研 究
研 究
サービス・マネジメントに関する先行研究の整理
―その研究の発展と主要な諸説の理解―
蒲 生 智 哉
目 次 はじめに:本稿の目的 1.サービスの特性とその研究に関する議論 (1)サービスの特性 (2)サービス研究に関する議論の発展 (3)現在のサービス研究の主要なテーマ 2.サービス・マネジメントの定義と主要な理論的モデル (1)サービス・マネジメントの定義 (2)サービス・マネジメント・システム (3)サービス・プロフィット・チェーン (4)SERVQUAL 小結:日本におけるサービス研究の今後はじめに:本稿の目的
本研究は,サービス研究の領域のなかでも特に「サービス・マネジメント」に関する先達の 研究や諸理論の整理を目的としたものである。紙面の制約ならびに筆者が当該研究に関して初 学者であることから,その内容は基本的なものとなることをご理解いただきたい。 まず,本稿の前半では,サービスに関してはマーケティング論をはじめ経済学などの視点か ら研究がなされてきたが,まずサービスそのものの理解のため,その特性ならびに先達のサー ビス研究者による定義を広くみていく。そして,後半からはサービス・マネジメントの基本的 理解を目的とし,「サービス・マネジメント」研究に焦点をしぼりその定義ならびに主要な諸 理論を中心として整理する。1.サービスの特性とその研究に関する議論
1970 年代からスカンジナビア半島ならびに北欧諸国を中心にサービスに関する議論が表れ はじめ,1980 年代頃には急速に発展していった。この時期からサービスセクターの雇用比率 が伸びていくとともにGDP にしめるサービス産業の割合が上昇してきた。このような経済情 勢を背景に,この頃から人びとはサービスセクターの重要性に関心を寄せるようになってきた のである。しかし,このサービスセクターの成長は工業セクターの生産性の向上のうえに成り 立っており,決して工業セクターが衰退しているわけではない。農業セクターが工業セクターの生産性向上によって相互作用的にその生産性を向上させてきたように,サービスセクターの 生産性向上にもまた工業セクターの成長が少なからず関連しているのである。このような各セ クターの複雑な相互作用がみられる現代の経済はサービス化の潮流の中にある。サービスセク ターは当然,農業セクターおよび工業セクターにおいてもなにかしらサービスと関わりをもち, その比重ならびに重要性は高く,すべての企業(組織・人びと)はサービス競争下にあり,そ れから逃れることはできないのである。サービスをうまくマネジメントすることがサービス経 済を生き抜く必要条件となり,このような社会的背景によってサービス・マネジメントの議論 が急速に発展してきたと考えられる。 (1)サービスの特性 最初に,マネジメントの対象となる「サービス」についてその特性と定義を整理する。本稿 はサービス・マネジメントに関するものであるから,取り扱う「サービス」の特性や定義につ いてもその主要な研究者らの文献のものを参考とする。サービスの特性はしばしば物的な製品 のそれと比較され見出される。例えばGrönroos はサービスと製品の特性に関する直接比較(表 1-1)を行ない,Normann はそれぞれの産業の比較(表1-2)を行なっている。両者の表を比較 してみてみるとその内容にいくつかの共通点が存在することが確認できる。 まず,特に重要であるが「サービス」と「物的製品」の特徴を比較しやすいと考えられるも のに「有形性と無形性」がある。製造業が一般的に生産する物的商品は「有形」であり「物」 であるがゆえに移動あるいは輸出することができたり,保管あるいは在庫することができる。 一方,サービスに関してはその商品は「無形」であり「活動あるいはプロセス」であるので商 品自体を移動あるいは輸出することはできないが,サービス企業(あるいは組織)はその提供 する「サービス生産者」や「サービス・デリバリー・システム」を移動あるいは輸出すること によって異なる地域や場所でも同様の活動を展開することができる。そして,無形のものは当 然物理的に在庫や保管することはできず,商品の価値を産み出す「プロセス」であるのでその ような概念はそもそも当てはまらない。さらに,サービス商品に関する技術や知識に関してい えば,提供者に内在するものであると考えられるが,それは商品そのものではない。 次に,商品の生産から消費に至るまでのプロセスにそれぞれの特徴をみることができる。物 的商品の場合,その有形性から,一般的に工場で生産され流通され消費されるという一連のプ ロセスがそれぞれ地理的に異なった場で行なわれる。生産段階において,その商品の中核とな る価値は企業の工場で生産される。そして,流通・販売を通じて顧客(消費者・買い手・クライ アント)に中核となる価値を付随した物的商品が購入され使用・消費される。そのとき,その 所有権もまた売り手から買い手にわたる。一方,サービス商品においてはその無形性から,移 動不可能であるため,生産・(流通)販売・消費のプロセスが一般的に同時・同空間内で遂行
される。この生産段階において,サービス商品の最重要な特徴のひとつが「顧客が生産に直接 参加する」ことである。この特徴を説明するためによく用いられる例がレストランなどの「セ ルフサービス」であるが,他にも例えば,風邪をひいたときの「病院にいき,診察を受け,薬 をもらい,帰宅し,一週間ほど薬を飲み,再診を受ける」という治療において,患者は多くの 場面でそのサービスに参加している。この「顧客が生産に直接参加する」ことはつまり,その サービス商品の中核価値は提供者側と顧客側との相互作用によって生産される。また,物的商 品の生産に関してはその製品の仕様書によって品質の同質性を保証されるが,サービス商品に おいてはその仕様書が顧客によって異なり,さらに提供者の技術や知識等によってその品質は 異質なものとなる。そして,顧客がサービス商品を購入したとしても,その本質は活動であり プロセスであるので所有権が提供者から顧客へ移動することはない。顧客がサービス商品を購 入する際,物的商品のように前もって試用してその効果性を確かめることはできないため,そ のマーケティングは比較的困難となる。
サ ー ビ ス の 特 性 をLooy らは「無形性(Intangibility)」「 同 時 性(Simultaneity)」「 異 質 性 (Heterogeneity)」「消滅性(Perishability)」の4 つに分類している(Looy et al.[1998])。特に説
明を加えるべきは「消滅性(Perishability)」であるが,サービスは無形であり在庫ができず生 産と消費が同時に行なわれることによって初めて商品としての価値が発生する。生産された サービス商品は消費されなければその価値を失ってしまうのである。なぜなら,物的商品は消 費されず売れ残った商品を在庫し再販することが可能であるが,サービス商品ではそれができ ないからである。例えば,飛行機が空席を残した状態で運航されれば,その席の価値はなくなっ てしまう。つまり,「消滅性(Perishability)」はサービスの商品としての価値が生産と同時に 消費されなければ消滅してしまうことを意味する。 表 1-1 サービスと製品の違い 製 品 サービス 有形 無形 同質性 異質性 生産と流通と消費が分離している 生産と流通と消費が同時である 物 活動あるいはプロセス 中核価値が工場で生産される 中核価値が売り手と買い手の相互作用で生産される 顧客が(普通は)生産プロセスに参加することは ない 顧客が生産に参加する 在庫可能 在庫不可能 所有権が移動する 所有権は移動しない 出所:Christian Grönroos[2000]p.47 より筆者作成
さらに,サービスの定義について主要な研究者のものをいくつかとりあげてみるが,サービ ス・マネジメントに関する研究をはじめ,社会学や経済学などの広いアプローチからそれは多 岐にわたり定義されている。本稿は経営学におけるサービス・マネジメントに関するものであ るので,そのアプローチによるものをいくつか以下にあげたい。まず,Kotler は, 「サービスとは,ある集団が他方の集団へ提供しうる活動あるいは便益であり,それは基本 的に無形性であり,提供した結果として所有権が他方へ移動しない(Kotler[2003]p.229)」 といったように,サービスの「無形性」と「所有権」に関する特徴を踏まえてサービスを定義 している。さらに,Grönroos はサービスの無形性を踏まえ,以下のように定義づけを行なっ ている。 「サービスとは,多少なりとも無形性を伴う活動あるいは一連の活動であり,大抵は,しか し必ずというわけではないが,顧客とサービス従事者や物的資源および財やサービス提供 システムとの相互作用によって発生する,顧客の抱える問題の解決策として提供されるも のである(Grönroos[1990]p.27)」 Grönroos の定義のなかでは,サービス提供プロセスにおける提供者と顧客との相互作用が強 調されていることに気づく。後述するが,彼の論理では,この提供者と顧客との関係性がサー 表 1-2 製造業とサービス業とのいくつかの異なる点 製 造 業 サービス業 商品は一般的に有形 サービスは無形 購入によって(商品の)所有権が移動する (商品の)所有権は一般的に移動しない 商品は再販可能 商品は再販不可能 商品は試用可能 普通,商品は試用不可能(購入しなければその効果は わからない) 商品は売り手と買い手が保管可能 商品は保管不可能 生産が消費よりも先に起きる 生産と消費が一般的に同時に起きる 生産と販売と消費が地理的に異なる 生産と消費,販売までも同空間内で行なわれる 商品は移動可能 商品は移動不可能(「生産者」は可能) 売り手側が生産する 買い手/クライアントが生産に直接参加する 企業とクライアントの間接的接触は可能 多くの場合で直接的な接触が必要となる 輸出可能 普通,サービスは輸出不可能だが,サービス・デリバ リー・システムは可能 出所:Richard Normann[1991]p.15 より筆者作成
ビス・マネジメント上,特に重要な役割を果たすとされている。さらに,Looy らは Kotler と Grönroos の定義を以下のように簡潔にまとめている1)。 「サービスとは,無形であり,サービス提供者と顧客との相互作用を必要とするあらゆる経 済活動である(Looy, et al.[1998]p.4)」 さらにGrönroos[2007]は,サービス商品と物的商品の主要な性質を踏まえ,それぞれの ロジックを下表1-3 のようにまとめている。つまり Grönroos は,このサービスと製品のロジッ クについて次のように簡潔に説明を加えている。 「ビジネスにおける製品のロジックは,企業が顧客へ使用するための製品あるいは情報と いった資源として提供し,顧客自身にこれらの資源を可能な限り上手に使用させることを 許可する,ということを意味する。いっぽう,サービスの論理は,企業は顧客のプロセス と毎日の活動を適当なプロセスをもってサポートする責任を負うべきである,ということ を意味する(Christian Grönroos[2007]p.56)。」 (2)サービス研究に関する議論の発展 前述のとおり,サービス・マネジメントに関する議論はサービス経済の潮流とともに1970 年代頃から次第に行なわれはじめ,1980 年代から加速的に広まってきたことから,経営学的
1)Looy ら は Kotler の サ ー ビ ス の 定 義 を 彼 の 著 書『Marketing Management: Analysis, planning, implementation and control[1997]』 か ら 引 用 し て い る が, 筆 者 は『A FRAMEWORK FOR
MARKETING MANAGEMENT: INTERNATIONAL EDITION[2003]』から引用している。
表 1-3 サービスと製品のロジック サービスのロジック 製品のロジック 提供の本質 価値支援プロセス 価値支援資源 視点 顧客との相互作用する資源が集合するプ ロセスで,価値創造方法においてそれら のプロセスをサポートすることを目的と している 顧客が使う資源で,おそらくその他の 資源やそれ自体の価値を創造する目的 をともなう ビ ジ ネ ス の ロ ジ ッ ク 顧客の価値創造を支援するプロセスを促 進すること 顧客が使用することができる資源とし て製品を作ること 顧客の役割 価値の共同制作・生産者 唯一の価値創造者 企業の役割 サービスプロセスの提供ならびに顧客の 消費プロセスにおける価値の共同制作・ 生産 資源としての製品を顧客に提供するこ ととこの資源の唯一の制作者 出所:Christian Grönroos[2007]p.56 より筆者作成
な議論においては比較的歴史が浅い分野である。ただし,近藤(隆雄)[1996]によるとサー ビス研究の発展速度には目を見張るものがあり,今後も国内外においてこの分野の研究水準が 上昇することは明らかとされている。 まず,「サービス・マネジメント」とはいかなるものか,その言葉の使用方法について確認 したい。米国においては一般的にサービス研究分野を「サービス・マーケティング」と表現 しているが,それは,この研究分野が米国ではマーケティング論から派生したものだからと される。いっぽう,サービス研究の先駆的地域の北欧および欧州諸国においては「サービス・ マネジメント」の使用が主流である。これはサービス研究初期において北欧出身のNormann がその著書『サービス・マネジメント(邦訳)』をもって多大な影響を及ぼしたことに端を発 するとされている。また,米国においては,サービス研究に限ったことではないが,経営学 の学術的発展は実務界とともになされてきた。いっぽうの北欧および欧州諸国においては, Grönroos や Gummesson,Normann を中心とする Nordic 学派2)および大学等の研究機関を 情報発信としてサービス研究は発展してきた。このような地域性を背景としてサービス研究は 世界的に発展してきたが,その概念的枠組みについてみてみると,「サービス・マネジメント」 は「サービス・マーケティング」の上位概念であり,マーケティング論的アプローチのみなら ず組織に関する問題も取り扱うようなより広く多岐にわたったアプローチ方法がとられること を意味すると考えられる。しかしながら,Nordic 学派はマーケティング論的アプローチを重 要視した論理的特性をもつことから,「サービス・マネジメント」のなかに必然的に「サービス・ マーケティング」の概念が含まれていると考えられる。それはGrönroos がその主著のタイト
ルを『Service Management and Marketing』とし,そのなかにおける彼の論理・主張にもそ のことが反映されている。
次に,サービス・マネジメント研究が現在に至るまでの発展の経緯をみていく。Fisk ら([1995]
pp.1-32)はサービス研究に関する文献等の出版履歴を整理し,その研究の歴史を「ハイハイの 時期(Crawling Out: 1953-1980)」「ヨチヨチ歩きの時期(Scurrying About: 1980-1985)」「立って
歩き始めた時期(Walking Erect: 1986-1993)」というように子供の成長過程になぞらえて分類し ている。 ①「ハイハイの時期(Crawling Out: 1953-1980)」 Fisk らはこの時期を「発見」と「危険覚悟」の時期であったとしている。1953 年にサービ ス・マーケティングに関する論文の発表が最初に確認されてから,この時期を通じてその議論 の中心的な内容は「サービスのマーケティングの特異点」に関してであり,さらにサービス・ 2)先行研究では,「北方学派(近藤宏一〔1996〕),あるいは地域性を考慮して「北欧学派(近藤宏一〔1998〕) と邦訳されているが,本稿では呼称としてあえて邦訳は控える。
マーケティング(あるいはマネジメント)という学問分野の確立が正当であるかが問題になった。 詳述すると,まずサービスおよびそのマーケティングの特徴を概念的に検討することに興味が 注がれたが,しだいにサービス・マーケティングが製品のマーケティングとどのように異なり, 独立した学問分野たりえるのかといった議論に発展していった。この時期からサービス研究に 携わる主な著者は,John Bateson,Leonard Berry,Stephen Brown,John Czepiel,Pierre Eiglier,William George,Christian Grönroos,Evert Gummesson,Eugene Johnson, Eric Langeard,Christopher Lovelock,Lynn Shostack らであり,1970 年代に発表された
論文は120 を記録している。 ②「ヨチヨチ歩きの時期(Scurrying About: 1980-1985)」 この頃になるとサービス・マーケティング(あるいはマネジメント)が研究分野として確立 し,研究者たちは積極的にこの分野における様々なトピックに関する論文を『the Journal of Marketing』などに発表した。この時期から論文数は急激に増え,サービス研究は繁栄の時期 を迎えた。このころから北米の研究者たちもこの論議に興味を抱き,その研究論文が報告され はじめた。サービスと製品の比較論は衰退しはじめたが,それは次期の議論の根本的要素と なった。この時期にサービス研究が加速的に発展してきた背景には,サービス産業の規制緩和 とアメリカマーケティング協会(AMA)が主催するサービス・マーケティング会議が開催され はじめたことがあげられる。航空業や金融業等を対象としたサービス産業の規制緩和は,その 業界の競争を激化させ,顧客のサービスに関する意識を高めた。それゆえに,サービス産業界 におけるサービス・マーケティングの関心は高まり,やがてAMA が発足されサービス・マー ケティング会議が開催されはじめるようになった。この会議を通じて北欧および欧州諸国と米 国のサービス研究者の交流がもたれるようにもなった。 この時期の中心的議論は,「サービスの品質(Berry, et al.)」や「サービス・エンカウンター (Czepiel, et al.)」といったサービス研究における特定のテーマをとりあげるようになってきた。 その他の主要な研究テーマは「サービスの分類(Lovelock)」「リレーションシップ・マーケティ ング(Berry)」「インターナル・マーケティング(Grönroos)」といった新しい概念として現在 でも重要なものとなっている。 ③「立って歩き始めた時期(Walking Erect: 1986-1993)」 この時期において,サービス研究者たちはその研究業績をさらに熟成させ,マーケティング の研究領域にサービス・マーケティングの確固たる地位を築いた。この時代は,その研究論文 の内容に実証および理論的厳格性が増した時期であり,主要な議論の内容は「サービス経験の 異質性が与えるサービスの品質のマネジメント」「目に見えないサービス・プロセスのデザイ ンとコントロール」「(受容力)制限サービスにおける受容と供給のマネジメント」「マーケティ ングおよびオペレーションの機能とオーバーラップする組織の問題」などである。
この時期のサービス研究は前の時期よりも加速して発展成長していった。例えば,AMA が
開催する会議の他に1988 年から隔年おきにスウェーデンにて国際学会「サービス品質研究シ
ンポジウム(QUISI)」が,1990 年から毎年米国にて「Frontiers in Services」という学会が 開催され,さらにサービスの研究・教育を行なっている大学や研究機関の世界的ネットワーク 「IASRE(International Academy of Services Research and Education)」の構築がその急速な成長
に貢献した。 (3)現在のサービス研究の主要なテーマ Fisk らは,1980 年代のサービス研究の主要なテーマは,マネジメントやオペレーション, 人的資源に関する企業組織の理論や外部市場による考えに基づいて発展してきたが,しだいに 研究が進み精緻化されるにつれ,その研究テーマは明確かつ細分されていった(例えば,サー ビスの品質,サービスの満足,サービス・エンカウンター,サービス・デザインなど)と述べ,それら についての説明を加えている(Fisk et al.[1993]pp.20-23)。近藤(隆)もまた現在のサービス 研究の主要なテーマに次のものをあげて説明している(近藤隆雄[1996]pp.52-54)。それは,「サー ビスの品質」「サービス・エンカウンター」「サービス・プロセス・デザイン」「顧客ロイヤルティ とリレーションシップ・マーケティング」「インターナル・マーケティング」である。 ①「サービスの品質」 サービスの品質に関する研究は実務家および研究者の最大の関心事であり,その問題に関す る研究業績の量もサービス研究領域において最も多いとされている。製品の品質は製造段階で 決定される与件的要素であるが,サービスの品質はその提供場面で決定される。製品であれ サービスであれ,商品の品質は顧客の満足度に影響を与え,再購入率に関係する。特にサービ スは,顧客となり得る人びとが予めその効果を実際に試すことはできないため,受けるサービ スの事前期待とサービスの過程および結果との関連で,商品の品質の評価は顧客の主観をもっ て行なわれる。したがって,期待形成活動(宣伝や広告,口コミなど)と高品質のサービス生産 システムの構築が重要な課題となる。このサービス品質研究の関連テーマには,「品質と顧客 満足および顧客ロイヤルティ形成や再購入行動との関連性」「サービス品質の測定(SERVQUAL など)」「サービス品質と経済的成果との関連性(ROQ)」「期待の機能の明確化とコントロール」 などがあげられる。また,Fisk らは今後のこの領域の研究課題として,顧客満足と品質との 連関だけでなく有効性の内部評価と従業員の報酬との明確な連関方法が重要となるとしている (Fisk, et al.[1993]p.21)。 ②「サービス・エンカウンター」 サービス・エンカウンターとは,提供者側がサービスを生産し顧客がそれを消費する場面
を指していう。Normann は,このサービス提供下における提供者と顧客の直接接触の場を 闘牛の比喩をもちいて「真実の瞬間(The moment of truth)」と称している(Normann[1984] pp.16-17)。すなわち,サービスの品質はこの真実の瞬間において認知されることから,顧客満 足や顧客ロイヤルティの形成に影響を与えるとされる。したがって,サービスを提供する組織
はこの真実の瞬間を第一に考慮し,有効的なサービス生産システム(あるいはプロセス:Service
delivery system or process)をデザインしなければならない。
近藤(隆)はこのサービス・エンカウンターの研究をさらに3 つのサブ・カテゴリーに分類 している(近藤隆雄[1996]pp.52-23)。すなわち,「顧客と従業員の相互作用の管理」「顧客参 加と顧客の役割」「物的要素の役割と顧客の評価」である。 「顧客と従業員の相互作用の管理」の研究には,サービス・エンカウンターの顧客の評価, 従業員の働きかけのパターンや態度,従業員の権限委譲の影響,顧客のニーズや期待に関する 情報収集,リレーションシップの形成などについてとりあげられている。 「顧客参加と顧客の役割」の研究には,顧客満足度を高めるセルフサービスについて,顧客 の知識や期待がサービスの要求水準にどのように影響するか,顧客への情報提供方法について などのテーマがあげられている。 「物的要素の役割と顧客の評価」の研究は,サービス提供下における建物や施設,設備,景観, ユニフォームなど,Bitner のいう“Servicescape”の影響に関するものである。 ③「サービス・プロセス・デザイン」 サービスの本質はその活動プロセスにあるから,そのプロセスの設計は有効的なサービス生 産に関して重大な課題となる。サービス生産には提供者と顧客との相互作用が重要な役割を果 たす。そのため,顧客の活動をその分析に組み込み,経営工学的アプローチをもちいてサービ ス・デザインの方法を探索するといった研究手法がとられる。 ④「顧客ロイヤルティとリレーションシップ・マーケティング」 顧客ロイヤルティの重要性は1980 年代から指摘され,特にサービス企業においては新規顧 客よりもリピーターとの取引を重視した方が効率的であるとされ,リレーションシップ・マ ネジメント(およびマーケティング)の発展につながった。例えば,Albrecht らは,顧客がサー ビス組織に苦情を訴え,その苦情がうまく処理され満足できる結果を得られた場合,このプ ロセスを経験せず満足を得た顧客よりもロイヤルティが高いことを指摘している(Albrecht, et al.[2002]p.84)。この領域においては,顧客のサービス組織への信頼や参加と顧客ロイヤルティ 形成との関係性について,サービス・リカバリーやサービス・ギャランティ等の戦略的方法, 顧客ロイヤルティの経済的効率性,リレーションシップ形成のための情報技術の利用,企業間 (製販)リレーションシップ形成などが,主な議論の内容となっている。 ⑤「インターナル・マーケティング」
インターナル・マーケティングは2 つの発想に基づいているという(近藤隆雄[1996]p.54)。 ひとつは「全ての組織成員は,顧客であれ他の組織成員であれ,いわば働きかけの相手として の顧客を持っている」。これについては,Barnard[1938]がその著書で述べた「顧客もまた 組織の構成員である」という考え方が垣間見られる。すなわち,顧客は自らの役割(サービス 仕様の決定や料金の支払,その他セルフサービスなどサービスへの参加)をもって組織に貢献し,そ の対価としてサービスの結果得られる便益を誘因としている。さらに企業内にて従業員同士で 何かしらの取引や情報提供等行なわれているだろう。もうひとつには,特に重要であるが,そ のサービス組織の従業員がその業務に満足していなければ,最終顧客を満足させうる結果を得 ることは困難である,ということである。つまり,従業員満足(ES)に関する議論であるが, ES に配慮した職務あるいは職場の設計ならびにサービス・エンカウンターに関わる従業員へ の権限委譲の重要性が主張されている。
2.サービス・マネジメントの定義と主要な理論的モデル
サービス研究は1980 年代から急速に発展してきた。しかしながら,「サービス・マネジメント」 そのものの定義は研究者によってその解釈は異なり,現在においても完全に統一されてはいな い。また,他の経営学の諸分野と比較しても新しい分野であるが,現在ではその理論や注目す べき主張は多くみられるようになった。しかし,その全てを渉猟し,整理することは紙面的に も不可能であるので,現在のサービス研究に多大な影響を与えていると考えられる基本的なも のをそれぞれとりあげ,整理していく。 (1)サービス・マネジメントの定義 サービス・マネジメントの定義については,近藤宏一[1998]が国内外の主要なサービス 研究者のものを詳細にまとめている(下表2-1 参照)。 これらの定義に一貫していることは,サービス・マネジメントは一種の経営活動であり,そ の活動の主体は「組織」であるということである。具体的にその活動の内容は,Grönroos と Albrecht が示すような「サービスの品質」に関する活動がそのひとつの経営活動に考えられる。 例えば,品質の「認知」に関すること(顧客にどのようにサービスの品質が認知されたりその認知が 変化するのか,その認知がサービスの消費に影響するかなど)や品質の向上・改善に関する活動(目 標とする品質のレベルを設定し,いかにして改善し向上に導くかなど)である。このサービスの品質 をふまえ,サービスの生産・提供・消費の効率的なシステムをいかにして組織的に構築および マネジメントしていくかがひとつの重要な命題であると定義から読み取れる。 次に,サービス・マネジメントにおける主要な理論的モデルをあげるが,まずNormann が 展開する「サービス・マネジメント・システム」についてみていく。(2)サービス・マネジメント・システム
Normann はサービス・システムの構築にホリスティックなアプローチの重要性を強調し, 彼と彼の研究グループは「サービス・マネジメント・システム」という理論的モデルを確立し
ている。これは,5 つの構成要素から成り,その概念的枠組みは下図 2-1 のように示されている。
このサービス・マネジメント・システムを構成する5 つの要素の説明を簡単に加える。「サー
ビス・コンセプト(The Service Concept)」は,顧客や利用者に提供しようとする便益を含んだ
具体化されたサービス商品を意味する。「マーケット・セグメント(The Market Segment)」とは,
全体的なサービス・システムを構築する際に前提となる特定のタイプの顧客を意味する。「(サー
ビス)デリバリー・システム(The Service Delivery System)」とは,人材・技術・物的設備(要
素)をもちいて顧客にサービスを提供する仕組みを意味する。「イメージ(The Image)」とは,
従業員や顧客やその他のステークホルダーに影響を与えうるマネジメント上の情報ツールであ る。「文化と理念(The Culture and Philosophy)」とは,顧客へサービスと便益のデリバリーを
表 2-1 サービス・マネジメントの定義 Grönroos ① 組織が提供するなにかを購入又は使用することで消費者が手にする効用と,サービスがい かにしてこの効用を与えるかを理解すること。すなわち,顧客との関係においてどのよう に全般的品質(total quality)が認知され,またどのようにその認識が変化するのかを理 解すること。 ② いかにして組織(従業員,技術および物的資源,システム,顧客)が効用又は品質を生産・ 供給できうるかを理解すること。 ③ 組織が達成しようとする効用や品質に到達するためには,どのように組織を発展させ経営 しなければならないかを理解すること。 ④ めざす効用や品質に到達するための組織の機能と,関係者集団(その組織,顧客や他集団, 社会等)の目標を一致させること。 Albrecht 顧客が認知するサービスの品質を企業経営上の最大の原動力と考えるようにする総合的な組 織活動 前田 勇 ① サービス提供する側自身が「目標」とするものを定め,それに向けての「改善」と「向上」 をはかり,定期的に点検して「(自己)評価」を行ない,その結果と利用者側からの評価 をつき合わせて分析し,さらに改善を加えていく“一連の活動”(1989 年) ② サービス向上のための活動を効果的に展開するための指針としての性格をもつとともに, サービス理解のための一般理論としての役割をもつものである(1995 年) 近藤 宏一 基本的にはサービス提供組織のあり方とその活動の指針を導く経営活動である。そして,そ の活動の内容は以下の点をあげることができる。 ① 全体の基礎にあるのは戦略,組織,および具体的なサービス提供の現場における活動の全 体をつらぬく方向性を示すこと,すなわちNormann のサービス・マネジメント・システ ムでいえば全体の枠組みを決定しセグメントとコンセプトを定め,それらを通じて組織の 文化や理念を形成していくことである。 ② そのうえで,提供するサービスの特質に応じたサービス提供の仕組み(サービス・デリバ リー・システム)をつくりだすことが必要である。 ③ 実際のサービス提供の活動のなかからは,サービス提供側とサービスを受ける側(顧客ま たは利用者)との相互作用を通じてサービスの品質向上のための具体的な課題を見出すこ とができる。この課題を組織全体にフィードバックし,全体の連関のなかでどのように応 えていくかを考えることが必要である。 ④ 以上のような活動が全体としてよい循環をつくって自己運動していくような組織を作りだ すことが求められる。 出所:近藤宏一[1998]より筆者作成
導く社会的プロセスの統制,維持,発展させる諸原理や価値観を意味する。 つまりは,これらの5 つの要素を適切に組み込んでデザインされたサービス・マネジメント・ システムによって,その組織はアウトプットとして品質の高いサービスを生産し提供なし得る とされる。 (3)サービス・プロフィット・チェーン Heskett らは,成功したサービス企業組織の分析をもとに「サービス・プロフィット・チェー ࠨࡆࠬ ࠦࡦࡊ࠻ ࠺ࡃ ࠪࠬ࠹ࡓ ᢥൻߣℂᔨ ࡑࠤ࠶࠻ ࠣࡔࡦ࠻ ࠗࡔࠫ ࿑ 㪉㪄㪈䇭䉰䊷䊎䉴 䊶 䊙䊈䉳䊜䊮䊃 䊶 䉲䉴䊁䊛 ᚲ㧦Normann㨇1984㨉p.46 ࠃࠅ╩⠪ᚑ ౝㇱࠨ ࡆࠬຠ⾰ ᓥᬺຬ ḩ⿷ ᓥᬺຬ ↢↥ᕈ ᓥᬺຬ ቯ⌕₸ 㘈ቴࠨ ࡆࠬຠ⾰ 㘈ቴ ḩ⿷ 㘈ቴࡠࠗ ࡗ࡞࠹ࠖ ⋉ᕈ ᄁߣ ᚑ㐳 ᬺോᚢ⇛ߣࠨࡆࠬឭଏࠪࠬ࠹ࡓ ⡯႐ߣ⡯ോߩ⸳⸘ ᓥᬺຬߩㆬᛮߣ⢒ᚑ ᓥᬺຬߩႎ㈽ߣ⍮ 㘈ቴࠨࡆࠬ↪ߩ࠷࡞ ࠨࡆࠬ ࠦࡦࡊ࠻㧦 㘈ቴߩߚߩ⚿ᨐ ᮡ⊛㘈ቴߩ࠾࠭ߦㆡวߔ ࠆࠨࡆࠬߩ⸳⸘ߣឭଏ 㘈ቴ⛽ᜬ₸ ᓳ⾼⾈ ᣂⷙ㘈ቴߩ⚫ ᚲ㧦Heskett ࠄ㨇1994㨉p.166 ࠃࠅ╩⠪ᚑ ࿑ 㪉㪄㪉䇭䉰䊷䊎䉴 䊶 䊒䊨䊐䉞䉾䊃 䊶 䉼䉢䊷䊮
ン(Service-Profit Chain)」を開発し,それはサービスとその満足度向上を開発することによっ て最大の競争力を得るための新規投資に関する経営者の意思決定に貢献した。その内容は,収 益性,顧客ロイヤルティ,従業員満足,従業員ロイヤルティ,生産性といった成果を達成する 上で必要と考えられる要因を図2-2 が示したようにそれぞれ関連づけた要因関連図である。 Heskett らは,サービス・プロフィット・チェーンの流れを次のように説明している。 ①「内部サービス品質が従業員満足の原動力となる」⇒ ②「従業員満足が従業員ロイヤルティ の原動力となる」⇒ ③「従業員ロイヤルティが従業員生産性向上の原動力となる」⇒ ④「従 業員の生産性が高まるとサービス商品の品質向上する」⇒ ⑤「サービスの高い品質が顧客満 足の原動力となる」⇒ ⑥「顧客満足が顧客ロイヤルティの原動力となる」⇒ ⑦「顧客のロイ ヤルティが企業組織の収益性と成長性の原動力となる」といったように,どのように顧客の満 足とロイヤルティが収益性に繋がっていくかの筋道を示し,さらにその筋道を文章にして辿る と, 「サービス企業組織の収益性向上と成長は,大体にして顧客ロイヤルティが原動力となっ て推進される。顧客ロイヤルティは顧客満足がもたらす直接的な結果であり,顧客満足は 顧客に提供されたサービスの品質に強く影響を受ける。顧客満足を得るだけの高いサービ スの品質は,強く動機づけられ企業組織への忠誠心をもつ有能な従業員によって創造し得 る。そして,その従業員の動機づけは主に高い品質を備えた内部支援サービスと顧客サー ビスの提供を実現させるための種々の方策によってもたらされる(Heskett, et al.[1994] pp.166-170)。」 サービス・プロフィット・チェーンとサービス・マネジメント・システムの関連について, 近藤隆雄は次のように述べている(近藤隆雄[2004]pp.219-220)。すなわち,サービス・プロフィッ ト・チェーンについて,「その流れを構成する要因は,それぞれ生産過程の各場面における活 動の結果変数を表している。活動結果であるから,適切な方法を利用すれば活動内容を測定す ることができる(従業員満足度,サービス品質,サービス価値,顧客満足度,利益率,等々)」とし, 一方のサービス・マネジメント・システムは,「その要素は,各々,設計対象であるシステム の要素であり,サービス生産システムを作りあげる構造的側面である。市場の求めるサービス・ コンセプト,ニーズが存在するターゲットの確定,効果的で効率的なデリバリー・システム, 顧客を動かすイメージの創出,従業員の行動パターンに影響する組織理念と文化,すべてサー ビス企業のある時点での構造的要因を表している」としている。要するに,近藤が例えるよう に,人体を構成する臓器の種類や内容(サービス・マネジメント・システム)とその活動状況を示 す数値(サービス・プロフィット・チェーン)との関係性が両者にもみられる。付け加えて,この
2 つの概念的枠組みは,「取りあげる要素・要因の数が必要十分であるか検証されていないこと」 と「要素間の関係が完全に立証されていないこと」から,実証科学的な理論ではなく応用科学 的モデルであり,分析のために仮説的に構成された理論的モデルとして位置づけられる。 (4)SERVQUAL サービス研究において,その最も重要な課題のひとつにサービスの品質に関わるものがあ り,実務家や研究者はその品質を測定なしえる指標や方法に関心を寄せてきた。これまで, サービスの品質に関する研究において,Brogowicz らの「認識されたサービス品質の統合モデ ル(A Synthesized Model of Perceived Service Quality)」やGummesson の「4Q モデル」といっ たようなサービスの品質の測定方法に関するモデルが開発されてきた。そのなかでも,特に
サービス品質研究に重要かつ影響を与えたものにBerry らの開発した「SERVQUAL(Berry,
et al.[1988])」がある。彼らは,顧客に認識されたサービス品質のコンセプトに基づき,サー ビス品質の決定要因やどのようにして顧客はサービスの品質を評価するのかについて研究を開 始した。その課題に体系的に取り組んだ結果,開発されたモデルがSERQUAL,すなわち期 待と経験とを対比したうえでサービス品質を測定するための具体的方法である。 Berry らの調査からサービスの品質の決定要因は最終的に次の 5 つとされた。 ① 物的資産(Tangibles) サービス企業組織によって使われている設備や用具そして素材の魅力,さらにサービス従 業員の外見などをさす。 ② 信頼性(Reliability) サービス企業組織が顧客に対して初回に失敗のない完璧なサービスを提供したり,同意が なされた時間までにそのサービスを遂行することなどをさす。 ③ 応答(Responsiveness) サービス企業組織の従業員が顧客を進んで手助けし,彼らの要望に応えようとすることで あったり,顧客にサービスを提供する適当な時期を知らせ,さらに迅速なサービスを行な うことなどを意味する。 ④ 保障(Assurance) 従業員の行動が顧客にその企業の信用を与えるとともに,その企業は顧客に安全を保障す ることを意味する。 ⑤ 共感能力(Empathy) サービス企業組織側が,顧客の問題を理解し,彼らの最も関心のある活動を行うことや, 顧客に対して個別に注意を払ったり,便利な活動時間を設けたりすることを意味する。
SERVQUAL は,サービスに対する顧客の数値化された「期待」と「実際の経験(実績)」 とを比較することによってそのサービスの品質を測定する方法である。すなわち,
Q = P - E (Quality: 品質 =Performance: 実績− Expectation: 期待)
という数式が成立することになる。Berry らはサービスの品質に関する 97 項目からなるアン ケート調査を4 種のサービス企業組織の顧客 200 名程度に実施し,調査内容を数回繰り返す ことで精緻化していき,最終的にサービスの品質を構成する5 つの側面(上記)を抽出した。 さらに,これら5 つの側面に対応したサービスの「期待」と「実際の経験(実績)」に関する 質問項目を作成し,調査を行った結果,上記の数式が成立することを結論づけたのである。 このSERVQUAL については少なからず批判があることも事実である。例えば,Grönroos は, 「その決定要因は多様なサービスの種類を通じて明らかになったと報告されている研究もあ れば,5 つの基本的な決定要因が確認されていないとする研究もある。さらに,それらの決 定要因の分析では,その決定要因の質問項目によっては期待の数値を高め,別のものでは 経験の数値を高める。また,そのオリジナルの手法に用いられる各々22 の質問項目は提供 されたサービスの全ての条件を完璧に説明していない(Grönroos[2000]p.77-78)。」 と,著書のなかで述べており,やはり顧客の主観によってのみ測定されるサービスの性質上, その完璧な測定方法には未だ,課題を残している。
小結:日本におけるサービス研究の今後
本稿において,サービス・マネジメントに関するサービス研究の先行研究の整理を行なって きたが,その資料となる論文や書籍のほとんどが邦訳されていない海外のものであった。サー ビスに関する議論は北欧を中心として1970 年代から次第に行なわれ,1980 年代には欧米諸 国にまでその議論はひろがり急速に発展してきた。歴史的にみるとサービス研究は経営学のな かでも比較的新しい分野である。特に日本は戦後の経済発展を製造業が担ってきたこともあ り,国民のみならず研究者においても未だ日本の経済は工業セクターが中心的位置を占めてい るという意識をもっているのかもしれない。確かにNomann がいうように,かつて世の中が 農業経済から工業経済へ移り変わったからといって,農業セクターが廃れたわけでなく,工業 セクターの発展によって農業セクターも発展してきたという経緯から,サービスセクターの 発展に工業セクターが果たす役割は大きいと考えられる(例えば情報技術の発達によってサービス業務の効率化が可能となるなど)。このような,各セクターの相互作用によって経済が発展してい くのであれば,日本のサービス研究の遅延は問題である。サービス研究の初期から中心的存
在であったNordic 学派(Nordic School)の代表的な研究者のひとりであるNormann の主著
Service Management(邦訳『サービス・マネジメント』)は日本でも有名ではあるが,Grönroos
やGummeson らの主張もまた重要であるにもかかわらず,その文献は残念ながら邦訳されて いるものはないか一部しかなく,サービスに従事する実務家のみならず研究者にもその論理は 浸透していない状況であり,日本におけるサービス研究の遅滞の原因ともなっている。そのた め,筆者を含むサービス研究者の今後の重要な課題のひとつとしては,北欧をはじめ欧米にお けるサービス研究の理論や主張を実務界の経営陣のみならずその従事者に広く浸透させるよう な研究活動を行なっていかなければならないのではないだろうか,という気づきをもって本稿 の執筆を終えたい。 【参考文献】
Kotler, P. [2003], A FRAMEWORK FOR MARKETING MANAGEMENT 2nd edition, Pearson Education.
Heskett, James L., et al. [1994], “Putting the Service-Profit Chain to Work”, HARVARD
BUSINESS REVIEW, March-April, pp.164-174.
Gummesson, E. [1994],“Service Management: An Evaluation and the Future”, International
Journal of Service Industry Management, Vol.5 No.1, pp.77-96.
―[1991], “Scandinavian Management and the Nordic School of Services: Contributions to Service Management and Quality”, International Journal of Service Industry Management, Vol.2 No.3, pp.17-25.
Berry, L., et al. [1985], “A Conceptual Model of Service Quality and Its Implications for Future Research”, Journal of Marketing, Vol.49, pp.41-50.
Berry, L., et al. [1988], “SERVQUAL: A Multiple-Item Scale for Measuring Consumer Perceptions of Service Quality”, Journal of Retailing, Vol.64 No.1, pp.12-40.
Albrecht, k., et al. [2002], SERVICE AMERICA IN THE NEW ECONOMY, McGraw-Hill. Looy, B.V., et al. [1998], Services Management: An Integrated Approach, FINANCIAL TIMES
PITMAN PUBLISHING.
―[2000], SERVICE MANAGEMENT AND MARKETING: A CUSTOMER RELATIONSHIP
MANAGEMENT APPROACH 2nd edition, JOHN WILEY & SONS.
―[2007], SERVICE MANAGEMENT AND MARKETING: Customer Management in Service
Competition 3rd edition, JOHN WILEY & SONS.
Grönroos, C. [1990], Service Management and Marketing: Managing the Moment of Truth in
Service Competition, Lexington Books.
Normann, R. [1984], SERVICE MANAGEMENT: Strategy and Leadership in Service Business
2nd edition, WILEY.
Barnard, C.I. [1938], The Functions of the Executive, HARVARD UNIVERSITY PRESS. Heskett, James L., et al. [1997], THE SERVICE PROFIT CHAIN, THE FREE PRESS.
Fisk, Raymond P., et al. [1995], “Service Management Literature Overview: A Rationale for Interdisciplinary Study”, UNDERSTANDING SERVICES MANAGEMENT, WILEY,
pp.1-32. 近藤宏一「サービス・マネジメント論の枠組みと課題」『立命館経営学』第35 巻第 4 号,1996 年。 ―「サービス・マネジメント論における「サービス」概念の検討」『立命館経営学』第37 巻第 4 号, 1998 年。 近藤隆雄「サービス・マーケティング研究とその実践的テーマ―これまでの発展と現状」『JAPAN MARKETING JOURNAL』Vol.62,1996 年。 ―『サービスマネジメント入門[商品としてのサービスと価値づくり]』生産性出版,2004 年。 ヤン・カールソン(邦訳:堤猶二)『真実の瞬間』ダイヤモンド社,1990 年。