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重度知的障害児の思春期における発達と放課後保障 : 事例分析を通して

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†障害児教育専攻 障害児教育専修 指導教員:白石恵理子 原 著 論 文

重度知的障害児の思春期における発達と放課後保障

―― 事例分析を通して ――

Development and Support in After School for Children

with Severe Mental Retardation in Puberty

Yoshiko SONODA

キーワード : 重度知的障害,思春期,障害児学童保育,放課後保障,発達保障 Ⅰ 問題の所在 1 障害児学童保育の意義 障害児の放課後保障は,第一に障害児の余暇 の権利保障,第二に子育ての社会化 (障害児の 家族への子育て支援と就労保障),第三に,第 一の余暇の権利保障と第二の子育ての社会化を 通じての発達保障 (障害児自身の人格発達の保 障,第三の居場所としての時間,空間,仲間の 保障) という意味を持つ (黒田 2005)1) 2004 年に結成された「障害のある子どもの 放課後保障全国連絡会」が 2005 年に行った調 査では,障害児の放課後保障を目的とした事業 体は全国に約 500 箇所存在し,約 1 万 2 千人が 在籍していることが明らかになっている。 2 思春期とは何か 思春期は,身体的心理的な変化の大きい時期 であるというだけでなく,青年期において最も 重要な課題 (=「自分とは何か」ということに 自ら答えをだすこと) を達成し,自分が社会の なかでひとつの役割を持った存在として,自分 にふさわしく,ほかの人からも是認される存在 としての自信を獲得するなど,自分自身のなか に中核となる「自己認識」を形成するための, 初期段階に位置しているといえる。 3 障害児の思春期 大久保 (1993) は,障害種別や障害程度を明 確に示していないが,発達障害をもつ子どもが 思春期においてみせる特徴的な姿として,以下 の 5 点を挙げている。1) 成長に伴って,子ど もが自己主張をより強くするようになり,それ が両親に戸惑いを与え親子の対立を引き起こす, 2) 身体的に両親に匹敵する,あるいはそれ以 上に成長し,一般的に両親の物理的なコント ロールが及びにくくなる,3) 興味関心が拡大 し,行動がより広い範囲に及び,理解力が十分 でないことと関係して,周囲との軋轢が増加す る,4) 二次性徴が明らかになり性的と見られ る行動を示すようになり,親を含め周囲に戸惑 いを与える,5) 強迫的な傾向が強まり,子供 が悪化したような印象を受ける2) これらの項目は,筆者が放課後保障実践を通 して感じてきた,思春期を迎えている子どもた ちの特徴的な姿と共通している部分も多い。具

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体的な姿としては以下の 4 点が挙げられる。1 つめは,大人への直接的な要求の減少である。 2 つめは,仲間の行動への注目の増大 (あこが れ,世話焼き,まねっこ) と他者への気持ちの 高まりである。3 つめは,大人との関係よりも 子どもどうしの関わりを求める姿である。4 つ めは,体力がついてくる,身体的に成熟してく るということである。 4 思春期における障害児学童保育の意義 思春期は子どもたち一人ひとりが身体面での 急激な変化を迎えながら,家庭から離れたとこ ろで興味や関心を軸に自分の世界を広げ,自ら 仲間を選びとりながら経験を積み重ねていく時 期である。その過程において自分の存在意義を 確認し肯定的な自己認識を培っていくことが求 められている。 障害児学童保育とは家庭や母親との関係から 離れ,学校終業後のひと時を使って仲間ととも に自分自身の感覚と思考を試すことが保障され ている場である。知的な障害がある場合でも子 どもたち自身の発達の力やこれまでの生活経験, 学校で学習したことをもとに主体的な気持の膨 らみを動機に活動に向かい,自己を実現するこ とができる場となり得ると考える。 しかしながら,知的な障害がより重度である と生活基本動作を行うことに大人の介助を必要 とする場合や,行動や他者とのコミュニケー ションに困難が伴う場合がある。これらの点が 影響して思春期において子どもたちがどのよう に自己を確立しようとしているのか,他者が明 確に把握できないことが多い。また障害が重度 であるほど大久保が示している周囲との軋轢が 増加する,周囲への戸惑いを与えるなど障害児 の思春期における特徴が,より深刻な状況と なって現れやすい。結果として,思春期に肯定 的な自己認識を得にくい場合も少なくないと推 察する。筆者が指導員として勤務した障害児学 童保育所にも重度の知的障害がある子どもが多 く在籍しており大久保の指摘に共感する経験も 多い。 しかし,障害種別や障害程度に関わらず多く の子どもたちが,小学部 5 年生頃を境に遊びの 質や集団への参加の仕方に変化があると日常的 に感じていた。 以上から物理的な面で完全な自立が難しい重 度知的障害児の場合にあっても,心理的な面に おいて思春期的な変化が多様な方法で表現され ている可能性があると推察される。さらに,学 校や家庭など基本的な生活の流れから一歩離れ てゆとりの時間を過ごすことのできる障害児学 童保育においては,それぞれの子どもがより多 様な行動で,より直截的に心理的な変化を表現 しているのではないかと推察する。 Ⅱ 目的と方法 1 目 的 本稿では重度知的障害をもつ自閉症児 A の 事例分析を行い,A の乳幼児期からの変化を 振り返ることで A の思春期における変化や特 徴を明らかにする。 A を事例分析の対象としたのは,筆者がこ れまで関わってきた子どものなかでも思春期的 な変化が大きい子どもであった為である。A の思春期的な変化を理解し,実践を展開させる 過程において,筆者は何度も障害児学童保育と は何か,放課後保障とは何か,重度知的障害児 における思春期とは何かといった根源的なテー マに立ち戻らされた。A の思春期的な変化が 放課後保障実践においてどのような姿として現 れるのかを検証し,障害児学童保育での放課後 保障実践が A の思春期にとってどのような意 義があったのかを明らかにする。さらに重度知 的障害児における思春期の発達にとって放課後 保障実践の役割や発達的意味,今後の課題につ いて考察する。 2 方 法 (1) 対象者 A (女 17 歳) について 成育歴の概要 1991 年 4 月生まれ (特別支援学校高等部 2 年) 2 歳 自閉的傾向がある知的障害 児と診断される。 4 歳 療育施設に通い始める。 5 歳 地域の保育園に通い始める。 (療育施設と並行通園) 6 歳 県立養護学校 小学部に入学

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11 歳 障害児学童保育所 S を利用 障害種別:知的障害,自閉的傾向 「新版 K 式発達検査 2001」を 2007 年 9 月 (16 歳) に実施した結果 認知・適応領域 3 歳 3ヶ月 言語・社会領域 2 歳 3ヶ月 学童保育所利用年数:2008 年度で 7 年目 家族構成:父,母,本人,弟 (中学 2 年生) (2) 方 法 A についての 1995 年度 (4 歳) から 2007 年 度 (15 歳) までの記録から,以下の 2 点につ いて検討する。 1) A の生活,成長,発達における時期区分ごとの特 徴の分析と検討 A に関する記録からこれまでの生活の様子, 成長,発達における行動の変化等に着目し,特 徴的な記述や頻出している記述を抜き出しその 変化の様子を明らかにする。その際,思春期に 焦点をあてて検討することから,二次性徴など の身体的変化と生活面の特徴,要求等の表現, 社会性,の 3 点に関する記述と 2008 年 1 月に 行った A の母親への聞き取り調査の内容に着 目し,日常生活のなかで思春期の大きな特徴と もいえる自己意識の芽生えがどのように表れて 変化しているのかを分析する。また,思春期は 親からの心理的離乳の時期であるといわれてい ることから,母親がそれぞれの時期に A や, A と母親自身との関係をどのようにとらえて いるのかについても整理する。 2) 障害児学童保育所での保育実践における A の変 化の分析と検討 障害児学童保育所の A の個別記録や,実践 記録,職員の振り返りをもとに A の学童保育 所での放課後の過ごし方と,A の姿をふまえ た実践の相関関係を明らかにし,A の様子の 変化と実践の関係性を明らかにする。 なお,検討に用いる記録は以下の通りである。 ⅰ 療育施設のあゆみ ⅱ 学校の通知表 (中学部 3 年生まで) ⅲ 学校の連絡帳 (中学部 3 年生まで) ⅳ 障害児学童保育所の個別記録 (小学部 5 年 生から中学部 3 年生まで) ⅴ 障害児学童保育所の保育日誌 ⅵ 2008 年 1 月に行った A の母親への聞き取 り調査の記録 Ⅲ A の生活,成長,発達における 時期区分ごとの特徴 1 時期区分 A に関する記録を分析した結果,A のこれ までの変化を区分すると,以下の 4 つ (Ⅰ期〜 Ⅳ期) に区分することができる。 Ⅰ期:乳幼児期〜小学 2 年生 Ⅱ期:小学部 3 年生〜小学部 4 年生 Ⅲ期:小学部 5 年生〜中学部 1 年生 Ⅳ期:中学部 2 年生〜中学部 3 年生 A の時系列による変化の様子について,身 体の変化と生活面の特徴,要求等の表現,社会 性,母親の振り返りの 4 つの観点において検証 する。 2 身体の変化と生活面の特徴の変化 Ⅱ期以降目的的に行動することが増え,その 目的に執着するようになっているなどの変化が 見られる。 Ⅲ期に初潮があり二次性徴を迎えている。Ⅰ 期,Ⅱ期ではほとんど見られなかったが,Ⅲ期 以降体調不良で学校を休むことも出てくる。 Ⅳ期に入ると身体的な二次性徴の変化は落ち 着き始める。一方でⅢ期にも見られつつあった, 生活基本動作への執着がより強まりを見せるよ うになる。 Ⅰ期には生活において大きな場面の転換を理 解できないことが,A の激しい情緒の乱れを 招いていた。しかし,Ⅲ期以降は自分のつもり やペースにこだわり,それが守れない場合や周 囲の騒がしさに不快感が高まり,情緒が乱れ, 激しさを伴った行動を見せるようになっている。 3 要求等の表現の変化 A はⅡ期に大人からの教育的な働きかけの 結果として,積極的に要求を表現するように なっている。Ⅲ期には自分ひとりで楽しかった 活動に再度取り組んだり,大人に対する要求の 表現がより具体的になったりと,A の要求の 表現の内容や表現の幅が拡がっている。 一方,Ⅲ期以降 A が周囲の人の苦手な声に

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不快感を強く表現するようになっている。加え て自分の要求が通らないことも依然として情緒 不安定になる要因であった。A が自身の不安 定さや不快感をかみつく,ひっかくという行動 で表現することが日常場面の多くをしめるよう になっている。 Ⅳ期においては,自己をコントロールしよう とする姿や達成感を特に大人と共有しようとす る姿が多く見られ,自分の行為を客観的にとら え始めている姿がある。 4 社会性の変化 A は,Ⅰ期から他者の行為を模倣している がⅡ期,Ⅲ期を通じてその対象が大人や家族か ら同年代の子ども (友だち) へと広がっている。 また,Ⅲ期までは行動面での表面的な模倣が多 かったが,Ⅳ期においては友だちの横に座り同 じように活動を展開しながら造形活動をするな ど,行動の目的や内容にも注目して模倣するよ うになっている。 対人関係においても同様でⅠ期では大人との 関わりが主であったが,Ⅱ期以降友だちへと意 識を向けており,Ⅳ期では主体的にかかわりを もつようになっている。反面,苦手な友だちの 行動と自身の気持ちとの折り合いがつかないこ とが原因で情緒が不安定になる姿も見られるよ うになってくる。 Ⅲ期以降,A にとって他者との関係性が, 自分の行動を形成したり,調整したりする大き な要因となってきている様子や情緒のありよう に大きな影響を与えている様子がうかがえる。 5 母親の振り返り A の成長に伴い余暇を家庭外で過ごすよう に試みる,A が学校を始めとした社会のなか で自分のつもりや気持と,直面した状況にどの ように折り合いをつけていくかを考えるなど, 社会と A との関わり方にも意識をむけるよう になっている。 Ⅳ 障害児学童保育所での保育実践に おける A の変化の検討 本節では,障害児学童保育所での保育実践に おける A の変化を検討する。 利用開始から 5 年間で,A の他者との関係 性や A の行動面での特徴に変化が見られた。 A の変化をうけて,保育者は活動内容の検討 や保育集団の再構成を試みた。筆者は,A の 5 年間の変化によって重度知的障害児の思春期に おける放課後生活の意義や,それにふさわしい 活動や集団,場がどのようなものかということ を模索してきたといえる。 A の他者との関係性の変化や集団における 行動の変化,保育者による直接的,間接的な働 きかけとその結果として見られた A の姿を時 系列にそって分析していく。 1 利用 1 年目 小学部 5 年生 Ⅲの時期区分では,第Ⅲ期にあたる。 小学 5 年生の時は「ブランコを押してほし い」という要求を他者には明確に示しておらず, ブランコを押してくれた他者に対して特に好意 を抱いている様子も見られなかった。この時期, 学校や家庭など他の生活場面では,A は大人 に対して自分からかかわりをもとうとしたり, 楽しかったことを自分から後で繰り返したりし ていたが,学童保育所では見られなかった。 学校や家庭と学童保育所での A の姿の違い は,利用 3 年目にあたる中学部 1 年生までは感 じられるが,中学部 2 年生以降においては感じ られなくなっている。小学部 5 年生から中学部 1 年生までの様子をⅢで区分した時期とは異な り,一年毎に区分して検討していく。 2 利用 2 年目 小学部 6 年生 Ⅲの時期区分では第Ⅲ期にあたる。 この時期は,全体として子ども集団が低年齢 化したり保育者の入れ替わりがあったりして, 1 対 1 での対応を要する子どもが増えた。それ に伴い保育形態が個別化しはじめていた。 A は,要求を表現することが増えその内容 も変化し始めた。女性には手遊び歌,男性には ダイナミックな遊びというように,自ら関わる 大人や遊びの内容を選んで要求することが日常 的になってくる。要求が叶うと笑顔を見せ,保 育者の顔を覗き込むなど満足感を得ている様子 がうかがえた。一方で,要求が遮られるような

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場面,苛立ちや不快感を露わにすることも増え た。 また,保育者との関わりを軸にした遊び以外 で A が楽しめる活動も少なく,保育者が受け 止められない場面などでは,何もせず立ちつく す姿も目立つようになった。 しかし,保育者だけでなく仲間集団にも A の関心や意識が広がり始めている。特に S (女 当時高等部 3 年生) と K (男 当時小学部 5 年生) に関心を示し,障害児学童保育所におい て初めて仲間にかかわりを求める姿を見せた。 S や,K は,調理活動の際中心にいることが多 かった。調理活動は,比較的 A の関心の高い 活動の一つであったためか,活動が始まるとそ ばに来て見ていることが多かった。A が調理 場面で S や K がとりわけ魅力的に感じたよう で,調理活動の間 2 人に近づいていくことが増 えた。それ以外の場面でも A が S や K の顔を 覗き込むなど,好意を寄せている様子がうかが えた。 反面,特定の子どもの泣き声や仕草に不快感 を抱き,睨んだり,掴みかかったりといったマ イナスの感情表現も見られるようになった。 この時期は保育者との関係を楽しむことが多 かったが,好きな活動を楽しむだけでなくその 活動に参加している仲間の存在や行動も意識し 自ら関係を築こうする姿も随所に見られ始めて いる。 3 利用 3 年目 中学部 1 年生 Ⅲの時期区分では第Ⅲ期にあたり,放課後活 動の利用日数は週 1 回から週 3 回に増える。 前項で述べたように,A が仲間を意識した 行動を見せるようになった反面,不快感が原因 で保育者や他の子どもに対して引っかいたりか みついたりする姿が見られ始めたことを契機に, 保護者と話し合いをもった。結果,A の生活 に学童保育に通うことが一連の流れとして定着 したほうがよいのではないかという結論に至っ た。 A の姿としては,保育者から次の行動に誘 うような言葉をかけられると,途端に耳をふさ ぎ,激しく興奮して相手にかみついたり引っ掻 いたりするようになった。A が大人から指示 されて動くことが多かったため,無意識のうち に保育者が言葉をかけることが多く,A が苛 立ちを露わにすることも増えていった。 そこで保育者は,大人のそれとは異なる A の意図が存在する可能性があると考えた。話し 言葉としての表現が限定的であり,他者と言葉 でのやり取りが成立しにくいという A の現状 を踏まえて,A が可能な限りその意図を表現 できるように配慮した。 具体的には,A の視界に入る範囲で活動を 展開すること,A が周囲の子どもの動きを見 てから自分の動きを決めていけるような間を保 障することで,保育者が A に対して直接言葉 をかけて次の動きを示すことや活動に誘うこと を控えた。 また,A と K は遊びの好みに共通する点も 多くあったため,K が主体的に参加している 活動が A の視界の範囲内で展開されるように, 断続的ではあるが配慮した。 この時期の集団編成としては低年齢化,重度 化し始め,これまで同様に子どもの主体性に任 せた活動だけでは集団が形成されにくくなった ことから,一日あたり 12〜15 人の保育集団を 3 つの小集団に分けたり,目安となる活動を保 育者間であらかじめ設定したりという配慮をし た。 全体として保育実践の転換をはかるなかで, A への配慮を実施したこともあっておのずと A が視覚的にとらえる活動は小集団でおこな われることが多かった。 保育者の対応の変化を受けて A の姿は変化 していった。活動に視線を向けることはあって もソファに座って動かずにいることが増えて いった。周囲の子どもたちが外出しても A が 窓際やソファに座ったままで時間を過ごすこと が日常的になり,その姿から A が精神的にも 安定している様子がうかがえた。保育者は A が「何もしない」ことを自ら選び取っていると 判断し,A の時間の過ごし方の一つとして保 障するように努めた。 しかし次第に 2,3 人の小さな集団であれば, 仲間に対して関わりをもつなど A の仲間集団 への意識がより広がっていった。 K への関心がより高まっていることがうか

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がえる行動も増える。具体的には,K が活動 に取り組んでいる際,K に近づきその行動を じっと見つめる,顔を覗き込んで笑う,手を出 して同じ行動をし始めるなどの姿がよく見られ るようになる。 また,自ら関わりを持ちたがる保育者が女性 のみになってきており,関わりがより濃密に なっていることも特徴的である。 さらに,これまで他の子どもの声に対する苦 手意識からか離れがちであった大きな集団での 活動においても,自信のあること (長縄跳び) なら張り切って参加することも増えてきた。 反面,他者に要求を受け入れてもらえない時 や,A 自身の意図とは違う誘いをされた時, 特定の子どもの泣き声だけでなく周囲の状況が 騒がしい時など A が不快感を抱いて敏感に反 応する姿は,引き続き見られた。 4 利用 4〜5 年目 中学部 2〜3 年生 Ⅲの時期区分では第Ⅳ期にあたる。 保育者に絵本の読んでほしいページを差し出 す,追いかけっこに誘うなど,保育者を具体的 な活動に誘う姿が見られるようになってくる。 保育実践のなかでは,A の大人への主体的な かかわりを受け止めることができるように配慮 した。同時に A や A と同年代の中学部以上の 子どもたちが手ごたえを感じられる活動内容を 検討し,展開した。具体的に 1 例を挙げると年 齢が高い子どもたちだけで小集団を編成し,材 料を選び,購入する段階から調理活動を展開す るといった活動である。A は年齢が近い子ど もとともにする活動は比較的落ち着いて取り組 み,保育者の誘いかけにも柔軟に応じたり,拒 否したりとするようになっていった。 また,保育者と遊べないときには自分から好 きなことを始める姿が見られるようになり,よ り主体的な時間の過ごし方が可能になっている。 保育場面では A の主体的な行動をできる限り 保障できるよう配慮した。 また,苦手な子どもが泣き声を上げ始める, 室内が騒然とするなどの場面に直面すると,自 ら別室に移動し不快な状態を回避する行動をと るようになった。 A が自分から関わる人や時間の過ごし方な どを主体的に表現する一方で,生活の基本的な 動作や降車時など場面が大きく切り替わる際の 行為に非常に強い執着を見せ,思い通りに実行 できないと激しく泣き,他者にかみつく,ひっ かくという姿が目立つようになってきた。 A が不快感や不満感の高まりを他者にかみ ついたり,引っ掻いたりする行為で表現した後, その相手をなでたり,母親や保育者にわびるよ うに甘えることも見られ始めている。この時期 の対人関係において最も特徴的な変化であると いえる。 Ⅴ 発達検査による A の行動面での 特徴の分析 1 「新版 K 式発達検査 2001」の結果から見 た A の発達的特徴 筆者は,2007 年 9 月に A に対して「新版 K 式発達検査 2001」を実施した。 数値的な結果としては,認知,適応領域で 3 歳 3ヶ月,言語,社会領域で 2 歳 3ヶ月と判断 され,両領域に大きな差が見られる。認知,適 応面の課題において直接的に課題を解決する行 動が多く見られる,言語,社会面の課題におい て対比的認識を獲得していないなど,A の発 達の状態が不均衡であり,発達段階として判断 することが困難である。 2 A の行動面での特徴 A に見られた行動面での特徴として,拒否 の意図の表現が大きな動作を伴うこと,課題の 意図が理解できなくても A なりの表現で答え ようとすること,課題によって検査者との関係 が変化することがあげられる。 加えて,A が他者との関係性を築く際,場 面や他者の反応によって,態度や他者との関係 性の捉え方を変化させやすい不安定さを伴って いることも明らかになった。 Ⅵ 考 察 1 各時期区分における A の発達段階 A の思春期における変化について述べる前 に,A に関する記述からⅢの時期区分ごとに

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A の発達段階を判断することとする。また, 発達的には自我の誕生や拡大が特徴とされてい る時期だが,発達的な特徴が A に表れている かどうかを検討する。 (1) Ⅰ期 (乳幼児期〜小学部 2 年生) この時期,A の発達段階は 1 次元可逆操作 獲得期であると考える。 (2) Ⅱ期 (小学部 3 年生〜小学部 4 年生) この時期の A の発達段階は 1 次元可逆操作 期であると考える。 (3) Ⅲ期 (小学部 5 年生〜中学部 1 年生) この時期の A の発達段階は 1 次元可逆操作 期であると考える。 大人に対して自分からかかわりを持とうとす る姿や,大人の指示語,制止語,周囲の子ども の大きな声に過敏に反応する姿が目立ちはじめ ており,A の他者への意識が変化し始めてい ることがわかる。 (4) Ⅳ期 (中学部 2 年生〜中学部 3 年生) 1 次元可逆操作期から 2 次元形成期に移行す る過程である 2 次元形成萌芽期と判断する。 2 A の発達的な変化 Ⅰ期〜Ⅱ期にかけて,A が自分の目的を明 確に持つようになっていることがわかる。特に, Ⅱ期〜Ⅲ期の間に道具の操作の幅が広がり,言 語での表現が少しずつ可能になっていったこと で,A の活動に繰り返しや多様さが見られる ようになっている。他者との関係性においても 自分の意図や要求だけでなく,他者の意図や要 求によって行動を調整することができるように なっている。以上の A の姿から,A の自我が 誕生し拡大しているといえる。Ⅳ期に入り他者 をモデルにしたり,他者の意図に働きかけてそ の関係性を良好なものにしようとしている。Ⅱ 期〜Ⅳ期にかけて自我の拡大にともない他者へ の関心も高まっているといえよう。 しかし A の発達段階から推察すると,自我 の意図と他者の意図を調整しまとめる力は獲得 されていない。そのため,話しかけられると耳 をふさぐ,また,禁止語や制止語に激しく反応 する,周囲の子どもの大声に敏感に反応するな ど,過敏さ,不安定さが A の行動に見られた と考えられる。 3 A の思春期にみられた特徴 Ⅲで区分したⅢ期において身体面での発育や 変化が著しく,A の第二次性徴期であると考 えられる。分析の結果,A の思春期的な変化 が大きく表れたのは,情緒的な不安定さを引き 起こす要因の増大,大人の女性への密着姿勢の 高まり,仲間への同一化,生活における主体性 の出現,自己の行動を調整または修正しようと する行動の出現,他者との関係性の変転しやす さの高まりの以下の 6 点においてである。 (1) 情緒的な不安定を引き起こす要因の増大 Ⅲ期において周囲の状況や他者からの評価, 言葉への敏感さが強まり,それらに対して情緒 の状態が大きく変化するなど,自我の不安定さ を感じさせる姿が多くみられる。その表現がは しゃぐ,パニックになるなど衝動性や激しさを 伴った表現となっており,このような自我の不 安定性は,思春期に多くみられる特徴的な状態 であると考えられる。 また,否定語や制止語に敏感に反応してパ ニックになりやすい姿も目立ち始めている。Ⅳ 期になると,自分の情緒が不安定になった時に 自分から大人へかかわりを求める,自ら場所を 移動するなど,自分の情緒をコントロールしよ うとしている姿が見られる。 (2) 大人の女性への密着姿勢の高まり 大人の女性に対して,密なスキンシップを求 める姿も多く見られるようになっている。母親 にも同様の関わりを求めていたが,時期を同じ くして父親への嫌悪感も高まっている。A は 同性への密着行動を経て同性との連帯感を得て いる。次の項目でも述べるが,同じ時期に異性 である K の行動に注目し同じ行動をしようと する姿があった。また本研究の対象とする期間 ではないが,A が高等部に進学した時期から A は女性職員に苛立ちを見せた後でも,男性 職員と活動する場面では落ち着いた様子を見せ ていたという。A が同性,異性を意識し行動 を変化させている様子がうかがえる。 (3) 仲間への同一化 友だちの横に座り,同じように行動する,学 童保育所では,興味がある活動が展開されてい る際,その中心となる存在の行動をじっと見つ めたり,気の向くままに手を出したりとしてい

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る。 (4) 生活における主体性の出現 身体的な変化が落ち着いたⅣ期においても A の行動特性が変化している。これまで,他 者に了解を求めてから好きなことをする,好き なことを大人と共有することを強く求めるとい う行動パターンが特徴的であったが,自ら進ん で一人で好きなことをすることが増えている。 また,同時期に生活基本動作への強い執着を見 せ始める。目的地に着く前に走行中の車から飛 び降りることも日常化してくる。この際特に母 親の様子をうかがいながら実行することが多 かった。 (5) 他者との関係性の変転しやすさの高まり 大人の女性に強く密着する姿勢をみせた後, ふとしたきっかけで同じ相手に対して強く拒否 や敵対感を示す姿も頻繁に見られるようになっ た。密着と依存,拒否と反発という相反する心 理状態を行き来する不安定な心理状態は,思春 期に多くみられるが,A の場合は関係性が変 化する間合いが短くそれまでの他者への密着を 感じさせないほどの拒否や反発を示した。発達 段階や自閉症という障害が強く影響して見られ る姿とも考える。これについては今後の検討課 題である。 (6) 自己の行動を調整または修正しようとす る行動の出現 Ⅳ期になると,周囲が騒がしい状況であると 自ら場所を移動して落ち着きを取り戻そうとし たり,自分の情緒が不安定になった時に自分か ら大人へかかわりを求めたりする姿が増え,自 分の情緒をコントロールしようとしている姿が 見られる。 さらに情緒が大きく崩れ,他者をかんだり 引っ掻いたりした後にばつの悪そうな表情をし たり,相手や担任の先生,母親にわびるように 甘える姿も見られるようにもなる。 A が自らを客観的にとらえ始めていること, 他者の反応を通して自分の行為を理解しさらに その行為を調整また修正しようしていることが わかる。 A の乳幼児期からの変化や発達,学童保育 所での変化の様子を振り返ってみても A がⅢ 期の後半以降,思春期的な変化を迎えているこ とがわかる。さらに発達的観点からみると,Ⅲ 期における A の発達段階は 1 次元可逆操作期 と推察される。この時期の発達的特徴として, 自我の誕生があげられている。さらにⅣ期は, 2 次元形成萌芽期と推察され自我が拡大してい くという発達的特徴も併せ持っていたと考えら れる。A の場合,思春期的にも発達的にも自 我の大きな変容を迎えた時期だと考える。 Ⅲ期からⅣ期にかけて A が大人に向けて要 求を示し,応じてもらって安心感や安定感を得 ていた姿から,主体性をもって大人や仲間と関 係を築こうとする姿へと変化していたことがわ かる。また,限られた表現ではあるが,他者と の関係のなかで自分の行動を調整し修正しよう とする姿もみられた。 以上から,A が思春期的変化を経てその生 活をさらに豊かに主体性を持って広がりを作っ ていこうとしていることが明らかになり,反抗 や心身の大きな変化による情緒不安定といった 思春期のいわゆるマイナスイメージとは,また 異なった思春期の特徴をとらえることができた。 4 A の思春期における学童保育の意義 A の思春期的な変化は身体的にも心理的に も非常に大きいものであった。特に心理的な変 化は,A の自己像や他者の認識に大きな影響 を与えたと考えられる。Ⅲ期は,自己の行動様 式や生活における目的を自ら構築しなおそうと する姿が特徴的であった。同時に他者との意図 のかみ合わなさを顕著にしていた。 A の場合は他者との関係の不安定さから生 じる自身の精神的な不安定さをひっかく,噛み 付くといった行為を以って表現していたと考え られる。反面他者との呼応的,友好的な関係を 積極的に作り出そうともしており「他者とのか かわりのなかで」新しい自己像を模索していた とも考えられる。 A は特に場面や活動内容によって,他者と の関係性そのものが変化しやすいという心理面 での特徴を持っていることが明らかになった。 Ⅳ期において A が他者と多様な関係性を築く ことで,自己や自己の行為の意義をとらえなお すことを繰り返し,他者と確認することによっ

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て内面化したり,他者の反応を手掛かりに自分 の行動を調整したりしている。A にとって上 述した他者とのやりとりそのものが,自己認識 を形成しつつある過程であったと考えられる。 またその際,対象が父親や母親に限らず広く存 在するという事実が,上述の A の変化が思春 期的なものであることを示しており,A が自 らの存在を社会のなかで認識しようとしている ことも示している。 Ⅰで述べた,「自分にふさわしく,他者から も是認される存在としての自信を獲得する」と いう思春期の発達課題にむかう A の姿を障害 児学童保育での放課後保障実践において適切に とらえ,保障できたと考えられる面もあるが, 困難であった面もある。 密着,依存と拒否,反発という相反する心理 状態は思春期の大きな特徴であり,他者との関 係性も不安定なものにする。心理的に不安定な 時期に他者との関係性や自分の行動を,A が 自ら調整することができる「間合い」を保障し, A 自身が選びとった結果としての「誰とも, 何もしない」時間を大切なものとしてとらえる ことができた。さらに A 自身が何もしていな くても周囲の子どもたち,とりわけ A が高い 関心を示している K が多様な活動を展開させ ていくことによって,後に A が参加する活動 を自ら選びとるという姿を引き出すことができ たと考える。 また,A が視線を向ける活動の内容を年齢 にふさわしいものへと変化させていくこと,同 年代の子ども集団を意識して編成していくこと で,A にとっての活動のねうちを高め参加し がいのあるものへと変化させることができた。 このことは,思春期にある他の子どもたちにも 同様であると考える。 子ども自身が主体的に時間の過ごし方を決め る場,仲間集団とともに過ごす場であることを 原則とした障害児学童保育における実践だから こそ実現可能となったと考えることもできる。 A の新たな自己認識の形成のきざしを,障害 児学童保育において限られた部分ではあるがと らえることができたと考える。 反面,幅広い年齢や異なる障害種別の子ども が同じ時間帯に同じ場所を拠点として存在する 集団生活のなかでは,A の自己認識の形成過 程に対して十分な配慮をすることが困難であっ た面もある。 Ⅳ期において A は,自ら不快感を抱く場面 を回避しており,他者との関係のなかで自己の 行動を理解し調整しようとしていた。しかし, その行動を肯定的な自己認識の形成の兆しをと らえ,且つ A の発 達状況に合わせた対応をす ることが不可能であった。 A の情緒が不安定になり周囲の人をひっか く,噛みつくといった行為で表現される不快感 だけを思春期的な変化としてとらえ,周囲の子 どもに危険が及ばないように,A が情緒的に 安定した状態が保たれるよう配慮することが先 行した結果ともいえる。とりわけ活動内容や, 場面によって他者との関係性そのものの捉え方 が大きく異なる心理的特徴をもつ A には少な からず影響があったと考えられる。 また A の行動や関係性の変化をすべての時 期において分析した結果,母親に対してとそれ 以外の他者に対しての行動や関係性の持ち方に 大きな差が見られなかった。思春期は多様な他 者を相手に多様な表情を見せることで,より豊 かに自己認識を深めることができるとされてい るが,この結果は A や A の生活にとって障害 児学童保育が「第 3 の場」となりにくかった可 能性を示唆している。この A の特徴の背景に ついては,引き続き検討する必要があると考え る。 A の母親は学童保育所について「学童での 活動があることで親子関係にも余裕を持たせら れる」,「 (自分が) 来ると安心する場所。立場 が同じ保護者や職員に子育てや家庭の悩みなど 聞いてもらえて,励みになっている」と語って いる。 一般的に母親の生活態度や精神状態は,子ど もの生活態度や精神状態に大いに影響を与える とされており,A の場合にも同様であると考 える。障害児学童保育の存在が A や A の母親 の生活を間接的に支える役割を担っていること がわかる。

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Ⅶ 総 合 考 察 重度知的障害児の思春期に おける放課後保障の意義 本論文では主に自己認識の形成という心理的 な変化に焦点をあて,重度知的障害児の思春期 について,また障害児学童保育の役割について 研究を進めてきた。 本章では,事例分析の考察を踏まえて,総合 考察として重度知的障害児の思春期における放 課後保障実践の役割と,それを実現するための 指導員の専門性について考察する。 1 重度知的障害児の思春期における放課後 保障の役割についての考察 障害児学童保育をはじめとする,いわゆる 「第 3 の場」の果たす役割として,子ども自身 の「間」の保障としての役割,学校の補完的機 能としての役割,子育て支援としての役割の 3 点が挙げられることが一般的である。これは, 思春期における重度知的障害児の場合にも同じ である。本項ではさらに本論の各研究の結果を 踏まえて,とりわけ重度知的障害児の思春期に 着目して放課後保障の 3 つの役割について考察 する。 (1) 子ども自身の「間」の保障実現の場とし ての役割 筆者はこれまで,安心できる環境のもとで自 分の好きなことをたっぷりと楽しめることが障 害児学童保育の大きな目的であると考えてきた。 しかし,このことは学童前期の子どもたちに とってより重要な「間」の保障であり,思春期 にはこれとはまた質の異なる「間」が求められ ると考える。事例分析から重度知的障害児の思 春期においても,他者への興味,関心が高まる と同時に自己認識も深まっていく,ということ が他者との関係性において不安定さをもたらし やすいことが明らかになった。場面や活動,他 者との関係性が不安定な時期だからこそ,他者 や活動との関係性を自ら調整し安定させていく 「間」の保障が求められる。好きな仲間の向こ うにある活動にも注目できる,またそこに関与 していこうとする姿勢が自らの時間の流れのな かで形成されること,また,「なにもしない」 ことが選択肢の一つとして用意され,活動や他 者との関係から一歩距離をおくことができるこ となどが可能となる時間や空間,仲間の保障が, 思春期における「間」の保障と考える。特に, 重度知的障害をもつ子どもの場合には,先述し たことが大人をはじめとする他者の指示等に応 じた結果としての行動ではなく,子どもが自ら 感じ,考え,気持ちを膨らませて行動できるこ とを前提とし,生活のなかで具体的な経験を通 して,ひとつひとつ実感として獲得されていく ことが求められると考える。そのためには,指 導員などかかわる大人がその子どもの時間,空 間,仲間という 3 つの「間」をより余裕をもた せてとらえることが必要となるだろう。 自ら他者との関係性や活動への参加の仕方を 調整する「間」が保障されることで,思春期特 有の心理特性である活動や場面,他者との関わ りへの気持ちの高まりが安定して発揮されると 考える。この過程を保障することで,その子ど もにとって障害児学童保育が,他者や活動との 出会いなおしのできる場,生活を自ら作り出す ことのできる場となりうると考える。 (2) 学校の補完的機能の場としての役割 子どもが学校で学んだことを障害児学童保育 で生かし,試し,自分への自信を深めていく, また反対に障害児学童保育で得た経験や自信を 支えに学校での活動に臨むことができる。自己 への認識の変化が大きい思春期において,場が 変わることで自己への認識にも変化が生まれ, 新たな自己を作り出していくことができる。こ のような場や機会の有無が思春期の子どもの生 活にもたらす影響は大きいと考える。 事例分析から,特に知的障害が重度の子ども たちは,学童前期に学校において身辺自立や他 者とのコミュニケーションに重点をおいて教育 的かかわりがなされていることが明らかになっ た。教育の初期段階において,着脱,排せつ, 食事など生活の基本動作の幅が広がっていくと いうことは,子どもの自己認識に少なからず影 響を与えると考える。身の回りのことが少しず つ自分でできるようになることで,自分を一人 前ととらえるようになるのではないだろうか。 また,コミュニケーション面においては,楽し

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い活動を介しながら,先生に好意の眼差しや期 待を込めて要求を伝えるという場面が日常的に 用意されているなどの経験を経て子どもと他者 との関係の相互性がより豊かなものになってい ると推測される。 特に重度知的障害児においては,障害児学童 保育での経験の積み重ねと,学校の教育的働き かけの結果が相まって,Ⅰで述べた,筆者が感 じる小学校 5 年生ころの変化を生み出している といえる。 学校の教育の結果として高まる自己への意識 や他者への気持ちの高まりは,より安定したコ ミュニケーションの力を介して様々な他者のあ りようを知り,また,様々な角度から自分をと らえるという経験につながる。より多くの場面 でより多くの他者を対象とすることが思春期の 自己や他者への認識を豊かなものになっていく とも考えられる。重度知的障害児が,学校での 教育の積み重ねを受けて他者や自己への認識を 深めつつある思春期に,障害児学童保育で学校 や家庭以外の他者と共に生活し,いわゆる 「ぶっつけ本番」で獲得した力を発揮し,多く の他者と多様な関係を築いていくこと,家庭, 学校,障害児学童保育という性質の異なる場で, 実際の経験として,自分の様々な面を見せるこ とができることはまさに学校教育の補完である と考える。 しかしながら事例分析の対象者である A は, 家庭,学校,障害児学童保育,というそれぞれ に性質の異なるはずの場において,他者との関 係の築きかたや,活動への参加の仕方に相違は 見られにくかった。自己や他者の捉え方を場面 によって柔軟に変化させにくいという A の姿 は,重度知的障害を併せ持つ自閉症という障害 の影響を大いに受けている可能性を示す。この A の姿が示すものがどのような意味をもつの か,A のこれからの成長や発達などさらに長 期的な流れのなかでさらに詳しく検討していく 必要があると考える。 (3) 思春期,青年期における子育て支援とし ての役割 一般的に放課後保障実践が子育て支援として 果たす役割は,就労保障やレスパイトといった 視点から述べられることが多い。さらに重度知 的障害児の思春期においては,以下のことも付 け加えられると考える。 障害児学童保育所が重度の障害ゆえに密着し やすい親子関係に物理的にも,精神的にも距離 を生じさせ,思春期にふさわしいものにする役 割を担っていることも明らかになった。 特に,重度知的障害をもつ子どもが思春期に 見せる様々な変化に関する保護者の戸惑いや悩 みは大きく,保護者自身がこれからの子育てに 新たな見通しがもちにくいなど不安が高まる時 期であることも多い。その際,経験を語り合っ たり,相談しあったりできる仲間の存在が大き な心の支えとなり,子育てにむかう気持ちに余 裕を持たせることができると推察する。その余 裕が,「子どもには子どもの,親には親の世界 がある」という意識へとつながっていくと考え られる。 障害児学童保育所は,親と子,それぞれの世 界を豊かに充実させることで思春期における親 離れ,子離れをスムーズにする。また,思春期 という子育ての大きな節目を支えるという点に おいて子育て支援を行っているといえる。これ は,障害のある子どもとその親にとって,乳幼 児期の子育て支援と同様に重要なものであると 考える。 2 障害児学童保育で働く指導員の専門性に ついての考察 前項で,重度知的障害児の思春期における放 課後保障実践の役割や意義を検討してきた。し かしそれらを十分に実現するためには,指導員 の専門性が不可欠であるといえる。 障害児学童保育は利用年数が長いことも多く, 子ども期から青年期までを受け入れている事業 所も多い。子どもの発達,生活,障害という基 本的な事柄をできるだけ正確にとらえつつも, それらが年齢を経ることにより変化していくこ とについても十分に配慮する必要があると考え る。子どもの「今」をとらえつつ,状況に応じ て集団編成や活動内容,対応の仕方などを柔軟 に変化させ活動を展開していくことが求められ る。 また,放課後保障が広義の社会教育という面 も持ち合わせており,教育的な関わりを求めら

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れる場合も少なくない。障害児学童保育の放課 後保障実践においては,指導員それぞれの子ど ものいわゆる発達の最近接領域を検討し準備す るというよりは,子どもたち一人ひとりが多様 な仲間がいる集団のなかで憧れや,興味の対象 を選び取りそれぞれの個性を礎にして,明日の 自分に向かうことができることが望ましい。そ のための集団づくり,環境づくりにおいてこそ 指導員の専門性が問われるのではないかと考え る。 さらに,思春期における重度知的障害児に対 する指導員の専門性について考察する。 重度知的障害児であっても学童前期であれば, 先述した専門性をもとに,その子どもの好きな 活動を用意したり,集団の楽しさを感じられる ように働きかけたり,時には「大きな子ども」 として子どものモデルとなり,子どもの楽しい 世界が広がるように誘ったりと,指導員と子ど もの関係性を軸にしながら子どもに直接働きか けて,それぞれの放課後が豊かになるように実 践を展開していくことが指導員の大きな役割で あると考える。活動や他者,新しい世界へのパ イプ役といったところであろうか。 しかし,思春期において,心理的にも行動的 にも大きく変化することが研究全体として明ら かになったことや,それに伴って放課後保障の 役割の意味合いも異なってくると考察したこと を踏まえると,指導員の担う役割も変化してい くべきであると考える。 特に,重度の知的障害があると自分の意図や 思い,その日の経験などを話し言葉で表現する ことが難しい。しかしながら,年齢的に自ら他 者や活動との関係を築いていくこと,また自ら の生活を自ら作り出すという経験への要求は高 まっている。 指導員はその子どもの生活の流れを一日を通 して理解し,子ども自身が持つ生活への要求を 深くとらえる視点をもち,ふさわしい放課後生 活のありようを子どもとともに模索していくこ とが求められるのではないかと考える。しかし, これは決して個別での対応という意味ではない。 障害児学童保育全体としての活動の展開や集団 の編成をしながらも,思春期の重度知的障害児 が自ら仲間を選び,活動を選ぶ,さらには活動 しないことを選ぶ,または,仲間を選ばないこ とを選ぶことができる環境を整えていくこと, つまり間接的に働きかけていくことが大切であ ると考える。その際,子どもが安定して自分の 思いを発することができる他者との関係性が築 けるよう配慮し,「個別か集団か」「参加か不参 加か」という二者択一にとらわれることなく, 柔軟に集団編成や活動の展開を行うことも指導 員の役割であると考える。また,これらの結果 として,子ども自身が選びとった時間の過ごし 方や,他者との関係の築き方を対等な関係のな かでしっかりと認め,そのことを具体的に伝え ることも重要であると考える。 さらに,指導員がこれらの専門性を十分に発 揮するためには,安定した指導員集団が必要で あることも付け加えたい。 これまで,重度知的障害児の思春期における 発達にとっての放課後保障の意義,役割につい て考察してきたが,重度知的障害児の思春期に ふさわしい放課後生活を保障するために必要な 環境や集団,または指導員の専門性などについ ての検討は十分とは言えない。今後,本研究の 結果をもとにしながらより多くの実践や事例を 分析し,具体的な事柄を横断的に見ることで, より明確にし,整理していくことが課題である と考える。 最後に,障害のある子どもとその家族の一生 がそれぞれのライフステージにふさわしく大切 に展開されていくために,放課後保障実践が担 う役割は決して小さくないことが,改めて明ら かになった。本論文の冒頭でも述べたが,障害 児学童保育という分野は地域格差が大きく,国 全体としてその状況は刻一刻として変化し,一 進一退である。時代の流れや地域の特色に左右 されず,障害児の放課後生活が保障されること は障害児とその家族の当然の権利であると考え る。 引 用 文 献 1 ) 黒田学 (2005)「キーワードブック障害児教育 ―特別支援教育時代の基礎知識」清水貞夫, 藤本文朗編 第 4 章ライフステージと教育 障害児の放課後保障 222-224 大月書店 2 ) 大久保哲夫 (1993) 障害児教育における思春期 障害者問題研究第 21 巻第 1 号 4-10

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