会計の動態論と時価
清 水 哲 雄
1 序 アメリカにおける会計動態論の形成過程はドイツのそれとは異なる。今世紀 の初頭からアメリカ会計学の発展の過程を辿ると,これを3段階に分けること ができる。 第1段階は債権者のための信用目的の会計の実施である。金融機関が企業か ら資金の融通の要請を受けると,企業に対して種々の資料の提供を求める。こ の場合企業が提供した書類のうちで貸借対照表が大きな意味合いをもってく る。けだし債権者が多大の関心をもつのは企業の債務支払能力の有無あるいは 財政の流動1生の良否であり,これらを端的に示すものは企業の財政状態をあら わしている貸借対照表であるからである。 第2段階はTaylor F. W.の科学的管理法の普及や第1次大戦後アメリカを 襲った合理化運動は計数把握による経営の合理化を標榜し,予算統制や標準原 価等による経営管理が提唱され,企業内部では経営管理目的の会計技術あるい は制度が積極的に採用され,今日でいう管理会計の急速な発展をもたらした。 第3段階は1929年アメリカを襲った恐慌は企業会計に大きな影響を与えた。 恐慌の結果最も被害を受けたのは株主大衆であり,経営と資本の分離がなされ ている企業ではこの投資家株主の保護が強調された。このような環境のもとで 彼等がとる態度は,(1)自己が保有する株式を売却して企業との関係を断つか, (2)株式を新たに購入して企業との関係を更に密にするか,(3)従来のままとする かのうちの1つである。このような三者択一を迫られた場合に投資家株主が自 己の行動の意思決定の基準となるのは企業の収益力である。Schmalenbach E。は企業の経済性を表現するものとしての利益を重視した。しかして企業の収益 力を測定するのに最も詳しい情報を提供するものは損益計算書である。ここに おいてアメリカにおける企業会計の重心は貸借対照表から損益計算書に移行 し,財産計算よりも損益計算中心の会計時代となった。 しかるに第2次大戦後,経済環境の著しい変化,殊に貨幣価値の下落による 企業会計へのインパクトは大きく,これを何等かの形で受け止めなけれぽなら ない。会計の動態論のもとでは資産や費用は取得原価にて測定され,その後資 産は貨幣価値の変動に関係なくそのまま据え置かれることになるから,損益計 算の結果利益のなかには本来の営業による利益のほかに貨幣価値変動による利 益をも混在する。しかるにこのような利益を可処分なものとすることは資本そ のものの維持を危うくすることになる。企業会計の目的が期間損益計算である というのは貨幣価値一定の条件のもとであって一度貨幣価値が変動すれば,そ れに見合った実質資本が維持されそのうえで損益計算がなされなけれぽならな い。ましてや戦後の急激な経済成長は企業の資本固定化を増大させ固定のなか の発展を余儀なくされている。本小論では現代企業会計を支えている動態論が 貨幣価値の下落によってどのような影響を受けており,これをどのように対処 しなければならないかについて考察したい。 皿 戦後におけるインフレに対処する企業会計の発達 1950年代の初頭朝鮮戦争が勃発してインフレが昂進し,インフレ会計の関心 が高まった。1960年代はインフレも終軽しそれにともないインフレ会計の関心 は低下した。しかしながら1970年代の急激なインフレは再びインフレ会計を緊 ヨ 急問題としてクローズアップした。会計の動態論において貨幣価値の変動(主 として下落)が生じたとき会計担当者はつぎの問題に直面しなければならな い。(1)会計はインフレの影響をどのように認識するか,(2歴史的原価会計がど ユ)土岐政蔵訳:『動的貸借対照表論』第7版,森山書店,昭和25年,73ページ。 2) Farmer E. R.: Accoanting for /nflation and Price Level Changes second edition Gee & Co. !980. p. 7.
のような形に変化してインフレに対応するか,またそのためにどのようなテク きう ニッタが用いられるかである。このような場合の会計方法は2つの基本的基 準によって説明される。1つは評価基準valuation basisであり他は測定単位 unit of measurementである。前者の評価基準でいえば,会計の基準として歴 史的原価を用いるグループと,時価current valueもしくは取替価値replace− ment valueを用いるグループに分けられる。また測定単位の側面では現在ド ルcurrent dollarsを続けて用いるグルe一・プとコンスタントドルに修正して用 いるグループadjusting to constant dollars,換、言すれば一般購買力を用いる グループに分けることができる。 評 価 基 準 測 定 単 回 歴 史 的 価 値 現 在 価 値 現在(名目)ドル コンタントドル 。歴史的原価会計 。慣習的会計 ・公正妥当な会計原則 。物価水準修正会計 。一ハ購買力会計 。安定会計 。コンスタントドル会計 。現在価値会計 。取替原価会計 。カレントコスト会計 。特殊・一般物価水準修正会計 。物価水準修正現在価値会計 ・物価水準修正取替原価会計 評価基準として歴史的価値と現在価値を横軸にとり,測定単位として現在 (名目)ドルとコンスタントドルを縦軸にとれば,貨幣価値の変動にともなう の 会計方法はマトリックスが示すように4つの次元に分かれる。われわれが本小 論で考察の対象としているのは右上のグループである。 会計基準委員会The Accounting Standards Committee(ASC)は現在購買 力会計current purchasing power accounting(CPP)を望ましい会計システム とし,さらに政府の介入に従って,カレントコスト会計current cost account一 3) Seed Allen H.: Jnflation, lts lmpact on Financial RePortin.a and Decision Mafeing Financial Executive Researcl Foundation 1978 p’ 13, 4) Seed A11en H.: ibid. pp. 14nv15.
ing(CCA)と称する価値会計システムを勧告した。しかしこのCCAシステ ムは実行不可能でありかつ可処分利益の定義が曖昧であるので,会計職業人 によって斥けられた。カレントコスト会計こそは歴史的原価会計historic cost accounting(HCA)にとって代るべきものであったにもかかわらず実務家の反 対に遭遇した。 1977年11月Hyde提案という形で暫定的妥協案が発表された。これは歴史 的原価会計を固守しながら補助的にカレントコストによる損益計算:書を作成す らうるものであって,カレントコストによる貸借対照表の作成は要求していない。 換言すれば費用についてのみカレントコストによる測定をする結果,収益と費 用がカレントな基盤の上に対応されて現在価値に見合った利益が算定される。 この方法は簡潔であるということで歓迎された。 皿 動態論における時価の適用 会計学上損益計算をする方法は2つある。1つは財産計算による損益計算で あり他は費用と収益の対応による損益計算である。前者は期首と期末の純財産 (資産一負債臨資本)の比較によって得られるものであるから資産の評価が重 要な鍵となる。この方法は期首および期末という一定時点における財産の有高 すなわち財産の静態表示の比較によるものであるから会計学上一般に静態論と 呼ばれ,資産の評価基準はその時点における現在原価たる時価となる。後者は 一会計期間におけるすべての費用と収益との対応によって損益を算定する方法 であるから前者の静態論に対して動態論と名付けられる。この会計学上の動態 論においては複式簿記の諸勘定を基礎に期末において費用と収益とを集計する のであるから期末における資産の評価という観念は生じてこない。ただ収益に ついては収入,費用については支出を基礎にして把握されるから特に費用の測 定基準としては取得原価となる。 資産についてもその取得時における麦出額を基準にするからその評価ないし 測定基準は取得原価となる。資産を評価の対象とし期末の貸借対照表価額を問 5) Farmer E. R,: op. cit. p. 7.
題にしょうとすることから静態論では時価がとられ,動態論では取得原価がと られるのである。動態論の指向するものはあくまでも期間損益計算であり,費 用および収益の認識(測定,分類,集計を含めて)ならびに費用および収益の 期間対応という点にある。すなわち会計の目的を方向付ける強力な要因は企業 内の利益獲得努力である。それゆえ費用と収益との認識および測定を検討する ことが会計諸基準を体系的に説明する場合の基本的な手続となる。;期末の貸借 対照表に計上される資産は支出にして未だ費用にならざるもの,あるいは将来 における用役潜在であるから評価基準を取得原価に拘泥する必要はなく,むし ろ正しい損益計算は費用と収益が同じ貨幣価値水準の上に比較されることが望 ましい。したがって収益と同様にカレントな評価基準のもとで費用が測定され ることが必要であり,動態論においても評価基準を取得原価と決めつけること は当らない。 企業会計は企業財産を1つの集団として評価すべきものであって,個々の財 産についてその時々の時価で評価すべき性格のものではない。ここにいう集団 としての財産の評価とはそのものを取得したときの価額をいうのであって,そ の後固定資産のような使用財については減価償却によって費用化されることに なるから,評価は(取得原価一減価)すなわち未償却残高をもってなされる。 これに対して費用は個々の費用財の再調達を可能ならしめるために収益と対応 のされる意味から取替時価基準で計上されなければならない。 収益に対応する費用を取替時価で測定するとき時点の問題がある。すなわち 1っは収益発生の時における費用の取替時価と他は現実の財の調達日における 費用の取替時価である。前者をとる場合は収益発生日において費用財の再調達 に可能なだけの貨幣資本の回収が見込まれる実質貨幣資本維持の立場であり, この立場ではその収益発生日以後,現実の再調達までに起る貨幣価値の変動は 6) Paton W. A. and Littleton A. C.: An lntroduction to Corporate Accounting Standards AAA 1940 p.24.中島省吾訳:『会社会計基準序説』森山書店,昭和39 年,42ページ。 7)不破貞春:『会計理論の基礎』中央経済社,昭和52年,372ページ。
考慮していない。後者は前者に対して現実の再調達によってその再調達価値が 収益に対応する費用として経営に回収維持される実物資本維持の立場であり, これによってはじめて企業のもつ生産力が維持される。尤も現実に再調達がな される以前に決算期が来ればこの決算期における再調達時価を計量してその期 の収益と対応させる方法をとる。また再調達をする必要のない費用財の場合も あるので,その場合は当初の仕入価額すなわち取得原価を収益と対応する費用 う の価値とする。 販売財は市価の有利な変動を待って売却する投機的手持品と,経営の存続上 拘束されている固定的手持品とに分けられる。前者は期末における時価で評価 することが損益計算の立場からも,また貸借対照表計算の立場からも是認され る。けだし販売を目的に,しかも投機性を有する財は市価が有利と判断された 場合は直ちに売却され,損益は直ちに実現されるものであるからである。後者 の固定的手持品は販売財の量:的変動があっても常に企業内に一定の:量が滞留す るものを示すのであるから,その性質はむしろ設備財と同じ性質を有するもの と考えることができるので特に時価には関係しない。固定的手持品が期末にお いて増加した場合あるいは減少した場合は,その評価は直接損益計算に影響を 及ぼす。この増減量は時価による評価によって注文を差し控えるべきか否かを の 考えて手持品の過剰を防止することができる。 費用計上に時価を用い,他方費消されずに企業内にとどまっている財の評価 ユのには歴史的取得原価を用いることを主張する人にGeldmacher E.がいる。彼 が二元的評価を唱えるのは費用と収益とは同じ評価水準でなければ正しい損益 計算は不可能であるとし,企業内にとどまっている財貨の主観的使用価値は時 価がどのように変化しても変わらないという根拠によっている。換言すれば会 計の最高の原則は経営の維持であり,利益は経営の実質的維持を図ったうえで 8)山下勝治:『理論会計学』巌松堂,昭和23年,pp.125∼126. 9)土岐政蔵訳;前掲書pp.241∼246. 10)Geldmacher E.:Wirtschaftsunruhe und Bilanx 1923.不破貞春;前掲書pp.227 tv229.
の余剰でなければならない。したがって従来の方法による評価をおこなってい る場合は期末において総括的に修正する必要がある。すなわち補充すべき費用 財の額として設備財や販売財について実際に費消された財貨の量と期末におけ る再調達価格とを決定し,歴史的原価と再調達価格との差額を価格変動勘定へ 移す。価格騰貴のときは利益を減少させる意味で(借)損益勘定(貸)価格変 動勘定とする。 ユ Hax K.の場合は利益計算の基礎を投下貨幣資本におかず,当初の生産能力 を意味する財貨の量であるとする。したがってこれは貨幣資本の維持のみなら ず実体維持をも意図するから経営そのものの維持である。貨幣資本維持のため には費消さたた財貨の取得原価が評価基準としてとられ,実体維持のためには その再調達価格がとられなければならない。インフレ期には実体計算として費 用の再調達価格の計上をおこなうが,この場合費用財の取得原価と再調達価格 との差額は貸借対照表の貸方に実体維持積立金として計上する。この実体維持 積立金は名目資本維持の見地からは利益であるが,実体を維持するという見地 からは利益として計上すべきではなく費用計算の技術を通じて企業内に拘束し ておくべきものである。かくして企業は当初の生産能力を維持することができ るのである。 ユ 資本維持の立場から会計のあり:方を論じるのにGynther Reg S。がいる。彼 によると価格変動の影響を会計にあらわす提案の基礎になっているものに資本 主論と企業体論proprietary and entity viewpointsの2つがあるとする。前者 の資本主的資本維持概念のもとにおいては,(1)一般購買力general purchasing powerと(2)消費者購買力consumer purchasing Powerがあり,この2つは 資本主によって拠出された資金の一般購買力あるいは消費者購買力を維持する ことに焦点がある。まtg企業体的資本維持概念のもとでは,(3)投資購買力in一 11)Hax K.:Die Substanzerhaltung der Betriebe 1957.不破貞春1前掲書PP.230∼ 232. 12) Gynther Reg S.: “Capital Maintenance, Price Changes, and Profit Determination” The Accounting Review Oct. 1970. pp. 712N730.
vestment purchasing powerと(4>企業の経営能力operating capacity of the firm である。この2つは拠出されたすべての長期資金の特殊購買力に関係している が,ここでの真の焦点は企業資産を維持することである。すなわち資本主の観 13) 点に立つ資本維持概念とは貸借対照表上反対側の項目に重点がおかれる。 Gyntherは徹底した企業体的資本維持観に立ち,企業の経営能力資本概念を 14)主張し,このためにつぎの3つを検討する。 a)当該期間に現存したものと同一の経営能力。これは資本維持目的のため にその耐用期間を通じて実際に所有していた資産の現在市場価格(再購入ある いは再建設価格)の変動を考慮する。 b)同一の財貨および用役の産出量すな:わち現存の資産を用いて現在生産し たのと同一のものを生み出すのに必要な最近の設備およびその他の資産を基礎 とした経営能力。この資本維持を達成するためにはその最新の設備の現在市場 購入価格を考慮しなければならない。すでに企業が最新の設備をもっているな らこの経営能力観は上記a)の内容と同じになる。 c)同一の財貨および用役の同一の価値を生み出すのに必要な最新の設備等 を基礎にした経営能力。これは最新の現在市場購入価格を考慮し,しかもその 技術的に改善された設備によって生産した財貨および用役の現在の売価の低下 分をも考慮に入れようとする。 May G.0.が会計におけ’る最:も大きな仕事としては現在われわれが根拠と している基本的仮定basic assumptionを再検討することであるとして会計の 3っの公準をあげる。すなわち,(1)貨幣の公準monetary postulate(2)継続性 の公準postulate of permanenceおよび(3)利益はすべて実現の瞬間に発生す るという公準postUlate that all income arises at the moment of realization 15) である。貨幣価値の変動に関してどのように対処するかの問題としてMayは 13) Gynther Reg S.: ibid. p. 713. !4) Gynther Reg S.: i bid. pp. 716N717. ls) “A Talk with George O. May” The Journal of Acconntancy June 1955 pp. 40.v 41.
貨幣の公準をとりあげるのであるが,彼の場合の貨幣の公準は貨幣価値一定の 仮定を指しているところに特徴がある。すなわち,貨幣価値の変化が無視でき ないほど重要な場合にはこの公準は誤りである。貨幣価値に大きな変化がある ときには3つの段階的処理が考えられる。第1はなおこの公準に固執するが, それが完全に妥当するものではないことを知らなければならないから,ある程 度は数字を割り引いて考えるように注意を促さなければならない。第2は通貨 変動の影響を測定しそれについての補足血清報を与えることであるが,このよ うなデータは公的会計に含めるようなことはしない。第3は貨幣価値変動が今 や非常に重要となってきたのでそれらを公的会計のうちに反映させる。として 貨幣価値一定の公準は万能ではないと指摘している。たとえば減価償却の数値 を計算する場合,種々の方法で算定した結果を価格指数で修正するときこの指 教も種々のものがあるためにどれをとるかについて議論もあろうが,いつれの 指数を用いるにしても数値の修正を全くしないのに較べればはるかに真実に近 ユリ い。として貨幣価値変動の影響を計上することを推奨している。また会計の発 展において慣習や伝統によって果たされた重要な役割を認識しなければならな いけれども,それらが今はもう目的に役立たなくなった後においてもこれらの ヱき コンベンションに固執する危険をも認識しなければならない。として貨幣の公 準についての固執をいましめているところは今日もなお新しい説得力をもって いる。 IV 減価償却と時価 減価償却費の算定基礎に時価を用いるという場合,貸借対照表価値をも時価 によることを意味するわけではい。すなわち減価償却費の計算は設備の時価 (仮構的個別時価)によることとしても,その貸借対照表価値は取得原価によ 16) May G. O.: ibid. p. 41. 17) May G. O.: ibid. p. 41. 18) May G. O.: ibid. p. 45. 19)土岐政蔵訳:前掲書223ページ。
34 彦根論叢第216号 る。したがってインフレの時には設備の価値は耐用年数が尽きる前に償却済み となり,その後の減価償却高は貸方残高となる。反対にデフレの時には耐用年 数が尽きても償却済みとならない。そこで設備の償却につれてインフレの時に は貸方残高(デフレの時には借方残高)となるので,これらの残高を時価償却 調節勘定に集合する。この勘定から設備調達政策が有利に進んでいるかどうか の判断をすることができる。すなわちこの勘定が貸方残となった時は調達時期 20) が有利であったこととなり,借方残となった時は不利であったこととなる。 21) Grady P.は経済的減価economic depreciationという概念を用いて価格変 動のもとにおける会計のあり方を検討する。すなわち価格変動のもとにおける 減価償却は単に型通りのものであっては実質資本の維持がおこな:われ難く,会 計処理そのものが経済変動に密接に関係していなければならないという観点か ら時価による減価償却を提案している。 アメリカでは1940年以降の期間において1年につき平均6%の購買力の低下 があったので,これによって受ける生産資本の浸食を考慮することは通常の減 価償却をおこなうのと同じ程度の重要性がある。したがって現在のドル価額を 基準として修正した減価償却をおこなわなければ生産設備や設備の拡張はなし 得ない。そこで現在のドル価額を基準とする減価償却を必要とする理由をさら う に7つあげる。 1)生産性を高める主な要因は資本的設備の改善である。 2)世界における産業上のリーダーシヅプを保ち続けようと思うならば過去 数年間における年平均2%という割合以上に生産性の向上を獲得しなければな 20)土岐政蔵訳:前掲書pp.217∼218. 21) Grady Paul: “Economic Depreciation in lncome Taxation and in Accounting” The Journal of Accountancy April 1959 pp. 54.一v60. 一般に減価償却の説明をする場合に減価の種類として機能的減価と経済的減価をあ げる。経済的減価とは固定資産の使用の如何を問わず時の経過とともに経済的価値が 下落するから,これを減価として把握しようとするものである。Gradyのいう経済 的減価はそのような意味合いのものではない。 22) Grady Paul: ibid. pp. 56tv57.
らない。 3) アメリカの生産能力の約50%は1945年以前に設置されており,友好的あ るいは非友好的競争をしている主要な国よりもより多くの老朽設備をもってい る。McGraw−Hillの経済学部門の最近の調査によると老朽化したすべての設 備を最良かつ最新のものに取り替えるに必要な費用の見積りは95億ドルとなつ いるが,この調査は最新の機械は!0年前のものよりも40%も生産能力がすぐれ ているとのべて近代化のインパクトを説いている。 4)過去5年間の会社の資本的支出の額は年平均274億ドルであったが,他 方減価償却引当金は年平均168億ドルで率では61%である。このような2つの 数字は陳腐化した設備のおくれを取り戻すのに不適当である。 5) 当初の原価による減価償却引当金は真実な経済的費用を無視するもので あり,したがって固定資産に多くの資本を投下している会社に対して実質的に は高率の所得税を課するとになる。もしも会社が失なわれた財産の時価を収入 に回復しようとするならぽ,当初の原価を超える時価の1ドルごに2. 08ドルを 顧客に課さなければならないことになるが,このようなことをして設備の機能 維持のみに資本を蓄積することは困難なことである。 6)設備の取替原価と当初の原価との開きは老朽化した設備の取替え延期を 引き起すことになる。けだし新しい設備のより高い資本コストのもとにおいて 回転率を満足なものにするためにはさらに多くの営業費を必要とするからであ るQ 7) 前述の経済に対する退歩的な影響を防ぐ最も適切な方法は当初の原価を 基準とする減価償却高を超え現在まで記録されていない年60億ドルに達する経 済的減価償却高を認めることである。 このように7つの項目をあげたあとGradyは所得課税と会計上経済的減価 償却の必要なことを強調し,所得税軽減のためにつぎの4つのものを検討して いる。けだし所得税を課すことができるのは実質資本を維持した後の真に処分 可能な利益に対してである。したがって歴史的原価による減価償却ではなく貨 幣価値あるいは物価水準に適応した減価償却費の計上,ここでは経済的減価償
36 彦根論叢 第216号 却と呼び,これによって損益計算をおこない利益を少なく計上することによっ て所得税を軽減することを企図するものである。 !) 歴史的原価による減価償却費を現在のドル価値に修正する方法adjust− ment of historical cost depreciation to current dollar cost……この方法は価 格水準減価償却を認識する最も初期の提案である。すなわち
辮羅・藷翻麟購一封紬減価償却費
ここで問題となるのはどのような価格指数が用いられるかであり,固定資産の 設置後価格指数が下落した場合には経済的減価償却費も低く見積るという方法 をとる。これは発生主義会計の原理から考えて最も理論的な方法であろう。こ の方法は減価償却費の数値を価格指数に合わせて修正するのみで,固定資産そ のものの評価を説いているものではない。 2)減価償却累計全体を現在のドル価値に修正する方法adjustment of total accumulated depreciation to current dollars……この提:案は前述の計算式で算 定した当期の経済的減価償却費に加えて,さらに過年度の減価償却累計額を現 在の価格水準にまで引き上げるように修正する。しかしながらこのことは現在 のカレントコスト基準での引当必要額とくらべて当初の原価基準での減価償却 不足額を課税上控除することは考えていない。したがって言うまでもないこと であるが税務当局によってこの方法は認められていない。 3) 再投資減価償却一課税基準上,新取得資産の原価を減額しないrein. vestment depreciation−without a decrease in cost tax base……約3年前 (1959年を基準として……筆者注)会計士によって歴史的原価による減価償却 とカレントコストあるいは経済的減価償却との相違を明らかにする資料を得る ために巨額の資本を投下している会社に対して資産を早期に減価償却させるプ Pグラムを企てた。たとえば巨額の資本投下を必要とする産業にセメント,化 学,電気,製紙,印刷,公企業,鉄鋼がある。このような業種に関して当計画 では固定資産に対する価格水準の変動を棚卸資産のLIFOに近似した基準で 処理することを考えた。LIFOは所得税法上20年以上にもわたって認められているからこのような方法が選ばれたのである。これは再投資減価償却と呼び発 生基準で計算される経済的減価償却引当に対してなされている反対論を克服す るために考案されたもので,この方法は基本的には資産が廃棄されるときに通 常の歴史的原価基準による減価償却費に加えて価格水準による修正額をも控除 することを納税者に認める。その算式はつぎのとおりである。
当初の設備原価・轟繍欝髭付加隔投資灘甲州噸
この付加的再投資減価償却費を計上するためには納税者は廃棄される資産の取 得原価に再投資減価償却額を加えたものに相当する資本支出をしていることが 必要である。しかしこれは特定の資産についての取替えを必要とするというこ とではなく,何等かの資本麦出によって付加二二投資減価償却費を計上するこ とができるのである。さらに資産の廃棄と新取得とは同じ年に起るとは限らな いので再投資減価償却の提案では廃棄修正を納税者に2年間繰越すことを認め ようとしている。そして最終的には再投資減価償却の支持者は発生基準による 経済的減価償却を採りたいのであるが,そのような目的に到達するまでは再投 資減価償却が有効な段階となるかも知れないと考えている。 4) 再投資減価償却一課税基準上新取得資産の原価を減額する方法rein− vestment depredation−with a decrease in cost tax base・・一付加的な再投資 減価償却引当額がその後の年々の減価償却発生額のために新しい資本投資の原 価から控除されなければ充分な提案とはいい難い。そしてこの再投資減価償却 は何もしないはより何か小さなことでもした方がましであるpart of a Ioaf is better than noneとか,またさらに早期に経済的減価償却を実現するためには 可成り望ましいことであるという前提のもとに不承不承認められている。この ラ 方法は第3の提案の修正である。 この4つの提案は経済的減価償却に達するまでのいわば過渡的方法を示すも のであり,貨幣価値の下落により名目利益に課税されたり将又処分されたりし て実質的には資本の喰いつぶしがおこなわれるようなことのないよう,さらに 23) Grady Paul: ibid. pp. 57r−58.究極的には生産力の拡大を可能ならしめるよう連動するものである。
V 結
び 元来企業会計の目的は正しい損益計算をおこなうことであり,その方法とし て財産による期間損益計算と,一会計;期間の総収益とそれに対応する総費用に よる損益計算がある。前者はいわゆる静態論と呼ばれ,期首と期末におけ’る財 産の時価評価によって;期閲損益が把握される。後者は特に費用についてはそれ が発生したときの支出にかかわらしめて把握される。これが今日の企業会計を 支えているいわゆる動態論である。May G. O.の言葉をかりるまでもなく,今 日の企業会計の基礎をなしているものの1つは貨幣価値一定の公準である。し かし第1次大戦後のかのドイツの異常な貨幣価値の下落によってこの公準は打 ち砕かれ,会計の目的は実質的な資本維持という局面へ移行した。Schmidt F. やHax K.はその典型である。ドイツのこのような社会的背景による資本維 持論に対してアメリカではドイツほどの貨幣価値の激変もなく管理のための会 計や株主のための利益計算を目的とする会計が発展した。しかるに第2次大戦 後はアメリカにおいてもかなりの貨幣価値の下落を経験することにより,従来 の期間損益計算のみを会計の目的とすることに不都合を生じた。すなわち利益 のうちには多くの保有利益=インフレ利益を含み,これが処分の対象とされる ときには資本の実質的維持が危ぶまれることになるからである。そこで会計の 目的を期間損益計算のみとすることなく,実質的な資本維持を先ずなし遂げた うえでこれを考えるという方向に修正されなければならない。これにはドィッ 流の資産の再評価を前面に押し出すことなく,費用のカレントヴァリユーを把 握することによって収益と同次元で費用を対応させ,正しい操業利益を把握し ようとする。 減価償却の計算基礎たる固定資産を取得原価によらず時価によっておこない (時価によって評価するからといって時価評価額を貸借対照表資産の部に計上 はしない)時価調節勘定の設定によって経営管理の手段としたり,また時価に よる減価償却費の計上によってカレントな損益を計算することを可能にしている。棚卸資産については固定的有高法による拘束手持品は日々の取引とは無関 係であり,したがって損益計算にも無関係であるから取得原価のままでよいと されるが,実は新しい購入価額を費用として計上するという含みをもっている ものであり,資産の評価という形をとりながら費用の時価計上を意図している ものである。また方法は異なるがLIFOによる棚卸資産の取り扱いも同じよ うに費用の時価計上を意図するものである。 これを要するに収益に対応する費用の把握時点を収益の発生の日になるべく 近付けることによって両者ともカレントな基準を得て費用は収益によって完全 に補償され,換言すれば実質的な資本維持が達成され,そのうえで正しい損益 計算がおこなわれるのである。 24)不破貞春:前掲書224ページ。