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<Hot Topics 3>自己抗体と神経疾患―病態に関わる抗体の最近の動向―

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<Hot Topics 3>

自己抗体と神経疾患

―病態に関わる抗体の最近の動向―

田中 惠子

(臨床神経 2010;50:813-815) Key words:抗アクアポリン4抗体,視神経脊髄炎,抗NMDA受容体抗体,脳症,病態モデル 神経疾患には,自己抗体と関連する様々な疾患・病態が知 られている.一部は全身性自己免疫病の部分症状として生じ る.たとえば,全身性エリテマトーデス(SLE)では,広く全 身臓器の細胞核に反応する抗核抗体を生じ,抗体が補体の活 性化をともなって組織に沈着するなどにより神経組織も傷害 を受ける.一方,神経組織を標的とする臓器特異的自己免疫病 のうち,とくに自己抗体が介在する免疫性神経疾患としては, 抗アセチルコリン受容体抗体が関与する重症筋無力症,抗ガ ングリオシド抗体が関与するギランバレー症候群などの炎症 性末梢神経疾患,抗電位依存性カルシウムチャネル抗体が関 与する Lambert-Eaton 筋無力症候群,抗 Yo 抗体が検出され る傍腫瘍性小脳変性症,抗 Hu 抗体が検出される傍腫瘍性感 覚性運動失調型ニューロパチーや辺縁系脳炎,抗アクアポリ ン 4 抗体が関連する視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica: NMO),抗 NMDA 受容体抗体が検出される非ヘルペス性辺 縁系脳炎などの認知度が高い. これらの抗体の多くは,疾患の特異的診断マーカーとして 有用なものであり,また,一部の抗体は神経症状の発症に直接 関与することが明らかになっている. 一方,自己抗体が生じる原因には様々な状況がある.健常人 でも自己の組織に反応しうる抗体や自己反応性 T 細胞を保 有していることが知られている.通常,これらの抗体の力価は 低く,T 細胞は巧妙な機序により,免疫寛容の状態にあるが, 何らかの原因で寛容が破綻することにより自己免疫疾患が発 症する.一般に中枢神経組織は,血液脳関門により末梢リンパ 系から隔絶されていると考えられており,何らかの原因によ り血液脳関門が破綻,あるいはウィルスや薬物などで B 細胞 が活性化される,あるいは微生物感染や未分化腫瘍で誘導さ れた分子相同性抗原が免疫系を賦活する,などの状況が生じ たばあいに自己免疫病が発症すると考えられている. 免疫組織化学,ウェスタンブロットなどの従来の手法で検 出される抗体は,細胞内に存在量の多い蛋白に対してのもの が多い. 最近,検出技術の進歩により,様々な疾患で,細胞膜に微量 存在する受容体やチャネル蛋白に対する新たな自己抗体が相 次いで報告されている. 今回はこの中から,最近明らかになった自己抗体である抗 アクアポリン 4 抗体(抗 AQP4 抗体)が関連する NMO1)2)と抗 NMDA 受容体抗体が関与する脳炎・脳症を取り上げる3).抗 アクアポリン 4 抗体と抗 NMDA 受容体抗体は細胞表面に発 現する抗原蛋白を認識するため,流血中の抗体が結合しやす い条件にあると考えられる.このばあい,抗原の多くは細胞膜 に存在して,機能分子を細胞外に表出するばあいが多いこと から,チャネル機能を競合的に阻害したり,受容体蛋白を補体 介在性に破壊してその代謝回転に影響をおよぼし,細胞機能 を障害するなどの可能性が考えられる.実際,このような抗体 を保有する疾患では,早期に抗体を除去し,抗体産生抑制療法 をおこなうことで,迅速な症状改善をもたらすばあいが多い ことが知られている. 抗 AQP4 抗体陽性視神経脊髄炎,NMO は高度の視神経・ 脊髄病変を生じ,再発頻度が高い機能予後不良の疾患で,従来 多発性硬化症の一病型とされてきた視神経脊髄型多発性硬化 症の多くがこの NMO に属することが明らかになった.これ は,2004 年から 2005 年にかけて米国 Mayo Clinic で発見され た AQP4 を認識する NMO-IgG 抗体により,NMO の特異的 診断マーカーとしてもちいられるようになったことで,本邦 の視神経脊髄型多発性硬化症の多くにこの抗体が検出された ことによる1) これまでわれわれが抗体診断をおこなった本邦 500 例以上 におよぶ抗 AQP4 抗体陽性例の臨床疫学的特徴は,1)平均発 症年齢が 43 歳と比較的高齢である,2)女性の比率がきわめて 高く 90% におよぶ,3)病初期に再発が多く身体機能障害度が 高い,4)視神経障害が高度で失明にいたる例が多い,5)脳幹 病変で初発し,難治性吃逆や呼吸障害を生じるばあいがある, 6)MRI で頸髄から胸髄に 3 椎体長以上にわたり,中心灰白質 から周辺に広がる病巣がみとめられ,急性期には腫脹してい ることが多く,長い経過で萎縮性となる,7)急性期の髄液で 細胞増多があり,oligoclonal band の出現頻度は低い,8)他の 自己免疫疾患で陽性になることが多い各種自己抗体が出現し やすく,時に慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群を合併する, などの特徴が抽出された.このうち剖検がえられた 2 例では, 大脳・脊髄に多数の脱髄病巣をみとめるとともに,軸索変性, 金沢医科大学脳脊髄神経治療学(神経内科学)〔〒920―0293 石川県河北郡内灘町大学 1―1〕 (受付日:2010 年 5 月 20 日)

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臨床神経学 50巻11号(2010:11) 50:814 白質・灰白質での組織壊死をともなう空洞形成もみられ,小 血管壁は肥厚し,ヒアリン化をみとめた.新鮮な脱髄病巣では 血管周囲に IgG や活性化補体の沈着がみられ,免疫組織染色 で AQP4 が広汎に脱落しているなど,多発性硬化症とはこと なる特徴的な病変がみられた4) NMO で標的となる AQP4 は,中枢神経系で発現が多い水 チャネル蛋白で,アストロサイトの end feet で細胞表面に発 現する.AQP4 抗体の病因的意義を支持する知見として,抗体 陽性者が共通の臨床疫学的特徴を有すること,抗体価と疾患 活動性が関連すること,抗体を取り除く治療が有効であるこ と,脊髄の早期病変で AQP4 が広汎に消失していること, AQP4 の発現が多い部位と病変好発部位が一致すること, AQP4 発現細胞に抗体と補体を反応させると細胞が傷害され ること,などが示されていた.最近になり,抗体の直接的な関 与を証明する論文が本邦・欧米のグループから相次いで発表 された.

ラットを myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)で免 疫,あるいは MOG 感作リンパ球をもちいて実験的アレル ギー性脳脊髄炎(EAE)を誘導し,ラットの腹腔内に NMO 患者血漿あるいは血清から抽出した IgG を投与すると,ラッ トの 中 枢 神 経 組 織 に NMO と 同 様 の 病 理 変 化 が 生 じ る こ と5)∼7),また,マウスの脳内に直接 NMO 患者の IgG 分画と補 体供給源である新鮮血漿を直接投与しても,NMO と同様の 組織変化が生じることが証明され8),少なくとも,NMO-IgG 存在下で補体活性化が生じると NMO 病変が再現されること が示された. 細胞表面抗原に対する抗体を生じる疾患でもう一つ,最近 注目されている疾患に,抗 NMDA 受容体抗体を有する非ヘ ルペス性辺縁系脳炎がある. 以前から本邦では,若年女性に生じる脳炎で,精神症状で始 まり,経過中,けいれん重積や呼吸不全などを呈し,重篤な状 態に陥るものの,長期予後の良好な一群の存在が知られてい た.2007 年に Dalmau らが同様の臨床像を呈し,卵巣奇形腫 を合併した症例で,グルタミン酸受容体の一つである NMDA 受容体に対する自己抗体が検出されることを報告し,急速に 同様の症例が集積して,一疾患単位と認知されるようになっ た3) この疾患は本邦にも多いと考えられることから,筆者らも, 抗 NMDA 受容体抗体の検出系を確立した.すなわち,NMDA 受容体の NR1 および NR2 サブユニットを共発現させた培養 細胞を抗原とし,患者血清・髄液検体を反応させる,いわゆる cell-based assay といわれる方法で検出した NMDA 受容体抗 体を有する例は,若い女性がほとんどで,70∼80% が精神症 状,てんかん,不随意運動,中枢性低換気,自律神経症状を呈 し,55% で何らかの頭部 MRI 異常所見を呈し,59% に奇形腫 をみとめることが確認できた.本症では,早期の血漿交換療法 と腫瘍摘出により,すみやかな症状改善がえられることが明 らかになった. NMDA 受容体は,グリシンに結合する NR1 サブユニット, グルタミン酸に結合する NR2 サブユニットが重合して形成 される陽イオンチャネルであり,シナプスでのシグナル伝達 や可塑性にかかわることが知られている.NMDA 受容体の活 動性亢進は neurotoxic となり痙攣や記銘力障害などの症候 に関与することが考えられる. 辺縁系脳炎を生じる例では,その他,同じグルタミン酸受容 体である AMPA 型や,抑制性の神経伝達物質である GABA の受容体に対する抗体陽性例も報告されている.また,同様の 症候を呈し,電位依存性カリウムチャネル(VGKC)に対する 抗体を生じる例も知られ,それぞれに特徴的な症候が存在す る.最近,これまで VGKC 抗体陽性とされた群から,その認 識する抗原分子が病型によりことなることが明らかになって きた.すなわち,カリウムチャネルそのものを認識するもの自 体は少数に過ぎず,辺縁系脳炎を呈する群では,てんかん関連 蛋 白 で あ る metalloproteinase domain-containing protein

(ADAM22!ADAM23)に結合する分泌タンパク質

Leucine-rich glioma inactivated 1(LGI-1)を認識することが明らかに

なった9).一方で,neuromyotonia などの末梢組織での病態を

発現する群では,contactin-2 associated protein(Caspr2)と いわれることなる蛋白に結合することがわかってきてい る10) 抗 NMDA 受容体抗体陽性辺縁系脳炎では,神経組織に反 応する抗体が神経症状の発現に一義的な意義を担っていると 考えられる疾患であり,血漿交換療法や抗体産生抑制療法が 神経症状の改善に繋がる.海馬培養細胞に患者由来の抗体を 反応させると,NMDA 受容体の数が減少することが示されて いる3).筆者らも,マウスの海馬スライス標本をもちいて,患 者検体が NMDA 受容体機能を特異的に阻害することを示 し,本症の記銘力障害や精神症状の発現に関与している可能 性を証明した. 以上のように,細胞膜表面に発現する抗原が標的となる疾 患群では,自己抗体が病態に直接的に関与し,抗体を取り除く 治療で症状の改善がえられるばあいが多く,細胞内抗原に対 する抗体を有する疾患群とは,症候や経過,治療の反応性がこ となるばあいが多いことが明らかになった. 今後も,新たな抗体の発見にともない,これまで原因不明で あった疾患が病態に応じて分類され,また神経系で病態に関 わる新たな分子が明らかにされていくものと思われ,目が離 せない分野となってきている.

1)Lennon VA, Wingerchuk DM, Kryzer TJ, et al. A serum autoantibody marker of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Lancet 2004;364:2106-2112. 2)Lennon VA, Kryzer TJ, Pittock SJ, et al. IgG marker of

optic-spinal multiple sclerosis binds to the aquaporin-4 water channel. J Exp Med 2005;202:473-477.

3)Dalmau J, Gleichman AJ, Hughes EG, et al. Anti-NMDA-receptor encephalitis: case series and analysis of the ef-fects of antibodies. Lancet Neurol 2008;7:1091-1098. 4)Yanagawa K, Kawachi I, Toyoshima Y, et al. Clinical

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course and pathological characterization of a limited form of neuromyelitis optica with myelitis. Neurology 2009;73: 1628-1637.

5)Kinoshita M, Nakatsuji Y, Kimura T, et al. Neuromyelitis optica: Passive transfer to rat by human immunoglobulin. Biochem Biophys Res Commun 2009;386:623-627. 6)Bennett JL, Lam C, Kalluri SR, et al. Intrathecal

patho-genic anti-aquaporin-4 antibodies in early neuromyelitis optica. Ann Neurol 2009;66:617-629.

7)Bradl M, Misu T, Takahashi T, et al. Neuromyelitis op-tica : Pathogenicity of patient immunoglobulin in vivo.

Ann Neurol 2009;66:630-643.

8)Saadoun S, Waters P, Bell BA, et al. Intra-cerebral injec-tion of neuromyelitis optica immunoglobulin G and hu-man complement produces neuromyelitis optica lesions in mice. Brain 2010;133:349-361.

9)Lai M, Huijbers MGM, Lancaster E, et al. Investigation of LGI1 as the antigen in limbic encephalitis previously at-tributed to potassium channels:a case series. Lancet Neu-rol 2010;9:776-785.

10)Vincent A, Irani S. Caspr2 Antibodies in Patients with Thymomas. J Thorac Oncol 2010;5:S277-S280.

Abstract

Antibody-related neuroimmunological disorders: Update on the diagnosis and treatment Keiko Tanaka, M.D.

Department of Neurology, Kanazawa Medical University

Varieties of autoantibodies are known to relate to autoimmune neurological disorders as the diagnostic and therapeutic markers. Some of them affected directly to the pathomechanisms of neurological diseases. Recently several autoantibodies with such roles have been reported showing the common characters as recognizing cell surface antigens. Among them, aquaporin 4 antibody (AQP4-Ab) in neuromyelitis optica (NMO) and anti-NMDA receptor antibody (anti-NMDAR-Ab) in non-herpetic limbic encephalitis are drawn considerable attention. The features of NMO with AQP4-Ab are as higher age at onset, extreme women preponderance, severe optic neuritis and myelitis with longitudinary extended spinal cord lesions. AQP4-Ab binds to the astrocytic endfeet extended toward cerebrospinal fluid space or vessel wall, related to the common lesions of NMO, and passive transfer of the antibody with complements to rodents showed NMO pathology.

The NMDAR-Ab related encephalitis is seen in young women having ovary teratoma showing memory and consciousness disturbances, agitation, epilepsy, respiratory failure, autonomic disorders and involuntary move-ments. We showed this antibody really affects to NMDAR specific signal transduction using rodent hippocampal slices with suppression of long-term potentiation induction.

The discovery of newly characterized autoantibodies with relation to certain neurological diseases will be ex-pected to expand in the future.

(Clin Neurol 2010;50:813-815) Key words: anti-aquaporin4 antibody, neuromyelitis optica, anti-NMDA receptor antibody, encephalopathy, disease

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