今ツバルに何が起きているか―地球温暖化最前線の
現状―
著者
神保 哲生
雑誌名
南太平洋海域調査研究報告=Occasional papers
巻
47
ページ
9-10
別言語のタイトル
What's Happening in Tuvalu―Realities of
Global Warming―
南 太 平 洋 海 域 調 査 研 究 報 告 No.47(2007年3月) 9 OCCASIONAL PAPERS No.47 (March 2007)
今 ツ バ ル に 何 が 起 き て い る か
−
地球温 暖化最前線 の現状−
神保
哲 生
(ビデオジャーナリスト)
What's Happening in Tuvalu — Realities of Global Warming —
JIMBO Tetsuo (Video Journalist) Abstract
Tuvalu is locatad in the middle of the South Pacific. This country is severely affeted by global warming. The situation was presented by video footage of Tuvalu.
南 太 平 洋 の 真 ん 中 に ツバ ル とい う国 が あ る。 人 口1万 人 あま りの 小 さな 国 だ が,豊 か な海 の恵 み に 囲 まれ て,平 和 な 自給 自足 の 生 活 を営 む,友 好 的 な 人 々 が 住 む 国 だ 。 この ツバ ル が 今,海 に沈 み 始 めて い る。 も とも と平 均 標 高 が2メ ー トル に も満 た な い 低 い 国 土 だ った が,過 去10年 ほ ど,加 速 的 な 海 岸 浸 食 と,海 水 が 地 下 水 を通 じて 内陸 に噴 き 出 して く る洪 水 に悩 ま され る よ うに な った 。 これ は地 球 温 暖 化 に起 因 す る海 面 上 昇 の 影 響 で あ る可 能 性 が 高 い 。 地 球 の 気 温 が あが る こ とで 海 水 の温 度 も上 昇 し,そ れ が 海 水 の 体 積 を増 や して い る。 も ち ろん,氷 河 や 極 地 の 氷 床 の溶 解 も影 響 して い る可 能 性 が あ る。 ツバ ル の国 土 全 体 が 丸 ご と海 に沈 む に は,ま だ ま だ 何 十 年,い や も しか した ら何 百 年 もか か るか も しれ ない 。 しか し,ツ バ ル の 人 た ち は ツバ ル が そ う遠 くない 将 来,人 間 が 住 め ない 土 地 に な る こ とを知 って い る。 既 に ツバ ル の 人 た ちの 生 活 基盤 は 根 底 か ら奪 わ れ 始 めて い るか らだ 。 地 下 水 を通 じて 内陸 に浸 入 した 海 の 塩 水 が,自 給 自足 を営 む た め に不 可 欠 な ツバ ル の 畑 に入 り込 み,主 食 の プ ラカ 芋 を始 め とす る作 物 が 収 穫 で きな くな って い る。 根 菜 は 塩 につ か る と根 が 腐 って しま うか らだ 。 自給 自足 が 維 持 で きな くな れ ば,食 べ 物 は 買 う しか ない 。 しか し,こ れ とい って 産 業 のな い ツバ ル で は,現 金 収 入 を得 る手 段 が 無 い 。 そ の た め ツバ ル 人 の 多 くが,現 金 収 入 を得 るた め に,海 外 に 出稼 ぎ に 出 な けれ ばな らな くな って い る。 も はや ツバ ル は この ま まで は生 き残 れ ない 。 そ う判 断 した ツバ ル 政府 は2001年 か ら, 海 外 へ の 移 住 計 画 を実 行 に移 し始 めた 。 国 を捨 て て も何 とか 海 外 で ツバ ル 人 とツバ ル 文 化 を残 そ う とい う,生 き残 りをか けた ぎ りぎ りの 選 択 だ った 。 手 始 め にニ ュー ジー ラ ン ドに毎 年75人 が 移 住 して い る。75人 とい って も人 口1万 余 の ツバ ル に とって の75人 は 日
10 神保 哲生 本 の ほ ぼ100万 人 に相 当す る。 しか も,働 き盛 りで 英 語 の で き る有 能 な ツバ ル 人 が優 先 的 に国 を去 って い く。 この ま まで は ツバ ル は 国 土 の 沈 没 を待 た ず して,沈 ん で しま う。 生 き残 り計 画 を実 践 す る一 方 で ツバ ル 政 府 は,自 分 た ち の運命 を左 右 して い る と思 わ れ る地 球 温 暖 化 の 問題 で も積 極 的 な働 きか け を始 めた 。 ツバ ル の 首 相 は温 暖 化 の国 際 会 議 に は必 ず 顔 を見 せ,世 界 に 向 けて 地 球 温 暖 化 を阻 止 す る こ との 重 要 性 を訴 えて い る。 も しか した らも う人 類 は ツバ ル を救 うこ とは 出来 な い か も しれ な い 。 今 た だ ち に抜 本 的 な 温 室 効 果 ガ ス の削 減 を行 った と して も,既 に ツバ ル を救 うに は手 遅 れ の 可 能 性 が 高 い 。 しか し,人 類 に とって ツバ ル は炭 坑 の カ ナ リア な のか も しれ な い 。 炭鉱 内 にガ ス が 出た こ とを察 知 す るた め に,あ えて 抵 抗 力 の 弱 い カ ナ リア を連 れ て 坑 内 に入 る。 カ ナ リ ア が 死 ん だ の を見 て 急 い で 炭 坑 を 出れ ば,よ り抵 抗 力 の あ る人 間 は何 とか 生 き られ る。 ツバ ル が,今 苦 しん で い る。 そ れ を単 な る対 岸 の 火 事 と して 見 過 ごす か,そ れ ともそ れ を炭 坑 の カ ナ リア と見 るか 。 今 先 進 国 に住 む 私 た ちの 常 識 が 問 わ れ て い る。 しか も,地 球 温 暖 化 を起 こ して い るの は,他 で も ない,先 進 国 に住 む 私 た ちな の だ 。