大学教員から見た要支援学生の
早期介入における効果と課題
──「大学生活支援カード」導入初年度の教員アンケート調査結果から──
向
晃佑
*・井手 沙織
*・小田 浩伸
** 要約:本研究では、「大学生活支援カード」の取り組みについて大学教員を対象としたアンケー ト調査を行い、その結果から要支援学生の早期介入における効果と課題について検討した。教員 アンケートの結果から、教員が要配慮学生を担当する機会は多く、約 7 割の教員が学内支援機関 に繋げていることが明らかになった。その中でも障がい学生支援室との連携数は多く、連携の取 り方や支援室の情報について、教員が個々にアクセスしやすい環境を整備することの重要性が窺 われた。大学生活支援カードを活用した要支援学生への早期介入の試みに関しては、教員からも 有効であるとの評価が得られた。事前に支援を必要とする学生に関する情報を得ることによっ て、教員が個々に対応の工夫をしていることが窺われ、学生の入学時期の戸惑いに対して効果的 なナチュラルサポートにも繋がっていたことが考えられた。一方で、大学生活支援カードに基づ く個別面談の実施に対して負担感を抱く教員の存在が示され、障がいの状態像や対応についての 丁寧な説明や、教員の不安に寄り添う姿勢が支援コーディネーターに求められていると考えられ た。Ⅰ.問題と目的
高等教育機関における障がい学生支援の体制整備は重要な課題の 1 つであり、支援の充実が 求められている状況にある。近年、各大学はその規模や実態に応じた体制整備を進めており、 その取り組みの成果が報告されるようになった(後藤・菊池,2016;本田,2016;西脇,2017 など)。これらの報告では、高等教育機関における障がい学生支援の現状と課題が論じられて おり、多くの研究者らが指摘する課題の一つとして、高校から大学への移行期支援があげられ る。 高校から大学への移行期支援においては、特に発達障がい学生への支援が取り上げられるこ とが多い。例えば篠田・田口(2018)は、「本人の能力と選択した学部の専門性や要求する能 力とのミスマッチ」の問題を指摘した。具体的な例として、対人コミュニケーションの苦手さ ──────────────── * 大阪大谷大学障がい学生支援室 ** 大阪大谷大学教育学部 ― 15 ―を有する学生が対人援助職の養成学部を選択するなど、苦手なことを要求される学部を高校ま でのテスト成績で選択したため、適応が難しいケースが存在することを指摘した。その上で、 入学前段階で修学上必要な能力を受験予定者に提供する必要性と、社会に出る前の最後の教育 機関として、卒業後を見据えた支援を行うべきであると主張した。また、桶谷ら(2011)は、 初等・中等教育における発達障がい児への支援が進んできた結果、大学においても入学時から 継続的な支援を希望するケースが出始めていることを指摘した。また、高校までは適応してき たケースであっても大学への適応に困難を示す可能性が高いと述べた。その背景要因の 1 つと して、高橋(2010)が大学では高校までと異なる自立スキルが要求されると指摘したように、 大学のシステムがこれまでの教育システムと大きく異なっていることが挙げられる。この違い について齋藤(2020)は、「“受動的に学校側の用意したカリキュラムと生活様式に応えていく こと”が高校時代までの適応形態であったのに対して、大学に入学した途端に“自立”を求め られ、生活も学習も進路選択も“主体的”に取り組むことが当然という要請特性の転換」と表 現し、結果として多くの学生たちに心理的な動揺が生じることを指摘した。このような高校と 大学の違いに対して、多くの新入学生が大学入学直後に強い戸惑いや困難を感じることを原田 ら(2018)は、「大 1 コンフュージョン」と命名し、その実態把握を試みた。原田ら(2018) の調査では、大学 1 回生は授業履修の複雑化や学習方法の相違などに起因して学習面に対して 戸惑いや困難を抱きやすいが、対人関係や社会性の困難さを有する学生は、学習面以外の大学 生活全般に戸惑いや困難を抱きやすいことが示された。つまり、高校から大学という環境の変 化は、学習方法の変化が大きく、多くの学生にとって戸惑いや困難を抱きやすい時期であると 同時に、発達障がい学生にとっては学習面以外の面でも戸惑いや困難を抱きやすくなる時期で あると言える。実際に、入学直後はオリエンテーションや行事などが詰まっており、その中で 種々の手続きの説明が凝縮されている。本学でもこの段階で躓く学生が少なからず見受けられ ていた。このような状況をふまえると、入学時期のサポートは以後の大学生活に大きく影響し てくると考えられ、特に発達障がい学生にとってはより顕著であることが想像される。 このような状況をふまえ、向・井手・小田(2020)は入学時期における適切なサポート体制 の構築のため、新入生を対象とした入学前アンケート(以下、大学生活支援カード)の実施に よる要支援学生の早期発見・早期介入を試みた。そして、大学生活支援カードを活用した実践 経過から、大学生活支援カードの導入によって支援を必要とする学生に対する早期介入が可能 となっただけでなく、大学全体の支援体制への意識向上が実感されたことを報告した。しか し、向ら(2020)の報告は実践の経過に基づいたものであり、支援対象となる学生や学生と直 接関わる機会の多い大学教員を対象とした調査等は行っていない。そのため、要支援学生や大 学教員からみた大学生活支援カード導入による効果と課題について十分な検証がなされたとは 言い難い。 ― 16 ―
そこで、本研究においては、大学教員を対象として大学生活支援カード導入初年度の取り組 みに関して尋ねたアンケート調査の結果を報告する。その上で、大学生活支援カードの導入に おける教員側の認識を把握するとともに、今後の学内連携の進め方について検討することを目 的とする。
Ⅱ.方法
1.アンケート実施要領 1)実施対象 大学生活支援カードの配慮に関する項目にチェックのあった学生には、アドバ イザー教員が個別面談を実施する流れとなっている(後述)。そのため、アドバイザー教員を 担う専任教員 134 名を対象とした。 2)実施時期 大学生活支援カード導入初年度末の 3 月から翌年度 5 月にかけて実施した。 3)実施方法 調査は WEB アンケートフォームを用いて実施した。対象者全員に WEB アン ケートフォームの URL を添付したメールを送付し、回答を依頼した。 4)質問項目 質問は全 13 項目であり、『所属(1 項目)』、『学内連携(4 項目)』、『大学生活支 援カード回収後の対応(6 項目)』、『大学生活支援カード活用に向けて(2 項目)』の 4 つのカ テゴリーで構成された。概要を表 1 に示す。 表 1 アンケート項目の概要 カテゴリー 項目数 詳細 所属 1 問 1:所属学科(4 学部 6 学科) 学内連携 4 問 2:支援室の認知(5 件法) 問 3:配慮学生の担当経験の有無 問 4-1:学内連携の経験の有無 問 4-2:経験がある場合 その連携先(複数選択) 大学生活支援カード 回収後の対応 6 問 5:支援カードの閲覧の有無 問 6:個別面談の実施について(選択式) 問 7:個別面談の時期(選択式) 問 8:個別面談の負担感(5 件法) 問 9-1:大学生活支援カードに基づいて学生対応を留意したか否か 問 9-2:留意した点があればその具体例(自由記述) 大学生活支援カード 活用に向けて 2 問 10:大学生活支援カードの有効性(5 件法) 問 11:事前に把握しておきたい新入生情報(複数選択) ― 17 ―2.倫理的配慮 アンケートの冒頭に研究の目的と個人情報の守秘・匿名性、回答が自由意志であることなど を明記し、回答をもって同意とした。なお、本研究は筆者らが所属する機関における研究倫理 委員会の承認を得て行なった。 3.大学生活支援カードを用いた学生支援の概要 1)大学生活支援カード 実際に使用した大学生活支援カードを図 1 に示す。項目 1∼3 は回答する学生自身のことに ついて尋ねる項目で構成され、得意とする力・対人関係の取り方・大学生活での不安な点な ど、学生自身の考えについて、選択肢へのチェック形式で回答を求めた。項目 4∼7 は、大学 生活や授業における合理的配慮の希望・医師からの指示・支援室への相談希望について、「は い/特にない」へのチェックと、任意で詳細について自由記述欄を設けた。学生本人による記 入を求め、項目 4 以降の配慮に関連する内容に関しては、保護者と相談の上、記入するよう依 頼した。 2)対象 学部入学手続者に大学生活支援カードへの回答・提出を求めた。大学生活支援カードは、入 学手続書類の一部として送付し、配慮・相談の希望の有無等に関わらず、全員に提出を求め た。入学辞退者については、入学辞退手続後に破棄することを鏡文に明記し、辞退届の確認 後、書類破棄の手続きを行った。 3)倫理的配慮 大学生活支援カードに記入した内容の情報共有の範囲は、所属学科の教職員、障がい学生支 援室、保健室とした。個人情報を知り得た教職員は、守秘義務を徹底した。また、大学生活支 援カードは関係者以外の目に触れることないよう厳重に管理し、卒業後 5 年まで保管の上、破 棄することとした。これらの内容については、大学生活支援カードの鏡文に明記した。 4)要支援学生の把握 入学手続期間の 10 月∼3 月において、まず支援室にて提出書類を回収し、複写 1 部を支援 室で管理・保管した。大学生活支援カードの原本は、複数回に分けて入学予定先の学科事務に 渡し、学科保管とした。項目 4∼7 で「はい」にチェックのある学生については、要把握学生 としてリスト化し、支援コーディネーターと学科事務とで連絡協議を行った。入学後、要把握 学生としてリストアップされた学生は、所属学科のアドバイザー教員による個別面談を実施 し、合理的配慮の検討が必要と判断される学生や支援室での相談を希望する学生は、支援室に 繋げて頂く手続きを取った。 ― 18 ―
図 1 大学生活支援カード(2019 年度版)
Ⅲ.結果
有効回答数は 56 名(回収率:41.8%)であり、6 学科全ての専任教員から回答が得られた。 以下、カテゴリー別に結果を述べる。 なお、本調査の回答率を鑑みると、以下の結果は、該当テーマに関してある程度関心を持っ ている教員が多く回答しているという点を念頭に置き、結果を吟味していく必要がある。 1.『学内連携(問 2∼問 4-2)』に関する質問項目の結果 問 2 は障がい学生支援室(本学における通称、アクセスルーム)の認識について選択式で尋 ねる項目であった。結果を図 2 に示す。回答した 56 名のうち、障がい学生支援室について 「知っており、業務内容も十分に把握している」と回答した教員が 25 名、「知っており、どう いう部署か把握している」と回答した教員が 30 名であった。「知っているが、どういう部署か わからない」と回答した教員は 1 名であり、「全く知らない」と回答した教員はいなかった。 このように、回答者のほとんどは支援室がどういう部署であるか認識していることが示され た。 問 3 は障がいや疾患を理由とした配慮が必要な学生をアドバイザー教員やゼミ担当教員とし て指導した経験を尋ねる項目であった。結果を図 3 に示す。回答した 56 名のうち、要配慮学 生をアドバイザー教員やゼミ担当教員として担当したことがあると回答した教員は 37 名であ り、66.1% の教員が配慮を要する学生を指導した経験があることが示された。一方で、配慮を 要する学生をゼミ生として指導した経験がない教員も 3 割程度存在した。 問 4-1 は配慮や支援が必要と思われる学生を学内支援機関に繋いだ経験を尋ねる項目であ り、問 4-2 は問 4-1 において学内連携の経験があると回答した教員に対して、実際に繋いだこ とがある学内支援機関を尋ねた。結果を図 4 及び図 5 に示す。問 4-1 に回答した 56 名のうち、 配慮や支援が必要であると思われる学生を学内支援機関に繋いだ経験があると回答した教員は 39 名であり、69.6% の教員が学内連携の経験があることが示された。問 4-1 において学内連 携の経験があると回答した 39 名のうち、問 4-2 において繋いだ経験がある学内支援機関とし 図 2 支援室の認知度について(問 2) 図 3 配慮を要する学生の担当経験(問 3) ― 20 ―て障がい学生支援室と回答した教員が 31 名と最も多く、次いで学生相談室(19 名)、保健室 (11 名)であった。その他、学生課や教務課などの大学事務に相談したケースや、特別支援教 育を専門とする教員に個別で相談したケースが挙げられた。 2.『大学生活支援カード回収後の対応(問 5∼問 9-2)』に関する質問項目の結果 問 5 は大学生活支援カードの回答に目を通したかどうかを尋ねる項目であった。結果を図 6 に示す。回答した 56 名のうち、目を通したと回答した教員は 20 名と全体の 35.7% に留まり、 36 名が大学生活支援カードに目を通していないと回答した。 問 6 は大学生活支援カードにおいて要支援学生としてリストアップされた学生に対して個別 面談を実施したかどうかを尋ねる項目であった。結果を図 7 に示す。回答した 56 名のうち、 要支援学生全員に面談を実施したと回答した教員は 12 名であり、個別面談を一部の学生に実 施したと回答した 9 名を含めても 40% に満たなかった。 問 7 及び問 8 は大学生活支援カードに基づいた個別面談について詳しく尋ねる項目であり、 問 6 において個別面談を「実施した」または「一部実施した」と回答した教員(21 名)に回 答を求めた。 問 7 は個別面談を行った時期を選択式で尋ねる項目であった。結果を図 8 に示す。個別面談 を学生入学直後の新入生オリエンテーション時に実施した教員が 3 名、学生を呼び出し面談実 施した教員のうち、4 月中に行った者が 7 名、5 月以降に行った教員が 10 名であった。また、 本学で新入生を対象として実施している別のアセスメントテストの結果返却面談時に併せて個 別面談を実施したと回答した教員は 5 名であり、個別面談の実施時期にばらつきがあることが 窺われた。 図 4 学内の支援機関との連携経験(問 4-1) 図 5 連携先について:複数選択可(問 4-2) 図 6 大学生活支援カードについて(問 5) 図 7 個別面談の実施について(問 6) ― 21 ―
問 8 は個別面談を行うことの負担感を尋ねる項目であり、1(全く負担はなかった)∼5(と ても負担が大きかった)の 5 件法で尋ねた。結果を図 9 に示す。大学生活支援カードに基づく 個別面談の実施について、あまり負担に感じていない教員がいる一方で、大きな負担感を抱く 教員も存在していることが示された。 問 9-1 は、大学生活支援カードによる情報把握によって、学生への対応に留意した点の有無 を尋ねる項目であり、問 9-2 は、問 9-1 において留意した点があると回答した教員に対して、 その具体例を自由記述で尋ねる項目であった。回答した 56 名のうち、問 9-1 において留意し た点があると回答した教員は 24 名であった。その内 19 名が問 9-2 において留意した点の具体 例について回答した。得られた回答について、【教員としての関わり方や態度】、【授業時の具 体的配慮】、【その他】の 3 つのカテゴリーに分類した。【教員としての関わり方や態度】につ 図 8 個別面談の実施時期について(問 7) 図 9 個別面談の負担感について(問 8) 表 2 大学生活支援カードの情報把握に基づいた留意点の具体例(問 9-2)の分類 教 員 と し て の 関 わ り 方 や 態 度 見守り的 関わり ・配慮点−死にたい気持ちになるであったので、他の学生とのかかわりや、授業での態度,思考 のとらえ方など気に留めた。 ・行動、発言などをよく観察し、声をかける際にも言葉を選びながら接するようにしている。 ・配慮学生の日常を注意(観察)している。 ・昨年度、体力に非常に不安があるという旨の回答をした学生がいたように思います。その学生 については気をつけてみるようにはしていましたが、ゼミでみていた範囲ではとくに困ったこ とはありませんでした。 プライバシー への配慮 ・対人関係に考慮する必要があったため、意見を聞くときは最初ではなく、後で聞くなど ・他の学生に気づかれないような形で対応しました。 声かけの工夫 ・プレッシャーにならないように話をすること。 ・学生が話しやすいように、優しく話しかけた。最初は、closed、で、はじめ、話すようになっ たら、open question になるように。辛いということを理解していることを示してあげる。 ・デリケートな内容もあったので、質問形式ではなく学生から話ができるように留意した。 意思の尊重 ・本人の意思・希望を確認することは重要だと思います。 ・書かれた内容に配慮した対応を考える。 授業時の 具体的配慮 ・授業時のスライドを黒字背景に変更して作成した。 ・ゆっくり話す。口形をわかりやすく。大事なことは 2 回話す。パワーポイントの文字の大き さ、フォント、色づかいなどの工夫・配慮。 ・希望する座席配置、過度にならない程度の個別応対(こちらからの問いかけも含む)。 その他 ・PTSD や、精神的な問題で薬を飲んでいるかどうか。 ・ゼミ生の配属が無いので、大学生活支援カードに触れていない。 ・そもそも、大学生活支援カードとは、どこで見れるのでしょうか? ・遠隔授業時における情報保障。 ・WEB 授業での配慮事項を確認した(聴覚や視覚への配慮の有無)。 ― 22 ―
いては、さらに[見守り的関わり]、[プライバシーへの配慮]、[声かけの工夫]、[意思の尊 重]の 4 つの下位カテゴリーに分類した。問 9-2 で得られた回答とカテゴリー分類の結果を表 2 に示す。本調査では、大学生活支援カード導入初年度の取り組みについて回答を求めたが、 回答期間が年度末 3 月∼翌年度 5 月にかけて設定したため、一部次年度の取り組みについての 回答が見られた。そのため、次年度の取り組みについて答えていることが明確に判断される回 答(例えば、2020 年度から導入された遠隔授業に関する配慮についての回答など)は、【その 他】に分類した。 3.『大学生活支援カード活用に向けて(問 10∼11)』に関する質問項目の結果 問 10 は、大学生活支援カードによる情報把握が学生の大学生活適応に有効かどうかについ て尋ねる項目であり、1(全く有効ではない)∼5(とても有効である)の 5 件法で尋ねた。結 果を図 10 に示す。ほとんどの教員が大学生活支援カードに基づく情報把握が新入生の大学生 活適応に有効であると感じていることが示された。 問 11 は、新入生について事前に把握しておきたい点について選択式(複数選択可)で尋ね る項目であった。てんかんやアナフィラキシーなど緊急対応の有無が最も多く、56 名中 52 名 が事前に把握したい項目として回答していた。次いで対人コミュニケーションの苦手さ(56 名中 42 名)、支援機器の利用の有無(56 名中 41 名)と続いた。また、本調査の選択肢以外に 把握したい点として、「過去の不登校歴」や「メンタル面での不調の既往」、「LGBT」など学 生の状態像に関する項目が挙げられた一方で、「保護者の意向」という回答も見られた。
Ⅳ.考察
1.本学における障がい学生支援と学内連携の現状と課題 本研究の結果から、回答した教員のうち半数以上が障がいや疾患を理由とした配慮が必要な 学生をアドバイザー教員やゼミ担当教員として指導した経験があることが明らかになった。配 慮や支援を必要とする学生の支援において学内連携の経験がある教員も多く、配慮を必要とす 図 10 大学生活支援カードの有効性について(問 10) 図 11 事前に把握しておきたい新入生情報(問 11) ― 23 ―る学生を指導した経験がない教員からも、学内連携の経験があるとの回答が得られた。ゼミ担 当教員やアドバイザー教員として配慮を必要とする学生を指導した経験がない教員であって も、学内連携の経験があるということは、担当している授業等その他の場面において配慮を必 要とする学生との関わりがあったと考えられる。このように回答した教員のうちの多くが配慮 を要する学生と関わっており、近年、障がい学生が増加傾向にあることを鑑みると、妥当な結 果であると言える。また、教員が事前に把握しておきたい新入生の情報について尋ねた項目 (問 11)において、最も多かったのは「てんかんやアナフィラキシーなど緊急対応の必要性の 有無」であった。緊急対応の必要性は学生の命に密接に関わるものであり、多くの教員が緊急 対応の必要性が高い内部疾患を抱えているかどうかを事前に把握したいと回答したと考えられ る。次いで多かったのは「対人コミュニケーションの苦手さ」であり、「支援機器の利用の有 無」が続いた。「対人コミュニケーションの苦手さ」については、性格特性に起因するものだ けでなく、発達障がいの特性に起因するものが想定される。同様に、「支援機器の利用の有無」 については、車イスを利用する肢体不自由学生や補聴器を利用する聴覚障がい学生など身体障 がい学生が想定される。このように、教員側が事前に把握したいと考えている情報は多岐に渡 っており、教員の多くが様々な障害種に対応する必要性を認識していると考えられる。回答し た教員のうちの多くが障がい学生支援室がどのような部署であるか把握していると回答してお り、学内連携における連携先として障がい学生支援室が最も多かったことをふまえると、教員 が配慮を要する学生と関わる際に必要に応じて障がい学生支援室とスムーズに連携を図ること ができる体制作りをしていく必要があると考えられる。 2.大学生活支援カードを活用した支援の実態と教員からの評価 大学生活支援カードは、入学時期における適切なサポート体制の構築のため、支援や配慮を 必要とする学生の早期発見及び早期介入の試みとして導入された(向ら、2020)。そこで、本 研究で得られた教員アンケートの結果から、大学生活支援カードを活用した支援の実態と教員 からの評価について考察を試みる。 大学生活支援カードによって要把握学生としてリストアップされた学生に対しては、所属学 科のアドバイザー教員による個別面談を行うよう依頼した。教員アンケートの結果から、回答 した教員のうち 35.7% が大学生活支援カードに目を通しており、37.5% が要把握学生として リストアップされた学生に対して個別面談を実施していたことが示された。また、大学生活支 援カードによる情報把握によって学生への対応に留意したと回答した教員も同様に 40% 程度 であり、その具体例としても授業時の具体的配慮事項や、教員としての関わり方や態度のあり 方など内容が多岐に渡っていた。これらの結果から、大学生活支援カードを活用して、各教員 が個々に対応の工夫をしている実態が窺われた。 ― 24 ―
一方で、大学生活支援カードに基づく個別面談の実施については、大きな負担感を抱いてい る教員も一定数存在することが示された。高石・青柳・福留(2017)は、「一人の教員がゼミ やクラス指導の責任を負うこと」が求められる状況が、配慮を必要とする学生の指導において も同様に「一人で判断を行うことを迫られる」という心理的負担を生じさせやすくなる要因と なる可能性を指摘した。高石ら(2017)が指摘したような状況は、本学においても生じうるも のであり、配慮を要する学生を指導する際に生じうる心理的負担を軽減するような教員へのサ ポート体制を構築していく必要があると考えられる。教員へのサポート体制が構築されること で、大学生活支援カードが十分に活用されていない状況の改善に繫り、結果として配慮を要す る学生の早期発見・早期介入が可能になると考えられる。そのため、障がいの状態像や対応に ついての丁寧な説明や、教員の不安に寄り添う姿勢が支援コーディネーターに求められている と考えられ、今後、重要な視点として検討を重ねたい。 大学生活支援カードの有効性に関しては、回答したほとんどの教員が大学生活支援カードに 基づく情報把握が新入生の大学生活適応に有効であると感じていた。教員が事前に把握してお きたい入学生の情報を尋ねる項目において、多くの教員が複数回答していたことをふまえる と、新入生に関する情報は、教員にとっても必要性の高い情報として認識されている状況が窺 われる。向ら(2020)は、学生の支援ニーズが乏しい場合は、大学生活支援カードを導入した としても、把握することは難しく、潜在的な相談ニーズのある学生をどのように把握し、支援 へとつなげていくのかが課題であると指摘した。現状、大学生活支援カードの配慮に関する項 目においてチェックがあった学生を要把握学生としてリストアップし、早期介入を試みてい る。そのため、潜在的な相談ニーズがある学生が把握されにくい状況にある。しかし、大学生 活支援カードにおける項目 1∼3 は回答する学生自身のことについて尋ねる項目で構成されて おり、配慮に直接的に関わる内容ではないが、事前情報として活用できる余地があると言え る。しかし、現状として大学生活支援カードに目を通した教員は少なく、特に要把握学生とし てリストアップされていない学生の情報は十分に活用されているとは言い難い。「そもそも、 大学生活支援カードとは、どこで見れるのでしょうか?」という回答があったように、大学生 活支援カード自体がまだ十分に認知されていない状況があると言える。そのため、今後も継続 的な取り組みを続け、学内における認知度の向上を図るとともに、配慮に関する項目以外の回 答内容が支援に活用できる体制整備をしていく必要があると考えられる。 3.今後の課題 本研究では、大学生活支援カード導入初年度の取り組みに関して教員を対象としたアンケー ト調査を実施した。しかし、本調査の回答率は 50% を下回っており、本学における実態を十 分に把握できたとは言い難い。本調査における方法上の課題として、以下の 2 点が挙げられ ― 25 ―
る。1 点目は、本調査の実施時期である。本調査を行なった時期が大学生活支援カード導入初 年度の年度末である 3 月から翌年度の 5 月にかけて実施したため、一部翌年度の取り組みにつ いての回答が見られた。2 点目は、要把握学生の在籍について尋ねる項目を設けていなかった 点である。自身のゼミ生の中に要把握学生としてリストアップされた学生が在籍しているかど うかを尋ねていなかったため、大学生活支援カードに基づく個別面談を実施していないと回答 した教員は、ゼミ生に該当学生がいないために個別面談を実施していないのか、それとも要把 握学生が在籍していたが個別面談を実施していないのか判別できなかった。今後は、これら方 法上の課題を改善した上で、本学における大学生活支援カードを活用した支援の実態の把握を 試みる必要があると考えられる。 文献 朝比奈なを(2010).高大接続の“現実”“学力の交差点”からのメッセージ.学事出版. 後藤綾文・菊池紀彦(2016).障がい学生支援推進に向けての取組−三重大学における現状と課題−. 三重大学教育学部研究紀要,67, 293-299. 原田新・池谷航介・松井めぐみ・望月直人(2018).「大 1 コンフュージョン」の実際(第 1 報)−高校 と大学のギャップに戸惑う新入生の実態調査−.岡山大学教師教育開発センター紀要,8, 97-107. 本田恵子(2016).早稲田大学における障がい学生支援の取り組みについて.コンピュータ&エデュ ケーション,40, 19-25. 向晃佑・井手沙織・小田浩伸(2020).私立大学における新入生を対象とした要支援学生への早期介入 の取り組み−「大学生活支援カード」の導入による初年度の実践報告−.大阪大谷大学教育学部特 別支援教育実践研究センター紀要,4, 39-47. 西脇喜恵子(2017).小規模大学における障がい学生支援のあり方について−障害者差別解消法と体制 整備の観点を踏まえて−.東京有明医療大学雑誌,9, 49-51. 桶谷文哲・水野薫・吉永崇史・西村優紀美・斎藤清二(2011).発達障害学生の大学移行支援.学園の 臨床研究,10, 39-49. 齋藤憲司(2020).大学生活で出会うストレス.齋藤憲司・石垣琢磨・高野明(著),大学生のストレス マネジメント−自助の力と援助の力−,有斐閣,pp 1-24. 篠田直子・田口多恵(2018).信州大学における障害学生支援体制の特長と課題.信州大学総合人間科 学研究,12, 119-133. 高石恭子・青柳寛之・福留留美(2017).発達障害及び発達障害傾向のある学生への支援の現状と合理 的配慮に関する教員の意識についての研究−甲南大学専任教員・非常勤講師へのアンケート調査か ら−.甲南大学学生相談室紀要,24, 24-45. 高橋知音(2010).大学生.田中康雄編「発達障害の理解と支援を考える」.臨床心理学増刊 2 号,金剛 出版,pp.82-87. ― 26 ―