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論説・評論の読みで学習者が説得の〈相手になる〉指導 ―「マルジャーナの知恵」(岩井克人)を教材とした実践―

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(1)Title. 論説・評論の読みで学習者が説得の〈相手になる〉指導 ―「マルジャー ナの知恵」(岩井克人)を教材とした実践―. Author(s). 幸坂, 健太郎; 難波, 健悟. Citation. 語学文学, 59: 45-57. Issue Date. 2020-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11537. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 論説・評論の読みで学習者が 説得の〈相手になる〉指導 ─「マルジャーナの知恵」(岩井克人)を教材とした実践 ─ 幸 坂 健太郎 ・ 難 波 健 悟 1.はじめに 論説・評論の読みの指導において、抽象的な論説・評論の世界を学習者が自分と 結びつけることの重要性が指摘されて久しい(北岡他、1985;吉田、2002;寺田、 2010)。しかし、学習者が論説・評論を自分と結びつけることを意図した実践は、 往々 にして論説・評論の内容面のみに重点が置かれる傾向にある。確かに、論説・評論 は、各教科で扱われる内容よりも幅広い学問・教養の世界に開かれており、そのよ うな世界に学習者を誘う可能性を持つものである(篠崎他、2015)。その意味で、 論説・評論の内容面への着目は避けるべきことではなく、むしろ論説・評論の読み の指導の大きな意義の一つといえる。問題は、言葉の指導であるはずの国語科にお いて論説・評論の内容面のみの扱いに指導が偏ることである。だが、論説・評論を 学習者と結びつけようとすると、どうしても文章内容を重視せざるを得ない。これ までの論説・評論の読みの指導は、このような葛藤を抱えていた。 この問題を解決する糸口は、そもそも論説・評論を“自分と結びつける”という 概念にはいくつかの位相があるという点である。幸坂(2019)は、論説・評論を自 分と結びつけることに次の三つの位相があるとしている(p.85) 。 ・ 〈実感する〉こと   ……文章内容と自分を結びつけること ・ 〈引き受ける〉こと  ・説得の〈相手になる〉こと……書き手の説得の相手として自分を結びつけること 詳細は2で後述するが、このうち、 〈実感する〉ことと〈引き受ける〉ことは論説・ 評論の文章内容に関わることである。一方、説得の〈相手になる〉ことは、書き手 が仕掛ける説得の相手として自分自身を論説・評論と結びつけることであり、文章 内容に留まらないことである。これらを区分した上で幸坂は、 〈実感する〉こと、 〈引 き受ける〉ことという文章内容面の指導に「偏ることを避け」 、 「言語コミュニケー ション意識」である説得の〈相手になること〉を国語科で「重要な指導事項の一つ として位置づける」べきだと主張している(pp.86-87)。上述の葛藤は、論説・評 論を学習者と結びつけることを、〈実感する〉こと、〈引き受ける〉ことという、文 章内容と自分との結びつきに限定して考えているからこそ起こることなのである。 -  - 45.

(3) 幸坂の指摘通り、論説・評論の読みの指導を、説得の〈相手になる〉ことを育てる ものだと位置づければ、先述した葛藤を解消することができる。 しかし、繰り返すが、論説・評論の指導において、文章内容面と学習者の結びつ 4. き、すなわち〈実感する〉ことや〈引き受ける〉ことを指導することも重要である。 だとすれば、次に課題となるのは、論説・評論の読みの指導において、これらをど のように関わらせていくか、ということである。すなわち、論説・評論の読みの指 導で説得の〈相手になる〉ことを指導しながらも、そこに学習者が文章内容を〈実 感し〉たり、 〈引き受け〉たりすることをどのように保証していくか、という課題 である。幸坂(2019)の論では、このような指導の具体までは論じられていない。 そこで本稿では、学習者が論説・評論の説得の〈相手になる〉ことを目指しなが らも、同時に文章内容と自分を結びつけていく指導の具体的な姿を示すことを目的 とする。具体的には、高等学校1年生を対象に、 「マルジャーナの知恵」 (岩井克人) を教材として行った実践を示し、その実践から知見を見出す。. 2.実践のための概念 本稿では、論説・評論を学習者が自分と結びつけることについて、幸坂(2019) が区分した三つの概念に基づいて論を進める。以下、幸坂の示した区分を説明する。 2-1 〈実感する〉ことと〈引き受ける〉こと 〈実感する〉こととは、自分の経験をテクスト内容と重ね合わせ、腑に落とした 状態の理解表象を作ることである。植山(1998)は、テクスト内容について、 「こ とばと自らの実感との関係を強く結ん」だ「実感的理解」の重要性を指摘している (p.33)。また、幸坂(2015)は、ことばと「身体システム」との関わりから、ど のようにすれば論説・評論に書かれたことが腑に落ちた「自分ごと」の読みとなる のか、そのメカニズムを説明している。これらの論は、学習者が文章内容を〈実感 する〉ことを目指す方向性を持つといえる。 一方、〈引き受ける〉こととは、テクスト内容が「自分にとって大事なことだ」 と価値づけることである。論説・評論では、私たちの社会や生活に関わる何らかの 課題が投げかけられる。読み手は、その課題が自分にとってのっぴきならない課題 だと思えばそれと関わろうとする。〈引き受ける〉ことは、このように、テクスト によって示された何らかの課題を学習者が「なぜ「私」にとって重要な問題かとい う視点を持」ち(寺田、2010、p.182)、自分で考えるべき課題として引き受けるこ とである。 〈実感する〉こと、〈引き受ける〉ことは、どちらもテクスト内容に対する読み の意識である。. -  - 46.

(4) 2-2 説得の〈相手になる〉こと 一方、説得の〈相手になる〉ことは、これらとは質が異なり、テクスト内容のみ を対象にしたものではない。説得の〈相手になる〉こととは、書き手が仕掛ける説 得を自分自身が受け入れられるかどうか、書き手の論の進め方に着目しながら評価 することである。 説得の〈相手になる〉ことが、〈実感する〉こと、〈引き受ける〉こととどのよう に異なるかを示すために、例を二つ示す。 例①:脳死を死と判定すべきだと論じた評論に対して、親戚に脳死の患者がいる タロウが「この文章に書いてあることはとてもよくわかる。脳死の知り合 いがいるから、今後考えていかなきゃいけない話題だと思った。」という 感想を書いた。 例①でタロウは、脳死というテクスト内容に対して「とてもよくわかる」と述べ ている。文章に書かれている内容が腑に落ちて理解できているということであり、 タロウはこの文章を〈実感する〉ことができている。また、このテーマを「今後考 えていかなきゃいけない」としているところから、タロウがこの文章内容を自分に とって大事なことだと考え、〈引き受け〉ていることもわかる。 例②:脳死を死と判定すべきだと論じた評論に対して、ハナコが「この文章は核 となる部分に具体例を挙げてくれていないから、書き手の言いたいことが 実感できない。私は、どうしてもこの文章を好きになれない。」という感 想を書いた。 一方、例②でハナコは、「実感できない」とはっきり述べていることからわかる ように、この文章の内容を〈実感する〉ことができていない。しかし、ハナコは、 4. 4. 文章の具体例の挙げ方に着目し、「私は、どうしてもこの文章を好きになれない」 4. 4. と述べている。ここから、ハナコが書き手の説得の仕方に着目し、“私はこのやり 方では説得されない”と考えていることがわかる。説得という場の中に自分自身を 置き、書き手の説得の相手として自分を位置づけ、説得の〈相手になっ〉ているの である。 このように、説得の〈相手になる〉ことは、〈実感する〉ことや〈引き受ける〉 こととは異なる位相で、論説・評論を自分と結びつけることである。. 3.実践 3-1 基礎的情報 学習者が説得の〈相手になる〉ことを目指しながらも、同時に文章内容と自分を 結びつけていく論説・評論の読みの指導の具体として、次の実践を挙げる。 -  - 47.

(5) [時期]2017年6月19~21日 [対象]中国地方にある公立A高校第1学年の普通科クラス(40名) [科目]国語総合 現代文 [授業者]第二著者(難波 健悟) なお、この実践は、第一著者である幸坂と、授業者である難波が共同で作り上げ たものである。幸坂と難波は、大学・大学院を同じ研究室で過ごしており、授業づ くりに関してお互いの考えを遠慮なく言い合える仲である。授業の1か月ほど前か ら連絡を取り合い、議論をしながら実践を構想した。以下に示す実践の詳細は、そ のような関係性の中で構想されたものである。 3-2 教材 (1)全体構造 教材として選ばれたのは、岩井克人「マルジャーナの知恵」(『新 精選 国語総合 現代文編』明治書院、平成28年検定)である。この教材の構造は図1の通りである。. だから. つまり. だから. 図1 岩井克人「マルジャーナの知恵」の構造. この教材は、1~4の意味段落から成る。核となる資本主義に関わる論は、主に 4で言及されており、その資本主義論の前提となる命題A(「情報の本質は差異で ある」)が、2・3でマルジャーナの話を具体例として説明されている。 ただし、このマルジャーナの具体例は、直接的には命題Aの例として機能してい るが、命題Cとも関連するものである。すなわち、昔懐かしい、古めかしいイメー ジのあるマルジャーナの例を出すことにより、命題Cの「昔から」そうだったとい う部分を印象づける修辞的な効果を狙ったと考えられる。 -  - 48.

(6) また、この文章は最終的に命題Dを導いているが、ここから経済学者である岩井 克人特有の課題意識が読み取れる。すなわち岩井は、経済学者として“資本主義” という現象をうまく言い当てるための説明概念の提唱を目論んでいる。岩井の念頭 にあるのは、 “情報の商品化”という現代の資本主義の状況は歴史上新規の現象だ と説明するのが妥当だと考えている読み手像である。そのような読み手に対して岩 井は、情報の商品化が決して新しいものではなく、昔からの資本主義の基本原理そ のものを体現した現象(という説明が現代の資本主義を説明する上で最も妥当な説 明)だと主張しているのである。 (2)想定される学習者の読み この教材に対して、学習者は次のような読みをすると想定される。 ・命題B~Dの資本主義の論を〈実感し〉ない ・投げかけられた「現代資本主義をいかにうまく説明するか」という課題を〈引き 受け〉ない ・具体例と命題の結びつきを読みとれない 3点目について補足する。おそらく学習者は「この文章は、マルジャーナの話を 例として、現代の資本主義についての主張をしている」 と大雑把に読み取るだろう。 しかし、先述の通り、マルジャーナの例は直接的には命題A(「情報の本質は差異 である」 )の例示であり、且つ命題Cの「昔から」という部分を強調しているもの である。この具体例の位置づけがこの文章のわかりにくさであり、学習者はこの点 を的確に読み取ることが困難であると予想される。 3-3 目標 この実践の目標は、次の二つである。 目標1:命題B(「現代の資本主義は差異(情報)から利潤を生んでいる」 )がど ういうことか、〈実感する〉。 目標2:マルジャーナの具体例が命題Bを〈実感する〉上で効果的かどうか批評 することで、説得の〈相手になる〉。 まず、目標1である。上で述べたように、学習者は書き手の資本主義の論や、書 き手が投げかけた課題を〈実感する〉ことができないと予想される。とはいえ、書 き手が述べている差異に基づく資本主義の説明は斬新であり、このようなものの見 方を理解しておくことは今後の現代社会を生きていく学習者にとって意義がある。 したがって、本単元では、命題B(「現代の資本主義は差異(情報)から利潤を生 んでいる」)を〈実感する〉ことを目標の一つにした。 次に、目標2である。目標2は、学習者がこのテクストの説得の〈相手になる〉 ことを目指したものである。学習者を説得の〈相手になら〉せる上で私たちが着目 -  - 49.

(7) したのが、マルジャーナの具体例である。そもそも具体例とは、書き手が説得のた めに盛り込んだ要素である。この具体例を取り上げ、その具体例が命題Bを〈実感 する〉上で効果的かどうかを問うことで、学習者を説得の〈相手になら〉せ、その 4. 4. 4. 具体例が自分を説得するに足るものかどうか、批評させることを狙った。 3-4 展開 本単元の展開を表1に示す。この展開で特に意図したのは、具体例を批評すると いう言語活動を中心に単元をデザインするということである。 3-2 (2)で述べたように、具体例-命題Bの繋がりのわかりにくさゆえに、学 習者はこの教材を〈実感する〉のが困難だと予想される。つまり、読み手が文章内 容を〈実感〉的に理解するためのものであるはずの具体例が命題Bと繋がっていな いように読めるがゆえに、学習者はこの文章に対して〈実感し〉づらくなる。この 表1 単元の展開計画(全3時) 時 1. 目 標. 内 容. ・想定された読み手像 ・初発の感想を書く(「「マルジャーナの知恵」は面白かったですか。 を捉える。. 理由も書きましょう。」). ・命題Bを大まかに捉 ・自分たちにとってこの教材が「面白くない」ことを確認し、こ える。. の教材が想定している読み手はだれかを考える。 ・この教材は、まだよくわからないが、どうやら「現代の資本主 義では差異が利潤を生む」ということを言いたいのだと捉える。. 2. ・命題Bを身近な例と ・製造メーカーが異なるラングドシャ4種類から、自分たちが好 の関連で理解する。. きなものを選ぶ。. ・命題Bと具体例の繋 →ま さに自分たちが「差異の商品化」の中で物を選択し、利潤 がりを批評する。. を生み出していることに気づく ・ 「差異が利潤を生む」ということがわかりやすくなる身近な具体 例を考える。 ・マルジャーナの話が「差異が利潤を生む」ことと繋がっていな い点を考える。. 3. ・書き手が具体例に込 ・マルジャーナの話をあえて書き手が具体例として選んだのはな めた意図を考える。. ぜかを考える。. ・改めて本文を批評す ・最終的に、自分たちがこの文章に納得できるか、できないとす る。 ・命題Bを自分自身と の関連で理解する. れば、納得できる文章にするためにはこの文章をどう改善すれ ば良いかを考える。 ・副教材(製菓会社社長が書いた、「新商品を生み出さねば生き残 れない」という旨の文章)を読み、他ならぬ自分たち消費者によっ て「差異が利潤を生む」状況が作り出されていることに気づく。. 単元終了後、 「この文章の納得できるところ、できないところはどこか」について批評文を書い て提出する。. -  - 50.

(8) 〈実感し〉づらさを出発点として、次のような展開をデザインした。 第1時は、この文章の〈実感し〉づらさを確認し、命題Bを大まかにつかむ。 第2時では、本文以外の例を使いながら、学習者が命題Bを〈実感する〉ように する。その上で、「書き手の言いたいこと(命題B)は実感できたよね。それを踏 まえてマルジャーナの話を見てみると、マルジャーナの話は書き手の言いたいこと と繋がっていないんじゃないかな。繋がっていないのはどの点だろう」と問い、具 体例を批評させる。この第2時の後半から、目標2、すなわち学習者が説得の〈相 手になる〉よう仕向けていく展開が始まる。 続く第3時では、批評の前提となる書き手の意図の推論を行った上で、「書き手 の意図は分かったね。その上で、君たちはこの文章に納得できる?」と投げかけ、 4. 4. 4. 書き手の意図も踏まえながら、自分がこの文章に説得されるかどうかを検討させる。 書き手がなぜ他ならぬマルジャーナの話を具体例として使ったのか、その意図を推 論させたのは、自分たちが行う批評が独りよがりなものにならないようにするため である。そして単元終了時には、この文章に納得できるかどうか、批評文を書かせ る。 このように、本単元では、学習者の〈実感し〉づらさを起点に、具体例の批評と いう活動を軸に展開にすることで、「書き手が言いたいことは実感できたけれど、 どうして自分はこの文章には実感を持てないのだろう」というように、学習者が自 分の〈実感〉できなさを具体例と命題Bの繋がりに帰属させて捉えていくことを意 図した。つまり、この実践は、書き手が仕掛けた説得に対して「この具体例だと、 自分は〈実感〉できる/できない。なぜなら……」という考えを持たせ、学習者を 書き手による説得の〈相手になら〉せようとする実践である。. 4.実践の結果と考察 本稿では、学習者の初発の感想と、学習者が最後に提出した批評文の二つを特に 取り上げ、実践の前後の学習者の変化を分析することで、今回の実践が学習者にど のような学びをもたらしたかを検討する。 4-1 初発の感想 (1)記述させた内容・分析観点 初発の感想では、本文が「面白かったか、その理由は何か」を尋ねた。このよう な漠然とした規準で価値判断を求めたのは、回答に幅を持たせ、本文のどの箇所を 〈実感し〉たのか、またそれは何に起因するかを広く問う意図があった。この初発 の感想を提出した40名中38名の記述を次の観点から分析する。 ●意味づけ 【教材の要素】……具体例(マルジャーナの話)/ 命題B(「現代の資本主義は -  - 51.

(9) 差異(情報)から利潤を生んでいる」 ) 【学習者の意味づけ】……面白い / 面白くない / 実感できる(わかる) / 実感できない(よくわからない) ●意味づけと書き手の工夫(具体例と命題Bの繋がり)との関連 【具体例と命題Bの繋がりへの言及】・・・・・・あり / なし →「言及あり」の場合、 【意味づけと、具体例と命題Bの繋がりとの関連】・・・・・・あり / なし (2)分析結果─全体の傾向─ 分析の結果を表2・3に示す。 表2は、具体例・命題Bのそれぞれに、学習者がどのような意味づけをしたかの 分析である。表2からわかるように、初読の段階で22名(57.9%)の学習者が、具 体例であるマルジャーナの話を面白いと感じている。一方で、命題Bに対しては、 9名(23.7%)の学習者が面白くないと記述し、15名(39.5%)の学習者が「実感で きない」 「よくわからない」と記述している。このことから、事前の予想通り、具 体例であるマルジャーナの話そのものは読み取ることができて面白さを感じる一 方、命題Bの資本主義の論に対しては〈実感する〉こと(目標1)ができていない 学習者の姿が見受けられる。. 表2 初発の感想:意味づけ 要素. 意味づけ. 面白い. 面白くない. 実感できる. 実感できない. 具体例. 22(57.9%). 1(2.6%). 4(10.5%). 0(0.0%). 命題B. 3(7.9%). 9(23.7%). 0(0.0%). 15(39.5%). (単位:名 / 括弧内100.0% =38). 表3 初発の感想:意味づけと工夫との関連. 具─B 言及あり. 意味づけとの 関連あり. 12(31.5%). 意味づけとの 関連なし. 3(7.9%). 具─B 言及なし. 23(60.5%). (単位:名 / 括弧内100.0% =38). -  - 52. ●「面白い」根拠として・・・・・・・・・ ●「面白くない」根拠として・・・・・ ●「実感できる」根拠として・・・・・ ●「実感できない」根拠として・・・. 6 1 1 4.

(10) 次に、表3は、学習者が自分の意味づけを具体例と命題Bの繋がりに関連させて 記述しているかどうかである。具体例と命題Bの繋がりに言及があり、且つ自分の 意味づけの根拠としてその繋がりに言及していたのは、12名(31.5%)であった。 そのうち、 「マルジャーナの話から資本主義を説明しようとしていたから、面白かっ た」というように、面白さの根拠として具体例と命題Bの繋がりに言及したのが6 名、 「マルジャーナの話が資本主義の話と繋がらずよくわからなかった」というよ うに、実感できなさの根拠として具体例と命題Bの繋がりに言及したのが4名で あった。本単元では、単に面白いかどうかではなく、特に具体例に着目し、それが 命題Bを〈実感する〉上で効果的かどうかを批評することを目標としている(目標 2)。表3からは、具体例と命題Bの繋がりに言及し、且つそれを自分が 〈実感する〉 かどうかの根拠として挙げている学習者はほとんどおらず、 初発の感想の段階では、 ほとんどの学習者が目標2を達成しているとは言いがたいことがわかる。 4-2 批評文 (1)記述させた内容・分析観点 では、そのような学習者は、単元後にどのように変容したのか。 単元後の批評文では、 「この文章の納得できるところ、できないところはどこか」 をテーマに記述させた。納得できるかどうかを問うことで、単なる感想ではなく批 評を求め、目標1・2に関する記述、すなわち、学習者が命題Bに〈実感する〉こ とができたかどうかの記述と、その認識を具体例と命題Bの繋がりを根拠に説明し た記述を引き出すことを意図した。 批評文については、下記の観点から分析を行う。なお、分析は40名中提出のあっ た36名分を対象として行う。また、分析で用いられる学習者の名前は全て仮名であ る。 ●意味づけ 【教材の要素】……具体例(マルジャーナの話)/ 命題B(「現代の資本主義は 差異(情報)から利潤を生んでいる」 ) 【学習者の実感度】……実感できる(わかる)/ 実感できない (よくわからない) ●実感度と書き手の工夫(具体例と命題Bの繋がり)との関連 【具体例と命題Bの繋がりへの言及】・・・・・・あり / なし →「言及あり」の場合、 【実感度と、具体例と命題Bの繋がりとの関連】・・・・・・あり / なし. -  - 53.

(11) (2)分析例 まず、早野さんの批評文を挙げる。 納得できた。最初は何のことなのか全くわからない文章だったけど、読みとい ていくうちにこの文章を通して筆者が言いたかった「差異」の重要性のことがな んとなくわかってきた。例えばスナック菓子でいえば、今までになかった味をつ くるパッケージを斬新なものにするなど「他との差異」をつくらないと注目を集 めることはできないし、何の分野でも周りと同じでは利潤も注目も得ることはで きないことがわかった。/それを人に例えていえば、その差異はそれぞれの「個 性」だと思う。自分の個性を伸ばしていけば注目を浴びたり、それによって利潤 を得ることもできると思う。「差異」の重要さを改めて考えることができたので この文章は読む価値は十分あると思う。 早野さんは、「「差異」の重要性」という命題Bに関わる点について、「スナック 菓子」という具体的な商品や人の「「個性」」を例に挙げながら説明している。また、 命題Bが「何の分野でも」当てはまると述べ、資本主義以外の領域にまで書き手の 論を敷衍して捉えることができている(→命題Bに対する実感○) 。 しかし早野さんは、なぜ自分が命題Bに対して〈実感〉できたのか、書き手の工 夫との関連では述べていない。そのため、命題Bに対して〈実感する〉という本単 元の目標1を達成したことは見て取れるが、それを具体例との関連で批評するとい う目標2を達成できたとは、この記述からは判断できない(→具─B言及なし) 。 続いて、岡本さんの批評文を挙げる。 納得できる所は、利潤は差異から生まれるというところだ。マルジャーナの物 語ではあまりわからなかったが身近なもので例えると、たしかにそうだなと思っ たからだ。納得できなかったところは、授業でもしたように、マルジャーナの物 語と、筆者の言いたいこととのつながりがわかりにくいところだ。差異という部 分ではつながりがあるのかなとも思ったがマルジャーナは資本主義の中心原理 である差異そのものを売って利潤を得ようとしていないから、やっぱり結びつき がよくわからないなと思ったからだ。 岡本さんは、命題Bについて「身近なもので例えると、 確かにそうだなと思った」 と述べ、命題Bを〈実感し〉ていることがわかる(→命題Bに対する実感○)1。そ 1.  早野さんも岡本さんも、 命題Bに対して〈実感する〉ことができているといえる。しかし、. 二人の実感度には質的差異がある。早野さんは命題Bを身近な例に落とし込んだ記述をし ているのに対し、岡本さんは具体的な例を挙げず、 「身近なもので例えると、たしかにそう だな」と記述するに止まっている。実感度の質的差異をどう評価するかは重要な問題であ. -  - 54.

(12) の一方、具体例であるマルジャーナの話に対しては、 「つながりがわかりにくい」 「やっぱり結びつきがよくわからない」と述べている。つまり岡本さんは、命題B 自体は〈実感する〉ことができるが、それは授業で他の「身近なもので例え」たか ら〈実感〉できたのであって、書き手の挙げたマルジャーナの話の具体例では、私 は命題Bを〈実感する〉ことができない、と述べているのである。ここから岡本さ んが、自分の実感度を具体例と命題Bの繋がりを根拠に意味づけ、書き手による説 得の〈相手になっ〉ていることがわかる(→具─Bへの言及あり + 実感との関連 づけあり)。 (3)分析結果─全体の傾向─ それでは、クラス全体の達成度はどうであったのか。全体の傾向をまとめたもの を表4・5に示す。 表4は、具体例・命題Bのそれぞれに 対する学習者の実感度の分析である。初 発の感想では(表2)、命題Bを実感で. 表4 批評文:実感度 要素. きるという記述は0名であったが、批評 文では17名(47.2%)の記述があった。 このことから、この17名に対しては、目. 意味づけ. 実感できる. 実感できない. 具体例. 3(8.3%). 0(0.0%). 命題B. 17(47.2%). 2(5.5%). (単位:名 / 括弧内100.0% =36). 標1を達成できたといえる。 表5 批評文:実感度と工夫との関連. 具─B 言及あり. 実感度との 関連あり. 25(69.4%). 実感度との 関連なし. 2(5.6%). 具─B 言及なし. ●「実感できる」根拠として・・・・・ 5 ●「実感できない」根拠として・・・ 20. 9(25.0%). (単位:名 / 括弧内100.0% =36). 次に、表5は、学習者が自分の実感度を具体例と命題Bの繋がりに関連させて記 述させているかどうかである。初発の感想(表3)では、そもそも具体例と命題B の繋がりに言及していない学習者が60.5%いた。一方批評文では、言及していない 学習者は25.0%にまで減っている。また、具体例と命題Bの繋がりに言及している 27名のうちの25名(69.4%)が、具体例と命題Bの繋がりを根拠に自分の実感度を るが、今回は詳細に取り上げない(本稿の課題として記す) 。. -  - 55.

(13) 意味づけていた。この25名については、目標2を達成できたといえる。 4-3 考察 本単元では、学習者を説得の〈相手にする〉ために、具体例の批評という言語活 動を仕組み、一定の成果を上げた。具体例は、論説・評論を読んだ際、学習者が〈実 感する〉手がかりとなるものである。その具体例に着目させ、命題Bとマルジャー ナの話の繋がりを検討したり、命題Bに合う別の具体例を探させたりする活動を通 して、学習者は命題Bを〈実感する〉ことができていった。同時に、命題Bに対し て〈実感〉できたからこそ、書き手が用いている具体例が命題Bに適しているのか を考えることができ、書き手による説得の〈相手になっ〉て具体例と命題Bの繋が りに対して自分の考えを持つことができたと考えられる。 以上より、学習者が説得の〈相手になる〉ことを目指しながら、同時に文章内容 を 〈実感する〉ことを目指す論説・評論の読みの指導に関してある知見を見出せる。 それは、具体例と言いたいことの繋がりを批評するという言語活動を設定すること には意義がある、ということである。具体例は、論説・評論の言いたいことをより 読み手に〈実感〉してもらえるよう、書き手が仕組んだ工夫である。具体例を学習 者の実感度をもとに批評させることで、学習者が文章内容を〈実感する〉ことと、 説得の〈相手になる〉ことを、同時に扱うことができるのである。. 5.成果と課題 本稿では、具体例の批評という言語活動を設定することで、学習者が論説・評論 の説得の〈相手になる〉ことを目指しながらも、同時に文章内容を〈実感する〉よ うな指導を提案した。論説・評論の読みの指導でいかにして説得の〈相手になる〉 ことを指導していくのかという課題に対して、一つの具体的な姿を示すことができ た。 今後は、下記の3点の課題に取り組んでいく予定である。 ●〈引き受ける〉ことも視野に入れた、学習者が説得の〈相手になる〉ようにする 論説・評論の読みの指導のさらなる開発・提案 ●学習者がいかに論説・評論を自分と結びつけているかを、彼らの発言や記述から 評価する方法・規準の開発 ●具体例を批評するという行為が、論説・評論の説得の〈相手になる〉学習者を育 てる上で効果的かどうかの量的調査. -  - 56.

(14) 参考文献 植山俊宏(1998) 「説明文における事実表現の読み─〈説得〉と〈納得〉を軸にし て─」『月刊国語教育研究』日本国語教育学会、No.320、pp.28-33 北岡清道・起田宏章・中村明宏・大平浩哉(1985)「座談会:論説教材の指導を魅 力あるものに」『月刊国語教育』東京法令出版、No.47、pp.24-43 幸坂健太郎(2015)「論説・評論を〈自分ごと〉にする国語科の読みの指導理論─ 学習者の読みの「構え」の形成を中心に─」『国語教育思想研究』国語教育思想 研究会、No.11、pp.21-32 幸坂健太郎(2019)「論説・評論を「自分と結びつける」ことの概念区分─高校生 を対象としたインタビューの分析に基づいて─」 『読書科学』Vol.61、No.2、 pp.77-89 篠崎祐介・幸坂健太郎・黒川麻実・難波博孝(2015)「評論文読解指導の現状と課 題─高等学校教員に対するフォーカスグループインタビューから─」『国語科教 育』全国大学国語教育学会、No.77、pp.70-77 寺田守(2010) 「評論文・論説文の学習指導の方法」全国大学国語教育学会編『新 たな時代を拓く 中学校・高等学校国語科教育研究』学芸図書、pp.177-182 吉田裕久(2002) 「論説・評論の学習指導例」太田勝司・大槻和夫・川端俊英編『新 版 中学校高等学校国語科学習指導の研究』双文社出版、pp.104-110 【付記】 本研究は科研費(課題番号15K17400)の助成を受けたものである。. -  - 57.

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