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20世紀の名著名論:Erwin Schr?dinger:What is Life?

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Academic year: 2021

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(1)20 世紀の名著名論 Erwin Schrödinger:What is Life? Cambridge University Press (1944) 本書は,生物細胞が保持する遺伝的情報が,たった. あり,多彩な情報を表現し得るための不均一性と,驚く. 1 コピー程度の極微の分子の構造として「コード化」さ. ほどの安定性とを兼ね備えた「未知の結晶構造」でなけ. れているだろうことを,当時のいくつかの実験事実から. ればならないとの推理を深めていく過程である.. 大胆に予言し,分子生物学の扉を開く啓示を与えたとも. 60 年後の未来人である我々は美しい正解を知ってい. 評価される歴史的エッセーである.. る.まるで犯人を先に知らされながら,物語の主人公の. 著者の Schrödinger は高名なノーベル賞物理学者であ. 刑事の苦闘ぶりと舌を巻く名推理を追う気分である.. り,1926 年に波動方程式の理論を含む一連の論文を発表. X 線照射量と突然変異に関する当時の研究からは, 「遺. して量子力学の確立に寄与した.今日我々が半導体の物. 伝子」が各細胞に 1 コピーしかなく,しかも千原子程度. 性や化学反応を正確に理解し,計算機シミュレーション. の極微領域に局在するらしいと見積もられた.1 コピー. を行えるのは彼の業績に負うものである.. だけの不安定そうな極微構造と,何億年も受け継がれる. しかし,いくら天才物理学者が執筆したからといって,. 情報安定性との矛盾に著者の興味が注がれる(結局は本. 本書は今でも名著なのだろうか? 「生命とは何か」につ. 書を愛読した Watson と Crick らが 1953 年に DNA の相. いて,ゲノム配列はおろか DNA の役割すら発見されて. 補的二重鎖構造を発見し,情報表現力と安定性の両立,. いない時代に何が語れるだろうか? たび重なる移住を. 複製や誤り修復の機構が理解される) .. 繰り返した果てに,ダブリン高等研究所で統一場理論や. DNA 分子による極微の情報表現では,一方で熱雑音. インド哲学に傾斜していった彼が,単なる受け売りを超. に左右されない堅牢な決定論的動作を実現しつつ,他方. えた生命の論説を当時書けたのであろうか?. では放射線による突然変異や生殖時の確率論的組み替え. 著者は一介の物理学者が生命を語ることの非常識を深. の機会も準備されている.箱に閉じこめられた彼の哀れ. い謙遜とともに詫びた上で,生命を平易に語り始める.. な猫ほどではないにしろ,ミクロな量子的現象の一撃が,. 最初の問いは「なぜ原子は小さいのか?」 .意表をつ. 我々のマクロな運命を左右し得るのである.. く導入部だ.むろん真に問いたいことは「なぜ我々の体. 異分野の知見を総動員してモデルを構築していく展開. は原子に比べて巨大なのか?」である(少し計算してみ. は,まさに学際研究の模範例であり,現代の我々にも勇. よう.原子の世界の大きさである 1 Åを 1cm に換算する. 気を与えてくれる.ただしそれは放射線研究や植物遺伝. と,DNA 二重らせんの太さは約 20cm,細胞膜の厚みは. 学をも含む彼の多彩な学識に支えられたものである.. 1m 弱だが,ヒトの体細胞はなんと直径 1 ~ 3km に相当. 本書には「生命は負のエントロピーを喰らう」との有. する.人体にはそんな細胞が約 60 兆個もある) .. 名な論述もある.これは,外界からエネルギーを得て,. 続いて,もしも生命体が極微の存在だとしたら,ブラ. 自己複製と物質代謝を行い,不要なエントロピーを排出. ウン運動に妨げられてまともな機能が果たせないという. する機械には広く当てはまる言及であり,生命そのもの. 話が語られる.生活に密着したユーモアを交えながら議. の定義だとは現代では言い難い.しかし後年の散逸構造. 論は進行する.しかし実は著者は,ブラウン運動に対抗. 論や環境思想等への影響力は巨大であった.. する目的だけで細胞が大きくなったのではないことは百. 本書には邦訳があるようだが絶版で入手が難しい.遺. も承知の上で,我々の人生の運命の決定論と確率論にか. 伝学から哲学まで多岐な用語が登場するため,邦訳の必. かわる重大な議論を後半でする準備として,読者の理解. 要性は高い.現在では明らかに誤りとされる記述も多い. を得るための伏線をここで張っているのである.. ため,解説を併せて提供するのが有益であろう.. 本書の一番の山場は,当時遺伝学者が染色体上に並ん. 彼が遺した生物の大きさの質問に答えるには,生体内. だ神秘的な存在として認識しはじめていた「遺伝子」に. の物質と情報の経済学を創成する必要がありそうだ.. ついて,それが分子構造としてコード化された記号列で. (平成 18 年 1 月 22 日受付). 秋山 泰/産業技術総合研究所生命情報科学研究センター [email protected]. 314. 47 巻 3 号 情報処理 2006 年 3 月.

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