Title
「小1プロブレム」の予防を目的とした多面的な心理教
育プログラム(1) : 幼小連携におけるスクールカウン
セラーの役割
Author(s)
吉川, 麻衣子
Citation
教職実践研究(2): 27-31
Issue Date
2011-06
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/21767
Rights
沖縄大学教職支援センター
実践報告
「小1プロブレム」の予防を目的とした多面的な心理教育プログラム(1)
―幼小連携におけるスクールカウンセラーの役割―
吉 川 麻 衣 子
人文学部福祉文化学科Multifaceted Education Programs to Prevent Psychological Problems with
First Grader Acclimation:
Role of School Counselors in Kindergarten–Elementary School Partnership
Maiko YOSHIKAWA
(Faculty of Humanities, Department of Welfare and Culture)本稿は,「小1 プロブレム」予防を目的とした,子どもたち,保護者,教員向けの心理教育プログラムの成 果と課題について論じた。スクールカウンセラー(筆者)はコーディネーターの役割を担った。幼小連携が形 骸化した地域での実践であったため,まず,教員同士が本音で語り合い,互いの専門性に対する理解を深めた。 よって,子どもたちの交流も積極的に行われるようになった。保護者プログラムは,就学前の子どもをもつ親 の気持ちを丁寧に扱った内容となった。課題として,より一般に発達障害の理解を促す必要性と,地域性を考 慮した実施の工夫について考察した。 キーワード:小1プロブレム,予防,心理教育,幼小連携,スクールカウンセラー
This study discussed the results and themes of a year-long psychological education program for children, parents, and early education teachers. The goal of this program was to prevent children from having what is called “the first-grade problem”—problem with acclimating to the first grade. School counselors acted as coordinators in a series of programs. They worked in areas where kindergarten–elementary school partnership had become defunct. The faculty from each type of school began with open and honest face-to-face communication to gain a greater understanding of each other’s expertise. This led them to make proactive efforts in programs geared at children and those at parents. The programs that they developed dealt with the concerns of the parents of pre -elementary school children. The study discussed the issues of finding methods to raise public awareness of development disorders and devising programs geared for the area.
Key Words: first grader acclimation, multifaceted psychological education program, kindergarten -elementary
school partnership, school counselor
Ⅰ 緒言 「小 1 プロブレム」とは,小学校入学の段階で, 教員の話を聞かない,指示に従わない,授業中勝 手に歩き回るなど,授業規律が成立しない状態へ と拡大し,学級崩壊などにつながりかねない行動 が子どもたちの間で多発する状態である。東京都 教育委員会の調査では,平成 21 年度において「小 1 プロブレム」が発生した公立小学校は,全体の 4 分の 1 に上っていたとされる(東京都教育委員会, 2009)。1990 年代半ばから全国で報告されるよう
教職実践研究,2011,2,27 - 31 「小1 プロブレム」の予防を目的とした多面的な心理教育プログラム(1) になった。この問題の発生について分析した斉藤 (2009)によると,発生の要因として,「児童に耐 性が身についていなかったこと」,「児童に基本的 な生活習慣が身についていなかったこと」,「担任 が個別に教育的な配慮や支援を必要としている児 童への指導と全体への指導を適切にできなかった こと」,「児童に集団生活での経験が不足していた こと」,「担任が児童の変化に対応した指導ができ なかったこと」などが挙げられている。個々の子 どもたちの主体性を最大限に発揮することが中核 となっている幼稚園の教育から,集団生活が求め られる小学校の教育への移行が難しいことがこれ らの要因の背景には存在している。 「小 1 プロブレム」は,平成 18 年文部科学省教 育課程部会小学校部会(第 1 回)においても議題 に上っている。さらに,2010 年には,「幼児期の 教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する 調査研究協力者会議報告書」を公開している(文 部科学省,2010)。その中で,全国のほとんどの地 方公共団体で幼児期の教育と小学校教育がその重 要性を理解したうえで連携していく必要性を感じ ていながらも,実際には十分な取り組みがなされ ているとはいえない状況にあると示している。 これらの現状を踏まえ,「小1プロブレム」の予 防を目的とした取り組みについて,文部科学省と 厚生労働省は,「保育所や幼稚園等と小学校におけ る連携事例集」を作成している(文部科学省・厚 生労働省,2009)。それによると,「子ども同士の 交流活動」では,幼児が小学校生活に親しみ期待 を寄せたり,自分の近い将来を見通すことができ るようになる。また,児童が幼児に伝わるような 言葉づかいや関わりを工夫したり,思いやりの心 を育んだり,自分の成長に気づいたりするという 効果が得られたとされる。「教職員の交流」では, 幼児・児童の実態,教育内容や指導方法について 相互理解を深めることにより,円滑な連携・接続 にむけた指導方法等の改善ができる。また,義務 教育修了までに子どもを育てるという長期的な視 点から,子どもの発達の段階に応じてそれぞれの 教育施設が果たすべき役割について再認識できる 効果が得られたとされる。さらに,保育過程・教 育課程の編成においても,指導方法を工夫し,幼 児期の教育と小学校教育の段差を小さくすること により,子どもの生活の変化への戸惑いが減ると いう効果が得られたとされる。 しかしながら,各地域での実践報告が散見され る中で,保護者に対する支援を目的とした取り組 みの報告はない。幼児期・児童期の子どもを育て る保護者が抱える不安を話せる場があることは, 子どもの心身の安定につながるため,小学校での 安定した生活を営むことを目指すこれらの取り組 みにおいては,保護者同士の交流も必要ではない だろうか。しかも,事例集で報告されている地域・ 学校は,幼小連携のモデル地域・学校として取り 組まれたものであり,指定されていない地域・学 校においては,その取り組みは未開拓なままだと される。 そこで本研究では,「小 1 プロブレム」の予防を 目的とした「子ども同士の交流」「教職員の交流」 「保護者の交流」の多面的な心理教育プログラム を実施し,その成果と課題について論じる。その 中で,小学校に配置されているスクールカウンセ ラー(以下,SC と記す)がいかに幼小連携の一翼 として役割を果たすことができるのかについて考 察することを目的とする。なお,本研究における 心理教育は,「幼稚園・小学校において,子どもた ちが小学校生活にスムーズに移行できることを目 指し,心理学の手法を活かして考えられた教育的 な取り組み」と定義する。 Ⅱ 方法 1.実施対象・時期・内容 X 年 4 月から X+1 年 3 月にかけて,同地域に在 る公立幼稚園と公立小学校において実施された心 理教育プログラムの実施時期と内容を表 1 に示す。 この地域は,幼小連携が X 年時点では全く行われ ていなかった地域である。 各プログラムの実施者は,下記のとおりである。 1)教職員同士の交流:各学校から 2 名ずつ担当教 員(1 名は管理職)を選出して実施した。 2)保護者同士の交流:各学校から 1 名担当教員を 選出し,SC が共にファシリテーターを担った。
3)子ども同士の交流:各学校から 2 名ずつ担当教 員を選出して実施した。 表 1 「小 1 プロブレム」の予防を目的とした多面的な心理教育プログラムの概要 対象及び人数 時 期 内 容 教職員同士の交流(幼稚 園教員と小学校教員) ①40 名,②35 名 ①X 年 5 月 ②X 年 8 月 ①エンカウンター・グループの手法を用いたアイスブレー ク,「お互いの専門性を知るために」「どんな子どもを育て ていきたいか(フリートーク)」 ②協働して「子ども同士の交流プログラム」の案を練る 保護者同士の交流(保育 所注 1)・幼稚園・小学校) ①9 名,②12 名,③12 名, ④21 名 ①X 年 6 月 ②X 年 8 月 ③X 年 11 月 ④X+1 年 2 月 ①子育てフリートーク ②わたしが子どもだった頃 ③発達障害への理解,子育てフリートーク ④子どもに向けての「こころの花束」 子ども同士(園児・児童) の交流 ①X 年 9 月 ②X+1 年 1 月 ①イモ掘り遠足(幼稚園児,小学 4 年生) ②合同学習発表会,小学校探検ツアー(幼稚園児,小学 1 年生・6 年生) 注 1) 保育所に通う子どもの保護者も参加したいという希望があったため両校の管理職が参加を承認した 2.倫理的配慮 本稿において当プログラムの経過を扱うことに ついては,幼稚園と小学校の管理職・教職員の承 諾を得た上で,記録を整理した。さらに,数回の チェックを受けた上で,承諾が得られた部分のみ を記載するようにした。そのため,当プログラム の全内容について記載することはできない。 Ⅲ 多面的な心理教育プログラムの実際 多面的な心理教育プログラムの成果に関する客 観的評価の分析と,実際に幼稚園児が小学校 1 年 生になってどのような小学校生活を送っているの か,どのような面にプログラムの効果が見てとれ るのかについては,時期をみて別稿で論ずること とする。本稿では,1 年間のプログラムの実際を 記す。 1.教職員同士の交流 当初,この取り組みに対してあまり積極的では なかったのは,小学校教員だった。X 年当時,小 学校では特別な支援を要する児童の対応に追われ, 時間的な余裕がなかったためである。しかも,そ ういった児童に手を焼いているのは,「幼稚園でき ちんと教育されるべきことがされていないから だ」という声も聞かれていた。しかし,管理職の リーダーシップのもと,5 月に何とか実施するこ とができた。内容は,エンカウンター・グループ を専門にされている教員が中心となって組み立て られた。アイスブレークをした後に,幼稚園・小 学校の教員が入り混じるように編成された 6~7 名ずつのグループに分かれ,テーマを設定したフ リートークが行われた。「お互いの専門性を知るた めに」というテーマと,「どんな子どもに育ててい きたいか」というテーマであった。特に後者のテ ーマに関しては,幼稚園と小学校ではそれぞれが 思い描く教育像・子ども像が違うことが浮き彫り になった。幼稚園教員からは「子どもの主体性」 を重視した意見,小学校教員からは「集団活動」 を重視した意見が出された。しかし,「その違いを お互いに表出できたことがよかった」と両校の教 員から感想があった。 2.保護者同士の交流 保護者交流プログラムは,各学校から選出され たベテランの教員に SC が加わり実施したが,保 護者に参加募集のアナウンスをする時期がずれ込 んでしまい,実施日直前にしか募集をかけること ができなかった。そのため,1 回目の 6 月は参加
教職実践研究,2011,2,27 - 31 「小1 プロブレム」の予防を目的とした多面的な心理教育プログラム(1) 者 9 名という人数だった。「子育てフリートーク」 では,日頃,子どもと接している中で不安に感じ ていることや疑問に思うことを率直に出し合い, お互いにアドバイスを与え合うなどとても有意義 な時間となった。子育て経験が豊富な保護者から アドバイスをもらった,初めての子育てに奮闘し ている保護者は,「今日,ここで話ができてよかっ たです。大人の思う通りには子どもは育ってくれ ないのは当たり前なんだとわかったことで,少し 気持ちが楽になりました」と感想を語っていた。 そして,3 回目のときには,参加者からリクエ ストがあった発達障害についての話をすることに なった。実際に,発達障害の診断を受けている園 児をもつ保護者から,「このままこの小学校へ通わ せたいと思っているが,特別支援学校へ通わせた 方がいいのか迷っている」という話が出た。医療 機関からは特別支援学校を勧められているが,ど うしても決めきれないでいるとのことだった。す ると,小学校の児童の保護者から,「特別支援学校 の方がいいのでは?」と発言があった。言葉とし ては「その方が子どものためなのでは?」という ものであったが,内容的には他の子どもたちへの 影響を心配するような発言であった。その発言を 受けて,園児の保護者は泣き出してしまうという 場面があった。その後,SC が個別面談する中で, 「障害児に対する世間の目はまだまだ厳しい。子 どもがこれから生きていく中で色々な人の目にさ らされる。それに耐えられる力をつけていけるか が心配。でも,その力をつけてもらいたいという 思いがあって,小学校の通常学級に通わせたいと 思っている。きっと私自身にも与えられた課題な んです」と語られた。 保護者同士の交流は後に「親たちのつどい」と いうことで,保護者が主体で開かれるようになっ た。前述の障害をもつ園児の保護者も,その後の つどいに継続して参加している。 3.子ども同士の交流 9 月の芋ほり遠足は,毎年小学校のみで行われ ている行事であったが,それに幼稚園児も一緒に 参加するというプログラムであった。小学 4 年生 という最も指導が難しいとされる学年の教員らが 考案した。自分たちよりも幼小の子どもの面倒を みることで,「思いやりのこころ」を育むことがで きないだろうかという意図があった。実際に,当 時,4 年生の 2 クラスは学級崩壊寸前の状態だっ た。しかし,芋ほり遠足での取り組みを通して, 教員らの意図していた効果が得られ,少しずつ子 どもたちが落ち着きを取り戻しつつあるという報 告があった。 そして,合同学習発表会を両校が合同で行うと いう,これも新たな取り組みであった。幼稚園児 の発表を小学生が手伝ったり,小学生の発表(劇) に幼稚園児が一緒に参加したりと,子どもたち同 士の交流が活発に行われていた。その日の午後に 行われた小学校探検ツアーでも,子どもたちの笑 顔と笑い声があふれていた。 Ⅳ 課題 プログラムの実践を通して見えてきた課題を中 心に考察していく。 1.発達障害の理解をめぐって 保護者同士の交流プログラムで述べたように, 発達障害を抱える子どもの保護者が語る,「障害児 に対する世間の目」は,専門家が考えるよりも未 だ厳しいのかもしれない。2005 年に発達障害者支 援法が施行され,2007 年より特別支援教育が学校 教育法に位置づけられた。以来,発達障害に対す る理解は教育の現場においては前進してきたかの ように思われる。しかしながら,発達障害に対す る偏見もまだ根強く残っているのも確かである。 特に,小学校への就学をひかえた保護者にとっ ては,これから始まる義務教育をどのような環境 で迎えた方が,子どものためになるのかと深く考 えている。今後は,発達障害を抱えた子どもを持 つ保護者が気軽に「子育てフリートーク」ができ るような機会を作っていく必要がある。さらに, 広く一般に向けて,発達障害の理解を促す啓発活 動を行っていく必要があるのではないだろうか。 2.地域性を考慮した実施の工夫
今回のプログラムを実施した地域は,生活保護 世帯が約半数という地域であり,様々な理由で学 校と家庭との繋がりが希薄な地域である。そのた め,学校からの広報が家庭や地域に行き届かない という現状があった。 そこで,今回の実施にあたっては,地域担当の ソーシャルワーカーに協力を依頼した。特に,保 護者同士の交流プログラムに関する広報は,ソー シャルワーカーの尽力によるものが大きい。幼小 連携,それに保育所,中学校を誘い込んで,「子ど もを育てる,子どもが育つ」ための環境づくりを 視野に入れた,プログラムを地域主体で実施して いく工夫が必要だろう。 3.幼小連携におけるスクールカウンセラーの役 割 幼小連携に関する論文が増えてきているが,幼 少連携におけるスクールカウンセラーの役割につ いて論じられたものはない。今回のプログラムに おいて,SC は主にコーディネーターの役割を担っ た。元々,幼小連携に対する意識があまり高くな い両校の教職員に,その必要性を感じてもらい, 「子どもたちのために」という部分で共通認識を 持ってもらえるかが非常に苦労した点であった。 幼小連携においてスクールカウンセラーができ ることは,学校あるいは地域が主体となって様々 な取り組みができるように,調整する役割ではな いかと考える。幼稚園と小学校が互いに抱えてい た感じ方や考え方の違いを表出することから,真 の意味での「連携」は始まるのではないだろうか と今回のプログラムを通して感じられた。そのた めに,まずは感情的な部分に配慮し,感情的な隔 たりを繋ぎ,初めの第一歩を仕掛けていく役割が スクールカウンセラーには求められているのでは ないだろうか。 次稿では,スクールカウンセラーの動き方に焦 点化して論を進めていきたい。 謝 辞 本稿の執筆にあたり,記録提供をご快諾くださ いましたA 幼稚園および B 小学校の学校関係者の 皆様,そして,「親たちのつどい」に関する記録を 記載することをご快諾くださいました保護者の皆 様に心から感謝申し上げます。両校の益々のご発 展を祈念し,本稿の謝辞とさせていただきます。 引 用 文 献 文部科学省(2006)教育課程部会小学校部会(第 1 回)議事録.文部科学省ホームページ,2006. 文部科学省(2010)幼児期の教育と小学校教育の 円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会 議報告書.文部科学省ホームページ,2010. 文部科学省・厚生労働省(2009)保育所や幼稚園 等と小学校における連携事例集.文部科学省ホ ームページ,2009:1-83. 斉藤剛史(2009)対策急がれる「小 1 プロブレム」. Benesse 教育情報サイト,2009. 東京都教育委員会(2009)東京都公立小学校第 1 学年の児童の実態調査.教育庁資料,2009. 受付日 2011 年 6 月 20 日 受理日 2011 年 6 月 24 日