Relation between Molecular Volume and Diffusivity for Some Organic
Compounds through Polymers
勢 田 二 郎
Jiro SETA
1 緒言 染料の繊維中への拡散挙動は、染色現象解明の目的のために多くの研究がなされており、筆者も 従来より高圧下における染料の拡散挙動を拡散種の体積から検討してきた1)。大きな体積を有する染 料は、より小さな体積の染料より拡散速度は遅く、その拡散係数は小さいことは明らかである。しか しながら、同じ種族の染料間における大きさと拡散係数の定量的な関係、すなわち末端基の種類によ る差異や数の効果などの関係や、さらにイオン性染料や分散染料などの染料種族による関係は解明さ れていないのが現状である。 一方、染料の溶液中の拡散挙動については、従来、Stokes-Einstein式により議論されている2)。渋沢は、 沸点分子容などの数種の分子体積評価と水中の拡散係数との相関性を検討し、Bondiの方法により近 似的に求めた分子のファンデルワールス体積がもっともよく相関すると結論したが、染料の形が球形 でないことなどの理由によりStokes-Einstein式だけでは説明できないことが報告してており、染料の 体積と拡散係数との間の議論は明瞭な結論を得ていない3)。 以上において、染料の体積は従来から提案されている体積増分法のような近似的な方法により求め られており、厳密ではない。最近の計算機の発達により、分子のファンデルワールス体積を容易に計 算できるようになったので、本報告では、拡散種のファンデルワールス体積を従来の近似的な体積増 分法及び計算機を用いた格子点法により計算し、その差異を検証した。さらに数種の拡散種について、 高分子中の拡散係数と分子体積との関係を検討したので報告する。 2 拡散種の体積 本報告に用いた拡散種を表1に示した。表1において、番号1から25までは染料およびそのモデル 物質であり、番号26から39まではエステル基を含む鎖状および分岐脂肪族化合物である。詳しくは、 番号1から6はアゾ系分散染料を、番号7から11はアントラキノン系分散染料を、番号12から21は酸 性染料を、また番号22から25は塩基性染料とそのモデル化合物であり、これらはポリエステルおよび ナイロン中の拡散に用いた。一方、番号26以降の化合物は、エステル基を赤外分光による検出手段と して用い、これを含む鎖状低分子のポリエチレン中の拡散挙動を調べたものである。 これらの拡散種のファンデルワールス体積を次の2方法を用いて計算した。 2.1 体積増分法による体積 化合物のファンデルワールス(vdWと略す)接触模型は、常温において他の分子が侵入できない 占有領域を表現しており、その体積はvdW体積Vnetとして知られている4)。複雑な分子のこの値について、従来から近似的な計算手法が、Kitaigorodskii5),Bondi4)およびEdward6)らにより提案され、
他の方法と比較してVnetとよく一致することを報告した7)。この方法は、vdW接触模型において隣り 合う結合原子との関係のみに着目して計算した各原子の球欠体としての体積を総和する方法である。 前述の報告7)にも述べたように、直接結合していない原子の重なりを考慮していない。 表1の番号12から25を除いた拡散種のVki.を表1に併せて示した。 2.2 格子点法による直接計算 近年の電子計算機の発達により、vdW接触模型の計算は極めて容易となり、前述の近似法を用い る必要性はないことは明らかである。もちろん計算機を用いる方法は、複雑な球の重なりとして表さ れるvdW接触模型を3次元格子により細分化し、格子点の数から体積を計算するものであるから、格 子点の細かさが計算精度に影響を与えることは言うまでもない。 染料などのモデル物質として、39 種の有機化合物の格子点法による体積(Vlp.)の計算結果を表1に示した。表1において、NaやClを 含む拡散種の分子量および体積の値には、NaやClがイオン溶解するとして、それらを計算には考慮し ていない。 2.3 格子点法と体積増分法との関係 図1は、格子点法による体積(Vlp.)に 対するKitaigorodoskiiによる体積Vki.の結果を プロットしたものである。両者は極めてよ く一致するが、図中に直線としての回帰式 を示したように、Kitaigorodoskiiによる体積 Vki.が約1%大きくなるようである。前述の ように、Vki.は直接結合していない原子の重 なりを考慮していないので、大きく算出さ れることは合理的である。以降の議論には、 より精度が高いVlp.を使用する。 3 拡散係数と拡散種体積 拡散種の媒体中の拡散係数が拡散種の体積の増加とともに減少することは明らかであるが、前述 のように、化学構造や媒体との組み合わせにおける定量的な知見は確立されていない。一方、コロイ ド粒子の溶液中の拡散係数を表す理論式として導かれた次のStokes-Einstein 式は、この分野の議論に は、しばしば使用されている2)。 D0= ⑴ ここに、D0は溶質0濃度における拡散係数、η は溶媒粘度、Vは分子容積であり、k,T,Nは、それ ぞれボルツマン定数、絶対温度、およびアボガドロ数である。この理論は、粒子が球形であり、溶媒 は粒子径より相当小さく連続であることを前提とするが、染料-溶媒系ではこれらの前提は成立せず、 いくつかの補正がなされている。 ⑴ 式を変形し、D0をDとおき、対数をとれば2式が得られる。
log = logV+logK・η ⑵
ここに、Kは⑴式を変形して得られる定数項である。log (T/D)に対しlog V をプロットすれば直線 Fig. 1 vdW volume of organic compounds
kT 6πη 4πN 3V
( )
1/3 T D 1 3( )
が得られ、その勾配は1/3となるはずである。 緒言にも述べたが、渋沢は、染料およびモデル物質の分子容積と溶液中の拡散係数について検討し、 近似法によるvdW接触模型の体積をもちいる方法が、Stokes-Einstein 式を最もよく満足すると報告し ている3)。しかしながら、高分子中の染料分子の拡散については、対象とされていない。著者は、従 来から高分子中の拡散挙動を圧力の観点から取り扱ってきた。そこで、著者の拡散データ8)を中心 とし、他の研究者の関連データ9)を加えて、高分子-染料系において前述のStokes-Einstein 式が成立 するか否かを検討した。
図2は、表1のデータを用いたlog (T/D) vs. log V プロットである。図2のa,b,cおよびdは、タテ とヨコ目盛りのスケールは同じであり、互いの勾配を比較することができる。図2-aは、70℃にお けるナイロンに対する拡散種(表1のNo.12からNo.25)の拡散係数の結果である。イオン性染料と SO3Naのようなイオン基をもたない1部の分散染料(No.9,12,20,22、■印)を併せて示している。また、 図2-bは、90℃における同じくナイロンに対する分散染料(No.1からNo.11)の結果である。ここで の■印はアントラキノン系分散染料のNo.7からNo.11を表している。さらに、図2-cは、130℃にお けるPETに対する分散染料(No.1からNo.11)の結果であり、■印は、図2-bと同じくアントラキノ ン系分散染料のNo.7からNo.11を表している。全体として、データはバラつくが、log (T/D) とlog V の間に相関性が認められる。しかしながら、Stokes-Einstein 式が適用されるならば、⑵式から明らか なように、直線の勾配は1/3になるはずであるが明らかに異なる。図2-aと図2-bを比較すると、イ オン性染料の勾配は分散染料のそれより小さく、単純に体積だけにより議論することはでない。また、
拡散係数そのものの値も、同じ体積で比較してイオン性染料の方が分散染料より小さい。 次に、図2-cのPETについては、相当データはバラつき、⑵式から議論できないが、アントラキノ ン系染料の拡散係数とその体積は相関することが示される。従来、染料の拡散時の体積についてはそ の回転体積で議論されることもあったが、もしそうであればこれらアントラキノン系染料(No.7か らNo.11)の拡散係数は同じである必要がある。著者は、高圧下の拡散係数の測定から、拡散機構を 議論し、染料の直傍に染料の占有体積の一部の活性化体積が準備された時に拡散が進行することを実 験的に示した1)。したがって、回転体積による議論は必要としないと結論した。 図2-dは、ポリエチレン(PE)に対する脂肪族炭化水素の拡散の結果である。著者は、この系を 直鎖状高分子の拡散挙動すなわち高分子の自己拡散の実験として取り組んだものである。PEについて もデータはバラつくが、■印で示したNo.37,38,39は高級脂肪酸のグリセリンエステルであり、構造的 には長鎖の炭化水素が3本づつ分岐した構造である。この3点を除けば、バラつきはもっと小さい結 果となる。しかしながら、この場合も、勾配は理論とは異なる。 以上のように、分子の体積と拡散係数との間には、定性的には大きい染料は小さい拡散係数を示す 関係が存在する。しかしながら、その定量的な取り扱いは不十分である。著者は、ナイロンに対し、 酸性染料の拡散を高圧下に検討し、拡散の活性化体積が、分散染料系における値より明瞭に小さくな る結果を予備的に得ている。今後さらに拡散機構を明確にすることが必要であると考えている。 4 文献 1) 勢田二郎;学位論文(京都大学)(1984)
2) M.Mitsuishi et al.; Sen-I Gakkaishi, 36,T-175 (1980) 3) T.Shibusawa; Sen-I Gakkaishi,43,401 (1986) 4) A.Bondi; J.Phys.Chem.,68,441(1964)
5) A.I.Kitaigorodskii; Organic Chemical Crystallography , Consultants Bureau, New York(1961) 6) J.T.Edward; J.Chem.Educ., 47,261(1971)
7) J.Seta et al.; Sen-I Gakkaishi, 42,T-169 (1986)
8) J.Seta et al. ; Colloid & Polymer Sci. ,265,557(1987); 269,1224(1991) 9) 小笠原真次 ら, 第22回染色科学討論会要旨集, 28 (1980)
Table 1 Data of diffusion
D(No.2 to 11) are in Ny6(90℃)8), D(No.12 to 26) in Ny6(70℃)9), D(No.27 to 39) in PE(90℃)8),