微生物の潜在能力の活用と制御

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微生物の潜在能力の活用と制御

大学院工学研究院・大学院総合化学院 教授

大利

だいり

とおる

(工学部応用理工系学科応用化学コース)

専門分野 : 応用微生物学,生化学,天然物化学

研究のキーワード : 微生物,DNA,酵素,代謝,バイオテクノロジー

HP アドレス : http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/tre/

微生物の多様性

皆さんは、地球上に最も多く存在する生物は何だと思いますか?答えは微生物です。微

生物は土壌1グラム中に108個も存在すると言われています。筆者はそれら微生物を単離 し有効活用することを目指しているのですが、残念ながら一部の微生物しか人工的に増や

すことが出来ません。しかし近年、微生物の設計図であるDNAの塩基配列(塩基であるA、

C、G、Tの並び)解析技術が格段に進歩し、微生物を単離・培養しなくてもDNAを直接

試験内で増幅し塩基配列の決定ができるようになりました。その結果、これまで考えられ

ていた以上に、微生物には多様性があることが解ってきました。

微生物のゲノム(DNA)の大きさは200万から900万塩基対から成り立っており、1つ

の遺伝子の平均の大きさが1,000塩基からなると仮定すると、微生物は200万-900万/1,000

= 2,000-9,000個の遺伝子を持つと予想されます。しかし、機能が分かっている遺伝子は、

その半分強に限られ、残る遺伝子の機能は解明されていません。

しかし近年の遺伝子工学技術の進歩により、設計図であるDNAの塩基配列が分かれば、

組換え酵素を調製しそれらの機能を調べることが出来るようになりました。そこで筆者の

研究室では、以下に述べるように、微生物の機能未知遺伝子の活用と制御を目指して研究

を行っています。

微生物を用いたモノ造り

微生物の中にはヒトに役立つものが多くいます。身近なところでは、日本酒や醤油の製

造に欠かせないカビの一種である

麹菌、アルコール発酵やパン製造

に用いられる酵母、ヨーグルトや

漬物に欠かせない乳酸菌など多く

の微生物がヒトの暮らしと密接に

関係しています。さらに、お餅に

生える青カビは見た目が悪いので

すが、かつてペニシリンという世

界初の抗生物質の生産に用いられ

多くのヒトの命を救った恩人なの

です。その後、多くの抗生物質が

出身高校:富山県立富山高校

最終学歴:名古屋大学大学院農学研究科 生体工学

生合成工学によるプロセス改良のイメージ 酵 素 触媒 薬 の 基を

作 る 微 生物

医薬品候補

・毒性 ・水溶性 DNA

( 設 計図)

酵素触媒

DNA

( 設 計図) 遺 伝 子 工 学 情 報 生 物 学

設計図改変 実用医薬品 有機合成 HO O

OAc H

OCH3 H

OH O

OAc HO OH

O

H

OCH3 HO

HO O O HO

O O O

O OCH3

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微生物の培養液中に発見され実際の医薬品として開発されてきました。しかしその多くは、

水溶性を上げるため、また毒性を軽減させるため、微生物が作った化合物を有機化学反応

で改変して使われています。その際に高温高圧の化学反応が必要な場合も多く、環境負荷

やコスト面で問題となります。そこで筆者の研究室では、工学におけるモノ造りという観

点から、薬の原料の効率的生産プロセスの開発を試みています。具体的には微生物がこれ

ら抗生物質の原料を作りあげる際に使う酵素触媒やその設計図となるDNAを詳細に解析

し、これらを改変、あるいは上手く組み合わせることで、より有用な原料の生産を試みて

います。

新規作用を持つ抗生物質の開発

微生物の中にはヒトに害になるものもたくさんいます。結核菌、緑膿菌、病原性大腸菌

をはじめ、健常人には無害ですが、病気をされた方や高齢者など免疫機能が衰えた方に感

染する日和見感染菌も害になる微生物です。ペニシリンに代表される抗生物質は、これま

で「細胞壁」など、ヒトには無く、微生物が特異的に持つ「構造体」をターゲットに、こ

れらの合成を止める薬剤を探索することにより開発されてきました。この方法は大成功を

収めましたが、反面ヒトに役立つ乳酸菌なども十把一絡げに殺すため、抗生物質が全く効

かない多剤耐性菌が出現する原因となりました。特に近年、既存の抗生物質が全く効かな

い病原菌が出現し社会問題化しています。そこで筆者の研究室では、病原菌のDNA配列の

データベースを精査することにより、特定の病原菌に特異的な代謝経路を探索しています。

一つの成果として、胃がんの

原因菌であるピロリ菌は、呼

吸に必須なメナキノンという

化合物を全く新しい経路で合

成することを見出しました。

現在、この新規経路を止める

抗生物質の探索を行っていま

す。上手く見つけることが出

来れば、乳酸菌など腸内の有

用な微生物には影響を及ぼさ

ず、ピロリ菌のみを特異的に

死 滅 さ せ る 抗 生 物 質 の 開 発

(テーラーメイド医療)がで

きると期待されます。

参考書

(1) 長野哲雄(監訳),『マクマリー生化学反応機構-ケミカルバイオロジー理解のため

に-』,東京化学同人(ISBN978-4-8079-0648-2)

(2) Antibiotics –Action, Origins, Resistance–, Christopher Walsh, ASM Press 新規作用を持つ抗生物質開発のイメージ

ゲ ノ ム情報から病原菌と有用微生物 (乳 酸菌等) の 仕 組みの違いを探索

有用微生物

生育するのに 必須な経路

病原菌だけを殺す抗菌剤開発

病原菌

生育するのに 必須な経路

真核生物(人間)と原核生物(微生物)の仕組みの違いを利用

(十把一絡げ 多剤耐性菌の出現!!)

ATCTG TAAT・・

違いは?

- 既 存 の 抗 生物

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参照

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