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日本語学習者の語用論的知識テストの開発 : 語用論的知識の測定はどこまで可能か

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26 本稿では,英語話者を対象に開発された日本語学習者の語用論的知識測定のためのテストを紹介 し,その開発過程およびテストの信頼性,有用性を考察し,妥当性分析の中間報告を行う。 本研究では,語用論知識を発話行為,決まり文句,スピーチレベルの 3つのカテゴリーに区分し, インターネット上でテストを実施し,110名の日本語学習者からデータを得た。この結果をもと に,テストの信頼性,語用論的知識との文法知識との関係,およびテスト結果とACTFLガイド ラインに基づいた口頭外国語能力との相関関係を調査した。語用論知識の 3つのカテゴリー,文 法知識,口頭外国語能力間には相関関係がみられたが,因子分析では有意義な分析には至らず, 更なる妥当性の検証が必要である。 キーワード:語用論的知識,口頭外国語能力,日本語学習者,英語話者 1.米国の日本語教育における語用論知識の評 価の現状

Hymes(1974)が語用論的能力(pragmatic ability) をコミュニケーション能力の一部として位置づけて 以来,語用論的能力(ここでは「与えられた状況で言 語を適切に運用する能力」と定義しておく)の重要 性は言語教育の分野でも指摘されている1。アメリカ での外国語教育に強い影響力を持つナショナルスタ ンダーズ(米国外国語教育の指導基準を示唆する文 *Department of Modern Languages, Linfield College

E-mail: [email protected]

1 本稿は 2010 年 3 月 15 日に米国フィラデルフィアで行な わ れ た 全 米 日 本 語 教 師 学 会(Association of Teachers of Japanese)セミナーでの英語での口頭発表“Testing prag-matic knowledge of JFL learners: How testable is it?”に加筆 し,修正を加えたものである。 研究論文

日本語学習者の語用論的知識テストの開発

語用論的知識の測定はどこまで可能か

糸満 真之

* 書)は,「現在,言語習得の基盤はコミュニケーショ ンであり,社会言語学的および言語の文化的な側面 である『いつ,だれに,なぜ』コミュニケーションを 図るか,という点が強調される」(Student Standards Task Force of the National Standards in Foreign Language Education Project,1996,p. 11,筆者訳) としている。これに伴い,米国の高等教育でも,英 語母国語話者である日本語学習者の語用論的能力や 語用論的感覚の教育の可能性や,その能力・感覚の 発達の測定といった分野での研究が近年盛んになっ てきている(Aoshima,Ishihara & Akikawa,2008;

Cohen & Ishihara,2005;Ishihara,2007;Rose & Kasper,2001)。 しかしながら,日本語学習者の語用論的能力の評 価に関しては,文法能力や語彙力等の評価と比較 すると,まだ遅れを取っていると言わざるを得な い。全世界で実施されており,アメリカ国内でも受 験可能な試験(日本語能力試験など)の多くは,文

(2)

法,語彙,読解等が中心である。言語運用の状況設 定も少なく,語用論的知識が試験内容に明確な形で

含まれていない場合がほとんどである2。広く知られ

ている全米外国語教育学会(ACTFL)の外国語口頭

試験(Oral Proficiency Interview,OPI)でも,外国語 能力を単一的,包括的な能力と定義づけ,語用論的 能力を個別に測定することはしていない(Bachman, 1990;牧野,1991)3。語用論的能力の必要性が教育の 現場で強く求められる一方,それを評価する手段が 不足している,というのが現状である。 2.本稿の目的 本稿では,英語話者を対象に開発された,日本語 学習者の語用論的知識測定のためのテストを紹介し, その開発過程,および信頼性,妥当性,有用性につ いて考察する。今回開発されたテストは,語用論知 識を,Rover(2005,p. 4)に倣い,ある言語形式が特 定の状況で持つ典型的な語用論的意味の知識と定義 づけ,その知識を測ることを目的とする。 具体的には,語用論知識を発話行為(Speech Acts),決まり文句(Routines),スピーチレベル (Speech Styles)の 3 つのカテゴリーに区分し,そ れぞれ 12 問の四者択一(multiple-choice)テスト問 題を作成した。インターネット上でテストを実施し, データ収集を行なった。このデータ分析を通して, テストの内的一貫性(α係数),語用論的知識の各カ テゴリーと文法知識との関係,因子分析,さらにテ スト結果とACTFLガイドライン(Breiner-Sanders et al.,1999)に基づいた参加者の口頭外国語能力レ ベルとの相関関係を調査するものである。 2 米国での主要な日本語学習者のためのテストについて はEda,Itomitsu & Noda(2008)を参照。2010 年に導入 された新日本語能力試験では,場面に即した発話を選ぶと いった設問が新たに採択されている。 3 「フォーマル/インフォーマルな会話に積極的に参加 できる」等,語用論的知識が要求されると思われる表現が ACTFLガイドラインに出てくるのは上級(Advanced)以 上になってからである(Breiner-Sanders,Lowe,Miles & Swender,1999)。 3.先行研究 語用論的知識・能力の測定には,これまで主に 談話完成タスク(Discourse Completion Task)や ロールプレイ,多項式選択問題などが使われてい

る。英語教育では,Hudsonらが英語母語話者・学

習者を対象に行なった調査をもとに作成したテスト (Hudson,Detmer & Brown,1992,1995)がよく 知られている。このテストでは依頼,断り,謝罪の 3 つの発話行為をそれぞれ 4 つの状況に置き,談話 完成タスク,3 者択 1 談話完成タスク,リスニング テスト,インタビューテスト,2 種の自己評価(self assessment)など,様々な方法で学習者の語用論的 能力の測定を試みている。 Rover(2005)は語用論的知識を含意( implica-ture),発話行為,決まり文句の 3 つに区分し,英語 学習者を対象にし,コンピュータを使ってインター ネット上で談話完成タスク,4 者択 1 談話完成タス クのテストを行なった。この研究で特筆すべき点は, どちらのテストでも比較的高い信頼性が得られたこ と(α>.73),各セクションのスコアに有意な正相関 が見られたこと,さらに因子分析(factor analysis) で抽出された因子がそれぞれのセクションと対応し ており,テスト構造の妥当性を示唆していることで ある。Roverはこの結果から,「このテストは,全 体として語用論的知識の比較的同一である土台を測 定しつつ,それぞれのセクションがその知識の異な る側面に関与していると考えられる」と述べている (p. 79,筆者訳)。 日本語教育においては,Yamashita(1996)が,前 述のHudson et al.(1995)の英語学習者用のテスト を日本語に翻訳し,同様の研究を行なった。しかし, テスト作成の基盤となっている英語のテストは英語 話者から得たデータをもとに作られているため,日 本語に翻訳されたテスト問題の信頼性および妥当性 には疑問が残る。以下はオリジナルの英語での設問 と,その和訳版との比較の例である。

You work in a small department of a large of-fice. You are in a department meeting now. You need to borrow a pen in order to take

(3)

some notes. The head of your department is sitting next to you and might have an extra pen.

a: Excuse me, can I use an extra pen? b: Oh, I'd like to take some notes, but it

seems that I have no pen with me. c: Excuse me, but do you have an extra pen

I could borrow? (Hudson, et al.,1995,p. 109) あなたは大きな会社の小さな部で働いていま す。今その部の会議に出席していますが,ノー トを取るのにペンを借りる必要があります。と なりにすわっている部長が一本余分に持って いるかもしれません。 a:すみませんが,ペンをお借りできますか。 b:あ,メモを取りたいんですが,書くもの がないんですよ。 c:すみませんが,お借りできるような,余 分なペンをお持ちですか。 (Yamashita,1996,p. 176,原本はふりがな付き) オリジナルに忠実な和訳ではあるが,この状況が 米国でも日本でも同様に起こりえるものかどうか, 意訳をどの程度まで許すか,「が/けど」「んです」や 敬語などの日本語特有の言語形式をどう扱うべきか, など,翻訳を語用論的知識の測定に用いる際には問 題点が少なくない。さらに,英語版では(c)が正答だ と考えられるが,日本語では(a)の正答の可能性も 否定できない。また状況設定が日本語で提示されて いるため,高度の読解能力も必要になり,交錯要因 にもなりかねない。また,このような設問では,日 本語母語話者間でも判断に個人差が見られ,1 つの 「正答」が得にくいと考えられる。3 者択 1 という形 式もあってか,この方法で用いてテストを実施した ところ,3 つのフォームの合計 47 問の信頼性(内的 一貫性,α係数)は.4652 という低い結果になった (Yamashita,1996,p. 40)。 日本貿易振興機構(JETRO)が実施しているBJT ビジネス日本語能力テストの筆記試験部分である JLRT聴読解テストは,各レベルの評価基準に「対人 関係に応じた言語表現の使い方」(加藤,2006,p. 12) が明記されている点で注目される。JLRTには様々 なビジネスの場面における語用論的知識の測定のた めの設問と思われるものが少なくない。以下は公式 ガイド(加藤,2006,p. 58)からの例である。 A:あの∼,これたいしたものじゃないんですけど。 B:       。 1 では,遠慮します 2 では,ご辞退申し上げます 3 あ,どうもご丁寧に 4 あ,そうですか この設問は,フォーマルな場面で贈り物やお土産 を受け取るという状況で,適切な言語形式の知識を 測っている,と推測できるが,設問では状況描写や 説明が与えられていない。このため,語用論的知識 を「ある言語形式が特定の状況で持つ典型的な語用 論的意味の知識」と定義づける場合,受験者が設問 を読んで想像する言語使用状況が,出題者の意図し たものかどうかが明らかでない。また,選択肢の漢 字が読めなければ語用論的知識があっても答えられ ないという可能性もある。JLRTには他にも写真や 音声で状況を描写している設問が見られるが,音声 での説明には高度な聴解力が必要であり,特に初級 や中級の学習者には,音声での状況設定が理解でき なければ問題に答えられない,という危険性もある。 以上,語用論的知識の測定に関しては,多項目選 択問題を用いたテストでは信頼性が危惧されること, 英語からの日本語への翻訳の試験には困難な点が見 られること,さらに,ある言語形式が特定の状況で 持つ典型的な語用論的意味の知識の測定には明確か つ実際にあり得るような状況の提示が不可欠である こと,などが指摘できる。これらの先行研究から,本 研究では英語話者,主にアメリカの大学での日本語 学習者のための語用論的知識テストを開発し,その 結果を分析した。 4.研究概要 4.1.テスト開発 本稿では,語用論知識を,Rover(2005,p. 4)に倣 い,特定の状況下で「発話意図を伝えるため,また

(4)

相手話者の発話の語用論的意味を特定するために必 要な言語形式の知識」(筆者訳)と捉える。今回の調 査では,この知識を,実際の言語運用を伴わない環 境(offline)で測定し4「ある言語形式が特定の状況 で持つ典型的な語用論的意味の知識」を測ることを 目的としている。 Rover(2005)とJung(2002)の先行研究分析に基 づき,語用論的知識はさらに発話行為,決まり文句, スピーチレベルの 3 つのカテゴリーに細分化した。 「発話行為」では,ある状況下での依頼,断り,勧誘, 謝罪などの行為を行なう場合に頻用される言語形式 の知識の測定を目的とし,「決まり文句」では「いっ てらっしゃい」,「いただきます」などの,ある特定の 場面での型通りで儀礼的な言語形式の知識の測定を 目的とし,「スピーチレベル」(宮武,2009)では,い わゆる常体/敬体など,会話参加者および話題の対 象となる人物の上下関係や地位などに応じた言語形 式の知識の測定を目的とした。 出題範囲については,日本語能力試験出題基準 (国際交流基金,1984)や既存の参考書(Sanseido, 2002),また全米の大学で広く用いられている日 本語学習用の教科書分析のデータ(Itomitsu,2005, 2008)をもとに,それぞれのカテゴリーに頻出する 言語形式を抽出した。「発話行為」には教科書分析で 最も頻出数の高い依頼,申し出,提案の 3 つの発話 行為を選び,それぞれに関連する言語形式のリスト を作成した。「決まり文句」では,参考書に見られる 600 の表現の中から,教科書分析で最も頻出数の高 い 100 を抽出した。「スピーチレベル」では,日本語 能力試験 2 級,3 級,4 級出題基準の「敬語」(国際交 流基金,1984,pp. 178-81)から,教科書分析のデー タに出現する 60 の言語形式を選択した5。教科書分 析を取り入れたのは,そのデータには米国の日本語 教育に携わる教科書執筆者および教師の多くが重要 だと考える言語形式の多くが出現すると考えられる ためで,テストの内容妥当性を目指したものである。 こうして作成した出題範囲の項目リストをもとに, 4 本研究で「語用論的能力のテスト」ではなく「語用論的 知識のテスト」としているのはこのためである。 5 それぞれのカテゴリーの言語形式のリストについては, Itomitsu(2009)補遺を参照。 設問を作成した。語用論的知識の測定には,四者択 一形式を採択し,設問を 48(各カテゴリーにつき 16 問× 3)作成した。データ収集が容易であること, マルチメディアを駆使した状況提示の利便性などか ら,テスト開発はインターネット上でコンピュータ を使って行なった。設問には,教科書分析データに 頻繁に見られる場面や人間関係を用いた状況設定を 施した。米国での日本語学習者の参加者を想定して いるため,状況説明には学習者の母語である英語を 使用した。また,各設問に状況を描写したイラスト と音声ファイルを付け,問題と選択肢の日本語はふ りがなとともに提示した。これは書き言葉(漢字能 力)の干渉を最小限にするためのものである。 これらの語用論的知識の 3 つのカテゴリーからな るテストに加え,語用論的知識と文法知識の関係を 調査するため,文法テストの設問も同様に開発した。 教科書分析データをもとに,語用論的知識と同様の 状況提示方法を用いた 16 問を作成した。 設問の選択肢の作成については,意図した分野の 知識(語用論的,文法的)のみを測定することに努 め,学習者によく見られる誤用などを参考にした。 選択肢の作成例として次の 2 つの設問を挙げる。 設問1:客が家電店で店員と話しています。客 は店員に何と言うでしょうか。  「すみませんが,ちょっとそれ見せて   。」 A.くれませんか B.できませんか C.しませんか D.お願いします 設問2:客が家電店で店員と話しています。客 は店員に何か頼んでいます。客は店員に何 と言うでしょうか。  「すみませんが,ちょっとそれ   。」 A.見せてくれませんか B.見せたいんでしょうか C.見せてあげましょうか D.見せてもらいたいでしょうか 一見,同じような設問であるが,設問 1 は,状況 設定や話者の意図(語用論的意味)に関わらず,文法 の知識(文か非文か)で答えられるという面で文法

(5)

のテストと言える。これに対して,設問 2 は,与え られた状況で話者の意図(ここでは依頼という発話 行為)を遂行するために使われる典型的な言語形式 の知識がなければ答えられないという点で語用論的 知識(発話行為)のテストであると言える。 もう一つ例を挙げる。 設問3: デパートで従業員がお客様の呼び出し をしています。従業員は何と言うでしょう か。  「山口様,山口聡子様,正面玄関まで   。」 A.お越し下さい B.お越しになって C.お伺いできますか D.いらしてちょうだい この設問では,すべて「依頼」という発話行為の中 から場面に最もふさわしい言語形式を選ぶ,という 点で,スピーチレベルの知識のテストである。 4.2.パイロットテスト こうして作成された合計 64 の設問(発話行為,決 まり文句,スピーチレベル,文法それぞれ 16 問)を まとめ,SurveyGizmo(データ集計サイト)を使用し, 2008 年秋にパイロットテストを実施した。パイロッ トテストには,米国の大学で日本語教育に携わる日 本語母国語話者および英語母国語話者 12 人(大学教 授,ティーチングアシスタントの大学院生)の協力 を得た。インターネット上でテストを受けてもらい, その正解率を調査した。さらに,それぞれの設問に ついて,状況設定や言語使用は自然で実際に起こり える場面かどうか,設問の言語形式の知識は日本語 学習者にとって重要な知識かどうか,設問の学習者 にとってどの程度難しいと思われるか,の 3 つの質 問を付し,各質問に 4 段階の評価を行なってもらっ た。得られたデータとコメントをもとに,状況設定 や表現に修正が加えられ,パイロットテスト 64 問の 中から正答率が 100%であり,かつ学習者にとって 最も重要な知識だと判定された 48 問(発話行為,決 まり文句,スピーチレベル,文法それぞれ 12 問)を 最終版として選んだ。 最終版のテスト設問例を図 1 と図 2 に示す6 4.3.テスト実施概要 テストの最終版は,2008年秋から2009年春にかけ てインターネット上で実施し,米国中西部の 4 つの 大学の日本語学習者110名(9名のリピーターを含め ると延べ数は 119)が参加した。テスト参加者の内訳 を表 1 に示す。 このうち,50 名が,テスト参加の 1 か月前後以内 に,ACTFLガイドラインに基づいた公式・非公式 のOPI,またこれに類似したインタビューテストを 受け7,口頭外国語能力が測定された。レベル別の人 数の内訳を表 2 に示す。 5.テスト結果分析 5.1.基本統計量 テスト結果のカテゴリーごとの平均値,標準偏差 等は表 3 に示す通りである。各カテゴリーに 12 問, 合計 48 問で,1 問正解につき 1 点の 48 点満点である。 どのカテゴリーにも平均値,標準偏差には同様の 傾向が見られるが,スピーチレベルの設問は学習者 には比較的難しかったようである。 5.2.テスト全体および各カテゴリーの信頼性 カテゴリー間およびテスト全体での信頼性を調査 するため,内的一貫性を示すα係数を求めた。結果 6 どの設問も,実際に使われた設問の状況設定は英語で与 えられた。原文は以下の通り:Ms. Nakamura, a housewife, is serving dinner to a guest at her house. What would Ms. Nakamura probably say to the guest? Read and/or listen to the Japanese.(決まり文句設問サンプル)。実際のレイアウ ト等,テストの詳細については,Itomitsu(2009)補遺を参照。 7 このうちACTFL公式OPIが 5件,OPIテスターと同大

学に所属する学生の非公式OPI(Institutional OPI)が 3件, OPIワークショップ経験者によるインタビューテストが 33 件,米政府機関語学諮問会(Interagency Language Round-table)OPIワークショップ経験者によるインタビューテスト が 9件であった。全てにおいてACTFLガイドラインが採用 されたが,異なる試験官によって行なわれ,OPIテスター の資格を持たない試験官もいるため,テスト間の信頼性は ここでは取り上げない。

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は表 4 に示す通りである。Wells & Wollack(2003) によれば,標準テストのα係数は.80 以上が望まし いとされる。今回の結果では,テスト全体では高い 信頼性が得られ,多項式選択問題を用いた先行研究 図

1

 決まり文句 設問サンプル 図

2

 スピーチレベル 設問サンプル と比較しても高い信頼性が得られたものの,各カテ ゴリーの内的一貫性については改良の余地がある。 5.3.各カテゴリー間のスコアの関係 各カテゴリー間のスコア結果の相関係数を表 5 に まとめる。全てにおいて有意な相関が認められた。 最も高い相関は発話行為とスピーチレベルであった。 語用論的知識の異なる側面間に相関が見られたこと 表

2

.口頭外国語能力レベルの内訳(合計

50

名) 口頭外国語 能力レベル n 上級 8(3名の上級̶下,3名の上級̶中, 2名の上級̶上の合計) 中級̶上 10 中級̶中 12 中級̶下 10 初級 10(2名の初級̶中,8名の初級̶上の 合計) 表

3

.基本統計量(参加者

110

名*) カテゴリー M SD 最低点 最高点 発話行為 7.35 2.698 1 12 決まり文句 8.08 2.293 2 12 スピーチレベル 6.66 2.865 1 12 文法 7.39 2.688 2 12 TOTAL 29.44 9.030 10 48 *このうち 9名が春と秋に 2度参加,延べ 119件 表

5

 カテゴリー間の相関係数 ピアソン係数 発話行為 決まり文句 スピーチレベル 文法 発話行為 1.000 決まり文句 .662 1.000 スピーチレベル .707 .536 1.000 文法 .666 .626 .660 1.000 表

4

.カテゴリー間およびテスト全体での内的一貫性(α係数) カテゴリー α係数 設問数 発話行為 .709 12 決まり文句 .640 12 スピーチレベル .727 12 文法 .686 12 テスト全体 .893 48 表

1

.テスト参加者内訳(合計

110

名) 区分 サブカテゴリー n % 性別 男性 58 52.7% 女性 52 47.3% 母国語 英語 98 89.1% その他(北京語,広東語,アラビ ア語,ロシア語,スペイン語) 12 10.8% 年齢 18∼19歳 30 27.3% 20∼21歳 38 34.6% 22∼25歳 28 25.4% 26歳以上 14 12.7% 学年 学部生(1年生) 11 10.0% 学部生(2年生) 21 19.1% 学部生(3年生) 28 25.5% 学部生(4年生) 32 29.1% 大学院生 18 16.4% 専攻 日本語 42 38.2% それ以外(ビジネス,経済,言語 学,文学,未定,その他) 63 57.2%

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は,これまでの先行研究の結果と合致する。 さらに抽出された因子がテスト構造と合致するか

を調査するため因子分析を試みたが,Garson(2009)

の指摘にもある通り,データ数が比較的少ない場合, 二項式の採点法では因子分析が困難であった。今回 の場合,主性分分析(Principal component analysis) を試みたが,要因積載値が 1 以上の要因が 16 抽出さ れ,その中から 3 要因を抽出した場合,各設問のh2 の平均が 0.926 と低く,要因の有意義な解釈が困難 であった。本研究では,300 人の英語学習者を対象と したRover(2005)の先行研究に見られるような因子 妥当性の実証には至らなかった。 5.4.テスト結果と口頭外国語能力との関係 最後に,口頭外国語能力とテスト結果の関係を見 てみる。表 6 に口頭外国語能力レベル別の基礎統計 量をまとめた。公式/非公式OPIとインタビューテ ストによって得られたACTFLガイドラインをもと にした外国語能力レベル判定が信頼性かつ妥当性の あるものであり,さらに口頭外国語能力レベルが上 がるにつれて,文法・語用論的知識も伸びると仮定 した場合,テスト全体の妥当性はある程度確認され たと言える。 これをさらにカテゴリー別に詳しく調査するため,

Kenyon & Tschirner(2000)に倣い,口頭外国語能 力レベルを表 7 のように数値化し,相関関係を調べ た8。その結果が表 8 である。 相関は全ての場合で有意であった(p<.007)。ま た,外国語能力レベルとテスト全体のスコアと の 相 関 も 有 意 で あ っ た(ピ ア ソ ン 係 数r=.705, p=.000)。外国語能力と最も相関が高いのは発話行 為の点数である。OPIやACTFLガイドラインに 即したインタビューテストでは,特に初級や中級で はスピーチレベルはほとんどテストされず,インタ ビューの最初の挨拶等以外は決まり文句を使う場面 があまりないこと,さらに文法の正確さよりも,タ スク遂行の際「何ができるか」がレベル判定で重要 8 ACTFLガイドラインで想定される外国語能力は逆ピ ラミッドモデルで知られるように直線的ではなく幾何級数 的(隣接レベル間の差は等間隔ではなく,レベルが高くなる につれて大きくなるもの)であり,口頭外国語能力をほぼ等 間隔で数値化することには疑問の声もある(Yoffe,1997)。 視されることなどを考え合わせると,この結果は想 像に難くなく,ここでもテストの妥当性がある程度 見られると言えよう。しかし,相関関係は因果関係 ではもちろんないため,妥当性についてはさらなる 検討が必要である。 6.考察,今後の課題 本稿では語用論的知識測定のためのテストの開発 手順を説明し,テスト結果の分析によりその信頼性, 妥当性を考察した。結論として,(1)テスト全体とし ての信頼性はある程度高いが,各カテゴリーではそ れほど高くなく,全国レベルの標準テストとして使 用するには更なる信頼性の向上が望まれること,(2) 発話行為,決まり文句,スピーチレベル,文法知識 の結果が相関関係を示していること,(3)口頭外国 語能力レベルとテスト結果が相関しており,テスト 全体の妥当性はある程度認められるものの,各カテ ゴリーの妥当性については因子分析等,更なるデー タ収集と分析が求められる,の 3 点が挙げられる。 本研究は米国中西部の4つの大学,110名の参加者 を得たが,異なる地域やカリキュラムで指導を受けた 学習者から同様の結果が得られるかについてはより 多くのデータ収集が必要である。また,現段階では語 用論的知識だけを測定する既存のテストが他に入手 できなかったため,今回開発されたテストの妥当性 の判定には,他の様々なテストとの併存的妥当性の 研究など,更なる研究が望まれる。また,語用論的知 識だけでなく,その知識を実際にコミュニケーショ ンの場面で運用する能力の有無を測定するパフォー マンステストの開発も併せて今後の課題であろう。 表

6

.口頭外国語能力レベル別のテスト結果基礎統計量 口頭外国語 能力レベル n M SD 最低点 最高点 上級 8 37.75 6.649 27 48 中級̶上 10 36.00 8.069 21 47 中級̶中 12 28.50 5.334 23 39 中級̶下 10 25.80 5.712 14 35 初級 10 21.30 5.716 16 36 計 50 29.50 8.553 14 48

(8)

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Hudson, T., Detmer, E., & Brown, J. D. (1992). A

7

.口頭外国語能力レベルの数値化(Kenyon & Tschirner,

2000

レベル 初級̶中 初級̶上 中級̶下 中級̶中 中級̶上 上級̶下 上級̶中 上級̶上 数値 0.3 0.8 1.1 1.3 1.8 2.1 2.3 2.8 表

8

.口頭外国語能力レベルと各カテゴリー間の相関係数(N=

50

) ピアソン係数 外国語能力レベル 発話行為 決まり文句 スピーチレベル 文法 外国語能力レベル 1.000 発話行為 .727 1.000 決まり文句 .499 .652 1.000 スピーチレベル .542 .723 .379 1.000 文法 .582 .665 .542 .647 1.000 最後に,英語話者の日本語学習者の基本的な語用 論的知識を明確な状況設定を提示してコンピュータ を用いて測定することに関しては一定の信頼性と便 宜性があるものの,その妥当性については,外国語 教育における外国語能力における語用論的能力の位 置づけ,さらには外国語能力そのものをどう捉える かによって見解は分かれる。外国語能力の構造や構 成要素についての仮説は多く(大友,2009),語用 論的知識・能力をどう定義するかによって適切な測 定法は異なってくるだろう。単に文法や語彙の知識 ではなく,さまざまな状況での適切なコミュニケー ション能力の重要性が取りざたされる昨今,語用論 的知識・能力,その測定法についてのこれからのよ り活発な議論・研究が期待されるところである。 文献 大友賢二(2009).言語と教育と評価『言語教育評価 研究』1,9-17. 加藤清方(2006).『BJTビジネス日本語能力テスト 公式ガイド』日本貿易振興機構. 国際交流基金(1984).『日本語能力試験出題基準』凡 人社. 牧野成一(1991).ACTFLの外国語能力基準および それに基づく会話能力テストの理念と問題 『世界の日本語教育』1,15-32. 宮武かおり(2009).日本語会話のスピーチレベルを 扱う研究の概観.富盛伸夫,峰岸真琴,川口

(9)

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参照

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