Vol.113「【特集】学びを学ぶ」 - 書籍・出版/CEL【大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所】
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(2) 特 集. Culture, Energy & Life. CEL Volume 113 July 2016. Contents. 学 び を 学 ぶ. Part 1. Special Feature /. 「学びを学ぶ」に あたって 大切なこと. Part 5. Learn to Learn. 学びを 学び直すための 10冊 Part 4. インタビュー/佐伯 胖. Part 2. 新しい学びの 実践. Page. 2. Page. Page. 40. 父と娘の 対話による 学び. 9. Part 2 Section 0. 特集. 学習概念を組み直す 福島 真人. 野村 直樹. Page. Page. 36. 10. いま、新しい学びが生まれている。世の中が安定していた時代には、教えられた知識で. 答えを導き出せばよかった。しかし、構造的な変化が常態化している今日、自ら学んだ. 知識で答えを創り出さねばならなくなっている。だれもが幼児のときにはそうであった. よ う に 、主 体 的 に 創 造 性 を 発 揮 し な が ら 学 ぶ こ と が 必 要 で は な い だ ろ う か 。本 号 で は﹁ 学. び を 学 ぶ ﹂を テ ー マ に 、こ れ ま で な じ ん で き た 学 び の あ り 方 そ の も の を 見 直 し て い き た い 。. 学びを学ぶ. Part 2 Section 1. デザイン思考 IDEO. Page. Page. Special Feature. 30. 14. Learn to Learn. Part 3. 最新脳研究から見た 学びの常識の ウソ・ホント 池谷 裕二. Page. Page. 18. 26 Page. Part 2 Section 4. 枝廣 淳子、 小田 理一郎. 22. 組織の枠を超えた 学びの場 ナレッジキャピタル. Part 2 Section 2. システム思考. Part 2 Section 3. ナレッジマネジメント リクルート. 表紙・扉/アートの創造的経験によ る世界最高水準の教育実践とされ るレッジョ ・エミリア (5頁) のアプロー チを採用する代沢インターナショナ ルスクールでの学びの風景. Column & Essay 衣食住遊. 夕涼みに元禄人の遊び心を見つけた. 岩佐 倫太郎. くらしのこよみ. 二十四節気七十二候の旬を味わう 第一回 李. うつくしいくらしかた研究所. CEL Output Part 1. 省エネ・ライフスタイルに関する研究. 志波 徹. 44. CEL Output Part 2. 大阪ガスの「食の学び」. 山下 満智子. 48. 生活者の意識を探る. 第三回 生活経営. 豊田 尚吾. 52. CELからのメッセージ. 現場での学びの実践. 池永 寛明. 56. 42. CEL Insight.
(3) 特 集 学 び を 学 ぶ Part. 1. 姿 を 思い浮 かべるのではないだろ う か 。 し か し 、 認 知 科 学 を は じ め と し た 最 先 端の研 究 では、 そ う し た 学 びの あ り 方 は も は や 過 去 の も の と なっている 。 革 命 的 に 変 わった 最 新 の 学 びの 捉 え 方 について 、 認 知 科 学 、 学 び 研 究 の 第一人 者 で あ る 佐 伯 氏 にお 話 を 伺った 。. 教育観を変える. イ ン タ ビュ ー. 佐伯 胖 田園調布学園大学大学院教授. いて見直すことが必要ではないかと思ったわけです。佐伯先生 は、工学からスタートされ、心理学、認知科学、教育学と幅広 い分野にわたって学びについて研究してこられました。学びの 捉え方はどのように変わってきたのでしょうか。 佐伯 まず、﹁学び観﹂が変わる前提として、﹁教育観﹂の転換 があったのです。かつては行動主義︵*1︶をベースにした﹁教. 撮影/川上尚見. 1912年、 を酢の3倍の量にしてドレッシングをつくることにしたときに、 ︵*1︶. 本号の特集のテーマは﹁学びを学ぶ﹂です。 ﹃CEL﹄では、 ―― これまでさまざまなコンテンツを提示してきました。ところが、. 認知心理学の研究で得られた知見が取り入れられるようになり、. サラダオイルの量をO、酢の量をVとした場合、OとVの関係. え主義﹂的な教育観が全盛でした。それが、1960年代以降、. 教育観も﹁教え主義﹂から﹁わかる主義﹂へと変わり、理解す. を 式 で 表 せ と い う 問 題 で す ね。被 験 者 は 常 識 的 な 感 覚 で 捉 え、. ﹁わかる主義﹂に変わってからは、行動主義でよく使われてい. 番大きな転換です。. 佐 伯 そ う で す。そ こ で 次 に 出 て き た の が、 CSCL ︵. Vとしてしまう。. VとOが3 対1の逆の割合の図を描いた上で、そこからO=3. れた心 理 学のアプ. 言 ﹂により 創 始 さ. ではな く 、客 観 的. 状態に依拠するの. ローチ。内的・心的. た﹁学習﹂という言葉を避けて、 ﹁知識獲得﹂﹁知識理解﹂とい. Computer-. う言葉を使うようになった。ところが、﹁知識獲得﹂や﹁知識理解﹂. Supported Collaborative Learning コ ン ピ ュ ー タ 支 援 に よる協調学習︶という、お互いにコミュニケーションをとりな. きだと提唱した。. な行動を研究すべ. 究 で す。人 工 知 能 の 領 域 で 広 が っ て き た、ユ. C omp uter-Su pported. ーザーを中心としたコンピュータのあり方を 模 索 す るC S C W︵. Cooperative Workコ ン ピ ュ ー タ 支 援 に よ る 共 同 作 業︶を 学 習 に 取 り 入 れ た も の で す が、 こ こ か ら﹁イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナ ル・サ イ エ ン ス﹂、つまり学習科学という領域が一挙に広ま り ま す。こ れ は 他 者 や ツ ー ル︵道 具︶と の 関 係 か ら 学 習 を 捉 え る と い う こ と で す。先 生 が 黒板を背に講義をしてそれを生徒が学んでい く と い う 伝 達 ス タ イ ル で は な く、グ ル ー プ で の デ ィ ス カ ッ シ ョ ン を 中 心 と し な が ら、そ れ. 工知能でも、コミュニケーションし合いながら良い知恵を結集. く、組織全体での学び、組織学習が一番の研究の中心です。人. わったわけです。今はひとりひとりの頭のなかでの学習ではな. それをサポートする、学び合いを助けるというふうに大きく変. 個 人 の な か の 学 び で は な く、共 同 体 的 な 学 び が 中 心 と な っ て、. 3 年︶を は じ め と し た 人 類 学 者 に よ る 研 究 が き っ か け と な り、. 変わってきた。﹃状況に埋め込まれた学習﹄︵産業図書、199. ぞれがいろいろな考えを出し合い学び合っていくという方向に. 教 育 観 も ﹁ 教 え 主 義 ﹂ から ﹁ わかる 主 義 ﹂へと 変 わ り 、 理 解 す ることこそ が 大 事 だ という 話 に 変 わって き たんで す 。. からは完全に離れてしまいます。それはどうにかしなければい け な い と、 ﹁イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナ ル・サ イ コロジー﹂ 、つまり﹁教えることの心理学﹂ というのが1980年代になって出てきた わけです。ここで言う﹁インストラクショ ン﹂ですが、また﹁教え主義﹂に戻るとい うことではなく、 ﹁知識理解﹂や﹁知識獲得﹂ という認知心理学の研究で得られた知見を、 算数や理科、あるいは文章理解︵国語︶な どの﹁教科理解﹂に活かすということです。 ただし、理解といっても、むしろ誤解や間 違いについて研究されるようになった。 東大にいた頃にいろいろ実験してみたの. ですが、東大生でも豆電球と乾電池の並列と直列のことが全然 わ か っ て い な い。 ﹃ ﹁わ か る﹂と い う こ と の 意 味﹄︵岩 波 書 店、 1995 年︶という本で﹁サラダ・ドレッシング問題﹂など日 常的な算数の問題を取り上げましたが、ごく簡単な問題なのに 多くの大人が引っ掛かってしまった。分数のできない大学生な んていう話はそれからずっと後のことです。結局、教えたはず のことがわかっていない、学校教育は成功していないじゃない か、と問われることになるわけです。. していく﹁集合知﹂がもっぱら研究されています。. 大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所研究員. 鈴木 隆. は、個 人 の 内 部 の メ カ ニ ズ ム を 重 視 し 過 ぎ て、外 的 な﹁教 育﹂. がら学び合うことをコンピュータによって支援しようとする研. の﹁ 行 動 主 義 宣. 者J・B・ワトソン. アメリカの心 理 学. ることこそが大事だという話に変わってきたんです。これが一. 学んだはずの知識をいざ実践しようとすると、どうもうまくい. ﹁ 教 える﹂から ﹁ 学 び ﹂の 支 援へ. かないことが多い。コンテンツを学ぶ前に、学びのあり方につ. ﹁学びを 学ぶ﹂に あたって 大切なこと. 学 び とい え ば 、 自 ら が 学 校 教 育 で 学 んで き た. Learn to Learn. ﹁サラダ・ドレッシング問題﹂というのは、サラダオイル ――. 聞き手. 2 CEL July 2016 CEL July 2016. 3. Saeki Yutaka. Special Feature. 集合知. インストラクショナル サイコロジー.
(4) がまだぞろぞろいるということが、一番大きく変わらなければ. 古い学び観のままで﹁どう教えるべきか﹂について勉強する人. う つ く る べ き か﹂と い う こ と に 移 っ て い る。に も か か わ ら ず、. ぶか﹂ ﹁どのように互いに学び合うか﹂ ﹁学びを支援する場はど. 最先端の研究は、新しい学び観にもとづいて﹁いかに人は学. うになっています。. いろいろな勉強をしている。その間を先生が循環してまわるよ. はサロンのようにいろいろな机があって、いろいろなところで. ない限り変えようがないでしょう。ヨーロッパなどでは、教室. いが大事だとか盛んに言われていますが、教室の形態が変わら. ていない。今、アクティブ・ラーニング︵*2︶だとか話し合. 場はほとんど変わっていないんです。教える側の体制が変わっ. に教育観、学び観が変わったにもかかわらず、日本の教育の現. ところが、最先端の認知科学などの研究の世界ではこのよう. ことです。図工的なものを軽視した学校教育に変わっていって. 育てられていないということなのです。これはとても恐ろしい. が減っているということは、アート的思考やデザイン的思考が. きちんと教えた方がいい﹂という意見に圧されて、図工の時間. と い う よ う な こ と が 起 こ っ て い る。﹁も っ と 英 語 な ど の 教 科 を. ところが、教育の現場では、図工の時間が大幅に減らされる. ーイの﹁完成なき完成主義﹂ともつながります。. 未完成が完成である﹂という哲学者・教育学者のジョン・デュ. 言えるわけです。 ﹁終わりのない、どこまでいっても完成しない、. く出てきていて、これはまさしくデザインやアートの考え方と. 身体を動かしながら考えるワークショップのようなものが新し. 際 に 動 い て 変 化 し て い く こ と 自 体 を プ ロ セ ス と し て 見 て い く、. うな分析的な思考ばかりをやっていた。ところが、最近は、実. 考が中心となっていて、私たちが知能というときには、そのよ. つ く り 上 げ て い く と い う よ う に、階 層 的 に 見 て い く 分 析 的 な 思. 教 養 、知 識 、経 験. 的・社 会 的 能 力 、. の参加を取り入. 能動的な学習へ. 佐伯 次に、これから大きく変わるのでないかと期待している で対話しながら考えている。ただそれを表すとなると論理式し. 考を使っていて、自由で多様な情景を思い浮かべて、頭のなか. るとされる。. 能力の育成を図. を含めた汎用的. り 、認 知 的・倫 理. の 総 称 。こ れ に よ. れ た 教 授・学 習 法. 異 な り 、学 習 者 の. 形式の教育とは. る一方的な講義. ︵ * 2 ︶教 員 に よ. いけないことだと思います。 しまったら、世界からも取り残されるでしょう。 学校教育のなかでも、そういうアート的な発想が活きること をどんどん広げていかなければいけない。たとえば算数にして も、絵に描いて考えることはものすごく大事なんですね。イメ. の は ア ー ト 性 で す。実 際 に も の を つ く る と い う こ と で は な く、 かないわけです。我々はその論理式だけを覚えようと思うので. アート 性 を 取 り 入 れる ージや情景が浮かぶ、頭のなかで絵が描ける。こういうことを、. 物事をアート的に考えるという意味です。デザイン的な思考と は な く、表 面 に 出 な い そ こ に 注 目 し て い か な け れ ば 駄 目 で す。. 論理的思考 だ けでな く デ ザ イン 的 思考も. 言ってもいいでしょう。ちょっと工夫すると﹁もっとおもしろ 特集では﹁デザイン思考﹂ ︵ 頁︶を取り上げるということですが、. 数学者は皆やっているんです。数学者は、非常にアート的な思. く な る﹂ ﹁も っ と 綺 麗 に な る﹂と い っ た 情 感 の よ う な も の と で. う、言葉にならないけれども﹁非常に良い﹂と判断できる能力. も言いましょうか。言葉や論理でつくり上げていく世界とは違 れが具体的にモノをデザインするという話になってしまうとも. もっとアート的な事例を入れてほしいくらいです。ただし、そ. もちろん狭義のデザインということではありません。今回 ――. わらなければいけない。これが二番目に大切なことでしょうね。 ︵*3 ︶アトリエリ. スタ ︵美術指導員︶. 育 指 導 員 ︶と呼ば. とペダゴジスタ ︵教. れるプロフェッショ. ナルスタッフ を 置. く幼児教育実践. 対 話 を 成 り 立 たせる. き 、保 育 士 と一緒. 佐伯 三番目に大切なことをあげるとすれば、コミュニケーシ. 法 。自 由な活 動だ. 無人称 ではな く 一人 称 で. な教育の影響が広がってきていて、幼稚園にアーティストを招. ョンですね。コミュニケーション自体を学びのなかに置く。ど. 活動を支援してい. に子どもの創造的. いて一緒に取り組むなど、おもしろい活動があちこちで見られ. ういうことかというと、それは対話なんです。この対話という. れるアート的思考の教育を目の当たりにされたことで、先生ご. ものが広がり深まり展開していくという内的経験が活発に生ま. アート的なものを見たり触れたりすることで、心のなかにある. 児にアート教育をさせるという﹁教え主義﹂ではない活動です。. う い う 話 が あ り ま す ね﹂み た い な 話 し か 出 て こ な い ん で す ね。. な ん と な く 周 り の 意 見 を 一 生 懸 命 代 弁 し て し ま い、﹁世 の 中 こ. 語 で は﹁思 う ん だ け ど﹂で 済 む。他 人 事 で し か し ゃ べ ら な い。. というように、一人称が無いと対話はできない。ところが日本. 人には一人称︵主語︶が無いからです。本来は﹁私はこう思う﹂. ものが生まれてくる。そのことを我々認知科学者はアート的と. そこから生み出されるということであり、触発的にいろいろな. 日本は自分を消して、周りに合わせることが知性ということに. われる。主語や主体をものすごく大事にするんです。ところが. ﹁あなたは何をしたいのか﹂﹁あなたはどちらを選ぶのか﹂と問. とを目指す。. ぞれ貢献し合うこ. に向けて皆がそれ. けではな く 、何 か. る よ う に な っ て き て い ま す。と こ ろ が 学 校 教 育 に な っ た 途 端、. 自身が教育そのもののあり方についての考えを根底から覆され. これは対話のようで対話にならない。. 言 葉 や 論 理で つく り 上 げていく 世 界 とは 違 う 、 言 葉 にな ら ないけ れ ど も ﹁ 非 常 に 良い﹂ と 判 断で き る 能 力 を 我々は もっている 。. のが、日本人には非常に難しい。なぜ難しいか。それは、日本. ても、キットみたいなものを組み合わせ て、マニュアルに従ってものをつくって いるだけみたいになってしまっている。. │. 佐伯先生の著書﹃幼児教育へのいざ ―― ない 円 熟 し た 保 育 者 に な る た め に﹄ ︵東 京 大 学 出 版 会、2 0 0 1 年︶に は、 レッジョ・エミリアの研修ツアーに参加. たそうですね。. 日本では小さい頃から﹁私は﹂と言うことを抑えられて育っ. されたことが書かれています。たんに幼. 佐 伯 ﹁こ れ は 素 晴 ら し い 絵 で す ね﹂と 鑑 賞 す る こ と は、た だ. てきているからです。欧米では小さい頃から何事も自己選択で、. いうわけで、そういう触発性によってものを考えること自体変. 触発性. たんに評価して終わりということではなく、いろいろな発想が. Saeki Yutaka. 先ほど言ったように図工の時間が減らされてしまう。授業にし. イタリアのレッジョ・エミリア︵*3︶でやっているアート的. ご く 良 い こ と だ と 思 い ま す。今、日 本 の 幼 児 教 育 の 世 界 で は、. 佐伯 そういう発想をもっと強調していただけるのは、ものす. トするという﹁発想する会社﹂です。. ネスから教育まで、還元主義的に分析するのではなくクリエイ. るというだけではありません。ものだけでなくサービス、ビジ. 取 り 上 げ るIDEO︵ア イ デ ィ オ︶さ ん は、た ん に も の を つ く. 今までは、文字で単語ができて、単語で文章ができて全体を. ったいないですけれどね。. 14. を我々はもっている。それは全体性でもあるわけです。. 情感 CEL July 2016. 5. アート的思考.
(5) ワークショップ. なってしまっているから、自分がいなくなっているんです。こ. 的な対話を通じて答えをつくり出そうということになりますね。 頁︶で は ア ー ト. 的な発想でつくり出すことを、﹁システム思考﹂︵. 特集のこの後の記事で、﹁デザイン思考﹂︵. か 出 な い で し ょ う。 ﹁私 は そ う は 思 わ な い﹂と い う 話 は 出 て は 体 の つ な が り に つ い て の 認 識 を 共 有 す る こ と を、﹁ナ レ ッ ジ マ. んな状況で対話しろと言われても、周りのことを気にした話し. こないんです。 ネ ジ メ ン ト﹂︵. 頁︶では全. 一 人 称 が 無 い と、 ﹁自 分 が 何 を 考 え て い る の か﹂と い う こ と. 頁︶で は﹁圧 倒 的 当 事 者 意 識﹂に も と づ く 対. 18. を自問していたとしても、いつの間にか﹁他の人はどう考えて 上げますが、いずれも佐伯先生のお話の具体例になっています。. 話をベースに組織学習を展開されているリクルートさんを取り. ミュニケーションのスキルをいく ら 学 ん で も 話 の ネ タ が 無 い。本 当 に相手に伝えたいことが出てこな. Subject. い。そ し て 相 手 か ら 聞 き た い こ と. 主体 Thinking. ゴー ル を つく り 出 す ワ ー ク ショップ を. 私たちが学びを実践するにあたって留意すべき点について、 ―― 教えていただけますでしょうか。. ﹁ 学 びほ ぐ し ﹂で 自 身に問 う. 思考. も 出 て こ な い と い う こ と に な る。 私 は、根 本 的 な 問 題 と し て、本 当 の自分自身を大事にするというこ とを学校教育でやらないといけな い と 考 え て い ま す。一 人 称 が 育 っ ていないところで共同体的にと言 っ て も、皆 周 囲 を 見 回 す こ と し か せ ず、誰 か が 良 い こ と を 言 っ て く れたらそれに合わせようというこ と だ け の 共 同 体 に な っ て し ま う。 それでは形だけで実質的な共同体 にはならない。 ということで、私が学びとして大切だと思うことは、教育観 を変えること、アート性を取り入れること、そして対話性。こ の三つはどれもこれも大変革です。 三つは相互にリンクしているのではないでしょうか。学び ―― は個人が所与の知識を詰め込むことだとすると、主観を押し殺 し て 客 観 的 に 分 析 し て 答 え を 見 つ け 出 そ う と い う こ と に な る。. View. いるのか﹂という話になってしまう。そういう状態なので、コ. 22. 視点. 向かうものではないんですね。 ﹁一人称的に考えよう﹂とか﹁論. ぎている。でも実はゴールは発見されるものであって、そこに. 定調和的に、ゴールを定めてそれに向かうというふうに動き過. 経験を増やすということが非常に大事だと思います。今は、予. のなんです。こういった、結果的に何かが生み出されるという. ジェクトとしての名前がつく。ワークショップとはそういうも. いるうちに、最終的にすごいことができる。それで最後にプロ. な こ と を や っ た ら ど う?﹂ ﹁こ ん な の は ど う?﹂と 言 い 合 っ て. 最初何をするかはお互いにわからなくても、なんとなく﹁こん. 先 ほ ど の レ ッ ジ ョ・エ ミ リ ア の 幼 児 教 育 が そ う な っ て い ま す。. の 願 い や 想 い を 自 由 に 出 し 合 い な が らゴ ー ル を つ く っ て い く。. ころからスタートします。皆で模索し合って、自分なりの本当. ます。ワークショップでは、何かしらことを始めようというと. 佐 伯 最 近 は、 ﹁ワ ー ク シ ョ ッ プ を 大 事 に し よ う﹂と 言 っ て い. ができるのか教えていただけますでしょうか。. 学から心理学、認知科学、さらに教育学へと乗り越えてこられ. えられないことも多いと思います。佐伯先生ご自身の研究で工. 自分の考えは古い、囚われているということがわかってい ―― ても、囚われてしまっているのでなかなか学びによって塗り替. まず掘り起こすことです。まずはそこからです。. は﹁こ れ は す ご い﹂と 自 分 の な か に わ き 上 が っ て く る こ と を、. あなた自身が、世の中に腹がたつことや許せないこと、あるい. いのか﹂という一人称的な観点から問いをつくってもらいたい。. 発 想 で は な く、私 自 身 が﹁何 が お も し ろ い の か﹂﹁何 を や り た. 主体性がやはり大切ですね。今流行っているからというような. 佐 伯 ﹁私 自 身 が 世 界 に ど の よ う に 向 か う か﹂と い う 一 人 称 的. き込まれていれば、﹁何かおかしい﹂と思ったときに、﹁そうだ。. 佐伯 そうではない行き方もあるということが頭のどこかに吹. ールを設定してということになりがちですが。. 図工のように小さくつくり出すところからステップアップ ―― していかないと、いきなりでは無理ですよね。企業ではまずゴ. 験を重ねないと成果は出てこないですね。. 佐伯 つながらないですよ。本気で一からつくり直すという経. がらない。. セスを飛ばして、結果だけをフォローしていても成果にはつな. 先ほどの数学者がああでもないこうでもないというプロセ ―― スの、まさに渦中におられたということですね。そうしたプロ. も同席できた。それは大きいですよね。. かげで、皆が一から考え直すということをやっているときに私. 佐伯 まさに本当の革命のるつぼのなかに呼びこんでくれたお. してはおひとりだけ参加された。. 学院で、教員有志による早朝勉強会での激烈な議論に、学生と. 先生の﹃認知科学の方法﹄︵東京大学出版会、1986 年︶ ―― によると、まさに認知革命が起こらんとするなかで、米国の大. てやってきたのが米国の生活でした。. のではなく、私自身が何かを始めるということを強く要求され. そ一人称的な﹁私は何を考えるんだろう﹂ということを常に問. 佐伯 やはり米国での大学院生活を通してでしょうね。それこ. での転換点はどのようなものだったのでしょうか。 . 伯 先 生 ご 自 身 が ま さ に 大 き く 学 び ほ ぐ さ れ た 認 知 革 命︵*4︶. ワークショップのような経験を積むことで、学びがほぐさ ―― れて﹁違う行き方があるんだ﹂と気づくということですね。佐. しょうか。. のアプローチが 用. 学 、神 経 科 学など いられた。. 研 究 、計 算 機 科. ばかりの人工知能. 学 、当 時 生 まれた. 学 、人 類 学 、言 語. 生み出 した 。心 理. る学 際 的 研 究 を. 知 科 学 ﹂と呼ばれ. しよう と する﹁ 認. 能の性 質 を 理 解. 知 的システムと知. 処 理の観 点 から 、. 運 動の総 称 。情 報. 代に始 まった知 的. ︵*4︶ 1950年. 理 や 言 葉 で 表 さ な い と い け な い と 思 う こ と を や め よ う﹂と か、. これはおかしいというのが本当なんだ﹂と気づいてもらえると、. わざるを得ない。そういうなかで、誰かの研究をフォローする. そういったことを言い合っている間に、おもしろいものが生ま. 世の中は変わり出すのではないでしょうか。. たご経験も踏まえて、どのようにすれば﹁学びほぐし︵ unlearn ︶﹂. れてくる。そういう経験をしていくことが大事なのではないで. 学びほぐし. 学びが共同体として学び合うことだとすると、一人称での主体. 教えるから学ぶへ. 6 CEL July 2016 CEL July 2016. 7. 14. 無人称から一人称へ 論理からアートへ. 知 識の詰め込みから 学び合いへの転換は、 言語や論理一辺倒で はなく、 アート性を取り 入れ、一人称での主体 的な対話を通じてこそ 実現される。. 学びを学んで 実践する際に 大切な3つのポイントと 相互の連関.
(6) Section. 私は、社内起業でインターネットのベンチャービジネスを ―― 立ち上げて、 年間やっていましたので、いやがおうにも日々 しまったということなのでしょうか。先ほどの学びについての 問題と一緒ですね。. せざるを得ない状況に置かれていました。 心 で し た が、今 は﹁コ ン ピ ュ ー タ が で き な い こ と は 何 だ ろ う﹂. 能というと、コンピュータに人間の知能を真似させることが中. 佐伯 私は人工知能学会には期待をもっています。昔は人工知. 佐伯 そういう人がもっとあちこちから出てくると、世の中は と い う テ ー マ に 変 わ っ て き て い る。﹁普 通 の 人 工 知 能 で は 何 が 一 番 で き な い の か﹂と い う こ と を よ く わ か っ た う え で、 ﹁そ れ. 佐 伯 最 初 は 良 か っ た ん で す よ。 ﹁新 し い こ と を 何 か や ろ う﹂. 指摘もされていますね。. 最近、学会から﹃一人称研究のすすめ. 追究するから、学会の懇親会では夜通し話が尽きないらしい。. ういう研究ができそうか﹂ではなく﹁できそうもないこと﹂を. を超える知能とは何だろうか﹂という探究が始まっている。 ﹁ど. と い う 機 運 が も の す ご く あ っ て、 ﹁と に か く お も し ろ い こ と を 潮流﹄︵近代科学社、2015 年︶という本が出ているけれど、. 知能研究の新しい. 始 め ま し ょ う﹂と い う こ と だ っ た。 ﹁認 知 科 学 と は 何 ぞ や﹂な やはり私が言ったように本気で一人称を大事にしないと駄目に. │. どという定義から始める必要はない、おもしろければなんでも なるという警告なんだと思いますよ。世の中全体の学問観がす べてそのように変わるといい。根底から考え直さなければなら ないということがあちこちで始まっていくことに期待したいで. Part. 2. Suzuki Takashi. 組 織の内 外で 学びを育む し く みの 運 営. ナレッジ マネジメント. 鈴木 隆. 3. 年も経つと、結局﹁認知科学とはこういうことをやる. 1. すね。. システム 思考. Section. のね﹂みたいになってしまうんですね。. 論理的な 分 析 とは 異なる思 考 法. デザ イン 思考. Learn to Learn. やはり. 認 知 科 学 と 言 っ て し ま え ば い い と 言 っ て い た に も か か わ ら ず、. 佐伯先生の学びほぐしのきっかけとなった認知革命ですが、 ―― ﹁日 本 で は 認 知 革 命 が 起 こ っ て い な い の で は な い か﹂と い う ご. おもしろくなりますよ。. ワークショップというような状態でした。まさに学びほぐしを. 10. Section. 自由であったはずの認知科学でも、囚われるようになって ――. 学習 概念を 組み直 す. 4. Saeki Yutaka. 旧 来の学 校 教 育 にはな かった 新 しい学 びへの取 り 組 みが 行 われ 、 成 果 を あ げ るよ う になって きている 。 前 提 と なる 学 びの捉 え 方 と 具 体 的 な 実 践 について 見ていく 。. 特 集 学 び を 学 ぶ. Special Feature. 20. 組 織の枠 を 超 えた 学 びの場. 8 CEL July 2016 CEL July 2016. 9. 2. すずき・たかし/大阪ガ ス㈱ 入 社 後 、社 内 起 業 で住宅リフォーム仲介サ イト 「ホームプロ」を立ち 上げる。2012年より現職。 近 著に『 マーケティング 戦略は、 なぜ実行でつま ずくのか』がある。. Section. 佐伯 胖. さえき・ゆたか/田園 調 布学園大学大学院教 授。東京大学・青山学院 大学名誉教授。1964年、 慶應義塾大学工学部 卒業。1970年、 ワシントン 大 学 大 学 院 修 了( Ph. D.)。東京理科大学、東 京 大 学 大 学 院、青山学 院大学を経て現職。 「子 どもを人間としてみる」 と いう新しい発達論に取り 組む。近著に『幼児教育 へのいざない』がある。. Section. 学び そ の も のの 捉え方を 見直す. 0.
(7) 新 し い 学 び の 実. 践 0. Fukushima Masato. ロッシュの主張は、全ての概念は、い いう名前で言われる現象の多くは、そ. 仮定している点である。実際、学習と. 真 人. かにもそれっぽい中心的な具体例があ うした傾向を含んでいるのは事実であ. 福 島. り、それが我々の対象理解を大きく左 る。算数を学べば、その問題が解ける. 使う日常的な概念には、プロトタイプ. 認知心理学者のロッシュは、我々が. ことを探って試行錯誤を繰り返す。し. を想うのはかなり稀だというのである。. と 聞 い て﹁だ ち ょ う﹂や﹁ペ ン ギ ン﹂. 雲雀とか、鷹とか、雀とかであり、鳥. の は、い か に も 鳥 ら し い 鳥、つ ま り. を我々が聞いてすぐさま思い浮かべる. かにした。たとえば﹁鳥﹂という言葉. かし、そうしたイメージは、実験研究. を素人はもっているかもしれない。し. 心とした、やや直線的なプロセスだと. 徴は、学習とはある種の目標達成を中. という理解である。このイメージの特. に、カリキュラムをこなしていく過程. それは多くの場合、学校の授業のよう. ジ の よ う な も の が つ き ま と っ て い る。. たプロトタイプ、つまり典型的イメー. ︶。 Lloyd, 1978 ﹁学習﹂という言葉にも、当然こうし. 日常のなかの﹁実験﹂ . . れる批判だが、これに対して、徒弟的. かよく分らないというのは、よく聞か. ない。学校での学習の内容が何のため. 性というイメージは実はあまり変わら. デル﹂についても、そうした目標指向. 巷間に膾炙した、いわゆる﹁徒弟制モ. 一時期、学校教育批判の先鋒として. うになるといった具合である。. 右 す る と い う 点 で あ る︵. 効果と呼ばれる性質があることを明ら. か し ど う い う 踊 り を し て 見 せ た ら、. の実情とはかなり異なる。むしろ現場. ようになり、水泳を学べば、泳げるよ. な学習では労働と学習は一体化してい ﹁目 が あ る よ う な﹂踊 り に な る の か、. で多いのは、ちょっとした思いつきと. 拙著︵福島、 2010 ︶ではこうした側 面を﹁日常的実験﹂と呼んだが、その. Rosch &. る。親方の具体的な﹁わざ﹂を目標と 実はハッキリしない。そこに明確な目. か、人の発表を聞いて、面白そうだな. 目的は従来の学習観︵それは徒弟制モ. 呼ばれているようだが、英語に直すと. この部分は、日本舞踊では﹁型﹂と. 使う物理学のような実験よりも、バイ. りやっているわけではない ―― 。 もちろん、この描写は、巨大装置を. 版を作るためにやるもので、そればか. 最終的に論文投稿の準備として、決定. の は、こ れ ら の 努 力 が 積 み 重 な っ て、. 人がイメージする、厳格な実験という. 画が生まれることも多々ある。外部の. それらのなかから、筋がよさそうな計. この事前の準備で我々が分析できるの. 当然事前の分析が欠かせない。しかし. ることができるが、こうした計画には. 実 行 の よ う な、単 純 な 過 程 を 考 え て み. 側面をもっている。. と﹂といった理解を超えた、より深い. 性 格 と い う の は、﹁た だ や っ て み る こ. 出 す た め で あ る。だ が 学 習 の 実 験 的 な. 即興といった側面を理解の前面に押し. メ ー ジ を 修 正 し、現 場 で の 試 行 錯 誤、. かいしや. して徒弟は頑張るから、学習にも身が 標があるというよりは、それを求めて. と思ったようなことを、自分でもやっ. デルも含む︶がもつ、目標志向的なイ. き、私 は こ れ を perspective と訳して いる。つまりあるタイプの徒弟制のな. オ研究のように、まだまだ個人的な色. は、あくまで過去のデータであり、あ. こうかん. は い る と い う わ け で あ る︵福 島 編、 試行錯誤すること自体に焦点がおかれ. て み る と い う、こ う し た 試 み で あ る。. か に は、こ う し た 自 分 な り の﹁視 点﹂. 彩が強い分野に特に適しているのかも. 学習のプロトタイプ. ︶ 。こ こ に も や は り、目 標 に 向 か 1995 って一直線という雰囲気がある。この ている、という印象を受けるのである。. をもつことの重要性が、その学習プロ. しれないが、この話のポイントは、実. であり、目標となる先達をまねてこそ の学びであるというニュアンスがそこ に残るからである。. プロセスを示し、どんな訓練において. ︵生 田、 1987 ︶ 。こ こ で い う﹁形﹂は、 師匠の動きを盲目的にまねる初歩的な. 概念区分がその興味深い実例である. 習過程における形と型という、二つの. 生田が研究した、日本舞踊の教授/学. ことができる。たとえば教育哲学者の. 弟制自体の古典的研究からも見て取る. 者から、だいたい次のようなことを言. こでの初日に、現場で働く分子生物学. の 研 究 を し て い る︵福 島、近 刊︶。そ. 智教授の天然物化学研究とも近い内容. あり、先日ノーベル賞を受賞した大村. 創薬に役立てる研究をしているラボで. 生物を活用して、有用な二次代謝物を. である。調査の対象になったのは、微. いる、科学研究の現場での調査の最中. てみれば、我々の日常生活のなかにも、. ではなく、より広く、その含意を考え. に 介 入 す る 作 業﹂、と 狭 く と ら え る の. 件を厳密にコントロールしつつ、対象. 実験という概念を、単に﹁研究の諸条. 思いの他広いのである。実際、科学的. は、この実験という活動がもつ含意は、. なプロセスであるという点である。実. なくて、それ自体が自律した、創造的. 定する仮説を確認するだけの道具では. 実際に建物がたつ過程の紆余曲折に加. 案 が 呈 示 さ れ て か ら、モ デ ル を 作 り、. 設計などが別の典型であるが、最初の. あれ、その原理は同じである。建物の. 研究室での実験であれ、政策の実行で. 的 な 側 面 を 常 に 含 ん で い る。こ れ は、. 行 は、や っ て み な け れ ば 分 ら な い 実 験. が出てくる。言い換えれば、全ての実. その計画には必ず現実にあわない部分. や、新たな現象が加わっているために、. 方現実には常に観察できなかった部分. . も、こうした模倣は必須とされる。. われたのが、印象に残っている。彼曰. こうした広い意味での実験的行為がい. え、建 物 は そ れ が モ ノ と し て 形 を 帯 び. プロトタイプを超えて. しかし生田によると、もう一段上の. ろいろなところに潜んでいるというの. . セスに構造的に組み込まれているので. る時点での我々の観察結果である。他. ても、同じようなニュアンスはついて. しかし実際の︵特に現場での︶学習. ある。このことの重要性に私が再度注. 験的活動というのが、決して理論が設. 回 る。と い う の も、学 び は﹁ま ね び﹂. プロセスというのは、こうした﹁プロ. 年ほどまえから行って. 実験科学の現場. トタイプ﹂には還元されない、複雑な 目したのは、. ステップがある。師匠はたとえば﹁指. く ―― 普通実験というと、まず仮説を 立ててから、それが成り立つか否かを. て か ら、真 の タ テ モ ノ と し て の 生 涯 が. 先に目があるように踊れ﹂といった奇. は、すぐに分るはずである。 厳密な手続で行う、といったイメージ. た と え ば 我 々 は あ る 種 の 計 画 立 案 と. 様相を呈している。その複雑さは、徒. ひばり. 学習という言葉を﹁学び﹂と置き換え. 日 常 生 活 では 、リスクや 失 敗 を 排 除 し 、目 標 に 向 け て 直 線 的 に 進 めていく こと が 良 し と さ れ る 。ところが 、科 学 研 究の現 場 では 、実 験 は 、厳 密 な 手 続の下で 仮 説 を 確 認 す る という よ り は 、試 行 錯 誤 か ら 新 た な 学 習 機 会 を 得 ていく 創 造 的 なプロセスで あ る 。実 験の 概 念 をヒントに、学 習 を 捉 え 直 す 。. 実 験 的 試 行 と し て の 学 び. 組 み 直 す. 学 習 概 念 を. Section. 妙な指示を出し、弟子はその意味する. 10 CEL July 2016 CEL July 2016. 11. 10.
(8) 薬 の 取 り 違 え と い う ケ ー ス の 裏 に は、. 点である。たとえば比較的報告の多い、. ったような原因が関わっているという. たミスにはしばしば事前に予想しなか. 告を聞いていて興味深いのは、こうし. なる。医療現場でのヒヤリ・ハット報. 分析することこそが真の学習の資源と. 因があって生み出されるため、それを. のはいうまでもない。失敗は様々な原. 告するだけでは、何の役にもたたない. もちろん、失敗をただ嬉々として報. . ある。. き鬼っ子としか見なされていないので. そこでは、失敗は全くもって避けるべ. い競争にさらされている研究の現場で. 者のフジムラが指摘するように、激し. 節約への圧力は存在する。科学社会学. 学研究の現場ですら、こうした時間の. 性にくらべれば、こうしたジクザグと. 線的に話を進めることの表面上の合理. 手間隙がかかる。実際目標を決めて直. まず最初に、こうした実験的試行は. ついて回るからである。. た試行錯誤には常に様々な制約条件が. また事実である。というのも、こうし. 多くの困難や制約が存在しているのも. はずである。しかし他方この実験には. これなくして学習は本来成り立たない. して存在しているともいえる。いわば. はありとあらゆる我々の行動の原則と. を日常的実験の中心と考えれば、それ. 日常的実験への諸制約. . あるということもできるのである。. ば、それは殆ど終わりなきプロセスで. く過程であり、それを学習過程と呼べ. なりの住み方、つかい方を発見してい. 使用者がその建物について学び、自分. 比較してみると、どちらも失敗のコス. 多い。たとえば外科と航空機の操縦を. 分野でも有効か否か、分らないことも. している。またある分野の試みが他の. は、関係する諸分野の特性に深く依存. た領域をどう設計し、運営していくか. とを拙著︵福島、 2010 ︶では﹁学習の 実験的領域﹂と呼んだのだが、そうし. ない。この綱渡りを確保する努力のこ. 渡りの作業はより困難な場合も少なく. 方そのダメージを回避するという、綱. 生み出す試行錯誤を許容しつつも、他. 社会一般では、一方でこうした失敗を. 小限にくい止められているが、現実の. でニアミスであり、そのダメージは最. とはいえ、ヒヤリ・ハットはあくま. い知ることができないものなのである。. の場合、こうした失敗事例からしか窺. が学習すべき内容であり、それは多く. いう。こうした予期せぬ事態こそ、我々. よ っ て 新 た な 学 習 を し よ う と す れ ば、. のコストそのものである。試行錯誤に. さらなる落とし穴がある。それは失敗. し か し こ う し た 日 常 的 な 実 験 に は、. っ て い る の で あ る︵ Mustar & Penan,. 研究計画の評価に使うべきだとまで言. クザグを事前に想定しているか否かを. 理的﹂である、と主張し、こうしたジ. 直線的な研究計画そのものを逆に﹁病. こ う し た 紆 余 曲 折 を 想 定 し て い な い、. 際、ラ ト ゥ ー ル と い う 科 学 論 学 者 は、. 我々の人生そのものと同じである。実. る軌道修正を余儀なくされる。それは、. とが多々おこり、それによって絶えざ. 観測であり、実際の現場では思わぬこ. そうだというのは、あくまで表面的な. というのだ︵ Fujimura, 1996 ︶。 とはいえ、ある程度の見通しが立ち. 研究、にテーマが集中する傾向がある. る﹂ ︵ doable ︶研 究、つ ま り あ る 程 度 やれば、それなりに成果が期待できる. それを避けるために、いわゆる﹁やれ. えば﹁フェルマーの定理﹂のような︶。. ような研究にはまることである︵たと. 期間取り組んでも、結局成果がでない. ない。研究者にとっての恐怖とは、長. ないと、業界で生きのびることができ. イメージを切り崩し、新たな形へと組. 通じて、我々がもっている学習の古い. 学習するとは、まさにこうした手続を. がりが見えてくるはずである。学習を. 込められた学習とは異なる、新たな広. 換えると、学校教育のイメージに封じ. 排して、より試行錯誤的なそれに置き. る目標達成というイメージをいったん. 終わりに. . の課題として残しておきたい。. どのような影響をもたらすかは、今後. り一般的な学習の実験的領域において. ターケルの観察である。ではそれがよ. い て か な り 問 題 を お こ す と い う の が、. はデザイン過程のいくつかの部分につ. 技術であるが、それがもっている特性. もちろん、シミュレーションは便利な. 界があるという認識が強まってきた兆. は、そうした寛大さにも、ある種の限. 業界での近年の科学/技術倫理の強調. らである。そうはいっても、こうした. なければ発見そのものがありえないか. 容な空間であるといっていい。それが. は、そうした失敗に対してきわめて寛. る。ある意味、大学の研究室というの. こそ実際にやってみる必要性がでてく. 多々隠されているからである。だから. な想定のなかに、見過ごされた要因が. うまくいかない。それは事前の理論的. 定してみても、いざやってみると結構. 的にうまくいくはず、とそれなりに想. ありとあらゆる学習の源である。理論. 研究室での実験にとっては、失敗は. は飛躍的に増大しているのである。. 風向きが厳しい昨今では、そのリスク. ない。特に医療事故に対して、世間の. 法だと、その失敗のコストは計り知れ. これが外科手術といった侵 襲 的な手. といった︶は当然必要になる。しかし. まり少量試してみて、それを修正する. を量るためには、ある種の微調整︵つ. への投薬一つとっても、適切な投薬量. 側面は常に存在する。たとえば、患者. した現場でも、ある種の試行錯誤的な. 療現場が考えられる。もちろん、こう. 敗を許容しにくいケースとしては、医. 拠している。仕事の性格そのものが失. 許容するかは、現場の様々な方針に依. うした失敗に対して、それをどれだけ. る思考法は、我々に深く根付いており、. 張感の欠如による否定的な結果、とす. な学習資源として見るのではなく、緊. 題があると私には思える。失敗を貴重. ちらかというと、経営学者の意見に問. 批判的だったという。しかしこれはど. あまりの緊張感の無さに対してかなり. それを聞いていた経営学者達は、その. の ヒ ヤ リ・ハ ッ ト 体 験 を 報 告 し た が、. に従って、看護師達が嬉々として自ら. 経営学者から聞いた話では、この考え. る。ある医療安全の研究会に参加した. 今後の改善に役立つと考えるからであ. させるよりも、それを分析したほうが、. されるのがよいとされる。叱って萎縮. 責するよりも、できるだけ自由に報告. るヒヤリ・ハット︶は、そのミスを叱. でのちょっとした失敗やミス︵いわゆ. 安全についての最近の議論では、現場. 件と関わる場合もある。たとえば医療. 職場の組織文化といったローカルな条. 場 合︵た と え ば 医 療 安 全︶も あ れ ば、. る。それは特定の分野全体に関係する. いは、様々な問題と複雑に関係してい. ばどういう条件においてか、という問. 寛容が成り立つのか、成り立つとすれ. な日常的文脈に話を移すと、こうした. 一歩外にでて、ちょっとしたより広範. 大学の研究室といった象牙の塔から. ってきているのである。. 囲気は、研究の現場ですら望めなくな. に、何をやっても許されるといった雰. 候でもある。研究というお題目のため. 似たような名前の薬︵たとえばサイレ. トは甚大で、実験を可能にする条件は. 失敗の問題は必ずついて回る。だがそ. ースとセレネース︶が隣接して並んで. み換えていく作業である。それは常に. は、一定時間内にそれなりの成果がで. いて、それでつい取り違えてしまうと. かなり人工的に作り出さなければなら. 変化する領域であり、流動する社会的. はじまるといっていい。それは住人や. いう構造的なパターンがあることが分. ない。旅客機操縦の訓練では有効に使. な 環 境 の な か で、そ れ を い か に 育 て、. ま ひま. (2009)Simulation and its discontents, Cambridge, Mass.: The MIT Press.. て. (1978)Cognition and Categorization, Hillsdale, N. J. : Lawrence Erlbaum Associates.. Turkle, S. ed.. した試行錯誤の過程はいかにも時間を. (2003)Encyclopédie de l'innovation, Paris: Economica.. Rosch, E. & Lloyd, B.. 食う。目標達成型の教育システムがど. (1987) 『「わざ」 から知る』東京大学出版会. Mustar, P. & Penan, H.. うしても﹁合理的﹂に見えざるを得な. (1995) 『身体の構築学――社会的学習過程としての身体技法』 ひつじ書房. 生田久美子. 失敗のコスト. 学習という言葉が何となくもってい. Fukushima Masato. 福島真人編. いのは、まさにこの時間、経済面に関. こうした仮想現実的なテクノロジー. (近刊) 『真理の工場』東京大学出版会. 係するのである。興味深いことに、科. しかし、本人も術前で舞い上がってし. による実験的領域の確保というテーマ. 失敗を促す/ 失敗を分析する. まっており、その名前の間違いに気が. についても、それがいいことばかりで. (2013) 「臨床実践現場における科学とは」 『理学療法学』40(1) :50‐55. 実 際 に や っ て み る こ と に よ る 発 見、. 析されていた。また、たまに報告があ. われているシミュレーションのような. 維持していくかは、社会のあらゆる場. つかないというのである。こんな事態. はなさそうだ、という点は、科学史学. (2010) 『学習の生態学――リスク・実験・高信頼性』東京大学出版会. しんしゆう. る患者取り違えのニアミスというのは、. 技術が、外科手術でも同様に有効かど. 面で必要とされる態度なのである。. は事前には全く想像できない類のケー. 者のターケルが、建築デザイン現場で. (2001) 『暗黙知の解剖――認知と社会のインターフェイス』金子書房. ︶ 。 2003. 実際のところ、患者本人に直接その名. うかは、詳細な研究を必要とする。. スであるが、急遽改善策として、必ず. の コ ン ピ ュ ー タ 使 用 に 関 す る 研 究 で、. ふく し ま・ま さ と / 東 京 大 学 大 学 院 総 合 文 化 研 究 科 教 授 。1958 年 生 ま れ 。博 士︵ 学 術 ︶。専 門 は 科 学 技 術 社 会 論 、組 織 の民 族 誌 的 研 究 、危 機 管 理 論 な ど 。東 京 大 学 東 洋 文 化 研 究 所 助 手 、国 際 大 学 助 教 授 な ど を 経て 現 職 。主 な 著 書 に﹃ 暗 黙 知 の解 剖 ﹄﹃ 学 習の生 態 学 ﹄などがある。. 福島真人. . 前を︵ただし間違って︶確認している。. 本人に﹁お名前をおっしゃってくださ. 指摘している点である︵. ︶。 Turkle, 2009. い﹂と直接言わせるやり方に直したと. (1996)Crafting science : a sociohistory of the quest for the genetics of cancer,. 12 CEL July 2016 CEL July 2016. 13. Cambridge, Mass.: Harvard University Press. Fujimura, J.. 参考文献.
(9) 新 し い 学 び の 実. 践 1. 創 造 す ることへの 自 信 を 目 覚 めさ せ 、 イノベーションを 引 き 起こす. ﹁0から新しい1を生み出す﹂をモットーに、世界中で数々のイノベーションを生み出し、 ﹁世界で最もイノベーティブな会社﹂にも選ば れた米国発のデザイン会社IDEO︵アイディオ︶ 。ビジネスから行政、教育まで、幅広い分野で活用されるアプローチが﹁デザイン思考﹂だ。. Design Thinking. デ ザ イン思 考. Section. Ishikawa Shunsuke. 道具は目に見えるとこ ろ、手の届くところにあ る。考えながら、すぐに 手を動かすことを促し ている。. 創的だ。. チひとつをとっても、そのやり方は独. 規事業には欠かせない顧客市場リサー. を縮めようとしているのだろうか。新. イン思考は、いかにして顧客との距離. ﹁人間中心のデザイン﹂を掲げるデザ. 人間中心の 顧客市場リサーチ. ことでもあります﹂. 由ではなく、やる理由を考えるという. 番大切だと思っています。やらない理. ますが、そういう﹃つくる意志﹄が一. プロセスやアプローチがいろいろあり. 体性です。デザイン思考には特徴的な. をつくりたいのか、という主観性や主. をつくってあげたいのか、どんな世界. でも私たちはまず人に戻っていく。何. デ ザ イ ン と イ ノ ベ ー シ ョ ン。一 見、. 覚でしょうか﹂. う人との距離を縮めていく、という感. りながら考える。デザインによって使. ミュニケーションをとりながら、つく. ﹁まだ世の中にないものを、他者とコ. ﹁つくる意志﹂ としてのデザイン. ている。. 組織改革にまで用いられるようになっ. る商品サービスに応用され、最近では. の手法は工業製品のみならず、あらゆ. いショッピングの経験をもたらす。そ. 取材・執筆/脇坂 敦史 撮影/名取 和久. 人間本来の創造性︵クリエイティビティ︶を開花させるその思考法は、硬直化した組織を変え、人々のニーズとテクノロジーを結びつけ、 ビジネスを成功に導く 。 IDEO発祥のデザイン思考について、東京オフィスの野々村健一氏と石川俊祐氏にお話を伺った。. たった5日間で、これまでにない新 たな発想でショッピングカートをデザ イ ン し 直 す。 IDEOは、1 9 9 9 年 7月に米国で放映されたABCのニュ ース番組﹃ナイトライン﹄で、この不 可 能 と も 思 え る 課 題 に み ご と 成 功 し、 一躍その名を全米で知られるようにな った。. 見た目だけでなく、買い 物という行為自体から デザインし直したことが 評価された。 「ビジネスとして成り立 つか」 「技術的に実現 できるか」の前に、 「何 が望まれているか」 をま ず考える。. デザイン思考とは、その後も数々の 有名企業と手を組み、つぎつぎとイノ ベーションを起こしてきたこの会社の サクセスストーリーとともに広まった 言葉だ。ただ見栄えのよいショッピン グカートに仕上げるだけではない。デ ザインの力で、これまでなかった新し. 縁遠いもののようにも思えるふたつの 関係を、工業デザイナーでもある石川 俊祐氏はそのような言葉で表現する。 ﹁IDEOにはデザインの経験をもた ない人もたくさんいます。ビジネスの 専門家もいればジャーナリストや人類 学者もいる。でも、ある種のデザイナ ーとして、新しいものをつくるという 部分でつながっている﹂ そんなIDEOが行うコンサルティ ングにおいて、デザイン思考はどのよ う な 意 味 を も つ の か。 IDEO東 京 オ フィスの立ち上げにも携わった野々村 健一氏は、次のように説明する。 ﹁日本では特にそうですが、企業から の依頼の多くが、新規事業を何年で立 ち 上 げ た い な ど の ビ ジ ネ ス ニ ー ズ や、 商品への落とし込み方がわからないな ど の 新 し い 技 術 と 結 び つ い て い ま す。. Nonomura Kenichi. 14 CEL July 2016 CEL July 2016. 15. [ IDEOを一躍有名にしたショッピングカート ] [ デザイン思考のアプローチ ].
(10) 自動車保険に関するものでした。保険 ん。こういう仕事をしていて危惧する. ﹁でも、万能というわけではありませ. 村氏は次のように釘をさす。. げられている。もちろん、そこには豊. はIDEOのモッ Others Successful.” トーのひとつであり、オフィスにも掲. ー シ ョ ン し、共 創 す る こ と だ。 “Make. ようなものではない。企業とコラボレ. だったんですね、と驚かれます。クラ. い物事を一緒につくるって楽しいこと. が で き る。ア イ デ ア を 考 え る と か 新 し. でも、それがわかっていれば、まだ可. ェーズが4週目あたりに必ずあります。. 場 合、答 え の な い 混 沌 と し た 苦 し い フ. 選 び と い う の は 受 け 身 で 行 わ れ ま す。 のは、皆さん処方箋や方程式を求めた 富な経験に基づいたプロセスやノウハ. 企業の現状を診断し解決策を処方する. 保険に入ったからといっても、より安 がるんですよね。ツールはいろんなも. 識とは異なるものも多い。しかし、野々. 全になるわけではありません。それを のがあります。それを広くオープンに イ ア ン ト か ら い た だ く フ ィ ー ドバ ッ ク. ﹁最近やったプロジェクトのひとつは、. どうやったら、この保険でなきゃとい ウが総動員されるが、あらかじめ設計. がよくあるんです﹂と野々村氏は苦笑. ろはどこですか、と聞かれて困ること. ﹁プロジェクトの最初に、落としどこ. 図などがあるわけではない。. れは経験を積むことでしか学べない何. ツのようなものはあるのだろうか。そ. い え、押 さ え て お く べ き ポ イ ン ト や コ. イ ノ ベ ー シ ョ ン に 方 程 式 は な い と は. としては、これが一番多いですね﹂. 能性がいっぱいある状況を楽しむこと. う前向きなものに変えられるか。保険 試していくという姿勢が大切です﹂. ﹁創造することへの 自信﹂を取り戻せ. が日々守ってくれるようにできないか。 まずは、スタッフが実際にお客さんと 一緒に車に乗るところから始まるドキ ュメンタリーのようなものをつくった のです。事故が起きたときの様子を再 す る。﹁新 規 事 業 の 立 ち 上 げ の よ う な か、ということなのだろうか。そのよ. IDEOが行うコンサルティングは、. か と 問 わ れ て も、誰 一 人 わ か ら な い。 う な 疑 問 に 対 し、﹁人 は も と も と み ん. 現してみたりもしました。どうします 保険の証書がどこにあるのかもみんな なクリエイティブな存在なんです﹂と. 度が % も速くなることが実証されて. つためにはどうしたらよいのかという. 来もっていた姿勢を取り戻す、解き放. 葉をよく使っています。人や組織が本. ス︵創造することへの自信︶という言. りも、クリエイティブ・コンフィデン. る。﹁だ か ら 最 近 は、デ ザ イ ン 思 考 よ. 高尚なことではありません﹂と強調す. ザイン思考のプロセスといっても特に. す﹂と語るのは石川氏。野々村氏も、﹁デ. るほ ど 上 手 に な る と い う 側 面 が あ り ま. ツや音楽などにも似ていて、やればや. ー シ ョ ン や コ ラボ レ ー シ ョ ン は ス ポ ー. ないだけだと思います。それにイノベ. す る。そ の 後 の 教 育 で 後 押 し さ れ て い. たまりで何事にも臆することなく行動. ﹁幼児を見ていると、まさに勇気のか. ふたりは口をそろえる。. 忘れている﹂ そうした顧客の生の言葉を聴き映像 を目の当たりにし、保険会社の人たち も改めて衝撃を受けたようだ、と石川 人では少なすぎるという批判も. 氏は語る。最初は調査対象のサンプル 数が あったというが、それをきっかけにプ ロジェクトが動きはじめ、社内で使わ れる用語を見直すなど意識も変わりは じめた。コールセンターなど他の部署 からも議論に加わり、会社としての﹁つ くる意志﹂を引き出すことに成功した という。クリエイティブな直感を重ん じるIDEOならではの展開だ。ほか にも、平均的な顧客ではなく極端な特 徴 を も つ﹁エ ク ス ト リ ー ム ユ ー ザ ー﹂ を観察して気づきを得るなど、デザイ ン思考で採用される手法には従来の常. 問題提起です﹂. コラボレーションが イノベーションを 生む 日本の企業では﹁イノベーションは 苦手﹂というセルフイメージが強いか も し れ な い。野 々 村 氏 も、 ﹁ポ テ ン シ ャルがものすごくあるのに、もったい な い な あ と 感 じ る こ と が す ご く 多 い﹂ と た め 息 を つ く。 ﹁新 規 事 業 に 十 分 な 時間とお金をかけようという意識が低 く、キャリアパスとしても若手社員が 避けたいと思うようになってしまった りしているのが残念です。黒字化の期 限が2年などという話も少なくありま せん。米国のベンチャーなら、5年目 で売上ゼロでも、数兆円の企業価値を もつような会社もあるのに﹂ 既存の事業と同じ物差しを使い続け、 同じメガネで見続けていたら、イノベ. い ま す。最 近、﹃和 し て 同 ぜ ず﹄っ て とてもいい言葉だなと思っているんで す。今 は 同 調 傾 向 が 強 く な り 過 ぎ て し まっているような気がしますが、そう いう考え方は昔から日本にあったんで すよね﹂ 石川氏が言うように、よいデザイン は、ひ と り の 天 才 や ひ と つ の ひ ら め き よ り も、質 の よ い 共 同 作 業 が 生 む も の だ と い う 信 念 が、 IDEOの な か で は 共有されている。 ﹁最 近 ビ ジ ネ ス 雑 誌 な ど で よ く 見 か け る、ど う ア プ ロ ー チ す れ ば イ ノ ベ ー シ ョンを生み出せるか、どの考え方が有 効 か、み た い な 議 論 に は あ ま り 意 味 は な い と 思 い ま す。む し ろ 危 険 な の は、 道具の部分を取り入れるだけになって しまうこと。本気で取り組まなければ、 ただ表面的な形だけを模倣することに なってしまうでしょう﹂. ると、当然ですが専門性、一貫性を守. とハンドオフ︵手渡し︶していくとな. 多い。企画部門、製造部門、営業部門. たとえば日本にはリレー形式の組織が. が 長 く 続 い て い た ん だ な と い う こ と。. ﹁やはり感じてしまうのは、いい時代. う。. てまったく新しいコンセプトに切り替. タイミングでピボット︵方向転換︶し. セプトで開発していたのを、どこかの. ほ とんどの企業がもともとは違うコン. ンスタグラムでもフェイスブックでも、. 一方、ベンチャーなどの組織では、イ. 間層が、やらない理由ばかりを考える。. まれた〝テフロンコーティング〟の中. はそれが障害になる。特に上下から挟. ﹁分散型のオフィススペースをコラボ. う。. 滑な共同作業を可能にする能力だとい. く、他者への興味や共感といった、円. れているのは、多様性それ自体ではな. とはいえIDEOの採用方針で重視さ. そういう意味ではうってつけと言える。. も バ ラ エ テ ィ 豊 か な メ ン バ ー 構 成 は、. IDEOのような出身国も職業経験. 重要です﹂. 変えていく柔軟な考え方こそが求めら. も ち な が ら、状 況 に 応 じ て し な や か に. に 過 ぎ な い。創 造 す る こ と へ の 自 信 を. ションを生み出すための手段のひとつ. な く な い。そ れ は あ く ま で も イ ノ ベ ー. だけが注目されてしまうような例が少. たブレーンストーミングといった手法. ン思考というとポスト・イットを使っ. 野々村氏が危惧するように、デザイ. る必要がある。旧来のサイクルを回し. えています。これができるかどうかに. レーション型にすると、意思決定の速. れている。. ているだけならそれでもよかったので. は、やはり多様な角度から見ることが. ーションは生まれないということだろ. 70. すが、新しいアイデアを求めるときに. 国籍や専門の異なる メンバーの多様性と開放的なオフィスが、 クリエイティブで 自由な発想を生む。. 16 CEL July 2016 CEL July 2016. 17. 「Creative Confidence ( 創 造 することへの自 信)」を掲げる、IDEO の東京オフィス。 大きなカウンターテーブ ルのまわりに集まったデ ザイナーたち (右)。. 16.
(11) 新 し い 学 び の 実. 践. つな が りで 全体を捉え 問題解決を 図る. あった一般システム論をビジネスの複. セッツ工科大学などが自然科学分野に. 1950年頃から米国のマサチュー. のない小難しそうな手法だとして敬遠. 紹介されたら、多くの人が自分とは縁. 解決に用いられている。そんなふうに. ポン、インテルなど多くの企業で問題. ことができるのだろうか。. で適用可能だという。なぜそのような. さな悩みから地球規模の環境問題にま. ビジネスのみならず、個人の抱える小. ットワークであるバラトン・グループ. 考や持続可能性の研究者、実践家のネ. のは2002年。世界中のシステム思. 枝廣淳子氏がシステム思考と出会った. がハンガリーで開いた合宿に招待され. サステイナビリテイ. 雑な課題に応用し、効果的に解決策を す る か も し れ な い。し か し、そ れ は、 ﹁環境問題では、この問題を解決しよ. たときのことだ。. システム思考は ﹁つながり思考﹂. らだ。. が複雑に絡み合い、つながっているか. 代の私たちが直面する課題のほとんど. ﹁共 通 言 語﹂に な る か も し れ な い。現. システム思考は英語のように世界の. の デ ニ ス・メ ド ウ ズ が 言 っ た よ う に、. し た、 ﹃成 長 の 限 界﹄で 有 名 な 研 究 者. 枝廣氏にシステム思考の手ほどきを. とも容易にできます﹂. なく、それを他者に伝えて共有するこ. 題について考えることができるだけで. 考があれば、複雑なつながりをもつ問. ム思考と出会ったのです。システム思. そんな疑問を抱えていたときにシステ. は図れない。では、どうしたらよいのか。. 個別最適化を図っても、全体の最適化. い。目 の 前 の 問 題 に つ い て よ く 考 え、. ことでフィードバックのあり方を体感. をつくり、腕を上げたり下げたりする. 研修では、参加者が手をつないで輪. のフィードバックがあると考えます﹂. テム思考では、どちらかではなく、両方. えますか、それとも減りますか。シス. ﹁たとえば、価格を上げると売上は増. っていることを意味するという。. なフィードバックや波及効果が絡み合. だ。システムの複雑さとは、さまざま. ティング︶を行っている小田理一郎氏. シリテーション︵プロセスのコンサル. GOなどでシステム思考の研修やファ. そう説明してくれたのは、企業やN. いをすることになるんです﹂. から、システムはとても複雑な振る舞. されたりすることもありますよね。だ. ごろと動き出すこともあれば、押し返. す﹂と小田氏は指摘する。. とに、実は自分も関わっていたりしま. までも外に原因があると思っていたこ. ひとつとなっていることは多い。あく. ﹁自身の行動がめぐりめぐって原因の. たしている役割だ。. がりのなかで﹁私﹂や﹁私たち﹂が果. その際に忘れてはならないのが、つな. 問題の本質を探っていくシステム思考。. がら、この考え方を日本で広めてきた. 環境ジャーナリストとして活動しな. ム思考です﹂. け全体を広く捉えるというのがシステ. な物事のつながりをたどり、できるだ. かりやすいかもしれません。さまざま. ﹁﹃つ な が り 思 考﹄と 呼 ん だ 方 が、わ. いう言い方をします。問題とつながっ. ったら解決策の一部にもなれない﹄と. ﹁よく﹃自分たちが問題の一部でなか. ント︵てこの作用点︶﹂と呼ぶ。. システム思考では﹁レバレッジ・ポイ. 方 を 動 か す こ と の で き る ポ イ ン ト を、. か。小さな力で大きくシステムのあり. どこにどう働きかけるのが一番よいの. 望 ま し い 変 化 を も た ら す た め に は、. る。環境問題だけでの解決はありえな. 環境と社会と経済は全部つながってい. が出てきた、というようなケースです。. 林したら、こんどは生物多様性の問題. O 2吸収率の高い樹種だけを選んで植. ん。た と え ば、温 暖 化 対 策 の た めC. が起きるということが珍しくありませ. うと思って何かをしたらまた別の問題. . してもらうこともあるという。そうや. な関係をもっているのかをループ︵輪︶. つかの要素を線でつないで、どのよう. ルのひとつに﹁ループ図﹂がある。いく. システム思考でよく利用されるツー. だ﹄ということに気づくことができる. なかったからうまくいかなかったん. が り が あ っ て、﹃あ あ、そ れ が 見 え て. ﹁大抵の問題には見落としているつな. ろうか。. つながりを構成する要素を書き出し矢印で結ぶ。因果関係を 「同」 「逆」 で示し、 原因が増加すると結果も増加するつながりには 「同」、 原因が増加すると結果が減少するつながりには 「逆」 を記す。. ってつながりを見つめ、図に描いてい. で図示するものだが、すべての関係が. んです﹂. くことで、人や組織の何が変わるのだ. 2種類のフィードバック・ループの組. 自分も問題の 一部であることに. み合わせとして捉えられる︵ Chart︶ 。 1 複雑な事象になればなるほどループの 数は増えることになる。. 気づく. 同. 同 同. 嫌気がさす人 バランス 行列の長さ 自己強化 評判. 待つのはイヤループ 評判が評判を呼ぶループ. なる場合は自己強化型、 行列 がそう長くならない場合は待 つのを嫌がる人が出たバラン ス型と見る。同じ対象でも、時 間の経過に応じて、 自己強化 型、バランス型のいずれにも なりうる。 システム思考では、つながり の構造を、変化を強める「自 己強化型」 と変化を打ち消す または安定させる「バランス 型」の2つのループで捉える。 たとえば、 あるレストランが評 判になったとする。評判が評 判を呼び、 行列がさらに長く. 「自己強化型」と 「バランス型」のループ. 逆. つながりを 描き出すループ図. 枝廣淳子氏 ︵上︶ と小田理一郎氏 ︵下︶. 導き出す思考法として生み出し、デュ. 取材・執筆/脇坂 敦史 撮影/名取 和久. て全体を捉え問題解決を図る﹁システム思考﹂を日本に普及させてきた、枝廣淳子氏と小田理一郎氏にお話を伺った。. 何か問題が起こったとき、私たちは問題の特定の要素に着目して解決しようとしがちである。しかし、その解決策がさらに悪い結 果につながったり、何度も同じ問題が発生したりする場合には、どうすればよいのだろうか。さまざまな要素のつながりに着目し. Systems Thinking. システ ム 思 考. 2. ループ図などのツールを使いながら、. ﹁2つ以上の要素が相互に作用し合う 集まりがシステムです。要素が関係し 合うとき、軽く押しただけで急にごろ. Chart 1. 18 CEL July 2016 CEL July 2016. 19. Section.
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