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小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究

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(1)Title. 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究. Author(s). 植木, 克美; 渡部, 信一; 中島, 平; 川端, 愛子; 後藤, 守. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 70(1): 399-408. Issue Date. 2019-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10534. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと 世代継承に関する研究 植木 克美・渡部 信一*・中島 平*・川端 愛子**・後藤 守† 北海道教育大学大学院学校臨床心理専攻学校臨床心理学研究室 *. 東北大学大学院教育学研究科. **. 北海道文教大学人間科学部・大学院こども発達学研究科. A Study of Elementary-School Teachers’ Process of Transition and Generativity in Interactions with Parents UEKI Katsumi, WATABE Shinichi*, NAKAJIMA Taira*, KAWABATA Aiko** and GOTOH Mamoru† Graduate School of Education, Hokkaido University of Education 5-3-1-3 Ainosato, Kita-ku, Sappro, Hokkaido, 002-8502 Japan *. Graduate School of Education, Tohoku University 27-1 Kawauchi, Aoba-ku, Sendai, 980-8576 Japan. **. Faculty of Human Science / Graduate School of Child Development, Hokkaido Bunkyo University 5-196-1 koganechuo, Eniwa, Hokkaido, 061-1449 Japan. 概 要 本研究はライフストーリー的手法により小学校熟年教師22名に若手,中堅及び熟年期の保護 者対応を振り返ってもらい,その変容プロセスと変容に関与する要因を検討し,研究成果を教 育工学で活用する応用可能性を論じた。その結果,保護者対応が変容するプロセスの特徴は視 野が広がることにあり,若い頃は何かあった時のかかわり手は母親であったが,中堅になると 母親を支える父親の存在にも注目するようになっていた。そして,視野の広がりに関与したの が教師を支える関係であり,保護者が教師を支える世代継承と,教師が教師を支える世代継承 の2つがあった。研究結果をオンラインで公開することで,研究協力者のローカルな知をグロー カル化し,異世代教師の交流,世代継承を進展させ,教師たちのために学びのコミュニティを 構築できると考えた。. † 2018年9月25日逝去. 399.

(3) 植木 克美・渡部 信一・中島 平・川端 愛子・後藤 守. 1.問題と目的. 先輩教師の存在があることがわかる。また,岡本 (2014)は人間発達の今日的課題として世代継承. 子育てに困難を抱える家庭,保護者が増えてい. の危機をあげる。これまで見たように教師集団の. る。そして,学校は保護者の要望・苦情等への対. 年齢構成に不均衡が生じ,教師の成長においても. 応に苦慮している。このような中で,中央教育審. 世代継承の危機が生じている。なお,世代継承性. 議会は平成27年12月に「新しい時代の教育や地方. とは個人の発達課題を表す用語であり,本研究で. 創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在. は対人間の支える支えられるという関係を表すと. り方と今後の推進方策について(答申) (中教審. きには世代継承という表現を用いる。. 186号) 」を出した。そこでは,次世代を育成する. この状況にあって,保護者対応を教師の専門性. パートナーとして,今後より一層,学校と家庭が. として認識し,保護者とのかかわりに求められる. かかわっていく姿が示された。. 教師の資質・技能を向上させる学びのコミュニ. ところで,負担感のある保護者対応の困難を乗. テ ィ を 教 師 に 保 障 し て い く 必 要 が あ る。 木 原. り越えることで,教師は自分の成長を認識する。. (2016)は教師教育への教育工学的アプローチと. たとえば,中原ほか(2015)の調査によれば,若. して,教師たちのために学びのコミュニティを構. 手教師から「乗り越えることで成長した困難」と. 築し,教師が自らに必要な学びをデザインする姿. して保護者対応が多くあがり,支えになったのが. 勢を身に付けてもらうことができる文化的アプ. 経験豊富な先輩教師,教務・学年等の主任である. ローチを提示している。このアプローチをとる上. と言う。しかし,近年,団塊世代の教師が大量に. で,まず保護者対応に関する学習過程を世代継承. 退職しそれに伴う若手教師の大量採用により,教. とのかかわりから明らかにすることは有益であ. 師集団における年齢構成の不均衡が起こってい. る。植木(2017a)は保護者対応を行う教師のコ. る。文部科学省の平成28年度学校教員統計調査に. ンピテンシーを教師ひとりひとりに着目して検討. よれば,小学校教師の勤務年数は最も割合が高い. したが,多くの教師たちがその資質を身につける. のは5年未満の19.5%,次が5年以上10年未満の. 学習過程の全体像を明らかにする必要がある。. 15.8%である。一方,15年以上20年未満は6.1%,. そこで,本研究では発達段階の特性から保護者. 20年以上25年未満は9.0%と割合が低い。この教. と比較的頻繁にかかわりをもつ小学校教師が語る. 師コミュニティにおける勤務年数のアンバランス. 保護者対応のふりかえりを通して,その変容プロ. は異世代の教師たちの自然な学びを難しくする。. セスを保護者対応の経験と世代継承の関係から遡. 異 世 代 の 教 師 た ち の 学 び 合 い は,ERIKSON. 及的に明らかにする。特に,現在よりも先輩教師. (1950)の「世代継承性 generativity」の概念か. との結びつきが強いと考えられる時期に入職した. ら考えられる。ERIKSONは人間の生涯を8つの. 教職経験20年以上の熟年教師に研究の依頼をす. 段階に分け,各々の段階に心理社会的な課題と危. る。なお,本研究では保護者対応を小野田(2007). 機があるとする。世代継承性は成人期中期の課題. にならい,「保護者と教師がどのように接するか」. であり,岡本(2014)は,地域社会において職業. 「保護者に対して学校・教職員がどのように接す. を通じて, 「次世代の成長に深く関心を注ぎ,関. るか」という,保護者とのかかわり全般を含めて. 与すること」としている。したがって,先輩教師. 考えている。. は若手教師という次世代の育成に深くかかわるこ とで成長を遂げるし,若手教師は先輩教師の世話 (ケア)を受けることで教師として成長する。学. 2.研究方法. 校教育は子どもの育ちを教師が支えるという次世. 2. 1.研究協力者及びデータ収集方法. 代育成の場であるが,そこには若手教師を支える. 研究協力者は表1の小学校教師22名である。ひ. 400.

(4) 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究. 表1 研究協力者. 木(2017b)にあるようにA先生からI先生まで は事例検討を行うためにインタヴューを3回実施 し た が, 本 研 究 は J 先 生 か ら V 先 生 と イ ン タ ヴュー条件を同一にして実施した1回目のインタ ヴュー記録を分析対象とした。 2. 2.データ分析方法 2.2.1.修正版グランデット・セオリー・ア プローチの適用 分析には,木下(2007)の修正版グランデット・ セオリー・アプローチ(以下M-GTA)を用いた。 M-GTAはGLASER and STRAUSS(1965)が考 案したオリジナル版の基本特性を継承しながら課 題の克服を目指した質的研究法で,限定された領 域における理論生成を行う。具体的には,概念, 定義,バリエーション(具体例),理論的メモを. とりひとりの教師が積み重ねる多様な教職経験に. 記入する分析ワークシートを活用し分析を行う。. おける保護者対応を検討するために,通常の教育. また,木下によればM-GTAは社会的相互作用を. 及び特別支援教育にかかわる教師,担任教師,教. 扱い,人間行動の説明と予測に優れた理論生成を. 頭や校長等,幅広い層の教師に研究を依頼してい. 行うことが期待され,ヒューマンサービスの領域. る。調査は2012年8月から2015年12月に行った。. が適している。さらに研究対象とする現象がプロ. 1対1の半構造化インタヴューを行い,全てのイ. セス的性格を持っていることが適する。本研究の. ンタヴューを第一著者が担当した。若手期(初任. 特徴は,第1に小学校教師の保護者対応という. から教職経験10年目),中堅期(11~20年目),熟. ヒューマンサービスの領域を対象としているこ. 年期(21年目~)の3つの期毎に,印象に残った. と,第2に小学校教師が保護者対応を行うプロセ. 保護者について(エピソード,そのかかわりを通. スは,保護者たち,同僚教師たちとの社会的相互. して考えたこと等) ,そして,保護者対応で大切. 作用が関係していること,そして第3に扱う現象. にしたこととこれから大切にしたいこと,若手教. が,保護者対応の変容プロセスという教職経験の. 師へ保護者対応について伝えたいことを聴いた。. 積み重ねにより変化するプロセス的性格を持って. なお, 「印象に残った保護者」は,以前に出会っ. いること,の3つである。これらの特徴から,本. た保護者とは違うという認識を教師がもち,今ま. 研究にはM-GTAが適していると判断した。. でのやり方を変え保護者への理解を変える必要が ある。したがって,3つの期毎に「印象に残った. 2.2.2.M-GTAの分析手順. 保護者」をたずねることで,保護者対応の変容プ. M-GTAは逐語録を継続的に読み進め概念生成. ロセスを追うことが可能になると考えた。インタ. を繰り返す。そして,概念と概念を比較しその関. ヴュー時間の長さは54分から1時間47分の範囲に. 係を解釈しカテゴリーにまとめ,結果を図示化す. あった。なお,研究協力者に研究目的・意義,個. る。三山(2011)は,M-GTAの分析はプロセス. 人情報の守秘等を書面と口頭にて説明を行い,同. の厳密さを重視するとする。そこで,本研究の分. 意を得た。また,固有名詞は全てアルファベット. 析プロセスを明示する。. に置き換え匿名化し,個人情報等を守秘した。植. まず,M-GTAは分析テーマと分析焦点者を設. 401.

(5) 植木 克美・渡部 信一・中島 平・川端 愛子・後藤 守. 定する。研究テーマをデータに即し分析できるよ. として有効でないと判断した。さらに,概念と概. うに絞り込んだものが分析テーマであり,分析対. 念の関係を概念毎に検討し,結果を理論的メモの. 象とするデータ全体を見た上で確定する。そこ. 欄に記載した。そして,複数の概念からカテゴリー. で,研究テーマである小学校教師の保護者対応の. を生成し,カテゴリー相互の関係より分析結果を. 変容プロセスをデータに即し分析するためデータ. まとめた。そしてまた,結果の概要を完結に文章. を概観した後に,最初に分析テーマを「20年以上. にした後に,結果図を作成した。. の教職経験を通して,保護者対応を変容させてい くプロセス」とした。しかし,変容のプロセスと. 2.2.3.概念生成の具体例. それに影響を与える要因は何かという研究の目的. 概念7〈“若いなり”の努力〉を取り上げ,概. に照らして,植木(2017b)の事例研究に着目し. 念生成を簡潔に説明する。まず,逐語録から分析. たところ,保護者対応の変容プロセスには異世代. テーマに関連する箇所「その時は,お母さん達に. 教師から支えられる世代継承が重要な意味をもつ. も生意気なことを言ってたなあって思います。. と理解できた。そして,再度,データを読み込む. (中略)そのときは精一杯,何か私が担任よーみ. と,研究協力者全てのデータから世代継承を読み. たい感じで,学校の様子をすごい伝えてたんです. 取れた。これを踏まえ,共著者たちで研究協議を. けど。」に着目した。そして,その意味を何度も. 行い,最終的に分析テーマを「異世代教師に支え. 解釈し,対極例がないかを確認し解釈した意味を. られ保護者対応が変容するプロセス」とした。ま. 第三者が理解できるように熟慮して,定義と概念. た,分析焦点者とは研究協力者を集合的に捉えた. 名を考えた。その結果,定義を「“若いなり”に. ものである。分析焦点者は分析テーマと関連させ. 努力したこと,精一杯がんばったこと。」とし,. 定め,研究テーマを誰の視点から検討するかとい. 概念「“若いなり”のがんばり」を生成した。. う,研究テーマの焦点化を行える。本研究では, 分析焦点者を「保護者対応の経験を20年以上積み. 2.2.4.分析の経過. 重ねてきた小学校教師」とした。. まず,2012年8月から2015年1月までにインタ. 分析テーマと分析焦点者を設定した後に,概念. ヴューを実施し,事例研究を行ったA先生からI. を生成した。概念生成にあたっては,まず逐語録. 先生の9名のうち,豊かな内容の語りを得たA先. の中から分析テーマに関連する箇所に着目し,そ. 生から分析を始めた。若手,そして中堅及び熟年. れを一つのバリエーションとして他の類似する具. と教職経験を重ねる中で保護者対応が変容する過. 体例も説明できるように概念名と定義を考え分析. 程を明らかにするため,概念生成を行う際にはい. ワークシートに記入した。そしてさらに,逐語録. ずれの期の具体例であるかを特定し分析ワーク. を読み進めながら類似の具体例を探し,それが見. シートに記入した。分析テーマに即し概念生成を. つかった場合には分析ワークシートに2つ目の具. 繰り返した結果,A先生の語りから44の概念が生. 体例として記入した。これと同時並行で新たな概. 成された。その後,44の概念を元にして具体例を. 念生成を進めた。なお,この作業は逐語録の解釈. 確認しながら,同時並行で新たな概念の生成,概. が恣意的になるのを防ぐために,類似例ととも. 念同士の統合を,残りの研究協力者21名について. に,定義とは逆の意味になる対極例が逐語録に存. 慎重に繰り返し行った。概念の生成と統合の結果,. 在しないかを確認し,その結果を分析ワークシー. 最終的に概念は31に落ち着いた。なお,削除した. トの理論的メモの欄に記入した。また,具体例が. 概念,他の概念に統合した概念を含め,分析ワー. 乏しい場合,具体的には当該の概念がひとりの研. クシートを作成した概念数は延べ96であった。ま. 究協力者の具体例からのみ生成された場合は,特. た,新たな概念が生成されなくなり始めたのは10. 定の研究協力者に固有の概念であると考え,概念. 番目のJ先生からであった。そして,K先生,M. 402.

(6) 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究. 先生からQ先生の8名から1つずつ新しい概念が 生成されたが,それ以降の研究協力者5名からは. 3.結果と考察. 創出されなかった。この作業と並行させ結果図を. 概念は31個生成され,18個を保護者対応の変容. 作成するため,概念同士,概念とカテゴリー,カ. プロセスを形づくる概念,13個を変容プロセスに. テゴリー同士の比較を多重に進めた。分析の結果,. 影響を与える教師の特性と世代継承の概念に整理. 特定の期に具体例がある概念を8つ発見した。内. できた。なお,カテゴリーは9個生成された。図. 訳は,若手期と熟年期に特有な概念が4つずつ. 1は概念とカテゴリーを図示化した結果である。. あった。. また,表2は特定の期に具体例がある8個の概念 を抽出し,概念名,定義,具体例,具体例を語っ. 2.2.5.著者たちの研究的背景,関心. た研究協力者の人数を集計した表である。まず,. 木下 (1999) はGLASER and STRAUSS(1965). 保護者対応が変容するプロセスの概要をカテゴ. のグラウンデッド・セオリー・アプローチが,そ. リーと概念を用いて述べる。次に,保護者対応に. れ以前の質的研究法が研究者の内部で行われ可視. 関与する教師の特性と世代継承を説明する。なお,. 化しなかった分析過程を透明化したことに着目し. カテゴリーを【 】で,サブカテゴリーを〔 〕. た。そして,彼らが研究する人間の主体性を強調. で,そして概念を〈 〉で表す。. し,分析を実行する研究者をインスツルメントと して捉えることを紹介した。後に,木下(2007) はこの考えを発展させ,M-GTAでは研究者の価. 3.1.若手から中堅,熟年への変容プロセスの 概要. 値観や研究的関心が分析データと相互作用し,. 熟年教師は若い頃,【児童と保護者のもつ難し. データの解釈が行われるとした。これを受け,. さに直面】し,【保護者対応の難しさを経験】す. M-GTAの研究では研究者の立場や関心を開示す. るが,【“若いなりのがんばり”】を見せる。中堅. る傾向にある(たとえば,三山 2011)。本研究で. 以降になると,〈14.児童と保護者のもつ複雑化. は,著者らの研究的背景,関心を開示する。著者. した問題の難しさに直面〉する中で,【視野の広. らの研究グループは,教師教育に携わり専門性の. がり】を身に付け,我が子に一生懸命にかかわっ. 力量形成に関心を抱き教育工学的アプローチを. たり,逆に我が子に関心をもてない【保護者の姿】. 行っている。そして,教師の資質能力向上方策に. を目にする。これらの【保護者の変化】を見取る. 寄与し,教員研修で活用できる保護者対応のプロ. ことで,〈13.一緒に児童を育てる〉パートナー. グラム開発を目指す。. として保護者を認識するようになる。. なお,インタヴューと分析を第一著者一人で行. このように,若い頃と中堅以降の違いは【視野. い安定した資料の収集,分析を行うインスツルメ. の広がり】にあった。若い頃は〈1.児童と保護. ントの役割を果たした。また,第四,五著者は第. 者のもつ難しさに直面〉すると,自分に何ができ. 一著者の分析を,逐一確認し,第一著者が行う分. るかと〈5.不安と無力を感じる〉ようになり,. 析の厳密性を担保した。さらに,第二及び第三著. 〈6.申し訳なさを感じる〉。この感情を抱え〈7.. 者が第一著者の分析を定期的に俯瞰し,保護者対. “若いなり”の努力〉をするが,若いが故に保護. 応の専門性を身に付ける過程を,どの程度,分析. 者といっても〈8.お母さんとだけかかわる〉,. し得るかという分析の質を担保した。合わせて,. 児童だけに目を向け保護者に〈9.意識が向かな. 教師にとってリアリティのある分析を行うため現. い〉という視野の狭さが目立った。しかし,中堅. 職教師によるスーパーバイズを受けた。. 以降になると視野は広がり,かかわる対象を〈15. お母さんだけではない!〉と気付く。さらに,熟 年期に入ると,努力を重ねても保護者が〈17.ど. 403.

(7) 植木 克美・渡部 信一・中島 平・川端 愛子・後藤 守. 図1 小学校教師の保護者対応における変容プロセス. 404.

(8) 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究. 表2 特定の期に登場する概念,定義,具体例のリスト. うやっても理解してくれない〉状態を経験するが,. 護者にものを言いやすくなることである。さらに,. 身に付いた視野の広がりで事態を打開する.そし. 〈22.我が子をもつ〉という教師のライフイベン. て,保護者を〈18.意識しないと教育活動はでき. トは,親となり保護者の気持ちを理解することで,. ない〉と認識するようになる。. 関係を促進する要因となった。なお,この2つが 同期することは関係をより促進する。. 3.2.保護者対応に関与する教師の特性と世代 継承. これらの〔関係を促進する〕教師の個人的そし て社会的特性は,コアカテゴリー【教師を支える. まず,保護者対応の難しさに関与するのが教師. 関係】に関与する。【教師を支える関係】には〔保. の年齢という個人的特性と,教師が家庭をもつと. 護者に支えられる〕と〔教師コミュニティにおけ. いう社会的特性であった。これらは,保護者と教. る世代継承〕があった。前者では,教師は若い時. 師の〔関係にブレーキをかける〕 。若い頃は年上. に,保護者たちに〈23.励ましてもらう〉こと,. の保護者に〈19.“遠慮して言えない”〉という経. そして〈24.気づかされる〉学びを得た。また,. 験をもち, 〈20.私には家庭がある・・〉という. 後者では教師同士で支え合っていた。若い頃は. 教師の家庭生活が〔関係にブレーキをかける〕場. 〈25.先輩教師がアドバイスしてくれる〉経験を. 合もあった。この2つが同時に起こると,保護者. 持ち,歳を重ねると〈26.他の教師と保護者をつ. 対応の難しさは増幅される。逆に,保護者と教師. なぐ〉役割をとる。また,管理職等になり〈27.. の〔関係を促進する〕教師の個人的特性と社会的. 学校での役割が変わっていく〉ことで〈26.他の. 特性があった。それが, 〈21.若さ,そして年齢. 教師と保護者をつなぐ〉役を担う。この【教師を. を重ねる〉ことで保護者に助けてもらったり,保. 支える関係】が,【“若いなりのがんばり”】と中. 405.

(9) 植木 克美・渡部 信一・中島 平・川端 愛子・後藤 守. 堅期以降の【視野の広がり】を下支えしたと解釈. 第2に第1が可能になるには母親と父親の関係を. した。しかし,【教師を支える関係】は,今日,. 考えることを必要とする,そして第3に第2を踏. 危機を迎えた。 〔保護者との関係の弱まり〕には,. まえ保護者と児童の変化を関連付けて理解できる. 〈28.土曜日に親子レクをできた・・〉が今はで. ことである。第2と第3の特徴は,中村・浅田. きない学校文化の変化と,〈29.以前と今の保護. (2018)が指摘する授業認知における経験豊かな. 者の質は違う〉という保護者の質の変化がある。. 教師が見せる1つの認知事象を複数の事象を集. そして,教師コミュニティにおける〔世代継承の. 積,統合して理解する傾向に合致する。. 危機〕は, 〈30.他の教師の手を止めるのは申し 訳ない〉という教師の多忙化と,〈31.抱え込ま. 4.2.学校コミュニティにおける教師支援. ないで相談して欲しい〉という先輩が後輩教師と. 保護者対応の変容プロセスに関与するのが【教. 関係をとりにくい状況があった。. 師を支える関係】である。まず,保護者が教師を 支える世代継承では若い教師を保護者が励ますと. 4.総合考察. いう情緒的支援が中心であり,教師に気づきを与 えることもあった。また,教師が教師を支える世. 4.1.保護者対応における変容プロセス. 代継承では先輩教師が若手教師に保護者対応をア. 若手から中堅以降への変容プロセスの特徴は. ドバイスする支援が主であった。この【教師を支. 【視野の広がり】にあった。若い頃は視野が狭い. える関係】で提供される支援はソーシャルサポー. ものがいかにして広がったのか。山崎(2012)に. トとして働く。ANTONUCC et al.(2010)はソー. よれば,多くの教師は若い頃に教育実践上の経験. シャルサポートを理論上の見解をレヴューするこ. と校内で優れた先輩教師に出会い,教職生活上の. とで,情緒的,情報的,道具的,評価的,そして. 転機を経験する。本研究では若手期に児童と保護. 予期されたサポートの5つに整理した。若い教師. 者のもつ難しい課題に対処することで学び,先輩. に保護者は情緒的サポート,つまり安心や尊敬等. 教師から支援を受けることで転機を経験し,保護. を提供し,問題解決の手助けという情報的サポー. 者対応の力量形成を図っている。しかし,若手期. トも提供した。そして,先輩教師が若い教師に提. に身に付くのは基本的力量である。松崎(2012). 供するのが情報的サポートと道具的サポートで. は基本的力量が形成された後に優れた教育実践を. あった。道具的サポートは個人に与えられる特定. 展開できるかは,後の経験にかかっているとした。. のモノやサービスとされ,若い教師にとり先輩教. 熟年教師の多くが保護者対応の力量は経験により. 師が保護者面談に同席することは道具的サポート. 培われると語り,若手の頃と中堅以降の児童と保. であり,一人ではないという安心感をもつ情緒的. 護者の抱える困難の質が異なることを考えると,. サポートでもある。このように学校コミュニティ. その力量は中堅以降により一層高まると言える。. では情緒的サポート,そして情報的サポートや道. ところで,初任教師の授業認知を検討した中. 具的サポートが提供されていた。. 村・浅田(2018)は初任者が自分の授業行為に没 頭しふりかえりを行えず,児童の反応とその直前. 4.3.教育工学における研究の応用可能性. の自分の行為の関係という一時的な認知を行うと. 最後に教育工学における本研究の応用可能性を. する。一方, 経験豊かな教師は複数の事象を集積,. 今後の課題として述べる。木下(2007)によると,. 統合して1つの認知事象を深く捉えることができ. M-GTAは現実に即した問題の解決にアプローチ. ると言う。保護者対応における視野の広がりは,. できる。一方,教育工学は木原(2016)によれば. 次の3つを意味する。まず第1に母親だけでなく. 教師の能力・資質を育むため,問題解決に実践的. 父親とかかわるというように対象範囲が広がる,. に取り組むことを旨とする。よって,結果の実践. 406.

(10) 小学校教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承に関する研究. へ の 還 元 を 目 指 すM-GTAと 教 育 工 学 的 ア プ. 附 記. ローチによる教師教育は親和性が高く,研究成果 を社会に応用するには教育工学的アプローチが適. 本論文は植木ほか(2017)で発表した研究を発. する。次に本研究結果を教育工学的アプローチに. 展させて,成果をまとめたものである。JSPS科. よる教師教育に活かす方略を3つ提示する。まず. 学研究費26350304の助成を受けた。なお,北海道. 第1に,小学校教師の保護者対応における変容プ. 教育大学倫理委員会の承認を受け研究を実施して. ロセスを公示し,保護者対応の交流サイトを立ち. いる。. 上げたい。結果図と概念,ヴァリエーションには. ご協力いただいた先生方にお礼申し上げます。. 教師たちが先輩から受け継ぎ後輩に伝えたいこと が埋め込まれている。これをオンラインにより公. 引用文献. 開することで,研究協力者22名のローカルな知を グローカル化し,異世代教師の交流,世代継承を. ANTONUCCI, T. C., LANSFORD, J. E., and AJROUCH,. 図れる。つまり,研究協力者たちに固有な知を,. K. J. (2010) Social Support. In FINK, G. (ed.), STRESS. 多様な教師コミュニティを視野に入れて発信する ことで,それを閲覧する教師たちが自分に合わせ. Consequences: Mental, Neuropsychological and Socioeconomic. New York: Elsevier.(尾久征三(訳) 2013 ソーシャルサポート(社会的支援).ストレス百. てその知を受け取り活用することが可能になるの. 科事典翻訳刊行委員会編 ストレス百科事典,精神医. ではないかと考えた。第2に,分析結果から読み. 学的・臨床心理的・社会心理的・社会経済的影響.丸. 取れた教師を支える関係の危機にアプローチし, 教師たちの世代継承,学びを支えるために,保護. 善出版,東京,pp.695-698) 中央教育審議会(2015)新しい時代の教育や地方創生の 実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後. 者対応のワークショップ型研修を企画したい。保. の推進方策について(答申) (中教審186号) .http://. 護者対応という臨床的課題にアプローチするに. www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/. は,保護者の希望や学校が対応可能なことはなに かという多様な観点を検討し,現実的な対応を探 すことが肝要である。したがって,問題解決力の 向上を目指すワークショップ型の教員研修は保護 者対応の研修として有益である。そして,第3は 第1と第2の学びを組み合わせ,多忙な教師たち. toushin/1365761.htm(参照日 2017.12.01) ERIKSON, E. H.(1950)Childhood and society. New York: W.W.Norton.(仁科弥生(訳)1977.1980 幼児 期と社会 1・2.みすず書房,東京) GLASER, B. and STRAUSS, A. L. (1965) Discovery of Substantive Theory: A Basic Strategy Underlying Qualitative Research. The American Behavioral Scientist, 8: 5-12. に効率的かつ質の高い学びを提供していきたい。. 木原俊行(2016)第1章教師教育と教育工学の接点,教. 木原(2016)は教育工学が教師教育に貢献する. 育工学的アプローチによる教師教育の今日的展開.日. ベクトルを5つに整理し,教師の能力・資質を高 める学習環境を提供するアプローチを環境設定ア プローチと呼ぶが,ワークショップ型研修がこれ に相当する。教師たちのために学びのコミュニ ティを構築し文化として成熟させ,教師が自らに 必要な学びをデザインする姿勢を身に付けてもら うのが文化的アプローチである。オンラインの交 流を教師たちの学びのコミュニティに発展させる ことで, 文化的アプローチを推進できると考える。. 本教育工学会監修,木原俊行,寺嶋浩介,島田希編著 教育工学選書Ⅱ10,教育工学的アプローチによる教師 教育,学び続ける教師を育てる・支える.ミネルヴァ 書房,京都,pp.1-19 木下康仁 (1999) グラウンデッド・セオリー・アプローチ, 質的実証研究の再生.弘文堂,東京 木下康仁(2007)ライブ講義M-GTA, 実践的質的研究法, 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチのすべ て.弘文堂,東京 松崎正治(2012)第六章同僚に学びながら教師になって いく,初任期から中堅期への成長.グループ・ディダ クティカ編 教師になること,教師であり続けること, 困難の中の希望.勁草書房,東京,pp.115-136 三山岳(2011)保育者はいかにして相談員の意見を受け. 407.

(11) 植木 克美・渡部 信一・中島 平・川端 愛子・後藤 守. とめるのか,巡回相談における保育者の概念変容プロ セス.教育心理学研究,59:231-243 文部科学省(2017)平成28年度学校教員統計調査http:// www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/ kekka/k_detail/1395309.htm(参照日 2019.02.26) 中原淳(監修),脇本健弘,町支大祐(2015)教師の学び を科学する,データから見える若手の育成と熟達のモ デル.北大路書房,京都 中村駿,浅田匡(2018)オン・ゴーイング法による授業 認知に基づく授業者の行為の中の省察に関する事例研 究.日本教育工学会論文誌,41⑷:477-487 岡本祐子(2014)第1章世代継承性の危機の時代.岡本 祐子編著 プロフェッションの生成と世代継承.ナカニ シヤ書房,京都,pp.1-18 小野田正利(2007)保護者の意識の変化をとらえる,反 発を生まない教師や学校の対応.児童心理,860:40-44 植木克美(2017a)第1章 熟年教師が語る「見えない能力」 の教育と評価.渡部信一編著 教育現場の「コンピテン シー評価」,「見えない能力」の評価を考える.ナカニ シヤ出版,京都,pp.3-30 植木克美(2017b)「印象に残った保護者」とのかかわり における小学校教師の成長と世代継承,熟年教師と若 手教師の事例比較.教育情報学,16:21-34 植木克美,渡部信一,川端愛子,後藤守(2017)小学校 教師の保護者対応における変容プロセスと世代継承. 日本教育工学会研究報告集.JSET17-5:239-246 山崎準二(2012)教師の発達と力量形成,続・教師のラ イフコース研究.創風社,東京. (植木 克美 大学院学校臨床心理専攻教授) (渡部 信一 東北大学教授) (中島 平 東北大学准教授) (川端 愛子 北海道文教大学・ 大学院こども発達学研究科講師) (後藤 守 北海道教育大学名誉教授). 408.

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参照

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