源氏物語における「たり」「り」の文末用法--係り結びの使用頻度と文体差との関連をめぐって
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(2) 甲南女子大学研究紀要第 38号 表 た り. 1. 文学 。文化編 (2002年 3月. 表2. 「た り」 た る. た れ. る. 合計. 地 の文. 669. 地 の文. 心話文. 和. 1. 、 文. △口. 計. 949. つ る. つ れ. 104. 102. 地 の文. 522 46. 52. 会話文. 心話文. 1. 心話文. 歌. 和. 53. ︿ロ. 67. ける. 356. 会話文. 241. 533. 歌 計. 587. 表 6「 き」 けれ. き. 合計. 492. 848. 地 の文. 104. 243. 会話文 心話文. 心話文 ツ 肖`自 、 文. 7肖 `自. l. l. 22. 歌. 合 計. 合計. 1. 表 5「 け り」. 和. ぬ れ. ツ 肖′ 自、 文. 合 計. 地 の文. 1064. ぬ る. ぬ. 合計. 会話文. 和. 109. 表 4「 ぬ」. 表 3「 つ」. ′ 文 自、. 52. 歌. 和. 1. 合 計. 7肖. 25. 文 ツ 肖`自 、. 歌. 地 の文. 981. 心話文. 47. 1. つ. 合計. れ. 60. 921. 会話文. 会話文. 7肖 `自. ). 484. 642. 104. 和. 1230. し. しか. 合計. 1. 40. 32. 187. l. 、 文 歌. 合 計. 150. 57. い に着 目 して ,数 値化 した表 を しめす神。 なお ,こ れ. 「た り」 は 669例 中の 27例 で 3.4%,「 り」 は 981例 中. らの表 の数値 には ,「 た りぬ」「 にけ り」等 の複 合形式. の 60夕 Jで 6.0%,「 つ」 は 104夕 J中 の 2例 で 1.9%,. をふ くまない。 また,「 きか し」「つ るぞ」等 の助詞 の 下接 した例 ,「 てよ」等 の命令形 の例 もふ くまない。 これ らの 1か ら 6の 表 をみて,ま ず注意 され るの. 「ぬ」 は 533例 中の H例 で 2.1%で あ る。なお,「 き」 は 14例 中の 6例 で 42.8%,「 け り」 は 848例 中の 492 例 で,先 の 4つ の助動詞 とは別途考察 が必 要 であろ. は,文 体 による各活用形 の使用数 の ちが いである。6 ヽ の助動詞 ともに,会 話文 と′ 亡 文 では,連 体 話文 と消虐、. う。. 形 の使用数がおお くなる傾 向がある。それに対 して. は,地 の文 の連体形終止 での使用例 がす くない とい う. 地 の文 での例 は,「 き」「け り」 を別 にすると,終 止形. のが基本傾向 としてい えそうである。そ して,そ の使. の使用数 が ほ とん どを しめる。ただ,各 助動詞 によ り,数 値 にはかな りのばらつ きがある。その点 を中心. 用例 も係助詞 「ぞ」 との結 びが大部分 を占める。「た. に,2章 以下で検討 してい くことにす る。. で は 60例 中 の 53例. ,. これ らの数値 か らす る と,「 た り」「 り」「つ」「ぬ」. り」 で は 26例 中 の 25例 (「. (連. ・ 1例 ),「 り」 体形止 め. な む」 1例 ,連 体 形 止 め 6. 例 ),「 つ」 で は 2伊 Jと も,「 ぬ」 で は 11夕 Jと も, が. 3. 地 の文 における連体形 「たる」「る」 の文末用法. 「ぞ」 との結 びの例 である。 「た り」「 り」 に は,「 つ」「ぬ」 とは ち が い,「 ぞ」 の結 び以外 の例 がみ られるが,こ れ らの大部分 は確例. まず ,地 の 文 で の 文 末 用 法 の 連 体 形 の 使 用 数 は. ,. ではない。.
(3) 西田. 資料 〔. 1〕. 隆政 :源 氏物語 にお け る「た り」「 り」の文末用法. 中の君 も,う ちすがひて,あ てになまめ. りつ る御文 に,手 習す さびたまへ るをぬ. か しう,す みたるさまはまさ りて,を か. すみ たる」 とて,中 にひきや りて,い れ. しうおはすめれば,た だ人にてはあたら. た り。 (「 夕霧」 1350頁 10行. しく見せ まうき御 さまを,兵 部卿 の宮 の. ろぞ,命 婦 は まゐれる。 (「 末摘花」217. 梅」 1448頁 14行 )". 頁 5行 ). 行 資料 〔. 子 の筑前 の守ぞ まゐれる。 (「 須磨」426 頁 2行. ). 資料 5と 6は 「 きこえたる」 の例 である。「 きこえ. ). ……尚侍 の君 , もののみやび深 くか どめ きたまへ る人にて,日 なれぬ さまに しな. た り」 が 18例 なのに対 して,「 きこえたる」 はこの 2. 明石の御方 に,三 の宮 して きこえたまへ. 例 であ る。資料 5も 6も , ともに「 きこえたる」 の動 ° 作主体 が係助詞 「ぞ」で卓立 されてい る 。そ れに対 して,「 きこえた り」 は,「・……まことになむ ときこえ. る。/を しか らぬこの身 なが らもか ぎり. た り」 (「 夕顔」 142頁 1行 )の よ う に,18例 中 の 16. とて薪 つ きなむ こ とのか な しさ/(「 御. 例が会話文等 を引用する例である。動詞「 きこゆ+た. 法」 1383頁 14行 ). り」 の場合,動 作主体 を卓立 して強調する場合 にか ぎ. したまへ る。 (「 若菜上」 lo53頁 7行 資料 4〕 〔. 資料 8〕 〔. H. なむい とよくひける。(「 東屋」1794頁. 3〕. 行幸 ちか くな りて,試 楽 などのの しるこ. さもおぼ したらばなどおぼ したる。 (「 紅 をか しきさまに,琴 笛 の道 は遠 う,弓 を. 資料 2〕 〔. 資料 7〕 〔. ). ). 資料 1は ,「 た り」 の唯一の例 で,連 体形止 めの例 であるが,河 内本系 ・別本系 のテキス トでは,終 止形 「た り」 となってお り,疑 間 のの こる例 で ある。資料. り,「 きこえたる」 が もちい られてい ることになる。 資料 7と 8は 「 まゐれる」 の例 であ る。「 まゐれ り」 が 19例 で「ま ゐ れ る」 が 5例 つで あ る。資 料 7は. 2は ,「 り」 の「なむ」 との結 びの例 で,い わゆ る完. 「ぞ」 による動作 の行 われた時節 の卓 立 ,資 料 8は 同. 了系 の助動詞で地 の文唯一の「なむ」 の結 びの ような. じく動作主体 の卓立で,ほ かに,時 節が 1例 ,動 作主. のであるが,大 島本以外 の青表紙系諸本 では「ひ きけ. 体 が 1例 ,出 発地 が 1例 となる。いず れ も,「 まゐれ. る」 とあ り,現 行 の注釈書類 もそのように校訂 してい る。資料 3も 同様 で,青 表紙系諸本 が 「た まへ り」 で. る」 とい う動作 がなされる際に,卓 立 して強調 される 必要 の ある事柄が 「ぞ」 によって しめ されて い る。. 注釈書類 も校訂 して い る。他 に も 1例 同様 の例 が あ. 「曰 くれて惟光 まゐれ り」 (「 夕顔」 131頁 4行 )の よ. る。資料 4は ,「 三の宮経由でおつ たえなさった」「 を. うに,時 節 も動作主体 も卓立す る必 要 のない場合 は. しか らぬ」 の歌 とい う,地 の文 か ら歌 へ 連接す る例 で,「 る」 で終止す る他 の連体形止め とは性格 の ちが. 「 まゐれ り」 となる。 また,係 り結 びでの例 の あ る動詞 を調査す る と ,. 「た り」 は,「 あゆ む」「いで く」「 うち ゑむ」「お きゐ. う例 である。 これ らか らす る と,「 ぞ」の結 び以外 の例 は,「 り」 の連体形止 め 2例 だけ とい うこ とになる。地 の文 で. る」「お は す」「お ぼ す」 (3夕 1)「 お も ふ」「か く (書 )」 「か へ る」「 きあ ふ」「 き こ ゆ」 (2例 )「 く」 (2. の,こ れ ら 4の 助動詞 の連体形終止 は「ぞ」 の結 びと. 例 )「 さしい る」「す」「そふ」「たて まつ る」「のこる」. しての少数例 がみ られるのみで,原 則 として,終 止形 終止 で用 い られるもの とかんがえられる。. 例 である。基本的に動作動詞が多 く,移 動動詞や思考. ただ,「 た り」「 り」 では,「 つ」「ぬ」 よ りも,そ の 「ぞ」 との結 びの例が比較的多 くみ られる。そ こで. ,. 終止形終止 と連体形終止 の両方 の例が ある動詞 の例 で,そ のフ 点を検討す る。 資料 5〕 〔. 動詞 も日につ く。 ただ,状 態性 の動詞 は「のこる」 だ けである。 「 り」 で は,「 お もふ」 (3例 )「 しあ ふ」「つ か うま つ る」「の た まふ」「 まさる」「 まゐ る」 (5例 )「 もて. 少納言ぞ きこえたる。「とはせ た まへ る. まゐ る」「た まへ る」 (40例 )の 8種 53例 で あ る。. は,今 日を もす ぐしが たげなる さまに. 「たまへ る」 の上接動詞 は,「 あまる」「いづ」「いはひ. て,… …」 とあ り。 (「 若紫」179頁 8行 ) 資料 6〕 〔. 「ふす」「みゆ」 (2例 )「 もて く」「ひら く」 の 21種 26. き こ ゆ」「 う らむ」「お こた る」「お ぼ ゆ」「お もふ」. 日たけてぞ もてまゐれる。紫 のこまやか. 「お もひかはす」「お もひきこゆ」「かかる」「か く」 (2. なる紙す くよか にて ,小 少将 ぞ例 の きこ えたる。 ただ ,お な じさまに,か ひな き. 例 )「 ききゐる」「 さ しのぞ く」「す」 (5例 )「 す ぐる」 「すみ なす」「そ ひたて まつ る」「たて まつ る」「対面. よ しをか きて ,「 い とほ しさに,か の あ. す」「つ か うまつ る」「のぼる」「はひいづ」「ま う く」.
(4) 甲南女子大学研 究紀 要第 38号. 文学 0文 化編 (2002年 3月. ). 「 まさる」「まもりゐる」「まゐる」「みゆ」「みる」「み. まず ,会 話文 の傾向から検討す る。文末用法中の連. 40例 で あ る。「た. り」 と同様 に,動 作動詞が多 く,移 動動詞や思考動詞. 体形終止 の比率 は,「 た り」 が 58例 中の 28例 で 48.3 %,「 り」が 52夕 1中 の 25夕 1で 48.1%,「 つ」が 121例. もみ られる。. 中 の 58夕 Jで 47.9%,「 ぬ」 が 89例 中 の 37夕 Jで 41.6. つ く」「わ た る」 (6例 )で ,30種. 強調すべ き動作主体や時節や行為 の場所等があ りえ. %,「 け り」が 243例 中の 104例 で 43.0%,「 き」が 187 例 中 の H5例 で 61.5%で あ る。地 の 文 と比 較 す る. その際 に「ぞ」が使用 されてい る。そ して,先 に検討. と,「 け り」「 き」以外 は,地 の文 です くなかつた連体. した「つ」「ぬ」 のむす び と比較す る と,使 用例がお. 形終止 の比率が,会 話文で極端 におお くなる。なお. おいだけでな く,そ の上接動詞 の種類 も多様 であ る。. 「 き」 のみが 6割 台 となるのは,已 然形終止 の例がす. これ らの動詞での使用例 は,叙 述 の上で,卓 立 して ,. それに対 して,「 つ る」 の 2例 は存疑例 で,「 ぬる」 も. ,. くないことによる。 次 に,会 話文 での共起す る係助詞等 の使用傾向をみ. ・。 11例 にす ぎない 地 の文 での「た り」「 り」 の連体形終止 の例 は,係. る。地の文 と比 較 して一 番 の相違点 は,係 助詞 「な. 助詞 「ぞ」 との使用例 はあるものの「なむ」 との使用. む」 の 使 用 例 の 目 に つ くこ とで あ る。地 の 文 で は. 例 が ない とい う基本 的 な傾 向 は,「 つ」「ぬ」 に通 じ. 「 り」 に 1例 の存疑例 があるのみであ ったが,「 た り」. る。 ただ,「 た り」「 り」 に「ぞ」 の使用例 の比較的お おい点 で ことな っている。 しか し,「 け り」 が,地 の. 「 り」「つ」「ぬ」 と も,も っ と も使 用例 が お お くな. 文 で も連体形終止 の例が終止形終止 の例 よ りもおお. る。「た り」 は 28例 中 の 12夕 Jで 42.9%,「 り」 は 25 例 中の 10例 で 40.0%,「 つ」 は 58例 中の 31例 で 53.4. く,「 ぞ」「なむ」両方 のむす びの例があるの とは こと. %,「 ぬ」 は 37例 中の 22例 で 59.5%で あ る。そ れに. なった傾向 とい う点 で,「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は共. 対 して,「 ぞ」 の例 は少数 となる。 また,不 定詞 と共. 通す るのである。. 起す る例 もおお く,連 体形止 めの例 も日だつ。 「なむ」 の使用例 がおおいの は,会 話文 とい う相手. 4. に対 してはたらきかける要素 のつ よい文体 である点 に. 会話文等 における連体形 「たる」「る」 の文末用法. 関係す るとかんがえられる。宮坂 (1952)に よれば. ,. お な じ係 助 詞 で も,「 ぞ」 と「なむ」 には,「 くなむ〉. 3章 で は,地 の文 での使 用傾 向 をみ たが ,次 に地 の. は語 る強調 ,〈 ぞ〉は写す強調」 のちが いがある とさ. 文 以外 の用法 を検討す る。物語 にお ける引用文 で あ る. れる。 また,阪 倉 (1993)で も,「「ぞ」 は話 し手 自ら. ヽ 亡 会話文 と′ 話文 を中心 にみて い く。 これ らにお ける連. において筋 を通 して述べ るとい う態度 を示す ものであ. 体形終止 の 用法 は 下 の 表 7か ら表 10に しめ した。文. った」 のに対 して,「「なむ」 は会話文 によく用 い られ. 体 ご とに,共 起す る係助詞や不定詞 に よってあげた。. て,相 手 に説明す る態度 を強 く示す ものであ った」 と. 表 7「 た り」. 表 8「 り」. 会話 ぞ. ヽ ′ 亡 言 舌. 7肖 `自. む. 1. や. 和歌. か. が. た. れ. か. 1. ぞ む. い. か. が. 1. か. で. 1. 1. 1. い. な. ど. 1. 1. い か な る. l. 1. な. か. 連体形止 め 合. 計. 28. 合計. 1. ぞ. に. 和歌. 1. や. な. な. ツ 肖`自 、. や. 1. 1. 心話 l. な. l. 1. い. 会話. 合計. l. 1. な. 、. ど. l. か. 28. な. 64. なに ご とかは. に. l. l. 1. 1. 連体形止め 合. 計. 49.
(5) 西田 隆政 :源 氏物語におけ る「た り」「 り」の文末用法 表 9「 つ」 会話. 表 10「 ぬ」. ツ 肖′ 怠. 心話. 和歌. 合計. 会話. 心話. 7肖. ′ 自、 和 歌. ぞ. ぞ な や. や. 1. か. 25. 22. む. な. む. 1. か. 1. 1. 1. 1. や. が. 1. 1. い. が. 1. いかや う∼か. 1. 1. 連体形止 め. 1. な. ど. 1. 1. か. 1. 1. や. い. か. ど. な. 連体形止め 合. 合計. か. 合. 37. 計. 48. 22 58. 計. 1. 65. される"。 「ぞ」が事件や″ 卜1青 を客観的にしめす方向で. また,連 体形止 めは,心 話文 にお い ては,そ の使 用. あったの に対 して,「 なむ」 はよ り「話 し手」の「聞 き手」への説得的な配慮の しめされる係助詞であった. 例 の大部分 を しめ る。そ の文 としての機能 は,会 話文. ことによるのであろう。 この調査結果 も,そ れらの説. と同様 の もので あ る。. 資料 〔. H〕. 君 は,な にごころ もな くねたまへ るを. ,. い だ きお どろか した まふ に,お どろ き. に合致するのである。. て,宮 の御 むかへ におは したると,ね お. つい で ,使 用例 のおおいの は,連 体形止 めの例 であ. びれておぼ した り。 (「 若紫」190頁 2行. る。古典文 ,特 に平安朝仮名散文 の連体形止 めの位置 づ け に つ い て は,諸 説 提 起 さ れ て い る が ,阪 倉. 資料. ). Hは ,光 源氏 が若紫 をむかえにきた際 に,彼. (1993)の 指摘 す る よ うに,実 際 の 運 用 とい う側 面 か. 女が父親の式部卿宮がむかえにい らしたとねぼけてお. らす る と,終 止形 での終止 とはちが った ,説 明的 な効. もった とい う例 である。心話文 では,「 聞 き手」 は 自. 果 を もつ ものであ り,基 本 的 に係 り結 び と同様 の効果. 分 自身なので,彼 女 はおこされて しまった事態 を,自. をもつ もの とか んが え られ る 。. ただ,「 ゆ くへ もしらず,少 納言 ゐてか. 分 に理由づ けて納得 させ ようとしてい るとかんがえら れる。心話文 では,事 態 を自分の内部で位置づ けて理. くしきこえたる」 とのみ きこえさする に,宮 もいふ かひな うおぼ して,… …. 解 しようとするために,係 り結 びによる卓立 しての強 調 よ りも,自 身 に対 して説明的にのべ る形式が多用 さ. 1°. 資料 9〕 〔. (「. 若紫」194頁 6行. ). れるのであろう。. よびよせて,「 たがぞ」 ととへ ば,「 殿 の. 以上 ,会 話文 の例 を中心 に検討 して きた。そ こか ら. 冠者 の君 の しか じかのた まうてた まへ る」といへ ば,… … (「 少女」700頁 3行 ). 理解 されるのは,文 末用法 における,地 の文 との相違. 資料 9は ,若 紫 をひきとりにきた,父 親 の式部卿宮. 対 して,会 話文 や心話文では連体形終止 の使用例 が比. は,行 方不明 になったのは女房 の少納言が彼女 をどこ. 率 をましてい る。それだけでな く,地 の文 では大部分. かへつれていったか らとい うのをきいた例 である。 こ. が「ぞ」 の結 びの例 であるの対 して,会 話文 や心話文. の文 では,「 少納言がつ れて (ど こかへ)お か くしし た」 とい うことがのべ られて い るが,そ れだ け で な. では「なむ」 の例や不定詞共起例や連体形止 めの例 な. く,そ の事実 を父親 に提示 して説明 しようとしている 文 とかんがえられる。事実 を事実 としてのべ るだけで. この点か らすると,源 氏物語 をは じめ とす る,平 安 朝 の和文 において,助 動詞 の使用傾向 については,地. な く,「 聞 き手」へ の配慮がみ られるのである。資料. の文 とそれ以外 とい う,文 体 による差異 に注意する必. 10も 同様 で,上 位者 で あ る父親 の惟光 の質問 に対す. 要がある ことになる。地 の文 では,物 語中の事態 にお. る息子 の回答 とい うことで,説 明的な文 である ことは. ける,動 作等 のあ りようをしめす のが主要な機能であ る。それに対 して,会 話文 では,そ の事態 をいかに相. 資料 〔. 10〕. あきらかであろう。. である。地の文 では終止形終止 を基本 としてい たのに. ど,多 様 な終止 の形式が存在す る。.
(6) 甲南女子大学研 究紀 要第 38号. 文学 。文化編 (2002年 3月. ). 手 につ たえるのか とい う,話 し手 と聞 き手 の 関係 にか. が つづ い て い く。 この よ うな移動 を しめす動 詞 と. かわる側面が重視 され る文 での使 用例 がおお いので あ. 「ぬ」 が もちい られると,そ こで物語 の焦点 となって い る人物 の移動動作が終結する ことで,移 動後 の場面. る。 係 り結 びの使用 が ,こ の ような話 し手 と聞 き手 の 間 題 にかかわる可能性 があ る とす る と,そ の係 り結 びが 地 の 文 で も多 用 され る 「 け り」 との 関連 で ,「 た り」 「 り」 の 用法 につ い て ,検 討 す る必 要 が あ る。5章 で は,そ の点 を物語 テキ ス トの 問題 とともにみて い くこ. へ と物語 の場 が転換 してい く。鈴木 (1999)で は,こ の ような場合,「 ぬ」が 「場面 とじ」 の機能 をもつ と されるい。 また,物 語 の ながれか らみると,場 面転換 の徴標 となってい るとみることもで きよう。 一 方 ,「 た り」「 り」 につい ては,「 場面 お こ し」 の 例 の あ るこ とが,鈴 木 (1999)に よ り指摘 されて い. とに した い。. る16。. 5. 物語 テキス トでの「た り」「 り」 の文末用法. 資料 〔. 13〕. 兵部卿宮 もつねにわた りたまひつつ,御 あそ びな どもをか しうお はす る宮 なれ ば,い まめか しき御あはひどもな り。そ のころ,尚 侍 の君 まかでたまへ り。 (「 賢. 物語 のテキス トでの 「け り」 の機能 については,竹. 木」374頁 13行. 取物語 での阪倉 (1956)の 指摘 以来,物 語 の章 の区切 れに密接 にかかわるもの との共通理解があるとお もわ H。. れる. ). 資料 13は そ こで あげ られた 1例 で あるが,朧 月夜 の 尚侍 が 自分 の里へ とさが る とい う移動動作 の終結. 「け り」 を以て終止する文 は,主 として この物語. が,次 の場面 をみちびいてい る例 とされる。直前 に不. の前半 に多 く表 れ,か つ,そ れ らは幾つかの場所 に. 遇 の光源氏 と蛍兵部卿宮 との交友 の件がかたられ,そ. 集中 して用い られる傾向がある。そ して,そ の群 を な して用 い られる場所 とい うのは,大 体 ,か の大秀. れか ら一転 して,尚 侍退出の件 とな り,こ の例 では. 段落構成上の区画 をしめす「そのころ」 が もちい られ. が 『竹取物語解』 にお い て立 てた九 つ の章 の切 れ. るの も,そ れを補強 してい る。. 日,相 当す ることを知 るのである。 (阪 倉 1956) また,源 氏物語 についても,「 いづ れの御 ときにか」. ,. これ らの点 か らす る と,源 氏物語 の地 の文 では. ,. 「け り」以外 のテ ンス・アスペ ク ト系 の助動詞 に も ,. か らは じまる冒頭文が 「け り」 で終止す るように,基. 何 らかの場面 の転換 に密接 にかかわる場 合 の あるの. 本的 には「け り」 が物語 テキス トでの語 りをになうも のであ るとかんがえられてい る曖。 ただ,長 編 の作品. は,あ きらかである。ただ,そ れ らの機能 は,や は り. ゆえに,そ の他 にも,さ まざまな要素が作品構成上 に 機能 してお り,そ の一端 については,拙 稿 で もい くつ かふれた ところであるい. 「け り」 の もつ機能 とはちが っているとかんが え られ る。. 資料 14〕 〔. はかなきひとくだりの御かへ りのたまさ かな りしも,た えはてにた り。七月 にな. .。. 助動詞 において も,「 け り」 だけでな く,「 ぬ」 にも. りてぞ,ま ゐ りたまひける。 めづ らしう. 物語 の構成上,重 要な区切 れを しめす もの となってい. あはれにて,い とどしき御 お もひのほど. る例がある14。 にはかに所せ うて,み づ からはこのたび. か ぎりな し。す こ し,ふ くらか にな りた まひて,う ちなやみ,お もやせ た まへ. えまうでたまはず,こ となる御逍遥 もな. る,は た,げ ににるものな くめでた し。. くて,い そ ぎい りぬ。二条院 におは しま. (「. 資料 〔. 12〕. 若紫」 176頁 6行. ). しつ きて,都 の人 も,御 供 の人 も,夢 の. 光源氏 は,藤 壷が 自分 の子 を懐妊 したのではと思 い. ここち して,い きあひ,よ ろこびなきも. なが らも,仲 介役女房の王命婦 との手紙 のや りと りも. ゆゆ しきまでたちさわ ぎた り。 (「 明石」. かなわない, とあ ってか ら,7月 になって,藤 壷が参 内 したとつづ く。 この直後 に,藤 壷へ の桐壷帝 のお も. 475頁 6行. ). 資料 12で は,明 石 か ら都 にむか った光源氏 一 行. いがのべ られてい ることか らすると,「 まゐ りたまへ. が,い そいで京 にはいった,そ して,二 条院 に到着 し. る」 とあって も,「 場面 お こ し」 の例 として理解 され. て と,つ づい てい る。 ここでは,「 い そ ぎい りぬ」 の. うるところである。 しか し,こ こで「け り」 は,移 動. 部分 で,一 行 が「はい る」動作 を終結 して,そ の結. 動作 の終結 をしめすだけで はないようにお もわれる。. 果 ,物 語 の中で場面がかわ り,つ ぎの二条院での事態. 資料 〔. 15〕. 「このごろわづ らひた まふ ことよろ しく.
(7) 西田 隆政 :源 氏物語における「たり」「 り」の文末用法 は,こ の ごろす ぐして ,京 の殿 にわた り た まひてなむ, きこえ さす べ き」 とあ る を,こ ころ もとな うお ぼす。藤壺 の宮. ,. なやみ た まふ ことあ りて ,ま かでた まへ り。 (「 若紫」 173頁 9行 ) 資料 15は ,資 料 14の 前 に,藤 壷 が里 さが りす る例 で あ る。 ここで も,直 前 で光源氏 が 若紫 つ きの女房 と のや り と りの 進展 しな い の を不 安 が って い る とあ っ て ,藤 壺 の話 となって い る。場面 の転換 が あ る とい う 点 で は,資 料 14と 同様 で あ る。 しか し,資 料 15で は,そ の移動動作 が終 結 してか ら,光 源氏が密会すべ. る結 びの例 が少数み られる。. 2「 た り」「 り」 は「つ」「ぬ」 にない地の文 での 連体形止めの例が少数み られる。. 3「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は会話文等 で連体形終 止の比率がたか くなる。. 4「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は会話文で「なむ」 の 結 びの例がおおい。. 5「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は会話文で「ぞ」 の結 びの例がす くない。. 6「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は会話文 で不定詞 との 共起例がみ られる。. く画策す る とつづ き,動 作 の終結 で主 体 で ある藤壷が. 7「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は地の文で連体形終止. 移動 した こ と 自体 が ,つ ぎの物語 の展 開へ とつ なが っ. の使用比率が 「け り」 とはことな り,非 常 にす く. て い る。. ない。. それ に対 して ,資 料 14で は,物 語 でそ うい う事 態. が生起 したとい うことをのべ るだけでな く,そ の後 に. 以上の ような,傾 向がみて とれるか とお もう。「た. は,解 説的な叙述がつづいている。帝 の思 い,さ らに. り」「 り」「つ」「ぬ」 は,と りわけ 7の 地 の文 での使. は,藤 壺 の様子 と,物 語 での事態 の進展 とい う よ り. 用傾向で,係 り結 びをふ くめた連体形終止 の使用比率. も,物 語 の状況 の説明がお こなわれる。 これは,い わ. で,「 け り」 とはちが い を しめ してい る。 この点 は. ゆる,「 け り」 の語 りの機能 にもむす びつ くとお もわ. これ らの助動詞 の機能 をかんがえる際に,お お きな意. れる。そ こで注 目すべ き事態 をあ らわす文が,「 け り」. 味 をもつ とかんがえられるのである。. によって しめ される。語 り手 の 回調 もふ くめて,「 ∼. ,. なお,「 け り」「 き」 の会話文等 での使用傾向 につい. なのだった」 とも理解 されるものである。. て も,地 の文以上の連体形終止 の使用比率 をしめす と. また,「 七 月 にな りてぞ」 と,そ の時点 が係助詞 で 卓立 して しめされる点 も注意すべ きである。 ここまで. い う興味ぶかい問題 があるが,こ の点 については,今 後 の課題 としたい。. でみて きたように,「 つ」「ぬ」「た り」「 り」 は,地 の 文 では係助詞 と共起す ることが非常 にす くないのであ るが,「 け り」 で は,そ の よ う な伊lが 多 数 み られ る口 この こと も,「 け り」が物語 の事態 を単 に しめ )。. すに とどまらず,そ れを他 の文中の要素 と関連づ けて い くことで,叙 述上 の注 目点 を提起 してい ることにも. 王 》. ※本稿 は,第 25回 中部 日本 。日本語学研究会 (2000年 5 月 6日 ,刈 谷市立 産業振興館 )で の発表 「源氏物語 に おける「た り」「 り」 の文末用法」 をもとに,一 部構想 をあ らためて,成 稿 した ものであ る。研 究会 の 際 に ご教示 い ただ い た,出 席者 の皆様 には,あ つ く御礼 申 ,. しあげる。. なるであろ う。 とす る と,「 け り」 と「た り」「 り」や 「つ」「ぬ」 とは,物 語地 の文 の叙述 においては,あ きらかにこと なる機能 を有 してい るのではない か とかんが え られ る。助動詞 その ものの もつ意味 とい う側面 だ けで な く,そ の文中での もちい られ方, と りわけ係 り結 びの 使用頻度 か らみて も,そ の相違点 はでてい るとみ られ るのである。. 1)近 年 で は,鈴 木 (1999)が ,こ. れ ら助 動詞 の テ ンス ・アスペ ク ト上の意味か ら,物 語 の場面展 開 につい て 論 じている。. 2)西 田 (2000)の 調査 による。 3)上 田英代他編 (1996)に よって調査 した。 4)「 連体形止 め」 は,係 助詞 も不定詞 もな く連体形 で終 止 して い る例 をさす意味 で もち い て い る。「連体 形 終 止」 と区別す るためである。. 5)源 氏物語 の 引用 は池 田 め. (1953)に よ りそ の頁数行数 を しめ した。引用 に際 して,適 宜 ,か なづ か い をあ ら ため,清 濁 をほどこ し,漢 字 をあて,句 読点 をつ けた。. 6)「 卓立」 による強調 につい ては近 藤 (2000)に くわ し ここで , もう一 度 ,各 助動詞 の係 り結 びの使用傾 向 を整理 して ,列 挙 してみ る。. 1「 た り」「 り」「つ」「ぬ」 は地 の文 で 「ぞ」 に よ. 「まゐ りたま 7)「 まゐれる」 には「 もてまゐれる」 1例 。 へ る」 1例 をふ くむ。. 8)西 田. (2000)の 調査 による。.
(8) 甲南女 子大学研究紀 要第 38け. 9)阪 倉. 塚原鉄雄 1982「 源語各帖 の 冒頭表現 ―源氏物語 の作 品 構成 一」 (『 源氏物語 の探求第 7輯 』風間書房 ). 1987『 王朝初期 の散文構成』 (笠 間書院) 仁 田義雄 1984「 係結 びにつ い て」 (『 研 究資料 日本文法. に着 日 しての,竹 取物語 ,伊 勢物語 の詳細 な作 品構成 の検討がお こなわれてい る。 12)塚 原 (1982)で は,源 氏物語 全編 の構 成が,助 動詞 「け り」 によるとしてい る。. ⑤』明治書 院. ). 宮坂和江 1952「 係 り結 びの表現価値 ―物語文章論 よ り 見 たる一」 (『 国語 と国文学』29-2). 13)西 田 (1999a)(1999b)(1999c)(2001a)(2001b) で検討 をお こなった。. [上. J[コ. 圭糸 己 1987「 各活用形 の機能」 (『 国文法講座 2』 明治 イ. (1993)(1996)(1998)に よる。. 書院. (1999)の 221∼ 222頁 による。. 山田孝雄. 1907『 日本文法論』 (宝 文館 ). (1999)の 158頁 による。. 西 田隆政. 1993「 源語須磨 の表現構 成 ―助動詞 「ぬ」 に. ). よる段落構成 一」 (『 中古文学』51) 1996「 源氏物語葵 の巻 の段 落構 成」 (『 大分大. (1999)の 169頁 にも指摘がある。. 参考文献 『 _明 池田亀鑑 1953 源氏物語 大成校異篇 1∼ 3』 (中 央公論社 。調査 は 9版 による 上 田英代 ・村 上征 勝 0今 西 祐 一郎 ・樺 島忠、 夫 ・藤 田真 理 ). 。上 田裕 一 共 編 1996『 源 氏 物 語 語 彙 用 例 総 索 引. 属語篇. ). 芸』31). (1993)の 236頁 による。. 10)阪 倉 (1993)の 234頁 による。 11)1例 をあげれば,塚 原 (1987)で は,助 動詞 「け り」. 14)西 田 15)鈴 木 16)鈴 木 17)鈴 木. 文学 ・文化編 (2002奪 13月. 1∼. 5』. (勉 誠社. ). 1999a「 指 示語 「か くて」 と源氏物 語 の段 落構 (『. ). 2』 明治書院) 小池清治 1967「 連体形終止法 の 表現効果 ―源氏物語 。 今昔物語集 を中心 に一」 (『 言語 と文芸』54) 近藤泰弘 2000『 日本語記述文法 の理論』 (ひ つ じ書房 ). 阪倉篤義 1956「 竹取物語 の構成 と文章」(『 国語国文』25 一H,後 『文章 と表現』 (角 川書店,1975)所 収 ). 一――- 1993『 日本語表現の流れ』 (岩 波書店 鈴木 泰 1995「 メノマエ性 と視点 (I)一 移動動詞 の ∼ タリ・ り形 と∼ ツ・ ヌ形 の ちが い一」 (『 築 島博 士 占稀 ). 記念国語学論集』汲古書 院. 20-2). 成」 1999b「. 川端善明 1982「 動詞活用 の 史的展 開」 (『 講座 日本語学. ). ―一一 - 1999『 改訂版 占代 日本語助動詞 のテ ンス とア スペ ク トー源 氏物語 の 分析 ―』 (ひ つ じ書 房 ・1992初 版) 竹 岡正 夫 1963「 助動詞 「け り」 の本義 と機能 一源氏物 語 ・紫式部 日記 ・枕草子 を資料 と して 一」 (『 言語 と文. (3). 石 の巻 を中心 に一」 (『 大分大学教育学部研究紀要』. 付. 尾上圭 介 1982「 文 の 基本構成 。史的展 開」 (『 講座 日本 語学 2』 明治書院. 学教育学部研究紀要』 18-2) 1998「 源氏物語 にお ける対偶構成 の巻 々. 国語語彙 史 の研 究. 18』. 和 泉書 院. ). 氏物語 の段落構成 と「そ」系 の 指 示 「そ の ころ」「そ の 年」「そ の 日」「そ の夜」 をめ ぐ 語― ,原. って」 (『 大阪 市立 大学文学部創立 50周 年記念国語国文 学論集』和泉書院 1999c「. ). 源氏物語 の段落構成 と「か」系 の指示 「か く」「か う」 を中心 に一」 (『 井手至先生古稀 記 語一 国語国文学藻』和泉書院. 念論文集. ). 1999d「 源氏物語 における助動詞 「ぬ」 の文末 用法 ―場面起 こ しと場面 閉 じをめ ぐって一」 (『 文学 史 研究』40) 2000「 助動詞 「つ」「ぬ」 と係 り結 び―源氏物. 、 に一」 (『 表現研究』71) 亡 語 を中′ 2001a「 源氏物語 における指示語 「 さて」 の用 法 一平安和文 での接続詞 的用法 の 展 開 をめ ぐって一」 和泉書院 (『 国語語彙史の研究 20』 ). 2001b「 源 氏 物 語 の 段 落 構 成 と指 示 語 「か の」」 (『 筑紫語学論叢』風間書房. ).
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