2018;68:31~41
原 著
特別養護老人ホームにおける看取りの意義に関する研究
小林 剛一
1,平形ひとみ
2,井上まさよ
2,横山 貞子
2,石田 美紀
2,望月 栄美
2,
高坂 寛之
2,関口 文子
2,中村 幸男
2 1 群馬県前橋市広瀬町3-11-1 剛医院 2 群馬県前橋市東金丸町95 特別養護老人ホーム鐘の鳴る丘愛誠園 要 旨 【背景・目的】 わが国は,超高齢社会に伴う「多死社会」を迎える.増加する死亡者を全て病院で看取る事は不可能であり, 最期を迎える場の選択肢として,特別養護老人ホーム(以後特養)などの高齢者施設への期待が高まっている.特養1は, 常時介護を必要とし,在宅生活が困難になった高齢者が入居する老人福祉施設である.本研究の目的は,終末期医療にお ける看取り,死亡場所としての特養の意義を明らかにすることである. 【対象と方法】 平成19年4月~平成29年1月 までの施設看取り63名を対象として,診療録,看護記録,死亡診断書等より,平均寿命,死因等について分析した. 【結 果】 退所者167名中,看取り死亡者は63名(38%)であった.平均年齢は,90.07歳(男性87.4歳,女性90.7歳)で, 死因は老衰が31名(49%)と最も多かった.認知症は,アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症等,軽度~中程度を 含めてほぼ全例(98%)に認められた.在所期間は,58日から18年5か月(平均4年9か月)であった. 【結 語】 我々 の特養での看取り例は,日本人の平均寿命を越えた老衰死が多かった.超高齢社会を迎え,要介護高齢者の施設として, 一層のニーズが見込まれる特養は,終末期の看取り場所としての役割を担う施設としても,重要な位置を占めるものにな ると考えられた. Ⅰ.緒言 最近の厚労省の統計2によれば,日本人の平均寿命は, 平成27年の時点で,男性80.79歳,女性87.05歳で,世界 的にみても長寿国である.死亡場所としては,昭和26年 には在宅死82.1%,病院死9.1%であったものが,平成21 年には病院死78.4%,在宅死12.4%と逆転したものとなっ ている.しかし超高齢化社会に伴う多死社会を迎える我が 国で,増加する死亡者を全て病院で看取る事は不可能であ る.特養は,介護度の高い高齢者が入所する施設であり,「終 の棲家」ともいわれてきたが,看取り施設としての期待も 高まり,平成24年度には「看取り介護加算」など,介護報 酬上での評価も設けられた.特別養護老人ホーム鐘の鳴る 丘愛誠園では,平成19年より施設内看取りを実施してき たが,今回我々は,本特養における看取りケアの現状と意 義について検討した. Ⅱ.対象と方法 平成19年より平成29年1月までに入所した250名中, 退所者は167名で,このうち他の医療・施設等への転所者 104名を除き,当施設での死亡看取りを行った者は63名 であった.看取りを行った63例(男性12例,女性51例〉 を対象とし,診療録,看護記録,死亡診断書等により解析 文献情報 キーワード: 特別養護老人ホーム, 平均寿命, 老衰, 終末期医療介護, 看取り場所 投稿履歴: 受付 平成29年7月3日 修正 平成29年12月18日 採択 平成29年12月27日 論文別刷請求先: 小林剛一 〒371-0812 群馬県前橋市広瀬町3-11-1 剛医院 電話:027-266-3566を行った.看取り方法については,以下のプロセスで行っ た. 1.第1ステップ(入所時本人・家族の意思確認) 本人・家族の意思確認が最も大切と思われるので,入所 時点で,当施設における医療体制について説明し,看取り ケアの希望や,延命措置希望等の有無を伺って表にしてお く(表1,表2).表1・表2は最近のサンプルである.看 取り希望の場合のおおよその目安は表3に示す.入所時点 では,看取り希望は半数以上であるが,急変時になると, 病院への入院希望者も多くなるので,その都度家族と協議 することにしている. 表1 延命・看取り希望について 1F 桜 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない 花水木 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない A・H あり T・T 〇 なし 〇 T・M 〇 なし 〇 Y・H 〇 なし 〇 O・Y 〇 なし 〇 Y・Y H・T 〇 なし 〇 M・Y 〇 なし 〇 S・M Y・Y 〇 なし 〇 Y・K 〇 なし 〇 K・N 〇 なし 〇 H・K 〇 なし 〇 M・H 〇 なし 〇 Y・N 〇 なし 〇 T・Y 〇 なし 〇 M・K 〇 なし 〇 A・N 〇 なし 〇 H・K 〇 なし 〇 檜 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない 欅 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない S・M 〇 なし 〇 W・Y 〇 なし 〇 I・K 〇 なし 〇 T・T K・R 〇 なし 〇 S・K 〇 なし 〇 H・H 〇 なし 〇 S・T 〇 なし 〇 N・M 〇 なし 〇 T・K 〇 なし 〇 T・H 〇 なし 〇 S・T 〇 なし 〇 T・T 〇 なし 〇 O・H 〇 なし 〇 Y・K 〇 なし 〇 O・S 〇 なし 〇 I・R 〇 なし 〇 I・K 〇 なし 〇 S・I 〇 なし 〇 表2 延命・看取り希望について 2F 向日葵 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない 蒲公英 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない Y・K 〇 あり 〇 D・I なし K・K 〇 なし 〇 S・T 〇 なし 〇 S・Y 〇 なし 〇 A・A 〇 なし 〇 N・T 〇 なし 〇 N・M 〇 なし 〇 A・H 〇 なし 〇 K・K 〇 あり 〇 R・H 〇 なし 〇 O・M 〇 なし 〇 A・S I・H 〇 なし 〇 S・Y O・M 〇 なし 〇 T・K 〇 あり 〇 S・Y 〇 なし 〇 M・M 〇 なし 〇 楓 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない 紅葉 同意書 看取り同意書 延命希望 看取り希 望 HPケア PEG 考えられない Y・T 〇 なし 〇 N・S 〇 なし I・K 〇 なし 〇 O・H ◎ 〇 〇 S・M 〇 なし 〇 I・S 〇 なし 〇 H・M 〇 なし 〇 I・T 〇 なし 〇 T・Y 〇 なし Y・T 〇 なし 〇 K・M 〇 なし 〇 I・K 〇 なし 〇 K・M K・S 〇 なし 〇 H・H 〇 なし 〇 N・H 〇 なし 〇 A・T ◎ 〇 なし 〇 S・T 〇 なし 〇 H・K 〇 なし 〇
2.第2ステップ(家族へのインフォームドコンセント, 治療計画同意書,看取りケア同意書作成) 死を予測することは不可能であるが,死期が近づくと食 欲不振となり,意識,身体機能ともに低下してくるので, この時点で今後の治療に関して,家族に説明し,同意書を 作成する(図1).看取り希望の場合には,看取り同意書 を作成し,看取り体制を組むことにする.そのプロセスは, 以下の(1)~(4)となっている(図2). (1) ケアプランを作成する(施設サービス計画書)(図 3).個々の症例毎に,看護・介護内容の異なるもの を作成する. (2) 週一回ケアマネジャー,看護師,介護士,栄養士達 がカンファレンスを行う. (3) 適時家族へ状態報告する. (4) 3か月間はモニタリングを行い,看取り体制続行か 解除か決定する(モニタリング記録表・図4). 概ね以上の手順により看取りを行っている. 表3 当園で看取りケアを行う場合のおおよその目安 区 分 当園で看取り可であるための条件 左の条件を判断する者 ご本人・ご家族の当園での看取りケアの希望 あり ご本人・ご家族が、嘱託医師、施設の説明を 受けたうえで判断 治療の見込み なし 嘱託医が判断 死期 近い 〃 延命措置 本人・家族の希望なし ご本人・ご家族に、嘱託医師の説明を受けた 後に判断していただく 緩和措置 不必要又は施設対応可 嘱託医が判断 施設看取りについての嘱託医の判断 可 〃 家族の付き添いまたは頻回の面会 可 ご家族 当園職員の対応 可 嘱託医・施設が協議して判断 図1 治療計画同意書 図2 看取りケアについての同意書
Ⅲ.結果 平成19年4月より,平成29年1月までの間に,医療機 関を含む他の施設への転院・退所した104例(62%)を除 き,施設内死亡看取りは63例(38%)であった(表4). 1)年齢及び男女比(図5) 男性(12例):72歳~ 97歳(平均87.4歳) 女性(51例):67歳~104歳(平均90.7歳) 合計 63例 67歳~104歳(平均90.7歳) 年齢分布でみる限り(図5),86歳・93歳あたり が多いように思われた. 2)死因(死亡診断書による)(図6) 老衰………31例(49%) 心不全………17例(27%) 癌死(悪性腫瘍)… 6例(10%) 肺炎・呼吸不全…… 4例(6%) 脳梗塞……… 4例(6%) 腎不全……… 1例(2%) 合 計 63例(100%) 死因は,死亡直前の診断名ではなく,看取りケア 図3 施設サービス計画書(1) 図4 モニタリング記録表
表4 看取り例一覧表 № 年齢 性別 死因 合併病名 入所期間 1 90 女 急性心不全 認知症、腹部大動脈瘤 6年4カ月 2 94 女 急性心不全 胃潰瘍、低Na 血症、認知症 17 年1カ月 3 78 男 急性心不全 脳梗塞、高血圧症、認知症、低K血症 1年1カ月 4 89 女 急性心不全 慢性気管支炎、認知症Ⅲb 8年2カ月 5 83 女 急性心不全 脳梗塞、認知症 17 年4カ月 6 86 女 心不全 脳梗塞後遺症、てんかん、心筋梗塞、PC植え込み、甲状腺癌の肺転移、認知症 1年1カ月 7 88 女 慢性心不全 認知症、術後大動脈瘤閉塞不全 3年4カ月 8 88 女 急性心不全 慢性関節リウマチ、脳梗塞後遺症、認知症 5カ月 9 98 女 老衰 脳梗塞後遺症、認知症、慢性心不全 9年 10 81 女 急性心不全 認知症、高血圧症 1年 11 97 男 老衰 アルツハイマー型認知症、高血圧症、心不全、腎不全、誤嚥性肺炎 10 カ月 12 94 女 老衰 糖尿病、うっ血性心不全、胃瘻造設、認知症Ⅲa 5年 13 95 女 胆管癌 脳梗塞後遺症、認知症、高血圧症、糖尿病、肝硬変、閉塞性黄疸 3年6カ月 14 95 女 老衰 高血圧症、認知症、閉塞性動脈硬化症 8年4カ月 15 96 女 老衰 脳血栓症、老人性認知症、顔面皮膚癌 5年6カ月 16 72 男 転移性肝癌 脳梗塞、高血圧症、認知症、心不全、甲状腺機能低下症、直腸癌術後 11 年4カ月 17 85 女 心不全 高血圧症、心不全、狭心症、脳梗塞後遺症、認知症 1年4カ月 18 93 女 老衰 認知症、脳梗塞、誤嚥性肺炎 14 年2カ月 19 76 女 慢性腎不全 リウマチ、誤嚥性肺炎、認知症 2年3カ月 20 86 女 老衰 アルツハイマー型認知症、閉塞性動脈硬化症、胸椎圧迫骨折 3年7カ月 21 83 女 老衰 脳梗塞後遺症、認知症、誤嚥性肺炎 4年1カ月 22 86 女 老衰 アルツハイマー型認知症、誤嚥性肺炎 2年9カ月 23 104 女 老衰 気管支喘息、気管支拡張症、脳梗塞、心筋梗塞、慢性心不全、認知症 11 年6カ月 24 92 男 老衰 脳梗塞後遺症、認知症 3年9カ月 25 93 女 脳梗塞後遺症 慢性硬膜下水疱、認知症 5年9カ月 26 100 女 老衰 高血圧症、脳梗塞、認知症 5年4カ月 27 88 女 急性心不全 慢性心不全、認知症、心筋梗塞、脳梗塞、吐下血 3カ月 28 103 女 老衰 認知症、統合失調症、慢性心不全、甲状腺機能低下症 2カ月 29 84 女 悪性リンパ腫全身転移 高血圧症、糖尿病、パーキンソン病、認知症 6年1カ月 30 92 女 老衰 認知症、気管支喘息 11 カ月 31 78 女 誤嚥性肺炎 脳梗塞後遺症、認知症、糖尿病、全身機能低下 7年7カ月 32 93 女 老衰 脳梗塞後遺症、認知症、脳虚血、喘息、高血圧症 2年1カ月 33 99 女 胆のう癌 アルツハイマー型認知症、糖尿病、脳梗塞、高血圧、甲状腺機能低下症 1年1カ月 34 67 女 急性心不全 心筋症、脳梗塞、高血圧症、パーキンソン病、うつ病 1年1カ月 35 98 女 心不全 高血圧症、認知症、うつ病 6年5カ月 36 88 女 老衰 高血圧症、脳性小児麻痺、認知症、口腔癌 18 年5カ月 37 93 女 心不全 脳梗塞後遺症、認知症、統合失調症 11 カ月 38 91 女 心不全 高血圧症、糖尿病、認知症 6カ月 39 88 女 老衰 脳梗塞後遺症、認知症、高血圧症、高脂血症、腹部大動脈瘤 12 年9カ月 40 94 女 脳梗塞 高血圧症、認知症、甲状腺機能低下症 3年 41 100 女 老衰 高血圧症、アルツハイマー型認知症、右大腿骨頚部骨折、肺梗塞 4年9カ月 42 100 女 慢性心不全 高血圧症、認知症、大動脈弁閉鎖不全症、狭心症 1年6カ月 43 84 女 老衰 認知症、脳梗塞、誤嚥性肺炎、高血圧症、慢性硬膜下血腫 5年6カ月 44 93 男 呼吸不全 誤嚥性肺炎、高血圧症、脳梗塞後遺症、心房細動、心不全、認知症 1月(28 日) 45 91 女 脳梗塞後遺症、脳梗塞 糖尿病、高血圧症、高脂血症、認知症 4年10 カ月 46 86 女 呼吸不全 うつ病、認知症、左肺無気肺 1年1カ月 47 97 女 老衰 脳虚血発作、心房細動、認知症、統合失調症 5年 48 90 女 老衰 心不全、脳梗塞、腹部大動脈瘤、アルツハイマー型認知症 2年1カ月 49 98 女 慢性呼吸不全 気管支拡張症、高血圧症、脳出血後遺症、認知症 4年 50 90 女 転移性脳腫瘍 肺癌疑い、慢性心不全、認知症 7年3カ月 51 90 男 脳梗塞再発作 脳梗塞、多発性脳梗塞、高血圧症、認知症 1年5カ月 52 87 男 老衰 誤嚥性肺炎、脳梗塞再発、多発性脳梗塞、認知症、左大腿骨骨折 2年8カ月 53 78 男 多発性肝癌 脳内出血、左半身麻痺、中枢性疼痛、認知症 9年9カ月 54 87 女 慢性心不全 高血圧症、糖尿病、脳血管性認知症 7年8カ月 55 96 女 老衰 心不全、肺炎、認知症 1年2カ月 56 95 女 老衰 脳出血、脳梗塞、認知症 6年7カ月 57 84 男 老衰 アルツハイマー型認知症、廃用症候群、慢性心不全、慢性気管支炎 2カ月 58 87 女 老衰 アルツハイマー型認知症、高血圧症、高脂血症 3年9カ月 59 96 女 老衰 高血圧症、脳梗塞後遺症、認知症、貧血、吐血、甲状腺機能低下症 5年10 カ月 60 94 女 老衰 脳梗塞後遺症、認知症、心不全、慢性閉塞性肺気腫 1年9カ月 61 91 男 老衰 脳梗塞、脳梗塞再発作、認知症 3年5カ月 62 95 女 老衰 脳梗塞、認知症、高血圧症、糖尿病、右大腿骨骨折 11 年4カ月 63 89 男 老衰 慢性硬膜下血腫、老人性精神病、認知症、水疱性類天胞瘡 14 年3カ月
の経過の中で,主治医(筆者)が死亡に最も関係し たと思われる病態を死因と判断した. 3)老衰……31例について年度別にみる(図7) 男性( 6例):84歳~ 97歳(平均90.3歳) 女性(25例):83歳~104歳(平均93.5歳) 合計 31例 83歳~104歳(平均93.6歳) 4)認知症 アルツハイマー型認知症,脳血管性認知症,その 他認知機能低下例など,程度は軽~高度認知症等 様々であるが,NO,34(急性心不全死例)を除く 62例(98%)に認められた. 5)看取りの年次推移(図8) 特養内看取りは約38%,平成25年より増加して いる. 6)入所期間 入所してから看取りまでの在所期間は,1か月28 日から18年5か月まで,かなりの差がある.平均 4年9か月であった. 7)看取り同意書をとってから死亡までの期間 同意書確認のできた38例についてみると,1日 から10か月(平均47.5日)であった.25名(66%) は,1か月未満であった. Ⅳ.考察 高齢者は,医療と介護を同時に提供することが必要な ケースが多い.特養1は,常時介護を必要とする高齢者が 介護を受けながら,終の棲家として余生を過ごす場所であ る.入所してくる経路としては,1)老健施設からの入所, 2)病院から直接に入所,3)近医の在宅医療を受けていた ものの,介護困難になって紹介入所,4)その他の介護施 設より事情により転所等のケースがある.医療施設ではな いので,検査機器や医療用具は設置しておらず,必要時に は提携医療機関で検査することになる.しかし施設内看取 りは可能なので,死亡場所の一つでもある.特養によって は,看取りは全く行わないところから,ある程度まで行う ところまで様々と思われるが,報告3-7が限られており,実 図5 看取りの年齢分布(男性12例,女性51例) 平均年齢90.7歳(男性87.4歳、女性90.7歳) 男性が黒色、女性が灰色 図6 死亡診断書よりみた死因割合
態は不明なところが多い.2015年の厚労省の発表3によれ ば,特養の8割は,看取り対応は可能であるが,医療・介 護職員体制の問題等課題も多い. 退所者については,予後不明例が多いことから,今回我々 は,施設内死亡63例に限り,平均年齢や死因等について 検討した.その結果,全体の平均年齢は90.07歳,うち男 性87.4歳,女性90.7歳で,男女ともそれぞれ日本人の平 均年齢を約7歳,約3歳上まわっていた.平野ら5は,施 設内死亡30例について分析し,平均年齢を91.3±5.8歳 とし,栗田らは4 7例について,101.5±4歳としている. 更に芦花ホーム8の報告によれば,31例について,78~ 103歳(平均92.7歳)としているので,これらに比べれば, 我々の特養の年齢は若干下まわったことになる. 死因記載については,今永ら9,10の「死亡診断書の書き 方」等を参考にした.認知症の患者が誤嚥性肺炎で死亡し た場合には,死因は老衰とする.11,12 又最終段階で生じた 誤嚥性肺炎は老衰としてよいのではないか,或いは加齢に よる衰弱に伴う肺炎の死因は「老衰とする」等の考えがあ り,13,14 筆者もその考えを参考に「老衰」と判断した.我々 の施設の死因としての老衰は,31例(49%)で最も多かっ たが,これは「老衰」と判断する例が増えたことにもよる と思われた.そのため一方で,死因としての肺炎・呼吸不 全が少なくなった(6%)とも思われた.平成27年(2015 年)の人口動態調査15によれば老衰による死亡者数は,病 院36.9%,老人ホーム33.6%,自宅14.5%等となっている. 平成27年における日本人の死因16の第1位は悪性腫瘍 図7 年度別死因 図8 年度別退所例(黒部分は看取り例)
28.7%,第2位心疾患15.2%,第3位肺炎9.4%,第4位 脳血管疾患8.7%,第5位老衰6.6%となっているので,当 施設における死因としての老衰は逆転した結果となった. 医療経済研究機構の報告17によれば,特養内における死 因の第1位は老衰31.3%,第2位心不全22.6%,第3位肺 炎17.7%,第4位がん7.2%,第5位脳卒中6.6%である. また岩本ら18の報告によれば,老衰33%,心疾患22%, 肺炎19%,脳血管障害8%,がん6%であった,更に福間 ら19は,特養内死亡58例中老衰は39例(67%)と報告し ている.これらを考えると特養内においては,死因のうち 老衰が占める割合は,今後増えるかもしれないことが示唆 された. 今回の調査結果では,当施設内看取りは,退所者のうち の38%であった.平野ら5は,特養内看取りは18%,栗田 ら4は,15.3%,医療経済研究機構17によれば,全国平均 37.2%と報告しており,厚生労働省によれば20特養におけ る退所者の死亡割合は,63.7%とのことである.このよう に施設内看取りを実施している特養において,看取り割合 は15~63%まで巾があるが,我々の38%は,平均的なも のと思われた. その他看取り死亡までの平均入所期間を調査した結果, 58日~18年(平均4年9か月)であった.一般に8,20在所 期間は約4年という報告が多いので,当施設における4年 9か月は長い方とも思われる. 平成27年4月より,特養の入所要件が原則要介護3以 上の重症者に限定されたために今後は,死亡時の年齢・死 因・入所期間等変わってくることも予想されるが,我々の 特養においては,日本人の平均寿命を上まわって老衰で亡 くなる例が多く,入所期間も比較的長く,当施設は,終の 棲家としての役割を果たしているように思われた. 我々の特養では,入所時や状態変化時等,折にふれて本 人及び家族に延命治療を希望するか,看取りを希望するか 等伺うようにしているが,本人は認知症(98%)で,意思 確認は難しい事が多く,家族の意向を伺っているのがほと んどである.これが実際には,家族へのインフォームドコ ンセントとなっている.尊厳死希望で本人の意向に沿い看 取りとした例(症例No.53)もあり,又生前の本人と家族 との意見がくい違ったために,献体登録の意向を生かせな かった例(症例No.43)もあった.以下実例を紹介する. ケース1 No.56,95歳女性……老衰 (看取り同意書より死亡まで28日間) 病 名:脳出血,脳梗塞後遺症,認知症,左大腿骨頚部 骨折後遺症 介護度:介3(B2,Ⅲa) 経 過:平成XX年3月より車椅子生活となり,入所し ていた.時に胆石症,顎下腺炎等にて病院に入 院するも概ね平穏に生活していた.平成XX+ 6年9月に入ってから食欲不振となり全身機能 低下してきたため家族に相談したところ,胃瘻 等は希望せず,自然な看取りを希望した.XX +6年9月29日治療計画同意書作成しXX+ 6年10月8日看取り同意書作成した.全身状 態は次第に悪化し,XX+6年10月27日死亡 した.死因は老衰とした.入所期間6年7か月, 同意書より死亡まで28日間であった. ケース2 No.61,91歳男性……老衰 (看取り同意書より死亡まで5日間) 病 名:脳梗塞後遺症,脳梗塞再発作,認知症 介護度:介4(B2,Ⅲa) 経 過:平成XX年8月上肢麻痺のため車椅子生活とな り,Y老健施設より入所してきた.皮膚湿疹, 膀胱炎等対症的治療で特に問題なく経過してい た.しかしその後次第に全身機能低下し,平成 XX+3年12月21日食欲低下し,発熱もあり, 家人に相談したところ病院での検査は希望せず, 看取りを希望した.平成XX+3年12月21日 治療計画作成し,平成XX+4年1月5日看取 り同意書作成した.平成XX+4年1月10日 血圧低下し,心肺停止となり死亡確認した.死 因は老衰とした.入所期間は,3年5か月であっ た. ケース3 No.59,96歳女性……老衰か肺炎か (看取り同意書より死亡まで10か月間) 病 名:脳梗塞後遺症,高血圧症,甲状腺機能低下,誤 嚥性肺炎後,廃用症候群,認知症 既往歴:総胆管結石(砕石後),横行結腸癌 介護度:介4(B2,Ⅲa) 経 過:平成XX年1月4日膝,腰等身体機能低下を理 由として近医より紹介され入所した.入所後は 腰痛,肩痛等あるものの平穏な生活であった. 時に肺炎疑いにて病院受診している.平成XX +4年12月10日突然吐血しpoor risk となり 家人と相談の上,病院に入院となった.出血源 不明の上部消化管出血,誤嚥性肺炎等であった. 家人は胃瘻等積極的治療は望まずに施設に戻っ てきた.XX+5年1月14日治療計画同意書, 看取り同意書を作成した.以後食欲不振,身体 機能低下状態が目立つようになり,流動食を摂 取することが多くなってきた.時々発熱をおこ した際には抗生剤,解熱剤にて対処していた. XX+5年11月に入り意識低下,食欲不振が 続くようになり,XX+5年11月14日死亡し た.死因は老衰とした.入所期間は,5年10 か月であった.顧みるに,病院より退院して以 後時々発熱をくり返していたことを考えれば,
死因は,誤嚥性肺炎でもよいと思われる症例で あった. ケース4 No.53,78歳男性……尊厳死例(癌死) 病 名:脳出血後遺症,左半身麻痺,認知症,多発性肝 癌,うつ病,てんかん,中枢性疼痛 介護度:介3(C1,Ⅲa) 既往歴:(入所までの経過) 平成XX年 膀胱癌 (平成XX年5月12日 尊厳死宣言書作成) 平成XX+1年3月 脳出血のためR病院に て手術,左半身麻痺,中枢性疼痛 残存 平成XX+1年5月~平成XX+1年8月 リ ハビリ病院入院 平成XX+1年9月~ 老健 平成XX+3年9月13日 愛誠園入所 経 過:入所後はマッサージ施術受けながらリハビリに 励んでいた.車椅子自操も可能となり,ある程 度回復はあったものと思われた.平成XX+ 13年6月まで定期的マッサージを受けて,比 較的平穏な生活が続いていた.平成XX+13 年6月21日嘔気・嘔吐して食欲不振となった. 平成XX+13年6月27日腹水・黄疸出現した ため,採血結果から閉塞性黄疸を疑い,家人に 説明・相談した.以前より尊厳死を望んでいた ものの,G病院紹介したところ,多発性肝癌と のことであったが,入院せずに施設で看取る方 針となった.平成XX+13年7月1日全身状 態不良にて死亡した.死因は,多発性肝癌とし た.入所期間は,9年9か月であった. ケース5 No.43,84歳女性……老衰 病 名:認知症,難聴,脳梗塞後遺症,高血圧症,慢性 硬膜下血腫,誤嚥性肺炎,骨粗鬆症 介護度:介3(B2,Ⅳ) 既往歴:妊娠6か月体内死亡帝切 平成XX年9月18日 群大献体登録 平成XX+8年 高血圧症 平成XX+13年6月25日 硬膜下血腫 平成XX+13年10月9日~老健入所 経 過:平成XX+13年11月9日老健より入所し車椅 子生活を送っていた.平成XX+19年3月肺 炎にて病院に入院した.退院後は,全身機能は 次第に低下し,6月に入ると食欲不振等目立っ てきたため家人と相談した(実子なく身元引受 人は甥の嫁).看取り方向となり6月3日看取 り同意書を作成した.6月5日息を引き取った. 死因は老衰とした.献体登録証あるも家族対応 で献体はとり止めとなった.入所期間は,5年 6か月であった. 平成25年あたりから看取り症例が増えてきた理由とし て,介護保険上の優遇や,看取り体制の充実が考えられる. 看取りケア方針にのっとり看護師,ケアマネジャー,介護 士,管理栄養士等がそれぞれの役割を果たしながら,カン ファレンスや研修会に参加し,個々に応じて看取り計画を 実施してきた等である. 看取りケアに関する検討事項で最も多いのは,家族との 関わり方の問題である.看取り同意書をいただいてから死 亡まで1日から約10か月と巾があって,約3分の2は1 か月以内に死亡するケースが多いが,残りについては,最 後まで家族の協力が得られるのかどうか不安が残る.また 例えば夜勤者の場合には,定期的に巡視に行くが病院と 違って,モニターがついている訳ではなく,家族が看取り を理解できていないこともある.更に食事の摂取や,内服 薬の中止,点滴の有無等の問題もあるが,これらはケース バイケースとしている. また一方在宅医(主治医)が抱える大きな問題の一つに, いかに連携医療体制を確保するかという問題がある.筆者 の場合にも看取り体制を組んでおきながら死亡時に間に合 わず,後方支援病院に看取り依頼した例(83歳男性 胃癌) があった. よりよい看取りとはどのようなものであろうか.看取り 同意書をいただく時に家族から「このまま苦しまないでい かせてあげたい」といわれることがよくある.本人には, 認識力がなくなったとしても,家族にしてみれば,その人 らしい苦痛のない最期を迎えさせてあげたい,という気持 ちの現れであろうと思われる.それには,たとえ看取りの 場合でも,有熱時には解熱剤投与,時として輸液等行いな がら,対症的なことはして,家族の気持ちを和らげるよう に努め,また常日頃から機会をみつけて家族をみるように することも大切なことである.詰まるところ,その家族毎 に納得する最期を迎えさせてやることができたと思える医 療,看取り介護提供をすることがよいように思っている. 看取りに課題は残るものの特養は,多死社会の要請に応 えられる終末期医療を担う看取り施設として,今後ますま す重要な位置を占めることになるだろうと思われる. 謝辞 終始助言いただいた,前下仁田厚生病院院長,青木秀夫 博士並びに関係各位に深甚なる謝辞を表します. 文献 1.介護老人福祉施設(参考資料).厚生労働省 http:╱╱www.
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Study of End-of-Life Care in a Special Elderly Nursing Home
Gouichi Kobayashi
1, Hitomi Hirakata
2, Masayo Inoue
2, Sadako Yokoyama
2, Miki Ishida
2,
Emi Mochizuki
2, Fumiko Sekiguchi
2, Hiroyuki Kousaka
2and Yukio Nakamura
21 Gohiin, 3-11-1 Hirose-machi, Maebashi, Gunma 371-0812, Japan
2 Kane-no-Naruoka Aiseien, 95 Higashi Kanamaru-machi, Maebashi, Gunma 371-0234, Japan
Abstract
Objectives:
The purpose of this study was to explain nursing home
’s role of providing end-of-life care and death place.
Methods:
We examined 63 cases where the subjects died in special elderly nursing home Kane-no-naruoka Aiseien
between April 2007 and January 2017.
We retrospectively analyzed the cases above in terms of the followings: 1) age
(mean life-span), 2) gender, 3) cause of death, 4) presence or absence of dementia, 5) length of stay, and 6) others.
Results:
Of the 167 subjects discharged from the facility, 63(38%) died in the nursing home.
The age distributed from
67 years old to 104 years old,and the mean life-span was 90.07 years old (87.40 years old for males and 90.70 years old
for females).
The most common cause of death was senility.
Moderate or severe dementia was observed in almost all
cases.
The length of stay ranged from 58 days to 18 years (mean: 4 years and 9 months).
Conclusion:The mean
life-span of the deceased cases in the nursing home was higher than that of theJapanese, and the most common cause of
death was senility (49%).
Therefore, the nursing home was thought to play an important role of providing end-of-life
care and death place.
Key words:
special elderly nursing home, mean life-span,
senility, end-of-life care, death place