医療的ケアを 必要とする幼児児童生徒数の増加7 )や知的障害 特別支援学校における高等部生徒数の増加(井 上他 2010)など障害のある幼児児童生徒の重度・ 重複化や多様化が,その原因として考えられる。 このような重度・重複化や多様化への対応は小・ 中学校における通常の学級,通級指導,特別支 援学級では難しく,教職員の専門性がより高く, 施設・設備などの環境の整備や,看護師・理学 療法士等の専門職の配置,関係機関との連携な ど体制が整い,少人数でのきめ細かい指導や支 援が行われている特別支援学校に対する保護者 6 ) たとえば特別支援教育体制に移行した 2007 年の 特別支援学校数は 1,013 校で全在籍幼児児童生徒 数 は 108,173 人,2016 年 度 の 特 別 支 援 学 校 数 は 1,125 校で全在籍幼児児童生徒数は 139,821 人と なっており,学校数で 112 校,全在籍児童生徒数 では 31,648 人の増加となっている。 文部科学省「特別支援教育資料」より(2018 年 5 月 4 日取得 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ tokubetu/1343888.htm) 7 ) 「特別支援教育資料(平成 29 年度)」によれば, 特別支援学校における医療的ケアの必要な幼児児 童生徒数は 2006 年度の 5,901 名から 2017 年度に は 8,218 名へと約 1.4 倍増加している。 (2018.8.13 取得 http://www.mext.go.jp/a_menu/ shotou/tokubetu/material/1406456.htm)

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の信頼や期待の高まりが,特別支援学校児童生 徒数の増加につながっていると考えられる。こ のような保護者の信頼や期待の高まりに応える とともに,障害のある幼児児童生徒の個々の教 育的ニーズに適切に対応できる学びの場を整備 していくことが必要であり,そのことが特別支 援学校の存在意義につながることになる。都道 府県が設置者である特別支援学校における整備 状況について明らかにすることは,都道府県ご との特別支援教育の整備状況の差異を明らかに し,特別支援教育体制を整備していく上での課 題を明らかにするという意味で意義があると考 えられる。 実際に,特別支援学校における学校教育活動 のために支出される特別支援学校費を特別支援 学校在籍児童生徒数で除した特別支援学校在籍 児童生徒一人当り経費額(以下「支援学校一人 当り経費」)を見た場合,表 1 に示したように都 道府県間で差異が生じている状況がある。最高 の高知県と最低の静岡県では約 2 倍の差が生じ ているが,このような差異がなぜ生じているの か。それは財政力の違いによるのか,特別支援 教育体制の整備方針や施策の違いによるのかな ど,その理由を明らかにすることが今後の特別 支援教育体制の整備を進めていく上で必要であ る。特別支援学校費の財源は地方交付税制度に 基づいて交付される交付金8 )の他に,地方税な どからの支出によって構成されている。地方交 付税交付金の交付額以上に都道府県がどの程度 支出するかは都道府県の裁量による。そのため, 特別支援学校費の状況を検討することは,特別 支援学校費の状況が都道府県の特別支援教育体 制の整備状況をそのまま表すものではないとは いえ,都道府県の特別支援教育の整備方針や状 況の一端を表していると考えられる。 そこで本稿では,特別支援学校費における都 8 ) 特別支援学校費に関する地方交付税交付金は,測 定単位である教職員数と学級数に単位費用と地域 的条件によって設定された各種の補正係数を掛け 合わせて算出した金額から国庫負担金などの特定 財源で手当てされる部分を差し引いた基準財政需 要額を算出し,その基準財政需要額から標準的な 地方税収入をベースとして算出された基準財政収 入額を差し引いた財源不足額が普通交付税として 配分される。なお,測定単位である教職員数と学 級数は,義務標準法に定められた学級編成の標準 に基づく学級数であり,実際の教職員数,学級数 ではない。都道府県が独自に学級数や教員数を標 準以上に増やしている場合,その費用は都道府県 の持ち出しである。 ඲ ᅜ  ༓ ⴥ  ୕ 㔜  ᚨ ᓥ  ໭ ᾏ 㐨  ᮾ ி  ⁠ ㈡  㤶 ᕝ  㟷 ᳃  ⚄ ዉ ᕝ  ி 㒔  ឡ ፾  ᒾ ᡭ  ᪂ ₲  ኱ 㜰  㧗 ▱  ᐑ ᇛ  ᐩ ᒣ  ර ᗜ  ⚟ ᒸ  ⛅ ⏣  ▼ ᕝ  ዉ Ⰻ  బ ㈡  ᒣ ᙧ  ⚟ ஭  ࿴ ḷ ᒣ  㛗 ᓮ  ⚟ ᓥ  ᒣ ᲍  㫽 ྲྀ  ⇃ ᮏ  Ⲉ ᇛ  㛗 㔝  ᓥ ᰿  ኱ ศ  ᰣ ᮌ  ᒱ 㜧  ᒸ ᒣ  ᐑ ᓮ  ⩌ 㤿  㟼 ᒸ  ᗈ ᓥ  㮵 ඣ ᓥ  ᇸ ⋢  ឡ ▱  ᒣ ཱྀ  Ἀ ⦖  ༊ࠉศ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ ⏕ᚐ୍ேᙜࡓࡾ ⤒㈝ ༊ࠉศ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ ⏕ᚐ୍ேᙜࡓࡾ ⤒㈝ ༊ࠉศ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ ⏕ᚐ୍ேᙜࡓࡾ ⤒㈝ ༊ࠉศ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ ⏕ᚐ୍ேᙜࡓࡾ ⤒㈝ 表 1 支援学校一人当たり経費(年額) 文部科学省「地方教育費調査(平成 27 会計年度)」より

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道府県間の差異の状況と差異が生じる要因を, 支援学校一人当り経費の差異の状況,特別支援 学校費の支出の内訳,支援学校一人当り経費と 財政力や教育費に占める特別支援学校費の割合 との関連などを検討することによって明らかに したい。たとえば,教育における地域間格差に ついては,講師等の独自採用人数の教育投資の 差が都市の自治体と地方の自治体との間で著し く開いていることについての指摘(橘木・浦川 2012)や,就学援助の都道府県間の相違を指摘 したもの(鴈 2013;白川 2014;阿部 2014)な どがあり,格差が拡大しつつある現状が明らか にされている。ただ,特別支援学校の整備状況 や特別支援学校費の面から都道府県間の差異に ついて言及した論考は,管見の限りではあるが 後述の渡部(1996),古屋ら(2007)の特別支援 教育体制に移行する以前のものの他にはなく, 今後の都道府県ごとの特別支援学校の整備状況 の差異を特別支学校費の面から明らかにするこ とは,障害のある幼児児童生徒が,全国どこに おいても多様な学びの場でその教育的ニーズに 応じた適切な教育を受けられるように体制整備 を進めていく上での課題を明らかにするという 意味で意義があると考える。 なお,本稿で使用したデータはすべて 2015(平 成 27 年)年度のものであり,文部科学省の学校 基本調査,地方教育費調査,総務省の地方財政 状況調査に拠った。 Ⅱ 特別支援学校費からみた都道府県間の差異 1 特別支援学校整備状況における格差 特別支援学校整備状況における格差に着目し た研究としては,渡部(1996),古屋ら(2007) がある。渡部は,1977 年度から 1993 年度の都 道府県における養護学校9 )高等部の整備状況に 9 ) 盲・聾・養護学校が特別支援学校に名称変更され たのは 2007 年 4 月からである。 ついて検討し,1992 年度の養護学校高等部設置 校率10)では,最低の愛媛県の 21.4% から最高は 愛知県の 100.0% と大きな格差が存在しているこ とを指摘している。そして,高等部設置校率以 外に,都道府県における高等部の重複障害学 級11)の開設状況や高等部における訪問教育の施 策化の状況,養護学校中学部・中学校特殊学級 卒業者の進学率等も合わせて検討した結果,都 道府県間に大きな格差が存在し,格差が存在す る理由は,法制の不備というよりは,むしろ行 政等による法制の運用水準の相違にあるとして いる。古屋らは,2001 年度の盲・聾・養護学校 在籍者 1 人当たり学校教育費が,最高の島根県 と最低の静岡県とでその差が約 2 倍になってい ることや,知的障害養護学校 1 校当たりの在籍 者数の平均値が,最高の愛知県と最低の大分県 とでその差が約 180 人となっていることなどか ら,都道府県間に差があることを指摘している。 渡部や古屋らの研究は,2007 年に特別支援教 育が法的に位置付けられる以前の特殊教育体制 下の状況に基づいたものであり,そのことをもっ て現在の課題とすることは適切ではない。しか し,その当時の状況が 2007 年度以降の特別支援 教育体制を整備していく中でどのように変化し ているか,あるいは変化していないのかを把握 することは都道府県府間の差異の生じる要因を 明らかにする上で必要であると考えられる。 渡部は,地方財政の予算編成権を知事が有し ていること等12)から,財政力指数の低い県にお 10) 養護学校高等部設置校率とは,各都道府県の養護 学校における高等部設置校数を全養護学校数で除 したものである。 11) 重複障害とは,知的障害と肢体不自由,視覚障害 と知的障害など学校教育法施行令第 22 条の 3 に 定める障害を 2 つ以上併せ有する場合をいうとさ れる。重複障害学級とは,重複障害者の児童生徒 を対象とする学級であり,単一障害学級と比べて 学級編成標準が少人数であり教職員配置が厚くな る。 12) 予算編成権を知事が有すること以外に,標準法は あくまで標準をさだめたものであり,実際の学級 編成や教職員定数の算定は都道府県教育委員会が

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いては標準法の運用においても財政力による抑 制作用によってその基準が国の標準より低く押 さえられるということが危惧されるという問題 点を指摘している。現在では,2014 年 7 月に「地 方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改 正されたことに伴い,首長が教育長を直接任命 できるようになったことや,首長が総合教育会 議13)を主宰すること,教育に関する大綱14)を策 定することになったことから,より首長の影響 力が強まっており(島田 2014),都道府県の財 政力が教育費や特別支援学校費等に影響を与え る可能性は大きくなっているといえる。 ただし,都道府県間の財政力格差については 地方交付税措置によって,財政力指数が低い島 根県や高知県などの方が地域一人当たり「地方 税収+地方交付税」の順位では最上位に位置す るという状況もあり(森 2013),都道府県間の 財政力の差が教育費や特別支援学校費の差に直 接的に影響するとは考えにくい。それは,特別 支援学校教育費については,そのほとんどが教 職員の人件費であり,その財源は国庫補助金で 3 分の 1 が,残り 3 分の 2 は地方交付税措置さ れているため,教職員の基礎定数部分について は都道府県独自の持ち出しはほとんどなく,都 道府県独自で加配の教職員を増加したりしなけ れば都道府県の財政力が影響を与える余地はあ まりないと考えられるからである。 それでは,都道府県の財政力の差が教育費や 特別支援学校費等の差に直接的に影響を与えて いないとすれば,どのような要因によって支援 行うこと,義務教育諸学校の教職員給与費等を都 道府県が負担していること等の問題点を指摘して いる(渡部 1996)。 13) 教育行政のための協議,調整の場であり,首長が 地方公共団体に設置し,主宰する。 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第 1 条の 4」参照。 14) 大綱とは「地方公共団体の教育,学術及び文化の 振興に関する総合的な施策について,その目標や 施策の根本となる方針を定め」たもの。 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第 1 条の 3」参照。 学校一人当り経費の差異が生じているのであろ うか。 2 特別支援学校在学者一人当り経費の差異 2015 年度の都道府県における支援学校一人当 たり経費は先の表 1 のようになっている。最高 は 高 知 県 の 10,353,832 円, 最 低 は 静 岡 県 の 5,254,149 円,全国平均は 7,268,095 円となってい る。最高と最低の差は 5,099,683 円と約 2 倍近い 差が都道府県間で生じている。古屋ら(2007) の調査によれば,2001 年度の盲・聾・養護学校 在籍者一人当り経費は,大きい順では,島根県 (1344 万円),北海道(1257 万円),高知(1238 万円),小さい順では,静岡県(580 万円),栃 木県(645 万円),愛知県(654 万円),最大と最 小の差は約 2 倍で,額は減少しているが 2015 年 度とほぼ同じような状況である。このことから, このような都道府県間の差異の状況は 2007 年度 以降に特別支援教育体制が整備されていく中で もほとんど変化していないといってよいと考え られる。 都道府県によって人口の偏在や社会資本の整 備状況,地域的な問題や対象児童生徒の障害の 状況,特別支援学級の設置状況,特別支援学校 1 校当たりの規模などの違いがあり,一概に都 道府県間で比較することは難しいということを 前提としても,特別支援学校費において地方交 付税交付金以上にどの程度支出するかは設置者 である都道府県の裁量によることから,支援学 校一人当たり経費は都道府県における特別支援 学校の整備方針や実際の整備状況をみる上での 一つの指標となると考えられる。 3 特別支援学校費の使途 表 2 は支援学校一人当たり経費の高い上位 10 道府県と下位 10 府県の特別支援学校費の総額と 消費的支出総額,特別支援学校数,特別支援学 校の児童生徒数,教員数,1 校当たり児童生徒数,

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教員一人当たり児童生徒数を比較したものであ る。特別支援学校費総額に占める消費的支出の 割合は上位 10 道府県が 89.9%,下位 10 府県が 92.4%となっており,大きな違いはない。消費 的支出とは,人件費や教育活動費,管理費など 経常的に支出される経費のことである15)。小学校 や中学校と同じく,特別支援学校教職員の人件 費は都道府県が負担しており,その 3 分の 1 は 国庫負担となっている。特別支援学校費におい ても教職員の人件費が非常に大きな比重を占め ている16)。表 2 からは,一人当たり経費が高い上 位 10 道府県では教員一人当たり児童生徒数の平 均が 1.3 人と下位 10 府県の 1.8 人よりも少なく 15) 文部科学省「地方教育費調査−用語の解説」より (2017.11.4 取 得 http://www.mext.go.jp/b_menu/ toukei/001/005/1281947.htm)  なお,経費の多くを占めるのは消費的支出に含 まれる人件費であり,文部科学省「地方教育費調 査(平成 26 年会計年度)」等によると愛知県と島 根県の特別支援学校在学者一人当たり経費に占め る人件費の割合は,愛知県が 84.1%,島根県が 79.8%となっている。  文部科学省「地方教育費調査(平成 26 会計年度)」 より(2017.10.22 取得 http://www.e-stat.go.jp/SG1/ estat/List.do?bid=000001079660&cycode=0) 16) 脚注 15 を参照。 なっていることがわかる。このことは,児童生 徒数に比して教員数が多いことを意味している。 また,1 校当たり児童生徒数の平均は上位 10 道 府県では 80.6 人,下位 10 府県の平均では 151.5 人と 2 倍近い差となっている。これらのことか ら,一人当たり経費が高い上位 10 道府県では, 下位 10 府県と比較して児童生徒一人当たりの教 員数が多いことにより教職員の人件費が高く なっていること,児童生徒数に比して学校数が 多いことにより教育活動費や管理費の支出が高 くなっていることが考えられ,そのために一人 当たり経費も高くなっていると考えられる。 4  都道府県の財政力や教育費に占める特別支 援学校費の割合との関連 (1)支援学校一人当り経費と財政力指数の関連 特別支援学校教育費のほとんどが教職員の人 件費であり,その財源は国庫補助金で 3 分の 1 が, 残り 3 分の 2 は地方交付税措置されていること や,都道府県間の財政力格差については地方交 付税措置により是正されていることから,都道 府県の財政力が教育費や特別支援学校費等に直 㔠㢠㸦༢఩㸸༓෇㸧ᩍ⫱㈝⥲㢠࡟ ༨ࡵࡿ๭ྜ ᖹᆒ ேᩘ ᖹᆒ ேᩘ ᖹᆒ ඲ ᅜ 㻣㻘㻞㻢㻤㻘㻜㻥㻡 㻥㻣㻠㻘㻡㻥㻟㻘㻟㻡㻣 㻤㻣㻜㻘㻤㻤㻝㻘㻡㻥㻢 㻤㻥㻚㻠㻑 㻞㻠 㻞㻤㻡㻟 㻝㻣㻞㻝 㻝㻞㻜㻚㻠 㻝㻚㻢 㻝 㧗 ▱    㻤㻤㻚㻜㻑  㻣㻤㻣 㻢㻤㻢 㻠㻥㻚㻞 㻝㻚㻝 㻞 ᓥ ᰿    㻤㻡㻚㻠㻑  㻥㻢㻜 㻤㻜㻡 㻤㻜㻚㻜 㻝㻚㻞 㻟 ໭ ᾏ 㐨    㻤㻢㻚㻢㻑  㻡㻘㻠㻣㻡 㻟㻘㻢㻝㻢 㻤㻠㻚㻞 㻝㻚㻡 㻠 ⚟ ஭    㻥㻢㻚㻢㻑  㻥㻟㻜 㻣㻤㻟 㻢㻢㻚㻠 㻝㻚㻞 㻡 ᒣ ᙧ    㻥㻝㻚㻤㻑  㻝㻘㻜㻥㻞 㻣㻤㻞 㻢㻜㻚㻣 㻝㻚㻠 㻢 ᐑ ᇛ    㻤㻜㻚㻣㻑  㻞㻘㻠㻜㻜 㻝㻘㻡㻟㻟 㻝㻜㻜㻚㻜 㻝㻚㻢 㻣 ி 㒔    㻤㻣㻚㻥㻑  㻞㻘㻢㻢㻣 㻝㻘㻤㻡㻣 㻝㻜㻢㻚㻣 㻝㻚㻠 㻤 㫽 ྲྀ    㻥㻡㻚㻟㻑  㻣㻤㻝 㻢㻣㻠 㻣㻝㻚㻜 㻝㻚㻞 㻥 బ ㈡    㻥㻡㻚㻞㻑  㻝㻘㻜㻡㻣 㻤㻟㻜 㻝㻜㻡㻚㻣 㻝㻚㻟 㻝㻜 ᐩ ᒣ    㻥㻝㻚㻞㻑  㻝㻘㻞㻟㻢 㻥㻜㻣 㻤㻞㻚㻠 㻝㻚㻠 㻟㻤 ⁠ ㈡    㻤㻣㻚㻜㻑  㻞㻘㻞㻜㻟 㻝㻘㻟㻜㻡 㻝㻟㻣㻚㻣 㻝㻚㻣 㻟㻥 ᇸ ⋢    㻤㻤㻚㻜㻑  㻣㻘㻜㻤㻥 㻟㻘㻣㻞㻢 㻝㻢㻝㻚㻝 㻝㻚㻥 㻠㻜 ኱ 㜰    㻥㻜㻚㻡㻑  㻤㻘㻥㻥㻜 㻡㻘㻝㻢㻥 㻝㻣㻢㻚㻟 㻝㻚㻣 㻠㻝 㮵 ඣ ᓥ    㻥㻞㻚㻥㻑  㻞㻘㻜㻡㻡 㻝㻘㻞㻠㻟 㻝㻞㻜㻚㻥 㻝㻚㻣 㻠㻞 ༓ ⴥ    㻥㻢㻚㻜㻑  㻢㻘㻝㻝㻣 㻟㻘㻡㻜㻣 㻝㻟㻥㻚㻜 㻝㻚㻣 㻠㻟 ᰣ ᮌ    㻤㻢㻚㻜㻑  㻞㻘㻠㻥㻥 㻝㻘㻟㻟㻝 㻝㻡㻢㻚㻞 㻝㻚㻥 㻠㻠 ዉ Ⰻ    㻥㻠㻚㻣㻑  㻝㻘㻢㻝㻜 㻥㻡㻥 㻝㻠㻢㻚㻠 㻝㻚㻣 㻠㻡 Ⲉ ᇛ    㻥㻠㻚㻣㻑  㻟㻘㻥㻝㻤 㻞㻘㻞㻜㻜 㻝㻢㻟㻚㻟 㻝㻚㻤 㻠㻢 ឡ ▱    㻥㻢㻚㻤㻑  㻣㻘㻞㻣㻥 㻟㻘㻡㻠㻤 㻝㻥㻝㻚㻢 㻞㻚㻝 㻠㻣 㟼 ᒸ    㻥㻣㻚㻟㻑  㻠㻘㻣㻣㻜 㻞㻘㻢㻡㻤 㻝㻞㻞㻚㻟 㻝㻚㻤 㡰఩㒔㐨ᗓ┴ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯᅾ Ꮫ⪅୍ேᙜࡓࡾ ⤒㈝ ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ ᩍ⫱㈝⥲㢠 㸦༢఩㸸༓ ෇㸧 ≉ูᨭ᥼ Ꮫᰯᩘ ≉ูᨭ᥼Ꮫ ᰯඣ❺⏕ᚐ ᩘ ≉ูᨭ᥼Ꮫ ᰯᩍဨᩘ ᾘ㈝ⓗᨭฟ⥲㢠 㻤㻥㻚㻥㻑 㻥㻞㻚㻠㻑 㻝㻚㻟 㻝㻚㻤 㻤㻜㻚㻢 㻝㻡㻝㻚㻡 㻝ᰯᙜ䛯䜚ඣ❺ ⏕ᚐᩘ䠄༢఩䠖ே㻕 ᩍဨ୍ேᙜ䛯䜚ඣ❺ ⏕ᚐᩘ䠄༢఩䠖ே㻕 表 2 特別支援学校費総額と 1 校当たり児童生徒数等の比較 文部科学省「地方教育費調査(平成 27 会計年度)」より

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接的に影響すると考えにくいことは先に述べた。 実際に,支援学校一人当り経費と財政力指数の 相関係数を求めたところ,負の相関があるとい う結果(=− = < )であり,都 道府県の財政力が高ければ支援学校一人当り経 費が多いというように直接的に影響を与えては いないことを示している。 図 1 は,支援学校一人当たり経費と財政力指 数の関係についての散布図である。財政力指数 が最も高いのは東京都の 1.0032,財政力指数が 最も低いのは島根県の 0.2417 であった。図 1 か らは,財政力指数の低い島根県や高知県,福井県, 山形県などの方が,財政力指数の高い東京都や 愛知県,神奈川県よりも支援学校一人当たり経 費が高くなっていることがわかる。 (2) 支援学校費の割合と支援学校児童生徒数の 割合の関連 都道府県における特別支援教育体制の中で特 別支援学校在籍児童生徒の割合が高くなれば支 援学校費の割合も高くなると考えるのが自然で あろう。そこで,教育費に占める特別支援学校 費の割合(以下「支援学校費の割合」)と,公立 の小中高等学校・特別支援学校小中高等部に在 籍する全児童生徒数に占める特別支援学校小中 高等部在籍児童生徒数の割合(以下「支援学校 児童生徒数の割合」)の関連を見るために,支援 学校費の割合と支援学校児童生徒数の割合の相 関係数を求めたところ,ある程度の正の相関が あるという結果(= = < )であっ た。 図 2 は,支援学校費の割合と支援学校児童生 徒数の割合の関係についての散布図である。支 図 1 支援学校一人当たり経費と財政力指数の関係についての散布図

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援学校児童生徒数の割合が高くなるにつれて支 援学校費の割合も高くなっている。ただ,支援 学校児童生徒数の割合がほぼ同じ島根県や岐阜 県と,高知県や福島県の間では支援学校費の割 合に差があるなど(支援学校児童生徒数の割合 の全国平均は 0.61%,支援学校費の割合の全国 平均は 7.69%),同じ程度の支援学校児童生徒数 の割合でも支援学校費の割合には差が見られた。 (3) 支援学校一人当たり経費と支援学校 1 校当 たり児童生徒数の関連 人口の偏在や社会資本の整備状況などの地域 的な問題や対象児童生徒の障害の状況などとの 関係の中で特別支援学校をどの程度整備するの かは,都道府県の特別支援教育の整備状況や方 針によるところが大きいと考えられる。そこで, 支援学校一人当たり経費と支援学校 1 校当たり の児童生徒数の関連を見るために,支援学校一 人当り経費と支援学校 1 校当りの児童生徒数の 相関係数を求めたところ,負の相関があるとい う結果(=− = < )であった。 図 3 は,支援学校一人当たり経費と支援学校 1 校当たりの児童生徒数の関係についての散布 図である。支援学校 1 校当たりの児童生徒数が 少ない高知県や島根県,山形県,福井県では支 援学校一人当たり経費が高くなっており,支援 学校 1 校当たりの児童生徒数が多い 城県や愛 知県,栃木県などでは,支援学校一人当たり経 費が低くなっていた。 図 2 支援学校費の割合と支援学校児童生徒数の割合の関係についての散布図

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Ⅲ 考察 本稿の目的は,都道府県に設置義務がある特 別支援学校における学校教育活動のために支出 される費用である特別支援学校費について,都 道府県間の差異の状況と差異が生じる要因を, 支援学校一人当り経費の差異の状況,特別支援 学校費の支出の内訳,支援学校一人当り経費と 財政力や教育費に占める特別支援学校費の割合 との関連などを検討することによって明らかに することであった。 支援学校一人当たり経費は都道府県間で最大 約 2 倍の差があったが,財政力指数との間には 負の相関があり(=− = < ),財 政力指数が低い道府県の方が,支援学校一人当 たり経費が高くなっていた。また,支援学校一 人当り経費と支援学校 1 校当り児童生徒数との 間には負の相関があり(=− = < ), 支援学校 1 校当り児童生徒数の少ない県の方が 支援学校一人当り経費は高くなっていた。 支援学校費の割合と,支援学校児童生徒数の 割合にはある程度の正の相関があり(= = < ),支援学校児童生徒数の割合が 高くなるにつれて支援学校費の割合も高くなっ ていた。しかし,そのような状況の中でも,島 根県や岐阜県と高知県や福島県の間では,同じ 程度の支援学校児童生徒数の割合でも支援学校 費の割合には差が見られた。 以上のことから,都道府県間の支援学校一人 当り経費の差異は,Ⅱの「1 特別支援学校整備 状況における格差」で述べたように,財政力の 影響によるものではなく支援学校 1 校当り児童 生徒数の差異による影響であると考えられる。 このことは,Ⅱの「3 特別支援学校費の使途」 図 3 支援学校一人当たり経費と支援学校 1 校当たり児童生徒数との関係についての散布図

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で述べた支援学校一人当り経費の高い道府県の 方が低い府県に比べて支援学校 1 校当りの児童 生徒数が少ないことや教員一人当り児童生徒数 が少なくなっている結果とも合致している。都 道府県間における一人当り経費の差異は,学校 規模の違いなど都道府県間の特別支援学校の整 備状況の違いが要因であり , 図 1 ∼図 3 に示さ れた都道府県の全体的な状況はそのことを裏付 けていると考えられる。 ただし,全体的な傾向がそうであるとしても, 都道府県それぞれの状況を個々に見ていった場 合には差異があることがわかる。たとえば,財 政力指数の比較においてほぼ同じような状況で ある山形県と鹿児島県では(図 1),一人当り経 費で約 1.5 倍の差が生じている(表 1)。これを 表 2 に示した比較の結果からみると,特別支援 学校数では山形県が 18 で鹿児島県は 17 とほぼ 同じになっている。ただ,特別支援学校児童生 徒数では山形県が 1,092 人で鹿児島県は 2,055 人 と約 1.8 倍の差が生じている。支援学校 1 校当 りの児童生徒数では山形県が 60.7 人に対して鹿 児島県は 120.9 人と約 2 倍の差が生じている。 単純に考えれば,鹿児島県が支援学校 1 校当り 児童生徒数を山形県と同じ程度になるように特 別支援学校を整備すれば,支援学校一人当り経 費の差も縮まると考えられるが,当然特別支援 学校数や支援学校 1 校当り児童生徒数がそのよ うになっている背景には,それぞれの県の人口 の偏在や社会資本の整備状況などの地域的な問 題や対象児童生徒の障害の状況 , 保護者の要望 や関係団体からの働きかけ,議会の関与や首長 の選挙時の公約やマニフェストの影響などの 様々な要因があることが考えられ,市町村にお ける特別支援教育の整備状況も含めたそれぞれ の県の要因を検討することが必要である。 本研究においては,全体的な傾向として支援 学校児童生徒数の割合が高くなるにつれて支援 学校費の割合が高くなっているが,島根県や岐 阜県と高知県や福島県のように県によっては同 じ程度の支援学校児童生徒数の割合でも支援学 校費の割合には差が見られることが明らかに なっている。都道府県間で特別支援学校在籍率 の差があまりなく,支援学校費の割合が児童生 徒数に応じて増加していくという全体の傾向が ある中で,県によって同じ程度の支援学校児童 生徒数の割合でも支援学校費の割合には差が見 られることからは,それぞれの県における人口 の偏在等の地域的な問題など何らかの要因によ り学校規模に違いが生じることによって,都道 府県間の差異が生じていると考えられる。 たとえば 2015 年度の財政力指数が全国比較で 第 2 位の愛知県は,支援学校一人当たり経費で は全国比較で 46 位という状況にあるが,県内の 特別支援学校の状況では知的障害特別支援学校 の児童生徒数の過大化の解消が大きな課題と なっており,その解消のために特別支援学校の 増設を進めるなど様々な対応がされている17) 様々な状況の中で,なぜ都道府県間の差異が生 じるのかという要因について,都道府県それぞ れの人口の偏在等の地域的な問題や特別支援教 育の対象となる児童生徒の増減などを詳しく見 ていく必要があると考えられる。その上で,特 別支援教育施策の策定や事業の実施の主体とな る教育委員会を中心に,都道府県における特別 支援教育に関する施策がどのように策定され, 事業が実施されるのかという過程について検討 することが必要であると考えられる。 17) 2012 年度の全国の知的障害特別支援学校大規模校 の内訳では,愛知県立の知的障害特別支援学校が 大規模校の上位 11 位以内に 6 校入っており,過 大化解消が喫緊の課題となっている。その対応の ために特別支援学校の新設が行われている。その 上で,今後は,小・中・高等学校の余裕教室を活 用して特別支援学校の分教室の設置,複数障害を 対象とする特別支援学校に改編整備するなど地域 の特性に配慮した検討が進められるべきであると されている(佐藤 2013)。

(12)

Ⅴ 今後の研究課題 本研究では,特別支援学校費について,都道 府県間の差異の状況と差異が生じる要因を,支 援学校一人当り経費の差異の状況,特別支援学 校費の支出の内訳,支援学校一人当り経費と財 政力や教育費に占める特別支援学校費の割合と の関連などを検討することによって明らかにし た。しかし,都道府県間における一人当り経費 の差異の要因である学校規模の違いなど,都道 府県間の特別支援学校の整備状況の差異を生じ させていると考えられる人口の偏在等の地域的 な問題については,それが存在するであろうこ とを推測するにとどまっている。 そのため次の課題としては,特別支援教育施 策の策定や事業の実施の主体となる教育委員会 を中心に,都道府県における特別支援教育に関 する施策が地域的な問題を踏まえてどのように 策定され,事業が実施されているのかを,市町 村教育委員会による特別支援教育の実施状況や 施策などとの関連を検討することも含めて明ら かにすることが求められる。教育委員会は,学 校運営についての権限を持つとともに,その行 使についての裁量も大きい(新藤 2013)。限ら れた予算の中で,どのような施策にどのように 予算を配分して事業を実施しているのかを見る ことによって,教育委員会の教育政策の方向性 や教育施策の実施方針が明らかになるのではな いだろうか。特色のある特別支援教育政策や施 策を定め事業を実施している都道府県を選定し, たとえば学校教育法が改正され特別支援教育体 制へと移行した 2007 年以降の特別支援教育政策 や施策の推移を検証し,どのような状況の中で 政策が形成されていくのかという過程を詳細に 検討していくことが必要であると考える。2007 年以降の支援員の活用状況,特別支援学校や特 別支援学級等の設置状況,特別支援学校教員や 特別支援学級担当教員の特別支援学校教諭免許 状保有率といった特別支援教育体制の整備状況 を,特別支援教育の推進に関する審議会等の設 置状況や基本方針の有無,首長や議会,特別支 援教育の専門家,保護者,関連団体,メディア 等のアクターの影響力の関わりとも対比しなが ら検討することを通して,特別支援教育に関す る政策決定の過程を明らかにすることが次の課 題である。 (文献) 阿部彩(2014)子どもの貧困Ⅱ.岩波書店. 井上昌士・猪子秀太郎・菊地一文・大崎博史・涌井恵 (2010)専門研究 B 知的障害者である児童生徒に 対する教育を行う特別支援学校に在籍する児童生 徒の増加の実態と教育的対応に関する研究.NISE RESEARCH SNAPSHOT.(2018 年 8 月 14 日 取 得 http://www.nise.go.jp/PDF/snapshot/62.pdf). 大谷恭子(2013)障害者制度改革の到達点と課題.福 祉労働,141,56―65.現代書館. 鴈咲子(2013)子どもの貧困と教育機会の不平等.明 石書店. 佐藤賢(2013)愛知県における特別支援教育の現状と 課題.学び舎:教職課程研究(愛知淑徳大学教育 学会紀要),8,37―47. 柴垣登(2017)特別支援教育における都道府県間格差 についての予備的考察.立命館人間科学研究, 36,1―15. 島田桂吾(2014)首長の影響力はこれまでより強くな るのか.村上祐介(編著)教育委員会改革 5 つの ポイント.学事出版,84―91. 清水貞夫(2012)インクルーシブ教育システムへの提 言.クリエイツかもがわ. 白川優治(2014)教育格差と福祉.耳塚寛明(編)教 育格差の社会学.有斐閣,199―228. 新藤宗幸(2013)教育委員会.岩波書店. 橘木俊詔・浦川邦夫(2012)日本の地域間格差.日本 評論社. 古屋義博・岡輝彦・広瀬信雄(2007)障害児教育にお ける「ナショナルミニマム」について.教育実践 学研究(山梨大学教育人間科学部附属教育実践研 究センター研究紀要),12,50―59. 森徹(2013)地域間の財政力格差と地方交付税.森徹・ 鎌田重則(編著)格差社会と公共政策.勁草書房,

(13)

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Original Article

Comparison of Japanese Prefectures Expenditure on

Schools for Special Needs Education

SHIBAGAKI Noboru

(Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University)

In Japan, education for children with disabilities is conducted in various settings, including schools for special needs education, special classes at elementary and junior high schools, resource rooms, and mainstream classes. Previous research has revealed that a significant difference exists among Japanese prefectures in the student to resource room teacher ratio, as well as the number of available support assistants for special needs education. However, differences among prefectures in schools for special needs education have not been examined. With this regard, this paper aims to study the status of differences among prefectures in schools for special needs education to identify factors causing such differences, which include expenses per student, schools spending breakdown, financial power index, comparison between expenditure of schools for special needs education and mainstream education, and number of students per school. The findings indicate that the expenses per student at schools for special needs education differed greatly among prefectures. This was not only due to financial considerations but rather due to differences in the size of the school(e.g., number of students per school). Additionally, regional problems were considered to be a factor affecting the size of the school.

Key Words : Special needs education, Schools for Special Needs Education Expenses,

Financial power, Educational Differences, Size of the school

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結果は表 2