進行性ミオクローヌスてんかんの患者には,光 過敏性をしぼしば伴うことが知られている1)。 我々が経験した本症の1例は,難治性のけいれん 発作を有し,加えて強い光過敏性を示したことか ら,暗室にした病室での入院生活を余儀なくされ ていた。ところが視覚刺激による脳波検査2’−4)に より,本症例は赤色点滅と点滅幾何学的図形刺激 に過敏性を有することが判明し,その治療として 青色サングラスを試用した5)。その結果,症状の著 しい改善が認められたので,症例報告をする。 症 傷 ‖ 患者:Y.S.,24歳,男性。 主訴:全身性ミオク・一ヌス,けいれん発作,知 能低下。 口 田 図1家系図 両親がいとこ同志の血族結婚。兄といとこに 類似疾患がある。兄は肺炎で死亡。 東北大学神経内科 *広南病院神経内科 ** 仙台市立病院神経精神科 ’** 東北大学応用情報学研究センター 族結婚で,兄といとこに類似疾患がある。 現病歴:満期産,正常分娩で,出産時体重は 3,050g。処女歩行は1歳,就学は普通,しかし成 績は不良であった。兄の発症を契機に,8歳の時に 脳波検査を受けた結果,ミオクPt一ヌスてんかん が疑われた。10歳頃より歩行時に転倒しやすくな り,全身性のけいれん発作が起こるようになった。 それが頻発したため,12歳の時,某学園に入園し た。その頃から,四肢筋のミオクローヌスがある。 15歳頃から知能低下が目立つようになり,歩行障 害も進行し,18歳から車椅子を用いた生活が続い ていた。ミオクローヌスは顔や舌にも出現し,け いれん発作はさらに頻発し,症状は進行性であっ た(図2)。 昭和57年3月,精査の目的で患者は東北大学長 町分院脳神経内科に入院した。能能低下に加え,構 音障害,四肢失調,企図ならびに動作時に増強す るミオクローヌスが四肢および躯幹に認められ た。眼球運動は正常。四肢筋の萎縮や筋力低ドは なく,知覚も正常であったが,四肢の深部腱反射 は低下していた。頭部CTは正常。脳波検査では び漫性の棘徐波複合が出現しており,白色閃光点 滅刺激によって,四肢のミオクローヌスを伴う光 けいれん反応が誘発された。前脛骨筋の筋生検で は,特記するような異常は認められなかった。以 上の臨床・検査所見から,本症例は変性型ミオク ローヌスてんかんと診断された。 その後,再度某園で経過観察されていたが,21 歳になると構音障害が増悪し,嚥下困難状態を呈 するようになった。昭和63年5月には肺炎を併発 し,8月からけいれん発作が頻発したため,同年9 月8日,広南病院神経内科に入院した。
図2 臨 床 経 過 1.入院時現症と一般検査成績 一般理学的所見では,腎部の褥創を除いてとく に異常はない。高度の構音障害があり,長谷川式 DRスケールでは0点という結果であった。色覚 の異常はない。眼瞼,口唇,舌の静止時ミオクPt一 ヌスがあり,左方注視時の眼振が認められた。患 者は全介助を必要とするほぼ寝たきりの状態で あった。 一般血液,生化学的検査に異常なく,末梢血リ ンパ球の空胞化も認められなかった。血中乳酸,ピ ルビン酸,血液・尿中アミノ酸分折値はすべて正 常範囲であった。末梢神経伝導速度は正常。しか し,正中神経の電気刺激による体性感覚誘発電位 の記録では,巨大反応が誘発された。 入院時,患者は光や音刺激に鋭敏に反応し,全 身のミオクP一ヌス,それからさらに大発作が誘 発されるというてんかんの重積状態が続いてい た。そのため,暗室にした病室での治療が施行さ れていた。フェニトイン300mg,バルプロ酸ナト リウム1,200mg,クPナゼパム8mg(いずれも1 日量)への増量投与によって,大発作は日に1∼2 回の頻度に減少した。 2.脳波検査所見 図3は,その時に検査した脳波所見である。4∼7 Hzのθ波が頭頂部優位にみられ,時に両側性棘 徐波複合が同じく頭頂部優位に出現し,それに一 致して四肢のミオクローヌスが認められた。白色 閃光点滅刺激を与えると,間もなく四肢のミナク ローヌスを伴った光けいれん反応が誘発された。 ストロボの前に水玉図形6)と赤のプラスチック製 フィルター7)を装着し,開瞼下で点滅水玉と赤色 点滅刺激を与えた際にも,図4の左と中に示した ように,全般性の光突発波反応が誘発された。つ ぎに,その時入手できた市販の“青メガネ”を患者 にかけさせ,ふたたび両刺激を与えると,光突発 波反応の賦活効果はいずれでも減弱された。その 効果をさらに確認するため,視覚刺激装置(SLS− 5100,日本光電)8)による検査を施行した。図4の 右は,その赤色点滅刺激で誘発された全般性突発 波であり,“青メガネ”の使用によって同様の減弱 効果が認められた。 3.入院後経過 以上の脳波検査結果から我々は,青色のサング ラスが治療上おそらく有効であろうと考えた。そ こで我々は,光過敏てんかん患者に奏効するサン グラス(青色アイトークミラーユート(資生堂))9} を同月28日から患者に使用させた。以後,表1の ようにけいれん発作の頻度が減少し,静止・運動 時のミオクローヌスが軽減したため,暗室管理が 不要となった。患者はテレビの鑑賞もできるよう になって,同年10月4日に退院した。なお,患者 はサングラスをとりはずすと,眼瞼のミオクロー ヌスが増強するため,その常用が必要であった。 症状はその後も進行性であり,患者ぱ現在,某 園に入園中である。上述した“青色メガネ”の脳波 上,および青色アイトークミラコートによる臨床 上の効果をさらに確かめるため,我々は青と茶色 のサングラス(いずれも資生堂のアイトークミ
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Photic stim ・一一iコ:iL・,・L.−th−一”・’s−・一一v・− 24yr 6図3脳波所見
左は安静閉瞼時記録。右は閉瞼下で与えた15Hzの白色閃光点減刺激で誘発された光けいれん反 応。脳波記録は同側耳朶を基準電極とした単極導出。 ラーコート)を用い,患者の症状変化について吟 味した。図5は両サングラスの光透過率を示した ものである。眼瞼のミオクローヌスを指標にして, サングラス使用による屋内・外での変化をくり返 し比較・観察した。症状は両者で改善されたが,青 色の方が茶色のよりもやや優るという結果であっ た。 考 察 我々が経験した進行性ミオクローヌスてんかん 1症例の強い光過敏性は,抗てんかん薬の投与に 加え,青色サングラスを常用することが,以後,症 状の著しい改善をもたらした。青色サングラスに よる治療効果のおもな要因として,明るさの減弱 と青の色効果が考えられる。この二点に焦点を合 わせ,その効果に関する生理学的背景について考 察する。 本症例は視覚刺激のうち,低輝度の点滅水玉図 形と赤色点滅の両刺激にとくに過敏であることが 判明した。したがって,本症例におけるサングラ スの効用を論じるさい,両刺激に対する効果を分 けて考える必要がある。 表2は,視覚刺激装置8)による点滅水玉図形と 赤色点滅の刺激光強度をそれぞれ9.8,9.7 cd/m2 とした場合,青・茶色アイトークミラーコート使 用による減弱された刺激光強度を同じく輝度で示 したものである。いずれでも刺激光は1/10∼1/5 に低下している。 一方,無色(ND)のサングラス(表2参照)を も加え,我々は光過敏てんかん患者について上述 した2要因の関与について精査した9)。点滅水玉 図形刺激で誘発された4例の全般性突発波は, NDサングラス,青・茶色アイトークミラーコート の使用によって4例とも減弱ないし消失した。こ の結果は,点滅水玉図形刺激のみに対する過敏性 は,色特異性のない,単に刺激光を減弱させるサ点滅水玉図形(S−F)
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Photic stim 」」」⊥皿u.LLUI,t皿1皿皿且u⊥…㎜_______ 赤色点滅(S−F) 赤色点滅(SLS)帖pm岬twwt
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・.馳盟㌦1、11撒丁:U 図4 ストロボーフィルター(S−F)の点滅水玉図形・赤色点滅刺激と視覚刺激装置(SLS)の赤色点滅 刺激によって誘発された全般性突発波反応 点滅周波数はいずれも15Hz。 S−Fの点滅水玉図形・赤色点滅刺激の輝度はそれぞれ317,32 cd/ m2, SLSの赤色点滅束1」激のそれは10 cd/m2。 表1サングラス使用前後の症状変化 サングラス 症 状 使用前 使用後 大発作 (+) (+) ミオクローヌス (胴 (+) 企図性ミオクローヌス (+) (+) 機 嫌 悪い 良い 暗室管理 必要 不要 テレビ鑑賞 不可能 可能 嘔 吐 (+) (+) 食 欲 良 良 80 ミ z60 十 三1 v’tl 40 20 ー‘÷ーう
400 500 BOO 7〔〕0 ほ ⊥cL 11m 1 図5青色アイトークミラーコート(青)と茶色アイ トークミラーコート(茶)の光透過率色成分(図5参照)に由来するものと思われる。低 輝度の点滅光を刺激として用いた光過敏てんかん の研究1°)では,光過敏性が赤色によって促進され る。したがって,赤色成分が含まれている茶色ア イトークミラーコートは,赤色点滅刺激に対して 過敏性のある本症例には不適当と結論される。 上述した我々の研究1°)では,赤色の促進作用に 対し,光過敏性は青色によって抑制されるという 知見が得られている。青色アイトークミラーコー ト使用のさい,刺激光の明るさの減弱効果に,赤 色成分の視覚刺激に対するその青色成分の抑制作 用がさらに加わって,本症例の治療効果がもたら されたものと推測される。 以上の経験から,点滅幾何学的図形や赤色点滅 刺激に対して光過敏性を有するミオクローヌスて んかんの患者には,青のサングラスが治療の一助 として有用と考えられる。 結 語 強い光過敏性を有する進行性ミオクローヌスて んかん患者が,青のサングラスを使用することに よって,症状の著しい改善がもたらされた。本症 例はとくに点滅幾何学的図形や赤色点滅刺激に対 表2視覚刺激8)のさい,サングラス使用 による輝度(cd/m2)の変化 サングラス 点滅水玉図形 赤色点滅 サングラスなし NDサソグラス 青色サングラス 茶色サングラス 9.8