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初対面二者間会話におけるスピーチレベルの変遷とその要因 : 普通体の指標的意味に着目して

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─研究論文─

初対面二者間会話におけるスピーチレベルの変遷とその要因

─普通体の指標的意味に着目して─

篠崎 佳恵 要 旨  これまでの初対面場面のスピーチレベル(以下、SL)シフトについての研究は、1 回の みの接触を対象としたものが多く、SL シフトを「ポライトネス・ストラテジー」として 捉えたものが多い。本研究では、母語場面と接触場面、計6組の初対面ペアの各4回にわ たる交流でのSLシフトの変遷を観察し、Cook(2008)に基づいてSLシフトを指標として 捉え、普通体の指標的意味という観点から、SLの変遷の要因について考察を行った。そ の結果、SLの変遷については母語場面と接触場面で顕著な差が見られた。また、初対面 場面における普通体の様々な指標的意味を unmarked use と marked use に分類すると、 これらがSLの全体的な変遷に影響していることが明らかになった。このことから、今後 の日本語教育において、SL の指標的意味や、unmarked use、marked use という概念を 取り入れる重要性が示唆された。

 【キーワード】 スピーチレベル 接触場面 指標的意味 unmarked use/marked use         (無標使用と有標使用) 変遷 1.はじめに  会社や学校などで良好な人間関係を築き、円滑な社会生活を営もうとするとき、それを 実現するために必要な要素のひとつに、言葉遣いがある。日本語では、特に「デス・マス 調(丁寧体)」か、そうでない文体1) (普通体)かの選択、すなわちスピーチレベル(以下、 SL)シフトが重要な鍵を握る。日本語母語話者は、意識的に、あるいは無意識に両者を使 い分け、発話のたびに人間関係等を調整するメッセージをやり取りしている。このメッセ ージは場面の文脈に即して解釈されるが、背景知識に乏しい非母語話者にとって、この解 釈は困難なものである。宇佐美(1995)でも、SLシフトが日本語学習者にとって最も習得 が困難なもののひとつであると述べている。  このことから、母語場面・接触場面を含めて SL シフトを対象とした研究が進められ、 特に初対面場面における学習者のSL使用については明らかにされている部分が多い。し かしながら、大部分の研究は初対面の1回の接触のみを対象としており、継続的な複数回 の交流に着目し、時の経過につれて変化する人間関係の実態を、SLシフトにからめて考 1) この文体を指す一般的な呼称は定まっておらず、若い世代では俗に「タメ口」、「タメ語」などと呼ばれ ることが多い。

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察した実証的研究の蓄積は乏しい。SLの選択に困難が出てくるのは、丁寧体基調でほぼ 安定しているといえる初回より、2 回目、3 回目と接触を重ねたあとのことである。この 時期のSLの実際使用を明らかにすることは、今後のSL指導にとって重要な課題であると 考える。

 加えて、これまでのSL研究ではBrown & Levinson(1987)のポライトネス理論を基に、 SLシフトを「ポライトネス・ストラテジー」として捉えたものが多い。しかし、「接触場 面では,ポライトネス理論の枠組みだけでは説明し切れないシフトが生じていると考えら れる」(伊集院2004)という指摘もあり、異なるアプローチの援用により、このテーマに新 たな光をあて、考察を深めることが求められている。Cook(2008)は、SLシフトを「Index (指標)」として捉え、丁寧体とポライトネスを固定的に結びつけるのではなく、場面によ って変化する指標的意味を動的に捉えることの重要性を指摘している。本研究は Cook (2008)の考え方に同調し、SLの変遷をSLの指標的意味との関連から説明しようとするも のである。  上記に基づき、本研究は以下の研究課題を明らかにすることを目的とする。  1.母語場面と接触場面の同年代初対面二者間会話におけるSLの変遷に違いはあるか。  2.SLの変遷はSLの指標的意味とどのように関連しているか。 2. 先行研究 2.1 母語場面のSLシフト  宇佐美(1995)は同性・異性、目上・同等・目下と社会的属性を統制されたペアによる 準自然会話の実験を行い、SLシフトの生起条件をまとめている。その結果によると、普 通体へのダウンシフトの生起条件は①心的距離の短縮、②相手のレベルに合わせるとき、 ③独り言、自問をするとき、④確認のための質問、答えをするとき、⑤中途終了型発話2) のとき、が挙げられるということである。この文献は普通体の生起条件を整理し、また中 途終了型発話の存在について言及している点で重要である。しかしながら、SLシフト生 起の理由を「ポライトネス」で一面的に捉えようとしている点には疑問が残る。例えば、「③ 独り言、自問をするとき」は、その機能を「当該の発話が話し手自身に向けられているこ とを示す談話標識となる」と定義されている通り、相手への配慮が著しく低減される発話 である。よって、相手への配慮を前提とするポライトネスからは、一旦切り離して考える べきではないかと思われる。  三牧(2002)は大学生の同学年ペア・異学年ペアで初対面会話の実験を行い、同学年ペ アでは基本レベルが2者間で統一されるだけでなく、他のレベルの比率までもが相似とな ることを実証的に示した。SLの比率が相似となるという日本語母語話者の大きな特徴を 示した点で非常に示唆的な研究であるが、やはりこの研究も「SLシフト=ポライトネス・ ストラテジー」の立場をとっており、異なる視点からの考察により、SLシフトの実態が 2) 述部を省略したり、複文の主節を省略したりすることにより、文末まで言い切らない発話。

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いっそう明らかになると考える。 2.2  接触場面のSLシフトに関する先行研究  三牧(2007)では、上級学習者では母語話者と類似したSLシフトの使用が見られたもの の、中級・初級では、相手と異なる基本レベルを選択する例や、基本レベルが不明確とな る例が見られたとしている。  伊集院(2004)はポライトネス理論を援用したもので、接触場面の談話データを基に、 学習者ではなく日本語母語話者の側に注目した独自性の高い研究である。この研究の結果、 接触場面では母語場面に見られるようなSLの交渉がなく、普通体へのシフトが急激に起 こることが明らかになった。  このように接触場面においても多くの研究がなされ、接触場面特有のSLシフトの様相 が明らかにされつつある。しかし、ほとんどの研究が初対面の1回の接触のみを対象とし ており、同一の相手との複数回の接触を通したSLシフトの変遷を記述・分析した研究は 少ないようである。 2.3  指標性に関する先行研究  Cook(2008)は、Ochs(1988)の2段階モデル3)を援用し、SLシフトの指標性に関する研 究を行っている。SLシフトを指標として捉え、「ウチ」の関係にある会話参加者間で用い られる丁寧体が何を指標するかについて分析を行った。その結果、丁寧体は「Self-presentational Stance(姿勢を正す4))」を直接指標し、それがウチの文脈で用いられる場

合は、「A person in charge(責任者5))」 「Knowledgeable party(知識がある者)」 「Playing

(遊び)」など様々な社会的アイデンティティやアクティビティを間接的に指標すると論じ ている。  また、Cookはこのような指標の解釈は社会的グループ内で慣習化されており、何が好 まれ、期待されるかについては、メンバー間である程度の共通認識があるとした。さらに、 どのような言語形式がunmarked(無標)、marked(有標)であるかも共有されていると考 える。以上を示した上で、Cookは社会的文脈に照らして言語形式が指標するものを理解 することが、コミュニケーション能力を向上させる上で非常に重要だとしている。本研究 ではこの考え方に基づき、初対面場面(複数回の会話)におけるSLの変遷に、普通体の指 標的意味という観点からアプローチしたい。 2) Ochsは言語形式と指標的意味の関係には直接的なものと間接的なものがあるとし、これを2段階のモ デルで説明している。例えば、日本語の終助詞「ぜ」が直接指標するのは「強さ」という情意的スタ ンスであり、これが日本社会での男性に強さを期待する慣習を通して、間接的に「男性的ヴォイス」 を指標することになるとしている。 4) 原文では「shisei o tadasu」。 5) 以下3点は筆者訳。

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3. 調査概要 3.1 調査協力者  調査協力者は20~30代の日本人9名、日本在住の中国人3名であった。この12名で母語 場面のペア3組、接触場面のペア3組を作った。社会的属性を対等にするため、全員を大 学院生または社会人の女性とし、できるだけ大学院生同士、または社会人同士のペアとし た6)。中国人協力者は全員日本語能力試験の旧1級を取得していた。各ペアの詳細は以下 の表の通りである。表中のJFは日本人女性、CFは中国人女性を表す。 表3-1 調査協力者の属性一覧 ペア 協力者 年齢 職業 日本語学習歴 滞日期間 日本語レベル 接触場面 A JF1 25 日本語教師 ─ ─ ─ CF1 26 エンジニア 14年 2年 能試1級 B JF2 25 大学院生(M1) ─ ─ ─ CF2 24 大学院生(M1) 7年 2年9ヶ月 能試1級 C JF3 25 大学院生(M2) ─ ─ ─ CF3 24 エンジニア 6年 7ヶ月 能試1級 母語場面 D JF4 23 大学院生(M1) ─ ─ ─ JF5 23 大学院生(M1) ─ ─ ─ E JF6 29 雑誌編集 ─ ─ ─ JF7 30 日本語教師 ─ ─ ─ F JF8 29 映画宣伝 ─ ─ ─ JF9 27 日本語教師 ─ ─ ─ 3.2 調査方法  東京にある大学院の教室において、「短期留学生のためのパンフレットを作る」という 作業を1対1でしてもらい、その様子を録画、録音した。談話のテーマを自由とせず、作 業を設定したのは、自然にコミュニケーションを継続させるためである。1回の作業時間 は約45分であった。この作業を各ペア4回ずつ7)、1ヶ月~2ヶ月をかけて行った。各作業 終了後、録音した音声をBTSJ8)を参考に文字化し、後に述べる分類基準に従ってSLのコ ーディングを1発話ごとに行って集計した。また、補助的資料として、全作業終了後に協 力者に対してフォローアップインタビュー(以下FUI)を行い、相手の印象、SLに関する 意識などを確認した。 6) 協力者確保上の困難から、1組は社会人・大学院生のペアとなった。 7) ペアBのみ、4回で作業が終わらなかったため、5回目まで行った。ただし、分析対象は1~3、および5 回目の計4セッションのみとする。

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4.分析方法 4.1 SLの分類基準  先行研究では研究者によって様々な分類方法が試みられており、各レベルのコーディン グに用いられた記号も多様である(下表)。本研究では各先行研究を参考に、以下の分類 基準を使用する。  表4-1 先行研究および本研究のSLの分類と記号       先行研究 分類        生田・井出 1983 三牧 2002 宇佐美 1995 本研究 尊敬語・謙譲語 + + + + 丁寧体 0 0 丁寧体+終助詞 +ʼ 中途終了型発話 対象外 対象外 総合的に判断 ? 普通体 0 0 ─ ─  中途終了型発話に関しては、普通体とも丁寧体とも異なる作用をもつと考えられること から、独立のレベルとして「?」の記号を付与し、本研究の考察からは外した。中途終了 型発話は丁寧体と普通体の間に位置づけられるべきという陳(2000)の考え方に従い、本 研究では表4-1のように、レベルが高いほうから「尊敬語・謙譲語(+)」 「丁寧体(0)」 「中 途終了型発話(?)」 「普通体(-)」とする4分類を採用する。 5.分析 5.1 SLの比率とその変遷  文字化資料のコーディング結果を集計したところ、各ペアの各セッションにおけるSL の比率とその変遷が明らかになった。以下、ペア毎にその詳細を示す。母語場面と接触場 面の間には特徴的な差が見られた。 5.1.1 母語場面 5.1.1.1 ペアD  母語場面ペアDのSL集計結果はグラフ5-1のとおりである。グラフは、各協力者の全発 話数に対する各SLの発話数の割合を示している。

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グラフ5-1: ペアDのSLの比率と推移  グラフから顕著に認められるのは、両協力者の比率がほぼ相似をなしていることである。 第1回を除くすべての回、すべてのレベルにおいて、両者の差は3ポイント以内であった。 第1セッションでは丁寧体がそれぞれ60%、54%となり、基本レベルとして選択されたと 言える。その後第 2、第 3 セッションで基本レベルは普通体に移行し、第 4 セッションで は約90%が普通体となった。大学生の同学年ペアでは基本レベルが2者間で統一されると した前出の三牧(2002)の指摘が、大学院生においても、また複数回の面会においても、 追認された形となる。 5.1.1.2 ペアE  母語場面のペアEのSL集計結果はグラフ5-2のとおりである。 グラフ5-2: ペアEのSLの比率と推移  このペアは他の2組と異なり、第3セッションまで共通の基本レベルとして丁寧体が継 続して使用された。第4セッションではJF7のみ基本レベルを普通体へ移行させたものの、 その割合は高くなく、同時に丁寧体も高い割合で組み合わされていた。JF6は最後まで丁 寧体を基本レベルとしていたが、その丁寧体の比率もわずかずつではあるが回を追うごと に減っていった。 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% JF4 第1回 第2回 第3回 第4回 JF5 JF4 JF5 JF4 JF5 JF4 JF5 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 14% 25% 60% 26% 19% 54% 51% 15% 34% 50% 17% 33% 51% 13% 36% 51% 10% 39% 89% 6% 5% 90% 6% 3% 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% JF6 第1回 第2回 第3回 第4回 JF7 JF6 JF7 JF6 JF7 JF6 JF7 26% 11% 63% 30% 18% 52% 34% 8% 58% 33% 18% 49% 33% 13% 53% 37% 18% 45% 39% 7% 52% 44% 15% 40%

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 この2者間では中途終了型発話および丁寧体の割合に差があったが、普通体の割合につ いては非常に似通っており、いずれの回もその差は5ポイント以内におさまっていた。普 通体とそれ以外の2分類で考えると、ほぼ相似をなしていると言える。 5.1.1.3 ペアF  母語場面のペアFのSL集計結果はグラフ5-3のとおりである。 グラフ5-3: ペアFのSLの比率と推移  このペアは母語場面ペアで唯一、第1回のセッションでの基本レベルが2者間で揃わな かったペアである。JF9が丁寧体を基本レベルとしていたのに対し、JF8は母語場面の全 参加者で唯一、普通体を基本レベルに選んだ。第2セッションではJF9も急激に普通体を 多用するようになり、両者がかなり高い比率で普通体を使うように変化した。この大きな 変化は特筆に値するだろう。その後、普通体を両者共通の基本レベルとする状態は第4セッ ションまで継続された。ただし、普通体の割合はJF8のほうが常に若干高く、他のペアに 比べると相似性は低かった。また筆者の予想に反して、第3回、第4回と回を追うごとに 普通体の割合が両者ともに少しずつ下がっていくという逆戻り現象が見られた点が特徴的 であった。 5.1.1.4 母語場面まとめ  第 1 セッションでは、1 名を除いて残りの 5 名が丁寧体を基本レベルとしており、同年 代の初対面会話ではこれが規範と考えられていると言えるだろう9)。全4セッションを終 えて、基本レベルを普通体へ移行させたのが2ペア、普通体へだんだんと近づきながらも 完全には移行せず、普通体と丁寧体の非対称な状態で留まったのが1ペアとなった。特に 顕著だった大学院生ペア D を筆頭に、2 者間の SL は全体的にほぼ相似をなしており、極 端に非対称となることはなかった。 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% JF8 第1回 第2回 第3回 第4回 JF9 JF8 JF9 JF8 JF9 JF8 JF9 61% 10% 29% 16% 16% 68% 85% 6% 10% 72% 22% 5% 82% 4% 14% 65% 20% 15% 76% 6% 15% 58% 11% 30% 9) FUIの結果、ペアFでは互いに相手を年下、自分を年上と見積もっていたことがわかった。そのため、「同 年代」ではあっても「同い年」相当と見積もった場合とは異なる規範が適用された可能性がある。こ れについては本稿では考察対象としない。

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5.1.2 接触場面 5.1.2.1 ペアA  接触場面のペアAのSL集計結果はグラフ5-4のとおりである。 グラフ5-4: ペアAのSLの比率と推移  母語場面ペアとの大きな違いとして、基本レベルが2者間で異なっていることが挙げら れる。第1、第4セッションではかろうじて最多使用のレベルが一致したものの、2者間に は最小でも7ポイントの開き(第4セッションの普通体)があり、母語場面でみられたよう な相似性はない。第 2、第 3 セッションにおいては、CF1 は丁寧体、JF1 は普通体と異な るレベルが基本レベルとなった。全体を通して、第3回のJF1を除いては突出した基本レ ベルが見られず、特にCF1では第2~4セッションで丁寧体と普通体がほぼ拮抗した状態 が継続している。一方、JF1については初回から普通体を高い割合で使用した点で、母語 場面の例と異なっていた。 5.1.2.2 ペアB  接触場面のペアBのSL集計結果はグラフ5-5のとおりである。 グラフ5-5: ペアBのSLの比率と推移 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% CF1 第1回 第2回 第3回 第4回 JF1 CF1 JF1 CF1 JF1 CF1 JF1 25% 12% 62% 40% 17% 43% 39% 8% 53% 54% 13% 33% 39% 11% 49% 73% 9% 18% 50% 4% 46% 57% 8% 35% 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% CF2 第1回 第2回 第3回 第5回 JF2 CF2 JF2 CF2 JF2 CF2 JF2 18% 14% 68% 65% 18% 17% 27% 16% 57% 88% 10% 2% 35% 9% 55% 87% 12% 2% 39% 14% 47% 86% 12% 2%

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 ペアBでも、ペアAと同様に基本レベルが不統一となり、JF2は普通体、CF2は丁寧体 を多く使用した。ペア A と比べるとその傾向がより顕著であり、第 2 セッション以降、 JF2は一貫して普通体が90%以上となっている。CF2は回を追うごとに非常に緩やかに普 通体の割合を上昇させており、母語場面ペアEのJF6によく似た推移となったが、相手が 普通体を基本レベルにしているという条件下では異なる解釈が必要であろう。 5.1.2.3 ペアC  接触場面のペアCのSL集計結果はグラフ5-6のとおりである。  ペアCでも、他のペアと同様に基本レベルが不統一となり、JF3は普通体、CF3は丁寧 体を多く使用した。JF3については第1セッションの普通体が40%程度、第2~4セッショ ンが50%台後半~70%台で、ペアAのJF1に似た推移を示している。 グラフ5-6: ペアCのSLの比率と推移  一方、CF3については、第1セッションで丁寧体と普通体がほぼ半々、第2セッション で普通体がやや優勢となった後、第 3、4 セッションでは逆に丁寧体の割合が多くなり、 複雑な変化を見せた。このような逆戻り現象は母語場面のペアFでも見られたが、相手の SLに関わらず変化している点から、異なる解釈が必要であろう。 5.1.2.4 接触場面まとめ  接触場面においては、全12セッション中9セッションで、日本語母語話者が普通体、非 母語話者が丁寧体を基本レベルとした不均衡な状態で会話が進められた。調査協力者の数 が少ないためこれを一般化することはできないが、ひとつの傾向として注目に値するだろ う。母語話者は第1セッションでは丁寧体の割合が比較的高いものの、第2セッション以 降は60%前後からそれ以上の割合で普通体を使用するように急激に変化をしており、母語 場面では見られなかった推移となった。非母語話者については共通して、基本レベルが不 明確な状況が見られた。これについては、三牧(2007)で初級・中級学習者について指摘 尊・謙 丁寧体 中途終了 普通体 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% CF3 第1回 第2回 第3回 第4回 JF3 CF3 JF3 CF1 JF3 CF3 JF3 43% 9% 48% 44% 16% 39% 49% 7% 44% 75% 3% 17% 30% 1% 69% 58% 6% 36% 29% 3% 67% 76% 6% 19%

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された傾向が、上級話者でも起こりうるということを示している。 5.2 普通体の指標的意味  この節では、5.1 の結果からケーススタディとして次の 2 点に着目し、初対面場面の普 通体の指標的意味と絡めて考察を行う。1)母語場面ペア E が普通体に移行せず、基本レ ベルが丁寧体で維持された背景にはどのような要因があったのか、2)複雑なSLの変遷を 示したペアCには、どのような要因があったのか。考察を始める前に、Cook(2008)に基 づき、普通体の指標的意味について5.2.1にまとめる。

5.2.1 普通体のunmarked useとmarked use

 篠崎(2011)では、普通体の直接的指標を「off-stage」の情意的スタンスとし、間接的指 標としては「親しさ」や「上下関係」といったポライトネス理論のベースとなる概念に直 接関連しない、様々な指標があることを示している。すなわち、a.「独り言」、b.「感嘆」、 c.「直接引用」等のアクトと、 d.「共同作業者」、e.「母語話者支援者」等のアイデンティ ティである。FUIの結果からは、丁寧な応対が期待される初対面場面においても、上記a ~eのような普通体の使用は規範違反とはならず、留意されていないことがわかった。逆 に、このような使用方法から外れた場合は、それは「親しさ」や「上下関係」を指標する ことになる。このことから、初対面で留意されない a~e のような普通体使用を普通体の 「unmarked use」、そうでないものを「marked use」とし、論を進める。

5.2.2 普通体のunmarked use/marked useとSL変遷の関連

 普通体のunmarked useとmarked useは、全体的なコミュニケーション、互いの印象、 SL の変遷にどのように影響しているのだろうか。本研究のデータにおける SL の変遷と FUI の結果を合わせて考察すると、unmarked use と marked use が重要な働きをしてい ることがわかった。  母語場面ペア E では他のペアに比べて丁寧体から普通体への移行が遅かったが、FUI の結果、JF6 が JF7 を「1、2 歳年上」と認識していたことがわかった。JF6 は、JF7 のほ うが 1、2 歳ほど年上だと思ったとし、JF7 の普通体が多かったからかもしれないという 趣旨の感想を述べている。しかし実際には、普通体の比率はJF6が26%、JF7が30%と大 きな開きはなかった。それにも関わらずこのような印象を持たれた要因は、JF7 の普通 体のmarked useの多さにあるのではないだろうか。そこで試みに、第1セッションの普 通体を指標ごとに分類してみた。各発話がもつ指標は簡単に分類できるものではないが、 談話のビデオを参照しながら慎重にコーディングを行った。以下にコーディング例を示 す。

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話者 発 話 内 容 SL 指 標 JF6 この辺は場所が、結構あるのでー(うん)、少人数で好きなもの選んで行けそうですよね。 0 JF7 あ、そうですね。 0 JF6 えっと、和物??、和物っていう言い方でいいのかなー。 ─ 独り言 JF6 なんていうんですかね?。 0 JF7 日本、伝統文化。 ─ 作業者 JF6 あー、さすがですね。<2人笑い> 0 JF7 今、もう、搾り出したーって感じ。<2人で笑い> ─ marked JF6 伝統工芸でいいのかな。 ─ 独り言 JF7 伝統工芸、あ、そうですね。 0 JF6 工芸、体験。[入力しながら] ─ 作業者 JF7 うん。 ─ marked  グラフ5-7は、第1セッションにおけるJF6とJF7の普通体の発話を上記のように指標ご とに分類し、各協力者の普通体全使用回数に対する比率で表したものである。なお、いず れにも該当しないと思われた普通体発話は「不明」に分類してある10) グラフ5-7: 普通体の各指標の出現比率(ペアE、第1回)  グラフからわかるように、JF6 と JF7 では marked use の比率が大きく異なり、JF6 の 13%に対してJF7は48%と圧倒的に多かった。FUIでJF7は「初対面の人に苦手意識とか ない」と述べており、さらに「敬語を使わなきゃとかの概念がスポンと抜けていた」と自 らのSLに対する意識を表現している。JF7が無意識に使っていたmarked useが、JF6か 0% 10% 20% 30% 40% 60% 50% JF6 JF7 marked 独り言 感嘆 直接引用 作業者 不明 13% 48% 50% 21% 19% 9% 5% 4% 12% 18% 1% 0% 10) 「不明」なものについての考察は今後の研究課題とする。

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らは「親しさ」よりもむしろ「上下関係」を指標するものと受け取られ、JF7の「年長者」 というアイデンティティを構築していったものと考えられる。  一方、JF6 は独り言が約半数を占めており、次いで感嘆が 19%となっている。marked useは1割強しかなく、およそ9割がunmarked useであったことになる。5.2.1で述べたよ うに、unmarked use は「親しさ」や「上下関係」を指標せず、2 者間の心的距離の縮小 に直接寄与しない。このことが、ほぼ同じ比率の普通体を使っていながら、基本レベルが 普通体に移行せず、第4回まで丁寧体が比較的多く使われた要因のひとつであると推測で きる。  接触場面ペア C では複雑な SL の変遷が見られたが、CF3 の印象について、JF3 が「ぐ いぐい来る」と表現している。第1セッションでは、CF3は丁寧体48%、普通体43%で丁 寧体が基本レベルであり、むしろJF3のほうが普通体を基本レベルとしていたにもかかわ らずである。この場合も、marked useとunmarked useに分類して考えると説明が付く。 グラフ5-8はペアCの第1セッションにおける普通体を指標的意味で分類したものである。 グラフ5-8: 普通体の各指標の出現比率(ペアC、第1回)  CF3は丁寧体が基本レベルだったにも関わらず、普通体のmarked useが39%と最も多 かった。これは普通体を基本レベルとしていたJF3よりも高い割合だった。さらに、CF3 はmarked useに次いで「共同作業者」のアイデンティティを表す普通体の発言が多かっ た。共同作業者としての発言の内容を見ると多くが記載項目の提案であり、積極的な姿勢 を印象付けたことであろう。このようにmarked useの割合が高く、また積極的に作業に 取り組む様子が見られたことが、「ぐいぐい来る」という印象を持たれた要因になってい ると思われる。また、CF3の全体的な普通体の少なさとmarked useの多さのアンバラン スが、JF3 にとって心的距離の感知の障害となり、相互行為の中で互いに影響しあって、 SLの複雑な変遷の要因になっていると考えられる。

 以上、SLの比率だけでなく、その指標性およびmarked use/unmarked useを考慮に入

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% CF3 JF3 marked 独り言 感嘆 直接引用 作業者 不明 39% 30% 25% 42% 4% 7% 1% 8% 30% 13% 1% 1%

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れることで、SLの変遷および人間関係の変化について、より深い理解が可能になること を示した。他の各ペアのSLの変遷についても、この考え方を援用することで説明が可能 であると考える。 6.まとめと今後の課題  本研究では母語場面と接触場面の初対面2者間会話を対象とし、4回のセッションにお けるSLの変遷と、その要因を分析・考察した。SLの比率と変遷に関する分析から、母語 場面ペアにおいては 2 者間の SL の比率が相似となる場合が多く、接触場面ペアでは非対 称となる場合が多いことが確認された。各ペアの変遷の要因については2ペアを例に挙げ て分析した。普通体の指標的意味をunmarked useとmarked useに分類し、これらが2者 間の人間関係構築およびSLの変遷においてどのように影響したかを考察した。その結果、 初対面場面におけるSLの変遷に普通体の指標的意味が密接に関連していることが示唆さ れた。  本研究は、指標性という概念を用い、ポライトネス理論とは異なる視点からSLの分析 考察を行った。SLとポライトネスを直接結びつけるのではなく、社会的文脈の中で解釈 することで、SLの新たな側面に光を当てた。初対面場面における普通体のunmarked use とmarked useという概念は、普通体をインポライトネスと直接結び付けていては見出せ ないものである。これまで、日本語教育の教材においては、丁寧体は「初対面の人」や「目 上の人」に向かって使うものであり、普通体は「友達」に向かって使うもの、というよう に説明するものが多かった11)。もちろん、これは導入としては誤りではないと筆者も考

える。しかしながら、適切な時期において unmarked use と marked use のコミュニケー ション上の働きについて説明することは、学習者の円滑な社会生活にとって有益であろう。  今後の課題としては、まず今回のデータについてより詳細な考察を深めると共に、異な る属性を持つ調査協力者を対象としても調査を行いたい。性別、母語、外国人との接触頻 度などが違えば、スピーチレベルの使用状況も本研究とは異なる様相を示すかもしれない。 また、普通体の指標的意味は社会的文脈に応じて変化するものであり、今回のようにタス クが課された場面と、例えばプライベートな場面、あるいはビジネス場面等では、その様 相も異なるはずである。よって今後はより多様な場面を対象として研究を行い、考察を深 めたい。 *本稿は2012年2月提出予定の修士論文を基に執筆した。 11) 初級教材『みんなの日本語初級I 本冊』(スリーエーネットワーク1998)では第20課で普通体が導入され る。同シリーズの別冊『みんなの日本語初級I 教え方の手引き』(スリーエーネットワーク2000: 197)に は、導入例として「山田さんは課長の田中さんと話します。」という説明の後に丁寧体の会話、「山田 さんと鈴木さんは友達です。」という説明の後に普通体の会話を聞かせるという方法が提示されている。 中級教材『文化中級日本語I』(文化外国語専門学校1994)でも、第2課に「敬語相談室」という参考ペ ージを設け、敬語を使う条件として「目上」「あまり親しくない」「改まった場所」の3つを導き出すア クティビティを掲載している(pp. 54-55)。

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参考文献 生田少子・井出祥子(1983)「社会言語学における談話研究」『月刊言語』Vol.12,No.12, 77-84. 伊集院郁子(2004)「母語話者による場面に応じたスピーチスタイルの使い分け ─母語場 面と接触場面の相違─」 『社会言語科学』第6巻第2号,12-26. 宇佐美まゆみ(1995)「談話レベルから見た敬語使用 ─SLシフト生起の条件と機能─」『学 苑』662号,27-42.

宇佐美まゆみ(2007)『改訂版:基本的な文字化の原則(Basic Transcription System for Japanese: BTSJ)2007 年 3 月 31 日改訂版』宇佐美まゆみ研究室(http://www.tufs. ac.jp/ts/personal/usamiken/btsj070331.pdf) (2011年6月20日) 篠崎佳恵(2012)『初対面二者間会話におけるスピーチレベルシフトとその指標的意味』桜 美林大学大学院修士論文(2012年2月提出予定) 陳文敏(2000)「日本語母語話者の会話に見られる「中途終了型」発話 ─表現形式及びその 生起の理由─」 『言葉と文化』第1号,125-142. 中山晶子(2003) 『親しさのコミュニケーション』くろしお出版 三牧陽子(2002)「待遇レベル管理からみた日本語母語話者間のポライトネス表示 ─初対 面会話における「社会的規範」と「個人のストラテジー」を中心に─」 『社会言語科学』 第5巻第1号,56-74. 三牧陽子(2007) 「文体差と日本語教育」 『日本語教育』134号,58-67.

Brown, P. and Levinson, S. (1987). Politeness: Some universals in language usage. Second edition. Cambridge University Press.

Cook, H. M. (2008). Socializing Identities through speech style. Buffalo: Multilingual Matters.

Ochs, E. (1988). Culture and language development: Language acquisition and language socialization in a Samoan village. Cambridge: Cambridge University Press.

参考教材

文化外国語専門学校編著(1994) 『文化中級日本語Ⅰ』凡人社.

スリーエーネットワーク編著(1998) 『みんなの日本語初級Ⅰ 本冊』スリーエーネットワーク. スリーエーネットワーク編著(2000) 『みんなの日本語初級Ⅰ 教え方の手引き』

参照

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