自動イオン化を利用したイオン種の新しい赤外分光
法の開発
著者
藤井 朱鳥
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(別沖軸軸頑 09640591) iF熟9,)0令柵単価頚冷坤戴き紛(桝除雪hjL(C)(2))頚冷熱瀬甚珊瑚
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(沸詩汁傭 汁傭罰描伸男冷華 昏≠)自動イオン化を利用したイオン種の新しい赤外分光法の開発
(課題番号 09640591) 平成9,10年度科学研究費補助金(基盤研究(C) (2) ) 研究成果報告書 平成11年3月研究代表者 藤井宋鳥
(東北大学 大学院理学研究科 助手) 000101753占8 」 …_‥____ _∴はじめに
1 9 8 0年代より急速に普及した超音速ジェット分光法は、気相分子の分光研究に 劇的な進歩をもたらした。超音速ジェット分光法の歴史は、絶えざる新しい分光法の 開発の歴史でもあり、様々な新技術の開発と共にその適用範囲を今なお確実に広げて いる。近年、中性分子に関する分光学的研究は成熟期を迎えており、そこで蓄えられ た知識と技術を持って当たるべき新たな研究課題として、イオンが急速に関心を集め つつある。本研究は、これまで感度と状態選択性の壁により不可能であったジェット 冷却単分子イオンに対する赤外分光法の開発を目的として行われたものである。赤外 分光法は分子構造の研究手段として最も強力な手法のひとつである。分光研究の理想 的条件と言える超音速ジェット分光法との結合は、分子イオンに関する我々の認識を 新たにさせる数々の知見を与えるものと期待される。我々は、既存の赤外分光法とは 異なる原理に基づく新しい赤外分光法の原理をここに提示し、これまでに得られた成 果を報告する。 平成9,10年度科学研究費補助金(基盤研究(C) (2) )自動イオン化を利用したイオン種の新しい赤外分光法の開発
(課題番号 09640591)研究組織
研究代表者 藤井宋鳥 (東北大学 大学院理学研究科 助手) 研究分担者 三上直彦 (東北大学 大学院理学研究科 教授)研究経費
平成 9年度 1800千円 平成10年度 800千円 合計 2600千円研究発表
(Ⅰ)学会誌
( I)Asuka Fujii, AtsushHwasaki, Takayuki Ebata, and Naohiko Mikami,
Autoionization detected infrared spectroscopy of molecular ions・
J. Phys. Chem. A, 101, 5963 -5965 (1997).
(2)Asuka Fujii, Atsushi Iwasaki, and Naohiko Mikami,
Observation of intramolecular hydrogen bonds of o-fLuorophenol ions by using
autoionizatiOn detected infrared spectroscopy.
Chem. Lett., 1099 - 1100 (1997).
(3)Asuka Fujii, Eiji Fujimaki, Takayuki Ebata,and Naohiko Mikami,
A new type of intramolecular hydrogen bonding : Hydroxy1 - methyl interactions in血e 0-cresol 仁ation.
J. Am. Chem. Soc., 120, 13256- 13257 (1998).
(4) Eiji Fujimaki,Asuka Fujii, Takayuki Ebata,and Naohiko Mikami,
Autoionization-detected infrared spectroscopy of intramolecular hydrogen bonds
in aromatic cations・ Ⅰ・ Principleand applicadon tofluorophenoland methoxyphenol・
J. Chem. Phys. in press.
(5)Asuka Fujii, Eiji Fujimaki, Takayuki Ebata,and Naohiko Mikami,
AutoionizationJetected infrared (ADIR) Spectroscopy of jet-cooledaromadc cadons inthe gas phase : CH stretchingvibrations of isolated p-ethylphenol cations・
Chem. Phys. Letl., in press.
(ⅠⅠ)総説
( I) Takayuki Ebata,Asuka Fujii, and Naohiko Mikami,
Vibrational spectroscopy of small-sized hydrogen-bonded clusters andtheir ions・
(ⅠⅠⅠ)学会講演 a)口頭講演 (1)自動イオン化を利用したイオン種の新しい赤外分光法 藤井朱鳥、岩崎純史、江幡孝之、三上直彦 分子構造絵合討論会、名古屋、 1997年10月 (2)自動イオン化検出赤外分光法による置換フェノールイオンの 分子内水素結合に関する研究 藤巻英司、藤井朱鳥、江幡孝之、三上直彦 分子構造総合討論会、松山、 1998年9月 (3)多波長レーザー分光法による分子及び分子クラスターの構造 及び動力学研究 (招待講演) 藤井未鳥 日本化学会第7 4春期年会、京都、 1998年3月 b)ポスター発表
( 1 ) "AutoiomiZadon detected infrared spectroscopy of molecular ions"
Asuka Fujii, Atsushi Iwasaki, Takayuki Ebata,and Naohiko Mikami
Research conference on very high resolution spectroscopywith photoelectrons・ Emmetten, Swit21erland, September, 1997
研究成果
Ⅰ.序
分子イオンの研究は、近年のレーザー分光技術の劇的な進歩と中性分子に関する研 究の成熟を背景に、気相分子分光学・動力学における中心課題の一つとして、急速に
関心を集めている.特に1984年のMuIer一mthlefs, Schlagらによるゼロ運動量光電子
分光法(zero kinetic energy photoelectron spectroscopy, ZEKE-PES)の開発は、分子イオ
ン、とりわけ芳香族イオンの構造研究における飛躍的発展の契機となった【1,2】。 ZEKE-PESの核心となる要素は、リュ-ドベリ(Rydberg)状態の利用である。リュ -ドベリ状態とは、電子を主量子数が変化するほどの高エネルギーの軌道に励起した 状態を指し、励起された電子(リュ-ドベリ電子)以外の分子の残りの部分は、イオ ンコアと呼ばれる。励起された電子とイオンコアとの間の相互作用は極めて微弱であ り、イオンコアの幾何構造は、リュ-ドベリ電子を纏わない「裸の」イオンそのもの と事実上同一である。即ち、イオンコアの振動・回転準位を計測することにより、イ オンの分光と同じ情報が得られる。高リュ-ドベリ状態の二重共鳴励起としきい光電 子検出を組み合わせることにより、これを成し遂げたのがzEKE-PESである。 ZEKE-PESの成功を受けて、更にそのバリエーションと言える MATI
(mass-analyzedthreshold ionization)[3], PIRI (photo-induced Rydberg ionizadon)[4]といったリュ
-ドベリ状態を利用したイオン分光法が開発され、最近では、これらの総称として 「zEKE分光」と言う名称が一般化しつつある【1]o zEKE分光は、二重共鳴法が適用しやすい芳香族イオンを中心として広く応用され、 現在までに膨大なデータ-が蓄積されている。しかしながら、これまでのZEKE分光 はすべて、電子遷移を観測の最終段として用いている。そのため、 OH, CH伸縮振 動等の高振動モードは、 Franck-Condon因子が小さいことや観測領域に多数存在する 低振動モード結合音との区別が困難であることから、非常に観測が難しく、特に芳香 族イオンでは、これまで信頼できる観測例が無い【51。 OH, CH等の高振動モード観測方法としては、赤外分光法が最も有効な手段であ る。しかしながら、分子イオンに対する赤外分光法の適用には大きな困難がある。即 ち、イオン濃度は通常極めて低く、通常の吸収測定は不可能である。また、イオン化 に伴う解離フラグメントや中性分子が目的とする分子イオンと混在するため、バンド の重なりやスペクトル担体の同定が深刻な問題となる。希ガスマトリックスの利用に より、前者の問題を解決して分子イオンの赤外分光が行われているが、後者の問題点 は依然として存在している。また、マトリックスからの摂動による振動数変化は、後 に述べる分子内水素結合研究に見られる様な、非常に小さい振動数変化を問題とする 場合に大きな障害となる。すなわち、孤立気相中における分子イオンの高感度赤外分
光法の開発が求められている。 超音速ジェットは、分子間の衝突や摂動を排した孤立気相分子を生成させることが 出来、分子分光のための理想的環境を与える。しかしその反面、サンプルの希薄な濃 度により中性分子の場合でさえ、直接吸収の測定は不可能である。ジェット中の中性 分子・クラスターに対しては、差周波混合を用いた波長可変赤外レーザー光と電子遷 移観測によるポピュレーション・ラベリングとを組み合わせることにより、赤外分光 が可能となっている【6】。この手法はI R-UV二重共鳴法と呼ばれ、特に水素結合ク ラスターのOH伸縮振動の観測に威力を発揮し、その水素結合ネットワーク構造の解 明に決定的な役割を果たしている。分子イオンやイオンクラスターに対しては、一般 に電子遷移がシャープな振電構造を示さず、ポピュレーション・ラベリングが困難で ある。イオンクラスターに関しては、電場・磁場によるクラスターのサイズ選別と赤 外多光子解離を組み合わせることにより、赤外分光が行われているが【7】、この手法は 解離エネルギーがはるかに高い単分子イオンには適用できない。 本研究の課題は、ジェット中の単分子イオンに適用可能な高感度赤外分光法の開発 である。我々はzEKE分光法と同じく高リュ-ドベリ状態に着目し、そのイオンコア の赤外吸収を続いて起きる自動イオン化過程を利用して高感度に検出する事により、 単分子イオンの赤外分光が可能であることを世界に先駆けて示した【810 「自動イオン
化検出赤外分光法(Autoionization-deteced infrared spectroscopy, ADIR spectroscopyと以
下略する) 」と名付けられたこの手法は、現在唯一のジェット冷却単分子イオンに対 する赤外分光法である。
ADIR分光法の基本概念である、リュ-ドベリ状態のイオンコアに局在した遷移の
観測は、歴史的には最初原子における二電子励起状態の生成に利用されており、孤立
核励起(isolated-coreexcitadon)と呼ばれた【9].近年、この手法はJohnsonらにより分
子イオンの電子遷移観測に用いられ、 PIRI (photo-induced Rydberg ionization)分光法
と名付けられている【4】。 ADIR分光法はpIRI分光法と基本概念を共有し、その拡張と
見なせるが、得られる情報は全く異なる。 ADIR分光法は赤外分光法でありOH、 C
H伸縮振動のような高振動モードの観測に威力を発揮する.これに対してPIRIや
ZEKEIPESは電子遷移を最終段とするので、低振動モードの観測に有利である.この
II.自動イオン化検出赤外分光法(ADIR spectroscop.Y) 本節では、まず自動イオン化検出赤外分光法の詳細を述べ、その実際の過程をフェ ノールイオンを例に取って示す。 A. AD旧分光の原理 (i)高励起tJエードベリ状腰の励起 超音速分子線源に対象とする分子をシードし、中性分子のジェット冷却を行う。二 つのパルス波長可変紫外レーザー光を用意する。図1に示すように、第-電子励起状 態(Sl)を経由する二重共鳴法により、 分子を第-イオン化ポテンシャル直下 の高励起リュ-ドベリ状態(主量子数8 0程度)に励起する。 Sl状態-の遷移 波長は分子により異なるので、励起レー ザー光の波長選択により、分子種(-イ オン種)の選別がなされる。主量子数が 80程度のリュ-ドベリ状態では、リュ -ドベリ電子は分子の結合に全く関与 しなくなるので、その振動(幾何構造) はイオンと完全に同一であると見なせ る。 (2) 1)エードペソ状腰の赤外点数遷移 赤外レーザー光はYAGレーザー二 倍波と色素レーザー光との間の差周波 混合により発生させる。先のリュ-ドベ リ状態の励起光に対して適当な遅延時 e- JI.-I.=一一■ XP.SV5)rg 伽tR V3 V2JF hbhRydberg states(V=0) S vl 幡 1 図1. HuE(*H So ゝ光法の原理 間をとり、赤外光を入射する。振動遷移 が起きると、イオンコアの振動エネルギーとリュ-ドベリ電子のエネルギーの総和が イオン化ポテンシャルを越えるので、振動自動イオン化(イオンコアが振動脱励起し、 その余剰エネルギーをリュ-ドベリ電子が受け取り、自由電子となる過程)が可能と なる。即ち、生成イオン量をモニターしながら、赤外光を波長掃引すれば、イオンの 赤外スペクトルに対応するものが得られる。赤外吸収は生成イオンの検出によりなさ れるので、非常に高感度な測定が可能となる。 (3)生成イオンの倹出 自動イオン化により生成したイオンは、飛行時間型質量分析器により質量選別され、 二次電子増倍管により検出される。本研究の手法では、イオン種の選別は本質的にリ ュ-ドベリ状態の励起波長の選択により為されるが、質量分析器との併用により、バ
ックグランド信号を減少させ、より良 いS/N比が得られる。質量分析器へ のイオン引き込み電場には、リュ-ド ベリ状態の電場イオン化を避けるため、 パルス化した高電圧を用いる。 B. ADIR分光の具体例:
フェノールイオンのO H伸縮
振動の観測【8】
図2はフェノールの二波長イオン化 スペクトルの第-イオン化しきい値付 近を示している。第1レーザー光の波 長を中性フェノールのSl-So遷移0 -0バンドに固定し、イオン強度をモ ニターしながら第2レーザー光の波長 を掃引したものである。スペクトル(a)-(e)は、レーザーの入射とイオン引き出 しのためのパルス電場(時間幅8ps)と の遅延時間をI100nsから170nsまで変 化させたときのイオン強度の変化を表 している。イオン化しきい値(図中に IPoとして表示)より低エネルギー側に 現れるイオン化信号 は高リュ-ドベリ状 態の電場イオン化に よるものであり、 ADIR分光におけるバ ックグランド信号と なる。この電場イオン 化信号は、リュ-ドベ リ状態の励起とパル ス電場間の遅延時間 が増すにつれ、リュ-ドベリ状態の前期解 離によって急速に減 少していく。主量子数 IIHll批 一■- く○ - l= =コ _a i tg ヽ-一′ >ヽ ●..- の ⊂ qI ●- l= `= .52 鉄 wE (a)-loons ll一lll (b)0nS JlJlll (C)20ns llllll (d)50nSllllJJ (e)170nsJ
lllIll 68580686(氾68620 totalenergy(cm-1) 図2.フェノールの二波長イオン化 スペクトル. イオン化レーザー光とイオン引き出し パルス電場間の遅延時間を(a)-100nsから (e)170nsまで変化させている. 1.0 育 1= =l 重 く可 、一′ :E>0.5 め l= 4} ー■ i= ⊂ 0 0 llll 3000320034003600 wavenumber(cm-1) 図3.フェノールイオンのADⅠRスペクトル8 0付近(図中央印)を励起するようにレーザー光の波長を固定した場合、遅延時間 を170ns程度取れば、電場イオン化はほとんど起きないことがわかる。 第2レーザー光の波長を主量子数8 0付近を励起するように、パルス電場との遅延 時間を170nsにそれぞれ固定するoイオン化信号をモニターしながら、赤外レーザー 光を第1、 2レーザー光の10ns後に入射、 3 pm領域を波長掃引すると図3の様な ADIRスペクトルが得られる0 3534cm-1にイオン信号の明瞭な増大が観測され、これ はフェノールイオンのOH伸縮振動によるものと帰属される。中性フェノール基底状 態のOH伸縮振動数は3657cm・1であり、イオン化に伴い123cm・1もの低波数シフトが 起きていることがわかる。 C. ADIR分光法の利点と課題 上述のフェノールイオンのADRスペクトルは、気相芳香族分子イオンの赤外スペ クトルとしては初めて観測されたものであり、 ADR分光法がジェット中における単 分子イオンの赤外分光法として利用できる程の高感度を持っていることを示してい る。 ADIR分光法の利点は、単に高感度であることだけではなく、同時に優れた選択性 を持つことであるo高リュ-ドベリ状態励起に用いる第1のレーザー光の波長選択に より、スペクトル担体を明確に同定できる。マトリックス中での測定等で問題となる 担体の唆昧さや中性種・フラグメントの吸収との重なりは、 ADIR分光法では完全に 除去できる。また、構造・回転異性体も分離して観測出来る。 更に、イオンの振動基底状態に収赦するリュ-ドベリ状態を励起して観測に用いる ので、赤外吸収を起こすイオンコアは振動基底状態にあり、得られるスペクトルは振 動温度が零度に冷却されたイオンのものとなる。 すべての分光法がそうであるように、 ADR分光法もまた万能ではなく、幾つかの 注意点がある。現役階でADIRスペクトルのS/N比は、電場イオン化によるバック グランド信号(OH振動によるADIR信号の1/3程度の強度)により制限されている ため、弱い赤外吸収強度の振動(例えば芳香族CH伸縮振動等)の観測の為には、よ り一層のバックグランド信号の抑制が求められる。 zEKE分光法でしばしば行われて いるように、多段階のパルス電場の利用により、 ADIR信号と電場イオン化信号を分 離することでS/N比を改善することが期待できる。 ADIRスペクトルから得られる赤外遷移振動数は、赤外レーザー光の分解能(∼ 1cm 1)以内の精度で「裸の」イオンのそれと一致すると考えられるが、強度と線巾に ついては注意を要する。 ADIRスペクトルにおける強度は体外吸収強度×自動イオ ン化勅封に比例し、励起された振動モードの自動イオン化ダイナミックスに影響さ れるoこれは線巾についても同様であり、 「裸の」分子イオンの線巾は分子内振動エ
ネルギ-再分配速度で定まるのに対し、 ADIRスペクトルにおける線巾は、それにリ エードベリ電子の績和速度による寄与が加わる。多原子分子のリュ-ドベリ状態にお ける自動イオン化ダイナミックスは依然として多くの事柄が未開拓のまま残されて いる【10】o発想を転換すれば、 ADIR分光法を用いることにより、例えば自動イオン 化効率の振動モード依存性等について、情報が得られる事が期待出来ると言える。 ⅠⅠⅠ・ ADIR分光法の応用 以下に、 ADIR分光法の現在までの応用例を簡単に述べる.いずれもADR分光法 の開発により初めて可能となった研究であり、この分光法の優れたポテンシャルを 示すものである。個別の詳細については、巻末の投稿論文を参照されたい。
A.芳香族イオンにおける分子内水素結合の観測【11-13】
分子内水素結合は古くから様々な研究がなされているが、イオンにおけるその様相 については、最も有効な研究手段であるOH伸縮振動の観測の困難から、これまでは0-番戸をF
-∈三享=主
●- -S
図4.フルオロフェノールの 構造・回転異性体 34 ヽ 中 柳諞 6 C迭 (b)rneta(cb)3542 (C)meta(tT耶)3544 (d)pqa3546 (e)恥md+3534 20346035CX)35403580 wavenumbr(cm-1) 5.フルオロフェノールイオン各異性体の ADⅠRスペクトル(OH伸縮振動領域)とんど研究例が無い。フルオロフェノールは図4に示すような5つの構造・回転異性 体が存在するが、このうちo仙0-cis体についてのみ、水酸基とフッ素素原子との間に 分子内水素結合が期待される。図5にフルオロフェノールイオンの各構造・回転異性 体のOH伸縮振動領域のADIRスペクトルを示す(orth0-trans体はジェット中に存在 しないことが知られている) 0 ADIR分光法の特性により、混在する回転異性体が分 離されて観測されていることに注意されたい。 o血0-cis体を除く各異性体はほとんど 同じOH振動数を示し、その振動数はフェノールイオンのそれに近い。これはフッ素 置換が芳香環を通して水酸基に与える影響はごく小さいことを意味している。一方、 or山0-cis体についてのみは明瞭な低波数シフトが観測され、分子内水素結合の存在が 確認された。これはイオンにおける分子内水素結合を直接的に捉えた初めての例であ る。中性or血0-cis体におけるOH振動の低波数シフトは26cm-1であるのに対し、イ オンでは49cm-lとほほ倍に増加している。これはイオン化により酸素原子の電荷が 芳香環へと流れることにより、水酸基の酸性度が増大した結果であると考えられる。 同様の現象は、メトキシフェノールでもADR分光法により観測された。 3 図 中 愉WH ウ 3cSR (Gis)-
p)(oqTnos)_3655
(C)meta3655 (Gis)-(d)(Taenbs)_3657
(e)para- 3658 60036203640366036803700 wavenumbeT(cm-1) 6.ⅠR-UV二重共鳴法により測定した 中性クレゾールのOH伸縮振動分子内水素結合に関して極めて興味深いのは、クレゾール(ヒドロキシメチルベン ゼン)の場合である。クレゾールにおいても、フルオロフェノールと同様に、水酸基 とメチル基との配向により5つの構造・回転異性体が存在する。 I R-UV分光法に より得られた中性クレゾールの各異性体のOH伸縮振動を図6に示す。一般に、メチ ル基は水素受容能力が極めて小さく、水酸基とはほとんど相互作用しないと考えられ ている。このことと一致するように、最も強い相互作用が期待されるortho-cis体を含 めて、各異性体は、ほほ同一のOH振動数を示す。しかしながら、イオン化に伴い様 相は一変する。クレゾールイオンのOH振動領域のADIRスペクトルを図7に示す。 orthoICis体のみが他の異性体に比べて明瞭な低波数シフトを生じていることがわかる。 これはortho-cis体において水酸基とメチル基の間に分子内水素結合が生じているこ とを示している。この様なメチル基が水素受容体として働く分子内水素結合はこれま で例が無く、新しいタイプの分子内水素結合の発見となった。同様の結果がエチルフ ェノールでも確認され、アルキル基の水素受容能力がイオン化に伴い大きく変化する ことが示唆されている。この例が明確に示すとおり、イオンにおける水素結合は中性 におけるそれと大きく異なる性質をもつことが可能であり、今後の研究の進展が待た れる。
B.芳香族イオンにおけるC H伸縮振動の観測【14】
芳香環におけるC H伸縮振動は、赤外分光による分子の同定に必ず用いられる重要 な特性振動であるが、これまで気相イオンにおけるその観測例は全く無い。光電子分 光やイオンの蛍光励起スペクトル等の電子遷移を用いた観測において、振動エネルギ ー3000 cm-1付近の弱いバンドを芳香環CH伸縮振動と帰属した例はあるが、その領 域に数多く存在する倍音・結合音との区別の根拠は薄弱であり、帰属の信頼性には疑 いがあるr51。 我々はAD択分光法を適用する事によって、気相芳香族イオンのCH伸縮振動の観 測に初めて成功した。図8にp-エチルフェノールの(a)中性基底状態(b)イオン基 底状態における赤外スペクトルのCH伸縮振動領域を示す。(a)はI R-UV二重共鳴 法を、 (b)はADIR分光法を用いて測定したものである。 2900- 3000 cm-】領域に現 れるバンドはエチル基の、 3000-3100cm-1領域のバンドは芳香環のCH伸縮振動と それぞれ帰属される。注目されるのは芳香環CH伸縮振動であり、イオン化に伴い30 -50cm )程の高波数シフトが観測された.単純に考えれば、芳香環に生じる電荷にC -H間の電子が吸引されて、低波数シフトが生じる事が予想される。同様のイオン化 に伴う高波数シフトは、我々の他のアルキルベンゼンイオンのCH伸縮振動において も観測されており、興味深い電子相関の影響が示唆された。謝辞
共同研究者として本研究に参加している藤巻英司氏(東北大学 大学院理学研究 料)の多大な貢献に深く感謝いたします。 研究の初期段階では、岩崎純史氏(現 東京大学 大学院理学研究科)に御助力 頂きました。 また、江幡孝之助教授、石川春樹博士、前山俊彦博士(東北大学 大学院理学研究 料)の御援助、御協力に感謝いたします。参考文献
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