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破擦音/ザ//ゾ//ツ/の発音に対する会話スタイルの影響 : 韓国人日本語学習者を対象に

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言語教育研究 第 2 号(2011 年度)

破擦音/ザ//ゾ//ツ/の発音に対する会話スタイルの影響

―韓国人日本語学習者を対象に―

全娟姝

キーワード

第二言語習得,中間言語,韓国語話者,日本語破擦音,ザ行音,ジャ行音

はじめに

本研究は,韓国語を母語とする韓国人日本語学習者を対象とし,日本語の発音の中でも語頭 に現れる破擦音(1)/ザ//ゾ//ツ/に焦点をあてた研究である。さらに第二言語習得を社会的 な側面から見つめ,会話スタイル(2)が発音に与える影響について考察するものである。 韓国語を母語とする日本語学習者の発音上の問題点についてはこれまで数多くの研究が行わ れて来た。その中でも取り上げられることが多いのは日本語の破擦音「ザ行音・ツ」である。日 本語の破擦音「ザ行音・ツ」は韓国語母語話者にとって習得が困難であると言われる(助川 1993,松崎1999)。その理由は,第一に,韓国語にはない音素(3)であるため発することが難し いことが挙げられる。松崎(1999)は,韓国人日本語学習者の発音の誤用と原因についての先 行研究を11の特徴にまとめた。そのうち,破擦音に関しては,「破擦音 ‘ス’ は語頭で[tɕ],語 中で[dʑ]となる傾向が強く,[ts][dz]がないため,/ツ/:/チュ /や/ザ/:/ジヤ/等の区 別が難しい」と述べている。第二に,日本語破擦音の音が聞き取れないため発音が困難である ことが挙げられる。小河原(1997)は,韓国人日本語学習者を対象に日本語破擦音の中でも正 確な習得が困難と思われる「ザ−ジャ」「ゾ−ジョ」「ツ−チュ」に焦点を当て,発音と聞き取り の関係について調査を行った。その結果,発音と聞き取りの関係に有意差は見られず,「『聞き 取りができれば発音もできる』といえるのは,『自分自身の発音の聞き取り』ができる場合であ る」ことがわかったと言う。このことから聞き取りができると発音ができる,発音ができるか ら聞き取りができるということには必ずしもならないことが言える。 以上の先行研究から韓国語母語話者に日本語破擦音は克服できないという通説には疑問が残 る。これに関して許(2008)は,上級日本語話者を対象に「ザ行」と「ジャ行」の無意味語での 実験を行った。その結果,ほとんどの学習者が「ザ行」音を克服していることがわかったと言 う。しかし,本来ならできるはずの「ジャ行」音ができない逆転現象が起きていたと述べてい る。このように困難である発音であっても学習が進むに連れ習得ができるということが言え る。 Nemser(1971) は, 学習者の発話を目標言語と母語の, どちらでもない体系(an approximative system)とし,この過程を経て目標言語に近づいて行くと言う。また,ロッド・ エリス(2003:76)は,「種々の言語使用の条件のもとで,中間言語は,学習者が用いる様々な

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(1982)は,学習者が第二言語を話す際,自由会話,対話文の読み,個々の単語の発音のような 異なる会話スタイルによって注意を払う度合いに差があると言う。 よって学習者の誤用を研究する際には,一つの会話スタイルからの検証だけでなく,さまざ まな側面からの異なる条件での検証が必要だと考える。

1.研究課題

本研究では,韓国人日本語学習者が習得に困難を感じる日本語破擦音 / ザ // ゾ // ツ / と / ジャ //ジョ //チュ /が,異なった言語使用状況に影響されるのかについて明らかにすること を目的とする。上記のことを明らかにするため,以下の2点を研究課題として設定する。 (1) 日本語の破擦音/ザ//ゾ//ツ/と/ジャ //ジョ //チュ /の発音は,自由会話と,無意 味語,単語,短文,長文,それぞれの発話スタイルに影響をされるのか。 (2) そこにレベル差はあるか。

2.先行研究

2.1 韓国人日本語学習者における日本語発音上の問題点 李(1991)は,初級と中級の韓国語母語話者に発音テストと聞き取りテストを行い,それぞ れ難易度の平均評定値を示している。まず,発音に関して初級と中級間で難易度の評定値の差 が大きかったのは,語中の無声破裂音/k/音,語頭の/ツ/音,語尾の長音などであった。ま た,初級と中級学習者にとってともに難しいと判断されるものには,語頭の/ゾ/と/ズ/音, 語頭の有声破裂音/g//d/音などがあるという。次に,聞き取りに関して大きい差が見られた のは,語頭の無声破裂音/t/語頭の/ツ/音などであるという。また,初級と中級の学習者にと ってともに難しいと判断されるものには,/ウ/の音,語頭の/ゾ/と/ザ/音,語頭の有声破 裂音/g/,語頭の/ラ/行音などがあるという。さらに,「音声上の誤りの傾向には,特に,日 本語の音声的特徴に一致する音が韓国語に存在しない場合は,韓国語の音を代用する母国語の 干渉現象が見られる」と述べている(李1991)。 助川(1993)は,日本語学習者の母語別の発音上の問題点を発見し,整理することを目的と し,日本語学習者の発音について分節音と韻律上の特徴についての170項目のアンケート調査 票を作成した。作成したアンケート調査票は23名の音声専門家に判定をしてもらった。判定は 「3,2,1,0」の4段階に分け,すべて,あるいはほとんどの学習者にその傾向が見られる項目 は3,半数前後の学習者において見られる項目は2,まれに見られる項目は1,見られないと思 う項目は0と数字で評価してもらった。さらに,0以外の項目には実例を挙げてもらい,その結 果を12カ国語の話者の発音の傾向とした。そのうち韓国語母語話者に関しては,2名の専門家 が回答した。170項目のうち50 項目が1から3に評価された。評価者2人に3と評価をされた項 目は,/b/の音が喉頭化音化する項目,/ザ/の音が/ジャ /に又は/ザ/の音が/チャ /にな

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言語教育研究 第 2 号(2011 年度) る項目,/ズ (ヅ)/の音が/ジュ /になる項目,/ゾ/の音が/ジョ /の音になる項目,/ヒ/ の音が[hi]になる項目であった。 松崎(1999)は,韓国語母語話者の発音に関する研究を概観し,聞き取りや発音テストの結 果から得られた誤用分析の先行研究と,日本語と韓国語を体系から研究した対象研究の多くの 先行研究が指摘する特徴を11項目にまとめた。その中でも最も多く取り上げられた発音上の 問題点としては,清音の濁音化や濁音の清音化がある。また,破擦音に関しては,「破擦音 ‘ス’ は語頭で[tɕ],語中で[dʑ]となる傾向が強く,[ts][dz]がないため,/ツ/:/チュ /や/ザ /:/ジヤ/等の区別が難しい」と述べている(松崎:1999)。 以上の先行研究から,韓国語母語話者における日本語発音の問題点をあげる際には,必ず破 擦音/ツ/やザ行音が取り上げられることがわかる。言い換えると,破擦音/ツ/やザ行音は韓 国語母語話者にとって難しい発音であるといえよう。 2.2 韓国人日本語学習者における日本語破擦音の研究 小河原(1997)は,発音と聞き取りの関係について解明することを目的とし,韓国人日本語 学習者を対象に聴取実験を行った。対象とした音は破擦音の中でも特に弱点と言われる「ザー ジャ」「ゾージョ」「ツーチュ」の3ペアであった。さらに,日本語教育における発音矯正場面を 想定し,学習者がどのように教師のモデル発音を聞き取って発音しているかを調べた。その結 果,よく聞き取れる学習者ほど有効な聞き取りの基準をもっていることがわかったという。発 音矯正においては,発音する際にも有効な基準をもって発音し,その基準通りに発音している かを聞き取ることができる学習者は,発音もよくなる傾向が見られたという。 本研究では,小河原(1997)に従い,破擦音の中でも特に弱点である「ザージャ」「ゾージョ」 「ツーチュ」の3ペアを実験対象とする。 大工(1998)は,韓国ソウルにある大学の日本語科学生を,1年生,留学経験のない2年生, 半年以上の留学経験を持つ3年生の三つのグループに分け発音指導を行った。発音指導の対象 は,「ザ・ズ・ゼ・ゾ」「ジャ・ジュ・ジェ・ジョ」が語頭と語中にあるミニマル・ペアであっ た。発音指導前後の差を観察するため,発音指導前,発音指導直後,発音指導1週間後の3回 にわたって録音を行った。その結果,目標言語の学習期間に関係なく指導による矯正効果が確 認されたという。しかし,一週間後の実験結果では1年生と留学経験のある3年生とに有意差 があったことから,短時間での定着は難しいことがわかったという。また大工(1998)は,「た だ教師のモデル音を模倣させるだけでは十分ではなく,わかりやすく,有効な發音基準を提示 する方がより効果的に目標音に近づけることが出来る」と述べている。 許(2008)は,日本在住の韓国語を母語とする上級日本語学習者のザ行音及びジャ行音の習 得状況を調べるべく,発音実験と聴取実験を行った。その結果,ほとんどの上級学習者がザ行 音の習得ができていることがわかった。その一方で,発音することに困難がないと考えられる ジャ行音を言い誤る傾向が見られたという。 上記の先行研究のように韓国語母語話者を対象とした日本語破擦音の研究は,発音と聞き取

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する必要があると考える。 2.3 発話スタイルに関する研究 磯村(1994)は,ドイツ語を学習する日本語母語話者を対象に単語リストと文章,長文での 発音実験を行い,会話スタイルの違いによる発音の違いを調べた。その結果,多くの話者の発 音に会話スタイルの違いによる影響が及んでいることがわかったと言う。さらに目標言語にも っとも近い発音ができていたのは単語リストで,続いて短文,長文の順になることがわかった。 しかし,単語リスト,短文,長文とではTarone(1982)が言う注意を払う度合いの差の検証が 不十分であるため,本研究では,自由会話と,無意味語,単語,短文,長文という会話スタイ ルでの検証とレベル間での検証を行う。

3.調査概要

本研究では,日本語破擦音/ザ//ゾ//ツ/に焦点をあて,発話実験を行った。調査は,自由 会話と,無意味語,単語,短文,長文のリストをそれぞれ読む形式で行った。調査を行った場 所は,東京にある日本語学校2校であった。調査対象は,韓国語を母語とする韓国人日本語学 習者16名である。レベル差との関係をみるため,初級日本語学習者8名と上級日本語学習者8 名に限定した。なお,本研究においてはそれぞれの日本語学校の基準によって分けられた初級 クラスに所属する者は初級日本語学習者であり,同様に上級クラスに所属する者は上級日本語 学習者とする。 調査期間は,2011年6月から7月にかけてで,それぞれの学校の部屋で調査,実験を行った。 録音は静かな部屋で調査者と調査協力者2人で行った。以下に,初級日本語学習者と上級日本 語学習者のデータを示す。 表1   調査協力者一覧(初級・上級) レベル (初級) (代)年齢 出身地 (韓国)学習歴 (日本)学習歴 (上級)レベル (代)年齢 出身地 (韓国)学習歴 (日本)学習歴 KBM1 40代 ソウル 3ヶ月 2ヶ月 KAM1 20代 ソウル 0ヵ月 1年6ヶ月 KBF2 20代 釜山 1年 5ヶ月 KAF2 20代 ソウル 2ヶ月 6ヶ月 KBM3 30代 ソウル 2ヶ月 2ヶ月 KAM3 10代 ソウル 6ヶ月 6ヶ月 KBM4 20代 ソウル 0ヶ月 3ヶ月 KAM4 30代 ソウル 8ヶ月 2ヶ月 KBM5 20代 京畿道 3ヶ月 5ヶ月 KAF5 20代 京畿道 7ヶ月 8ヶ月 KBM6 20代 釜山 2ヶ月 3ヶ月 KAF6 10代 京畿道 0ヶ月 1年2ヶ月 KBM7 20代 京畿道 4ヶ月 9ヶ月 KAF7 20代 ソウル 1年 1年3ヶ月 KBM8 40代 ソウル 0ヶ月 6ヶ月 KAF8 20代 蔚山 3ヶ月 1年3ヶ月

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言語教育研究 第 2 号(2011 年度) 3.1 発音実験 韓国人日本語学習者が困難を感じる日本語の音のうち/ザ//ゾ//ツ/の音はどのように実 現されているのかを観察するため,発音実験を行った。しかし,音韻対立をしている/ジャ / /ジョ //チュ /の音との区別ができるようになって初めて習得が達成されたというべきてある と述べている戸田(2008),また,韓国人日本語上級学習者を対象に発話実験と聴取実験を行っ た許(2008)の調査結果では,「ザ行音」はできても「ジャ行音」ができない者もいることがわ かっていることから本研究では,/ザ//ゾ//ツ/の音と音韻対立をしている/ジャ //ジョ / /チュ /との比較を行うため両方を観察対象にした。 実験では,無意味語と有意味語の両方を用いた。無意味語は3拍の音で,/ザ//ゾ//ツ/と /ジャ //ジョ //チュ /をそれぞれを1拍目におき,2拍目と3拍目は同じ/ミ/をおいた頭高 型である。 有意味語は初級日本語学習者と上級日本語学習者に同じ条件で調査を行うため,語 彙レベルは初級日本語学習者に合わせた。リストは,普通のスピードで2回ずつ読んでもらっ た。録音は,SONY IC RECORDER ICD-SX66を使用した。用いた語彙は,松下(2011)の日本 語を読むための語彙データベース(4)の初級レベルの語彙から外来語を除外し,和語と漢語か ら選別した。単語,短文,長文は同じ単語を用いたが,ランダムに並べ替えた。 自由会話は,調査者との日本語での会話で実施された。予め破擦音 / ザ // ゾ // ツ / と /ジャ //ジョ //チュ /の発音が出現すると予想する話題を用意し,インタビュー形式で行っ た。インタビューの時間は,一人20分から40分程度であった。

4.分析

発音実験で録音した自由会話データは,破擦音/ザ//ゾ//ツ/と/ジャ //ジョ //チュ /が 出現した文章だけを編集した。また,無意味語,単語,短文,長文を読んでもらったデータは, 2回目の発音だけを編集し,ランダムに並べ替えた。そしてそのデータは,日本語母語話者6人 (5)に評価してもらった。評価は静かな部屋でヘッドホンを装着してもらい行った。なお,アク セントやイントネーションの影響を考慮し,破擦音/ザ//ゾ//ツ/と/ジャ //ジョ //チュ / に注意して評価を行うようにお願いした。評価は,聞いた音声が悪いと思ったら0,曖昧だと 思ったら5,良いと思ったら10の3段階で行った。日本語母語話者6人の評価の結果は平均を 算出した。 レベル差を見るため,初級日本語学習者と上級日本語学習者,2群に分けて分析を行った。さ らに,発音が容易だと言われる/ジャ //ジョ //チュ /の音との差を見るため/ザ//ゾ//ツ/ の音の比較も行った。 4.1 / ザ // ゾ// ツ/ の発音 日本語破擦音/ザ//ゾ//ツ/の発音を初級日本語学習者と上級日本語学習者間で比較した。 また,自由会話と無意味語,単語,短文,長文の発音の評価を比較した。結果を以下の図1に 示す。

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図1の縦軸は/ザ//ゾ//ツ/の発音の評価の点数を表しており,横軸は初級日本語学習者 の8人である。この図から,韓国語母語話者にとって発音が困難であると言われる/ザ//ゾ// ツ/の音でも会話スタイルによってその評価にばらつきがあることがわかる。8人のうち自由 会話の発音点数が一番高いのはKBF2,KBM4,KBM6の3人,単語の発音点数が一番高いの はKBM1,KBM3,KBM5の3人,KBM7は短文の発音点数が,KBM8は無意味語の発音点数 が一番高い。また,自由会話の発音点数が一番低いのは KBM1,KBM3,KBM5,KBM7, KBM8の5人で,KBF2とKBM4は無意味語が,KBM6は長文の発音点数が一番低い。 次に上級日本語学習者結果を比較した。以下の図3に示す。 図 2  上級日本語学習者の/ザ//ゾ//ツ/発音

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言語教育研究 第 2 号(2011 年度) 図3の縦軸は/ザ//ゾ//ツ/の発音の評価の点数を表しており,横軸は上級日本語学習者 の8人である。調査協力者8人のうち自由会話の点数が一番高いのはKAM1,KAF2,KAM3の 3人で,KAM4は単語が,KAF5 は短文が,KAF6とKAF8は長文が,KAF7は無意味語の点数 が一番高い。点数が一番低いのは,無意味語がKAM1,KAF2,KAM3,KAF6,KAF8の5人 で,自由会話がKAM4,KAF5,KAF7の3人である。 発音のレベル差を検証するためt検定(両側検定)を行ったところ(p=0.0002)であり,初級 と上級には有意差があることがわかった。 4.2 / ジャ// ジョ // チュ / の発音  日本語破擦音/ザ//ゾ//ツ/と音韻対立をしている/ジャ //ジョ //チュ /の比較を行っ た。その結果を以下の図3に示す。 図 3  初級日本語学習者の/ジャ //ジョ //チュ /発音 図3の縦軸は/ジャ //ジョ //チュ /の発音の評価の点数を表しており,横軸は初級日本語 学習者の8人である。図1に比べ比較的点数が高いことがわかる。KBM1は自由会話の発音点 数において100点満点であり,KBM8は無意味語,単語,短文が100点である。しかし図1と 同様,会話スタイルによってその評価にばらつきがあることがわかる。上記の二人を除いて, 短文の発音点数が一番高いのはKBF2,KBM3,KBM5の3人で,KBM6とKBM7は単語が, KBM4は長文の点数が一番高い。一番点数が低いのは,自由会話がKBM3,KBM5,KBM6, KBM8の4人,無意味語がKBM1,KBF2,KBM4の3人,KBM7は長文が,KBM8は自由会 話の点数が一番低い。 次に上級日本語学習者の/ジャ //ジョ //チュ /の発音の結果を図4に示す。

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図4は図3に比べ全体の点数が高いことがわかる。ここでは,8人全員の点数が一番高かった のは短文に偏った。また,低い順では会話がKAF2,KAM3,KAF5,KAF6,KAF7,KAF8の 6人で,無意味語の発音点数が一番低かったのはKAM1とKAM4の二人であった。 発音のレベル差を検証するためt検定(両側検定)を行ったところ(p=0.5017)であり,初級 と上級の間に有意差があるとは言えないことがわかった。

5.考察

以上のことから,韓国語母語話者が苦手とする日本語破擦音/ザ//ゾ//ツ/の同じ音でも 会話スタイルによって発音の出来にばらつきがあることがわかった。これは磯村(1994)が述 べているように単語リストがもっとも正確に発音ができていて,短文,長文の順に母語の発音 になっていくという結果とは異なる結果であった。本研究の結果,Tarone(1982)が言う,注 意を払う度合いによって異なる発音であることは明らかになったが,そのばらつきには少なか らず偏りが見えたものの一定の順序があるとは言い難いことがわかった。これには個人差が存 在し,会話スタイルでもどこに注意を向けるかという個人の決定に左右されるのではないかと 考える。つまり,学習者の心理的状況と関わりがあるのではないだろうか。また,/ザ//ゾ// ツ/と音韻対立をしている/ジャ //ジョ //チュ /でも同様の現象が見られた。 初級日本語学習者と上級日本語学習者のレベル差については,/ザ//ゾ//ツ/の発音ではレ ベル差があることがわかった。これに関しては,許(2008)とは異なり,本研究の調査対象者 は苦手なザ行音を克服できているとは言えないが,レベル間に有意差があることから学習に連 れザ行音が上達をしているとは言えよう。 その反面,/ジャ //ジョ //チュ /の発音はレベル差があるとは言えない結果が出た。この ことは,許(2008)が述べているように,ジャ行音は韓国語母語話者にとって母語にも似てい

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言語教育研究 第 2 号(2011 年度) る音が存在するため,発音に困難がないからだと考えられ,初級,上級に関係なく発音が容易 であるためだと考えられる。

おわりに

本研究では,同じ音でも自由会話と,無意味語,単語,短文,長文といった会話スタイルに よって発音が異なることが明らかになった。しかしながら,一定の順序が見えなかったためど の要因が会話スタイルに影響をしたかについては検証できなかった。これは,学習者の注意を 払う度合いによって発音が異なることだとも言えるが,その要因としては学習者の心的状況に も関わりがあるのではないかと考える。よって今後の課題として学習者が発音に注意を払う度 合いが高い場面を検証した上での分析・考察を深めて行きたい。

(1) 破擦音は閉鎖,持続,部分開放,完全開放(破裂)の4つの段階を通して調音される音である。具 体的には無声歯茎破擦音/つ/の子音,無声歯茎硬口蓋破擦音,語頭と語中での/ち//ちゃ //ち ゅ //ちょ /の子音,有声歯茎破擦音,語頭での/ざ//ず//ぜ//ぞ/の子音,有声歯茎硬口蓋破 擦音,語頭での/じ//じゃ //じゅ //じょ /の子音がある(閔2006)。 (2) Tarone(1982)では,英語(アメリカ英語)の会話スタイルに関する例であるため,本研究と一概 に同じだとは言えないが,学習者は目標言語を話す時に注意を払う度合いによって異なる「会話 スタイル」を用いると言う。さらに細心の注意を払う時には「慎重スタイル」を,自由会話などの 時は「日常語スタイル」が見られると言う。 (3) 韓国語の破擦音は,有声音・無声音の二項対立である日本語とは異なり,平音・激音・濃音の三 項対立である。これに伴う音環境などにおける異音については今後の課題としたい。 (4) 松下達彦(2011)が作成した日本語を読むための語彙データベース http://www.wa.commufa.jp/~tatsum (2011年9月28日閲覧) (5) 日本語を母語とする日本国籍の6名である。20代女性神奈川出身,20代女性千葉出身,20代女性 栃木出身,20代女性東京出身,30代女性広島出身,20代男性福岡出身である。

引用文献

李炯宰(1991)「韓国人日本語学習者の音声教育に関する研究―発音および聞き取り上の問題点を中心 に―」『日本語と日本文学』筑波大学国語国文学会. 磯村一弘(1994)「日本語を母語とするドイツ語学習者におけるÖの発音の音響学的研究」東京外国語 大学修士論文. 小河原義朗(1997)「発音矯正場面における学習者の発音と聴き取りの関係について」『日本語教育』92 号. 助川泰彦(1993)「母語別に見た発音の傾向―アンケート調査の結果から―」『日本語音声と日本語教 育』. 大工久美子(1998)「韓國人日本語學習者の發音矯正と定着について―「ざ・ず・ぜ・ぞ」の場合―」 『日本研究』中央大学校・日本研究所. 戸田貴子(2008)『日本語教育と音声』くろしお出版. 戸田貴子(2009)『コミュニケーションのための日本語発音レッスン』スリーエーネットワーク.

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出版.

松崎寛(1999)「韓国語話者の日本語音声」『音声研究』3号.

ロッド・エリス,牧野髙吉訳(2003)『第2言語習得のメカニズム』ちくま学芸文庫.

Nemser William (1971) Approximative Systems of Foreign Language Learners IRAL vol.9-no.2: 115– 123

Tarone Elaine (1982) Systematicity and Attention in Interlanguage Language Learning vol.32:69–84 민광준(2006)『일본어 음성학 입문』건국 대학교 출판부.(稿者訳:閔光準(2006)『日本語音声学入

門』建国大学出版部)

(参考 URL)

松下達彦(2011)が作成した日本語を読むための語彙データベース http://www.wa.commufa.jp/~tatsum (2011年9月28日閲覧)

図 1 の縦軸は / ザ // ゾ// ツ / の発音の評価の点数を表しており,横軸は初級日本語学習者 の 8人である。この図から,韓国語母語話者にとって発音が困難であると言われる / ザ//ゾ // ツ / の音でも会話スタイルによってその評価にばらつきがあることがわかる。8 人のうち自由 会話の発音点数が一番高いのはKBF2,KBM4,KBM6 の 3人,単語の発音点数が一番高いの は KBM1,KBM3,KBM5 の3 人,KBM7 は短文の発音点数が,KBM8 は無意味語の発音点数 が一番高い。また
図 3 の縦軸は / ザ // ゾ// ツ / の発音の評価の点数を表しており,横軸は上級日本語学習者 の 8人である。調査協力者 8 人のうち自由会話の点数が一番高いのはKAM1, KAF2, KAM3 の 3 人で,KAM4 は単語が,KAF5 は短文が,KAF6 とKAF8 は長文が,KAF7 は無意味語の点数 が一番高い。点数が一番低いのは,無意味語が KAM1,KAF2,KAM3,KAF6,KAF8 の5 人 で,自由会話が KAM4,KAF5,KAF7 の 3人である。 発音のレベル差を検証する
図 4 は図3 に比べ全体の点数が高いことがわかる。ここでは, 8人全員の点数が一番高かった のは短文に偏った。また,低い順では会話が KAF2,KAM3,KAF5,KAF6,KAF7,KAF8 の 6 人で,無意味語の発音点数が一番低かったのは KAM1と KAM4 の二人であった。 発音のレベル差を検証するため t 検定(両側検定)を行ったところ(p=0.5017)であり,初級 と上級の間に有意差があるとは言えないことがわかった。 5.考察 以上のことから,韓国語母語話者が苦手とする日本語破擦音 / ザ

参照

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