準安定β相を利用した歯科用Ti-Mn合金の機械的性
質と耐食性
著者
笹? 浩司
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第18887号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00126673
博 士 論 文
準安定
β 相を利用した歯科用 Ti–Mn 合金の
目 次
第1 章 緒 言 ... 4 1. チタンおよびチタン合金の性質 ... 4 2. チタンの歯科応用 ... 6 3. 高強度歯科用 Ti-Mn 合金の可能性 ... 7 第2 章 Ti-Mn 合金の合金相と機械的性質 ... 9 1. 目 的 ... 9 2. 材料および方法 ... 10 2. 1 試作合金の作製 ... 10 2. 1. 1 合金の設計 ... 10 2. 1. 2 合金インゴットの溶製 ... 10 2. 2 試験片の作製 ... 10 2. 3 X 線回折試験 ... 11 2. 4 金属組織観察 ... 11 2. 5 硬さ試験 ... 11 2. 6 引張試験 ... 11 2. 7 統計処理 ... 12 3. 結 果 ... 13 3. 1 X 線回折 ... 13 3. 2 金属組織観察 ... 13 3. 3 硬 さ ... 13 3. 4 引張強さと伸び ... 13 3. 5 破断面観察 ... 14 4. 考 察 ... 154. 1 Ti-Mn 合金の合金相 ... 15 4. 2 Ti-Mn 合金の硬さ... 15 4. 3 Ti-Mn 合金の引張強さ ... 16 4. 4 Ti-Mn 合金の伸び ... 16 4. 5 高強度 Ti-Mn-X 合金の可能性 ... 17 5. 小 括 ... 19 第3 章 Ti-Mn 合金の耐食性 ... 20 1. 目 的 ... 20 2. 材料および方法 ... 21 2. 1 試作合金の作製 ... 21 2. 1. 1 合金の設計 ... 21 2. 1. 2 合金インゴットの溶製 ... 21 2. 2 試験片の作製 ... 21 2. 2. 1 電気化学的測定用試験片 ... 21 2. 2. 2 静的浸漬試験用試験片 ... 22 2. 3 アノード分極曲線の測定 ... 22 2. 4 静的浸漬試験 ... 22 2. 5 統計処理 ... 23
5. 小 括 ... 28
第4 章 総 括 ... 29
謝 辞 ... 30
文 献 ... 31
第
1 章
緒 言
1. チタンおよびチタン合金の性質
チタンは、比強度の高い金属、つまり軽量かつ高強度な金属として知られている。そして、 チタンを合金化すると、金属材料の中で最も比強度の高い合金となる。そのため、運輸交通を 始め、スポーツや日常生活品に広く利用されており、チタン合金は身近な金属材料として私た ちの生活に溶け込んでいる。歯科の分野においても、工業用純チタン(CP チタン)やチタン合 金が金属床や歯科インプラントなどに利用されている1,2)。 チタンの物理的性質について示す。チタンは、融点が 1668℃であり、金、銀、銅やアルミニ ウム、鉄よりも高い。また、882℃において、結晶構造が最密六方晶(HCP)から体心立方晶 (BCC)へ変化する。密度(4.54g/cm3)は、鉄の約半分であり、比熱、熱伝導度、電気抵抗は、 18-8 ステンレス鋼とほぼ同等である。3) 熱膨張係数は 9.0×10-6 /℃で、18-8 ステンレス鋼の約 60%である3)。 また、チタンの化学的性質において最も特徴的なのは、優れた耐食性である。これは、表面 に形成される酸化チタン(TiO2)の不動態皮膜によるものである。この不動態皮膜は、ステンレ ス鋼やCo-Cr 合金などと比べて、不動態域が広く、強固で酸性環境下においても容易に自己 再生する。塩化物イオンの不動態皮膜破壊作用に対しても強い耐性をもち、海水などの塩化 物イオンを含む水溶液に対して優れた耐食性を示す。このように、酸性から弱塩基性の液性 においても、さらに還元性環境下においても、充分な耐食性を示すことが知られている。る。歯科で主に用いられるα型は純チタンであるが、その他にもTi-13Cu 合金、Ti-Cu-Ni 合金 などのα型チタン合金が検討されている2)。 α+β型チタン合金は、α相安定型元素の Al とβ相安定型元素の V や Nb を添加し、室 温でα相とβ相の二相が共存する合金である。この合金は、熱処理によって高強度が得られ、 耐熱性に優れている一方で、伸びが少なく、冷間加工が困難である。Ti-6Al-4V 合金はα+β 型チタン合金の有名な代表例であり、航空機材料に用いられている4,5)ほか、Ti-6Al-7Nb 合金 と同様に強度を必要とする大型の補綴装置に利用されている。 β相からα相への変態温度を降下させ、β相が安定に存在できる温度域を拡大する元素 をβ安定型元素と呼んでおり、共析型の Au、Ag、Co、Cu、Fe、Mn、Ni、Pd、Si、W と全率固 溶型の Mo、Nb、Ta、V などがある。共析型のβ安定型元素と合金化したチタンは、共析点の 高い Au、Ag、Cu を除き、その含有量に応じてα相からα+βの二相を経て準安定型β相に 変態する。これらのチタン合金では、室温の平衡状態においてα相と金属間化合物の共存組 織となるのが一般的であるが、共析点より高い温度で安定なβ相を急冷すると、β相からα相 への変態速度が遅いため、室温で準安定なβ相を形成する。そのため、準安定型β相を単 相に持つβチタン合金が得られる。 全率固溶型では、β安定型元素の含有量に応じて、α相からα+βの二相を経て準安定 型β相、さらに安定型β相に変態する。安定型β相は、室温の平衡状態での安定相であり、 その組成のチタン合金は、高温から室温までβ単相を持つβチタン合金となる。 高温で安定なチタンのβ相は、α相に比べて添加元素の固溶量が多く、融点の低下に加 え固溶硬化による強さの向上が期待できる。また、体心立方晶であるβ相は、最密六方晶の α相よりも展延性に優れており、室温で安定なβ相を得ることができれば、従来の方法で容易 に歯科鋳造できるチタン合金となり得る。実際に歯科鋳造用合金として試されているβチタン 合金には、Ti-Cr 系合金や Ti-Pd 系合金がある。6~8)
2. チタンの歯科応用
歯科領域で用いられている材料の中で最も大きな位置を占めているのが金属材料である。 歯冠修復、歯冠補綴用材料には金合金、金銀パラジウム合金、銀合金などがある。金合金は 耐食性、機械的強度に優れ、生体組織への為害作用が少なく安全性が高い。また、鋳造、技 工操作が容易である。しかし、貴金属を消費することは、資源や価格の点で限界がある。また、 銀合金は硫化による耐食性に問題がある。そこで、貴金属系に代わる金属材料が検討されて きた。Ni-Cr 合金は、耐食性、機械的性質、鋳造法などは良いものの、ニッケルアレルギーや 発癌性など生体に対する為害性が議論されている。 この状況下で、チタンの歯科応用が注目されてきた。クラウン・ブリッジへの応用を考えると、 チタンは従来の歯科用金属に比べて地下資源が豊富であり、引張強さ、伸び率、硬さなどは、 歯科用金合金Type 4 に近似している。比重も 4.5 で金合金より天然歯に近い。しかし、融点が 高く、高温活性が大きいことや、高温での被酸化性が大きいため、大気中での鋳造が困難で ある。このような問題点があったが、近年、鋳造機や鋳型材の開発、改良によって、臨床にお いて実用可能な歯冠補綴物が製作できるようになった。 チタンは毒性、生体に対する為害性はなく、耐食性に優れているが 9)、融点が高く、高温活 性で酸化しやすく、鋳造時に酸素を固溶するため、伸びを失い脆化しやすい。寸法精度を得 るために、チタンの合金化の研究も進められている 1,2)。β相安定型元素の合金化によって融 点を大幅に低下させ、同時にチタンの活量も低下させることで反応性を抑制して酸素固溶にやTi-6Al-7Nb 合金などのチタン合金に頼らざるを得ない。 チタンおよびチタン合金の機械的性質 10)を比較すると、CP チタンではやや強度不足であり、 Co-Cr 合金以上の強度を実現するためには、前述のチタン合金が必要となる。チタン合金の 優位性の一つには、Co-Cr 合金と比較して伸びとレジリエンスが大きいことがあげられる。つま り、大きくたわみ、復元力も大きい。しかしながら、義歯床は、弾性率が高くてたわみが少なく、 強靭であることが望ましい。一方、維持装置としてのクラスプでは、弾性があり、復元力があるこ とが望ましく、両者の性質を必要とする義歯用の金属材料の観点からみてみると、チタン合金 はCo-Cr 合金よりも弾性率が低く、強靭とは言い難いが、レジリエンスで勝り一長一短である。 チタンは歯科用金属の中でAl に次いで軽い金属である。軽量であることは、義歯の異物感 を少なくするうえで重要であり、チタンを用いた金属床義歯の利点といえる。チタンは耐食性、 組織親和性に優れていることから、歯科用インプラントに応用されている11,12)。チタンとNi の金 属間化合物で超弾性を示す Ni-Ti 合金は、歯科矯正ワイヤー(Ni-Ti ワイヤー)にも応用され ている。13~15)
3. 高強度歯科用 Ti-Mn 合金の可能性
β相はα相よりも添加元素の固溶量が多く、共晶-共析型の状態図を示す場合、融点(液 相点)が大幅に低下する特徴を持つ。固溶量が多いということは、融点をそれだけ多く低下さ せることができ、Ti の活量が下がるので高温活性を抑制できる。ただし、β相は共析点(温度) よりも高い温度でのみ安定であり、共析点が高い場合にはβ相は室温で存在できない。しかし、 共析点が低いものはβ相の領域から急冷すると、準安定なβ相を得ることができる。この準安 定β相は、β相と同じ性質を示す。 これを基にβ相安定型元素の選択基準を整理すると、準安定β相が存在すること、液相点 が低下すること、共析点(温度)が低いこと、β相の領域が広いこと、金属間化合物ができにく いことがあげられる。この基準に該当する元素は、Au、Ag、Co、Cr、Cu、Mn、Fe、Pd の 8 種類があげられる。 この中からMn を選択した理由を説明する。Ti-Mn 合金は準安定β相を有していること16)、 30mass%の Mn を添加しても金属間化合物を析出しないこと 17)、金属間化合物ができないた め、伸びを損ねることなく固溶硬化可能なこと、Cr や Fe も強度は上がるが、Cr は融点の低下 率がMn よりも低いため18,19)、鋳造用合金として不利であること、Fe は非常に脆い金属間化合 物を析出すること 17)から適さないと判断し、Mn を選択するに至った。また、Mn はパッチテスト を実施した際の陽性率が低く、アレルゲンになりづらい元素であり、生体への安全性に特に問 題はないと考えられる20)。既に強度の高い Ti-Mn 合金ができているように見えるが、データが 非常に古く、鋳造機の真空度も現行のものよりも劣っている。さらに、as cast の試料を用いてい るため、冷却速度が不明であり、準安定β相の最適化が不十分である。すなわち、本来の値 よりも小さい値となっていることが予想できるため、最も優れた機械的性質を生み出す詳細な 組成はまだ明らかにされていないと言える。 本研究では、この Ti-Mn 系合金の準安定β相を最適化し、最も優れた機械的性質を生み 出す詳細な組成を求めることを目的のひとつに定めた。これにより、鋳造性の向上と高強度を 実現し、インプラントとその上部構造を同一の合金で統一できるチタン合金の開発を目指す。 本論文では、最終目標であるTi-Mn-X 系 3 元合金の基本組成となる 2 元系 Ti-Mn 合金の 機械的性質を調べ、他の元素X の置換に適する Ti-Mn 合金の組成を検討した。同時に、Ti-Mn 合金を試作し、ISO 10271 に規定された電解溶液によるアノード分極挙動および静的浸漬
第
2 章 Ti-Mn 合金の合金相と機械的性質
1. 目 的
β相安定型元素をチタンに添加することで低ヤング率を実現し、繊細な弾性を示す矯正 用ワイヤーや力学的な骨親和性を目指すインプラント合金などの開発が進んでいる21)。一方、 近年、ナローインプラントの需要が増加し、高強度、高ヤング率のチタン合金の必要性も高まり つつある。歯科用2 元系チタン合金は、高強度でも 1000 MPa 前後であるため6)、基本組成を Ti-Mn 系合金とし、他のβ相安定型元素でマンガンを置換した Ti-Mn-X 系合金の最適化によ り高強度チタン合金を製作することが可能と思われる。そのようなコンセプトで開発された Ti-Mn-X 系 3 元合金は、ナローインプラントや大型の補綴装置に適する高強度と鋳造の容易性 を併せ持つ汎用性の高いチタン合金となるであろう。 本研究では、Ti-Mn-X 系 3 元合金の基本組成となる 2 元系 Ti-Mn 合金の機械的性質を調 べ、他の元素の置換に適するTi-Mn 合金の組成を検討することを目的とする。2. 材料および方法
2. 1 試作合金の作製 2. 1. 1 合金の設計
Ti-Mn 系平衡状態図(図 1)18)によると、Mn はβ相安定型元素であり、Ti-Mn 合金は 16.8
mass% Mn(以下単に%と記す)にαTi と金属間化合物 TiMn の共析点を持っている。過去の 研究1)によると、Ti-Mn 合金は 10~15%Mn 付近に機械的強度の高い組成が存在することから、 本研究では、5%~20%を 5%刻みで合金設計し、さらに 5%~15%は 1%刻みで合金設計した。 2. 1. 2 合金インゴットの溶製 スポンジチタン(> 99.8%,大阪チタニウムテクノロジーズ,尼崎)をアルゴンアーク溶解炉 (TAM-4S,立花理工,仙台)の銅ハースの凹陥部に投入し、炉内を 5×10-3 Pa まで減圧し、高 純度アルゴンガス(> 99.9999%,日本酸素,川崎)を 50 kPa まで導入した雰囲気中にてアーク 溶解により融解して一塊とした。その際には、ゲッターチタンを材料の融解に先駆けて融解し、 残存酸素を極力取り除いた。その後、設計した組成となるように Mn(> 99.9%,平野清左門商 店,東京)を加え、融解してはひっくり返し、2 元系 Ti-Mn 合金を試作した。ひとつのインゴット につき、計 6 回融解した。比較対象となる純チタンインゴットは、アルゴンアーク溶解炉を用い て全部で6 回融解してスポンジチタンから製作した。
鋳造体を鋳型から割り出し、残り湯を高速切断機(クリスタルカッターNEO BASIC、マルトー、 東京)で切断して、ダンベル状の引張試験片を作製した(図3 左)。鋳造体表面の硬化層は除 去せず、そのまま引張試験に供した。また、残り湯の一部をスライスし、エポキシレジン(エポフ ィックスキット、Struers、Denmark)で包埋した後に鏡面研磨した試料(図 3 右)を、X 線回折試 験、金属組織観察、硬さ試験に供した。 2. 3 X 線回折試験 X 線回折装置(D2 PHASER、ブルカー、東京)を用いて管電圧 30 kV、管電流 10 mA の Cu Kα 線で X 線回折を行った。測定条件は、2θ = 20~90°、ステップ幅を 0.03°とした。 2. 4 金属組織観察 鏡面研磨した試験片をフッ硝酸(HF:HNO3:H2O=1:4:25)でエッチングし、金属顕微鏡 (PMG3-614U、オリンパス、東京)を用いて試作チタン合金の組織像観察を行った。 2. 5 硬さ試験 マイクロビッカース硬さ試験機(HM–221、Mitutoyo,神奈川)を用いて荷重 1.961 N(200 gf)、 荷重時間15 s の条件で各金属のバルク硬さを測定した。 2. 6 引張試験 インストロン型の万能試験機(AGS-5kNG,島津、東京)を用いてクロスヘッドスピード 0.5 mm/min、室温で引張試験を行った。引張強さと破断伸びを測定した。伸びは引張破断後の 試験片を突き合わせて、標点距離(20 mm)の実測から求めた。さらに走査型電子顕微鏡 (SEM)(JSM-6060,JEOL,東京)を用いて破断面の観察を行った。
2. 7 統計処理
3. 結 果
3. 1 X 線回折 X 線回折試験により得られた回折パターンを図 4 に示す。チタンはαTi に対応したピークを 示し、マンガンを 5%添加すると、αTi に加えてβTi のピークが出現した。添加量 10%を越え ると、αTi のピークが見られなくなり、20%まではβTi のみに対応した X 線回折パターンを確 認した。いずれの組成にも、金属間化合物を示すピークは認められなかった。X 線回折により 同定された合金相を表1 に示す。 3. 2 金属組織観察 Ti-Mn 合金の金属組織(エッチング像)を図 5 に示す。チタンにはαを示す針状組織が全 面に見られた。チタンにマンガンを添加すると、チタンに見られた針状のα組織が減少した。 Ti-5%Mn には結晶粒界部から結晶粒内に向けた針状組織が存在したが、10%の添加でα組 織が消失してβ相を示す金属組織に変化した。それ以上マンガンを添加しても金属組織に変 化は見られなかった。 3. 3 硬 さ Ti-Mn 合金のビッカース硬さを図 6 に示す。純チタンの硬さは約 130 だった。Mn 添加量の 増加とともに硬さは増加した。いずれの Ti-Mn 合金の硬さもチタンより有意に大きかった (p<0.05)。Ti-5%Mn の硬さは 290 程度であり、Mn の添加量 10%以上は 360 以上の硬さであ った。 3. 4 引張強さと伸びTi-Mn 合金の引張強さを図 7 に示す。Ti-5%Mn は約 850 MPa を示し、チタンより有意に大 きかったが(p<0.05)、Ti-6%Mn はチタンと同程度だった(p>0.05)。その後は Mn 添加量の増
加とともに引張強さは増加し、Ti-10%Mn の引張強さは 800~850 MPa であった。測定値のばら つきを考慮し、最大値を重視して考えると、Mn 添加の範囲が 10~14%において引張強さが大 きかった。さらに添加量が増えると、引張強さは低下し、Ti-15%Mn 以上はチタンと同程度だっ た(p>0.05)。一方、この添加範囲における伸びは、鋳造材ということもあり、いずれの組成も 1.5~2%前後と小さい値を示した。 3. 5 破断面観察 図8 は引張試験後に SEM 観察した破断面の中で、各組成の典型的な像を示している。チ タンの破断面には、延性破壊時の特徴であるディンプルが全面に観察された。一方、Ti-Mn 合金では、Ti-5%Mn と Ti-10%Mn の破断面の一部にディンプルが見られたが、Ti-15%Mn と Ti-20%Mn の破断面にはディンプルが認められず、全面に擬へき開破面もしくはへき開破面 が観察された。
4. 考 察 4. 1 Ti-Mn 合金の合金相 チタンの結晶構造には、高温安定相である体心立方晶のβ相と、低温安定相である最密 六方晶のα相があり、882°C でα←→β同素変態を起こす1)。チタンを合金にした場合に、高 温安定相であるβ相を常温に保持する方向に働く添加元素をβ相拡大型元素と呼び、本研 究で添加したMn はβ相安定型元素である2)。Ti-Mn 系平衡状態図(図 1)18)によると、Ti-Mn 合金はMn 添加量の増加とともに融点は低下する。そして、550°C、16.8 mass% Mn にαTi と αTiMn の共析点を有する共析型チタン合金である。室温でのαチタンへの Mn の固溶限は 1%に満たないので、本研究で調べた添加量 20%Mn までの Ti-Mn 合金の合金相はほとんど がα+TiMn になるはずである。しかしながら、歯科鋳造体は非平衡凝固のため、平衡状態と は異なる。組成によっては速い冷却速度によりβ相もしくは準安定β相が室温まで保持される。 本研究のX 線回折の結果によると、Ti-5%Mn 合金はα+βの二相合金であり、金属組織を見 るとβ結晶の粒界部に、αの細かい針状組織が認められた。また、Mn 含有量が増加した Ti-10~20%Mn 合金ではβ単相に変化し、金属組織に針状構造物は認められず典型的なβチタ ンの金属組織を呈していた。高田ら17)は歯科鋳造したTi-Mn 合金について、Ti-5%Mn はα+ βであり、Ti-10~30%Mn はβであると報告しており、本研究の結果と一致している。また、金属 間化合物の TiMn はいずれの組成にも認められなかった。Ti-20%Mn は過共析側であるが、 β相は固溶量が多いためMn はすべてチタンに固溶し、過共析側でも TiMn を析出しなかっ たと考えられる。 4. 2 Ti-Mn 合金の硬さ Ti-Mn 合金の硬さは、いずれもチタンより大きかった。Ti-5%Mn の硬さは約 290 で、時効硬 化したType 4 金合金(237-264)より大きく、コバルトクロム合金より小さかった22-24)。Mn 添加量 10%以上の Ti-Mn 合金の硬さは 360 以上で、コバルトクロム合金(350-432)に相当した23,24)。
Ti-5%Mn の硬さの向上には、α+βの二相構造による析出硬化と、それぞれの固溶体への固 溶硬化が働いた結果と考えられる。一方、Mn 添加量 10%以上の Ti-Mn 合金の硬さの向上に は、βチタンへの固溶硬化が貢献したと考えられる。
4. 3 Ti-Mn 合金の引張強さ
本研究ではTi-5%Mn の引張強さは約 850 MPa で最も大きく、チタンの約 2.5 倍だった。Ti-5%Mn のみα+β合金であり、α+β型チタン合金は高強度を示すことが知られている 1,2)。β 相への α の析出強化により引張強さが向上したと考えられる。引張強さがTi-5%Mn で大きな 値を示した後、低下したのは、合金相がα+βからβ(準安定β)に変化したためと考えられる。 また、鋳造時の冷却過程におけるβからαへの相変態の過程で、非常に硬くて脆いω相が出 現することがあり、そのω相が Ti-6%Mn の引張強さの急激な低下につながった可能性がある。 その後は、Mn の固溶量の増加とともに固溶強化により再び引張強さが増加した。高濃度のβ チタンも強度が高いことが知られており1,2)、Ti-10%Mn は再び 800 MPa を超える高強度を示し た。しかし、その後は、引張強さは低下した。これは伸びが低下するためと考えられ、Ti-15%Mn や Ti-20%Mn はへき開破面から分かるように全く延性を示さなくなり、強さはチタンと 変わらなかった。 4. 4 Ti-Mn 合金の伸び
層は除去せず、そのまま引張試験を行ったため、硬化層の影響により伸びが小さかったと考え られる。 なお、本研究では、開発合金の引張強さが 1 GPa を達成した際に、万能試験機のロードセ ルの最大荷重5 kN を超えないように、試験片の直径を 2 mm とした。この直径 2 mm は JIS か ら引用しており、JIS T 6004 歯科用金属材料の試験方法では、つかみ部円柱状試験片の寸 法について、直径2 mm で評点距離 20 mm、もしくは直径 3 mm で評点距離 15 mm と規定し ている27)。一方、以前のISO 22674 は JIS と同じであったが、現行の ISO は同試験片の寸法
について直径3 mm で評点距離 15 mm のみと規定している28)。試験片のサイズを直径3 mm に変更すれば、同じ 250 μm の硬化層が生じたとしても、断面積における硬化層の割合は約 31%に減少するので、機械的性質への悪影響は減る。また、金属材料が破断する際は、破断 した部位が集中的に伸びるので、評点距離は小さい方が伸びにとって有利である。したがって、 直径3 mm で評点距離 15 mm の試験片を作製し、最大荷重の大きな万能試験機を用いて引 張試験を行うことで、より良い結果が得られると考えられる。 ところで、チタンと引張強さの変わらなかった Ti-15%Mn と Ti-20%Mn の破断面は、脆性破 壊を示すへき開破面であったが、強さの大きかった Ti-5%Mn と Ti-10%Mn の破断面には延 性破壊時の特徴を示すディンプルが一部に見られた。チタンのβ相は体心立方構造で加工 性に優れるので、合金相がβであり強度も大きい Mn 添加量 10%前後は、高強度歯科用 Ti-Mn 合金の候補として特に期待できる。 4. 5 高強度 Ti-Mn-X 合金の可能性 2 元系 Ti-Mn 合金において、強さと伸びのある組成範囲は、準安定β相を持つ 10~14%の マンガンを含有する組成であることが分かった。したがって、伸びを維持したまま、強さの向上 を狙うためには、この組成範囲のTi-Mn 合金を基本組成として、マンガンをその他のβ相安定 型元素で置換した 3 元系合金にすることが有効と考えられる。従来の研究によると、置換する
た め の 元 素 と し て 、 β 相 安 定 型 元 素 の 鉄 (9mass%Fe : 1150 MPa ) 及 び ク ロ ム ( Ti-20mass%Cr:1000 MPa)にその可能性がある6)。
5. 小 括
1. 本研究で調べた Ti-Mn 合金は、Ti-5%Mn のみα+β合金で、他の組成はβ相もしくは準 安定β相を持つ合金であった。 2. Ti-Mn 合金の強さと硬さはチタンより大きかった。それらの向上には、αチタンとβチタン への固溶量の増加や、α+βの二相構造が貢献した。Ti-5%Mn と Ti-10%Mn の引張強さ は800 MPa 以上であった。 3. Ti-Mn 合金の伸びは小さかったが、いくつかの組成の破断面にはディンプルが認められ た。試験片の直径が小さく α ケースの影響を強く受けたことが、伸びが小さかった原因の ひとつと考えられる。直径の大きな試験片を使用することで、歯科応用に必要な伸びが示 されると考えられる。 4. 本研究結果から、Ti-10~14%Mn 合金を基本組成とし、マンガンを鉄やクロムといった他の β相安定型元素で置換することで、伸びを維持したまま、3 元固溶体による強さの向上が 期待できると考えられる。第
3 章 Ti-Mn 合金の耐食性
1. 目 的
β相安定型元素をチタンに添加することで低ヤング率を実現し、繊細な弾性を示す矯正用 ワイヤーや力学的な骨親和性を目指すインプラント合金などの開発が進んでいる29,30)。一方、 近年ではナローインプラントの需要も増加しており、高強度、高ヤング率チタン合金の必要性 も高まりつつある 31)。本研究では、ナローインプラントや大型の補綴装置に適する高強度と鋳 造の容易性を併せ持つ汎用性の高いチタン合金の開発を目指し、Ti-Mn 合金に着目してきた。 第 2 章では、2 元系 Ti-Mn 合金において、強さと伸びのある組成範囲が、10~14 mass%の マンガンを含有する組成であり、準安定β相を持つ合金であることが明らかになった。 本研究では、Ti-Mn 合金を試作し、ISO 10271 に規定された電解溶液32)によるアノード分極 挙動及び静的浸漬試験による溶出イオンを調べ、Ti-Mn 合金の耐食性を明らかにすることを 目的とした。2. 材料および方法
2. 1 試作合金の作製 2. 1. 1 合金の設計
Ti-Mn 系平衡状態図(図 1)によると、Mn はβ相安定型元素であり、Ti-Mn 合金は 16.8 mass% Mn(以下単に%と記す)にαTi と TiMn の共析点を持っている。第 2 章の研究成果か ら、Ti-Mn 合金は Ti-10~14%Mn 付近に機械的強度の高い組成が存在することから、本研究 では、5%~20%を 5%刻みで合金設計した。以降、Ti-5~20%Mn 合金と記す。 2. 1. 2 合金インゴットの溶製 スポンジチタン(> 99.8%,大阪チタニウムテクノロジーズ,尼崎)をアルゴンアーク溶解炉 (TAM-4S,立花理工,仙台)の銅ハースの凹陥部に投入し、炉内を 5×10-3 Pa まで減圧し、高 純度アルゴンガス(> 99.9999%,日本酸素,川崎)を 50 kPa まで導入した雰囲気中にてアーク 溶解により融解した。ゲッターチタンを材料の融解に先駆けて融解し、残存酸素を極力取り除 いた。その後、設計した組成となるように Mn(> 99.9%,平野清左門商店,東京)を加え、融解 してはひっくり返し、2 元系 Ti-Mn 合金を試作した。ひとつのインゴットにつき、計 6 回融解し た。比較対象となる純チタンインゴットは、アルゴンアーク溶解炉を用いて全部で6 回融解して スポンジチタンから製作した。 2. 2 試験片の作製 2. 2. 1 電気化学的測定用試験片 板状のワックスパターン(11 mm 4 mm 30 mm)をマグネシア系埋没材(シンビオン-TC、 アイキャスト、京都)で埋没した。埋没後 2 時間で炉に入れ、室温から昇温速度 6°C/min で 850°C まで昇温した。1 時間係留して炉内温度が 200°C まで下がったところで鋳造した。鋳造 はチタン用鋳造機(オートキャスト HC-III、ジーシー,東京)を用い、鋳造後室温まで徐冷した。 鋳造体を鋳型から割り出し、残り湯を高速切断機(クリスタルカッターNEO BASIC、マルトー、
東京)で切断した後、SiC 耐水研磨紙で各面を表面から 300 μm 研磨して表面硬化層を除去 した。その後、低速切断機(Refine Saw, Lo、Refine Tec Ltd.,神奈川)で 10 mm 角に切断し、 エポキシレジン(エポフィックスキット、Struers、Denmark)で包埋した後、鏡面研磨した。 2. 2. 2 静的浸漬試験用試験片 板状のワックスパターン(11 mm 1.6 mm 30 mm)を用意し、板状試験片の作製方法と同 様に、マグネシア系埋没材(シンビオン-TC、アイキャスト、京都)で埋没し、鋳型温度 200°C で チタン用鋳造機(オートキャスト HC-III、ジーシー,東京)を用いて鋳造した。鋳造体を鋳型か ら割り出し、残り湯を高速切断機(クリスタルカッターNEO BASIC、マルトー、東京)で切断した。 SiC 耐水研磨紙で各面を表面から 300 μm 研磨して表面硬化層を除去した後、低速切断機 (Refine Saw, Lo、Refine Tec Ltd.,神奈川)で 10 mm 15 mm 1 mm に切断し、静的浸漬試 験に供した。 2. 3 アノード分極曲線の測定 ISO 10271 に従い、1%乳酸水溶液と 4% NaOH 水溶液を用いて pH 7.4 に調整した 0.9% NaCl 水溶液を電解溶液とした。表面を SiC 耐水研磨紙で 1000 番まで研磨した試験片を、ア ルゴンガスで脱気した37℃の電解溶液 300 mL に浸し、ポテンショスタット(HZ-5000TS,北斗 電工)を用いて、走査速度 1 mV/s の電位走査法で自然電位から 2 V(vs. Ag/AgCl)までアノ ード分極曲線の測定を行った。測定値は標準水素電極(NHE)に換算した。不動態保持電流
音波洗浄した後、溶存酸素を飽和させた37℃の試験溶液 20 mL に浸漬し、7 日間(604.8 ks) 静置した。試験片を取り出し、溶液に溶出したイオンを、高周波誘導結合プラズマ発光分光分 析 装 置 (ICP–AES ) ( IRIS/IRIS–AP , iCAP 6000 SERIES ICP Spectrometer , Thermo SCIENTIFIC)を用いて、定性分析および定量分析した(n=5)。溶出イオン量は単位面積あた りの質量(µg/cm2)に換算した。静的浸漬試験後の試験片の表面を光学顕微鏡(PMG-3,オリ
ンパス)で観察した.
2. 5 統計処理
3. 結 果
3. 1 Ti-Mn 合金のアノード分極曲線 Ti-5~20%Mn 合金および純チタンのアノード分極曲線を図 11 に示す。これら Ti-Mn 合金と チタンはいずれも-0.45 V 付近から電流密度が増加し、0 V 付近で電流密度が一定になり不動 態化した。Ti-Mn 合金の不動態保持電流密度は約 7.4~8.0 ×10-2 A/m2でほぼ一致しており、 組成間に有意差は認められなかった(p>0.05)。そして Ti-Mn 合金は、純チタンと同様にいず れも1.3 V 以上まで安定な不動態域を示した。測定範囲内では、電流密度の急激な増加は現 れなかったが、1.3 V 以降から酸素発泡を伴う電流密度の増加が現れた。 Mn 含有量の増加に伴い、1.3 V 以降の電流密度も増加する傾向を示したが、アノード分極 曲線を測定した後の試料表面には、いずれも孔食等による大きな腐食痕は見当たらなかった (図12)。 3. 2 溶出イオン量 Ti-Mn 合金から溶出した Mn イオン量を図 13 に示す。いずれの Ti-Mn 合金からも Mn イオ ンが検出された。Mn 含有量の増加に伴い、溶出量は有意に増加した(p<0.05)。溶出量の最 も多かったTi-20%Mn で 0.44 µg/cm2であった。また、Ti-Mn 合金およびチタンから溶出した Ti イオン量を図 14 に示す。いずれの金属からも Ti イオンが検出された。溶出イオン量は 1.5 µg/cm2前後であり、Ti-Mn 合金とチタンの間に有意差は認められなかった(p>0.05)。総溶出イ4. 考 察 4. 1 Ti-Mn 合金の電気化学的腐食挙動 本研究で調べた Ti-Mn 合金におけるアノード分極曲線は、過不動態域を除き、いずれもチ タンのアノード分極曲線とほぼ同等の形状を示し、不動態保持電流密度も Mn 含有量に依存 せずチタンとほぼ同等であった。X 線回折の結果によると、これらの Ti-Mn 合金は、Ti-5%Mn がα+β合金、それ以上 Mn を含有する組成では準安定β相の単相合金であった。Mn を全 く固溶していないα相(純チタン)、あるいは固溶量が非常に少ないα相(Ti-5%Mn)の方が、 Mn を多量に固溶しているβ相(Ti-10~20%Mn)よりも優位な耐食性を示すと予想されたが、 ISO 10271 指定の溶液(乳酸+NaCl)中では、不動態域に電気化学的な差異はほとんど認めら れないことが分かった。 純チタンが水と反応して TiO2を生成する自由エネルギー変化は、それそのものが負に大き な値のため、合金化によってチタンのモル分率が減り、チタンの活量が 1/10 に低下しても、そ の増加量はわずかでほとんど変化しないことが報告されている 17)。すなわち、熱力学的には Mn を固溶したβ相において、Mn の固溶量が増加しても水溶液中での TiO2(不動態皮膜)生 成に影響を与えないと考えられる。熱力学的な TiO2 の生成反応は、表面の構造や反応速度 を反映しないので、不動態皮膜に保護された耐食性の維持を完全に反映するわけではない。 しかし、Mn を固溶したβ相が Mn の添加量にほとんど依存せず、純チタンのα相と同等の耐 食性を示す理由として十分と考えられる。 過不動態域では、Ti-5%Mn を除き、電流密度が若干増加する傾向を示した。しかし、図 12 から分かるとおり、アノード分極後のα及びβ各相に局部腐食等の大きな腐食痕も確認でき ないことから、これらの電流密度の増加は、主に酸素発泡に起因すると考えられる。 以上のことから、電気化学的には、5~20%の Mn を含有しても、チタンに準じた不動態が維 持され、チタンと同等の耐食性を維持できることが示唆された。
4. 2 Ti-Mn 合金の溶出イオン量 Ti-Mn 合金において、α相は Mn をほとんど固溶しないため、添加した Mn の大半がβ相 に固溶する。Mn の添加量が増加すると、α+βの二相からβ単相に変態することから、Mn の 添加量がβ相に存在するMn 濃度に対応する。 Mn イオンの溶出量は、Mn の添加量、すなわちβ相に固溶する Mn 量に比例して増加す ることが分かる(図 13)。この現象は、Mn が添加量に応じて不動態皮膜の下地のβ相に分布 するため、不動態皮膜の溶解に伴い、添加量に比例した Mn イオンの溶出が生じたと考えら れる。β相から溶出するMn イオン量と Mn 添加量の関係を 1 次式で近似すると、相関係数が ほぼ1 に近い値を示し、高い相関を持った 1 次式で近似でき、Mn イオンの溶出量は、以下の 式(1)に従う。 (Mn の溶出イオン量) = 0.0252 × (Mn の添加量) - 0.0424 ・・・・・・・(1) (相関係数 r=0.993) Ti-Mn 系平衡状態図(図 1)によると、Ti-30%Mn 合金には準安定β相が存在可能であり、β チタン合金として Mn を最も多く含有する合金である。ここで、最も多くの Mn を含有する Ti-30%Mn 合金がβ単相であると仮定し、Mn の溶出イオン量を計算すると、式(1)より 0.724 µg/cm2となる。最も多くの Mn イオンを溶出すると予想される Ti-30%Mn 合金の Mn イオンの 溶出量は、チタンイオン量の1/2 前後と少なく、Type 2 金合金や白金加金から溶出する Cu イ オンの溶出量よりも十分に少ないことが分かる33)。
合金でチタンの溶出量の1/3 以下(0.5 µg/cm2以下)と非常に少ないことが分かる。
当然ではあるが、溶出試験の前後において、局部腐食等の腐食痕は現れず(図 15)、溶出 イオンの面から見ても、電気化学的評価と同様にチタンと同等の耐食性を示すことが示唆され た。
5. 小 括
1. Ti-Mn 合金は、幅広い不動態域と低い不動態保持電流密度を持ち、チタンと同等の耐食 性を有することが明らかとなった。 2. Ti-Mn 合金は、少量の Ti イオンと共に微量の Mn イオンが溶出したが、本研究で調べた 合金の中で最もMn 含有量の多い Ti-20%Mn でも、その溶出量は 0.5 µg/cm2以下と極め て微量であり、溶出イオンの面からもチタンに準じた耐食性を示すことが分かった。 3. Ti-Mn 合金から溶出する Mn イオン量は、以下に示す Mn の添加量の 1 次式で近似可能 であった。 (Mn の溶出イオン量) = 0.0252 × (Mn の添加量) - 0.0424第
4 章 総 括
本研究の目的は、高強度Ti-Mn-X 系 3 元合金の基本組成となる 2 元系 Ti-Mn 合金につ いて、金属組織、機械的性質、耐食性を調べ、他の元素の置換に適する Ti-Mn 合金の組成 を総合的に評価することである。そのために、2 元系 Ti-Mn 合金を設計、試作し、その鋳造体 の合金相、金属組織、機械的性質、耐食性を調べ、歯科応用への可能性を検討した。 本研究成果は以下のとおりである。 1. X 線回折試験と金属組織観察から、Ti-5%Mn のみα+β合金で、他の組成はβ相もしく は準安定β相を持つ合金であることが分かった。2. Ti-Mn 合金の強さと硬さはチタンより大きく、Ti-5%Mn と Ti-10%Mn の引張強さは 800 MPa 以上であった。 3. Ti-Mn 合金の伸びは小さかったが、破断面は延性破壊を示しており、歯科応用可能と考 えられる。 4. Ti-Mn 合金は、チタンと同等の幅広い不動態域と低い不動態保持電流密度を示したこと から、電気化学的にチタンに匹敵する耐食性を持つことが分かった。 5. Ti-Mn 合金の静的浸漬試験では、少量の Ti イオンと共に微量の Mn イオンが溶出した が、本研究で調べた合金の中で最も Mn 含有量の多い Ti-20%Mn でも、その溶出量は 0.5 µg/cm2 以下と極めて微量であり、溶出イオンの面からもチタンに準じた耐食性を示す ことが分かった。 本研究結果から、Ti-10~14%Mn 合金を基本組成とし、マンガンを鉄やクロムといった他のβ 相安定型元素で置換することで、伸びを維持したまま、3 元固溶体による強さの向上が期待で きると考えられる。耐食性にも優れており、Ti-Mn 合金は高強度歯科用チタン合金の基本組成 として有望であることが示唆された。
謝 辞
本研究を遂行、また論文を作成するにあたり、始終熱心なご指導ご高閲を賜りました東北大 学大学院歯学研究科顎機能創建学分野の鈴木 治教授に深謝申し上げます。 また、本研究を遂行するにあたり終始ご教示ご指導いただきました本大学院歯学研究科歯 科生体材料学分野の高田雄京准教授、高橋正敏助教に感謝の意を表します。 さらに、研究にあたり多くの知識や示唆をいただいた同研究室の皆様に心から感謝申し上 げます。文 献
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図表の説明
図1 Ti-Mn 系平衡状態図18) 図2 鋳造用パターン(丸棒状) 図3 Ti-Mn 合金鋳造体 図4 Ti-Mn 合金の X 線回折パターン 図5 Ti-Mn 合金の金属組織 図6 Ti-Mn 合金の硬さ 図7 Ti-Mn 合金の引張強さ 図8 引張試験後の破断面 図9 鋳造用パターン(板状) 図10 Ti-Mn 合金試験片 図11 Ti-Mn 合金のアノード分極曲線 図12 アノード分極後の試験片表面 図13 Ti-Mn 合金の溶出 Mn イオン量 図14 Ti-Mn 合金の溶出 Ti イオン量 図15 溶出試験後の試験片表面 表1 Ti-Mn 合金の合金相表1 Ti-Mn 合金の合金相 組成 合金相 Ti α Ti-5%Mn 合金 α+β Ti-10%Mn 合金 β Ti-15%Mn 合金 β Ti-20%Mn 合金 β