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「砂防の観測の現場を訪ねて」出版にあたって

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Academic year: 2021

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「砂防の観測の現場を訪ねて」出版にあたって

Publication for“Visiting for the observation sites for SABO "

松 尾 新 二 朗

* Shinjiro MATSUO 1.はじめに 2018年7月4日,第1回の砂防学会・砂防人材育 成委員会が開催された。近年,気候変動等により土 砂災害が激甚化,集中化し,土砂災害への防災・減 災に対する社会的ニーズが高まっている一方で,産 ・官・学のいずれにおいても砂防分野の人材の不足 が危惧されている。このため,砂防関係の大学の若 手研究者の人材確保ならびに人材育成について,産 ・官・学の関係機関が連携して必要な取り組みを行 うことが重要との趣旨で本委員会が設置された1) 。 本委員会では,産・官・学から選出された委員の 方々が様々な議論を重ねた末,2019年3月に砂防人 材育成行動計画(案)が策定された。この砂防人材 育成行動計画(案)には,いくつかの短期計画(実 施予定期間1∼2年)と中期計画(実施予定期間5年 以内)が示されている。砂防学会誌に掲載された「観 測の現場を訪ねて」を再編集し書籍として出版する 活動が,「砂防の研究の見える化に努める」ための短 期活動計画の一つとして位置付けられた。そこで, 2019年5月に小職を含めて7名の委員から成る「砂 防の観測の現場を訪ねて」出版プロジェクト委員会 が立ち上がった。2020年3月までに7回の委員会を 行い,第1巻(以下,「本書」と呼ぶ)の出版に向け た活動を行った。ここでは,その出版活動を通じて 感じたことなどを述べてみたい。 なお,「観測の現場を訪ねて」の記事は,2006年 の砂防学会誌267号に第1回として「京都大学防災 研究所穂高砂防観測所」を掲載して以降,2019年の 砂防学会誌341号の第73回まで,全国の火山地域, 山地森林地域,河川上流域など様々な地域での砂防 における観測現場ならびに観測方法を紹介したもの である。 2.砂防における観測の重要性 土石流観測の歴史としては,1960年代,国内にお いて羽越豪雨災害(1967年8月)や飛騨川バス事故 (1968年8月),北陸豪雨災害(1969年8月)と土石 流による災害が相次いだことを受け,土石流の実態 解明を目的に1970年6月から,建設省松本砂防工事 事務所(当時)管内の焼岳上々堀沢で本格的に開始 された土石流観測が最初であった。 今では,土石流の映像などは色々な場面で流され ることが多くなったが,その当時,土石流という現 象に対して計測はもとより映像記録もなく,実際の 土石流がどのような現象であるかはっきりわかって いなかった。そこで,まずは“百聞は一見にしかず” の考えから,土石流を映像に収めることが試みられ てきた。しかし,初年度の観測では失敗続きでなか なかうまくいかず,ようやく土石流の様子を8ミリ カメラの手回しで得ることができた程度であった。 土石流のビデオ観測と,センサーを用いた先端流速 の計測などで土石流の観測データが次々と得られる ようになったのは,その翌年からであったとされて いる2) 。 このように土石流の現象一つをとっても,その実 態を見る機会はあまりなく,山間地域の突発的な現 象に対して安全かつ連続的に精度良くデータを収集 することは容易なことではない。加えて,砂防分野 が扱う土砂移動現象には,土石流以外にも表層崩壊 や深層崩壊,火山泥流,火砕流など多岐にわたり, その上どの土砂移動現象もやはり実際に起きている 状況に遭遇する機会はなかなかない。したがって, そのメカニズム解明のための観測(データ収集)は, 土石流観測と同様,連続性,安定性,安全性などの 観点から非常に難しい。また,土砂移動現象そのも のの観測と併せて,対象現象の誘因となる降雨量や 地震動,融雪量,降灰量などの気象データも正確か つ的確に収集する必要があり,このことがさらに砂 防の観測の難易度を高めている。 近年,土石流や流砂の観測では,底面流速計,土 石流荷重計,ハイドロフォン,レーダー水位計,濁 度計などの計器の開発・改良が進んでいる。また, UAV機器や LP(レーザプロファイラ)計測機器の 加速度的な技術進展により,土砂移動イベント前後 の地形変化の観測を,短時間で広範囲かつ高精度で 実施することが可能となっている。また,そのデー タの処理能力や保存技術も格段に進歩・向上したこ とで,さらにその利便性は高まっている。砂防にお

砂防学会誌,Vol.73,No.1,p.1−2,2020

*正会員 日本工営株式会社 Member, Nippon Koei co., Ltd. ([email protected])

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ける質・量・場・時間・空間が連携した信頼性の高 いフィールドデータの取得・蓄積は,砂防計画や土 石流対策,斜面崩壊対策の立案や工法開発はもちろ ん,警戒避難のタイミングや警戒区域の設定を合理 的かつ的確に検討する上で極めて重要な役割を担っ ている。 本書では,過酷な気象条件・地形条件を有する砂 防現場において,「観測の現場を訪ねて」の筆者らが, 様々な現場条件に臨機応変に対応した中で,苦労し た点,忍耐強く知恵を絞り創意工夫した点などをコ ラムとしてまとめており,これら筆者らの生の声を ご覧いただきたい。 3.土砂災害をテーマとして 近年,地球温暖化の影響とされる異常気象が毎年 当たり前のように発生しており,西日本のみならず 東北・北海道を含めた日本全国で豪雨に伴う土砂災 害が頻発している。記憶に新しいところでは,2017 年7月の九州北部豪雨災害や2018年7月の西日本豪 雨災害,2019年10月の台風19号等豪雨災害などが あり,これらの災害は洪水と併せて広域かつ甚大な 被害を及ぼす特徴を有している。また,豪雨と併せ て,地震に伴う土砂災害も頻発しており,2018年6 月の大阪北部地震,同年9月の北海道胆振東部地震 においても多くの人命や財産が失われた。これから の社会はこのような激甚・頻発化する自然災害への 対応を余儀なくされ,その社会的関心も非常に高い ものになっていくと考えられる。 これらの大規模な土砂災害が発生する度に,砂防 学会や砂防に携わる研究者・専門家・技術者達は, “なぜこのような土砂災害が発生したのか”“二次的 な被害拡大の危険性はないのか”“同様な形態の災害 を繰り返さないための予見・予測はできないのか” “予見・予測に基づく事前対策はできないのか”とい う課題を突き付けられ,その課題解明のために様々 な分野の研究者・技術者と協力しながら懸命に研究 ・技術開発に取り組んでいる。このように,土砂災 害への社会的関心がますます高まっている中,砂防 に係わる関係者が土砂災害の防止・軽減に向けて努 力・活躍している姿を少しでも広く世の中に知って もらいたいことを願い,今回「観測の現場を訪ねて」 の連載記事の中から土砂災害に係わるものを選び出 し,「土砂災害を知るための観測」をテーマとする3 編構成の書籍を出版することになった。 4.砂防分野の人材育成に向けて 冒頭にも述べさせてもらったが,今回の出版企画 は,砂防分野の人材育成に向けて砂防学会が取り組 んでいる活動の一つである。今から30∼40年前に比 べると,日本各地の大学で「砂防」の看板を掲げる 研究室は2割減少,教員数(定数)も3割以上減少 し,このままでは大学における砂防研究者は減少の 一途をたどると言われはじめている3) 。これまで多く の砂防専門家を輩出している大学においては,砂防 関係の学士や院生を育成する機会や砂防工学等の学 問を教える場が減少し,地域社会において土砂災害 対策に従事する研究者や技術者,専門家が,今後, 不足しかねない状況に陥っている。 一方で,五味は,砂防や土砂災害の用語の広がり, それらの社会的関心を砂防の「視聴率」といった表 現で示しており,近年,線状降水帯形成や深層崩壊, 地震による土砂災害が頻発したことで土砂災害が多 様な素因と誘因により発生することが社会的にも知 られ,砂防や土砂災害の「視聴率」は年々高まって いるとしている4) 。 そこで,砂防分野の重要性を今以上に広く社会へ 知ってもらい,理解を得て,支援してもらえる環境 を作りながら,同時に大学内における砂防のステー タスを高めていくことが大切である。 このため, 学会の貴重な取り組みを学会誌の中 だけに収めず,学会の外へ広める機会の創出,砂 防研究を志す若い人材の確保,若い研究者・技術 者への技術継承,などを目指した出版活動を砂防学 会が取り組むことは大変意義深いものと考える。 5.おわりに 砂防に係わる技術・研究は,常に実現象に関連す る様々な物理量をいかに正確かつ的確に測るかとい うことを目指しており,砂防に限らず自然科学の分 野では「観測」を含めたフィールドワークの重要性 は極めて高い5) 。本書もこのフィールドワークの重要 性とそこで必要とされる姿勢・資質などを,筆者ら が体験談に基づいて語っている。 ぜひ,学会員に限らず学生や若い技術者の方々が, 砂防への興味を抱くきっかけとして,砂防研究に取 り組む足掛かりとして,本書を活用していただけれ ばと思う。この論説がみなさんの目に触れるころに は,本書はすでに出版されているころであろう。ど のような反応が聞けるか,大変楽しみである。 最後に,出版に至るまでにご尽力いただいた執筆 者の方々ならびに出版プロジェクト委員会をはじめ とした砂防学会関係者の方々に対し,ここに深謝の 意を表する。 参 考 文 献 1)砂防学会総務部会砂防人材育成委員会:砂防人材育成行 動計画(案)に関する報告書,2019 2)諏訪浩:講座 土石流 4.土石流の観測事例,土と基礎, Vol.48,No.7,p.41―46,2000 3)丸谷知己:砂防人材の育成,砂防学会誌,Vol.69,No.2, p.1―2,2016 4)五味高志:大学における次世代の砂防カリキュラム構築 にむけて,砂防学会誌,Vol.70,No.4,p.1―2,2017 5)山口真司:総合科学としての砂防学について思うこと, 砂防学会誌,Vol.72,No.1,p.1―2,2019 砂防学会誌 Vol.73 No.1(348)May 2020

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