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「プラスミドパラドックス」~プラスミドはなぜ「生き残って」いる?~

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Academic year: 2021

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25 生物工学 第96巻 第1号(2018) 著者紹介 静岡大学学術院工学領域化学バイオ工学系列(准教授) E-mail: [email protected] 本誌を読まれる多くの方は,よくご存じと思うが,プ ラスミドは,微生物の生存に必須な染色体とは物理的に 別個に存在する,環状または直鎖状の自律複製可能な複 製単位(レプリコン)である.プラスミド上に,薬剤耐 性遺伝子群や病原性遺伝子群,物質代謝遺伝子群など(宿 主の生存に必須ではないためアクセサリー遺伝子群とよ ぶ)が含まれる場合,それを受け取る微生物は,新たな 能力を獲得する.プラスミドは,その性質から生物工学 の必須ツールとして利用されるとともに,深刻な院内感 染を引き起こす多剤耐性菌の出現と蔓延の一端を担う遺 伝因子でもあり,人類と密接に関わってきた.本稿では, プラスミドの生存戦略にまつわるパラドックスと,その 解明に向けた近年の報告について触れたい. ある環境における微生物の生存しやすさ(適応度)を fitnessとすれば,プラスミドの宿主のfitnessは,プラ スミドを持たない場合と比べ,多くの環境下では低下す る.これは宿主の生存に必須な遺伝子を含む染色体とは 別に,数千から数十万塩基対のプラスミドDNAを複製・ 維持しなければならないからだ.もちろん,特定の選択 圧のある環境(抗生物質耐性遺伝子を含むプラスミドを 持つ宿主の場合なら抗生物質を含む培地上)では,宿主 のfitnessは増大する.しかし,その特定環境下であっ ても,耐性遺伝子のみを染色体上に持つ菌株の方が,プ ラスミド全体を持つ菌株よりもfitnessは高くなる.つ まり宿主にとっては,必要な遺伝子(群)を染色体に取 り込んでしまえば,プラスミドの残りの部分は不要なは ずであり,長い微生物の進化の過程でプラスミドが淘汰 され消滅してしまったとしても不思議はない.それにも かかわらず,アクセサリー遺伝子群を持たないプラスミ ドも含め,数多くのプラスミドが次々に見いだされてき ている.なぜ今もプラスミドが存在しているのか明確に 説明することは未だに難しい.これを「プラスミドパラ ドックス」とよぶ. 近年,このパラドックスの解明を目指した研究がなさ れている.プラスミドを持つ宿主を,選択圧のない培地 で培養し,培養液の一部を新たな培地に移して再度培養 することを繰り返す(継代培養する)と,元の宿主に比 べて,その¿WQHVVが向上した変異株を得ることができる. このような変異は,元の菌株のfitnessを必ずしも増大 させず,プラスミドをもつことで「やむを得ず」生じた と考えられることから,compensated mutation(代償的 変異)とよばれる(ただし,その変異によって宿主の fitnessが向上する分子機構はほとんどわかっていない). Harrisonらは大型のプラスミド(400 kb超)を保持す る3VHXGRPRQDV ÀXRUHVFHQVから,宿主の¿WQHVVが向上 した変異株を取得した1).その代償的変異は,染色体上 の複数の遺伝子発現を制御するGacA/GacCシステムを コードする遺伝子に生じ,その結果,プラスミド・染色 体上双方の遺伝子の発現量が減少し,宿主のfitnessの 低下を抑えていることが判明した.また,San Millanら は,宿主(P. aeruginosa)のfitnessを低下させる小型 のプラスミドの宿主の継代培養をしたところ,元の宿主 よりもfitnessが向上した変異株を取得し,その代償的 変異が,染色体上のhelicaseとkinaseをコードすると推 測される遺伝子内に生じたことを見いだした2).これら の変異株では,プラスミドを持たない菌株と比べて,染 色体上の遺伝子の転写変動がほぼなく,プラスミド上の 複製開始を担うRepAの遺伝子の転写量が顕著に減少し ていた.Yanoらは多くのグラム陰性菌内で複製される プラスミドpBP136を安定に維持できないShewanella oneidensisを宿主として継代培養を続けたところ,プラ スミド上に存在する,自身の複製開始タンパク質TrfA1 の遺伝子に変異が入り,プラスミドが安定に維持される ようになることを示した3).さらに変異型のTrfA1は,

DNA複製に寄与する宿主由来のhelicase(DnaB)との 相互作用が,野生型のTrfA1よりも弱いことを見いだし, プラスミドと染色体の複製機構が,fitnessの変化に影響 していることを示した.続く報告でStalderらは,本宿 主がpBP136由来のミニレプリコンを安定に維持するた めに,TrfA1上の代償的変異を含め,三つのパターンで 進化・適応すると報告した4). 以上のことは,少なくとも複数のプラスミドの宿主は, たとえ選択圧がなくとも,染色体・プラスミドの遺伝子 に代償的変異を生じさせ,プラスミドを「生き残らせる」 よう進化することを示唆している.しかし,その理由や 実態の多くはまだ不明である.プラスミドの存在に意味 があるのかないのか,今後の研究成果が期待される.

1) Harrison, E. et al.: Curr. Biol., 25, 2034 (2015). 2) San Millan, A. et al.: Nat. Commun., 6, 6845 (2015). 3) Yano, H. et al.: Mol. Microbiol., 101,743 (2016). 4) Stalder, T. et al.: Sci. Rep., 7, 4853 (2017).

「プラスミドパラドックス」∼プラスミドはなぜ「生き残って」

いる?∼

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