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Panax属植物エッセンシャルオイルの新規機能性に関する研究

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Panax

属植物エッセンシャルオイルの

新規機能性に関する研究

近 畿 大 学 大 学 院

薬 学 研 究 科 薬 科 学 専 攻

本 宏 和

(2)

目次

緒論 ・・・1 第1 章 Panax 属植物エッセンシャルオイルの β-secretase, cholinesterases 阻害作用および amyloid β 凝集抑制および解離作用 1 節 Panax 属植物エッセンシャルオイルの β-secretase 阻害作用, amyloid β 凝集抑制および解離作用 ・・・7 第2 節 Panax 属植物エッセンシャルオイルの cholinesterases 阻害作用 ・・・16 第2 章 Panax 属植物エッセンシャルオイルの GC/MS 分析 ・・・21 第3 章 Panax 属植物エッセンシャルオイルの有効成分の探索 ・・・29 総括 ・・・37 引用文献 ・・・42 略語一覧表 ・・・47 謝辞

(3)

1

緒 論

近年,超高齢社会に突入した日本のみならず,世界的に認知症罹患者が増加してい

る.世界の認知症罹患者数は2015 年に 4600 万人を突破し,2050 年には 1 億 3000 万

人にのぼると予想されている[1].認知症は発症の原因によって 5~6 種類に分けられ

ており[2],アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease: AD),血管性認知症(vascular dementia: VaD),レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies)および前頭側頭型 認知症(frontotemporal dementia)の 4 つのタイプが良く知られている[3].近年では特 にAD の罹患者が多く,AD は認知症患者全体の 75%を占めるとの報告もある[3]. AD は 1906 年にドイツ人医師の Alois Alzheimer によって初めて臨床報告された脳 疾患である[4].Alzheimer 医師による報告から 100 年以上が経過しているが,いまだ AD の予防および根本治療に関わる医薬品は開発されておらず,AD に伴う認知機能 障害の緩和という対症療法のみである.AD においては発症および認知機能障害のメ カニズムにおいて様々な説が提唱されている.その中でも,AD の発症において amyloid β(Aβ)オリゴマー仮説[5, 6]および認知機能障害においてはコリン仮説[7]が 近年注目されている.

Aβ オリゴマー仮説において,AD の発症は脳実質内での Aβ の産生および蓄積から 始まる.Aβ の蓄積は AD における特徴的な病理所見のひとつであるが,Aβ の産生は

健常人であっても恒常的に行われている[8].Aβ は脳細胞膜状に存在するアミロイド

前駆タンパク質(Amyloid precursor protein :APP)を β-secretase および γ-secretase の 2 種のアスパラギン酸プロテアーゼが切断することによって産生される.産生される Aβ は γ-secretase の基質特異性が低いことから,切り出されるアミノ酸残基が異なる

サブタイプが複数存在することが知られており[9],アミノ酸残基が 40 の Aβ1-40や42

残基の1-42などが存在する.Aβ の自己凝集においては,まず単量体 Aβ が dimer や

(4)

2 る.この自己凝集においては Aβ の分子種の違いによって凝集速度が異なることが知 られており,1-42 は凝集初期に凝集核を形成することによって凝集反応を促進する [10].AD の発症においてこれまで通説であったアミロイド仮説では,Aβ の高凝集体 である老人斑が神経細胞に障害を与える主体としている.一方,Aβ オリゴマー仮説 では,老人斑ではなく,その前駆物質である凝集度の低い Aβ オリゴマーが,毒性発 現に高く寄与していると考えられている.以上のような Aβ を中心とした発症メカニ ズムによって,AD 患者の脳内では脳神経細胞が障害を受ける.脳神経細胞は障害を 受けると認知機能障害を引き起こすが,その作用機序としてコリン仮説が提唱されて いる. コリン仮説において,障害を受けた脳神経細胞では神経伝達物質であるアセチルコ リン(acetylcholine :ACh)を合成する choline acetyltransferase の活性が低下することが

明らかとなっており[11],ACh の減少から脳神経細胞間での情報伝達が乱れることに

よって認知機能が低下すると考えられている.そのため,現在認知症治療薬として臨

床利用されているdonepezil,galantamine および rivastigmine は,ACh 分解酵素である

acetylcholinesterase(AChE)および butyrylcholinesterase(BChE)の阻害剤であり[11], ACh の分解を抑制することで,認知機能障害を緩和させるものである. このように,現在,臨床で使用されている認知症治療薬は,あくまで認知機能障害 の緩和という,言わば対症療法であり,AD の根本治療に関わるような医薬品はいま だ開発されていない.そこで近年ではAD の根本治療および予防を目指した治療薬の 研究開発が進められている.これまでのAD の治療薬開発では,Aβ の産生に着目し, 1)Aβ 産生系の阻害および 2)Aβ の分解および排出系の促進,と大きく分けて 2 つの 方向で治療薬開発が進められてきた.1)Aβ 産生系の阻害については,これまで secretase についてその活性を制御する治療薬の開発が数多く行われてきた.しかし γ-secretase は Aβ の産生だけでなく,細胞の分化に重要な Notch シグナルを制御するこ とが明らかとなり[12],重篤な副作用から軒並み開発が中止されている.現在では Aβ

(5)

3 産生経路の上流に位置する β-secretase 阻害作用[13, 14]やオリゴマー仮説に基づいた Aβ の凝集抑制および凝集物解離作用[15]を持つ成分の探索が進められている.2)Aβ の分解および排出については特に分解においてaducanumab [16]や BAN2401 などのモ ノクローナル抗体を活用した治療薬の開発が精力的に行われてきた.Aducanumab に おいては軽度のAD 患者を対象に臨床試験まで進み,治療薬に最も近いとされていた が2019 年 4 月に開発が中止された[17].これは,オリゴマー仮説において Aβ は神経 細胞への障害性を惹起するものであり,すでに障害を受けた脳組織から Aβ を分解お よび排出しても脳機能は回復されないためと考えられる. このような背景から,本研究では AD の”予防”の重要性を考え Aβ の産生および毒 性発現を抑えるため,β-secretase の阻害作用および Aβ の凝集抑制作用に着目した.

また,AD 罹患者の認知機能障害緩和のため AChE および BChE 阻害作用にも着目し た. AD の予防および緩和作用を有する化合物の探索にあたり,天然物の香気成分に着 目した.近年,天然物由来のエッセンシャルオイル(EO)や揮発性化合物などの香り 成分の AD に対する治療および緩和作用が注目されている[18].香りによる AD の予 防および緩和作用には,アロマセラピー作用および認知症に関与する各種酵素の阻害 作用が知られている.そのうち,アロマセラピーにおいては香りを嗅ぐことによる心 因的なリラックス作用により,認知機能が改善される[19].また,香りによる酵素阻

害作用としては,前述した β-secretase および cholinesterases (ChEs)に対する阻害作用

が報告されている[20, 21].一方で,AD におけるこれらの酵素は脳実質に存在するた

めに,阻害作用を有する化合物は血液脳関門(Blood-brain barrier: BBB)を通過する必

要がある.その点において,香り成分は揮発性の低分子化合物であることから,BBB

を通過しやすいと考えられている[22].このような背景から,これまで著者らの研究

(6)

4 [23]などの天然物由来の香りおよび揮発性成分について β-secretase および ChEs 阻害 作用を評価しており,良好な結果を得てきた.そこで本研究では東アジアにおいて生 薬原料として頻用されるPanax 属植物の EO について AD の予防および緩和につなが る薬理作用を評価した. ウコギ科Panax 属植物は東アジアにおいて最も重要な生薬原料のひとつであり,長 年薬用利用されてきた.Panax 属植物は現在 13 種が知られており,属名の Panax は ギリシャ語で“cure all”を意味し[24],様々な疾患に応用されている.特に中国,日本 および韓国においてはオタネニンジン(Panax ginseng),チクセツニンジン(P.

japonicus),サンシチニンジン(P. notoginseng)およびアメリカニンジン(P. quinquefolius)

の4 種がよく用いられている(Figure 1).これら 4 種の中でもオタネニンジンは化学

的および薬理学的にもっとも研究が進んでおり,認知症に対する作用も多数報告され ている.

Figure 1: Photographs of genus Panax plants used in this study [25].

オタネニンジンは薬効のひとつとして古くから抗認知症作用および認知機能の改 善および強化を目的に適用され,中国最古の本草書である『神農本草経』にその記載 がある.オタネニンジンは神農本草経では”上品”に収載され,その一節に知能を高め

るという意味の“益知”の記載がある.また,近年の研究報告では,オタネニンジンを

(7)

5 蒸して加工した紅参のエキスに,脳虚血モデルマウスにおける神経細胞障害の予防作 用[26]および β-secretase 阻害作用を有することが報告されている[27].さらに,オタネ ニンジン以外のPanax 属植物エキスに関しても抗認知症作用が報告されている.サン シチニンジンにおいては含有成分のひとつであるgypenoside XVⅡに Aβ の蓄積低下作 用が報告されている[28].また,アメリカニンジンではその粗エキスに Aβ1-42による 細胞毒性の軽減作用が報告されている[29]. 上述のように,Panax 属植物においては VaD や AD などの様々な認知症に対して予 防,緩和および改善に関わるような作用が報告されている.しかし,この様な抗認知 症作用をはじめとしたPanax 属植物の薬理作用に関する研究は,有効成分としてジン セノシド類を対象にしたものがほとんどである.ジンセノシド類はトリテルペノイド サポニンのひとつであり,Panax 属植物の特徴成分とされていることから化学的およ び薬理学的に広く研究されている.一方で,ジンセノシド類以外の構成成分に関する 研究はほとんど報告されていない.Matsuda らはヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)に 対するオタネニンジンエキスの細胞増殖抑制作用を見出し,有効成分としてジンセノ シド類を同定した[30].その一方で,ジンセノシド類を含まない画分を同時に投与す ることで効果が増強することも確認しており,オタネニンジンにおけるジンセノシド 類以外の成分の重要性を報告している.そこで本研究では,Panax 属植物のジンセノ シド類以外の成分の機能性解明を目的とし,その中でもPanax 属植物が独特な芳香を 有することから,その香り成分に着目した. これまでの Panax 属植物の香り成分に関する研究は数報の含有成分解析に関する 報告のみである[31, 32, 33].その中で,Cho らはオタネニンジン,サンシチニンジン およびアメリカニンジンの各EO の構成成分について比較を行っており,これらの香 り成分の主成分がセスキテルペンであること,また,含有成分のクラスター分析から オタネニンジンとサンシチニンジンの各EO は成分組成の類似性が高く,アメリカニ ンジンEO は他の 2 種とは異なるクラスターに属することを報告している[31].一方,

(8)

6 香り成分の機能性に関する研究報告は2 報のみで,コウジン EO の抗炎症および抗酸 化作用[34]と Brucella 感染症に対する免疫賦活作用[35]のみである. そこで本研究では,オタネニンジン,チクセツニンジン,サンシチニンジンおよび アメリカニンジンの各 EO に新規機能性を求め,AD の予防および緩和につながる作 用を比較および評価したので報告する. 第 1 章第 1 節では,Panax 属植物 EO の AD における予防作用を評価するため,β-secretase 阻害作用,Aβ の凝集抑制作用および解離作用を比較検討した.第 2 節では AD による認知機能障害の緩和作用を評価するため AChE および BChE の 2 種類の ChEs に対する阻害作用を検討した. 第2 章では第 1 章において良好な結果が得られた Panax 属植物 EO の含有成分を明

ら か に す る た め , ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー 質 量 分 析 (Gas chromatography mass

spectrometry :GC/MS)を行い,含有成分を同定した.

3 章では第 2 章で得られた含有成分の情報から,Panax 属植物 EO の β-secretase

(9)

7

1 章 Panax 属植物エッセンシャルオイルの β-secretase,cholinesterases

阻害作用および

amyloid β 凝集抑制および解離作用

1 節 Panax 属植物エッセンシャルオイルの β-secretase 阻害作用,

amyloid β 凝集抑制および解離作用

Ⅰ. 緒言

1 章第 1 節では Panax 属植物 EO による AD の予防につながる作用を評価した. AD の発症においては Aβ オリゴマー仮説より,Aβ の産生および凝集が発症の初期段 階として重要視されている.そこで本研究では Aβ 産生酵素である,β-secretase の阻

害作用およびAβ の凝集抑制作用を評価した.特に Aβ 凝集においてはモノマーの Aβ

よりもオリゴマー化したAβ に強い細胞障害性が認められることから,Aβ の凝集をタ ーゲットとしたAD 予防には,凝集の抑制だけでなく凝集した Aβ(fibril Aβ:fAβ)の 解離作用という二つのアプローチが考えられる.そこで本研究では,Aβ の凝集抑制 とあわせてfAβ の解離作用についても評価した.また,被検体には中国,日本および 韓国において頻用されているオタネニンジン,チクセツニンジン,サンシチニンジン およびアメリカニンジンの各EO を,水蒸気蒸留法によって取得し,各作用を比較し た.

(10)

8

Ⅱ. 実験材料および方法

1. 実験材料 オタネニンジン(根)は韓国Gyeondong 市場で購入したものを実験材料とした.宮 崎県産チクセツニンジン(根茎)(Lot :7416001),中国雲南省産サンシチニンジン(根) (Lot :29716002)および中国吉林省産アメリカニンジン(根)(Lot :110816001)は㈱ 栃本天海堂より購入し,実験材料とした. 2. 試薬

TRITON® X-100 は MP Biomedicals で購入した.β-Secretase

基質;MOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu-Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-Lys(Dnp)-Arg-Arg-NH2,β-secretase

阻害剤;Lys-Thr-Glu-Glu-Ile-Ser-Glu-Val-Asn-Sta-Val-Ala-Glu-Phe(Inhibitor-Ⅰ)および Aβ1-42(ヒト)は㈱ ペプチド研究所で購入した.その他の試薬は富士フィルム和光純薬工業㈱もしくはナ カライテスク㈱の特級グレードを使用した. 3. 実験方法 3-1. 水蒸気蒸留法によるエッセンシャルオイル抽出 Panax 属植物を乾燥後に粉砕し,10 倍量(w/v)の蒸留水を加えた.日本薬局方 既定の精油定量器(第17 改正日本薬局方)を用いた水蒸気蒸留法(5 時間)にて EO を抽出し,被検体とした.

(11)

9

3-2. β-Secretase 阻害試験

β-Secretase 阻害試験では Murata らの方法を一部改変した[36].96 ウェルマイクロプ

レートにアッセイバッファー(20 mM acetate buffer, pH=4.5 , 0.1% Triton® X-100 添加)

を78 μL 加え,そこに dimethylsulfoxide (DMSO)にて溶解した被検体溶液 2 μL を加 えた.さらにアッセイバッファーで調製したβ-secretase 溶液(100 U/mL)を 10 μL 加 え,プレインキュベート(37℃,10 分間)をした.インキュベート後,DMSO で溶解 した0.1 mM β-secretase 基質を 10 μL 加え,撹拌後 37℃で 1 時間反応させた.反応後, 2.5 M sodium acetate を 100 μL 加え混合した.バイアルに反応液を 100 μL および超純 水900 μL を加えて撹拌後,インキュベート(80℃,10 分間)したのち蛍光 HPLC 分 析に供した.蛍光HPLC にて,生成した蛍光ペプチド断片由来のピーク面積を測定し, 下記の式より阻害率を算出した.陽性対照薬にはInhibitor-I を用いた. 阻害率(%)=100-[(被検体由来のピーク面積)/(コントロール由来のピーク面 積)×100] HPLC 分析条件(蛍光ペプチド断片;MOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu)

カラム;Cadenza CD-C18(4.6 mm i.d × 150 mm,3 μm,Imtakt㈱)

移動相;water(0.1%(v/v)formic acid):acetonitrile(0.1%(v/v)formic acid); 0 min (9:1,v/v)→18.0 min (1:1)→18.1 min (5:95)→23.1 min (STOP) 流速;1 mL/min

カラム温度;40℃

検出器;蛍光検出器(RF-20A),励起波長 Ex. 325 nm/蛍光波長 Em. 395 nm

注入量;10 μL

(12)

10

3-3. Amyloid β1-42凝集抑制試験

1-42凝集抑制試験は,Choi らの方法を一部改変した ThioflavinT(ThT)法によって

実施した[37].Aβ1-42ペプチドはDMSO にて 1 mM に調製し,使用直前まで-20℃で冷

凍保存したものを使用した.96 ウェルマイクロプレートにアッセイバッファー(50

mM sodium phosphate buffer, pH=7.4)を 88 μL 加え,DMSO にて溶解した被検体溶液 2

μL を加えた.アッセイバッファーで 5 倍希釈した Aβ1-42溶液(200 μM)を 10 μL 加

え,撹拌しながらインキュベート(37℃,500 rpm,6 時間)し,Aβ1-42を凝集させた

fAβ1-42).インキュベート後,ThT 溶解用バッファー(50 mM glycine-NaOH buffer,

pH=8.5)で 5 μM に調製した ThT 溶液を 100 μL 加え,再度インキュベート(37℃, 500 rpm,30 分間)した.インキュベート後,fAβ1-42に反応したThT の蛍光強度を蛍 光プレートリーダー(Ex. 440 nm/Em. 486 nm)にて測定した.凝集抑制率は下記式 より計算し,被検体由来の蛍光物質の影響を加味するため,試験には1-42非添加群 を設けた.また,陽性対照薬にはmyricetin を使用した. 抑制率(%)=100-[被検体(Aβ1-42添加群-Aβ1-42非添加群)の蛍光強度/コントロ ール(1-42添加群-1-42非添加群)の蛍光強度×100]

(13)

11

3-4. Fibril amyloid β1-42解離作用試験

fAβ1-42解離作用試験では,3-3)Amyloid β1-42凝集抑制試験を一部改変して行った.

96 ウェルマイクロプレートにアッセイバッファー(50 mM sodium phosphate buffer,

pH=7.4)を 88 μL 加え,アッセイバッファーで希釈した Aβ1-42溶液(200 μM)を 10 μL 添加し,撹拌しながらインキュベート(37℃,500 rpm,6 時間)して Aβ1-42を凝集さ せた.インキュベート後,fAβ1-42にDMSO にて溶解した被検体溶液 2 μL を加え,撹 拌しながらインキュベート(37℃,500 rpm,30 分間)した.ThT 添加以降の処理は 3-3)Aβ1-42凝集抑制試験と同様に行った. 4. 統計処理 すべてのデータは,一元配置分散分析によって統計的に解析し,多重比較検定には Dunnet’s 検定を用いて有意差検定を実施した.ソフトウェアには Statcel3(出版社 OMS ㈱)を使用した.

Ⅲ. 実験結果

1. 水蒸気蒸留法によるエッセンシャルオイル抽出

水蒸気蒸留法による収率をTable 1 に示した.

Table 1: Samples of Panax species used in this study.

Species Cultivation Part Yields

Panax ginseng Korea root 0.019%

P. japonicus Japan rhizome 0.011%

P. notoginseng China root 0.044%

(14)

12

2. β-Secretase 阻害試験

β-Secretase 阻害試験の結果を Figure 2 に示した.試験したすべての Panax 属植物 EO

が有意な阻害作用を示した.その中でチクセツニンジンEO が最も強い阻害作用を示

し,100 および 500 μg/mL でそれぞれ 24.2%および 51.3%の阻害作用であった.つい

でアメリカニンジン EO が強い阻害作用を示し,100 および 500 μg/mL でそれぞれ

15.4%および 49.7%の阻害作用であった.

Figure 2: Inhibitory activities of EO from Panax species on β-secretase.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, *; p<0.05, **; p<0.01.

0 10 20 30 40 50 60 70

P. ginseng P. japonicus P. notoginseng P. quinquefolius Inhibitor-I 50 nM 100 µg/mL 500 µg/mL ** ** ** ** ** ** ** ** * % In h ib it io n

(15)

13 3. Amyloid β1-42凝集抑制試験 1-42凝集抑制試験の結果を Figure 3 に示した.有意な抑制作用を示したのは,チ クセツニンジンEO およびサンシチニンジン EO の 500 μg/mL 群のみであった.最も 強い阻害作用を示したのはサンシチニンジン EO で,500 μg/mL で 57.3%の阻害作用 であった.また,チクセツニンジンEO は 500 μg/mL で 29.8%の阻害作用を示した.

Figure 3: Inhibitory activities of EO from Panax species on amyloid aggregation.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, *; p<0.05, **; p<0.01. Myr: Myricetin

-30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60 70

P. ginseng P. japonicus P. notoginseng P. quinquefolius Myr

** ** * 10 µM 100 µg/mL 500 µg/mL % In h ib it io n

(16)

14 3-4. Fibril amyloid β1-42解離作用試験 fAβ1-42解離作用試験の結果をFigure 4 に示した.試験した濃度域においてすべての Panax 属植物 EO が有意な阻害作用を示さなかった.Aβ 凝集抑制試験において有意な 抑制作用を示したサンシチニンジン EO および阻害傾向にあったアメリカニンジン EO では,本試験においては fAβ1-42の解離を阻害し凝集物を増加させることが明らか となった.このことから,サンシチニンジンEO およびアメリカニンジン EO におい ては,Aβ 凝集の抑制および促進の作用を有する化合物がそれぞれ含有している可能 性が示唆された.

Figure 4: Dissociation activities of EO from Panax species on fibril amyloid.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, **; p<0.01. Myr: Myricetin

-30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60 70

P. ginseng P. japonicus P. notoginseng P. quinquefolius Myr

** % In h ib it io n 10 µM 100 µg/mL 500 µg/mL

(17)

15

Ⅳ. 考察および小括

近年,AD の予防薬開発として β-secretase 阻害作用や Aβ の凝集抑制作用,凝集物 解離作用および fAβ のクリアランス作用が注目されている[14, 38].そこで本節では Panax 属植物 EO の AD の予防につながる作用を比較および評価するため,β-secretase 阻害作用および Aβ の凝集抑制および解離作用を評価した.その結果,β-secretase 阻 害試験ではすべてのPanax 属植物 EO が有意な阻害作用を示し,その中でもチクセツ ニンジン EO が最も強い阻害作用を示した.また,Aβ1-42凝集抑制試験においてはサ ンシチニンジンEO が最も強い抑制作用を示した.一方,fAβ1-42の解離試験において はすべてのPanax 属植物 EO が有意な解離作用を示さなかった.このことから Panax 属植物EO においては AD の予防作用を有する可能性が示唆された. 本節では,Aβ 凝集のプロセスにおいて凝集抑制だけでなく凝集物の解離作用にも 着目した.近年,天然物による Aβ 凝集の抑制作用は多数報告されているが[38, 39],

Aβ の解離作用の報告はいまだ少ない.Aβ オリゴマー仮説において Aβ は凝集の度合

いによって毒性が異なることから,Aβ 凝集をターゲットとした創薬において,fAβ の 解離作用を評価することは非常に重要であると考えられる.一方で,本節において用 いたThT 法は凝集した Aβ の量を比較するという点においては優れているが,凝集しAβ がオリゴマーなのか線維化まで進んでいるのかといった凝集の状態を測定する ことはできない.そのため今後は凝集の状態を測定できる試験系を導入することで, より詳細なAD の予防作用が評価できると考えられる.

(18)

16

2 節 Panax 属植物エッセンシャルオイルの cholinesterases 阻害作用

Ⅰ. 緒言

1 章第 2 節では Panax 属植物 EO の AD による認知機能障害の緩和につながる作

用に着目した.AD 患者では choline acetyltransferase の障害により ACh の産生量が低

下し,認知機能障害を引き起こしている.現在の臨床では ACh の分解酵素である, AChE および BChE に着目し,その阻害作用を有する医薬品が認知機能障害の改善に 一定の成果を上げている.特に,レミニール®の名で臨床利用されている galantamine はコーカサス地方の伝統的なハーブであるスノードロップ(Galanthus spp. ;ヒガン バナ科)から発見された化合物であり[40],天然物由来の AD 治療薬の先駆けとなっ ている.そこで,本研究ではAD による認知機能障害の緩和の観点から,Panax 属植 物EO の AChE および BChE 阻害作用を評価および比較した.

Ⅱ. 実験材料および方法

1. 実験材料 第1 章第 1 節に記したものを用いた. 2. 試薬

Fast Blue B Salt(FBB)は MP Biomedicals で購入した.Sodium dodecyl sulphate (SDS)

GE Healthcare で購入した.AChE (from Electrophorus electricus) および BChE (from

(19)

17

㈱で購入した.また,その他の試薬については第 1 章第 1 節に記したものを用いた.

3. 実験方法

3-1. Acetylcholinesterase 阻害試験

AChE 阻害試験は Marston らの方法を一部改変して実施した[41].96 ウェルマイク

ロプレートにアッセイバッファー(50 mM Tris-HCl buffer, pH=7.8)180 μL および DMSO

にて溶解した被検体溶液 5 μL を加えた.アッセイバッファーで調製した AChE 溶液

(2.0 U/mL)10 μL および DMSO にて 18 mM に調整した 1-naphythylacetate を 5 μL 加

え,撹拌後,インキュベート(37℃,1 時間)した.インキュベート後,5%(w/v) SDS を 25 μL 加え反応を停止し,2 mM の FBB を 25 μL 加えて,波長 600 nm におけ る吸光度を測定した.酵素阻害率は下記式より計算し,被検体由来の吸光度の影響を 加味するため,試験には酵素非添加群を設けた.また,陽性対照薬には galantamine hydrobromide を使用した. 阻害率(%)=100-[被検体(酵素添加群-酵素非添加群)の吸光度/コントロール (酵素添加群-酵素非添加群)の吸光度×100] 3-2. Butyrylcholinesterase 阻害試験

3-1. AChE 阻害試験に準じて,酵素を BChE(1.0 U/mL)に変更して行った.また、

陽性対照薬にはtetraisopropylpyrophosphoramide を使用した.

4. 統計処理

(20)

18

Ⅲ. 実験結果

1. Acetylcholinesterase 阻害試験

AChE 阻害試験の結果を Figure 5 に示した.試験したすべての Panax 属植物 EO が

有意な阻害作用を示した.最も強い阻害作用を示したのはオタネニンジンEO で 50 お

よび250 μg/mL の濃度でそれぞれ 70.4%および 81.7%の阻害作用を示した.ついでサ

ンシチニンジン EO が強い阻害作用を示し,50 および 250 μg/mL の濃度でそれぞれ

36.2%および 46.1%の阻害作用を示した.

Figure 5: Inhibitory activities of EO from Panax species on acetylcholinesterase.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, **; p<0.01. GH: galantamine hydrobromide

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

P. ginseng P. japonicus P. notoginseng P. quinquefolius GH

% In h ib it io n 10 µM 50 µg/mL 250 µg/mL ** ** ** ** ** ** ** ** **

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19

2. Butyrylcholinesterase 阻害試験

BChE 阻害試験の結果を Figure 6 に示した.試験したすべての Panax 属植物 EO が

有意な阻害作用を示した.最も強い阻害作用を示したのはオタネニンジンEO で,10

および50 μg/mL の濃度でそれぞれ 84.3%および 96.7%の阻害作用を示した.ついでア

メリカニンジン EO が強い阻害作用を示し,10 および 50 μg/mL の濃度でそれぞれ

79.5%および 93.2%の阻害作用を示した.すべての Panax 属植物 EO において AChE 阻 害試験よりも低濃度で強い阻害作用を示した.

Figure 6: Inhibitory activities of EO from Panax species on butyrylcholinesterase.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, **; p<0.01. TIP: Tetraisopropylpyrophosphoramide

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 10 µM 10 µg/mL 50 µg/mL ** ** ** ** ** ** ** ** ** % In h ib it io n

(22)

20

Ⅳ. 考察および小括

本節では,Panax 属植物 EO の AChE および BChE の阻害作用を評価した.AChE 阻

害試験では試験した4 種の EO すべてが有意な阻害作用を示し,その中でもオタネニ

ンジン EO が最も強い阻害作用を示した.BChE 阻害試験においても AChE 阻害試験

同様にすべての被検体が有意な阻害作用を示した.特にBChE 阻害試験では AChE 阻

害試験よりも低濃度で阻害作用を示しており,その中でもオタネニンジンEO が最も

強い阻害作用を示した.Chaiyana らはタイに自生する 20 種類の植物の EO について ChEs 阻害作用を評価している[20].その中で,AChE に対しては Citrus aurantifolia の EO が 100 μg/mL で 85.8%,BChE に対しては Melissa officinalis の EO が同濃度におい

て 82.5%の阻害作用を示し,これら 2 種の EO の ChEs 阻害作用は強かったと報告し

ている[20].本試験において Panax 属植物の EO は ChEs に対して,Chaiyana らの報告

と同等もしくはそれ以上の阻害作用を示している.AChE および BChE の阻害作用は,

すでに臨床において認知症治療薬として使用されており,このことからもPanax 属植

(23)

21

2 章 Panax 属植物エッセンシャルオイルの GC/MS 分析

Ⅰ. 緒言

2 章では,4 種の Panax 属植物 EO について含有成分を分析した.Panax 属植物 のEO 分析についてはこれまでにオタネニンジン,サンシチニンジンおよびアメリカ ニンジンについての報告がある[31, 32, 33].特にオタネニンジンおよびアメリカニン ジンは比較的報告が多く,官能的な香りの評価法である E-nose 試験[32, 33],さらに オタネニンジンにおいては生育年数別の成分分析[32]などがされている.一方でチク セツニンジンEO に関する研究は,成分分析および薬理作用研究を含めてこれまでに 報告がない.本章では,第 1 章において,β-secretase,ChEs 阻害作用および Aβ 凝集 抑制作用が明らかとなった 4 種の Panax 属植物 EO について,GC/MS 分析により含 有成分を明らかにすることで有効成分探索への足掛かりとした.

Ⅱ. 実験材料および方法

1. 実験材料 第1 章第 1 節に記したものを用いた. 2. 試薬 第1 章に記したものを用いた.

(24)

22 3. 実験方法 3-1. ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析による含有成 分の測定 Panax 属植物 EO を下記条件にて分析し,その含有量をガスクロマトグラフィー(GC) にて面積百分率法により求めた.また,化合物の同定は,GC/MS 分析の結果をデータ

ベース(Wiley 7thおよびNIST 08)のマスフラグメントと照合し,さらに Retention Index

(RI)も参考にして同定した.

GC 分析条件

装置;Agilent 6890N GC System

カラム;Inertcap Pure Wax(0.25 mm i.d. × 60 m,0.25 μm,GL サイエンス㈱)

注入量;1.0 μL

昇温プログラム;0 min(50℃)→2 min(50℃)→78 min(240℃)→98 min(240℃, STOP) 気化室温;250℃ キャリーガス;Helium(1.2 mL/min) スプリット比;1/80 検出器;水素炎イオン化検出法 GC/MS 分析条件 装置;Agilent 5973 GC/MS System 測定モード;電子イオン化法(70 eV),TIC Scan MS 温度;イオン源 230℃,四重極 150℃ スキャン幅;m/z 25-350 検出器;質量分析(MS)検出器

(25)

23

Ⅲ. 実験結果

1. オタネニンジン EO の成分分析 オタネニンジンEO の GC/MS 分析におけるトータルイオンクロマトグラム(Figure 7)および含有量上位 10 成分(Table 2)を示した.同定可能であった化合物の中で, 含有量が最も多かったのはspathulenol(8.82%)で,ついで bicyclogermacrene(6.23%), α-guaiene(4.12%)の順であった.また,同定された化合物はすべてセスキテルペンで あった.

Figure 7: Total ion chromatogram of EO from P. ginseng.

Table 2: Ten major components of EO from P. ginseng determined by GC/MS.

Retention Index

Rt1) Measurement Values from database2) Compound Formula Content (%)

29.9 1496 ―3) Not determined4) 4.74 33.0 1561 1576 β-Elemene C15H24 3.94 34.8 1598 1578 α-Guaiene C15H24 4.12 35.3 1608 ― Not determined ― 6.92 36.5 1636 1653 α-Humulene C15H24 3.70 36.8 1643 ― Not determined ― 3.30 39.3 1698 1728 Bicyclogermacrene C15H24 6.23 54.6 2064 2103 Spathulenol C15H24O 8.82 55.2 2079 ― Not determined ― 4.45 84.4 2937 ― Not determined ― 3.61

1) Rt: retention time. 2) Wiley 7th and NIST08. 3) ―:Not available.

4) Not determined on databases.

(min) 0 4,000 8,000 12,000 20 30 40 50 60 70 80 90 100 α-Guaiene Bicyclogermacrene Spathulenol A b u n d an ce β-Elemene

(26)

24 2. チクセツニンジン EO の成分分析 チクセツニンジンEO の GC/MS 分析によるトータルイオンクロマトグラム(Figure 8)と含有量上位 10 成分(Table 3)を示した.これまでチクセツニンジン EO の含有 成分に関する報告はなく,本研究において含有成分を初めて明らかにした.同定可能 であった化合物の中で含有量が最も多かったのは palmitic acid(21.85%)で,ついで

methyl linoleate(8.51%)および methyl palmitate(7.07%)の順であった.また,同定 可能であった化合物の多くが脂肪酸もしくはそのエステル(37.43%)であり,ついで

セスキテルペン(5.25%)の順であった.

Figure 8: Total ion chromatogram of EO from P. japonicus.

Table 3: Ten major components of EO from P. japonicus determined by GC/MS.

Retention Index

Rt1) Measurement Values from database2) Compound Formula Content (%)

40.5 1723 1691 Germacrene D C15H24 2.07 46.6 1866 1898 α-Calacorene C15H20O 3.18 58.4 2163 ―3) Not determined4) 2.39 59.1 2184 2214 Methyl palmitate C17H34O 7.07 59.9 2203 ― Not determined ― 6.41 60.6 2224 ― Not determined ― 2.30 68.4 2451 2494 Methyl linoleate C19H34O2 8.51 80.5 2833 ― Palmitic acid C16H32O2 21.85 84.4 2937 ― Not determined ― 5.81 87.0 ― ― Not determined ― 3.23

1) Rt: retention time. 2) Wiley 7th and NIST08. 3) ―:Not available.

4) Not determined on databases.

0 2,000 4,000 6,000 8,000 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Methyl palmitate A b u n d an ce (min) Methyl linoleate Palmitic acid

(27)

25

3. サンシチニンジン EO の成分分析

サンシチニンジンEO の GC/MS 分析によるトータルイオンクロマトグラム(Figure

9)と含有量上位 10 成分(Table 4)を示した.同定可能であった化合物の中で含有量

が最も多かったのはpalmitic acid(12.41%)で,ついで ethyl linoleate(7.68%),spathulenol

(7.42%)の順であった.また,同定された化合物の多くが脂肪酸もしくはそのエス

テル(23.78%)であり,ついでセスキテルペン(19.46%)の順であった.

Figure 9: Total ion chromatogram of EO from P. notoginseng.

Table 4: Ten major components of EO from P. notoginseng determined by GC/MS.

Retention Index

Rt1) Measurement Values from database2) Compound Formula Content (%)

34.8 1598 ―3) Not determined4) 5.16 38.3 1676 1691 Germacrene D C15H24 5.29 39.3 1698 1728 Bicyclogermacrene C15H24 4.51 40.4 1722 1744 δ-Cadinene C15H24 2.24 54.6 2064 2103 Spathulenol C15H24O 7.42 60.6 2226 ― Not determined ― 4.50 68.3 2450 2494 Methyl linoleate C19H34O2 3.69 69.7 2492 2517 Ethyl linoleate C20H36O2 7.68 80.5 2834 2895 Palmitic acid C16H32O2 12.41 84.5 2942 ― Not determined ― 14.45

1) Rt: retention time. 2) Wiley 7th and NIST08. 3) ―:Not available.

4) Not determined on databases.

0 5,000 10,000 15,000 20 30 40 50 60 70 80 90 100 A b u n d an ce (min) Spathulenol

(28)

26

4. アメリカニンジン EO の成分分析

アメリカニンジンEO の GC/MS 分析によるトータルイオンクロマトグラム(Figure

10)と含有量上位 10 成分(Table 5)を示した.同定可能な化合物の中で含有量が最も

多かったのは palmitic acid(21.20%)で,ついで methyl palmitate(15.53%),methyl

linoleate(15.11%)の順であった.また,同定可能な化合物の多くが脂肪酸もしくはそ

のエステル(55.82%)であり,ついでセスキテルペン(5.67%)およびモノテルペン

(1.64%)の順であった.

Figure 10: Total ion chromatogram of EO from P. quinquefolius.

Table 5: Ten major components of EO from P. quinquefolius determined by GC/MS.

Retention Index

Rt1) Measurement Values from database2) Compound Formula Content (%)

33.1 1561 1580 Calarene C15H24 1.76 34.6 1594 1635 l-Menthol C10H20O 1.64 39.2 1696 1716 β-Bisabolene C15H24 1.99 40.4 1722 1744 δ-Cadinene C15H24 1.92 59.3 2188 2214 Methyl palmitate C17H34O2 15.53 66.9 2407 2441 Methyl oleate C19H36O2 2.33 68.5 2455 2494 Methyl linoleate C19H34O2 15.11 69.6 2489 2517 Ethyl linoleate C20H36O2 1.65 80.6 2836 2895 Palmitic acid C16H32O2 21.20 84.4 2937 ―3) Not determined4) 1.67

1) Rt: retention time. 2) Wiley 7th and NIST08. 3) ―:Not available.

4) Not determined on databases.

0 5,000 10,000 15,000 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (min) Abunda nc e Methyl palmitate Methyl linoleate Palmitic acid

(29)

27

Ⅳ. 考察および小括

2 章では,Panax 属植物 EO の成分分析を行った.その結果,オタネニンジン EO においては,spathulenol の含有量が最も多く,同定された成分のすべてがセスキテル ペンであった. Cui らはオタネニンジンの 2~5 年根の各 EO について成分組成を比較検討してお り,生育年数に関わらず,セスキテルペンの含有量が多いことを報告している[32]. 本研究で用いたオタネニンジンの EO は,Cui らの報告と同様セスキテルペンの含有 量が多かった.チクセツニンジンEO においては,palmitic acid の含有量が最も多く, 同定された成分では脂肪酸またはそのエステルが多かった.チクセツニンジンEO に おいてはこれまで成分分析はされておらず,本研究において初めて含有成分が明らか にされた.サンシチニンジンEO においては最も含有量の多い成分を同定することは できなかったが,palmitic acid をはじめとする脂肪酸またはそのエステルの含有量が 多いことが明らかとなった.また,アメリカニンジンEO においてもサンシチニンジ ン EO と同様に palmitic acid をはじめとした,脂肪酸またはそのエステルの含有量が 多いことが明らかとなった. これまでの報告でCho らはオタネニンジン,サンシチニンジンおよびアメリカニン ジンの各EO の含有成分の比較研究を行っており,含有成分のクラスター分析からオ タネニンジンEO とサンシチニンジン EO の成分組成は類似性が高く,アメリカニン ジンEO は他の 2 種とは異なるクラスターに属することを報告している[31].一方で, 本研究の結果では,未同定の成分が少なからずあるものの,脂肪酸またはそのエステ ルが主たる化合物という点において,チクセツニンジン,サンシチニンジンおよびア メリカニンジンの各EO は類似性が高く,セスキテルペンが主たる化合物であるオタ ネニンジン EO とは組成が異なると考えられる.寒川ら[42]はオタネニンジンのジン セノシド類を対象とした成分比較研究の中で産地による成分組成の違いを報告して

(30)

28

いる.本研究においては,含有成分の同定率が低いことを念頭に置く必要があるが,

本研究で使用した Panax 属植物の既報との生育年数および産地の違いや,EO の抽出

(31)

29

3 章 Panax 属植物 EO の有効成分の探索

Ⅰ. 緒言

本章では Panax 属植物 EO の β-secretase および ChEs 阻害作用を有する有効成分を

探索した.有効成分の探索にあたり,候補化合物として,第2 章の結果から,各 Panax

属植物EO に高含有もしくは共通して含まれる化合物を実験に供した.すなわち,セ

スキテルペン(Figure 11)から β-elemene(1),α-humulene(2)および spathulenol(3),

脂肪酸またはそのエステル(Figure 12)から methyl linoleate(4),palmitic acid(5)お

よびmethyl palmitate(6)を選定した.

Figure 11:Chemical structures of sesquiterpenes determined in this study.

β-Elemene (1) α-Humulene (2) Spathulenol (3)

HO H

H H H

(32)

30

Figure 12:Chemical structures of fatty acids and its esters determined in this study.

Palmitic acid (5) Methyl palmitate (6) Methyl linoleate (4) HO O O O O

(33)

31

Ⅱ. 実験材料および方法

1. 実験材料 第3 章に記したものを用いた. 2. 試薬 第1 章に記したものを用いた. 3. 実験方法 3-1. β-Secretase 阻害試験 第1 章第 1 節に記した方法を用いた. 3-2. Acetylcholinesterase 阻害試験 第1 章第 2 節に記した方法を用いた. 3-3. Butyrylcholinesterase 阻害試験 第1 章第 2 節に記した方法を用いた. 4. 統計処理 第1 章第 1 節に記した方法を用いた.

(34)

32

Ⅲ. 実験結果

1-1. β-Secretase 阻害試験 3 種のセスキテルペンにおける β-secretase 阻害作用を検討した(Figure 13).試験し たすべてのセスキテルペンは,250 および 500 μM の濃度において有意な阻害作用を 示さなかった.

Figure 13: Inhibitory activities of sesquiterpenes on β-secretase.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, **; p<0.01.

-10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

β-Elemene α-Humulene Spathulenol Inhibitor-I

** 100 nM 250 µM 500 µM % In h ib it io n

(35)

33

3 種の脂肪酸またはそのエステル(Figure 14)の結果を示した.Methyl linoleate お

よびmethyl palmitate の 500 μM の濃度においてのみ有意な阻害作用を示したが,それ

ぞれ20.9%および 21.6%と弱い阻害作用であった.

Figure 14: Inhibitory activities of fatty acids and its esters on β-secretase.

Data are shown as the mean with standard deviation (SD) as error bars. Significantly different from the control group, *; p<0.05, **; p<0.01.

Methyl linoleate Palmitic acid Methyl palmitate Inhibitor- I

0 10 20 30 40 50 60 50 nM 100 µM 500 µM ** * * % In h ib it io n

(36)

34

1-2. Acetylcholinesterase 阻害試験

3 種 の セ ス キ テ ル ペ ン に お け る 50% 阻 害 濃 度 ( Fifty percent inhibitory

concentration :IC50)を算出した(Table 6).最も強い阻害作用を示したのは β-Elemene

でIC50値が77.2 μM であった.ついで α-humulene が IC50値298.2 μM を示し,spathulenol

においては500 μM の濃度で有意な阻害作用を示さなかった.

Table 6: Fifty percent inhibitory concentration (IC50) values of sesquiterpenes on

inhibition of acetylcholinesterase. Compound IC50 (µM) β-Elemene (1) 77.2 α-Humulene (2) 298.2 Spathulenol (3) ―1) Galantamine hydrobromide2) 3.6

1) No inhibitory activity at 500 μM . 2) Positive control for AChE assay.

3 種の脂肪酸またはそのエステルにおける IC50値を算出した(Table 7).その結果

methyl palmitate が本試験において最も強い阻害作用を示し IC50値は 68.8 μM であっ

た.また,palmitic acid および methyl palmitate は弱い阻害作用を示し,IC50値は>500

μM であった.

Table 7: Fifty percent inhibitory concentration (IC50) values of fatty acids and its esters

on inhibition of acetylcholinesterase. Compound IC50 (µM) Methyl linoleate (4) 68.8 Palmitic acid (5) >500 Methyl palmitate (6) >500 Galantamine hydrobromide1) 3.6

(37)

35 1-3. Butyrylcholinesterase 阻害試験 3 種のセスキテルペンにおける IC50値を算出した(Table 8).AChE 阻害試験と同様, β-elemene が最も強い阻害作用を示し IC50値は137.3 μM であった.α-Humulene におい ては弱い阻害作用でありIC50値は>2000 μM であった.また,spathulenol においては 500 μM の濃度で有意な阻害作用を示さなかった.

Table 8: Fifty percent inhibitory concentration (IC50) values of sesquiterpenes on

inhibition of butyrylcholinesterase. Compound IC50 (µM) β-Elemene (1) 137.3 α-Humulene (2) >2000 Spathulenol (3) ―1) Tetraisopropylpyrophosphoramide2) 23.6

1) No inhibitory activity at 500 μM . 2) Positive control for BChE assay.

3 種の脂肪酸またはそのエステルにおける IC50値を算出した(Table 9).Palmitic acid

が最も強い阻害作用を示し,IC50値は11.8 μM であった.ついで methyl linoleate が IC50

値247.8 μM を示し,methyl palmitate においては>500 μM と弱い阻害作用であった.

Table 9: Fifty percent inhibitory concentration (IC50) values of fatty acids and its esters

on inhibition of butyrylcholinesterase. Compound IC50 (µM) Methyl linoleate (4) 247.8 Palmitic acid (5) 11.8 Methyl palmitate (6) >500 Tetraisopropylpyrophosphoramide1) 23.6

(38)

36

Ⅳ. 考察および小括

本章では,Panax 属植物 EO の β-secretase および ChEs 阻害作用を有する有効成分

探索のため,成分含有量が多い3 種類のセスキテルペンおよび 3 種類の脂肪酸とその

エステルの6 化合物についてスクリーニングを行った.しかし,β-secretase 阻害作用

を有する成分の同定は出来なかった.一方でα-humulene においては Murata らによっ

てIC50値が2300 μM と弱い阻害作用を示すことが報告されており[36],α-humulene は

オタネニンジンEO の β-secretase 阻害作用に少なからず寄与していると考えられる.

AChE 阻害試験では β-elemene,α-humulene および methyl linoleate の 3 化合物につい

てIC50値を決定することができた.特にβ-elemene の AChE 阻害作用に関する報告は

本研究において初めての報告である.

また,BChE 阻害試験では β-elemene,methyl linoleate および palmitic acid の 3 化合

物についてIC50値を決定することができた.

現在日本において臨床使用されている rivastigmine は AChE および BChE の両酵素

に阻害作用を有しており,AD による認知機能障害の緩和において成果を上げている.

β-Elemene においては rivastigmine と同様に AChE および BChE の両酵素に阻害作用を 有していることから認知機能障害の緩和に有用である可能性が示唆された.

(39)

37

総括

世界の認知症患者は右肩上がりに増加している.その中でもAD の罹患者が急増し ており,2015 年には 4600 万人を突破し,認知症患者の 7 割以上が AD 患者だと言わ れている.増加の一途をたどるAD 患者のケアに関わるコストも社会的な問題となっ ており,世界のAD 患者のケアには 81 兆円にもおよぶ費用が必要と試算されている. また,AD を含めた認知症による社会的損失として特筆すべき点は,認知機能に障害 を受けるため,患者自身が経済活動に参加できないことである.さらに経済活動への 影響は患者のみにとどまらず,日本における推計では,家族などの身内やボランティ アによる介護費用(インフォーマルケアコスト)が6.4 兆円と試算されており,医療 費や公的な介護費を含めた認知症に関わる社会的な費用のうち全体の 42%を占める とされている.また,当然のことながら,家族が介護に関わっている時間は経済活動 に参加できないため,社会的な損失はさらに大きいものになる.このような社会的背 景から,AD の治療に向けた研究が日進月歩で進んでいるが,いまだ AD の根本治療 につながる医薬品は開発されておらず,AD に伴う認知機能障害の緩和という対症療 法しか打つ手がない.

近年,AD の罹患には Aβ オリゴマー仮説が提唱されており,AD 発症は Aβ の産生

にはじまり,その後の Aβ 凝集の初期において神経細胞は最もダメージ受ける.すな

わちAD 患者の病理所見において老人斑と呼ばれる AD 患者脳に特徴的な Aβ の凝集

物が形成される頃には,神経細胞はすでに不可逆的な障害を受けてしまっている.こ

れまでの認知症治療薬開発では,AD の根治を目的とし,すでに AD が発症した患者

を治験対象としてAβ をクリアランスさせる aducanumab 抗体や BAN2401 抗体などの

研究が精力的に研究されてきた.しかし,障害を受けた脳から Aβ をクリアランスし

ても,不可逆的に受けた脳神経細胞の障害は回復せず,認知機能も回復しないことか

(40)

38

胞に障害をうけることで ACh の産生量が低下している.近年,臨床利用されている

ChEs 阻害薬は ACh の分解酵素である,AChE および BChE の働きを抑え,AD 患者の

脳内の ACh 量を維持することによって,認知機能障害を緩和し,一定の成績を残し

ている.一方,ChEs 阻害作用はあくまで認知症における認知機能の緩和であり,AD

の根本治療には至らない.

そこで本研究では AD の予防という観点に重点を置き,AD 発症においてより上流

に位置する,Aβ 産生と Aβ の凝集機構に着目した.Aβ 産生においては APP からの Aβ

の切り出しの開始点である,β-secretase に着目した.また,Aβ は凝集することによっ

て毒性を発現するため Aβ の凝集抑制作用にも着目した.さらにすでに凝集している

Aβ の凝集解離作用も検討することで,Aβ の凝集抑制作用に関わるメカニズム解明の 一助とした.また,AD を発症した患者の QOL(Quality of Life)を向上させるため,

すでに臨床利用されているChEs 阻害作用にも着目した. 本研究では,東アジアにおいて広く薬用利用されているPanax 属植物に着目し,そ の香り成分にAD の予防および認知機能障害の緩和作用を求めた.Panax 属植物にお いては特徴成分であるジンセノシド類に関する研究が広く行われているが,ジンセノ シド類以外の含有成分に関する研究例は少なく,香り成分に関わる薬理作用研究はほ とんどない.著者らはPanax 属植物が特有の香りを有すること,また,古来より Panax 属植物は湯に煎じる形で服用されてきたことから,立ち上がる香気成分にも何かしら の機能性があったのではないかと着想した.そこで本研究では中国,日本および韓国 において頻用されている,オタネニンジン,チクセツニンジン,サンシチニンジンお よびアメリカニンジンの4 種類の Panax 属植物の EO ついて β-secretase,ChEs 阻害作 用およびAβ の凝集抑制および解離作用について評価を行った. 1 章第 1 節では,Panax 属植物 EO の AD の予防につながる作用を比較および評

(41)

39 価するため,β-secretase 阻害作用,Aβ 凝集抑制および解離作用を評価した.その結果, β-secretasse 阻害試験ではすべての Panax 属植物の EO が有意な阻害作用を示し,その 中でもチクセツニンジンEO の阻害作用が最も強かった.また,Aβ の凝集抑制試験で は,チクセツニンジンEO およびサンシチニンジン EO が有意な抑制作用を示し,そ の中でもサンシチニンジンEO が最も強い抑制作用を示した.一方で fAβ の解離作用 試験ではすべてのPanax 属植物の EO が有意な解離作用を示さなかったことから,チ クセツニンジン EO およびサンシチニンジン EO の Aβ 凝集に関わる作用は凝集の抑 制作用のみであることを明らかにした. 第1 章第 2 節では,AD による認知機能障害の緩和につながる作用を比較および評

価するためAChE および BChE 阻害作用を評価した.その結果,すべての Panax 属植

物の EO が AChE および BChE に対し有意な阻害作用を示した.AChE および BChE

ともにオタネニンジンEO が最も強い阻害作用を示し,AChE では 50 μg/mL で 70.4%,

BChE では 10 μg/mL で 79.5%の阻害率であった.オタネニンジンにおいては hexane 抽

出物のChEs 阻害作用が報告されており[44],AChE に対し 250 μg/mL で 18.1%,BChE

に対し100 μg/mL で 20.3%の阻害率であったと報告されている.一方で,本研究では 水蒸気蒸留抽出によるEO により強い阻害作用を見出しており,オタネニンジンの低 極性成分においては水蒸気蒸留抽出による EO が ChEs に対してより強い阻害作用を 示すことが明らかとなった. 第 2 章では,EO の構成成分を明らかにすることを目的として GC/MS 分析による 成分同定を行った.その結果,Panax 属植物に高含有な化合物として,1 種類のモノ テルペン,10 種類のセスキテルペン,6 種類の脂肪酸およびそのエステルの合計 17 種類の化合物を同定した.また,本 GC/MS 分析からオタネニンジン EO においては セスキテルペンが,チクセツニンジン,サンシチニンジンおよびアメリカニンジンの 各EO においては脂肪酸およびそのエステルが主たる構成成分であることを明らかに

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40 した.これまでの報告ではサンシチニンジンおよびアメリカニンジンの各EO におい て主たる構成成分はセスキテルペンであると報告されている.本研究ではこれまでの 報告と異なる結果が得られたが,その原因については被検体の産地や生育年数および EO の抽出法が既報と異なることによるものだと考えている. 第3 章においては第 2 章による成分分析で得られた含有成分の情報から,β-secretase および ChEs 阻害作用を有する有効成分の探索を行った.しかし,β-secretase 阻害作 用を有する化合物の同定には至らなかった.一方で,オタネニンジンEO に含有して いたセスキテルペンである α-humulene には弱いながらも β-secretase に対する阻害作 用が報告されている.また,当研究室でのこれまでの研究から α-turmerone や β-bisabolene などの複数のセスキテルペンの β-secretase 阻害作用を明らかにしており, セスキテルペンはオタネニンジンをはじめとしたPanax 属植物 EO の β-secretase 阻害 作用に少なからず寄与していると考えられる.

ChEs 阻害試験では,AChE 阻害試験において,β-elemene,α-humulene および methyl

linoleate の IC50値を決定することができた.またBChE 阻害試験では β-elemene,methyl

linoleate および palmitic acid の IC50値を決定した.β-Elemene においては AChE および

BChE の両酵素に阻害作用を示していることからも,AD における認知機能障害の緩 和に有効である可能性が示唆された. 本研究では,Panax 属植物の香り成分に着目し,AD の予防および認知機能障害の 緩和につながる各種酵素の阻害作用を報告してきた.Panax 属植物における AD をは じめとした認知症および認知機能の改善および向上作用についてはこれまで数多く の報告がある.最も古いものではオタネニンジンにおいて『神農本草経』の一節に“益 知”の記載があることから,古くから健忘や認知機能の向上効果が経験的に知られて いたと考えられる.Panax 属植物の抗認知症に関する近年の研究報告では,紅参エキ

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スの脳虚血モデルマウスにおける神経細胞障害の予防作用,サンシチニンジンにおけ

gypenoside XVⅡの Aβ の蓄積低下作用,アメリカニンジンエキスでは Aβ1-42による

細胞毒性の軽減作用が報告されている.このように数多くの抗認知症に関わる報告が 蓄積されているが,そのほとんどがPanax 属植物の特徴成分であるジンセノシド類に 関する研究である.Choi らはオタネニンジンのジンセノシド研究の一環として,著者 らと同様に β-secretase および ChEs 阻害作用について報告し良好な結果を得ている. 一方で,ジンセノシド類は酵素阻害作用を有するが,経口投与によるbioavailability が 低いことについての問題提起もおこなっている.AD においては病変部位が脳実質で あるため,経口投与および血中投与のいずれにおいても脳実質への移行についてBBB による制約を受ける.一方で,著者らが着目したEO などの香り成分の主体である揮 発性化合物は低分子量かつ低極性であることが多く,BBB を通過しやすいと考えら れる.実際にMatsumura らは C. longa の香り成分であるセスキテルペンのターメロン 類についてβ-secretase 阻害作用を明らかにするとともにマウス経口投与において脳実 質への成分の移行を確認している.このように近年では,EO や揮発性化合物などの 香り成分のAD に対する治療,緩和作用が注目されている. これまで,Panax 属植物の研究はそのほとんどが特徴成分であるジンセノシド類に 関する研究であった.Matsuda らは長年のオタネニンジンに関する薬理作用研究の中 で,ジンセノシド類以外の含有成分も生薬としてのオタネニンジンの薬理作用を明ら かにするうえで重要であることを強調している.本研究では,Panax 属植物の香り成 分に着目しAD の予防および認知機能障害の緩和につながる各種研究成果を報告して きた.今後,これらの知見が神秘的なPanax 属植物のさらなる薬理作用の解明と AD の予防および治療薬開発へとつながることを期待している.

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Figure 1: Photographs of genus Panax plants used in this study [25].
Table 1: Samples of Panax species used in this study.
Figure 2: Inhibitory activities of EO from Panax species on β-secretase.
Figure 3: Inhibitory activities of EO from Panax species on amyloid aggregation.
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