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石彫における星取り技法の研究

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Academic year: 2021

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(1)Title. 石彫における星取り技法の研究. Author(s). 中村, 和雄. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 54(2): 83-91. Issue Date. 2004-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/774. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第54巻 第2号. JournalofHokkaidoUniversityofEducation(HumanitiesandSocialSciences)vol.54,No.2. 平成16年2月. February,2004. 石彫における星取り技法の研究. 中 村 和 雄 北海道教育大学札幌校 彫刻研究室. 1.はじめに. 本論文の執筆にあたり,動機となったことば,彫刻作品を制作する上で常に課題となってきた本制作に取 り掛かる前の試作品やエスキース,つまり原型をどこまで制作過程のなかで使用すべきかという問題であっ た.これまでの私の制作過程のなかでは原型の使用は作品のイメージや雰囲気の確認に止めており,それ以 上の使用価値を認めないといった姿勢であった.その理由として,石という実材の持っエネルギー(量感や 生命感)を大切にするあまり,イメージや雰囲気の確認以上の使用をすることによって石に内在するそれら のエネルギーを失うことを恐れた結果であった.しかし,このような枠にとらわれて考えていたために,雰 囲気だけが強調され,形体的に甘く,密度のない彫刻作品を生むことへとつながっていったのではないかと 気付いてきた.彫刻制作の過程のなかで原型からはいっか離れなければいけないことは当然のことであるが, 原型のなかで十二分に検討された形体の良さが彫刻作品上に表出するまで辛抱強く待っべきであり,それら が作品上に表出された時点で原型から離れるべきであったのではないかと考えるに至った. このような試行錯誤を繰り返す中で,原型の大切さ,作品制作に使用する実材を想定した原型作りの大切 さを思い知ることとなったのであるが,いくら良い原型があったとしてもそれを正確に作品上に写し取らな ければ原型使用の意味を失うこととなる.視覚を頼りに原型を写し取ることは当然考えられることではある が,石という実相においては,内在するエネルギーが強く視覚的な錯覚を起こすことが多い.これらの失敗 をなくすためには客観的な計測が必要となり,そのための用具として星取り機(コンパス)が上げられる. 市販されている星取り機は高価なものであり使用にも熟練を要し,初心者には実に扱いにくいものである が,現在制作中の作品を通して,新たに,初心者にも扱いやすく原型の良さを作品上に写し取ることに十分 効果が期待できる簡易星取り機を考案することができたのである.. まだ多くの改良点が考えられるものではあるが,彫刻制作を目指す学生達の幾ばくかの助けとなることを 期待するものである.. 2.彫刻における星月文り技法. 彫刻制作のなかで星取り技法を使うことは,わかりやすく説明すれば完成作品と寸分違わぬ原型があり, その原型の形を星取り機(コンパス)を使って完成作品となる素材に写し取る技法である.. 星取り技法を使うことは,欧米において馴染み深いことでありその歴史も古い.現在一般的に使用されて いる星取り機が存在しなかったであろうギリシャの時代においても,その原理を応用し制作されたことであ ろうことはその作品群からも容易に推測できる.特に,北イタリア,バルカン,アナトリア地方で産出され る大理石(マーブル)は,石材としての硬度や粘度の点において細かな細工が可能であり,星取り技法の応 83.

(3) 中 村 和 雄. 用には最適な彫刻素材であった.. 星取り技法は使用に際して条件があり,その条件を備えた彫刻素材を使用することで十分な成果を得るこ とが出来る.その条件とは,材質の硬度すなわち軟らかさであり,手で持った彫刻刀ないし刃物状に先の鋭 いノミにより素材表面数ミリを削ることが可能かどうかが問題となる.彫刻刀ないしノミにより素材表面数 ミリを削ることが出来ないような硬さを持った素材では,硬さに負け不正確なポイント作りをしてしまうか 素材表面を無用に傷っけてしまうか,あるいは適正なポイントを過ぎて彫りすぎてしまうといった失敗につ ながる恐れがあり,期待する十分な成果を得ることが出来ない.. このように,彫刻制作のなかで使用する際の材質条件を考えると,おのずと使用可能な材料,素材が限定. される.すなわち我々が一般的に自にする素材として,木(黒檀や樫といった硬度の高いものは不向き),石 (大理石程度の硬度のものないしそれ以下の硬度のもの)があげられる.木や石といった素材は上記に挙げ た条件がついたとしても容易に入手できる最適な素材といえる.. 星取り技法は,日本国内では作品制作に際して特殊技法として知られてはいるが,原型から完成作品素材 に正確に形を写し取る作業のみが強調され,一般的な彫刻技法として認知されていない現状である.確かに, この技法を過度に使用することば職人的な作業に終始することであり,芸術家が常に求める自由奔放な創造 的制作スタイルや素材との対話といった問題に突き当たってしまうであろう.しかし,この問題は星取り技 法の負の効力のみをクローズアップした見解であり,彫刻制作に際して屋取り技法が彫刻に与える正の効力 にも自を向ける必要があるのではないだろうかと考えるのである.. 3.彫刻の魅力と星取り技法. 前章で述べたように,この技法を彫刻制作の中でいかに「正の効力」として利用できるかが彫刻作品制作 の幅を大きく広げるポイントとなるであろう.ある彫刻家は次のように言うかもしれない.「作品と原型の 関係について言えば,原型とは作品制作の上での道標であり,形体上の大きな流れや彫刻から醸し出される 雰囲気を確認する程度のものであり,決して作品制作の最後まで原型に拘束されるべきではない.形体上の 大きな流れや彫刻から醸し出される雰囲気の確認さえすめば,彫刻素材との[制作を通しての対話]が大切 である.」あるいは,「彫刻素材すなわち木や石といった彫刻実材には自然界のエネルギーが内在している. このエネルギーを自ら作り出そうとする形体と融合させることが,[素晴らしい]と鑑賞する人々を感動さ せる力となるのである.したがって,原型は彫刻制作のある時期からは放棄すべきであり,その後の制作に おいては実材との対話,自らの彫刻家としての感性に導かれるべきである.」 別の彫刻家がこれらの意見に反論する.「彫刻制作をする上で原型作りは必要不可欠な大切なものである.. 実材との対話もその必要性を否定できないが,実材の持つエネルギーに翻弄され自らが目指す形体すら見失 うこととならないであろうか.彫刻を制作する上で,自らが創造した形体が主体であり実材に内包されたエ ネルギーとの融合はあくまでも客体である.たとえ不十分な成果であってもその彫刻が持っべき運命ではな かったのではないか.主体が曖昧であったとすればどうして素晴らしい彫刻作品が生み出せようか.原型作 りには,使用するであろうその実材のエネルギーすら事前に,十分に検討材料として考慮しておかねばなら ないものではないか.」. 「彫刻作品一般と原型」ということでこの間題について考えるならば,どちらも正しいといえるかもしれな い.しかし,双方の彫刻家の主張の中には実際に彫刻制作に使用されるであろう素材にたいする検討が十分 になされているのであろうか.. 彫刻制作に使用される素材が塑像(モデリング)制作に使用される粘土であるのか,彫刻(カービング) 8.1.

(4) 石彫における星取り技法の研究. 制作に使用される木や石であるのかという問題である.カービングとは塊の素材(実材)を削ることで彫刻 作品を作り上げる方法であるが,基本的には,粘土素材のように削ったり付けたりといった可塑性を求める ことが出来ないことが特徴といえる.木彫では例外的に寄木や接合といった技法が使われるが,彫刻表面の 造形に関しては木彫であるか石彫であるかの例外なく彫刻制作の最後のノミの一削りにその彫刻の真価が問 われるのであり,やり直しのきかない真剣勝負ともいえる.. また,前章でも述べたように,木や石といった実材はその存在自体が見る者に強いエネルギー(存在感) を感じさせるものであり,制作に取り組む彫刻家にたいしても同様の力の働きがある.ともすれば実材に内 包されたこの強いエネルギーに翻弄され,制作意図とはかけ離れた作品へと変貌してしまう結果ともなりか ねない.. 石彫制作を経験した私が学んだことは,彫刻(カービング)制作に取り組むに際して,素材自体に可塑性 を求められないことや彫刻実相に内包されたエネルギーに翻弄されないためにも十二分に検討されたしっか. りとした原型が必要であるということである.たしかに彫刻素材に内包するエネルギーを無視することば出 来ないが,過度の期待をかけ過ぎることば彫刻自体の形体を甘くし密度のない作品へとつながる恐れがある ものである.. また,十二分に検討されたしっかりとした原型があったとしても,正確に完成作品素材に写し取ることが 可能であるかどうかといった問題が残る.彫刻家の視覚のみに頼るあまり,木彫や石彫において最後の一削 りによって彫刻の真価が問われるという厳しい現実に負けて曖昧さを残した制作を続けることは,作品制作 の混乱と失敗を招く元凶となるものである.やばり,原型を正確に完成作品素材に写し取るためには制作者 の視覚の曖昧さや実材の強いエネルギーに翻弄されないためにも「客観的に計測してくれる技法」すなわち 「星取り技法」の使用が必要なのである.. 4.石彫制作における星取り技法必要用具と使用概要. 星取り技法とは,前章でも触れたように原型を屋取り機一コンパス(写真1)を使い完戒作品素材である 木や石に多くのポイントを写し取ることによって作品を制作する 技法である.. この茸では,石彫における星取りについて述べてみたい.市 販されている足取り機は,頭像程度の大きさ(高さ30cm)から人 体の等身大程度の大きさに対応できる機能があり,全体が真輪製 で作られている.足取り機の構造は,写真1のように支柱に横棒 を支柱下部に取り付け,支柱上部にL字型棒を取り付けることで 支柱を安定,固定させている.. この支柱は,星取り機の腕に当たる部分を固定するもので,腕 に当たる部分には3箇所の関節部があり,この関節部を稼動させ ることにより原型のあらゆるポイントを探り,そのポイントを完 成作品素材である石に写し取ることが可能となる.. 腕関節の最後の部分にはスライド式の員録針があり(写真2) この針先を原型上のポイントに合わせ針尾部にあるネジを締める ことで目指すポイントを決定する.. 次に,完成作品素材である石に星取り機をセットし目指すポイ.

(5) 中 村 和 雄. ント部分の余分な石をノミを使って削り落とし,スライド針が針 尾部のネジで固定された位置まで彫り進むことで原型ポイントを ■l㌻. 石に写し取ることが出来る.. 原型と石材には,星取り機をセットするための座金を双方3箇 所づっ石膏で固定する.この時注意することは,石材の方が原型 小. −..ト. 篭. より縦,横,奥行き共に2cm程度大きめで,原型全体がゆとりを 持って石材に収まるように座金の位置決めを慎重に行うことが大. 誓。要一hと事、f盲一tl. 切である. また,石材の中に位置するポイント近くの石を削る際は,大王雫. 石用の櫛刃ノミ(写真3)を使い丁寧にさらうように彫り進み, 最後に先端を爪の形状に整形した3分平ノミ(写真4)を使い, 手で持って回転させる要領でポイントまで彫り進む(写真5).. 以上が星取り機,その他の道具と使用法及び原型ポイントを石. 写真2. に移す際の概略である.. 市販されている星取り機は高価なものであると共に,取り扱い. ‥ ‥. が難しい.特に,3箇所ある関節部のネジをしっかりと締め固定 できなければ,せっかく原型から取り上げたポイントが石材上で 正しくそのポイントを示さないということになりかねない.正し 劇. く丁寧に取り扱うことでその効果があらわれるが,そのためには 時間と根気が必要な作業となることは聞達いのないところである. 石彫制作の中で星取り機を使用することは,効率化と正確さに おいて大変有効な技法であるが,上記理由により敬遠されること 開園. 間観. 闇層. 闇闇. }. が多く,日本においてこの技法が広く利用されない原因となって いる.. !「●1−・.ミ. ∴彗折原攣 ∴▲†「. ユー‥・.. 86.

(6) 石彫における星取り技法の研究. 5.簡易星取り機の考案. 市販されている星取り機が高価で取り扱いには十分な熟練が必要であることは前章でも述べた.特に,腕 関節が3箇所あり,最先端の腕関節にはスライド貞緑針があることから,不安定さが伴い,わずかな作業の いい加減さが正しいポイント指示を妨げるといった問題を引き起こす.何度も述べるように星取り技法の生 命部は正しいポイントの指示にある.その点の改善がなされない限り誰でも容易に使用する状況は望めない. 特に,初めて星取り技法を試みるものにとっては,星取り技法を試してみたものの熟練した技術がないため に制作途中でその技法を放棄してしまうかあるいは星取り技法の知識のみで終わってしまうことになりかね ない.. この点を改善するためには,星取り機の腕関節部の数を減らし,スライド針を無くすことが考えられる. この状況で,原型のあらゆるポイントを指し示すことが可能であり,その抜いが市販されている星取り機と 比べ容易に使用可能とならないであろうか.あるいは,市販されている星取り機と比べ,ポイントを正しく 指し示す精度の点ではやや劣る(但し,原型の良さを作品上に写し取ることに効果が期待できる程度で)も のの星取り技法に始めて挑戦する者でも容易に使用可能な物が出来ないであろうか. これら星取り技法にかかわる問題を解決する良いアイディアが浮かばなく,石彫制作に必要性を感じつつ も星取り機の使用をためらっていたが,解決法は意外に身近な道具からヒントを得ることが出来た.. 身近な道具とは,工芸製作に一般的に使用されるトースカンでありその単純な構造及び原理である.トー スカンそのものをあるいは卜一スカンの単純な構造だけを使って市販されている屋取り機の代用とすること には幾っかの解決しなければならない問題も残るが,3箇所ある腕関節やスライド針が無い分,ネジの締め方 からくる不安定,不正確さから開放され,初心者でも容易に取り扱うことが可能となる. トースカンの原‡聖,構造を応用した「簡易足取り機」に残る問題の一つが,市販されている星取り機が本. 来座金によって原型あるいは作品素材である石に固定され基準点が決められるのであるが,トースカンの原 理,構造を応用した簡易星取り機の場合,座金に変わる基準点作りが必要となる.. これには,原型を乗せ,安定,固定させる台を新たに作り,その台の底面を作品素材である石の底面と寸 分違わぬ形状にする.次に,それぞれの底辺の角から定規等を使い正確に距離を計り計測された位置に簡易. この際,原型を乗せる台と作品素材である石の底面の形を四. り機が接触する部分については面を出来る限り正確な垂直平面 としておくこと,. −. ..■■ll\. 角形とすること.また,底面近辺の四側面についても簡易異取. 機にある3箇所の腕関節がなく,調整ネジによって固定された 金属製の腕が一本あるのみである.この一本だけでは原型上の あらゆるポイントを指し示すことに難点が出てくるわけである. ∵. 次に残る問題は,簡易星取り機には,市販されている崖取り. トトト十††1守1斗﹂﹂∵. 星取り機を置くことで基準点を作ることが出来る.. が,市販されている星取り機のスライド針にあたる簡易星取り 機の金属腕の形状を数種類作ることで(写真6)解決が可能と なる.. 写真6で紹介した金属腕はあくまでも現在の制作に使用する 為に作られたものであり,これらによって全てのポイントを探 ! ることが出来るというものではない.制作に応じてさまぎまな トースカンの原理を応用した簡易星取り機 87.

(7) 中 村 和 雄. 形状の金属腕を考案する必要は当然ありうることである.特. 、−一、 1 1. に,写真6に示した3本の金属腕だけでは前後,左右,上下 方向のポイントを探ることには問題は少ないが,斜め方向に たいするポイント探りに不正確さが残るという問題がある.. この問題を解決すべく試行錯誤の結果,改良型の簡易星取 り機を製作した.これもトースカンの原理,構造を利用した ものであるが,金属腕を支える支柱を丸棒とし,調整ネジに. よって360度回転する構造とし,それまでの斜め方向にたい するポイント探りの弱点を克服した.また,これまでの板状 の金属腕を,丸の細棒とし,この1本の金属脱が調整ネジに よって360度回転ことによりこれまでの前後,左右,上下のポ イントを探る機能を持たせた(図1).. この改良型の簡易星取り機はそれまでのものより格段に優 れた性能を持つものではあるが,支柱及び金属腕を調整固定 ヴ. するための調整ネジが2箇所となってしまった.このことが. . 一.」一. 改良前の簡易塵取り機の扱いやすさに比べ,原型上のポイン トを探る際手間がかかるという欠点となってしまった. また,支柱及び金属腕に丸棒を使用したことが,優れた利. 点であると共に調整ネジを強く締めたとしても使用中にずれ やすいという欠点も共有することとなってしまった.. いずれにせよ,まだまだ工夫改良する余地の多い簡易星取 り機であることばたしかである.. 現在は,基本型の簡易星取り機に斜め方向のポイントを探 る機能を持たせるべく,支柱を支える台に回転機能を持たせ る工夫改良を行っている.. 6.簡易星取り機の使用実例 一大理石彫刻作品「ウスクダル」から. ここでは,現在制作中の大理石彫刻作品「ウスクダル」(60. cm x60cm X240cm)の右腕の制作を簡易星取り機の使用実例 として紹介する.. 右腕は人体体幹部と接着接合する形式の作品であり,左腕 についても右腕同様に簡易星取り機により原型から形を写し. 区=. 取り人体体幹部に接着接合されている.左右両腕の原型は石 膏で作り,人体体幹部との接合調整を繰り返し行い,形態的な不釣合いや接合面の密着度を高める努力がな されている.. 制作手順としては,完成作品素材の用意から始めることとする.今回の右腕の制作にあたっての使用材料 を大理石とし,右腕原型が余裕を持って入る寸法(縦,横,奥行き共に2∼3cmていど原型寸法より余分を 持つこと)の立方体として切り出した.この時,特に注意することば,簡易星取り機使用の際の基準点,基 88.

(8) 石彫における星取り技法の研究. 準面が大理石底面に接する4側面に作られることから大理石を正確な立方体とすることが必要となる.石彫 制作を何度か経験した者にとっては容易に加工可能なことであるが,石材業者に依頼することでまったくの 初心者であったとしても準備が出来る.. 次に,右腕石膏原型を固定,安定させるための木製台を製作する(写真7).今回は,木の板材を使って台 の製作を行った.木製台については大理石例の基準と同じ基準を設けるために,大理石底面とまったく同じ 寸法,形体とした.. 星取り作業は,原型を乗せた台に簡易足取り機の台を密着させ,原型上の任意のポイントを金属腕の先端 で指し示し,簡易星取り機の調整ネジを締めることで原型上の3次元ポイントを拾うことができる(写真8).. 写真8. 3次元ポイントを拾い終わった際,簡易星取り機を動 かさないように注意しながら,原型を乗せた台のコーナ ー基準点から簡易星取り機の台側面までの距離を定規を 使い正確に計測しておく(写真9).. 注意することば,この時の曖昧な計測や数値の読み違 いは作品素材である大理石へと写し取られる結果につな がることとなる.市販されている星取り機については,. 塵取り機自体が座金により固定されるのでこのような問 題は起こらないのであるが,今回考案した簡易星取り機 が市販されている星取り機に比べ精密度にやや不安が残. 写真9. るのはこの点といえる.. いよいよ,原型上から拾い上げられた3次元ポイントを大理石側に写し取る作業に入る.明らかに余分と 思われる部分の石材についてはあらかじめノミで削り落としておくと作業効率が良い.原型側で計測した数 値を大理石側の床面に鉛筆で写し取り(写真10),その線に沿わせるように簡易星取り機を位置させる.この 時,簡易星取り機は大理石の基準面に密着せず距離を残すこととなるが,その距離がまさしく大理石上で彫 り進まなければならない距離を示している(写真11). せっとう. 大理石を彫り進む際,太さ4分のツバクロノミと500グラムの石頭を使い荒彫りをし,ポイントまで5mm程 度残した段階で櫛刃ノミと100グラム程度の小石頭を使い丁寧にさらい,最後に爪型に整形した2∼3分平 ノミの先端を回転させる要領で目指すポイントを彫り出して行った. 89.

(9) 中 村 和 雄. 写真10. 写真11. 尚,大理石を彫る際のわずかながらの振動が大理石全体を微妙に移動させることもあるので,市販されて いるL金具等で床板面にあらかじめ固定させておくことを薦める.. 最後に,原型上からポイントをどの程度の数,大理石側に写すべきかということであるが,原型の良さが 大理石上に現れるまで,ポイント密度,数等辛抱強く写し取る作業を続けるべきである.しかし,必要以上 やりすぎてはまさしく職人的な単純作業に終始することになる.制作者各自の判断のもと,星取り技法の正 の効力が作品上に反映された段階でその使用を止めることとし,その後の制作においては作家としての感性 に頼ることが必要ではないかと考えている.. 7.終わりに. 現代社会において,石彫技術のみならず手仕事による「技術」というものが少なくなり,機械に頼る日々 に慣れ親しんでしまっている.このような日常性はけっして人間にとって喜ばしいものではない.いっかは 機械なしでは生きていけず,人間自身は思考活動を停止し,築き上げた文化や文明まで失ってしまうのでは ないかといった危機感すら覚える.. 彫刻の世界で言えば,ギリシャやルネッサンス,鎌倉彫刻においてあれはどの素晴らしい彫刻群と時代を 築けたのはまさしく手仕事技術の積み重ねの結果といえる.しかし,残念なことではあるが先人の築いたさ まざまな技術はことごとく現代人である我々に伝承されずに消えてしまっている.特に,石彫技術において はそれが星自著なものとなっている.. 手が人間自身の脳を刺激し,想像力や発想力を生み 出すのであるとすれば,機械文明とは人間にとって両 刃の剣といえる.工業デザイナーの秋岡芳夫氏はこの ような現代社会に危機感を覚え,著書「竹とんぼから の発想」のなかで「工作人間」ホモファーベルになれ と説いている.実に重みのある言葉と私自身は考えて いる.. 今回制作実例として紹介した彫刻作品「ウスクダル」. の右腕についてであるが,私が期待したリアリティー ある表現であるかどうかの観点からすれば,満足する 結果を得ることができた.しかし,制作に使用した簡 90. 完成した大≡曙石右腕.

(10) 石彫における星取り技法の研究. 易星取り機について言えば,十分に満足できるものとは言えずまだまだ改良点の多い未完製品と言わざるお えない.今後の制作にもこの簡易星取り機を十分活用し,改良を加えると共に,彫刻家を目指す学生達が気 軽に使用できる物としていきたいと考えている.. 資 料. 星取り機(コンパス)販売店 竹内製作所 住所…東京都荒川区西日暮里2丁目7番12号 m‥…・03−3891−1728,1836. 星取り機(其録製). 小品用2閲接 約60cm位までの制作に使用 小品用3間接 的100cm位までの制作に使用 等身犬用引っ掛け 柱の長さ150cln 小品用柱と接続可能 (札幌校助教授). 91.

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