• 検索結果がありません。

ミツバチの情報伝達システムの多様性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ミツバチの情報伝達システムの多様性"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ミツバチ科学20(3):119-126 HoneybeeScience(1999)

ミツバ チ情報伝達 システムの多様性

ミツバチは生殖虫の分化や働 き蜂問の分業 シ ステムを発達 させた真社会性昆虫の代表 とい っ てよい.その群 (コロニー) は 1匹の女王蜂 と 数万匹の働 き蜂 か らな り,繁殖期 にのみ これに 雄 が加 わ る.採餌活動 の範囲 は時 に半径 10km に も及ぶが,5kmと して も80km2, これを体 重 わずか100mg(ヒ トの50万分 の 1)の働 き 蜂 がカ/ヾ- しているわ けであ る. その中で見つ けた蜜や花粉源 は,質,量 などか ら総合評価 し て仲間に教え,刻 々変 わ る状況 の中で常 に 「も

⑳-

個(vfば の流れは_方折 )

佐々木 正己

っとも効率 よ く採餌 出来 る場所」へ と仲間を誘 導す る. ここで は ミツバ チ群 内 での音 /振動 コ ミュ ニケー シ ョンを中心 に, その情報 システムの特 性 を概観 す る. 多様な伝達様式 とその分類 「個体 か ら個体 への一方通行」か ら 「全構成員 間での双方 向」 まで,情報伝達 の諸型 を整理 し

個vs少数

(

は)

'

J

ション) 個 vs多数 (情根の流れは一方通行 マスコミュニケーション)

個か

(

個 - の連 鎖

ュニケー ション) 多 数 間

(情報の流れは双方向) 図1 ミツバチコロニー内での音/振動 コミュニケーションにおける情報伝達様式の諸型とその分頓

(2)

HW

てみたのが図 1である.

(1)個料個 (情報の流れは一方通行)

1)begging signal(普遍性が高 く原始的な段 階) 触角で相手 (特定 または不特定の 1個体)の 触角付近を タッピングすることで餌 をねだる行 動 は, ア リやスズメバチなどに も広 く共通 して 見 られる. この触角 による接触 は餌ねだ りの意 味だけに使われ るとは考 えに くいので, コンタ ク トの リズムとか強度など付加的な信号が加え られているか もしれない. またその結果行われ る栄養交換 (trophalaxis)は,同巣の仲間であ ることの確認 など,単 に餌 の授受以上の意味を もつ場合 もあ りそ うである.普遍的で原始的な 情報交換 の手段であってみれば,行動 (信号) パ ター ンの定型化が進んでいないことはむ しろ 自然 と考えるべ きであろう.

2) Shaking signal (TPOで多様 な意味を も

つ?)

情報 は特定 または不特 定 の1個体 に向 けて 発信 され,強 い振動が直接相手 に伝え られる. Jerking danceあ る い は vibration dance (Frisch,1967)または DVAV(dorso-ventraト abdominal-vibration)と も呼 ばれて きた もの で (Milum,1966), 受 け手 の個体 にマウン ト す るよ うに乗 り,背腹方 向 に激 しく体 を揺 す る.高速度撮影 によると,shakingは約 16Hz で1.2秒 は ど続 く. この動 きはshakerとre -ceiverが きわめて は っき りわか るに もかかわ らず, その意味を特定す るのは難 しい.最薪 の Niehの解析 によれ ば,shakerの 83%以上 が 採餌蜂 であ った こと, ダ ンス場 でshakingを 受 けた蜂 は巣門 に向かわな くなる傾向が強 いこ と,餌環境が悪化す ると始 まることなどか ら, 他の仕事への転向を促す意味があるのではない か という (Nieh,1998).Shakeされた蜂 は活 発 にグルー ミング,女王への コー ト形成,栄養 交換,換気,造巣,尻振 りダンスなどをす るよ うになるとの結果 も出てお り,何 らかの行動 に 駆 り立てる意味があることは間違 いない ものと 思われ る.む しろ特定の行動のみを解発す るの 図2 よい塞源を見つけて帰 ったセイヨウミツバチ が踊る探餌ダンス ダンサーは250Hzの信 号音を出 しなが ら,さらに尻振り動作を加 え ながら踊り,フォロアーは触角をかざすよう にLで情報を聞き取っている ではないことが特徴 とみ られ,必ず しも原始的 とは言えないか もしれない. (2)個対少数 (情報の流れは一方通行) 1) グルー ミングダンス (groomingdance) 相手 を特定 しないで発信 され る 「音 /振動 コ ミュニケーションの原型」 と見 られ るものであ る.肢 で基 質 で あ る巣板 に しっか りとつ か ま り,体全体 を くね らすよ うに左右 に振 る.す る とこれに触角を接す る程度 に近 くにいた仲間の 1匹に, 数秒後 に特徴的な清掃行動が解発 され る. この行動 はダニの駆除 に役立っ ということ で有名になった (Peng,eta1,,1987). もしか した ら発音を伴 う場合があるのではないか と録 音 を試みたが,音 は出 して いなか った. 2)採餌 ダンス (tail-waggingdance) 採餌 ダンスに代表 され るもので,餌場 までの 距離 と方位の情報を示す高度 な情報伝達法 は ミ ツバチの 「言葉」とさえ言 われる 1).飛糊筋起 源の 250Hzの麹 の微小振動 か らな る信号 は定 量性 を もったコー ドとして発信 され,空気を媒 体 と して数cm 以内の受容者の触角で感知 され て デ コーデ ィ ング され る (Michelsen eta1., 1986)(図2).音の長 さか らなる距離情報が触 角 の第 2節 と 3節 の間 の ジ ョンス トン氏器官 で受容 され るのはわか るが,方位の読みとりに

(3)

ついてはもう少 し難解である. ダンスの追従者 の中で も真後 ろか らつ いてまわ っているものに ついては,信号音が発せ られている間, 自身 も ダ ンサーと同 じ方向を向いているので, その時 の体軸の重力場方向に対 す る傾 きが ダンサーと 等 しくな り,理解で きる. しか し実際にはダン スを横 の方か らのぞき込 むよ うに して聴 いてい る追従者 も多 く, それ らも真後 ろか ら聴 いてい るものと同程度の精度で餌場 に到達で きるとい う.麹か ら発せ られる空気の波動 には方向性が あるか ら,理論的にはある種の変換 を介 してど んな向 きか らで もダンサーの体軸の傾 きを読み とることはで きるはずであるが,本当にそ うし ているのかについては疑問 も残 る. (3)個対多数 前項では廼 をたたんだままでの微小 な空気振 動 によ るご く近傍 の蜂 へ の情報伝達手段 をみ た. しか しミツバチはさ らに,同様の振動 を胸 を ワックス製の巣板 に当てて 「基質の振動」 と いう形で発信することにより, はるかに広域の 多数 の蜂 に同時に伝える方法を も開発 した. こ れが queenpipingやworkerpipingといわ れ るもので, ヒ トが これを耳で聴 くとピー ビー ときれいな響 きに聴 こえ ることか らこの名がつ い た.蜂 は これ を肢 で 感 知 して い る ら し く (Sandeman,1996),録音 した昔 を空気を媒体 として聴かせて も反応 はみ られない.女王 は羽 化 したときに鳴 くことか ら自身の誕生 を知 らせ 触角で受信

-

ヽ-

r

-

一 ・十 /「ヽ る意味があるらしく,働 き蜂 はスズメバチの襲 来時などに鳴 くことか ら, こち らはアラーム信 号 の 一 種 と考 え られ て い る (Ohtaniand Kamada,1980).類似の振動信号を,片や多数 の情報が混信 しないよ うにロ-カルに使 い,片 や基質の振動 という形 に してマスコ ミュニケー シ ョンと して使 い分 けて いる点 は見事 であ る (図3). なお,匂 いによる情報伝達で も, イソア ミル アセテー トと

2

-

へブ タノ ンか らな るアラーム フェロモ ンの放 出 は この カテ ゴ リーに相 当す る.その場合,へブ タノ ンは分子量を小 さくし て, イソア ミルアセテー トはエステルとす るこ とで, いずれ も情報分子 の揮発性 を高 め,即効 性 を もたせ るよ うに している. (4)個から個への連携 (リレー型)

Shimmeringや abdomenshakingにみ ら れ るもので, いったん信号が発せ られ ると,受 容者が発信者 とな り,次 々と連鎖反応的に情報 が伝え られてい く,信号 は連携 プ レイとして外 敵 に向け られ ることもある. 1) シマ リング(Shimmering) ニホ ンミツバチにみ られ るシマ リング (別称 hissing)は,超を背面 にたたんだまま正中線側 へ引 き寄 せ るよ うに 1回 だ け動 かす ことで発 音 してお り (発音 メカニズムは不明),これが蜂 か ら蜂- と秒速25cmの速度 で伝 え られて い 基質(浪板)を介して - 、t●:!':.lーtT'..:. 図3 振動を伝える煤体を変えることによるローカルコミュニケーションとマスコミニュケーションの 使い分け 右側がworkerpipingで,胸を巣板に付けて発音する

(4)

22 0 5 0 5 2 1 1 ( 些 夜 E I.f

)g

TE昏 ・E ! - グループA ■- グループB 逆位相の12L・121⊃ 恒晴条件(DD) 図4 サーカディアンリズムのグループ間での社会的同調を示す実験 40匹の働き蜂からなる小グループ AとBを網製のケージに入れて,互いに逆位相となる明暗周期に条件っけておき,途中から恒暗条 件にすると同時に,2グループを網ごLに接触できるようにした.結果は接触後2日以内にグループ Bのリズムが反転 してAのリズムに同期 している(Sasaki,1992より) くことで 「シュワ-

」 とい う音 を作 り出す (FuchsandKoeniger,1974).これが起 こる のは巣板 に振動が与え られた時などび っくりし た場合で,ある 1匹が行動 を起 こす とそれが き っかけとなって巣板上を ウェーブが走 る.激 し い場合 には この彼 が約

2

秒 間隔 で リズ ミック に繰 り返 される.その意味では一つには自分達 に対す るアラーム信号 と考 え られるが, もう-つの解釈 と しては, これがヘ ビなどの威嚇音 と 似 ていることか ら,外敵であるクマなどの晴乳 類 に対 す る威 嚇信 号 で あ る と も考 え られ る

(Sasakieta1.,1995).

2)Abdomenshaking スズメバチの襲来などの視覚的刺激 に対 して 起 こる連鎖反応で,熱帯の高木 に単板の巨大 な 巣 を作 るオオ ミツバチで顕著 にみ られ る.個 々 の蜂の行動 と しては,腹部 を背腹方向に大 きく 1回振 るもので, この動 きが巣の表面 をカーテ ンのように被 う数万匹の蜂 の間をまるで波紋が 広が るように同心 円状 に広が る.的を絞 らせな くす るか,距離感を もたせに くくす る幻惑効果 を狙 っているもの と考え られ る. ニホン ミツパ テでは腹部 を振 る方向が横方向 とな り,数回が セ ッ トとな っている.二ホ ンミツバチは木の う ろなどの閉鎖空間に営巣す るため, この行動が み られるのは普段 は巣門付近 に限 られ る. なお, ここで もフェロモ ンについて付言す る と,女王物質の伝搬 やナサ ノフ (集合) フェロ モ ンの放 出が このカテゴ リーに属す る.女王物 質 は,1)働 き蜂の不妊化,2)王台形成の阻止, 3)雄 に対す る強い性誘引作用, などの多様 な 機能 を もつ フェロモ ンで,女王の大 あご腺か ら 分泌 され る. 主成分 は9-oX0-2-decenoic acid で,揮発性ではあるが高 くはない.放射性同位 元素 による トレース解析か ら,一部 は巣板を介 して広が るが,大半 は働 き蜂か ら働 き蜂へ と口 吻や触角 によって伝え られていることが確かめ られている(WinstonandSlessor,1992).ナ サ ノフ (集合) フェロモ ンは中程度の揮発性 を もつ複数の化学物質の混合物で, これを放出す る時 には蜂 は独特の姿勢 を とる.すなわち腹部 を高 く差 し上 げ, その末端付近 にある腺 を露出 させ,必ず扇風行動 を伴 う.扇風 は揮発を促 し, フェロモ ンを気流に載せで情報 に方向性を もた せ る意味を もつ.分蜂蜂が新 しい営巣地 に到着 した時など,巣内に着地 した蜂 は次々にこの信 号 を後続の蜂 に送 りなが ら順次巣内に入 って行 く. (5)多数個体問での同期 (情報の流れは双方向) 1)時刻 (外囲環境)情報 の伝達 と調整 群構 成員 の生体 時計 の同期 にみ られ る もの で,個 々の構成員では周期が違 うのにグループ と して これ らの間で同期が図 られ る (Sasaki, 1992)(図4).この相互調整がいかなる情報 を 媒体 として行われているか はまだわか っていな いが,普 /振動 による可能性 は高 い ものと思わ れ る.木の うろの中などに巣を作 る ミツバチの

(5)

営巣環境 は昼間で も暗いことか ら,仲間か らも 外界の時刻情報が得 られ るように進化 したもの と思われる. この社会的同調機構に意味を もた せるもう一つの理由に,構成員問のサーカディ アン周期 (7T-22-25時間で遺伝的に異なる) がバ ラバ ラであることも挙げ られよう, この多 2)巣仲間の識別指標 となる体表 ワックスの ミ キ シング ミツバチは体表 ワックス (炭化水素や脂肪酸 などか らなる組成が種 としての大枠内で異父姉 妹 ごとに微妙に異なる)の違 いを触角で読みと り, これが群構成員間の頻繁な体の接触 により ミキシングされ,一定のパ ターンを共有するよ うになる.つまり前項のサーカディア ンリズム の固有周期同様,女王の多回交尾性により遺伝 的に多様 になっている働 き蜂達が,相互調整 に より自分 (ひいては群) の ID となる情報を仲 間間で揃えているといえ る. ここでは彼 らの巣 の造巣材料が体表 ワックスと同 じワックス (特 別に大量に合成 される)であることも効いてい る.なぜなら巣板はワックス組成 スペク トルを 異にする多 くの蜂がその材料を持ち寄 り,共同 作業 として (っまりミキ シング しなが ら)作 ら れ,その結果 ワックス組成 は平均値的なものと なるか らである.巣板 は蜂がその上で常に生活 す る基質であり,安定 した群のラベルとして, ま た プ ー ル と して 機 能 して い る

(

Br

e

e

d

,

1

99

8

)

.

情報の調節 (1)情報伝達の場を設 けることによる効率化 閉鎖空間に営巣するセイヨウ ミツパテでは, 外勤蜂が花か ら集め,蜜胃 (タンク)に入れて 持ち帰 った蜜を貯蜜係 (内勤蜂)へ受 け渡す場 が巣門近 くに用意 されている.そこが同時に蜜 源情報を未稼働の外勤蜂へ伝える情報伝達の場 ともなっている. これにより外出のスタンバイ 状態で情報 を待 ち受 けて いる蜂が多 くいる中 で, ダンスによる情報が発信 されることになり 効率化が図 られる

(

Se

e

l

e

y,1

99

5

)

.

一方,同 じ ダンスで も内勤蜂を含めた群の全員 に tt引 っ越 し"することを動機づけるための

a

b

s

c

o

ndi

ng

da

nc

e

の情報 は,通常の採餌のための情報伝達 の場に限 らず,巣内のあ らゆる場所でランダム に発信 される

(

Sa

s

a

ki

,1

99

0

)

.

(

2)

発信持続時間を変えることによる調節 2の

(

2

)

で述べた採餌 ダンスによる情報表現で は, 2つの場面で情報の 「発信時間」が重要 な 意味を もっている.第1は餌場 までの距離 (逮 常

1

0

0m

か ら

5km

程度)を ダンスの

1

回転 ご とに発信 される音の長 さ

(

0

ふ4

秒程度)甘情報 表現する点,第2は蜜源の善 し悪 し (蜜の糖濃 皮,量,巣箱か らの距離)を, ダンスを何回転 踊 るか (何回発信音を繰 り返すかエビの くらい 長 く踊 るか) という形で表現する点である.つ 最も敏 感 反応閥値 低

>

高 最も鈍感 刺激レベルが高い時 最も敏 感 反応闇値 低 さ 高 最も鈍 感 図

5

状況が変わったときの群の中の異父姉妹グループ

(

S

u

b

f

a

mi

l

y

)

間でのある仕事への従事率の違いを 示す反応閥値モデル

(

Ro

b

l

n

S

O

na

n

dP

a

g

e

,1

9

8

9

より一部改変)

(6)

12・1 距雌の測'irと 方位の誰 .級

@

距 脈の測定と )3'位の.b'cJ.訂蛇 デコーディング コード化と Il乍軸の発ィ.=.J

(

--1ヽコロニーレベルでの採._ノl 餌所軌調 節 安 閑 図6 典型的な郡内の採餌に従事する蜂の割合(A)と採餌活動の調節メカニズ ム (B)25%程度が外勤蜂として探餌に当たる.その大部分は既知の塞源 に通い,ごくわずかが新 しい蜜 (花粉)源を開拓する.内勤から新 しく外 勤蜂になったものや今まで通 っていた花に蜜がなくなったものはいい塞 源のニュースに反応する (AはSeeley,1995より作図) ま り花 で蜜 を集 めて帰巣 して も必ず踊 るとい う もので はな く,蜜源の評価 が低 ければ 自身で何 回か通 うだけで 「宣伝」 は しない. それが総合 評 価 が高 けれ ば5分 間以上 も踊 り続 け る こと にな り, そ うすればその情事削こ従 って リクルー トされた蜂達が, また同 じ蜜源 を宣伝 して次 々 に踊 り始 め,短時間の うちに情報量 は雪だ るま 式 に増 え る. そのよ うに して時空間的 に刻 々と 移 り変わ る良質 の蜜源への群 レベルでの集中訪 花 が可能 になる (Seeley,1995). (3)反応闇値 に多様性 をもたせる ことによる調 節 と予備群 の意義 ミツパ テの群 内で, たとえば巣 の補修が必要 にな った場合

,

「巣が傷っ いて いる」とい う一種 の情報 が存在す ることにな る. このよ うな仕事 の必要性 を示す各種 の情報 に対 し,個 々の蜂 は 様 々な感度でそれに反応す る. それ によ り仕事 の必要度 に応 じて, まず敏 感 な ものか ら, それ で足 りなければ もう少 し鈍感 な もの まで従事す るとい う調節 (効率化)が可能 となる (図5). その感度 の違 いを産 む主 な要因 は2種 で,一つ が加齢 に伴 う生理状態の違 い, もう一つが2の (5)の 1) で述 べた働 き蜂達 の遺伝的違 いであ る,死体 の処理 や グルー ミングなどに長時 日専 門 に携わ るスペ シャ リス トの存在 も知 られてい るが, その成因 に も遺伝的 な面 が強 く関わ って い るよ うである. ここで は,働かず,従 って無 駄 なエネルギーの消費 を抑 えて じっと している "予備群" にあた る多 くの蜂 の存在 も重要 な意 味 を もって くる.

(

4)

モー ドの設定 による行動出力の調節 前項 の反応閥値 の違 いによる応答の有無や強 弱が,群構成員の大多数 に効 いているよ うな場 合 は,群 と して特定のモー ドに設定 され ると解 す ことが出来 る.繁殖期のみに雄 を生産 して い る時,分蜂 や逃居の準備状態 にある時, スズメ バ チの攻撃 に対 し防戦体勢 を しいている時, な どである. ニホ ン ミツパ テがオオスズメバチの 攻撃 に応戦 して いるモー ドでは,周囲 に花がた

(7)

くさん咲 いていて も採餌 を中止 した り

,

「熱殺」 の準備態勢 と して体温 を上 げたプ レヒー トの状 態 で 待 ち か ま え て い た りす る (Ono eta1., 1995).同 じアラームフェロモ ンの信号 に対 し て異 なる行動 出力がプ ログラムされて いる場合 もあ る. また,群 と して あるモー ドに設定 され るとい って も, それを決 めて いるのは個 々の蜂 の脳 内 の状 態 で あ り,稀 に は群 内で意 見 が割 れ,一 時的 に2つのモー ドが共存す る場合 もあ る. 情 報 の保 存 一学 習 と記 憶 -コロニー機構 を論 じる上で記憶 と学習の関与 はきわめて重要 であ る. その証拠 にこれ らの機 能 を司 ると考 え られてい る脳 のキノコ体 の発達 は社会性昆虫で著 しい. これ まで花 の色 や形, 匂 いなどを識別,記憶 す ることはよ く解析 され て きたが, その他 の場面 に対 しての解析 はほと んど進んでいない. ここでは情報 の保存 システ ムとい う観点か ら2つの例 を挙 げる. (1)時刻学習 ミツバ チが採餌 を効率化す る方法 の一 つ と し て時刻学習がで きることは古 くBeling(1929) によ り明 らか にされた. ある花の開花,流蜜時 刻 に合 わせて一 日のある時間帯が来 ると時刻記 憶が働 き, その花の ところへ飛 んでゆ く. その 時間帯 を過 ぎると翌 日まで もうその ことは思 い 出さない システムであ り,花側 との共進化 の見 事 な例で もある. これは配偶行動時刻 が遺伝的 に決 め られ るの とは全 く異 な る時計 の使 い方 で ある (Sasaki,1990). (2)巣仲間識別 にお ける記憶の役割 ミツ/ヾチは巣仲間の識別 に自分 の巣 内環境臭 (蜂 の体表 に も吸着 を し, また常時発散 も して いる)や,峰 の体表 ワックスの化学組成情報 を 記憶 し, これを脳内のテ ンプ レー トと して持 っ ていて, それ と照合す る形 で同巣 の仲間か侵入 者 かを見分 けていると考 え られ る. これ らの認 識指標 と して使 われ る情報, と くに環境臭 は季 節 の進行 などに伴 って ダイナ ミックに変容 して いる.従 って ここでは 「刷 り込み」 のよ うな恒 久的な記憶で はな く,常 に新 しい記憶 内容 に塗 り替 え,消去 (またはマスク)で きるタイプの 情報 の保持 メ カニズ ムが働 いて い るはずで あ る, これ も情報 システムにおける重要 な構成要 素 であろ う. 単 純 な原 理 に よ る シス テ ム全 体 の制 御 最後 に,それのみで現実 に群が制御 されてい るとは言 えないまで も,単純 な原理 が群全体 の 制 御効率 を上 げて い る と とれ る見方 を2例挙 げてお く. 第 1はCamazine(1991)が考 えた花粉 の利 用 に関す るものである. セイ ヨウ ミツバチの巣 は巣板が何枚 も並んで立体的な構造 にな ってい て, その中央部 が育児圏 と して使 われ る.幼虫 の栄養源 とな る花粉 は以前か らこの育児圏の廻 りを取 り囲むよ うに貯蔵 され ると考 え られて き た. しか しCamazineによれば,花粉 を採 って きた外勤蜂 はランダムに これを貯蔵 し,育児を 担当す る若 い蜂が幼虫の いるエ リアか ら一番近 いところか ら貯蔵花粉 を消費す るために独特 の パ ター ンとな る とい う.「一番手近 か な ところ か ら花粉 を使 う」 とい う単純 な行動 が効 いてい た との解釈であ る. これ は空 いた ところへ女王 が卵 を産 む ことによ り,温度(35±loC)など恒 常性が要求 され る蜂児圏 を コア部分 に維持す る 効果 もあると考 え られ る. 第2はす で に述 べ た採 餌活動 の調 節 にお け る 「待 ち時間」の意義 で ある (図 6).良 い蜜源 か ら帰 った蜂 は興奮状態 で, その場所 を ダンス で宣伝 しよ うとす る. しか しダンスの前 に採取 して きた蜜 を貯蜜係 の蜂 に渡 す プ ロセ スが あ る.蜜が巣 内に不足 して いる状態で は貯蜜係 は す ぐに仕事 が済んで待 ちか まえているので,帰 巣蜂 は興奮状態のまま踊 って宣伝す ることがで き,採餌が進 む.一方貯蜜が十分 にあ ると空 き 巣房が限 られ,貯蜜係が それを探 し出すのに時 間がかか る. そ うい う状態で は帰巣蜂 は長 く持 たされ, その うちに宣伝意欲が低下 してい って

(8)

iF粥 しまう. このよ うして巣内の貯蜜状態が採餌の 情報処理過程 にフィー ドバ ック し,蜜の必要 な 状態では採餌を盛んに し,貯蜜が十分な時 には 採餌を抑制 して無駄 なエネルギーの消費を省 く 系が成 り立 っていると考え られる. (〒19418610 町田市玉川学園6-i-1 玉川大学) 参考文献

Breed,M.D,1998.1N Pheromone Communic a-tionlnSociaHnsects(Eds Meel・,R I(.etal). pp 57-78

Camazlne,S.1991.Behav.EcoI SoclObiol.28:

6ト76.

Frisch,K von.1967TheDaIICeLanguagealld OrlentatlOnOfBees.Harva1-dUlllVPl・eSS ,Cam-brldge.

Fuchs,S.and N.Koeniger.1974.Apidologie5:

271-287.

MIChelsen,A,W.H.Kirchnel-andM.LmdaueI・. 1986.Behav Ecol.SociobioL18:207-212. Milum,U.1995.Am.BeeI.95・971104, Nieh,J.C.1998.Behav.EcoISoclObiol

.42:23-36.

Ohtani,T.and T.Kamada.1980.J Apic.Res. 19:154-163.

Ono,M,T.工garashi,E.Ohno alld M.Sasakl. 1995.Nature377:334-336

Pens,Y.IS.,Y.Fang,S.Xu and L.Ge.1987.J. Invertebr.PatllOl.49:54-60.

Sandeman,D.C.,I.Tautz and m,Lindauer 1996.∫.Exp.BIOl.199 2585-2594.

Sasaki,M.1990.IN Soclallnsectl・Sandtll eEn-vironment (Eds.Veeresh.G.K.etal.).pp.

125-126.

Sasaki,M.1990.Adv.111Vert.Repr od.5:503-508.

Sasaki,M.1992.IN CircadianClocksfrom Cell to Hunlall (Eds. Hisoshlge, T. and T. Homma).pp 189-199.

Sasaki,M.M.OnoandT.Yoshida.1995.1N The

AsiaticHiveBee(Ed.Kevan,P.).pp.59-78. Seeley,T.1995.TheWisdom oftheHive.liar

-vardUniv Press.295pp.

Winston,M.L and K.N.Slessor.1992.Am. Sclentist(1992)・374-385. 編 集部 よ り 本 記事 は財団 法人 マイ クロマ シ ンセ ンターの許諾 を 得て,「平成9年度 マイ クロマ シンの基礎技術 の研究 (本編)」に掲載 された 「昆虫の社会構造維持のための 情 報 伝達 の諸相」 を ミソバ チ科学 用 に ア レンジ して 転載 した ものである.

SASAlくL MASAMI Diversity of informatioll -deliverysystemslnhoneybees.1:IoneybeeScヱenCe (1999)20(2).1191126, Faculty ofAgncu]ture,

Tamagawa Univel-Sity,Machlda,Tokyo,1941 8610Japan.

Infol.mation-delivery systemsevolved in hon-eybee colonies were classirled into 負ve categories.Theyare:1)one-wayflow ofsigna一 transmisslOn between two llldividuals,

represented by begging orsllaklng Signal,2) one-way flow f1-0IT1 One tO few individuals,

1-epleSented by groomlllg O】- tai1-waggling dance, 3) one-way from one to many,

1`epl-eSentedbyqueenpiping,4)relay-111annered dユSPerSIOn,representedbyshimmerill gOlabdo-men shaking in Apis cel・ana,and 5) two or multl-Way tranSmlSSion alT10ng many,

represented by socialsynchronization of the clockphaseormi xingofinformativebodysur -facewax.

Featuresln thelegulatjon ofinformat10n r

e-latedtoestablishmentofrleldfortheernlSSion,

dul`atlOn Of the emission,response tllreSllOld,

socialmodes,storageormemor'ywerealsodis -cussed.

参照

関連したドキュメント

ところで、ドイツでは、目的が明確に定められている制度的場面において、接触の開始

1.4.2 流れの条件を変えるもの

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配

の総体と言える。事例の客観的な情報とは、事例に関わる人の感性によって多様な色付けが行われ

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

脱型時期などの違いが強度発現に大きな差を及ぼすと

あれば、その逸脱に対しては N400 が惹起され、 ELAN や P600 は惹起しないと 考えられる。もし、シカの認可処理に統語的処理と意味的処理の両方が関わっ