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機関委任事務をめぐる論点--裁判抜き代執行--自治体現場からの検証と評価 利用統計を見る

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(1)

機関委任事務をめぐる論点--裁判抜き代執行--自治

体現場からの検証と評価

著者

坂田 期雄

著者別名

T. Sakata

雑誌名

東洋法学

32

2

ページ

17-36

発行年

1989-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003549/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

機関委任事務をめぐる論点

  ー1裁判抜き代執行ー自治体現場からの検証と評価1

坂 田 期 雄

六五四三.二一

目 次 機関委任事務とは 制度的からみた機関委任事務の問題点 自治体現場からみた機関委任事務の現実的評価 臨調答申と機関委任事務の整理、その間題 ﹁裁判抜き代執行﹂の報告と改正法案 ﹁裁判抜き代執行﹂をめぐる論議とその見方、とらえ方  機関委任事務をめぐる論議がここ数年来極めてにぎやかであった。臨調答申︵五八年︶、行革審答申︵六〇年七月︶ さらに地方制度調査会での審議︵六一年一月︶にひきつがれ、論議を呼んだが、これは単に法律論だけの論議では一 面的であり、現在の地方行政の現場での対応関係、自治体職員の意識などの面からもその実際の状況をみてみる必要     東洋法学       一七

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機関委任事務をめぐる論点 一八 がある。

1

機関委任事務とは まず、はじめに機関委任事務とは何かを簡単にみてみよう。 地方自治体の行う事務は、ω固有事務︵自治事務︶③委任事務③行政事務の三つに分けられているが、このうち③ の委任事務は、団体委任事務と機関委任事務の二つに分けられる。 機関委任事務の特徴を要約すると、次のようなものである。       ヤ  ヤ  ヤ  ヤ  ヤ  ヤ ①法律又は政令により国から自治体の機関︵知事、市町村長その他の機関︶に委任された国の事務︵自治法別表  第三、第四に掲げられている。︶ ② 委任された後も、国の事務としての性格を変えない。 ③ 機関委任事務を処理する場合には、国の機関すなわち、当該事務を委任した主務大臣の下位機関として位置づ  けられ、一般的指揮監督を受ける︵舶齢灘孟○︶。 ④ 地方議会は、機関委任事務に関しては、事務処理に関する議決権を持たない。 ⑤事務処理について違法、怠慢があるとき︵拒否した時等︶は、職務執行命令︵マンディマスプロシーディン  グ︶により履行の強制を受ける。   具体的には、訴訟を経て代執行に踏み切れるが、これまで実際に訴訟にまで進んだ例は、昭和三十年代に東京

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・砂川町長が基地問題に絡んで土地収用手続きを拒否した﹁砂川事件﹂の一件だけ。外国人登録も機関委任事務 の一つだが、指紋押捺︵おうなつ︶事務などを地方が拒否した場合、同制度の適用は現行法ではきわめて難しい とされる。 ︵注︶ 主務大臣の代執行   外国人登録や戸籍など国の機関委任事務は、全国的統一性、公平性の確保の点からもともと国の事務だが、地域の実情に 合った処理が必要なことから、その管理執行は地方自治体にゆだねられている。それで主務大臣は指揮・監督権を持ってい  る。しかし、この権限と地方自治の調和点として、現行の地方自治法は、二つの裁判で認められることを条件に国が代執行 出来るとしている。ただ、土地収用法や都市計画法などにはこの手続きを簡素化する特例がすでに入って恥る。

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制度的にみた機関委任事務の問題点  機関委任事務について、通常指摘される問題点、弊害には次のようなものがある。 ω 国の絶対的な統制下に置かれる。   国と地方団体︵その機関︶との関係は上級−下級官庁の関係になる。  ・一般的な指揮監督権︵舶繍灘壼○.︶  ・取消、停止権︵噌鵡職︶  ・裁判所の職務執行命令訴訟︵哨酷織︶   なお、最近の立法、特に開発関係立法の中には、自治法一四六条の職務執行命令訴訟の手続を排除し、

    東洋法学       一九

中央行政

(5)

    機関委任事務をめぐる論点      二〇  庁に直接的な代執行権を授与するものが現れてきている。  ︵例︶ 土地収用法二四④ 四二④     都市計画法二四④     国土利用計画法二二②など 図 補助金交付とあわせて強力な統制になる。   機関委任事務の経費の財源については、国は、必要な措置を講じなければならない︵訟鎚、一︶。   通常その財源としては、国の補助金が措置されているものが多く、機関委任による国の統制は補助金の交付を通  じて、さらに強固なものになってきている。 ③ 貴任の所在が不明確   機関委任事務は、国の指揮監督の下に、自治体の機関である長が執行するものであるが、実際にはその事務を担  当している各部局が中央省庁と密接に結びつき、自治体の長の統轄下にない。   制度上は自治体の長の責任だが、実際には、責任を負えないような状況にある。 ㈲ 住民、議会の手が届かない。   機関委任事務の中には、特に最近のものの中は、住民の生活や利害に直接影響を及ぽすものがかなり多いが、  の議会は、機関委任事務については、議決権を持たない。  ⑳ また、検査権、監査請求権、調査権も持たない。

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 ⑫ 機関委員事務の経費が、自治体の負担に属するときは議会はその経費の支出について議決権を有する︵また、   長その他の機関の報告を請求し、出納の検査を行うこともできる︶が、もし議会が削除あるいは減額するときは、   長はそれを再議に付すること︵長の拒否権の発動︶が義務づけられ︵姫雛墜陸︶、議会が再度同じ議決をしたときは   原案執行できる。したがって、形式的な議決権だということになる。 ㈲ 中央省庁が一方的に定められるー自治事務と考えられるものまで機関委任事務に   機関委任事務は、﹁法律又はこれに基づく政令によらなければならない﹂が、実質的には委任者である申央行政  庁によって一方的に定められる。   その結果、例えば、従来自治体の事務として処理されていた公害規制が一連の公害立法によって機関委任事務と  されてしまったように、地方自治体の意思に関係なく、国の法律︵その大部分は中央行政庁のイニシアティブの下  に制定される︶により、一方的に国の事務︵機関委任事務︶とされ、地方自治体の機関に押しつけられることとな  る。  昭和照十年代から五十年代にかけて増加した機関委任事務は、単に量的な増加だけでなく、内容の面でも、前述のように 都市計画、公害、環境問題、土地利用、消費者行政など、住民生活に関連の深い事務が最近相次いで機関委任事務としてそ れまでの地方の﹁固有事務﹂が国の事務として吸い上げられている。国会が開かれるごとに数多くの機関委任事務が各省庁 の一方的判断で、ドシドシ創設されている。  例えば、都市計画法の市街化区域・市街化調整区域の区分︵線引き︶、国土利用計画法の地価規制区域の指定、建築基準法 の地域・地区の指定などがそれである。

  東洋法学       二一

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  機関委任事務をめぐる論点       二二  そして、ここで注意すべきことは、これらの行政が地方の事務として条例化されると、その後を追うように法律化され、 しかも、国の機関委任の方式が採用されるという最近の傾向である。  公害防止条例が先行し、公害対策基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、騒音規制法などが後行して制定され、また、 法律と条例の関係のあり方として論議を呼んだ﹁排出基準についての上乗せ条例﹂の制定を、後から法律によっていわば認 知的に認めるという法現象であった。神戸市・横浜市の急傾斜地における宅地造成の規制に関する条例が、それまでの宅地 造成等取締法に吸収され、国の機関委任事務方式が採用されるに至ったのも、その一つの事例であった。 ㈲ 国の利害に関係すれば機関委任事務か   さらに、最近では、行政内容が国の利害にも関係すると同時に、地方の利害、地域の住民生活にも密接に関連す  るものが増加してきている。   今日、地方自治体のみの利害に関係し、国の利害に全く関係がないというものは極めて少ない。たいていの事務  は、地方住民の生活に利害関係を有すると同時に、国の利害にもある程度は関係するはずである。このような国家  的性格の一面のみをとらえて、それらをすべて国の事務︵機関委任事務︶とすれぱ、地方自治体の事務は極めて限  定されたものとならざるを得ないであろう。   そして、現在、機関委任事務は、自治法別表で五〇八項目にのぼり、自治体とくに府県ではその事務量の大半を  機関委任事務で占められているが、これは憲法に定められた﹁地方自治の本旨﹂からみても、地方自治体の自主性  と現地性を損なう恐れが強いものといえよう。

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自治体現場からみた機関委任事務の現実的評価 ① 行政の実際では、︸般の自治事務と醐体化  機関委任事務については、以上みてきたように、国の事務、上位下位の関係、一般的指揮監督権、代執行、長の罷 免など、少なくともその制度、形の上からみた限りでは極めて問題が多い。  しかし、これを府県や市町村の行政の実際でみると、ほとんど機関委任事務という意識を持たず、一般の自治事務 と一体として処理されてる。  機関委任事務といっても、委任を受けた機関︵知事、市町村長︶単独で行えるものではなく、所属団体はその組織 と相当程度の経費を負担してこれを処理している。事務処理方式や責任においても、団体自身の事務と峻別されては いない。戸箱事務や選挙事務、河川道路の管理、土地収用等、国の機関委任事務といっても地方公共団体の事務と融 合し渾然一体をなしている。機関委任事務という言葉、意味もほとんど知らないし、それでも日常業務には全く支障 はない。  現在、機関委任事務とされているものの大部分は、実際には、すでに地方の固有事務のようになって溶け込んでし まっているともいえる。    保育所について、昭和六十一年度から国庫補助率の引き下げ︵十分の八←十分の五︶の見合いとして機関委任事務から団    体委任事務に切り替えられたが、それにより、それまで国の基準にしたがい、自治体の規則で定められていた保育料が自治    体の条例で︵議会で︶定められることになった。     東 洋 法卜学       二三

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    機関委任事務をめぐる論点      二四 ② 議会でも区別の意識はない  また、議会が議決権を持たないといっても、実際には、議会では議案に関係なく、また、機関委任事務か否かとい う区別も意識もなく︵一〇〇条調査権の場合を除く︶、その区域内の間題についてはあらゆる事項が質問となって出 てくる。執行部側も、機関委任事務か否かにかかわりなく答弁している。機関委任事務だからといって答弁をしなか ったという例を聞いたこともない。それに、機関委任事務に関する予算は議会の議決の対象になるから、実際にはそ れほど不都合だということもない。  したがって、機関委任事務について、後述の行革審答申のように、議会関与の拡大という制度改革が、かりに行わ れたとしても実態は何も変らないといえよう。     だいたい、機関委任事務に該当するのかどうかは、六法全書を麗いて、地方自治法別表の条項を細かに調べなければ、ど    の条文、どの事務がそうなのか、一般にはほとんどわかっていないというのが実情である。それで、日常の業務にはなんら    支障がない。今獲、地方の行政の実際で、機関委任事務かどうか峻別することが必要な事態があるとすれば、それは、前述    のように議会が百条調査権を発動して調査する場合︵機関委任事務は対象とできないため︶くらいである。 ③ いささか観念論iただ機関委任事務の範囲の見直しは必要、限定を  このようにみてくると、機関委任事務についてのこれまでの一般の論議は、やや自治体の実際を知らない、法律、 制度だけでものを見る、いささか観念論だといえないこともない。形の上では確かに機関委任事務は地方団体をしば ってはいるが、実際に地方を動かしているのは、機関委任事務という制度ではなく、補助金というカネのカである。 甲央各省の側では、新しく立法化するときには、機関委任事務にしておきたいという意向が極めて強いが、現状から

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みる限り、中央各省が特に機関委任事務というひもつきの制度により、他の事業と区別して、その統制下に置こうと した意図は、自治体現場からみる限り、裏切られてしまっている。  中央省庁が思っているほどには、自治体では意識して受けとられていないといえる。今日、自治体行政の現場で は、機関委任事務であれ、あるいは、機関委任事務でないにしろ、ほとんど大部分の事務が各省ごとの個別法令、 通達、許認可、さらには、国庫補助金によって、その統制の網の申に完全に組み込まれ、中央各省の強いコントロー ル、支配体制の中に入ってしまっている。  これまで一般に機関委任事務という法制度だけがとかく問題として採り上げられ、これが中央による地方支配の極 めて強力な用具だと指摘される向きがあったが、このような見方は、少くとも実態からみる限り、やや的はずれな見 解だといわねばなるまい。  今日、自治体は、機関委任事務という制度、そのもののカだけで、中央に動かされているものではない。したがっ て、機関委任事務が現実にそれほど不合理がないのであれば、あえてこれを廃止する改正をしたところで、ほとんど 実益はないということになろう。  したがって、これからの機関委任事務論議にあたっては、このような地方側の認識、実態をよく踏まえ、単なる論 議のための論議だけに終わらないようにする必要があろう。  ただ現在、機関委任事務とされているものは、あまりにも広範囲にわたり過ぎ、地方の事務と考えられるようなも のまで大幅に取り込まれているので、その見直しを行い、真に﹁国の事務﹂と考えられるものだけに限定する等の改

    東洋法学       二五

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     機関委任事務をめぐる論点 革は必要である。 山 ノ\ ﹁国の事務﹂と﹁地方の事務﹂の区別ができるか  現在、地方自治法では、事務は大別して﹁国の事務﹂と﹁地方の事務﹂に区別できるという前提に立っている。そして、 ﹁国の事務﹂としてその典型的なものが第二条第一〇項に列記され、﹁地方の事務﹂としては固有事務としてその主なものが 第二条第三項に例示されている。しかし、実際には、同条第三項但し書の規定によって、この固有事務のほとんど大部分は 法律又は政例の定めによって機関委任事務又は団体委任事務とされている。つまり﹁国の事務﹂とされ、その上で地方に委 任されているのである。  しかも近時、国と地方の相互に関連する行政分野が拡大されてきたが、それに伴い、これら新しい行政事務はそのほとん どが機関委任事務とされ、﹁国の事務の委任﹂という形にされたため、現在では、﹁純粋な地方の固有事務﹂というものはほ とんどない状態になっている。ほとんどの事務が国の事務になってしまっているのである。

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臨調答申と機関委任事務の整理、その問題  機関委任事務については、臨調答申︵昭和五六年の基本答申︶においてコ一年間に一割程度の整理﹂をするように との改革案が示されたが、この点については、地方側から一せいに強い反発が出された。  もともと、機関委任事務の中には、現在では地方の事務に同化されたものが相当ある。機関委任事務の整理の方向 としては、地方に同化した事務は全部地方の事務とし、ぎりぎり最小限国の事務と考えられるもの︵たとえば国会議        ︵注︶ 員選挙、自衛官募集、戸籍事務など︶だけを機関委任事務として残すなら残すべきである。二年間に一割程度の整理で は改革にならない。七、八割の事務は二年間といわずすぐにでも整理できる筈だといえよう。現在の機関委任事務の

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うちの一部を地方に移すという考え方ではなく、原則として全部地方に任かせ、一部を国に残すという考え方に転換 すぺきであろう。  また、今後新設する場合は厳しくチェックするということも書いてあるが、どこでだれがチェックするか、具体的 な提言がないと、実効がないといえよう。  なお、その後昭和五六年に、国においてこの臨調答申を受け、五〇項目︵三四法律︶の整理が行われた。  5 ﹁裁判抜き代執行﹂の報告と改正法案、行革審答申と地方制度調査会答申  その後、昭和六十年七月二二貝、臨時行政改革推進審議会︵土光敏光会長︶が、機関委任事務についての報告書を まとめたが、その主な内容としては  ①八○項目を廃止又は団体事務化する  ②  ﹁地方議会及び監査委員の関与﹂権限を拡大する  ③職務執行命令訴訟制度を見直し、国が司法判断を抜きに一定の手続きで代行できるよう簡素化するとともに、   首長の罷免制度は廃止する。 を提言したが、とりわけ、三番目の代行の強化についてはその賛否をめぐって内外でかなり激しい論議が展開され た。そして、これにつづく地方制度調査会がこれにどう結着をつけるか、その答申が注目されたが、六一年二月三日 の最終答申で、①機関委任事務についての内閣総理大臣の知事に対する罷免制度は廃止する︵住民の選挙によって選

    東洋法学       二七

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    機関委任事務をめぐる論点      二八 ばれた長の身分そのものを奪う措置であるので適当でない︶とともに、②職務執行命令訴訟の簡素化をはかるため国 の機関委任事務を知事等が履行しないときは国は裁判抜きで代執行できる、と行革審答申の考え方をほぼ受け入れる 考え方が打ち出された。  機関委任事務改革を織り込んだ地方自治法改正法案  なお、これを受けて、政府は同年三月十四日の閣議で、これらの内容を盛り込んだ地方自治法改正案を決定し、国 会へ提出された。  この法案では、 ① 職務執行命令訴訟制度の簡素化をはかるため、知事が機関委任事務の管理・執行を怠る場合、これまで国は執行  の命令と事実確認の二つの裁判を経てはじめて代行できるのを、裁判抜きで代行できるよう簡素化する。   具体的には、σり知事に対する執行の勧告、ω知事に対する命令、働知事の不履行の事実を確認する内閣告示i  を経るだけできる。 ② 一方、知事に対しては、主務大臣の命令に対する内閣総理大臣への不服の申出を認め、さらに、内閣総理大臣が  その申出を認めなかった場合、命令の取消しを求める訴訟提起と、同時に執行停止の申出を認める ③同時に、これまで代行の判決が確定した場合、内閣総理大臣で知事を罷免できると規定されていた知事の罷免制  度を廃止する。

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④また、機関委任事務に対し、 などが定められている。 新たに地方議会の検閲・検査、監査請求権と、監査委員の監査権を与える。 国会で四たぴ流産  ところで、この地方自治法改正法案は、野党や憲法、公法学者らが﹁中央集権の強化﹂﹁地方自治の侵害﹂と強く 反発、国会では与野党対決法案の一つとして、当初から審議は難航が予想されたが、 ① 六一年の通常国会では本会議での趣旨説明が行われただけで、衆院地方行政委員会での審議は一度も行われず、  土地信託制度導入の部分を除き、廃案となった。 ② つづく同年秋の臨時国会では、ヤジ問題で衆院地行委が空転を重ね、審議なしのまま再び廃案に追い込まれた。 ③そして六二年三月、通常国会に三たび提出されたが、売上税騒動のあおりで、全く審議されないまま。継続審議。 ④ さらに、六三年の春の通常国会でも継続審議とされ見送られた。     なお、昭和五六年に自治省では、機関委任事務に対する議会の関与を強化する法案づくりを進めたが、各省庁の猛反発で    断念したという苦い経験もある。中央省庁の機関委任事務制度の改面に対する抵抗は根強い。

6

﹁裁判抜き代執行﹂をめぐる論議とその見方、とらえ方 そこで、このような裁判抜き代執行が何故突如出されてきたのか、

   東洋法学

現行制度と比べてどこがどう違うのか、       二九 そして

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    機関委任事務をめぐる論点 これをめぐってどのように賛否両論が戦わされたのかを以下にみてみょう。 三〇  裁判抜き代執行が突如出されてきた背景  行革審報告に、職務執行命令訴訟制度の簡略化が突如として盛り込まれたのは、行革審が答申の目玉として地方へ の許認可権移譲や機関委任事務に対する議会、監査委員の関与を認めることを打ち出そうとしたところ、各省庁が ﹁事務停滞の遅れが出る﹂と猛反発し、そのためその見返りとして出された妥協の産物が、この裁判抜き代執行だった          ︵1︶ ︵大林前自治省行政局長︶という。この制度の適用例が戦後、砂川事件の一度しかないように、この手続は非常に複 雑で手間がかかり過ぎ国の意向が通りにくいので、各省庁は地方の権限を広げるなら国の方も強くしてくれというわ けであった。  行革審の論議では、地方の拒否例として、指紋押なつによる外国人登録事務、沖縄県の自衛官募集、武蔵野市のマ ンシ望ン建築許可などの例があげられた。ちょうど外国人登録の指紋押なつが大問題となっていた時だけに、﹁法務 省通達に従わない市町村を抑えるためだ﹂とか、最高裁から憲法違反とされている現行の衆院定数配分のまま、衆院        ︵2︶ 解散が行われた場合、選挙管理事務を拒否する自治体が出るのに備えるため、という見方、諸説も流れた。 現行制度との大きな相違点 現行制度では、国側が訴訟︵二つの訴訟難﹁職務執行命令訴訟﹂と﹁職務不執行確認訴訟﹂︶を起こし、それに勝っ

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て訴訟を行うという仕組みになっているのが、改正法案︵地方制度調査会答申も同じ︶では攻守を逆転させ、﹁国は 裁判抜きで代執行を行えるようにする。知事に不服があれば、執行停止の申し立ては可能とする﹂としている点であ る。  つまり、これまでは、国は二度の裁判を行って勝訴したあと、はじめて代執行できる、という複雑な手続きであっ たため、緊急な処理に間にあわない。しかも、裁判となると長年月を要する。そこでこうした批判を踏まえて事実 上、一回の裁判で決着をつけよう。しかもそれは国の方は訴訟を必要とせず、国の命令に反対する知事の側からの み、不服の申し出と、執行停止の申し立てを含め、国の命令の取り消しを求める裁判が提起できる。現行制度では二 度の裁判係争中は代執行が行えないのに対し、新制度では、知事側が提起した執行申し立てが認められない限り、執 行手続は続行できるとされたのである。  裁判抜き代執行をめぐる賛否の意見  ところで、これに対する反対論としては、まず、これは地方自治の後退、中央集権の強化、地方自治への侵害だと いう主張である。地方制度調査会審議の中でも、野党委員らは﹁新たな中央集権化、現状で不都合はない﹂﹁伝統あ       ︵3︶ る調査会は、行革審の下請けではない﹂と激しく反発、細谷治嘉氏ら社会、公明の五委員が連名で﹁慎重審議﹂を求 める意見書を出すなどもめた経緯がある。  朝日新聞の社説もほぽ同じような立場からの主張をしている。すなわち、職務執行命令が裁判に持ち込まれた唯一

    東洋法学      

一三

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    機関委任事務をめぐる論点      三二 の例である米軍立川基地の土地収用問題では、最高裁は﹁裁判所が国の指揮命令の内容の適否を実質的に審査するこ とは当然との判断を示した。現行制度には、国の意思を一方的に地方自治体に押しつけないように、司法から歯止め がかかっている。そうした地方自治の制度的保障は守られなければならない﹂﹁国と地方の間で適切な役割分担の見 直しが必要なことはいうまでもないが、それは地方への権限移譲、地方自治の拡大の方向で進められるべきだ。現行 制度にも、迅速な裁判が期待できないなどの問題点はある。だが、司法の歯止めを損なわないことが制度見直しの不 可欠の前提でなければならない。﹂﹁最近の一連の行財政改革は地方しわ寄せの傾向を強めている。権限の地方移譲が 進まないのに、国の権限拡大がまず実行されるのは本末転倒であるご﹁審議会が答申を多数決で決めねばならなかっ たことは、極めて異例だ。また十分な合意が形成されていないことを示している。地方の立場を守らねばならない地 方制度調査会が中央集権の方向を許容する答申を出すというのも納得できない。﹂  しかし、他方、この改革案にもちろん賛成意見も多い。地方制度調査会の審議の中でも、自民党や財界委員らは﹁現 行制度はサビついて動かない。簡素効率化をはかるべきだ﹂と主張、採決では二二人中一六人が賛成に回っている。 現行の代執行制度は、前述のように昭和三十年代の東京・立川の米軍基地拡張での砂川事件に唯一適用されただけで しかもその裁判に七年かかったことから、時間がかかり過ぎるということも国側の理由になっているようである。  それに地方六団体代表も、行革審報告が出された時点では反対の意向を表明していたが、地方制度調査会に舞台に 移されてからは、その採決では賛成の立場へと転向した。﹁代執行手続きを迅速化しても、自治体側にとくに不都合 などは生じない、と判断したためだろう﹂と、読売新聞の社説は、これをかなり現実的視点に立って眺めている。

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 たしかに、実際には、代執行権の発動は﹁適用例が示すように政治的問題が多く、その時には世論が大騒ぎになっ てむずかしい﹂︵自治省大林局長︶との見方も強い。代執行の制度改正をしても、現状では自治体側にすぐ具体的な 不都合が生じるとは考えにくい。また、中央省庁の組織、人員、事務能力の面からも、代執行が可能かどうか、現場 に手足を持たない国が実際にやれるかどうか、疑問視する声もある。    前述の読売新聞社説も﹁答申に基づいて法改正が実現すれば、国の代執行がやりやすくなるのは確かだが、現実の問題と    してそう簡単に代執行権の発動ということにはなるまい。答申は﹁明らかに重大な公益の侵害がもたらされる恐れがある場   合に限る﹂としている。めったにあってはならないことなのである。﹂     ﹁戦後、国と都道府県の間で、一度もこうした事態が起きなかった︵砂川事件は都と町︶のは、執行手続きが複雑で裁判    に時間がかかるというだけでなく、代執行を必要とするような問題がなかったためではないかご     ﹁それらを考えると、制度改革は機関委任事務の執行について、国の﹁担保能力﹂を強める意義はあるが、地方自治体側        ︵4︶    があまり神経質に考える必要はないだろう。﹂と指摘している。 知事からの訴訟提起の実効性をめぐって  次に、この裁判抜き代執行をめぐる論議では、もう一つ改革案は全くの裁判抜きではなく、知事の側から執行停止 の訴訟を起こすことが認められているわけだが、その効果については疑問視する声も強かった︵改正案に反対︶、そ れは知事が訴訟を提起するには議会の同意が必要であり、この面で制約される。代執行に間にあうか時間的な問題が ある。実効性が保障されないというのである。  たとえば、自治体が提訴した場合、自治省は﹁一種の仮処分のような執行停止申し立てを裁判所が認めない場合は

    東洋法学      

三三

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     機関委任事務をめぐる論点      三四 代執行ができる。取り消し請求訴訟の結論が出るまで代執行ができないというわけではない﹂と説明している。  したがって、諸制度が一応、知事の訴訟提起を認めても、実際の運用上は裁判抜きとなる可能性は極めて強いとも いえよう。     このため、細谷委員等は、﹁訴訟は現行通り国側から提起することとすべきだ。国が提起するこの代行の裁判が複雑という    なら、裁判の入口と出口︵執行命令と事実確認の裁判︶と二度ある裁判を統合するなど裁判を一本化したらどうか﹂などの    案が提言されたが、総会では、答申案をまとめた小委員会の柴田護委員長︵元自治事務次官︶が経過説明をし、﹁制度見直し    の方法として、二つの裁判の一本化や第三者機関の判断を仰ぐ意見もあったが、裁判を一本化しても相当な年月を要するな    どから、答申案が大勢を占めた﹂と報告。     山本宮城県知事が﹁この制度の発動はそう起こり得ることではない。答申案は順当﹂と述べるなど、地方自治体代表委員    も賛成したという。 機関委任事務論議は“不毛の論議”   もっと大事なことに視点を  このようにして、機関委任事務論議がここ三年程の間、大変な論議を呼んだが、考えてみるとこれはまことに不毛 な論議だといえる。  というのは、すでに前述したように、現行の代執行制度が実際に発動されたのは三十年代の米軍砂川事件の一件だ け、そして今後もおそらく実際には起こらないのではないかと予想される。またかりに国が代執行を発動しようとし ても、前述のように、地方にほとんど手足を持たない中央各省庁ができる筈がない。さらに機関委任事務かどうか

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は、地方の現場ではほとんど区別して意識されていないー等の点からみて㌔この地方自治法改正法案のように改正 されたとしても、地方自治の現場には実際には何の影響も変化もない。地方自治の侵害など大上段に振りかぶって議 論をするのは、あまりにも自治の現場を知らない学者の観念論だという気がする。  もともと所管の自治省は、この代執行制度の改正には消極的だった。政府首脳の意向を受けた行革審が改正の答申        ︵5︶ を出し、また地方制度調査会も“やむなく”同様の答申を出した。適用の事例はほとんどないにもかかわらず、地方 自治への侵害との理屈ばかりが大きく報道され、不毛の論議を重ねた。  そして、この地方自治法の改正案は前述のように、国会では廃案あるいは継続審議となったが、政府の一員である 自治省は、公式では廃案を残念と表現しているが、内心ではホッとしているのではないか、ともいわれている。この 気持は地方制度調査会で消極的賛成をせざるを得なかった地方六団体も同様に違いない。  むしろ大事なことは、前述したように、現在極めて多くの事務が機関委任事務とされているが、これを抜本的に見 直して整理廃止することこそが先決問題である。現在では住民に身近かなものまで多数機関委任事務とされてしまっ ている。たとえば、母子健康手帳の交付、美容師や理容師の資格試験、旅館、劇場の営業許可、都市計画、墓地の監 督までさまざまで、自治体の仕事の七割以上を占めている。  したがって、今後のあり方としては、地方自治体の行政になじむ事務はすべて地方の事務とし機関委任事務は原則 として廃止すべきであろう。真に国家的な統一を保つ必要がある事務だけを機関委任事務として厳選し、その他は団 体事務化を推進すべきであろう。職務執行命令訴訟制度の是非もその上で検討されるべきである。現在は行革審の答

    東洋法学      

三五

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    機関委任事務をめぐる論点      三六 申後、機関委任事務五〇八項目の一割程度がやっと整理された程度だが、右の考え方で整理すればむしろ九割位を廃 止し、残すもの︵明らかに国の事務と考えられるもの︶は一割位とすべきであろう。  さらに述べれば、今臼の地方自治問題でより重要なことは、このような機関委任事務問題ではなく、多くの自治体 が中央省庁の国庫補助金でしばられ、創意の芽がつまれてしまっている。そして依然として自治体が、中央からの指 示、通達基準等にしたがって行政を行うという中央への依存姿勢、体質の中にある自治体がなおかなり多いというこ とである。このような面の改革こそ、一臼も早いことが望まれるのではなかろうか。現在の機関委任事務論議のよう な不毛な論議は、一日も早くやめるべきであろう。   ︵1︶朝日新聞六一・二・四・自治日報六〇・七・二・六   ︵2︶読売新聞六一・二・四小林篤市記者・毎臼新聞六一・二・五   ︵3︶ ︵2︶の読売新聞に同じ   ︵4︶ 読売新聞六一・二・五社説   ︵5︶︵4︶に同じ

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