学習指導要領(図画工作)と材料・用具
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 学習指導要領(図画工作)と材料・用具 阿 部 宏 行 北海道教育大学岩見沢校美術教育研究室. Course of Study for Elementary Schools (Arts and Handicrafts) and Materials and Tools ABE Hiroyuki Department of Art Education, Iwamizawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿では,戦後の学習指導要領等の記載から,材料・用具について分析し,図画工作・美術 を通して使用される材料・用具の推移と,特に「用具」の指導のあり方について考察するもの である。. 完全二足歩行によって一層「頭脳」は拡大し,. はじめに. 「手」の自由度が増し緻密な動きを獲得すること. 本稿は図画工作・美術における特に「用具」に. になった。また,声帯が言葉を発するのに都合よ. ついて,学習指導要領などを踏まえて,その意味. くなり「言語」能力も飛躍的に拡充することになっ. や意義,教育的な価値などを論考するとともに,. た。. 今後の「題材」の理論構築を論じて質の向上に寄. 言語の発達によって意思の疎通が容易になるこ. 与するものである。. とで共同体を構成するのに都合がよい結果となっ た。 共同体を組織し,維持するために,食糧を調達. 1 「用具」について. したり料理したり,家を建てたり,土地を耕作し. 人類はめざましい知能の発達によって「ホモ・. たりするのに,道具,機械,器具,用具などがつ. サピエンス(知恵ある人)」と呼ばれる一方,道. くりだされるようになった。こうして人間は,道. 具をつくり操作する「ホモ・ファーベル(工作す. 具のための道具(道具の二次製作)をつくりだす. る人) 」であり, 遊びを行う「ホモ・ルーデンス(遊. までになった2)。. 戯人間) 」などともよばれている。. このことが人類と他の霊長類を区別する鍵に. 人類の発達は,森の木の上で生活から地上での 1). 生活に移行したことによるものである 。結果,. なっている。人間の使う道具は,自然物をそのま ま使うのではなく,材料を組み合わせて複雑な機. 319.
(3) 阿 部 宏 行. 械にまで発展させている。これらの道具は,使い. 低学年の「簡単な小刀類」とは,カッターナイフ. 方を伝え,共有することができる特色までもって. や段ボールカッターなどが考えられるので,中学. いる。. 年の「小刀」は,そのものといえる。巷では「小. 文部省による「道具,機械,器具,用具」の,. 刀は危ないから…」「小刀を使うことは将来ない. 見解は「機械とは①抵抗力のある物体を組み合わ. から…」「小刀でなくてもカッターナイフで…」. せたもので,②各部の限定された運動により,③. などの声もある。安全指導は十分行わなければな. 与えられたエネルギーを有効な仕事に変えるもの. らないが,体験する機会や,鉛筆を削るなどの技. である。のこぎりやつちのような単一なものは道. 能を高める機会まで失うことになってもよいのか. 具といい,時計や計器類は測定のための補助で. ということである。. あって仕事をするわけではないので,機械といわ. 小刀などの用具は,それぞれの用途や機能があ. ず器具という。学習指導要領では,これらをすべ. る。小刀は木を削るのに適しているが,カッター. 3). て含んで用具としている。」 と示している。本稿. ナイフは紙類を切断するのに適した用具である。. も学習指導要領と同じ「用具」で論を展開する。. つまり,用具は,構造も,切ったり削ったり目的 に応じた形をしているのである。. ⑴ 指導上の配慮に関すること. 知識は「教えること」ができる。しかし,手ご. 平成29年(2017)改訂の小学校学習指導要領図. たえや手加減といった感覚は,実際に体験しない. 4). 画工作 の「内容の取扱いと指導上の配慮事項」. と身に付かない。技能は,実際に体験し,体にな. ⑹には, 「材料や用具」について示されている。. じんでいくようにして身に付くのである。時代の. また,これらは当該学年で「取り扱う」ことを必. 移り変わりは,教育や子どもの世界を変貌させて. 須として示されている。. いる。自然を舞台にした遊びや地域を中心にした. 低学年では「土,粘土,木」を取り扱うことに. 子ども集団遊びも影を潜めた。. なる。どうして砂はないのか。いろいろ考えるこ. 学校と家庭との役割も,様変わりし始めてい. とができるが,全国どの学校にも「砂」はあるが,. る。例えば,家庭に常備されていた「のこぎり」. あっても,おおよそ陸上競技用の砂場があるだけ. や「金づち」といったものは,ごく少数になり,. である。また,犬や猫などの糞尿による衛生面な. 「ペンチ」や「ドライバー」といった用具や工具. どで, 「砂に触らない」ように指導することもあ. が常備されているだけである。そのため図画工作. るという。. における作品づくりは,「学校でしかできないこ. 「多くの材料体験をさせたい」という願いと,. と」として「木をのこぎりで切る」「金づちで釘. 現実の中でいろいろ課題はあるが,他の材料など. を打つ」といった体験は,「学校の図工で行うも. でも体験することで補われることもある。また,. の」と変化している。学校でも家庭でもできる往. 「土,粘土,木,…など」の「など」の範疇は,. 還的な造形活動は,不用になった空箱やペットボ. 各学校で子どもの発達や実態に応じて使うことを. トルなどの工作で行われる範囲である。. 意味している。教師の工夫によって,地域にある 材料や扱いやすい用具をもちいて,つくりだす喜. ⑶ 刃物は危険. びを実感させることができる。. 包丁も,はさみも刃物である。カッターナイフ のみ. かんな. も,のこぎり,鑿,鉋も刃物である。子どもが危 ⑵ 「簡単な小刀類」と「小刀」について. 険な刃物を使うことでの弊害はないか。安全に使. 前述の平成29年の学習指導要領の「内容の取扱. 用できるか。他人に対して危害を加える用具にな. いと指導上の配慮事項」⑹の低学年には, 「簡単. らないか。そこまでして使用する必要があるの. な小刀類」があり,中学年には「小刀」がある。. か。現在の生活や社会において,将来も使うこと. 320.
(4) 学習指導要領(図画工作)と材料・用具. のないものは不用なものであり,学校教育におい. 使いやすいのこぎり,金づちなど」である。第5,. て使用させる意味や価値はあるのか。. 6学年は「針金,糸のこぎりなど」である。取扱. これまで通りという従前踏襲や,製作と用具の. いに関しては必要に応じて,前の学年で取り扱っ. 関係だけで使用を考えるのではなく今後の社会と. たり,その後の学年で繰り返し取り上げたりする. の関係の中で,材料や用具を考える必要がある。. など,安全に配慮しつつ経験することと,技能の 熟達を考慮するよう示されている。 この材料・用具については,平成20年(2008). 2 「用具」としての小刀について. の学習指導要領と同様のものが示されている。第. 最初に「用具」として用いられたのは,旧石器. 3,4学年(以下,中学年)の「小刀」が,戦後. 時代に木材を加工するための石の斧だと考えられ. の学習指導要領で,どこに,どのように位置付い. る。直接,石器を手に持って使われた「握り斧」. ていたのかを記述する。. おの. にぎりおの. から,やがて縄文時代になり,木の柄を結わえた おの. せき ふ. 石の斧「石斧」となった5)。. ① 昭和22年(1947)「学習指導要領 図画工作. 弥生時代になると,大陸から稲作とともに鉄の てっ ぷ. てつのみ. 編(試案)」文部省(表1). 文化も伝わり, 「鉄斧」や「鉄鑿」,槍の形に似た. 戦後,民主的な教育を求めて示された学習指導. 「槍 鉋 」などの鉄製の木工具が普及した。用途. 要領は,「試案」の通り,拘束力を持たず,教員. に応じて槍鉋の種類も増え,小刀の原型ともいえ. の自律的なカリキュラムづくりや指導に寄与する. る手持ちのものも登場した。槍鉋は,台がなく槍. 形で提示されている。小学校と中学校に分けず,. の穂先に似ていることから呼称されている。刃は. 9年間の指導する内容が示されている。. 両側にあり少しそりを持たせている。古墳時代の. 用具についても,心身のおおよその発達を基. 7世紀には斧や鑿,錐,金槌など様々な種類の工. に,「最も重要なもの:◎」「使用量が比較的少な. 具が誕生した。現在の小刀の形をした「刀子」は,. いが補助的に用いるもの:〇」「そこからもちい. ものを切る,削るなどの加工するときに用いられ. てもよい。またはそこまで用いてもよい。あるい. た。この「刀子」のような用具は,家を建てるな. はまれに用いるもの:□」の3段階に分けて提示. どの大工道具としてだけでなく,当時貴重であっ. されている。. た紙に代わって使われた木や竹に文字などを書き. たとえば,クレヨンは第1学年から第4学年ま. 添えていたときに,修正のために表面を薄く削る. でが,◎として重要視しているが,第5,6学年. 用具としても使われた。. (以下 高学年)は□として,そこまで使用して. やり かんな. おの. のみ. きり. かなづち. とうす. もよいと示している。水絵具は,中学年では□と ⑴ 学習指導要領における歴史的な視座. して,そこから使用してもよいが,高学年から中. 学校で使用する用具について,戦後の学習指導. 学生までは◎として,使用を重要視している。. 要領をもとに, 歴史的な推移を検証するとともに,. 「小刀」は,中学年に,◎を位置付け,高学年. 教育の現代化という観点で,その変容を考察す. 以降は,〇として補助的な使用を示している。. る。 . こうして,学校教育において「小刀」の使用は,. 前述の平成29年(2017)告示の学習指導要領の. 中学年で指導することがはじまったといえる。. 「第3指導計画の作成と内容の取扱い」の第2⑹. ② 昭和26年(1951)「学習指導要領 図画工作. に材料・用具が取り上げられている。第1,2学. 編(試案)改訂版」文部省(表2). 年では「土,粘土,木,紙,クレヨン,パス,は. 昭和22年告示後の改訂版として,昭和26年に発. さみ,のり,簡単な小刀類など」である。第3,. 刊されている。その後,昭和30年には「学習指導. 4学年は「木切れ,板材,釘,水彩絵の具,小刀,. 書」が発行され,教員に対して指導上の配慮事項. 321.
(5) 阿 部 宏 行. 表1 昭和22年「学習指導要領 図画工作編(試案)」 昭和22年(1947) 品名 クレヨン 鉛筆 水絵具 毛筆と墨 色紙 中厚紙 厚紙 粘土 糸・布 木・竹 針金・板金 鉄・その他の金属 セメント ものさし はさみ 小刀 三角定木 コンパス 分度器 丁定木 きり くいきり ペンチ・ヤットコ 木づち・金づち くぎ抜き ねじまわし・スパナ やすり のこぎり かんな 曲尺・スコヤ のみ はんだごて 各種のこう着剤 各種の緊結材料 塗装材料. 1 ◎ 〇. 2 ◎ 〇. 〇 ◎. 〇 ◎. 〇. 〇. 〇 ◎. 〇 ◎. 〇. 〇. 小学校 3 4 ◎ ◎ 〇 ◎ □ □ □ □ 〇 〇 ◎ 〇 ◎ ◎ 〇 〇 □ □ □ 〇. 5 □ ◎ ◎ ◎ □ 〇 □ 〇 〇 ◎ 〇. 6 □ ◎ ◎ ◎ □ 〇 □ 〇 〇 ◎ 〇. 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇. 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 〇 〇 〇. 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇. 〇. 〇. 〇. 〇 〇 〇. 7 ◎ ◎ ◎ □ 〇 □ □ 〇 ◎ 〇 〇 □ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇. 中学校 8 9 ◎ ◎ ◎ □ 〇 □ □ 〇 ◎ 〇 〇 □ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇. ◎ ◎ ◎ □ 〇 □ □ 〇 ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇. ◎:最も重要なもの 〇:使用量が比較的少ないか補助的に用いるもの □:そこから用いてもよい。またはそこまで用いてもよい。あるいは まれに用いるもの. などが示されている。 材料・用具に関しては,昭和22年同様に3段階 で記載されている。「小刀」に関しては,切出し 小刀,えぐり小刀の2種類に分かれている。えぐ り小刀は,補助的な使用となっている。切出し小 刀は,第3学年で「そこから用いてもよい」とし て,第4学年から「最も重要なもの」として使用 するようになっている。 えぐ. 「抉り小刀」は,刃物の先端部分が細長くなっ ていて,欄間などの奥まった部分を削るときに用 いられる。 ③昭和33年(1958) 「学習指導要領 図画工作編」 文部省 昭和33年の学習指導要領は,法的な拘束力の色 合いも帯び始め,教科書などの使用と併せて,実. 表2 昭和26年「学習指導要領 図画工作編(試案) 改訂版」 昭和26年(1951) 品名 クレヨン・パス類 不透明水えの具 指えの具 鉛筆 色鉛筆 透明水えの具 毛筆と墨 薄紙(色紙を含む) 中厚紙(画用紙を含む) 厚紙 粘土 糸布 竹材 木材 金属 ものさし はさみ 切出し小刀 えぐり小刀 彫刻刀 三角定木 コンパス 分度器 分割器 きり くいきり 竹ひきのこぎり なた やっとこ ペンチ 木槌・金槌 釘抜き 釘しめ やすり 手ひき糸のこぎり のこぎり ねじまわし スパナ まわしびきのこぎり 平がんな 曲尺 直角定木 金切りばさみ のみ けひき 金工コンパス はんだごて 金ひきのこぎり うち抜き けがきばり 画板 パレット 筆洗い といし おしぎり たちばん・たちじょうぎ 粘土板 竹けずり台 ハンドドリル ガラス切り かんきり 手まわしグラインダー 万力 各種接着料 各種きんつけ剤 各種けんま剤 塗装材料. 小学校 3 4 ◎ ◎ ◎ ◎. 1 ◎ ◎ □ ◎ □. 2 ◎ ◎ □ ◎ □. 〇 ◎ ◎ □ ◎ □ □ □. 〇 ◎ ◎ □ ◎ □ □ □. 〇 ◎ ◎ ◎ ◎ 〇 〇 □. ◎. ◎ ◎. ◎ ◎ 〇. ○. 〇 〇. ◎ 〇 ◎ □ ○ 〇 〇. □ □. ○ □. 〇 〇 〇 □ 〇. ○ ◎ 〇 〇 〇 〇. □ □. □ □. 〇. ◎ □ 〇 〇 〇 ◎ 〇 ◎ ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ○ 〇 〇 〇 ○ ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇. □. □. 〇 〇. □ 〇 〇 〇. □. □. 〇. 〇. ◎. ◎. 〇. 〇. ◎ 〇 〇 □ □ □ ◎ □. ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇 〇 ◎ 〇 〇 〇. 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇. ◎. ◎ □. ◎. ◎ □. □. ◎ 〇 〇 □. ◎ □ 〇 〇 〇 ◎ ◎ ◎ 〇 〇 〇. 6 ◎ ◎. ◎ □ 〇 〇 〇 ◎ 〇 ◎ ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ○ 〇 〇 〇 ○ ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 ◎ ◎ 〇 〇 〇 〇 ◎ 〇 〇. □. 〇 □. 5 ◎ ◎. 〇 〇. ◎:最も多く用いるもの 〇:使用の量が比較的少ないもの □:そこから用いてもよい。またはそこまで用いてもよい。あるいは まれに用いるもの. 際の指導で材料・用具の定着が図られていった。 (表3). 昭和35年(1960)の学習指導書にも,明記されて. 「小刀」に関しては,「切出し小刀」として,. いる。. 322.
(6) 学習指導要領(図画工作)と材料・用具. この時期は,高度成長期を迎え,子どもを取り. ⑴ 文明と身体. 巻く社会や環境に著しい変化が起こる。家庭や社. 私たちの身体には異変が生じているという。そ. 会に,金づちやのこぎりがあり,それらを使う働. れは文明の発展によって,狩猟などで多くの時間. く人々を直接見る機会を失っていく時代になって. を歩くことに使われていた時代から,定住などに. いくのである。. よって移動せず,座ることが多くなった。 現代人に起る腰痛などは,立つこと,歩くこと などの基本動作が失われていることから起こる,. 3 学校教育と「用具」について. 身体の変化だという6)。. ここでは,社会や環境の変化による「用具」を. 不便な生活から,便利なものを発明し発展させ. 学校教育で指導する意味や価値について,人間の. ることで得られた文明の代償として,人類が誕生. 資質や能力の発揮など広い視野からの観点も含め. して以来の数百万年の中で埋め込まれた身体の記. て記述を進めていく。. 憶が失われている。 表3 昭和33年(1958)「学習指導要領 図画工作編」. 昭和33年(1958) 内容. 絵をかく. 1年. 2年. 3年. 4年. 5年. 6年. 鉛筆. 鉛筆. 鉛筆. クレヨン. クレヨン. クレヨン. パス類. パス類. パス類. 不透明水彩絵の具. 不透明水彩絵の具. 不透明水彩絵の具. ⑴ 心の中にある ものを絵で表現 する ⑵ 外界を観察し ながら絵で表現 する※自ら適当 な描画材料を選 ぶ. ⑴ 心の中にある ものを絵で表現 する ⑵ 外界を観察し ながら絵で表現 する※自ら適当 な材料を選ぶ. ⑴ 心の中にある ものを絵で表現 する ⑵ 外界を観察し ながら絵で表現 する※自ら適当 な材料を選ぶ. 絵をかくに準ずる. 彫刻刀. 彫刻刀. 彫刻刀. 粘土. 粘土. 粘土. (彫塑を作る) 粘土. 指絵の具. 版画を作る. 学習指 導要領. 粘土を主材料 にしていろい ろなものを作 る 模様を作る. いろいろなも のを作る(役 に立つものを 作る). インク. 粘土. 石こう 粘土. 粘土. やわらかい石材. やわらかい石材 木材. 色紙. 色紙. はさみ. はさみ. 色紙. 竹. (デザインをする) 各種の紙. のり. ものさし. 厚紙. 木. 竹. 竹. 中厚紙. 中厚紙. 中厚紙. のこぎり. 木. 木材. 各種の紙. 自然材料. 自然材料. 三角定木. 三角定木. 針金. 針金. 人工材料. 人工材料. コンパス. コンパス. 板金. 板金. 切出し小刀. 切出し小刀. 三角定木. 三角定木. きり. コンパス. コンパス. なた. 簡単な木工用具. 簡単な木工用具. 塗装. 簡単な金工用具. 簡単な金工用具. ゴム. ゴム. ばね. ばね 滑車 歯車 ベルト. 指導書(1960)に記載された材料:⑴紙類 ・画用紙類 ・色紙類と模様紙 ・厚紙類 ⑵粘土類 ・土粘土 ・油粘土 ・ゴム粘土 ⑶竹材 ・ ま竹 ・しの竹 ・ささ竹 ⑷材木 ・かつら ・ほう ・すぎ ・せん ・まつ ・ひのき ・ラワン ⑸金属類 ・鉄線 ・銅線 ・アルミ 線 ・ブリキ板 ・トタン板 ・銅板 ・アルミ板 ⑹その他 ・指絵の具 ・スクラッチボード ・あき箱 ・糸 ・糸 ・リボン ・ボタン ・貝がら ・ミシン糸巻き ・あきかん ・布きれ ・鳥の羽毛 ・小枝 ・卵がら ・落ち葉 ・小石 など 指導書(1960)に記載された用具:絵筆 パレット 筆洗 画板 彫刻刀 版画用バレン 版画用はけ 版画用ローラー 粘土板 竹割りなた 彫刻兼用竹削り台 木工用のこぎり 糸のこぎり 木づち 錐(きり) 金づち くぎぬき 平がんな のみ ねじまわし やすり 粘土べら 粘土貯蔵かめ 粘土焼成かま はさみ ものさし 三角定木 コンパス 裁ち板と裁ち定木 ホッチキス 切出し小刀 竹ひきのこぎり 万力 といし ガラス切り ペンチ やっとこ くいきり 金切りばさみ けがき針 金床 はんだごて ドリル グラインダー. 323.
(7) 阿 部 宏 行. 敢えて「不便益」7)なる言葉を使って,人間に. いて厚紙を指定通りに切断する検証では,使い方. 埋もれている感覚を顕在化させ研ぎ澄ますことを. にばらつきや,技能として身に付いていない子ど. 推奨する運動が行われている。例えば洗面所の蛇. もを見いだすことになった。. 口を従来の回転式にして,回す,水量を調整する. 単に指のはさむ力ではなく,右利きであれば,. など,安易な自動化などに逆行する動きである。. はさみをもつ右手と紙を持つ左手との連動性に問. 身体に秘められた生命の記憶は,私たちがこの世. 題を抱えていることが判明された。このような手. に生を受けて死を迎える日まで,内在しているの. の巧緻性も含めて,脳と手の関係や,目視や手の. である。. 連動性など,教育で担うことの意味や価値が浮き 彫りになったといえる。成長に伴う遊びの中で指. ⑵ 生命の記憶と身体. や手などの感覚を十分に使うことの必要性を感じ. 人間は誕生して1歳ごろから「あ!そうか」と 8). 取った。. 意味関連を理解し了解する「洞察力のある行為」. 写真1は,幼児が洗濯バサミを操りながら,段. を行うようになる。ものと用具の関係を理解する. ボール箱に,はさむ遊びをしている。. とともに,技能の発達によって思いを実現するこ とができるようになる。このことは近似的な問題 解決だけではなく,はるかにかけ離れた出来事に 対しても対処が可能になることを示している。こ 9) という言葉を れらを三木成夫は, 「生命記憶」. 使って,私たちの体内に残る痕跡は生命誕生の長 い長い記憶を伝えている。 「手」が5本の指から成り立っていることも, 長い長い進化の歴史の中で蓄えられた記憶の痕跡. 写真1 幼児(1歳9カ月)の挟む力と巧緻性. 「手」から得られた情報は,体内の記 である10)。 憶として,人間の創造性を支えている。. 座ることで両手が自由に動かすことのできる乳 児期から,二足歩行が可能になり自由に動くこと. ⑶ 手の巧緻性を高める. のできる幼児期に至るまでの遊びの意味や価値に. 平成24年(2012)から平成27年(2015)まで,. 質的向上を促すことが重要である。. 科研費の委託を受け「子どもの手の巧緻性に関す る基礎研究と授業改善の一考察」を実施した。こ. ⑷ 用具と教育的意義. れは戦後間もないころの指力(指で,ものをはさ. 今もドイツの幼稚園13)では,木とともに暮ら. む力)のデータを基に,現在の子どもたちの実態. すこと,子どものころから「本物」にふれること. を把握し,その結果から考察する研究であった。. を大事にしている。. 岩見沢市内の子どもたちの検証実験を予備調. ドイツのケッセル市の森の中にある幼稚園と学. 11). として行い,測定方法を洗い出し有効性の. 校が併設したモンテッソーリ幼稚園を訪問した。. ある調査にするようにした。次の年には本調査を. 3~6歳が36名,教員5名,その他に実習生1名. 北海道教育大学附属札幌小学校で実施し検証し. で構成されていた。登校は7:30で15:30に帰園. た12)。結論としては,戦後50年や100年では,指. する。特色として月曜日を「森の日」として,長. のはさむ力(指力)に変化を見いだすことは出来. い時間屋外の森で過ごす。また,金曜日は「音楽. なかった。. の日」として,非常勤の講師が園を訪れて指導す. 他方,指のはさむ力(指力)を「はさみ」を用. る。. 査. 324.
(8) 学習指導要領(図画工作)と材料・用具. 当日は雨のため,写真2,3のように各自,用. 知っている・覚えているというだけではなく,. 具などを持ち出して,自由に室内で過ごしていた。. 「使える」という知識にまで高めることを示して いる。. 写真2 ろうそくに火をつける遊び. 図1 小刀の扱い方. 図1は,文部省が昭和61年(1986)に発行した 『小学校図画工作指導資料 材料用具の扱い方と その指導』の小刀の取扱いについて示したもので ある。 読むことや,見ることで「知識」として得るこ とはできるが,木を削る感覚や,抵抗感など手加 写真3 大人と同じ大工道具での木工遊び. 減に属する体験的な「知識」を得ることはできな い。 やはり,実際に体験し,技能も高まって得られ. 個人の遊びを基本にしながら,準備や片付けな. る「身体知(知識)」だからである。. ど,生活習慣の基礎を学びながら生活していた。. 図1の資料から30年を経て,図2は平成31年3 月に文部科学省のホーム・ページに掲載され閲覧. ⑸ 用具を操る. できる「材料や用具の扱い方」を示したものであ 10). 新学習指導要領(平成29年告示) は,三つの. る。(図2「図画工作科で扱う材料や用具」の. 柱から資質・能力の育成をめざしたもので「知識. Webページから). 及び技能」を活用することで, 「思考力,判断力,. この図2のホーム・ページは学習指導要領に示. 表現力等」の育成が図られるとしている。. されている図画工作における基本的な工作用具. ここでいう「知識」は,知っていることである. を,切る用具:「はさみ」「のこぎり」「カッター. が,芸術系の教科の特質から,「身体知」と呼ば. ナイフ」,はさむ用具:「ペンチ」「クランプ」(万. れる身体に蓄えられた「知識」をもとに技能を伴. 力),打つ用具:「金づち」,削る用具:「小刀」な. いながら,思考・判断し問題を解決する能力とし. どに区分して掲載されている。. て位置付けていることである。. これら用具は教員自体も実際に触れる経験が少. 325.
(9) 阿 部 宏 行. る。便利が受動的な態度を涵養し「しなくても済 む」は,そのうち主体的に「してみたい」ことさ えも失わせることになる。 藤森照信は,「人は,今も昔も,木,石,鉄, コンクリートを問わず,物に働きかけるとき,二 本の脚で立ち,手に道具を握る。そのとき,道具 は人の手の延長となる。とりわけ日本の職人にこ の感覚は強くあり,自分の体の一部のように道具 を扱い,手入れを怠らない。人の手の先に道具が, 道具の先に木が,木の先に森が,森の先に山が, 11) という。 山の先に大きな自然がある。」. 図2 小刀の扱い方. 私たちは,人間として,生命及び人類の歴史を 体内に資質や能力を備えて,この世に誕生した。. なくなっている。教員は文化を伝承する立場とな. 発達や成長というその時間の中で,この資質や能. る継承者である。授業を通して,子どもたちに指. 力を発揮することは,人間としての存在,そして. 導するには,教材研究として事前に触れる必要が. 文化や文明を築く存在としての使命を担っている。. ある。. 手の延長としての用具は,それらの実現を可能 にするパートナーなのである。. おわりに 引用および参考文献. このたびの研究では特に用具に関して,論を展 開してきた。 手の延長にある用具は,私たちの生活や社会を, そして文化を築いてきた。不便な生活も工夫する ことで, 快適な生活へ近づいていくことを「知恵」. 1)フランク・ウィルソン著 藤野邦夫・古賀祥子訳『手 の500万年史 手と脳と言語はいかに結びついたか』新 評論,2005 2)文部省『小学校図画工作指導資料 材料用具の扱い 方とその指導』ぎょうせい,1986. として身に付けてきた。. 3)同上. 不便を感じないということは,生活する上では. 4)文部科学省 「小学校学習指導要領(平成29年告示). 「よい」ことといえるかもしれない。しかし, 「不 便がないこと」は,「不便を解決しよう」として, 想像力や創造性を働かせていたことを「なくす る」としたら,大きな損失である。 少しぐらいの「不便」が,私が何とかしなけれ ばという主体性を生み,自分ごととしてとらえ, 解決のための知識や技能を働かせ,思考・判断す るのである。このような行為を通して人間のもつ 能力を育むことになるのである。 例えば,鉛筆を削るという行為について立ち止 まって考えると,電動鉛筆削りで済ませることが できる。敢えて「小刀で鉛筆を削る」ような不便 なことをすることは,意味や価値のないことにな. 326. 解説 図画工作編」日本文教出版,2017 5)藤森照信「ようこそ,大工道具の世界へ」『竹中大工 道具館 常設展示図録』 ,公益財団法人竹中大工道具館 6)ヴァイバー・クリガン・リード著 水谷淳,鍛原多 恵子訳『サピエンス異変 新たな時代「人新世の衝撃』 飛鳥新社,2018 7)川上 浩司『不便益のススメ 新しいデザインを求 めて』岩波ジュニア新書,2019 8)アドルフ・ポルトマン著 高木正孝訳『人間はどこ まで動物か 新しい人間像のために』岩波新書,1961 9)三木成夫『胎児の世界 人類の生命記憶』中公新書, 1983 10)久保田競『手と脳―脳の働きを高める手』叢書・脳 を考える 紀伊國屋書店,1982 11)阿部宏行「子どもの手の巧緻性に関する基礎研究⑴ 予備調査報告と検証」『北海道教育大学紀要(教育科学.
(10) 学習指導要領(図画工作)と材料・用具. 編)』第64巻第1号,2013 12)阿部宏行「子どもの手の巧緻性に関する基礎研究⑵ 調査報告と検証」 『北海道教育大学紀要(教育科学編) 』 第65巻第2号,2015 13)阿部宏行「子どもの手の巧緻性と造形教育 ドイツ の幼稚園に学ぶ」 『北海道教育大学紀要(教育科学編) 』 第67巻第1号,2016 14)藤森照信「ようこそ,大工道具の世界へ」『竹中大工 道具館 常設展示図録』,公益財団法人竹中大工道具館 *)福井一真「工作・工芸教育おける小刀の取り扱いに 関する考察Ⅰ」『大学美術教育学会誌』44号,大学美術 教育学会,2012,pp375-382 *)福井一真「工作・工芸教育おける小刀の取り扱いに 関する考察Ⅱ」『大学美術教育学会誌』45号,大学美術 教育学会,2013,pp335-342 *)福井一真「工作・工芸教育おける小刀の取り扱いに。 関する考察Ⅲ 小刀を用いた活動の特性について」『大 学美術教育学会誌』46号,大学美術教育学会,2014, pp237-244 *)丁子かおる「保育現場における材料用具の経験につ いての調査研究 美術教育の幼小接続へ向けて」『美術 教育学』33号,美術科教育学会,2012,pp207-300 *)更科功『絶滅の人類史―なぜ「私たち」は生き延び たか』2018 NHK出版新書 . 図・表及び写真 図1 文部省『小学校図画工作指導資料 材料用具の扱 い方とその指導』ぎょうせい,1986,p119 図2 文部科学省 「図画工作科で扱う材料や用具」 Web http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zukou/ index.htm)(閲覧日 2019.3.15) 表1 文部省 昭和22年「学習指導要領 図画工作編(試 案)」日本書籍,1947 表2 文部省 昭和26年「学習指導要領 図画工作編(試 案)改訂版」東洋館出版,1951 表3 文部省 「学習指導要領 図画工作編」日本文教 出版,1958 写真1 幼児(1歳9カ月)撮影:2018.9.25 写真2・3 ドイツ・ケッセル市シュタイナー幼稚園 撮影:2016.1.25 (施設長の許諾の基に撮影及び掲載). . (岩見沢校教授). 327.
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