令 和 二 年 度 修 士 論 文
X 線減弱係数を用いた軽元素の定量分析法の開発
指導教員 櫻井 浩教授
群馬大学大学院理工学府 理工学専攻
電子情報・数理教育プログラム
森本 一成
目次
第一章 序論 ...1 1-1 研究背景 ...1 1-2 研究目的 ...4 第2章 原理 ...5 2-1 X 線の透過と線減弱係数 ...5 2-2 X 線線減弱係数と実効原子番号 ...5 第3章 回帰分析を用いた解析 ...7 3-1 線減弱係数を用いた物質の定量分析 ...7 3-2 XCOM とは ...7 3-3 XCOM を用いた定量分析のシミュレーション ...8 第4章 実験方法 ...9 4-1 試料調製 ...9 4-1-1 使用器具や使用試薬 ...9 4-1-2 試料調製手順 ...9 4-1-3 試料の密度測定 ...9 4-2 X 線吸収スペクトルの測定 ... 11 4-2-1 使用した測定機器 ... 11 4-2-2 実験の測定方法 ... 14 第5章 実験結果 ... 16 5-1 X 線の吸収スペクトル ... 16 5-2 試料の線減弱係数 ... 17 5-3 試料の質量源弱係数 ... 19 5-4 データの平均化 ... 25 5-5 エタノール濃度 (wt%)、酢酸濃度 (wt%)の導出 ... 31 第六章 実効原子番号から濃度分析 ... 336-1 実効原子番号から濃度を求める手法 ...33 6-2 実験値を用いた解析 ... 35 第七章 誤差の検討 ... 40 7-1 質量減弱係数のエネルギー依存性 ... 40 7-2 Fitting 範囲の検討 ... 41 7-3 試料調製誤差の検討 ... 42 7-4 実験の測定精度の検討 ... 45 第八章 考察とまとめ ... 48 参考文献 ... 50 謝辞 ... 51
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第一章 序論
1-1 研究背景
コンピュータ断層撮影、つまり CT (Computed Tomography)は時代とともにさまざ まに形式を変えていき大きく第一期から第五期に分けられる。下の図 1-1 は1)第一 期から第五期までの CT の図である。この第一期から第四期までの CT と第五期のス ペクトラル CT には大きく異なる点がある。それは、第四期までの CT が X 線強度の みの情報しか得られないのに対し、第五期のスペクトラル CT ではエネルギーごとの X 線強度を求めることができるということだ。ここではこのスペクトラル CT に着目 していく。 図 1-1 第一期から第五期 CT の概略図 スペクトラル CT にも種類があり、次の図 1-2 のように2)デュアルエナジーCT と フォトンカウンティング CT とある。図 1-2 の左二つの図がデュアルエナジーCT の 図であり、一番右側の図がフォトンカウンティング CT の図である。デュアルエナジ ーCT が二つの検出器を用いて二種類のエネルギーの X 線強度を測定するのに対し、 フォトンカウンティング CT は一つの光源と一つの検出器だけで広いエネルギー帯の X 線強度を測定することができる。これはフォトンカウンティング CT が光源側のエ ネルギーを変えず、検出器側でエネルギー分解できることによるものである。2 図 1-2 デュアルエナジーCT (DECT)とフォトンカウンティング CT の概略図 W.ZOU ら3)によってフォトンカウンティング CT を用いた物質の実効原子番号と電 子密度の測定の実験が行われたと報告されている。次の図 1-3 は W.ZOU らが実験に 用いたフォトンカウンティング CT の概略図である。W.ZOU らの提唱した手法とはフ ォトンカウンティング CT を用いて試料の X 線の線減弱係数を求めそこから実効原子 番号と電子密度を求めるものである。ここで求まる物質の実効原子番号は医療分野 において重要な情報の一つとなっている。放射線医学の分野において実効原子番号 という概念は導入されたばかりではあるが既にさまざまな臨床応用がなされている。 図 1-3 W.ZOU らによる CT の概略図 現在、医療現場では腹部単純 X 線写真(KUB 撮影)、超音波、通常の CT などさまざ まな検査法があり病気の治療前の診断に用いられている。しかし、これらの検査方法 では診断には向かない病気などもある。その一つの例として腎結石という病気があ
3 る。腎結石はその起こる原因や形成機序の違いによって構成成分が異なる。尿酸結石、 シュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石、シスチン結石、リン酸マグネシウ ムアンモニウム(ストラバイト)結石などに分類される。これらの結石はそれぞれ構 成成分が異なることから物理化学的性質もそれぞれで異なってくる。そのため、治療 を行うにもそれぞれで治療方法が異なってくる。尿酸結石やシスチン結石は尿アル カリ化剤などの薬物を用いた保存的治療、シュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウ ム結石、リン酸マグネシウムアンモニウム(ストラバイト)結石は体外衝撃波砕石術 (ESWL:extracorporeal shock wave lithotripsy )や経皮的腎砕石術(PNL: percutaneous nephrolithotomy)が適用となりやすい。このように結石の成分によっ て異なる治療法を行う必要があるが、この結石の構成成分を治療前に正確に診断で きないことがある。腹部単純 X 線写真(KUB 撮影)、超音波、通常の CT などの検査法 ではこの診断には不十分となってしまう。一方で、スペクトラル CT で単純撮影を行 えば結石の実効原子番号が計測でき、既知の結石の実効原子番号と比較することで そこから結石の構成成分を推定することができる。このように、実効原子番号が計測 することができればその物質の構成成分が分かり、それにより最適な治療を行うこ とができる。1)
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・1-2 研究目的
フォトンカウンティングCT を用いて実効原子番号を求め、そこから物質の組成 を求める方法があることを先ほど研究背景で述べたが、今回我々は同じくフォト ンカウンティングCT を用いた別の方法で物質の特定をすることを考える。フォト ンカウンティングCT を用いて得られた X 線の線減弱係数から質量源弱係数を求 めそれを組成の重量比で分けるという手法だ。この方法で物質の特定を行い、医療 診断や保安検査の分野で行いたい。しかし、分析方法が理論上で可能であっても実 際に実現が可能であるかどうかは分からない。また、医療分野において扱う人体の 細胞などは組成が複雑であり実験で扱うにはまだ難しい。よって、人体などの組成 の複雑な物質を扱う前に、組成の簡単な物質を特定していく必要がある。水(H2O) とエタノール(C2H5OH)や酢酸(CH3COOH)の混合溶液であれば元素も H、C、 O のみで構成されており組成も簡単である。また、試料を作製することも容易であ り準備に難しい手順を必要としない。よって、このことから今回の分析方法を確立 させるための実験に用いるのに適していると考えた。水・エタノールの混合溶液の 定量分析が理論と同様に実現可能であると実証することができれば、次に組成の 複雑な物質の特定を行い、最終的に医療分野に必要な人体などの物質の情報を求 めることに繋がると考えられる。 したがって、研究目的としては水・エタノールの混合溶液のエタノール濃度 [wt%]、水・酢酸混合溶液の酢酸濃度を定量分析することである。これをシミュレ ーション上で可能であるか、また実測値を用いた定量分析は可能であるかどうか の二つの題目について検討していく。5
第2章 原理
2-1 X 線の透過と線減弱係数
とある物質に X 線を照射し透過させると、入射した時に比べ物質を透過後の X 線は減衰される。これは X 線が物質を透過する際に起こる光電効果や散乱に より減衰するものであり、透過する物質によって異なる値を示す。この減衰を数 値にしたものをX 線の減弱係数と呼ぶ。 次の図 2-1のようにとある厚さ x [cm]の物質に X 線を透過させたとする。透 過前のX 線の光子数を𝐼0、透過後のX 線の光子数を𝐼、この時の線減弱係数を𝜇 [cm-1]とすると、以下の式のようにあらわすことができる。𝐼 = 𝐼
0𝑒
−𝜇𝑥(2-1)
𝜇 = −
1 𝑥𝑙𝑛(
𝐼 𝐼0) (2-2)
つまり、(2)式より物質の厚さ x [cm]と透過前の X 線の光子数𝐼0、透過後のX 線の光子数𝐼が分かれば線減弱係数𝜇 [cm-1]を求めることができる。 図2-1 X 線が物質を透過した時の模式図2-2 X 線線減弱係数と実効原子番号
先行研究として、取越ら4)による2 色 X 線 CT の提案がある。現在、主に臨 床で用いられているのは単色X 線 CT であり、1 つの管電圧で CT 撮影を行い、 各ピクセルの濃淡値であるCT 値を電子密度に変換しているが、この提案は、2 種類の異なるX 線で CT を撮影することで電子密度𝜌𝑒と実効原子番号Zの2 つ6 の値を求めることができ、物質弁別の精度を上げることができるというもので ある。その原理を以下に示す。 まず、X 線診断領域のエネルギーでは線減弱係数𝜇は以下に示すように光電効 果の項と弾性・非弾性散乱の項で表される。
𝜇 = 𝜌
𝑁𝐴 𝐴( 𝜎
𝑎 𝑒𝑙+ 𝜎
𝑆𝐶 𝑐𝑜ℎ 𝑎+ 𝜎
𝑎 𝑆𝐶𝑖𝑛𝑐𝑜ℎ)
(2-3)
式(2-3)中の𝜌は物質の密度、A は原子数、NAはアボガドロ数を表す。具体的 表式としてHawks と Jackson の提案した近似式を用いる。光電効果の項は K-殻を主要項として、L-殻吸収を補正項として取り入れ、次式(2-4)のように表す。𝜎
𝑒𝑙= 4√2𝑍
5𝛼
4(
𝑚𝑐
2𝑘
)
3.5𝜙
0∑ 𝑓
𝑛𝑙𝑙′ 𝑛𝑙𝑙′(2 − 4)
Z は物質の原子番号、𝒌 は X 線のエネルギー、𝒇𝒏𝒍𝒍′が補正項を表す。 散乱項は弾性散乱と非弾性散乱をあわせて次式(2-5)のように表す。𝜎
𝑆𝐶= 𝑍𝛷
𝐾𝑁(𝑘) + (1 − 𝑍
𝑏−1) (
𝑍
𝑍
′)
2𝛷
𝑐𝑜ℎ(𝑍
′, 𝑘
′) (2 − 5)
式(3)中の𝒁′は基準とする元素の原子番号であり、酸素を基準としていて、𝚽 𝒄𝒐𝒉は その元素の弾性散乱の断面積である。第1 項は Klein-Nishina の式である。𝒌′は基 準元素のために修正されたエネルギーで𝑘′= (𝑍′⁄ )𝑍 1 3⁄ 𝑘として表せる。パラメータ b は、0.5 と提案されている。ここで式(2-3)の𝜌𝑁𝐴⁄ に𝑍を乗じた量は電子密度𝜌𝑒𝐴 に他ならないので、式を簡略化し次式(2-6)の様に表すことができる。このときの 𝐹(𝑘, 𝑍)は光電効果の項、𝐺(𝑘, 𝑍)が散乱の項を表している。𝜇 = 𝜌
𝑒[𝑍
4𝐹(𝑘, 𝑍) + 𝐺(𝑘, 𝑍)] (2 − 6)
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第3章 回帰分析を用いた解析
3-1 線減弱係数を用いた物質の定量分析
線減弱係数𝜇 [cm-1]は密度𝝆 [g/cm3]で割ることで質量減弱係数M [g/cm2]で表 すことができる。𝑀 =
𝜇 𝜌(3-1)
また、混合物の質量減弱係数は次の(4)式のようにそれぞれの内容物の質量減 弱係数を重量比で分けることができる。このときのcは重量比𝑀𝐴、𝑀𝐵は質量減 弱係数である。𝑀 = 𝑐𝑀
𝐴+ (1 − 𝑐)𝑀
𝐵(3-2)
(3-2)式より質量減弱係数M、 𝑀𝐴、 𝑀𝐵が分かれば重量比cは回帰分析を 用いれば求めることができる。つまり、とある混合物の質量減弱係数とその内 容物の質量減弱係数からその混合物の割合を求めることができるということで ある。これを水とエタノールの混合溶液で考えると、混合溶液と水とエタノー ルのそれぞれの質量減弱係数から混合溶液のエタノール濃度 [wt%]を求めるこ とができるのである。3-2 XCOM とは
XCOM について説明する前に NIST について説明する必要がある。NIST と はアメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and
Technology )の略称である。XCOM とは NIST で運用されている物質の X 線 の質量源弱係数をデータベースからシミュレーションで出力するプログラムで ある。以下にそれぞれのURL を記載する。
NIST (https://www.NIST.gov/)
XCOM (https://physics.nist.gov/PhysRefData/Xcom/html/xcom1.html)
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3-3 XCOM を用いた定量分析のシミュレーション
NIST の XCOM から各物質の質量源弱係数のデータを引用し、シミュレーシ ョン上で水・エタノール混合溶液、水・酢酸混合溶液の定量分析がそれぞれ可 能であるか実験を行う前に確認した。 XCOM に記載されている各物質の質量減弱係数を原理にも紹介した式(3-2) に代入しEXCEL を用いて回帰分析を行い、水・エタノール混合溶液のエタノー ル濃度 [wt%] 、水・酢酸混合溶液の酢酸濃度 [wt%] を求めた。水・エタノー ル混合溶液の場合M が水とエタノールの混合溶液の質量減弱係数、𝑀𝐴がエタノ ールの質量減弱係数、𝑀𝐵が水の質量減弱係数、c はエタノール濃度 [wt%]とな る。また、エネルギー範囲22.13 [keV]から 99.67 [keV]で 20 点のデータを使用 した。 𝑀 = 𝑐𝑀𝐴+ (1 − 𝑐)𝑀𝐵………(3-2) 回帰分析の結果で得られたエタノール、酢酸濃度 [wt%]と本来の仕込み濃度 と比較した結果、次の表3-1、3-2 のような結果を得た。 表3-1 水・エタノール混合溶液の定量分析のシミュレーション結果 エタノール濃度 [wt%] 回帰分析結果 [wt%] 仕込み値と分析結果の差 [wt%] 10 10.18 0.183 30 30.04 0.042 50 49.80 -0.203 70 69.95 -0.047 90 90.27 0.270 表3-2 水・酢酸混合溶液の定量分析のシミュレーション結果 酢酸濃度 [wt%] 回帰分析結果 [wt%] 仕込み値と分析結果の差 [wt%] 30 30.07 0.067 50 50.01 0.012 70 70.11 0.109 表3-1、3-2 を見て分かるように、仕込み値と分析結果の差が十分に小さい ことが分かった。つまり、シミュレーション上では水とエタノールの混合溶液を 定量分析することができることが確認できた。9
第4章 実験方法
4-1 試料調製
4-1-1 使用器具や使用試薬 (1) メスフラスコ (2) ビーカー (3) メスピペット (4) 電子天秤 (5) 水(イオン交換水) (6) エタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬特級)(7)
酢酸(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬一級) 4-1-2 試料調製手順 (1) エタノール(または酢酸)をメスピペットで適量取り出す。 (2) 取り出した試薬をビーカーに移し、電子天秤で重さを測る。 (3) 次にイオン交換水も同様にメスピペットで取り出す。 (4) エタノール(または酢酸)の重さに対して、同じの重さになるようイオン交 換水をビーカーに移し電子天秤で測る。 (5) エタノール(または酢酸)とイオン交換水を混ぜる。 (6) エタノール(または酢酸)濃度 50 [wt%]の混合溶液が完成。 (7) これらのそれぞれ試薬の重さを変え水・エタノール混合溶液 10、30、50、 70、90 [wt%]、水・酢酸混合溶液 30、50、70 [wt%]となる試料の調製を行 った。 4-1-3 試料の密度測定 (1) 電子天秤から 100 [ml]メスフラスコ本体の重さを測り試料のみの重さを測 れるようにする。 (2) 100 [ml]メスフラスコに試料を規定線まで注ぎ、これを電子天秤に乗せ重さ を測る。 (3) 100 [ml]は体積にすると 100 [㎤]である。したがって、先に求めた 100 [ml] 当たりの試料の重さを100 で割ることで試料の密度を求めた。求めた水・エ タノール混合溶液の密度を表 4-1 に水・酢酸混合溶液の密度を表 4-2 に 記す。10 表4-1 水・エタノール混合溶液の実測密度 実測値 仕込み値 0 1.006 0.9995 10 0.979 0.9824 30 0.943 0.9571 50 0.903 0.9173 70 0.857 0.8716 90 0.814 0.8195 100 0.774 0.7935 表4-2 水・酢酸混合溶液の実測密度 実測値 仕込み値 0 1.006 0.9995 30 1.036 1.035 50 1.031 1.0534 70 1.066 1.0637 100 1.034 1.049
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4-2 X 線吸収スペクトルの測定
4-2-1 使用した測定機器 (1)X 線源 マイクロフォーカスX 線源(L12161-07) メーカー:浜松ホトニクス株式会社 仕様: 管電圧 150 [kV] タイプ 密封型 管電圧動作範囲 40~150 [kV] 最大出力 75 [W] 焦点寸法 5 [µm] X 線放射角度(円錐状) 43 度 出力窓から焦点までの距離(FOD) 17 [mm] 次の図4-2 に X 線源の写真と制御するソフト画面を記載する。 (a) 装置写真 (b) ソフト画面 図4-2 X 線源 コントロールユニットとPC を接続することによって、PC から X 線源を操作 することが可能である。ソフトには管電圧、管電流を設定する部分、X 線 ON/OFF スイッチがある。 (2)検出器Amptek PX5(デジタルパルスプロセッサ)/Amptek XR-100T-CdTe(プリア ンプ、検出器)
12 メーカー:Amptek 社(米国) 次の図4-4 に検出器の写真とその配線図を図 4-5 に記す。 図4-4 検出器 図4-5 配線図 この検出器によって、ch(=エネルギー)ごとの光子の数をカウントすること ができる。PC にソフト(DppMCA)をインストールすることにより、検出デー タおよびスペクトルをモニタリング、保存することが可能である。次の図 4-6 にDppMCA のウインドウ画面を記す。
13 図4-6 DppMCA ウインドウ このソフトでは、横軸のch 数、閾値、gain、測定時間などの各種パラメータ を設定可能である。 (3)イオンチェンバー ・イオンチェンバー(S-1329NA1、左) ・イオンチェンバー用コントローラ(S-2341A、中央) ・プリアンプ(S-2340A、右) メーカー:応用光研工業株式会社 次の図4-7 にイオンチェンバーの装置の写真を記す。 図4-7 装置写真
14 4-2-2 実験の測定方法 (1) 測定準備 X 線源と検出器、イオンチェンバーの電源を入れ PC を起動させる。この 時イオンチェンバー用コントローラのダイヤルを操作し350 [V]に合わせる。 (2) X 線源のウォームアップ X 線を正しく出力させるため、X 線源のウォームアップを行う。PC から X 線源のコントロールソフトを起動し、鉛ハッチの扉を閉め X 線を照射す る。このとき X 線の管電流と管電圧を 150 [kV]、25 [μA]に設定する。ま た、使用していないときの検出器のX 線からのダメージを考慮し、検出器の 前にX 線を遮蔽する鉛板を置く。ウォームアップが終了後 X 線源のコント ロールソフトによりX 線の照射は止まる。 (3) 試料透過前の X 線の吸収スペクトル𝐼0の測定 試料の線減弱係数を求める上で試料透過後から試料透過前の X 線の吸収 スペクトルを差し引かなければならない。よって、まずは試料透過前の吸収 スペクトルを求める必要がある。したがって、試料を置かない状態でX 線の 吸収スペクトルを測定する。しかし、今回は試料が液体であることからガラ スセルを測定用の容器に使用しているので、空のガラスセルをステージに置 き測定を行った。ガラスセルは東ソー・クウォーツ株式会社製の10×10×45 mm のガラスセル(T-1-UV-10)を使用した。X 線の低エネルギー側に発生す るタングステンの L-特性 X 線をカットするため X 線源側に厚さ 1[mm]の Al フィルターを張り付けた。ウォームアップ時に使用した鉛板は取り外す。 PC で DppMCA を開き各パラメータが次のような値になっていることを確 認する。 チャンネル数:1024 ch Slow Threshold:1.940 % Fast Threshold:7.934 Total Gain:6.000 確認できたら鉛ハッチを閉じ、測定時間を3600 [s]に設定し X 線源を起動 する。X 線が与えられた管電圧、管電流の値に到達したら DppMCA の Start を押し測定を開始する。測定終了後、X 線源を停止し鉛ハッチを開け中から のガラスセルを取り出す。DppMCA から各チャンネルの X 線吸収スペクト ルのデータを保存する。このデータを試料透過前のX 線の吸収スペクトル𝐼0 とする。 (4) 試料透過後の X 線の吸収スペクトルIの測定
15 ガラスセルに試料を入れ、それをステージに置き鉛ハッチを閉める。(3)と 同様の手順で試料を透過した後のX 線の吸収スペクトルを測定する。このと きのデータを試料透過後のX 線の吸収スペクトルIとする。試料は水・エタ ノール混合溶液の場合、エタノール濃度 [wt%] 0 ,10 ,30 ,50 ,70 ,90 ,100 % 全てでそれぞれ測定を行う。そのため試料を入れ替える際は次に測定する試 料でガラスセルを共洗いしてから試料を入れ測定を行う。 (5) 後片付け 測定終了後、DppMCA、X 線源のコントロールソフトを閉じ PC をシャッ トダウンする。X 線源と検出器、イオンチェンバーの電源を切る。ガラスセ ルをステージから取り鉛ハッチを閉じる。
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第5章 実験結果
5-1 X 線の吸収スペクトル
試料透過前と各試料透過後のX 線の吸収スペクトルを次のグラフにプロット した。水の結果を図5-1 水・エタノール混合溶液の結果を図 5-2 に、水・酢 酸混合溶液の結果を図5-3 にプロットした。 図 5-1 水のX 線吸収スペクトル 0 10 20 30 40 50 60 0 50 100 150 200 250 P h o to n [c p s] Energy [keV] I0 I (water)17 図 5-2 水・エタノール混合溶液のエタノール濃度 [wt%]ごとの X 線吸収 スペクトル 図 5-3 水・酢酸混合溶液の酢酸濃度 [wt%]ごとの X 線吸収スペクトル
5-2 試料の線減弱係数
測定で得られた試料透過前と各試料透過後の X 線の吸収スペクトルを次の式 を用いて線減弱係数𝜇に変換する。 𝜇 = −𝑙𝑛(𝐼 𝐼0 ) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 50 100 150 200 250 P h o to n [c p s] Energy [keV] I0 I (10 [wt%]) I (30 [wt%]) I (50 [wt%]) I (70 [wt%]) I (90 [wt%]) I (ethanol) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 20 40 60 80 100 120 140 P h o to n [c p s] Energy [keV] I0 30 [wt%] 50 [wt%] 70 [wt%]18 試料の濃度ごとのX 線の線減弱係数を次のグラフにプロットした。水・エタ ノール混合溶液の結果を図5-3 に、水・酢酸混合溶液の結果を図 5-4 にプロ ットした。 図 5-3 エタノール濃度 [wt%]ごとのエタノール混合溶液の線減弱係数 図 5-4 酢酸濃度 [wt%]ごとの酢酸混合溶液の線減弱係数 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 線減弱係数 [c m -1] エネルギー [keV] 0 (wt%) 10 (wt%) 30 (wt%) 50 (wt%) 70 (wt%) 90 (wt%) 100 (wt%) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 20 40 60 80 100 120 140 線減弱係数 [c m -1] エネルギー [keV] 0 (wt%) 30 (wt%) 50 (wt%) 70 (wt%) 100 (wt%)
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5-3 試料の質量源弱係数
5-2 で得られた各エタノール濃度 [wt%]ごとの線減弱係数をそれぞれ密度で 割り、各エタノール濃度 [wt%]ごとの質量源弱係数を求めた。このときの密度 は、試料調整の際に求めた実測値の密度を使用した。また、理論値と比較するた め XCOM の質量源弱係数とともに次の図 5-5 の(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g)にそれ ぞれプロットした。また、同様の作業を水・酢酸水溶液でも行い次の図5-6 の (a),(b),(c),(d)それぞれにプロットした。 図 5-5 (a) 水(イオン交換水) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] 実験値 XCOM20 図 5-5 (b) エタノール 図 5-5 (c) エタノール混合溶液 10 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] 実験値 XCOM
21 図 5-5 (d) エタノール混合溶液 30 [wt%] 図 5-5 (e) エタノール混合溶液 50 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値
22 図 5-5 (f) エタノール混合溶液 70 [wt%] 図 5-5 (g) エタノール混合溶液 90 [wt%] 図 5-5 エタノール濃度 [wt%]ごとの質量減弱係数 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g/ cm 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値
23 図 5-6 (a) 酢酸 図 5-6 (b) 酢酸混合溶液 30 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値
24 図 5-6 (c) 酢酸混合溶液 70 [wt%] 図 5-6 酢酸濃度 [wt%]ごとの水・酢酸混合溶液の質量減弱係数 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値
25
5-4 データの平均化
得られた質量源弱係数は測定のデータ点が多く、またグラフを見ても分かる ようにばらつきが生じ本来あるべき値と前後しているため複数の点で平均値を とる。20 点ずつ平均値を取り同様に水・エタノール混合溶液は図 5-7 の (a),(b),(c),(d),(e),(f),(g)に、水・酢酸混合溶液は図 5-8 の(a),(b),(c)にプロット した。 図 5-7 (a) 水(イオン交換水) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] 実験値(平均) XCOM26 図 5-7 (b) エタノール 図 5-7 (c) 水・エタノール混合溶液 10 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] 実験値(平均) XCOM
27 図 5-7 (d) 水・エタノール混合溶液 30 [wt%] 図 5-7 (e) 水・エタノール混合溶液 50 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均)
28 図 5-7 (f) 水・エタノール混合溶液 70 [wt%] 図 5-7 (g) 水・エタノール混合溶液 90 [wt%] 図 5-7 エタノール濃度 [wt%]ごとの質量減弱係数 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均)
29 図 5-8 (a) 酢酸 図 5-8 (b) 水・酢酸混合溶液 30 [wt%] 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均)
30 図 5-8 (c) 水・酢酸混合溶液 50 [wt%] 図 5-8 (d) 水・酢酸混合溶液 70 [wt%] 図 5-8 酢酸濃度 [wt%]ごとの質量減弱係数 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 実験値(平均)
31
5-5 エタノール濃度 [wt%]、酢酸濃度 [wt%]の導出
第三章のシミュレーションの時と同様に実験値の質量減弱係数から線形回帰分 析を用いて水・エタノール混合溶液のエタノール濃度 [wt%]、水・酢酸混合溶液 の酢酸濃度 [wt%]を求めた。この時の結果を次の表 5-1、表 5-2 に示す。ま た、これをグラフにしたものを図5-9、5-10 とする。 表 5-1 水・エタノール混合溶液の定量分析結果 エタノール濃度 [wt%] 回帰分析結果 [wt%] 仕込み値に対する分析結果の差 [wt%] 10 7.6 -2.4 30 22.8 -7.2 50 41.8 -8.2 70 69.7 -0.3 90 94.4 4.4 表 5-2 水・酢酸混合溶液の定量分析結果 酢酸濃度 [wt%] 回帰分析結果 [wt%] 仕込み値に対する分析結果の差 [wt%] 30 40.5 10.5 50 58.1 8.1 70 65.9 -4.1 仕込み値と分析結果との差から標準誤差を求めたところ、水・エタノール混合溶 液は±5.4 [wt%]、水・酢酸混合溶液は±8.0 [wt%]となった。これにより、回帰分 析を用いた定量分析は・エタノール混合溶液は±5.4 [wt%]、水・酢酸混合溶液は ±8.0 [wt%]の精度で求めることができることが分かった。この結果を異なる解析 法と比べるため、次に実効原子番号を用いた解析を行った。32 図 5-9 水・エタノール混合溶液の定量分析結果 図 5-10 水・酢酸混合溶液の定量分析結果 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 回帰分析結果 [wt%] 理論値 [wt%] 実験値を用いた回帰分析 シミュレーション結果 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 20 40 60 80 100 回帰分析結果 [wt%] 理論値 [wt%] 実験値を用いた回帰分析 シミュレーション結果
33
第六章 実効原子番号から濃度分析
6-1 実効原子番号から濃度を求める手法
(2-6)式の F と G がZに依存しないと仮定し(6-1)式のように近似する。 (6-1)式を変形することで次の(6-2)式が得られる。 ここで複数の試料の線減弱係数μを代入することで、それぞれの試料について(6- 3)式を得る。今回は取越らが行ったように、理論値(NIST : National Institute of Standards and Technology データベースの値)から線減弱係数を取得して代入する。 また、複数の試料に関してはC, Mg, Al の 3 種類の試料を用いる。これにより、3 つの(6-2)式の F, G が同一であることから回帰分析より F, G をあらかじめ決定す る。導出したF と G のグラフを次の図 6-1、図 6-2 に記す。 図6-1 C, Mg, Al の線減弱係数から求めた光電効果の項 F 0.00E+00 5.00E-29 1.00E-28 1.50E-28 2.00E-28 2.50E-28 3.00E-28 0 20 40 60 80 100 120 140 160 F エネルギー [keV]𝜇 = 𝜌
𝑒[𝑍
4𝐹(𝑘, 𝑍) + 𝐺(𝑘, 𝑍)] ≈ 𝜌
𝑒[𝑍
4𝐹(𝑘) + 𝐺(𝑘)] (6 − 1)
𝜇
𝜌
𝑒= 𝑍
4𝐹(𝑘) + 𝐺(𝑘) (6 − 2)
34 図6-2 C, Mg, Al の線減弱係数から求めた散乱の項 G 試料の線減弱係数および(6-2)より求めた F, G を(6-3)式に代入することで、回 帰分析よりそれぞれの試料の実効原子番号及び電子密度を導出することができ る。今回は特にこの実効原子番号に着目する。 (2-6)式 と(6-1)式より X 線スペクトルから得られた質量減弱係数は混合物に対 して線形性があると言える。このことから次の(6-4)式が成り立つと考えられ る。
𝑍
4= 𝑐 (
𝜇𝐴 𝜌𝐴+
𝜇𝐵 𝜌𝐵)
𝐴 𝑍+
𝜇𝐵 𝜌𝐵− 𝐺 (6-4)
このときの(𝜇𝐴 𝜌𝐴+ 𝜇𝐵 𝜌𝐵) 𝐴 𝑍をp、 𝜇𝐵 𝜌𝐵− 𝐺をqとして次の(6-5)式に変換する。𝑍
4= 𝑝𝑐 + 𝑞 (6-5)
このときのp,qは線形定数とし、cは混合物の割合(混合溶液であれば濃度)を 示している。それぞれc = 0 のときとc = 100 のときの実効原子番号Zを(6-5)式 0 1E-25 2E-25 3E-25 4E-25 5E-25 6E-25 7E-25 8E-25 9E-25 1E-24 0 20 40 60 80 100 120 140 160 G エネルギー [keV]𝜇
𝐺(𝑘)
= 𝜌
𝑒𝑍
4𝐹(𝑘)
𝐺(𝑘)
+ 𝜌
𝑒(6 − 3)
35 に代入することでp,qの値を定めることができる。この導出したp,qを(6-4)式 に代入し用いることで、実験で求めた実効原子番号から混合物の割合(混合溶液 であれば濃度)cを求めることができる。このことから、実効原子番号より水・ エタノール混合溶液、または水・酢酸混合溶液のエタノール濃度 [wt%]と酢酸濃 度 [wt%]を求めることができる。
6-2 実験値を用いた解析
実験で求めた線減弱係数を(6-3)式に代入することで、水・エタノール混合 溶液、水・酢酸混合溶液の濃度ごとの実効原子番号を導出した。水・エタノー ル混合溶液、水・酢酸混合溶液の濃度ごとの実効原子番号のグラフを次の図6 -3、図 6-4 に記す。 図6-3 エタノール濃度 [wt%]ごとの水・エタノール混合溶液の実効原子番号 6.4 6.6 6.8 7 7.2 7.4 7.6 7.8 8 0 20 40 60 80 100 120 実効原子番号 エタノール濃度 [wt%]36 図6-4 酢酸濃度 [wt%]ごとの水・酢酸混合溶液の実効原子番号 次に導出した実効原子番号のうちそれぞれ濃度が0、100 [wt%]のときの実効 原子番号を式(6-4)に代入し水・エタノール混合溶液、水・酢酸混合溶液のそ れぞれでpとqを定めた。水・エタノール混合溶液はp = -18.9599、q = 3691.924、水・酢酸混合溶液はp = -12.4128、q = 3691.924 と導出できた。 pとqを定めた式(6-4)に求めた実効原子番号を代入することで各濃度を算 出した。水・エタノール混合溶液、水・酢酸混合溶液の算出した濃度を表6- 1、6-2 に記す。また、これをグラフにプロットしたものを次の図 6-5、図 6 -6 に記す。 表6-1 実効原子番号から導出したエタノール濃度 [wt%] エタノール濃度 [wt%] 分析結果 [wt%] 仕込み値と分析結果の差 [wt%] 10 8.4 -1.6 30 24.5 -5.5 50 45.2 -4.8 70 71.7 1.7 90 96.2 6.2 6.9 7 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 7.8 7.9 0 20 40 60 80 100 120 実効原子番号 酢酸濃度 [wt%]
37 表6-2 実効原子番号から導出した酢酸濃度 [wt%] 酢酸濃度 [wt%] 分析結果 [wt%] 仕込み値と分析結果の差 [wt%] 30 42.9 12.9 50 60.5 10.5 70 68.9 -1.1 図6-5 実効原子番号から導出したエタノール濃度 [wt%] 0.00 20.00 40.00 60.00 80.00 100.00 120.00 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 分析結果 [wt %] 理論値 [wt%]
38 図6-6 実効原子番号から導出し酢酸濃度 [wt%] 先の回帰分析を行った時と同様に仕込み値と分析結果との差から仕込み値から の標準誤差を求めたところ、水・エタノール混合溶液は±4.4 [wt%]、水・酢酸混 合溶液は±9.6 [wt%]の精度で分析できた。回帰分析と実効原子番号を用いた解析 の結果を一つのグラフにしたものを次の図 6-4 に記す。図 6-4 を見ても回帰分 析結果と実効原子番号を用いた解析の標準誤差を比べても水・エタノール混合溶 液、水・酢酸混合溶液のどちらも大きな差は生じないことが分かった。 二種類の解析結果がおおよそ数%での精度で求めることができたが、医学応用 に用いるには数%では大きすぎると考えられる。今後はこの精度を高めることが 必要になる。そこでこの仕込み値との差が何によるものであるか検討していく必 要がある。 0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 分析結果 [wt%] 酢酸濃度 [wt%]
39 図6-4 回帰分析と実効原子番号を用いた解析の比較 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 0 20 40 60 80 100 分析結果 [w t% ] 仕込み値 [wt%] エタノール(回帰分析) エタノール(実効原子番号) 酢酸(回帰分析) 酢酸(実効原子番号) 理論値
40
第七章 誤差の検討
7-1 質量減弱係数のエネルギー依存性
次の図 7-1 はエネルギーごとの水・エタノール混合溶液の実験値と XCOM の 質量減弱係数をグラフにしたものである。Ex が実験値、XCOM が XCOM の値となっ ている。実験値は XCOM と同じような傾向をとっている。これから実験値と XCOM の値を比較するとエネルギーが低いところの一致率は高いが、エネルギーの高 い値となると大きく異なってくることが分かる。また、高エネルギー側から低エ ネルギー側になるにつれグラフの傾きも大きくなることが分かる。これは高エ ネルギー側に比べ低エネルギー側でデータのずれが生じた場合、エラー値が大 きくなりやすいことになる。つまり、質量減弱係数から回帰分析を行う際の分析 精度は低エネルギー側の精度に依存しているということが考えられる。 図 7-1 エタノール濃度 [wt%]ごとの質量減弱係数の比較 0.15 0.25 0.35 0.45 0.55 0.65 0.75 0 20 40 60 80 100 質量減弱係数 [g/ cm 2] エタノール濃度 [wt%] 22.13(Ex) 30.29(Ex) 38.45(Ex) 50.70(Ex) 22.13(XCOM) 30.29(XCOM) 38.45(XCOM) 50.70(XCOM)
41
7-2 Fitting 範囲の検討
質量減弱係数を線形回帰分析して濃度を導出する際、使用するエネルギー範 囲を22.13 [keV]から 99.67 [keV]とした。これには 20 [keV] 以下と 100 [keV] 以上のエネルギー帯のデータの精度があまり良くなく解析に用いるには適して いないと考えたため99.67 [keV]までのデータを解析に使用した。そこでこのエ ネルギー範囲を変え狭めることでさらに精度の良いエネルギー範囲があるか検 討してみた。水・エタノール混合溶液のエネルギー範囲の終点を99.67 [keV]に 固定し始点のエネルギーを変え、このときの回帰分析結果の仕込み値との差を プロットしたグラフを次の図7-2 に記す。E がそのデータ点のみを使用した解 析結果であり、Eiが変更するエネルギー範囲の始点を表している。このとき、60 [keV]以上の点では 100 [wt%]近くも仕込み値からずれるのに対し、20 から 30 [keV]近傍では仕込み値との差が 10 [wt%]以下の精度で濃度を求めることがで きていることが分かる。このことから、X 線質量減弱係数を回帰分析する際の分 析精度はエネルギー範囲の特に低エネルギー側に依存することが考えられる。 図 7-2 Fitting 範囲の始点を変化させたときの精度 1 10 100 1000 10000 20 30 40 50 60 70 80 90 100 理論値との差 [wt%] エネルギー [keV] E Ei to 99.66 [keV]
42 次に、エネルギー範囲の始点と終点の両方を変えた場合を考える。この時のグ ラフを図 7-3 に記す。このときのエネルギー範囲の始点を Eiとし、終点を Efと した。 図 7-3 Fitting 範囲ごとの精度の変化 図 7-3 より、エネルギー範囲を狭め使用するデータ数減らせば減らすほど分 析精度は悪くなり、エネルギー範囲が最も広いものが最も測定精度が良いとい うことが分かった。
7-3 試料調製誤差の検討
今回試料で使用した水・エタノール混合溶液、水・酢酸混合溶液は 4-1 章で も述べたように試料調製は自ら手作業で行った。本来の文献値の濃度と調製し た試料の濃度との間に多少なりとも差があると考えられることから検討を行っ た。 まず始めに水・エタノール混合溶液の測定した密度とその文献値との差を一 覧表にした。このときの表を次の表 7-2 とする。また、文献値には次の表 7-1 を使用した。5)43
44 表 7-2 水・エタノール混合溶液のエタノール濃度 [wt%]ごとの密度 エタノール濃度 [wt%] 密度 実測値と理論値 の差 [%] 文献値 [g/cm3] 実測値 [g/cm3] 0 0.9991 0.996 -0.27 10 0.9824 0.979 -0.36 30 0.9571 0.943 -1.45 50 0.9173 0.903 -1.58 70 0.8716 0.858 -1.62 90 0.8195 0.814 -0.62 100 0.7935 0.793 -0.01 次に同様の濃度の試料の調製を2回行い、調製誤差の検討を行った。水・エタ ノール混合溶液のエタノール濃度 50 [wt%]を試料に使用した。このときの表を 次の表 7-3 にまとめた。 表 7-3 エタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の密度 試料作製日時 2020/1/25 2020/10/5 密度 [g/cm3] 0.908 0.903 表 7-2 より試料の調製精度を求めたところ文献値に対し±1.06%となった。 また、表 7-3 より、同一の試料を別日に調製しようが密度が大きく変わること は無く、その差は 0.06%であった。したがって、調整における試料の濃度誤差 はおおよそ 1%程度であり、分析結果に対する影響は大きくはないと考えられる。
45
7-4 実験の測定精度の検討
実験における測定精度を検討するため、測定条件や測定試料を同じにした測 定を複数回行いその結果を比較することにした。試料は水・エタノール混合溶液 のエタノール濃度 50 [wt%]を使用し、測定条件は四章と同様にして一時間の測 定を三回連続で行った。測定できた質量減弱係数のグラフを次の図 7-4 に記す。 図 7-4 エタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の質量減弱係数 質量減弱係数の精度について検討していく。三回分のエタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の質量減弱係数の標準偏差をとり、これを質 量減弱係数の平均で割ることでエネルギーごとの分散を求めた。このときのグ ラフを次の図 7-5 に記す。 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 20 40 60 80 100 120 140 160 質量減弱係数 [g /c m 2] エネルギー [keV] XCOM 1st 2nd 3rd46 図 7-5 エタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の質量減弱係数の分散 図 7-5 より、分散が小さいものは 0.1%未満のものから大きいもので 3%近 いエネルギーもあった。これらの平均をとったところ、1.12%となり、エタノ ール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の質量減弱係数の全体の分散は 1.12 %という結果になった。したがって、質量減弱係数の精度は解析結果に 比べ悪くはないことが分かった。 ここで得られた三回分の質量減弱係数、線減弱係数を用いて線形回帰分析、実 効原子番号を用いた解析を行った。回帰分析を行ったものの表を表 7-3、実効 原子番号を用いた解析を行ったものを表 7-4 に記す。 表 7-3 エタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の回帰分析結果 回帰分析結果 [wt%] 仕込み値との差 [%] 1 回目 60.2 10.2 2 回目 53.8 3.8 3 回目 40.6 -9.4 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 0 20 40 60 80 100 120 分散 [%] エネルギー [keV]
47 表 7-4 エタノール濃度 50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の 実効原子番号を用いた解析結果 分析結果 [wt%] 仕込み値との差 [wt%] 1 回目 59.8 9.8 2 回目 52.6 2.6 3 回目 39.6 -10.4 表 7-3 の三回の結果の平均値を求めたところ 51.5 [wt%]、標準偏差を求め たところ 8.2 [wt%]という結果になった。表 7-3、7-4 を比較すると回帰分析 と実効原子番号を用いた解析もほとんど同じ結果となった。解析方法が異なる のに対し同じような結果になることから質量減弱係数の精度が重要になってく ると考えられる。
48
第八章 考察とまとめ
XCOM の値を用いたシミュレーション上での水・エタノール混合溶液の定量分析 は仕込み値との差が最小約0.04 [wt%] 、最大約 0.27 [wt%]となることが分かっ た。また、水・酢酸混合溶液のシミュレーション上の定量分析結果は仕込み値との 差が最小約0.01 [wt%] 、最大約 0.11 [wt%] となることが分かった。全体を見ても 差が0.3 [wt%] 未満となることからかなり高精度な分析を実行できたと言える。し たがって、シミュレーション上ではフォトンカウンティングCT を用いて水・エタ ノール混合溶液、水・酢酸混合溶液の定量分析は可能であると結論付けることがで きる。しかし、実験値を用いて同様に水・エタノール混合溶液の定量分析行ってみ ると、仕込み値との差が最小でも約0.3 [wt%] 、最大約 8.2 [wt%] となる結果とな った。また水・酢酸混合溶液では、仕込み値との差が最小でも約4.1 [wt%] 、最大 約10.5 [wt%] となった。またこれらの平均をとったところ、水・エタノール混合 溶液では5.4 [wt%] 、水・酢酸混合溶液では 8.0 [wt%] の仕込み値との差となっ た。実効原子番号を用いた分析も仕込み値との差が水・エタノール混合溶液で± 4.4 [wt%]、水・酢酸混合溶液は±9.6 [wt%]となった。この分析精度ではまだ医療 分析や保安検査に用いるには差が大きすぎるだろう。 シミュレーション上では分析可能であることから、実験値を用いると分析精度が 悪くなってしまうということが考えられる。つまり、実験値の精度に問題があるの ではないかと考えられる。この実験精度の問題には二種類の原因が考えられる。一 つは試料の調整する際に試料と本来の仕込み値間で生じてしまう濃度そのものの 差。二つ目は測定の際のX 線線減弱係数の分散によって生じる測定誤差である。一 つ目の要因をエタノール濃度50 [wt%]の水・エタノール混合溶液の試料の密度を測 定し確認したところ、試料の調製精度は±1.06%となり、これのみが実験精度にお ける大きな要因ではないと考えられる。次に二つ目の要因を確認したところ 1.12% となりこれもこれ単体が実験精度に大きく影響を与えているとは考えられない。こ れらの二つの要因がそれぞれ1 %程度で小さいのに比べ解析を行うと 5.4 [wt%]も 差が生じてしまう。今後はこの分析において仕込み値との差が大きくなってしまう 原因を検討していく必要がある。全体的な原因はまだ不明だが、考えられる要因の 一つとしてこの分析法が質量減弱係数とエネルギーのグラフの形に依存することが ある。グラフの形が少しでも変わることで誤差が大きくなってしまうと考えられ る。先の7-4 で三回分の質量減弱係数を回帰分析した結果、三回分の導出した濃 度の平均値は50 [wt%]に収束していくことから測定時間を三倍に、観測するフォト ン数を三倍にすれば精度が上がるのではないかと考えられる。また、測定条件にあ る管電流を上げれば出力が上がりフォトン数も増える。そこでこのグラフの縦軸で49
ある質量減弱係数の精度をさらに上げるため測定時間や測定条件の管電流の出力を 上げ、フォトンのカウント数を増やすことが重要となってくると考えられる。
50
参考文献
1)上野惠子(2013)『スペクトラルCT 基本原理と臨床応用』株式会社学研マーケティング. 2) M. Patino et al., RG. 36, 1087-1105 (2018)
3) W.ZOU et.al.: Jpn.J. Appl.Phys., 47(9), (2008)7318.
4)取越正己、角尾卓紀 (2004):単色 X 線 CT の医学診断応用、The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research, Vol.17, No. 4.
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